説明

車両用エンジン

【課題】 ヘッドカバーのブローバイガス通路の出口と、入口またはオイル捕集部に高低差をつける。
【解決手段】 シリンダヘッド12と、ヘッドカバーカバーブローバイガス通路103を備えたヘッドカバー13とを有する車両用エンジン10であって、ヘッドカバーは、カバー主部材41と、カバー主部材の内面に結合され、ブローバイガス入口通路57を備えた第1ブローバイガス通路55を画成する下蓋部材54と、カバー主部材の外面に結合され、ブローバイガス出口通路98を備えた第2ブローバイガス通路97を画成する上蓋部材91とを有し、カバー主部材には第1ブローバイガス通路と第2ブローバイガス通路とを連通する連通孔72が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンに係り、詳しくはブローバイガス通路を備えたヘッドカバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンにおいて、ブローバイガスを吸気系に還流するための通路の一部をヘッドカバーに設けたものがある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のエンジンでは、ヘッドカバーに形成したブローバイガス通路の出口が、入口またはブローバイガスから分離されたオイルを捕集するためのオイル捕集部よりも鉛直方向において高くなるように、ブローバイガス通路の底部を傾斜させ、ブローバイガスから分離されたオイルが出口から流出しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4273839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る発明では、下方に開口するヘッドカバーの内面と、ヘッドカバーの内方に設けられたプレート部材との間でブローバイガス通路を画成しているため、ブローバイガスの出口と入口またはオイル捕集部との高低差を大きくするためには、プレート部材をヘッドカバー内で傾斜させなければならない。しかしながら、ヘッドカバー内には動弁機構等が収容されており、プレート部材の傾斜範囲は制限されているため、プレート部材をより傾斜させるためにはヘッドカバーの大型化が必要となる。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、簡素な構造で、かつヘッドカバーの大型化を招かずに、ヘッドカバーのブローバイガス通路の出口と、入口またはオイル捕集部に高低差をつけることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリンダ列方向に延在するシリンダヘッド(12)と、シリンダ列方向に延在して前記シリンダヘッドの上部に設けられ、ブローバイガスをクランク室(17)から吸気系へと流通させる通路の一部をなすブローバイガス通路(103)を備えたヘッドカバー(13)とを有する車両用エンジン(10)であって、前記ヘッドカバーは、シリンダ列方向に延在し、下方に開口して前記シリンダヘッドの上部との間に空間(37)を画成する第1部材(41)と、前記第1部材の内面に結合され、前記第1部材の内面との間に、前記第1部材の長手方向に沿う一側部に沿って延在し、一端にブローバイガス入口(57)を備えた前記ブローバイガス通路の上流側通路(55)を画成する第2部材(54)と、前記第1部材の外面に結合され、前記第1部材の外面との間に、前記上流側通路の前記ブローバイガス入口が設けられた一端と相反する他端に対応する部分から前記第1部材の長手方向に沿う他側部へと延在し、前記他側部側における部分にブローバイガス出口(98)を備えた下流側通路(97)を画成する第3部材(91)とを有し、前記第1部材の前記上流側通路の前記ブローバイガス入口が設けられた一端と相反する他端に対応する部分に、前記上流側通路と前記下流側通路とを連通する連通孔(72)が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ブローバイガス通路は、その入口がシリンダヘッドの内方に配置される一方、その出口がシリンダヘッドの外方に配置されるため、入口と出口との間で高低差を容易につけることができ、出口からのオイルの流出を抑制することができる。また、第1部材に第2部材および第3部材を結合させて、第1部材の内面および外面にブローバイガス通路を画成する構成としたため、構成が簡素であり、加工が容易である。
【0008】
本発明のある側面は、前記第1部材の前記第3部材とともに前記下流側通路を画成する部分は、前記貫通孔が設けられた側の端部が、前記ブローバイガス出口に対応する端部よりも鉛直方向において下方に位置するように、傾斜していることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、簡素な構造で下流側通路の底面を傾斜させることができる。
