説明

車両撮影方法およびその装置

【課題】 従来の運転席を含む領域を運転者の顔が判別可能なまでに一様に増幅した場合には、明るい色の車両の塗装面がハレーションを起こして車両の形状が認識できなくなるといった問題があった。
【解決手段】 車両の前面を撮影した画像に対してナンバープレートを含む領域は原画像を残し、該ナンバープレートを含む領域より上方の領域は原画像における低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換処理を行うことでナンバープレートと運転者の顔を明瞭にしたことを特徴とする車両撮影方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般道路や高速道路上に設置され、速度違反車両や高速料金不払いの不正通行車両などを撮影する車両撮影方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路管理者のニーズとして上記した違反車両に対して、ナンバーだけでなく、違反を犯した運転者の顔写真も入手したいという要望がある。この要望に対して、車両のナンバープレートと運転者の顔写真を撮影する手段として、例えば、特開2002−335428号公報に開示された発明がある。この発明は、撮影した画像を運転席を含む領域と、車両識別票(ナンバープレート)を含む領域とに分け、運転席を含む領域の増幅率をナンバープレートを含む領域の増幅率よりも高くすることで、運転席とナンバープレートの識別をより確実に行わんとするものである。
【特許文献1】特開2002−335428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明のように、運転席を含む領域を運転者の顔が判別可能なまでに一様に増幅した場合には、明るい色の車両の塗装面がハレーションを起こして車両の形状が認識できなくなるといった問題が発生した。
【0004】
なお、上記した発明にあってはナンバープレートを含む領域の増幅率も可変することが提案されているが、本件出願の原画像である図3に示すように昼夜を問わず一定の明るさを持つナンバープレートの画像からナンバーを識別することは増幅率を変えなくとも十分に可能なことであるから、ナンバープレートを含む領域の原画像の増幅率を変える上記発明の提案は意味の無いことである。
【0005】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、ナンバープレートのナンバーと運転者の顔写真の両方を明瞭にした撮影画像を入手することができる車両撮影方法およびその装置を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両撮影方法は前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、車両の前面を撮影した画像に対してナンバープレートを含む領域は原画像を残し、該ナンバープレートを含む領域より上方の領域は原画像における低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換処理を行うことでナンバープレートと運転者の顔を明瞭にしたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、ナンバープレートを含む領域より上方の領域の輝度変換の変換率を低輝度から中輝度の輝度域に対して原画像と同じ「1」の変換率に収束させると共に、高輝度の輝度域において原画像と同じ輝度値を用いることを特徴とする。
【0008】
請求項3の手段は、前記した請求項1において、輝度変換処理を行ったナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と原画像を用いるナンバープレートを含む領域の間に輝度差を徐々に少なくするためのグラデーション処理を行う領域を設けることを特徴とする。
【0009】
請求項4の手段は、前記した請求項3において輝度変換処理を行った後の画像に対して荷重平均平滑化処理を行い、その後に先鋭化処理を行うことを特徴とする。
【0010】
次に、本発明の車両撮影装置における請求項5の手段は、車両を撮影する撮影手段と、該撮影手段により撮影された画像を記憶する原画像メモリと、該原画像メモリに記憶したナンバープレートを含む領域より上方の領域の低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換処理を行う輝度変換処理手段と、前記輝度変換したナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と前記画像メモリに記憶したナンバープレートを含む領域の原画像とから撮影画像を生成する輝度補正画像生成手段とから構成したものである。
【0011】
