車両用サスペンションシステム
【課題】スラローム走行時等に不足するスタビライザ装置のロール抑制効果を補い得る車両用サスペンションシステムを得る。
【解決手段】スタビライザ装置22を備えたサスペンションシステム10に、電子制御ユニット(ECU)200と減衰力を調節することが可能なショックアブソーバ34とを設ける。ECU200によってロール抑制補完プログラムを実行し、旋回方向を切り換える操作がなされたことが検出された場合に、ショックアブソーバ34の減衰力を増加させる。そうすることによって、スタビライザ装置22のアクチュエータ80の作動抵抗によってスタビライザバー70の捩れの戻り遅れが生じた場合でも、ロール抑制効果の不足を補うことができ、ロールを適切に抑制することができる。
【解決手段】スタビライザ装置22を備えたサスペンションシステム10に、電子制御ユニット(ECU)200と減衰力を調節することが可能なショックアブソーバ34とを設ける。ECU200によってロール抑制補完プログラムを実行し、旋回方向を切り換える操作がなされたことが検出された場合に、ショックアブソーバ34の減衰力を増加させる。そうすることによって、スタビライザ装置22のアクチュエータ80の作動抵抗によってスタビライザバー70の捩れの戻り遅れが生じた場合でも、ロール抑制効果の不足を補うことができ、ロールを適切に抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のロールを抑制する効果が可変にされたアクティブスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させることにより、車体のロールを抑制する効果であるロール抑制効果が可変にされたアクティブスタビライザ装置が検討されている。下記特許文献1には、スタビライザバーが左右1対のバー部材を含んで構成され、それら1対のバー部材をアクチュエータによって相対回転させることにより、ロール抑制効果を変化させるスタビライザ装置が記載されている。
【特許文献1】特表2002−518245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のスタビライザシステムは、例えば、車体の横加速度に基づいて制御することができる。具体的には、例えば、横加速度が大きい場合には、ロール抑制効果を高めるために車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量が大きくされ、適切にロールが抑制される。しかしながら、スラローム走行を行う場合等には、例えば、左右の一方にロールした際にアクチュエータによってスタビライザバーが捩られ、その後左右の他方へのロールが始まるまでにスタビライザバーの捩れが解消されることが望ましいのであるが、アクチュエータの作動抵抗等によってスタビライザバーの捩れが速やかに戻らない場合がある。スタビライザバーの捩れの戻りが遅れることにより、上記の例では左右の一方から他方へロール方向が切換った後のアクティブスタビライザ装置(以後、「スタビライザ装置」と略記する場合がある)のロール抑制効果が低下して、車体のロールが適切に抑制されない虞があるという問題がある。
【0004】
以上のような問題を一例として、従来から検討されているスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムによって適切なロール抑制効果を発揮させる等、サスペンションシステムの実用性を向上させる上で障害となり得る様々な問題がある。すなわち、従来から検討されているスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムには種々の観点からの改良の余地があり、そのサスペンションシステムに改良を施すことによってそれの実用性を向上させることが可能である。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的な車両用サスペンションシステムを得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、(a)減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、(b)左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させて車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置とを備え、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、その操舵操作がなされる前よりも前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用サスペンションシステムによれば、例えば、スラローム走行時等において、左右の一方から他方への操舵操作、つまり、中立位置を横切る操作がなされた場合には、例えば、スタビライザ装置のロール抑制効果の不足を補うために、1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させることによって、中立位置を横切った後のロールを適切に抑制することができる。すなわち、本発明のサスペンションシステムは、例えば、スラローム走行時等においても適切なロール抑制効果を発揮することができ、より実用的なサスペンションシステムにされているのである。なお、本発明の車両用サスペンションシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から一部の構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(3)項が請求項2に、(4)項が請求項3に、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項4に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)左右の車輪の各々に対応して設けられてそれら左右の車輪の各々と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、
左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体に加わるロールモーメントの大きさを推定することが可能な物理量であるロールモーメント推定物理量に応じて車体のロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量を変化させて前記スタビライザバーによる車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置と
を備えたサスペンションシステムであって、
中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする車両用サスペンションシステム。