【0010】
本発明のある側面は、前記第1部材の外面と前記第3部材との間に、前記下流側通路と隔離して画成され、前記第1部材の前記上流側通路が設けられた側と相反する側の側部に沿って延在する、前記クランク室へと新気を導入する通路の一部をなす新気通路(106)を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、部品点数を増加させることなく、簡素な構造で新気室を第1部材の外面上に形成することができる。
【0012】
本発明のある側面は、前記シリンダヘッドおよびその下方に設けられるシリンダブロックには、前記シリンダブロックの下方に設けられるオイルパン(14)へと到る、オイルレベルゲージ(35)を挿入するためのオイルレベルゲージ挿通通路(63)が形成され、前記オイルレベルゲージ挿通通路のシリンダヘッド上側の端部は、前記第2部材の前記上流側通路を画成する部分に形成された第1貫通孔(58)に連通して前記第2部材に結合し、前記第1部材の前記上流側通路を挟んで前記第1貫通孔に対向する部分には第2貫通孔(65)が形成され、前記オイルレベルゲージは、前記第2貫通孔および前記第1貫通孔を順に通過して前記オイルレベルゲージ挿通通路内へと挿入され、前記第2貫通孔は、前記オイルレベルゲージ挿通通路に挿入された前記オイルレベルゲージによって封止されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第1貫通孔をブローバイガス通路のオイル捕集部とし、オイルレベルゲージ挿通通路を通してブローバイガス通路内でブローバイガスから分離されたオイルをオイルパンへと戻すことができる。
【0014】
本発明のある側面は、前記上流側通路内には、前記オイルレベルゲージ挿通通路から前記第1貫通孔を通過して当該上流側通路内に流入するブローバイガスを前記ブローバイガス入口へと導くように、前記第1貫通孔の前記ブローバイガス入口と相反する側を囲むとともに前記ブローバイガス入口側へと延在する隔壁(66)によって、戻り通路(70)が形成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、オイルレベルゲージ挿通通路からブローバイガスが逆流する場合に、逆流したブローバイガスがブローバイガス通路内をブローバイガス入口付近に導かれ、直接にブローバイガス出口へと流れないようにすることができる。これにより、オイルレベルゲージ挿通通路から逆流したブローバイガスについて、ブローバイガス通路内での流路を長く確保し、ブローバイガス中に含まれるオイルミストの分離を促進することができる。
【0016】
本発明のある側面は、前記第1貫通孔は、前記上流側通路の長手方向における中間部よりも前記連通孔側に形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、戻り通路の流路を長く確保することができるため、オイルレベルゲージ挿通通路から逆流するブローバイガス中に含まれるオイルが分離されやすくなる。
【0018】
本発明のある側面は、前記戻り通路が前記第1貫通孔から前記ブローバイガス入口側へと進むにつれてその流路断面積が小さくなるように、前記隔壁は前記上流側通路の長手方向に対して傾斜して設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、戻り通路の流路断面積を絞ることによって、逆流したブローバイガスの流速を高めるともに、流量に対する隔壁との接触面積を増大させ、ブローバイガスからのオイルの分離を促進することができる。
【0020】
本発明のある側面は、前記オイルレベルゲージ挿通通路は、前記シリンダヘッドに設けられるカムホルダ(61)を通過して形成され、前記第2部材は、前記カムホルダと結合していることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、カムホルダがオイルレベルゲージ挿通通路を兼ねるため、オイルレベルゲージ挿通通路の上端と第2部材とを連結する管部材を別途に設ける必要がなく、部品点数の削減が図れる。
【0022】
本発明のある側面は、前記第1貫通孔の周縁には、ボス(59)が突設され、前記オイルレベルゲージ挿通通路の端部と前記ボスとの間には、シール構造が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、ヘッドカバーとシリンダヘッドとによって画成される空間に、ブローバイガス通路から第1貫通孔を通過してブローバイガスが漏出することが防止される。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成によれば、簡素な構造で、ヘッドカバーのブローバイガス通路のブローバイガス出口とブローバイガス入口またはオイル捕集部とに高低差をつけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るエンジンの模式図