車両撮影装置における請求項6の手段は、前記した請求項5において、前記ナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と原画像を用いるナンバープレートを含む領域の間に輝度差を徐々に少なくするためのグラデーション処理を行うグラデーション処理手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は前記したように、ナンバープレートを含む領域の画像は原画像のままで残し、該ナンバープレートより上方の領域は低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換を行った撮影画像を生成することにより、輝度値の低い運転席(フロントガラス)の部分の輝度値が高められる。これにより、特殊な照明装置を用いることなく、ナンバープレートと運転者の顔が明瞭な撮影画像を入手することが可能となる。
【0013】
また、輝度変換の変換率を原画像に対して低輝度から中輝度の輝度域に対して徐々に「1」に収束させ、高輝度の輝度域において原画像と同じ輝度値を用い輝度変換を行うことにより、低輝度の輝度値のみを明るくしたり、高輝度の輝度値を過度に明るくすることがなく、低輝度から高輝度の輝度域において不自然な境界が発生することのない自然な画像を得ることができる。
【0014】
また、ナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と原画像を用いるナンバープレートを含む領域の間に輝度差を徐々に少なくするためのグラデーション処理を行う領域を設けて前記の輝度差を解消するようにしたので、ナンバープレートを含む原画像を用いる領域とその上方の輝度変換を行う領域との間に境界のない自然な1枚の撮影画像を得ることができる。これにより、輝度補正した撮影画像からナンバープレートを切り出すことが容易になるといった効果が生まれる。
【0015】
さらに、グラデーション処理を行った後の画像に対して、荷重平均平滑化処理を行い、その後に先鋭化処理を行うことにより、よりナンバープレートの認識率が向上し、かつ、運転者の顔の輪郭がハッキリした画像が得られるなどの効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ナンバープレートを含む領域は原画像のままとし、その上方の領域の輝度値の低い運転席(フロントガラス)の部分の輝度値を高めることにより、ナンバープレートのナンバーと運転者の顔写真を明瞭にした。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明に係る車両撮影方法を用いた車両撮影装置の一実施例を図1〜図9と共に説明する。
図1はシステムブロック図で、1は、料金所などに設置され図示しない不正通行車両を撮影する撮影手段で、撮影した映像信号をデジタル信号の形式に変換して出力するデジタルカメラなどから構成される。
なお、撮影手段1は、同じく図示しない車両検知器などからの車両検知信号を入力することにより撮影が行われる。
【0018】
2は撮影した原画像に対して輝度変換を行う制御手段にして、以下に述べる各メモリや手段などによって構成される。
2aは、上記撮影手段1からのデジタル画像を記憶する原画像メモリ、2bは、原画像メモリ2aに記憶した画像から画像処理によりナンバープレートを切り出しプレートのサイズ・色・位置などによって大型自動車、普通自動車、軽自動車等の車種を判別する車種判別手段、2cは、フロントガラス下部の位置における走査線に対するライン番号と、ナンバープレート上部の位置における走査線に対するライン番号とをそれぞれ車種毎に記憶した車種別切換位置メモリである。
【0019】
2dは、画像の輝度値を変換するためのテーブルを記憶した輝度変換テーブル、2eは輝度変換しない領域と輝度変換した領域の輝度差を徐々に少なくするためのテーブルを記憶したグラデーション処理変換テーブル、2fは、輝度補正した画像を記憶する輝度補正画像メモリ、2gは、液晶のモニターなどからなる表示手段3で画像を表示するための出力部、2hは、撮影手段1の制御や表示手段3の画像の切換などを行う図示しない操作スイッチを備えた操作手段4からの操作信号を入力する入力部、2iは、本発明の車両撮影方法を実行する制御プログラムを記憶したプログラムメモリ、2jは、上記制御プログラムに従い上記の各メモリや手段などを制御するCPUである。
【0020】
なお、上記制御手段2において、原画像メモリ2aと輝度変換テーブル2dとプログラムメモリ2iとCPU2jとにより本発明の輝度変換処理手段が形成される。
また、上記の輝度変換処理手段に、輝度補正した画像を記憶する輝度補正画像メモリを加えることで、同じく本発明の輝度補正画像生成手段が形成される。
【0021】
ここで、本発明の輝度変換処理について図4により説明する。
実施例では、輝度変換に輝度値毎の画素のヒストグラム均等化処理によって同じ輝度値の画素数の多い(=出現頻度の高い)輝度値を伸長して高い輝度値に変換し、画素数の少ない輝度値を抑制して低い輝度値に変換するヒストグラム均等化処理した輝度変換を採用している。