【0010】
本項に記載のスタビライザ装置は、いわゆるアクティブスタビライザ装置とされており、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させることによって、つまり、スタビライザバーの弾性力に起因するロールを抑制する力を変化させることによって、適度なロール抑制効果(例えば、「ロールの抑制の度合」と表現することもできる)を発揮することができる。すなわち、ロール量が同じ状態において、スタビライザバーの捩れ量を増減させることによって、ロール抑制効果を増減させることができるのである。具体的には、例えば、比較的少ないロール量で比較的捩れ量が大きくなるようにすれば、ロール抑制効果が大きくなり、旋回時等におけるロール量を減少させることができる。
【0011】
しかしながら、スタビライザバーの捩り量が不適切になり、適度なロール抑制効果を発揮させることができない場合がある。具体的には、例えば、スラローム走行時,S字カーブ走行時等のように、左右の一方から他方への操舵操作、つまり、中立位置(例えば、車両を直進させる操作位置)を横切る操作がなされるような場合である。そして、中立位置を横切る操作がなされた場合には、言い換えれば、車両の旋回方向を切り換える操作である旋回方向切換操作がなされた場合には、左右いずれか一方へロールした車体が、他方にロールする。そのような状態において、左右いずれか一方へ車体がロールした際にスタビライザバーが捩られた後、車体のロール量が減少するとともにスタビライザバーの捩れが減少し、車体が左右の他方にロールするまでにスタビライザバーの捩れが解消していることが望ましいが、例えば、アクチュエータの作動抵抗等によって、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じる場合がある。もし、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じると、上記他方へのロール(つまり、中立位置を横切った後のロール)の際にスタビライザ装置のロール抑制効果が不充分となり、上記他方へのロールが適切に抑制されない場合がある。
【0012】
そこで、本項に記載のサスペンションシステムによれば、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、例えば、上述のようなスタビライザ装置のロール抑制効果の不足を補うために、1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を上記操舵操作がなされる前よりも増大させることによって上記他方へのロールを適切に抑制することができる。すなわち、本項に記載のサスペンションシステムは、例えば、スラローム走行時等においても適切なロール抑制効果を発揮することができ、より実用的なサスペンションシステムにされているのである。また、本項に記載のサスペンションシステムによれば、例えば、車両にストロークセンサやロールセンサ等が配備されていなくとも、操舵操作等に基づいてロール抑制効果の不足する状態を検知することができ、コスト等の面で、より実用的なサスペンションシステムとされている。
【0013】
本項に記載のサスペンションシステムでは、ロールを適切に抑制するために、アクチュエータによって、スタビライザバーの捩れ量がロールモーメント推定物理量に応じた捩れ量になるようにされる。ロールモーメント推定物理量は、例えば、旋回時の遠心力等の外力によって車体に作用するロールモーメントである外力ロールモーメントの大きさを推定し得る物理量とすることができ、例えば、車体のロール加速度,横加速度,あるいはそれらを推定し得る物理量とすることができる。なお、横加速度は、例えば、操舵角,ヨーレート,車速等に基づいて推定することができる。
【0014】
本項に記載の減衰力発生機構は、減衰力の大きさを変更できるものであればその構造が特に限定されず、例えば、オイルの粘性抵抗力を利用するショックアブソーバ,電磁力を利用する電磁式ショックアブソーバ等を含んで構成することができる。また、本項に記載の減衰力発生機構は、減衰力の大きさを変更するために、例えば、減衰係数を変更するものとすることができる。
【0015】
(2)当該サスペンションシステムが、
前記スタビライザ装置のロール抑制効果の不足に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0016】
本項に記載の態様によれば、例えば、ロール抑制効果の不足量が多いほど(例えば、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが多いほど)減衰力の増大量を大きくすることができ、より適切にロールを抑制することができる。また、本項に記載の態様によれば、例えば、ロール抑制効果の不足量が設定値以下である場合には、減衰力を増大させないようにすることもできる。
【0017】
(3)当該サスペンションシステムが、
中立位置を横切る操舵操作がなされた際の前記スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0018】
本項に記載のサスペンションシステムにおいて、アクチュエータの作動量とスタビライザバーの捩れの増減量とは密接に関連している。したがって、本項に記載のサスペンションシステムが、例えば、アクチュエータの作動量を検出するセンサを備えている場合には、そのアクチュエータの作動量に基づいてスタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度を取得することができる。そして、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に基づいて、例えば、ロール抑制効果の不足量を取得することができる。また、本項に記載のサスペンションシステムにおいて、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度は、例えば、操作速度,車速,ロールモーメント推定物理量等と相関があり、それらの少なくとも1つに基づいて、スタビライザバーの戻り遅れの程度を推定することができ、あるいは減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させることができる。
【0019】
(4)当該サスペンションシステムが、
操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0020】