【図2】実施形態に係るヘッドカバーの斜視図
【図3】実施形態に係るヘッドカバーの分解斜視図
【図4】実施形態に係るヘッドカバーを裏面側から見た分解斜視図
【図5】実施形態に係るヘッドカバーの平面図
【図6】実施形態に係るヘッドカバーの断面図
【図7】図5のVII−VII断面図
【図8】図5のVIII−VIII断面図
【図9】図5のIX−IX断面図
【図10】図5のX−X断面図
【図11】図5のXI−XI断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明を自動車のエンジンに適用した一実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、自動車の前進方向を前方とする。
【0027】
図1に示す自動車用エンジン10(以下、単にエンジンという)は、直列4気筒のレシプロエンジンであって、車体に対して、排気側が前側となるように横置きに設けられている。エンジン10は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上部に締結されるシリンダヘッド12と、シリンダヘッド12の上部に締結されるヘッドカバー13と、シリンダブロック11の下部に締結されるオイルパン14を備えている。
【0028】
シリンダブロック11には、それぞれ上下方向に延在するともに、左右方向に列設された4つのシリンダ16が形成されている。このシリンダ16の配列方向をシリンダ列方向という。本実施形態では、シリンダ列方向は左右方向と一致している。各シリンダ16は、上端がシリンダブロック11の上面に開口し、下端がシリンダブロック11の下部に形成されたクランク室17に連通している。各シリンダ16には、コンロッド18を介してクランク軸19に連結されたピストン20が摺動自在に収容されている。
【0029】
シリンダヘッド12は、シリンダ列方向、すなわち左右方向に延在し、その下面の各シリンダ16に対応する部分に燃焼室凹部22を備えている。燃焼室凹部22は、シリンダ16とともに燃焼室23を画成する。燃焼室凹部22の壁面には、シリンダ列方向に沿ったシリンダヘッド12の後側面へと延びる吸気通路24と、シリンダ列方向に沿ったシリンダヘッド12の前側面へと延びる排気通路25との一端が開口している。吸気通路24のシリンダヘッド12の後側面における開口端には、吸気系をなす吸気マニホールド26、スロットルバルブ27、エアクリーナ(図示しない)およびエアインレット(図示しない)が順に接続されている。排気通路25のシリンダヘッド12の前側面における開口端には、排気系をなす排気マニホールド28および三元触媒およびマフラー(いずれも図示しない)が順に接続されている。
【0030】
オイルパン14は、上方に開口した箱型を呈し、シリンダブロック11に締結され、エンジンオイルを貯留するオイル室31を画成する。エンジン10には、下端がオイルパン14のオイル室31に開口する一方、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12を貫通してシリンダヘッド12の上部に上端が開口するブローバイガス供給通路32が形成されている。燃焼室23からクランク室17へと漏出したブローバイガスは、オイル室31およびブローバイガス供給通路32を通過してシリンダヘッド12の上部へと送給される。なお、他の実施形態では、ブローバイガス供給通路32の下端をクランク室17に開口させ、オイル室31を経由させずに、ブローバイガスを送給してもよい。
【0031】
また、エンジン10には、下端がオイルパン14のオイル室31に連通する一方、シリンダブロック11、シリンダヘッド12およびヘッドカバー13を貫通して上端がヘッドカバー13の上面に開口するオイルレベルゲージ挿通通路34が形成されている。オイルレベルゲージ挿通通路34の詳細な構造は、後述する。オイルレベルゲージ挿通通路34には、オイルレベルゲージ35(図8参照)が挿入される。
【0032】
また、エンジン10には、下端がクランク室17に連通する一方、シリンダブロック11、シリンダヘッド12を貫通して上端がシリンダヘッド12の上部に開口し、シリンダヘッド12とヘッドカバー13とによって画成される動弁室37に開口する新気供給通路38が形成されている。
【0033】
図2〜図4に示すように、ヘッドカバー13は、シリンダヘッド12の上部との間に空間を画成するように、上方に凸となった(すなわち、下方開口の箱状を呈する)カバー主部材(第1部材)41を備えている。カバー主部材41は、シリンダ列方向に延在した天板部42と、天板部42の前縁に沿って下方へと立設された前側壁部43と、天板部42の後縁に沿って下方へと立設された後側壁部44とを備えている。天板部42の右端部は、上方へと隆起してスプロケット収容部45を形成した後、前側壁部43および後側壁部44に連続する右側壁部46を形成している。