【0022】
具体的には、図4に示す輝度毎の画素数をグラフにしたヒストグラムを横軸方向に積分して出現頻度の分布を求め、その分布を元の階調に対応させたヒストグラム均等化処理のグラフを用いて輝度変換処理を行う。
ただし、図4に示すヒストグラム均等化処理を行った特性曲線から明らかなように、点線の丸で示した高輝度の輝度域については輝度値の不連続な部分が発生するため、直線(リニア)で示した原画像の輝度値を用いる輝度変換テーブルを作成し、輝度変換テーブル2dに記憶させる。
なお、高輝度の輝度値に対して元の原画像の輝度値を用いることにより、図5に示すボンネット部分の不自然な境界を図6のように消すことができる。
【0023】
また、図4に示すように低輝度から中輝度の輝度域において輝度値を伸長させて高い輝度値に変換させたヒストグラム均等化処理の特性を用いる領域と、元の原画像を用いる領域との間には大きな輝度差が生じるため、隣接する領域に輝度値の異なる境界が発生する(図7a参照、ボンネットの上までをナンバープレートを含む領域とした場合の写真)。
そこで、原画像を用いるナンバープレートを含む領域と、ナンバープレートの上方の領域との間にヒストグラム均等化処理の輝度値を原画像の輝度値に徐々に近づけるグラデーション処理を行う領域を設ける。
【0024】
具体的には、本実施例においてはセダン型自動車を対象にして説明しているので、図7bのようにフロントガラス下部におけるライン番号として撮影範囲の上から略2/3の位置に相当するライン番号(N1)を、また、ナンバープレート上部のライン番号として撮影範囲の上から略4/5の位置に相当するライン番号(N2)を上記の車種別切換位置メモリ2cにそれぞれ記憶させ、ライン番号(N1)からライン番号(N2)の間のライン数によってヒストグラム均等化処理の特性曲線と原画像の直線との間を図8に示すように等分に分割した各特性曲線に対応した輝度変換のテーブルをライン数に応じてグラデーション処理変換テーブル2eに記憶させ、上記のライン番号(N1)から(N2)の輝度変換を実行する場合に(N1)から(N2)の間の各ライン番号に対してライン毎の変換テーブルを読み出して輝度変換を実行する。
【0025】
次に、前記したシステムブロック図の動作を図2のフローチャートと共に説明する。
先ず、料金所を通過する不正通行車両を公知の車両検知器によって検知した車両検知信号の有無を判別し(ステップS1)、車両検知信号有りの判定によって撮影手段1で車両の前面を撮影する(ステップS2)。次に、撮影した車両のデジタル画像を原画像メモリ2aに記憶する(ステップS3)。次に、原画像メモリ2aに記憶したデジタル画像からナンバープレートを切り出し、車種判別手段2bにてプレートの大きさ・色・位置などから車種の判別を行う(ステップS4)。
【0026】
次に、CPU2jは、撮影した原画像を原画像メモリ2aから、輝度変換を行う位置のライン番号(N1)と原画像を用いる位置のライン番号(N2)とを車種別切換位置メモリ2cから読み取る(ステップS5)。
次に、CPU2jは、原画像メモリ2aに記憶されたデジタル画像に対して、画像の上部からライン番号N1の領域までを輝度変換テーブル2dによる輝度変換を実行し(ステップS6)、ライン番号N1からN2までの領域をグラデーション処理変換テーブル2eによる輝度変換を実行し(ステップS7)、輝度変換したそれぞれの領域の画像とN2から最後のライン番号の領域に対する原画像とを輝度補正画像メモリ2fに記憶する(ステップS8)。最後に、出力部2gから出力し(ステップS9)、表示手段3において輝度を補正した撮影画像の表示を実行する。もちろん、出力部2gから出力した撮影画像が上記した表示のみではなく、違反写真の印刷や、ナンバープレートのナンバー読み取り等に利用されることは言うまでもない。
【0027】
また、上記の実施例においては、車種に対してナンバープレート上部のライン番号を予め車種別切換位置メモリに記憶させる手法について説明したが、原画像から切り出したナンバープレートの上部の位置に相当するライン番号を原画像を用いる領域のライン番号としてもよく、この場合においては、ライン番号間のライン数を上記のグラデーション処理を行う前に演算し、予め記憶したライン数に対応した変換テーブルをグラデーション処理変換テーブル2eから読み取りライン数に応じたグラデーション処理を実行すればよい。
【0028】
以上によって、運転者の顔が明瞭な撮影画像を入手することが可能となるが、前記画像のコントラスト強調を行うことで、前記画像よりもナンバープレートのナンバー認識率を上げ、運転者の顔の輪郭を一層はっきりさせることが可能になる。すなわち、ナンバープレート部分のコントラストを強調し、先鋭化処理を行うことであるが、原画像をそのまま処理すると、細かなエッジが強調されてしまうため、画像がザラザラしてしまう。
【0029】