中立位置を横切る操舵操作の操作速度と、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度、つまり、ロール抑制効果の不足量との間には相関関係があると考えられる。具体的には、操作速度が小さい場合には、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが少なくなり、ロール抑制効果の不足量が少なくなる傾向にあり、一方、操作速度が大きい場合にはロール抑制効果の不足量が多くなる傾向にある。そのため、本項に記載の態様によれば、例えば、中立位置を横切る操舵操作の操作速度に基づいて減衰力の増大量を決定することができ、より適切にロールを抑制することができる。また、本項に記載の態様によれば、例えば、中立位置を横切る操舵操作の操作速度が設定速度以下である場合には、減衰力を増大させないようにすることもできる。本項に記載の態様において、中立位置を横切る操舵操作の操作速度は、例えば、中立位置を横切るまでの操舵操作(中立位置に接近する向きの操作である切り戻し操作)の平均の操作速度や、中立位置を横切る時点の操作速度等に基づいて取得することができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0021】
(5)当該サスペンションシステムが、
車速に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0022】
車速が大きい場合には、車速が小さい場合と比較して旋回時のロールモーメントが大きくなるため、ロール抑制効果が比較的大きくされる場合が多い。そのため、スタビライザバーの捩れ量が比較的多くなり、その捩れ量の戻り遅れ量も多くなる傾向にある。本項に記載の態様において、車速は、例えば、中立位置を横切るまでの操舵操作(中立位置に接近する向きの操作である切り戻し操作)がなされている間の車速の平均や、中立位置を横切る時点の車速等に基づいて取得することができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0023】
(6)当該サスペンションシステムが、
切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0024】
例えば、中立位置からの操作量が大きく旋回半径が小さい状態,旋回速度が大きい状態等の旋回状態では、ロールモーメントが比較的大きくなり、スタビライザバーの捩れ量が比較的大きくされるため、その捩れの戻り遅れの程度も大きくなる傾向にある。したがって、ロールモーメント推定物理量に応じて減衰力を増大させることにより、適切にロールを抑制することができる。切り戻し操作は、単純には中立位置に接近する向きの操作である。その切り戻し操作がなされた時点である切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量は、例えば、切り戻し操作が開始された時点(例えば、操作方向が中立位置から離間する向きから接近する向きに反転した時点)、あるいはスタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じやすい切り戻し操作がなされた時点(例えば、中立位置に接近する向きの操作速度が設定値を超えた時点)の値とすることができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0025】
(7)当該サスペンションシステムが、中立位置を横切る操舵操作がなされた際に、前記1対の減衰力発生機構のうちの旋回外輪側のものの減衰力を増大させるものである(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0026】
減衰力の増大量が比較的小さい場合には、旋回外輪側の車体の下降を抑制するために、旋回外輪側の減衰力を増大させることが簡便である。なお、1対の減衰力発生機構のうちの旋回外輪側のもののみの減衰力を増大させることが望ましい。
【0027】
(8)前記スタビライザバーが、
それぞれが、車体に回転可能に保持された軸状のトーションバー部とそのトーションバー部の一端部から回転軸と交差する方向に延び出すアーム部とを有し、前記トーションバー部の起端部において前記アクチュエータに接続された左右1対のバー部材を含んで構成されるとともに、
それら1対のバー部材の各々の起端部の相対回転量が変化させられることによってロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量が変化するように構成された(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0028】
本項に記載の態様は、スタビライザバーが2つのバー部材を含んで構成されている態様である。それら2つのバー部材の起端部の相対回転量がアクチュエータによって変化させられることによって、ロール量あたりの捩れ量が変化し、ロール抑制効果が変化する。このような態様では、2つのバー部材の相対回転量が0に戻る際に、アクチュエータの作動抵抗等によって戻り遅れが生じやすいため、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に減衰力を増大させる効果が特に大きいのである。
【0029】
(9)前記アクチュエータが、
駆動力源となる電磁式モータと、自身に入力された前記電磁式モータの駆動回転を減速して出力する減速機とを含んで構成された(8)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0030】
本項に記載の態様は、アクチュエータが減速機を備えた態様である。減速機は、減速比の大きいものを採用してモータの負荷を減少させることが望ましいが、減速機自体の作動抵抗等が比較的大きくなる。そのため、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが大きくなり易く、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に減衰力を増大させる効果が特に大きいのである。なお、減速機は、例えば、ハーモニックギヤ機構(通称「ハーモニックドライブ(登録商標)」と呼ばれる場合もある)等の、減速比が大きいものとすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0032】
1. 車両用サスペンションシステム.
図1に、本発明の一実施例である車両用サスペンションシステム10(以後、単に「サスペンションシステム」と略記する)を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、各車輪16に対応して設けられて各車輪16と車体とを接近離間可能に連結する独立懸架式のサスペンション装置20と、車両の前輪側および後輪側の各々に配設されて車体のロールを抑制する2つのアクティブスタビライザ装置22(以後、「スタビライザ装置22」と略記する場合がある)とを含んで構成されている。なお、本実施例において、サスペンション装置20は4つ設けられているが、図には2つのサスペンション装置20が示されている。
【0033】
2. サスペンション装置.