【0034】
前側壁部43、後側壁部44および右側壁部46の下縁には、外向きのフランジ部47が延設されている。カバー主部材41は、ボルトによってシリンダヘッド12に締結され、前側壁部43および後側壁部44のフランジ部47においてシリンダヘッド12の上部周縁部に接合するとともに、天板部42、前側壁部43および後側壁部44の左端縁において、シリンダヘッド12の左端に突設された側壁48(図7参照)に接合することによって、シリンダヘッド12との間に動弁室37を画成する。右側壁部46のフランジ部47は、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の右端面を覆うチェーンケース49(図7参照)の上端に接合される。
【0035】
天板部42の前後方向における中間部には、上下方向に貫通する点火プラグ挿通孔51がシリンダ列方向に沿ってシリンダヘッド12の燃焼室凹部22に対応するように4つ列設されている。点火プラグ挿通孔51には点火プラグ52が挿通され、点火プラグ52はシリンダヘッド12に形成されたプラグ孔(図示しない)を通過して先端が燃焼室凹部22内に突出する。
【0036】
天板部42の前部には上方へと膨らみ出て、その下面側にシリンダ列方向に延在する溝部を形成する膨出部53が形成されている。図4に示すように、膨出部53の下面側に形成された溝部は、板状の下蓋部材(第2部材)54によって閉塞され、膨出部53の下面と下蓋部材54の上面との間にシリンダ列方向に延在する第1ブローバイガス通路(上流側通路)55を画成する。下蓋部材54は、ボルトによってカバー主部材41に締結されている。膨出部53のシリンダ列方向における中間部の後側には、天板側へと窪められた凹部56が形成されており、凹部56によって第1ブローバイガス通路55は前後方向に幅が狭くなっている。凹部56は、シリンダ列方向において、膨出部53の中間部から右端部の間に設けられていることが好ましい。
【0037】
図10に示すように、膨出部53の左端部には、左方へと延びた後下方へと屈曲して天板部42の下面(内面)に開口し、第1ブローバイガス通路55と天板部42の下面とを連通するブローバイガス入口通路57が形成されている。ブローバイガス入口通路57は、ヘッドカバー13がシリンダヘッド12に締結された状態で、ブローバイガス供給通路32の上端と連通する。
【0038】
下蓋部材54の凹部56に対向する部分には、下蓋部材54を上下方向に貫通する第1貫通孔58が形成されている。第1貫通孔58の縁部には、下蓋部材54の下方へと突出するボス部59が形成されている。図8に示すように、シリンダヘッド12の上部には、燃焼室凹部22と吸気通路24および排気通路25とを開閉する吸気弁および排気弁(いずれも図示しない)を駆動するカムシャフト60を支持するために設けられたカムホルダ61が設けられており、カムホルダ61にはカムシャフト60を支持する部分を避けるようにして上下方向に貫通した第1オイルレベルゲージ挿通通路62が形成されている。第1オイルレベルゲージ挿通通路62の下端は、シリンダヘッド12およびシリンダブロック11を貫通し、下端がオイル室31に連通する第2オイルレベルゲージ挿通通路63の上端と連通している。
【0039】
ボス部59は、第1オイルレベルゲージ挿通通路62の上端に形成された受け部64内に嵌り込み、第1貫通孔58と第1オイルレベルゲージ挿通通路62とを連通している。ボス部59と受け部64とは、ラビリンスシールを構成し、第1貫通孔58と第1オイルレベルゲージ挿通通路62とを気密に接続している。なお、他の実施形態では、ボス部59と受け部64との間にパッキンやオーリング、シーリング材等を介装してもよい。
【0040】
カバー主部材41の凹部56には、第1貫通孔58と同軸となる第2貫通孔65が形成されている。オイルレベルゲージ35は、第2貫通孔65から挿入され、第1ブローバイガス通路55を上下方向に横断し、第1貫通孔58、第1オイルレベルゲージ挿通通路62および第2オイルレベルゲージ挿通通路63を通過して、オイル室31へと到る。以上より、オイルレベルゲージ挿通通路34は、第2貫通孔65、第1ブローバイガス通路55、第1貫通孔58、第1オイルレベルゲージ挿通通路62および第2オイルレベルゲージ挿通通路63によって構成されている。第2貫通孔65は、オイルレベルゲージ35の基端部36によって気密に閉塞される。
【0041】