そこで、図1の制御手段2に対して荷重平均平滑化処理手段とエッジ強調手段とを追加し、輝度補正画像メモリ2fに記憶した輝度補正画像に対して、先に荷重平均平滑化処理を行い近傍点との輝度差を緩やかにし、その後、先鋭化を行うことで余分なエッジ強調を少なくする処理を行うことで、前記図7bよりも更にナンバープレートのナンバーおよび運転者の顔の輪郭がはっきりした図9に示す画像を得ることが可能となる。
【0030】
なお、前記した実施例では、原画像の輝度変換にヒストグラム均等化処理による特性曲線を用いる方法を例示したが、低輝度の輝度域において原画像に対する輝度値の変換率が大きく中輝度の輝度域に向かうに従い原画像に同じ「1」の変換率に収束する本実施例の特性を持つ変換を実行する近似な曲線や折れ線状の直線を生成する演算式やその演算結果を記憶したテーブルであってもよく、例えば、γ補正などによって生成した上記特性の一部分に近似な曲線を利用し運転席(フロントガラス)の輝度値に相当する輝度値の低い輝度域のみの輝度値を高める手法を採用した場合においても、本発明の目的である運転者の明瞭な顔写真を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る車両撮影方法を実施するためのシステムブロック図である。
【図2】同上の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】車両を撮影した原画像の写真である。
【図4】原画像のリニアな直線に対するヒストグラム均等化処理の特性曲線による輝度変換を説明する説明図である。
【図5】原画像に対してヒストグラム均等化処理を行った後の写真である。
【図6】図5の画像をヒストグラム均等化変換テーブルによって処理して得た写真である。
【図7】(a)はグラデーション処理を行う前の写真、(b)はグラデーション処理を行った後の写真である。
【図8】ヒストグラム均等化処理により求めた特性曲線に対してグラデーション処理を行う手法を説明した説明図である。
【図9】図7bの画像に対してコントラスト強調を行った後の写真である。
【符号の説明】
【0032】
1 撮影手段
2 制御手段
2a 原画像メモリ
2b 車種判別手段
2c 車種別切換位置メモリ
2d 輝度変換テーブル
2e グラデーション処理変換テーブル
2f 輝度補正画像メモリ
2g 出力部
2h 入力部
2i プログラムメモリ
2j CPU
3 表示手段
4 操作手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面を撮影した画像に対してナンバープレートを含む領域は原画像を残し、該ナンバープレートを含む領域より上方の領域は原画像における低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換処理を行うことでナンバープレートと運転者の顔を明瞭にしたことを特徴とする車両撮影方法。
【請求項2】
ナンバープレートを含む領域より上方の領域の輝度変換の変換率を低輝度から中輝度の輝度域に対して原画像と同じ「1」の変換率に収束させると共に、高輝度の輝度域において原画像と同じ輝度値を用いることを特徴とする請求項1記載の車両撮影方法。
【請求項3】
輝度変換処理を行ったナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と原画像を用いるナンバープレートを含む領域の間に輝度差を徐々に少なくするためのグラデーション処理を行う領域を設けることを特徴とする請求項1記載の車両撮影方法。
【請求項4】
輝度変換処理を行った後の画像に対して、荷重平均平滑化処理を行い、その後に先鋭化処理を行うことを特徴とする請求項3記載の車両撮影方法。
【請求項5】
車両を撮影する撮影手段と、
該撮影手段により撮影された画像を記憶する原画像メモリと、
該原画像メモリに記憶したナンバープレートを含む領域より上方の領域の低輝度の画素の輝度値を高める輝度変換処理を行う輝度変換処理手段と、
前記輝度変換したナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と前記画像メモリに記憶したナンバープレートを含む領域の原画像とから撮影画像を生成する輝度補正画像生成手段と、
から構成したことを特徴とする車両撮影装置。
【請求項6】
前記ナンバープレートを含む領域より上方の領域の画像と原画像を用いるナンバープレートを含む領域の間に輝度差を徐々に少なくするためのグラデーション処理を行うグラデーション処理手段を備えていることを特徴とする請求項5記載の車両撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−53681(P2006−53681A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233679(P2004−233679)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】