図2には、サスペンション装置20の一部分と、一方のスタビライザ装置22の車両前方の車幅方向の中央から一方側の車輪16にかけての部分とが概略的に示されている。サスペンション装置20は、一般によく知られたダブルウィシュボーン式のものであり、一端部が車体に回動可能に連結されるとともに他端部が車輪16に連結された車輪支持部材としてのアッパアーム30およびロアアーム32を備えている。それらアッパアーム30およびロアアーム32は、車輪16と車体との接近離間(相対的な上下動の意味)に伴い、上記一端部(車体側)を中心に回動させられ、上記他端部(車輪側)が車体に対して上下させられる。
【0034】
サスペンション装置20は、図3に示すように、ショックアブソーバ34と、エア・スプリング36とを備えている。ショックアブソーバ34は、本実施例において、ツインチューブ式のものであり、その本体40を構成する外筒42の下端部においてロアアーム32に連結され、中空のピストンロッド44の上端部において車体に固定されたロッド支持部45に固定支持されている。ピストンロッド44は、本体40の内筒46内に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン48から延び出させられており、ピストン48が移動する際にピストン48内に設けられたオリフィスをオイルが流れることにより減衰力が発生する。
【0035】
また、本ショックアブソーバ34は、減衰力の大きさが可変にされている。ピストン48の下側には減衰力を調節するためにオリフィスの面積を変化させてオイルの通過抵抗を変化させる通過抵抗調節機構50が配設されている。その通過抵抗調節機構50は、ピストンの上下に伴いオイルを通過させるオリフィスが形成されたオリフィス形成部材52と、軸線回りに回転可能に設けられて回転位置の変化に伴い上記オリフィス形成部材によって形成されたオリフィスの面積を変化させるシャッタ部材54とを備えている。一方、中空のピストンロッド44にはコントロールロッド56が挿入されており、そのコントロールロッド56の上端部は電動モータ58(本実施例においてステップモータとされている)に接続されている。また、コントロールロッド56の下端部にはシャッタ部材54が接続されている。そして、電動モータ58によってシャッタ部材54の回転位置が変化させられて、減衰力の大きさが変化するようにされているのである。すなわち、本実施例のショックアブソーバ34は、車輪16と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた減衰力発生機構にされているのである。
【0036】
エア・スプリング36は、ショックアブソーバ34のピストンロッド44に固定されたエアチャンバ60と、ショックアブソーバ34の本体40に固定されたエアピストン62とを備えている。それらエアチャンバ60とエアピストン62とが、弾性変形可能なダイヤフラム64によって気密性を保ちつつ接近・離間可能に接続されて、それらの接近・離間に応じてエア・スプリング36内の容積が減少・増加して弾性力が増減するようにされている。
【0037】
3. スタビライザ装置.
前後のスタビライザ装置22の各々は、両端部において左右の車輪16を支持するロアアーム32(図2参照)に連結されたスタビライザバー70を備えている。そのスタビライザバー70は、中央部で分割されており、左右一対のバー部材としての一対のスタビライザバー部材、すなわち右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とを含む構成のものとされている。それら一対のスタビライザバー部材72,74がアクチュエータ80を介して相対回転可能に接続されており、大まかに言えば、スタビライザ装置22は、アクチュエータ80が、左右のスタビライザバー部材72,74を相対回転させることによって(図1の矢印,点線矢印を参照のこと)、スタビライザバー70全体のロール量あたりの捩れ量を変化させて車体のロール抑制を行う。なお、図2には、右スタビライザバー部材72および左スタビライザバー部材74の一方が示されている。
【0038】
各スタビライザバー部材72,74は、それぞれ、略車幅方向に延びるトーションバー部90と、トーションバー部90と一体化されてそれと交差して概ね車両前方あるいは後方に延びるアーム部92とに区分することができる。各スタビライザバー部材72,74のトーションバー部90は、アーム部92に近い箇所において、車体の一部であるスタビライザ装置配設部94に固定的に設けられた支持部材96によって回転可能に支持され、互いに同軸に配置されている。それらトーションバー部90の端部(車幅方向における中央側の端部)の間には、上述のアクチュエータ80が配設されており、後に詳しく説明するが、各トーションバー部90の端部は、それぞれ、そのアクチュエータ80に接続されている。一方、アーム部92の端部(トーションバー部90側とは反対側の端部)は、上述のロアアーム32に設けられたスタビライザバー連結部98に、それと相対回転可能に連結されている。
【0039】
アクチュエータ80は、図4に模式的に示すように、電動モータ100と、電動モータ100の回転を減速する減速機102とを含んで構成されている。これら電動モータ100および減速機102は、アクチュエータ80の外殻部材であるハウジング104内に設けられている。ハウジング104は、ハウジング保持部材106によって、回転可能かつ軸方向(略車幅方向)に移動不能に、車体に設けられたスタビライザ装置配設部94に保持されている。図2から解るように、ハウジング104の両端部の各々には、2つの出力軸110,112の各々が延び出すように配設されている。それら出力軸110,112のハウジング104から延び出した側の端部が、それぞれ、各スタビライザバー部材72,74の端部と、セレーション嵌合によって相対回転不能に接続されている。また、図4から解るように、一方の出力軸110は、ハウジング104の端部に固定して接続されており、また、他方の出力軸112は、ハウジング104内に延び入る状態で配設されるとともに、ハウジング104に対して回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。その出力軸112のハウジング104内に存在する一方の端部が、後に詳しく説明するように、減速機102に接続され、その出力軸112は、減速機102の出力軸を兼ねるものとなっている。
【0040】
電動モータ100は、ハウジング104の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のステータコイル114と、ハウジング104に回転可能に保持された中空状のモータ軸116と、モータ軸116の外周においてステータコイル114と向きあうようにして一円周上に固定して配設された永久磁石118とを含んで構成されている。電動モータ100は、ステータコイル114がステータとして機能し、永久磁石118がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。