図4および図6に示すように、凹部56および天板部42の下面には、第2貫通孔65の左方および前方を囲むように、一連の隔壁66が延設されている。隔壁66は、第2貫通孔65の前方をブローバイガス入口通路57側(左方)へと延びて遊端を形成する第1部分67と、第1部分67の右端から第2貫通孔65の右方を後方へと延びて膨出部53の後側壁68に連続する第2部分69とを有している。隔壁66の第1部分67および第2部分69は、それらの下端(突出端)が下蓋部材54の上面近傍まで延びて、第1ブローバイガス通路55内を区画し、第1貫通孔58および第2貫通孔65が設けられた部分からブローバイガス入口通路57側へ延在する戻り通路70を画成している。第1部分67は、ブローバイガス入口通路57側へ進むほど、膨出部53の後側壁68に近接するように後方へと傾斜しており、戻り通路70は右方へ進むほど流路断面積が狭められている。
【0042】
膨出部53の後側壁68の右端に位置する部分の後方に位置する天板部42には、前後方向に延在するとともに後側壁68から後方に進むにつれて浅くなるように傾斜した傾斜溝71が凹設されている。傾斜溝71の前端は、後側壁68を前後方向に貫通する連通孔72をなしている。すなわち、第1ブローバイガス通路55と傾斜溝71とは連通孔72を介して連通している。ブローバイガス入口通路57から第1ブローバイガス通路55に流入したブローバイガスは、連通孔72へと流れる。
【0043】
膨出部53の内面および下蓋部材54の上面には、バッフル壁74が適所に立設されており、第1ブローバイガス通路55はラビリンス構造を有するオイルミストセパレータとして機能する。第1ブローバイガス通路55では、ブローバイガス入口通路57から流入したブローバイガスは、連通孔72へ流れる過程で、バッフル壁74に衝突し、ガス中に保持するオイルミストが分離される。バッフル壁74や第1ブローバイガス通路55の内壁に付着したオイルが第1貫通孔58に集まるように、下蓋部材54は第1貫通孔58が設けられた部分が最も下方に位置するように傾斜が付されている。第1貫通孔58は、第1ブローバイガス通路55のオイル捕集部として機能し、第1貫通孔58に捕集されたオイルは、第1貫通孔58、第1オイルレベルゲージ挿通通路62および第2オイルレベルゲージ挿通通路63を通ってオイル室31へと戻される。
【0044】
第1オイルレベルゲージ挿通通路62および第2オイルレベルゲージ挿通通路63を通って、第1貫通孔58から第1ブローバイガス通路55内にブローバイガスが逆流する場合には、ブローバイガスは戻り通路70を通ってブローバイガス入口通路57側へと流され、連通孔72へと直接流れることが防止される。
【0045】
図3に示すように、傾斜溝71の後端には、天板部42に対して凹設された凹部75が連続している。凹部75は天板部42の後端付近まで延在し、傾斜溝71と同様の傾斜角を有して傾斜している。天板部42の凹部75の左方には、凹部75と隔壁77を介して隔離された凹溝78が凹設されている。凹溝78は、天板部42の後縁に沿ってシリンダ列方向に延在している。凹溝78の右端における底面には、カバー主部材41を上下方向に貫通し、動弁室37に連通する導入孔79が形成されている。
【0046】
傾斜溝71、凹部75および凹溝78の外縁を一連に囲むように、天板部42には閉環状のリブ80が形成されている。リブ80は、隔壁77の端部と連結され、リブ80が画成する空間は、傾斜溝71および凹部75が画成する部分と、凹溝78が画成する部分とに分割されている。
【0047】
天板部42のリブ80によって囲まれた部分を閉塞するための上蓋部材91は、凹溝78および凹部75に対応してシリンダ列方向に延在した第1部分92と、傾斜溝71に対応して第1部分92の右端近傍から前方へと延出した板状の第2部分93とを有している。第1部分92は、左右方向に延在し、下部が開口した略直方体状の箱形を呈し、下縁にフランジ部94を備えている。第2部分93は、フランジ部94と同一平面上に配置されている。リブ80の上面と、第1部分92のフランジ部94および第2部分93の周縁部とが接合することによって、天板部42のリブ80によって囲まれた部分は、上蓋部材91によって閉塞される。上蓋部材91は、ボルトによってカバー主部材41に締結されている。
【0048】
図11に示すように、第1部分92の内部には、天板部42の隔壁77の上端面に接続する隔壁95が形成されており、第1部分92の内部は、凹溝78に対応する部分と、凹部75に対応する部分とに分割されている。
【0049】
第1部分92の凹部75に対応する部分と、第2部分93とは、傾斜溝71および凹部75を一体に閉塞して第2ブローバイガス通路(下流側通路)97を画成する。第1部分92の右端側壁部には、貫通孔であるブローバイガス出口通路98が形成されており、ブローバイガス出口通路98にはPCVバルブ99が取り付けられている。PCVバルブ99は、その上流および下流の差圧に応じて弁を開閉する公知のPCVバルブであってよい。図1に示すように、PCVバルブ99の外端は、管路101を介して吸気マニホールド26に接続されている。これにより、クランク室17に漏出したブローバイガスは、オイル室31、ブローバイガス供給通路32、ブローバイガス入口通路57、第1ブローバイガス通路55、連通孔72、第2ブローバイガス通路97、ブローバイガス出口通路98、PCVバルブ99、管路101を順に通過して吸気マニホールド26に導入される。ヘッドカバー13に形成されたブローバイガス入口通路57、第1ブローバイガス通路55、連通孔72、第2ブローバイガス通路97およびブローバイガス出口通路98をヘッドカバーブローバイガス通路103という。
【0050】
第1部分92の凹溝78に対応する部分は、凹溝78とともに新気通路106を形成する。第1部分92の左端側壁部には、第1部分92の内面および外面を連通する新気入口通路107が形成されている。新気入口通路107の外端は、管路108を介して吸気系のスロットルバルブ27の上流側に連通している。これにより、吸気系の空気は、管路108、新気入口通路107、新気通路106、導入孔79、動弁室37、新気供給通路38を順に通過してクランク室17へと導入されるようになっている。
【0051】
新気通路106を画成する第1部分92の内面の適所には、凹溝78の底面近傍まで延びるバッフル壁111が突設されている。凹溝78の底面には、バッフル壁111の下端に係合する係合壁112が立設されている。これらのバッフル壁111および係合壁112は、ブローバイガスが新気供給通路38、動弁室37および導入孔79を通過して新気通路106内に逆流する場合に、ブローバイガスからオイルミストを分離し、オイルミストが新気入口通路107および吸気系に侵入することを抑制する。
【0052】
以上のように構成したエンジン10では、ヘッドカバー13にブローバイガス通路の一部をなすヘッドカバーブローバイガス通路103と、新気通路106とを一体に形成することができる。ヘッドカバー13は、カバー主部材41、下蓋部材54、上蓋部材91の3ピースから構成され、カバー主部材41の内面(下面)に下蓋部材54を締結し、カバー主部材41の外面(上面)に上蓋部材91を締結する構成であるため、構造が簡素であり、加工および組立が容易である。
【0053】
本実施形態では、カバー主部材41の内面側に形成される第1ブローバイガス通路55にブローバイガス入口通路57およびオイル捕集部となる第1貫通孔58を設け、カバー主部材41の外面側に形成される第2ブローバイガス通路97にブローバイガス出口通路98を設けたため、ヘッドカバー13の大型化を招くことなく、ブローバイガス出口通路98と、ブローバイガス入口通路57および第1貫通孔58との間で高低差を大きくすることができる。これにより、第1ブローバイガス通路55および第2ブローバイガス通路97内でブローバイガスから分離されたオイルが、ブローバイガス出口通路98から流出し難くすることができる。
【0054】
本実施形態では、カバー主部材41の内面側および外面側に互い分離して形成された第1ブローバイガス通路55および第2ブローバイガス通路97を貫通孔である連通孔72で連通するようにしたため、構成が簡素である。また、第2ブローバイガス通路97の底部を傾斜溝71で構成したため、第2ブローバイガス通路97内に捕集されたオイルを第1ブローバイガス通路55内へと導くことができる。
【0055】
また、第2ブローバイガス通路97を画成する上蓋部材91を兼用して、カバー主部材41との間に新気通路106を画成するようにしたため、部品点数を削減しつつ、簡素な構成で新気通路106を形成することができる。
【符号の説明】
【0056】
10…エンジン、11…シリンダブロック、12…シリンダヘッド、13…ヘッドカバー、14…オイルパン、16…シリンダ、17…クランク室、22…燃焼室凹部、31…オイル室、32…ブローバイガス供給通路、34…オイルレベルゲージ挿通通路、35…オイルレベルゲージ、36…基端部、37…動弁室、38…新気供給通路、41…カバー主部材(第1部材)、42…天板部、53…膨出部、54…下蓋部材(第2部材)、55…第1ブローバイガス通路、56…凹部、57…ブローバイガス入口通路、58…第1貫通孔、59…ボス部、61…カムホルダ、62…第1オイルレベルゲージ挿通通路、63…第2オイルレベルゲージ挿通通路、64…受け部、65…第2貫通孔、66…隔壁、70…戻り通路、71…傾斜溝、72…連通孔、75…凹部、77…隔壁、78…凹溝、79…導入孔、91…上蓋部材(第3部材)、95…隔壁、97…第2ブローバイガス通路、98…ブローバイガス出口通路、99…PCVバルブ、103…ヘッドカバーブローバイガス通路、106…新気通路、107…新気入口通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ列方向に延在するシリンダヘッドと、シリンダ列方向に延在して前記シリンダヘッドの上部に設けられ、ブローバイガスをクランク室から吸気系へと流通させる通路の一部をなすブローバイガス通路を備えたヘッドカバーとを有する車両用エンジンであって、