【0041】
減速機102は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)120,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)122およびリングギヤ(サーキュラスプライン)124を備え、ハーモニックギヤ機構(ハーモニックドライブ機構(登録商標),ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構等とも呼ばれる)として構成されている。波動発生器120は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボール・ベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸116の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ122は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯が形成されている。このフレキシブルギヤ122は、先に説明した出力軸112に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、出力軸112は、モータ軸116を貫通しており、それから延び出す端部にフレキシブルギヤ122の底部が固着されることで、フレキシブルギヤ122と出力軸112とが接続されているのである。リングギヤ124は、概してリング状をなして内周に複数(フレキシブルギヤの歯数よりやや多い数、例えば2つ多い数)の歯が形成されたものであり、ハウジング104に固定されている。フレキシブルギヤ122は、その周壁部が波動発生器120に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ124と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。波動発生器120が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ100のモータ軸116が1回転すると、フレキシブルギヤ122とリングギヤ124とが、それらの歯数の差分だけ相対回転させられる。ハーモニックギヤ機構はその構成が公知のものであることから、本減速機102の詳細な図示は省略し、説明はこの程度の簡単なものに留める。
【0042】
以上の構成から、電動モータ100が回転させられる場合、つまり、アクチュエータ80が作動する場合に、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とが相対回転させられ(詳しくは、それらの各トーションバー部90の端部が相対回転させられ)、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とによって構成された1つのスタビライザバー70が、捩られることになるのである。そのスタビライザバー70が捩られることによって発生する弾性力は、左右の各々の車輪16と車体とを接近あるいは離間させ、ロールを抑制する力、つまり、ロール抑制モーメントとして作用することになる。つまり、本スタビライザ装置22では、アクチュエータ80の作動によって車体のロール量あたりのスタビライザバー70の捩れ量を変化させ、車体のロール量に対するロール抑制モーメントの大きさ,すなわち,見かけの剛性を変化させることにより、ロール抑制効果を変化させる構成の装置とされているのである。
【0043】
なお、アクチュエータ80には、ハウジング104内に、モータ軸116の回転角度、すなわち、電動モータ100の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ130が設けられている。モータ回転角センサ130は、本アクチュエータ80ではエンコーダを主体とするものであり、それによる検出値は、電動モータ100の通電相の切換に利用されるとともに、左右のスタビライザバー部材72,74の相対回転角度(相対回転位置)を取得するために利用される。
【0044】
4. 電子制御ユニット.
本サスペンションシステム10は、図1に示すように、サスペンション装置20およびスタビライザ装置22、詳しくは、アクチュエータ80の作動を制御する制御装置である電子制御ユニット(ECU)200(以下、単に「ECU200」という場合がある)を備えている。そのECU200は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されている。ECU200には、上述のモータ回転角センサ130とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ210,車両走行速度(以下、「車速度」と略す場合がある)を検出するための車速度センサ212,および,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ214が接続されている。(図1では、それぞれ「θ」,「δ」,「V」,「G」と表されている)。
【0045】
また、ECU200は、インバータ134にも接続され、ECU200が、そのインバータ134に各種の制御指令を送信することによって、インバータ134からアクチュエータ80に駆動電力が供給される。さらにまた、ECU200は、駆動回路を介して電動モータ58に接続されており、ECU200が駆動回路に減衰力を変更する旨の指令を送信することによって、駆動回路から電動モータ58に駆動電力が供給される。なお、ECU200は、ROM,RAM等を含んで構成される記憶部230を備えており、その記憶部230には、後に説明するロール抑制制御プログラム,ロール抑制効果補完プログラム等のプログラム、ロール抑制等の制御に関する各種のデータ等が記憶されている。
【0046】
なお、本スタビライザシステム10は、前輪側,後輪側の2つのスタビライザ装置22を備えており、それら2つのスタビライザ装置22は、設定されたロール剛性配分に従ってそれぞれが個別に制御され、その個々の制御下において、それぞれが所定のロール抑制モーメントを発生させることになるが、ここからの説明では、特に断わりのない限り、説明の単純化に配慮して、2つのスタビライザ装置22を同一構成のものとして扱い、また、それらを一元化して扱うこととする。
【0047】
4.1. ロール抑制制御.