前記ヘッドカバーは、
シリンダ列方向に延在し、下方に開口して前記シリンダヘッドの上部との間に空間を画成する第1部材と、
前記第1部材の内面に結合され、前記第1部材の内面との間に、前記第1部材の長手方向に沿う一側部に沿って延在し、一端にブローバイガス入口を備えた前記ブローバイガス通路の上流側通路を画成する第2部材と、
前記第1部材の外面に結合され、前記第1部材の外面との間に、前記上流側通路の前記ブローバイガス入口が設けられた一端と相反する他端に対応する部分から前記第1部材の長手方向に沿う他側部へと延在し、前記他側部側における部分にブローバイガス出口を備えた下流側通路を画成する第3部材とを有し、
前記第1部材の前記上流側通路の前記ブローバイガス入口が設けられた一端と相反する他端に対応する部分に、前記上流側通路と前記下流側通路とを連通する連通孔が形成されていることを特徴とする車両用エンジン。
【請求項2】
前記第1部材の前記第3部材とともに前記下流側通路を画成する部分は、前記下流側通路の前記貫通孔が設けられた側の端部が、前記ブローバイガス出口に対応する端部よりも鉛直方向において下方に位置するように、傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の車両用エンジン。
【請求項3】
前記第1部材の外面と前記第3部材との間に、前記下流側通路と隔離して画成され、前記第1部材の前記上流側通路が設けられた側と相反する側の側部に沿って延在する、前記クランク室へと新気を導入する通路の一部をなす新気通路を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用エンジン。
【請求項4】
前記シリンダヘッドおよびその下方に設けられるシリンダブロックには、前記シリンダブロックの下方に設けられるオイルパンへと到る、オイルレベルゲージを挿入するためのオイルレベルゲージ挿通通路が形成され、
前記オイルレベルゲージ挿通通路のシリンダヘッド上側の端部は、前記第2部材の前記上流側通路を画成する部分に形成された第1貫通孔に連通して前記第2部材に結合し、
前記第1部材の前記上流側通路を挟んで前記第1貫通孔に対向する部分には第2貫通孔が形成され、
前記オイルレベルゲージは、前記第2貫通孔および前記第1貫通孔を順に通過して前記オイルレベルゲージ挿通通路内へと挿入され、
前記第2貫通孔は、前記オイルレベルゲージ挿通通路に挿入された前記オイルレベルゲージによって封止されることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1つの項に記載の車両用エンジン。
【請求項5】
前記上流側通路内には、前記オイルレベルゲージ挿通通路から前記第1貫通孔を通過して当該上流側通路内に流入するブローバイガスを前記ブローバイガス入口へと導くように、前記第1貫通孔の前記ブローバイガス入口と相反する側を囲むとともに前記ブローバイガス入口側へと延在する隔壁によって、戻り通路が形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の車両用エンジン。
【請求項6】
前記第1貫通孔は、前記上流側通路の長手方向における中間部よりも前記連通孔側に形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の車両用エンジン。
【請求項7】
前記戻り通路が前記第1貫通孔から前記ブローバイガス入口側へと進むにつれてその流路断面積が小さくなるように、前記隔壁は前記上流側通路の長手方向に対して傾斜して設けられていることを特徴とする、請求項6に記載の車両用エンジン。
【請求項8】
前記オイルレベルゲージ挿通通路は、前記シリンダヘッドに設けられるカムホルダを通過して形成され、
前記第2部材は、前記カムホルダと結合していることを特徴とする、請求項4〜請求項7のいずれかの項に記載の車両用エンジン。
【請求項9】
前記第1貫通孔の周縁には、ボスが突設され、
前記オイルレベルゲージ挿通通路の端部と前記ボスとの間には、シール構造が設けられていることを特徴とする、請求項8に記載の車両用エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−57498(P2012−57498A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199273(P2010−199273)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】