以下に、スタビライザ装置14によって適切なロール抑制効果を発揮させるためのECU200によるアクチュエータ80の制御について詳細に説明する。ECU200は、ロール抑制制御プログラムを極短い時間間隔で繰り返し実行することによってアクチュエータ80を制御し、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量を変化させて、適度なロール抑制効果を発揮させる。ロール抑制制御は、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量が、後述する制御横加速度Gy*に応じた量になるように1対のスタビライザバー部材72,74を相対回転させて、適切なロール抑制効果を発生させる制御である。そのロール抑制制御のフローチャートを図5に示し、そのフローチャートに沿ってロール抑制制御を説明する。
【0048】
ステップ11(以後、ステップ11を「S11」と略記し、他の符号についても同様とする)において、車速V,ステアリングホイールの操作角δ(中立状態、すなわち、直進操作状態を0とした場合において、その状態からの角度偏差)が、それぞれ車速センサ212,操作角センサ210の検出値に基づいて取得される。また、本実施例において、ロール抑制制御時に1対のスタビライザバー部材72,74の目標回転量を決定するために、ロールモーメント推定物理量たる制御横加速度Gy*が取得される。その制御横加速度Gy*は、本実施例において、操作角δと車速Vとに基づいて推定されたいわゆる推定横加速度Gycと、横加速度センサ214によって検出された実横加速度Gyとに基づいて次式によって取得される。
[式1] 制御横加速度Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr
なお、本実施例において、K1およびK2は、走行試験の結果に基づいてロールを効果的に抑制できるように予め設定された係数とされている。また、それらK1およびK2は、例えば、それらの和が1になるように設定された値とすることや、車速V,操作角δ,実横加速度Gyr等に基づいて変化する値とすることもできる。
【0049】
S12において、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量の目標値である目標回転量θ*が制御横加速度Gy*に基づいて決定される。すなわち、制御横加速度Gy*に応じて設定された目標回転量θ*が目標回転量マップとしてECU200の記憶部230に記憶されており、その目標回転量マップから制御横加速度Gy*に応じた目標回転量θ*が読み出されることによって目標回転量θ*の決定がなされるのである。その後、S13において、モータ回転角センサ130の検出値に基づいて1対のスタビライザバー部材72,74の実際の相対回転量θが取得される。
【0050】
S14において、相対回転量θと目標回転量θ* との偏差Δθを減少させるようにアクチュエータ80を作動させるために、電動モータ100に供給する適切な電力の値である目標電力値が決定される。目標電力値が決定された後、S15において、インバータ104に対して指令がなされる。すなわち、インバータ104によって、目標電力値と等しい大きさの電力を電動モータ100に供給するのである。その結果、1対のスタビライザバー部材72,74は相対回転させられて、適度なロール抑制効果が発揮される。以上で、ロール抑制制御の1回の処理が終了する。
【0051】
4.2. ロール抑制効果補完プログラム.
本サスペンションシステム10において、上述のようにロール抑制制御プログラムが実行されることにより、スタビライザ装置22が適切なロール抑制効果を発揮するようにされている。しかしながら、スラローム走行時等において、車体のロール方向が左右の一方から他方へ切り換わる際に、ロール抑制効果(詳しくは、スタビライザバー70の捩れ量に応じて発生するロールを抑制する力)が不足する場合がある。それは、車体が左右の一方へロールした際に1対のスタビライザバー部材72,74がそのロールを抑制する回転方向に相対回転させられた後、アクチュエータ80の作動抵抗等によって、左右の他方へロールするまでに1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量が0に戻るのが遅れることが一因である。その戻り遅れによって、車体が左右の他方へロールした際に、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量θと目標回転量θ*との偏差Δθの絶対値が比較的大きくなり、つまり、実際の相対回転量θが目標回転量θ*よりも小さくなり、その偏差Δθが設定値以下になるまでのタイムラグが比較的長くなる等の現象が生じる場合が多い。すなわち、車体のロール量あたりの1対のスタビライザバー部材72,74の捩れ量が不足するためロール抑制効果が不足すると考えられる。本実施例のアクチュエータ80が備える減速機102は、減速比が大きく(例えば、200:1)、作動抵抗が比較的大きいため、1対のスタビライザバー部材72,74の戻り遅れが生じやすい傾向にある。そのため、例えば、1対のスタビライザバー部材72,74が相対回転許容状態にされていても、具体的には、電動モータ100に電力が供給されず、かつ、インバータ134との電気的接続が遮断されて電動モータ100の各相がオープンな状態にされていても、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転に対して相当程度の作動抵抗がアクチュエータ80によって発生する。
【0052】
上述の1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転の戻り遅れによるロール抑制効果の不足に対処するために、本実施例において、ロール抑制効果補完プログラムがECU200によって実行される。ロール抑制効果補完プログラムは、戻り遅れによるロール抑制効果の不足が生じる場合に、ショックアブソーバ34の減衰力を増大させてロールを適切に抑制するプログラムである。そのロール抑制効果補完プログラムのフローチャートを図6〜図8に示し、そのフローチャートに沿ってロール抑制効果補完プログラムを説明する。
【0053】
S20において、車速V,ステアリングホイールの操作角δ、操作速度δv、推定横加速度Gycが取得される。なお、操作速度δvは、現時点から設定時間前までの間における操作角δの変化に基づいて決定される。また、推定横加速度Gycは、操作角δと車速Vとに基づいて取得される。なお、本実施例において、中立位置から右の操作角δは正の値、左の操作角δは負の値にされ、右向きの操作速度δvは正の値、左向きの操作速度δvは負の値にされている。S21において、後述するショックアブソーバ34の減衰力を増大させる指令がなされたか否かが判定される。その判定において、減衰力を増大させる指令がなされたか否かを示すフラグF1がONの場合には、減衰力を増大させる指令がなされており、処理が丸1に進んでS22以下の処理がスキップされ、後述するが、適切な時点に減衰力の増加を解除する処理(図8参照)が行われる。フラグF1がOFFの場合には、S22以下の処理が行われる。なお、本プログラムが最初に実行される際にはフラグF1はOFFにされている。また、後述する他のフラグF2,F3についても同様にOFFにされている。
【0054】
S22〜S25において、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作(中立位置に接近する操作)が行われたか否かが検出される。すなわち、(a)旋回操作がなされており(S22:|操作角δ|>設定角度A)、(b)ある程度の操作速度で切り戻し操作がなされ(S23)、(c)旋回による横加速度がある程度大きい状態(S24)である場合には、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作がなされたと判定される。そして、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作がなされたことを示すフラグF2がONにされる(S25)。なお、本実施例において、中立位置に接近する操作の操作速度δvの絶対値が設定速度B1よりも大きい場合に、切り戻し操作がなされていると判定される(S23)。切り戻しの操作速度δvが十分小さい場合には、ロール抑制効果の不足が生じにくいと考えられるからである。すなわち、本処理において、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じやすい操作速度で切り戻し操作がなされた時点の推定横加速度Gycとされているのである。上記S24の判定により、推定横加速度Gycが設定値G1を超えている場合には、ロール抑制効果の不足が生じ易い状態と判断される。つまり、推定横加速度Gycが設定値G1を超えている場合には、旋回によって相当程度のロールモーメントが車体に加わっており、ロールを抑制するために1対のスタビライザバー部材72,74がある程度相対回転させられていると推測され、その後の操舵操作によってロール方向が切り換わった際にはロール抑制効果の不足が生じ易いと考えられる。なお、S22の処理を省略し、S23,S24の処理によって、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に基づいて、ロール抑制効果の不足が生じ得るか否かを判定することもできる。上記S25の、ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回がなされたことを示すフラグF2は、後の判定に用いられる。
【0055】
上記のフラグF2が一旦ONにされても、S26,S27において、切り増し操作(中立位置から離間する操作)がなされた場合や、切り戻し操作であっても操作速度δvが非常に小さい場合に、フラグF2がOFFにされる。ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回が一旦なされたとしても、そのまま連続的に切り戻し操作がなされなければロール抑制効果の不足が生じにくいからである。また、切り戻し操作がなされていても操作速度δvが十分小さい場合(絶対値が設定速度B2以下)には、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転の戻り遅れが生じにくいのである。なお、設定速度B2は、非常に小さくされ、また、設定速度B1よりも小さくされている。
【0056】
S31〜S36(図7)において、操舵操作によって操作角δが中立位置を超えたか否かが判定される。具体的には、操作角δの絶対値が比較的小さな設定角度C(例えば、数度程度)を超えた時点の操作角δoldの符号と、現時点の操作角δの符号が反転した場合、つまり、互いの符号が異なる場合に、操作角δが中立位置を超えたと判定される(S35)。なお、本実施例において、操作角δの絶対値が一旦設定角度Cを超えたことを示すフラグF3がONにされた後(S32,S34)、でないと中立位置を超えたことが判定されないようにされている(S31)。それは、操作角δの絶対値が設定角度Cを超えない状態、つまり、フラグF3がOFFにされている状態では、概ね直進状態で中立位置付近で操舵操作がなされており、ロール抑制効果の不足が生じにくいためである。すなわち、操作角δの絶対値が設定角度Cを超えない範囲は、不感帯とされているのである。なお、一旦中立位置を超えたと判定された場合には、フラグF3がOFFにされ、再び操作角δの絶対値が設定角度Cを超えるまで中立位置を超えたか否かの判定が行われないようにされている。
【0057】
S37の判定により、車速Vが設定速度Dよりも大きく、かつ、前述のフラグF2がONである場合を除き、S38以下のロール抑制効果の不足を補完する処理がスキップされる。それは、車速Vが十分小さい場合、あるいは、ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回がなされていなかった場合(前述のF2がOFFの場合)には、ロール抑制効果の不足が生じにくいためである。
【0058】
S37の判定がYESとなる場合に、S38においてロール抑制効果の不足分、具体的には、1対のスタビライザバー部材72,74の捩れ量の不足に起因するロールを抑制する力の不足分が取得される。そのロール抑制効果の不足分は、本実施例において、操作速度δvに基づいて取得される。具体的には、操作速度δvとロール抑制効果の不足分との関係が、図9に模式的に示すロール抑制効果不足分マップとして記憶装置230に記憶されており、S38の処理において操作速度δvに応じたロール抑制効果の不足分が読み出される。なお、ロール抑制効果不足分マップは、図10、図11に模式的に示すように、図9のマップを直線的に近似したものとすることもできる。
【0059】
S39において、S38の処理によって取得されたロール抑制効果の不足分に基づいて、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力の増加分が取得される。具体的には、ロール抑制効果の不足分と、減衰力の増加分との関係がマップ(図示省略)として記憶装置230に記憶されており、ロール抑制効果の不足分に応じた減衰力の増加分が読み出される。ちなみに、旋回外輪側は、例えば、現時点の操作角δが正の値である場合は、右に操舵操作されているので、旋回外輪側は左側となる。すなわち、操作角δの符号に基づいて旋回外輪が左右いずれの側になるのかを取得することができるのである。なお、操作速度δvと減衰力の増加分との関係をマップ(図示省略)として記憶装置230に記憶させておき、S38,S39の処理を、操作速度δvに基づいて減衰力の増加分を取得する1つの処理とすることもできる。
【0060】
S40において、ECU200から駆動回路に対して、減衰力の増加分に応じて旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力を増加させる旨の指令がなされる。そして、駆動回路によって電力が供給されて電動モータ58によってシャッタ部材52が減衰力の増加分に応じた角度だけ回転させられて、ショックアブソーバ34の減衰係数が増加させられる。その後、S41において、減衰力増加指令がなされたことを示すフラグF1がONにされる。
【0061】
フラグF1がONにされた状態で本プログラムが実行された場合には、前述のS21の判定がNOとなり、S42以下の処理(図8)が実行される。フラグF1は、左右の一方から他方への旋回が開始された際にONにされるため、通常、フラグF1がONにされてからしばらくの間は継続して切り増し操作(中立位置から離間する向きの操作)がなされる。そして、本実施例において、切り増し操作が終了して切り戻し操作が開始される時点、つまり、中立位置に接近する向きに操作が開始された場合(S42)に、減衰力の増加を解除する指令がなされる(S43)。なお、前述のS23における切り戻し操作時の判定条件と異なるが、本処理では、車体のロール量がほぼ増加しなくなった状態を検知するために上述のような判定条件とされている。本処理の切り戻し操作時の判定条件は、切り戻し操作が開始された時点を検出する条件とされている。S43においてECU200から駆動回路に解除指令がなされると、駆動回路から電動モータに電力が供給されてシャッタ部材52が減衰力の増加分に応じた角度だけ逆回転させられて、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰係数が増加前の値に戻される。S44において、減衰力増加指令がなされたことを示すフラグF1がOFFにされた後、処理が丸3に進み(図7へ)、本プログラムの一回の実行が終了する。
【0062】
本実施例において、「中立位置を横切る操舵操作がなされた」ことが、ECU200のS22〜S37の処理を実行する部分によって検知されている。そして、「1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させる」処理が、ECU200のS38〜S40の処理を実行する部分によって行われている。なお、例えば、S22〜S27の処理と、S37の車速Vに関する判定との少なくとも一方を省略しても、中立位置を横切る操舵操作がなされたことを検知することができる。判定条件を少なくすることにより、ロール抑制補完プログラムをシンプルにすることができる。一方、判定条件を多くすれば、ロール抑制効果の低下が起こる可能性が比較的高い状態で、あるいは、ロール抑制効果の低下の度合いが大きい状態で、「減衰力を増大させる」処理が行われ、ロール抑制効果の低下が起こる可能性が比較的低い状態や、あるいは、ロール抑制効果の低下の度合いが比較的小さい状態では、「減衰力を増大させる」処理が行われにくくなる。
【0063】
本サスペンションシステム10は、ECU200がS37の車速Vに関する判定を実行することによって、車速に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。また、本サスペンションシステム10は、ECU200がS22〜S27の処理を実行することによって、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。さらにまた、本サスペンションシステム10は、ECU200がS38の処理を実行することにより、操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。なお、ECU200が本プログラムを実行することにより、スラローム走行を行う場合等において、車体のロール量が設定値(例えば、ロール角度の絶対値が数度程度)以下の状態、つまり、車体が左右の一方にロールした後に旋回方向が切り換えられて左右の他方にロールし始める状態におけるロール速度を低減する効果も期待できる。
【0064】
5. その他.
なお、本実施例において、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力のみが増加させられていたが、左右のショックアブソーバ34の減衰力を増加させることもできる。また、旋回内輪側のショックアブソーバ34の減衰力のみを増加させることも可能である。また、本実施例とは異なるが、ショックアブソーバ34の減衰力が、例えば、ピッチング制御,路面状況(良路、悪路)に応じた制御等の他のアクティブ制御によって増減させられている場合がある。そういった場合には、例えば、他のアクティブ制御によって決定された減衰力に、ロール抑制効果の不足を補う減衰力の増加分を上乗せするように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】請求可能発明の実施例であるサスペンションシステムを模式的に示す図である。
【図2】上記サスペンションシステムの一部を模式的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムのサスペンション装置の断面を示す図である。
【図4】上記サスペンションシステムのアクチュエータの断面を示す図である。
【図5】上記サスペンションシステムの電子制御ユニットによって実行されるロール抑制制御のフローチャートを示す図である。
【図6】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第1部分を示す図である。
【図7】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第2部分を示す図である。
【図8】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第3部分を示す図である。
【図9】上記電子制御ユニットの記憶部に記憶されたロール抑制効果不足分マップを模式的に示す図である。
【図10】上記とは異なるロール抑制効果不足分マップの例を模式的に示す図である。
【図11】上記とはさらに異なるロール抑制効果不足分マップの例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10:車両用サスペンションシステム 16:車輪 20:サスペンション装置 22:アクティブスタビライザ装置 34:ショックアブソーバ(減衰力発生機構) 36:エアスプリング 50:通過抵抗調節機構 52:オリフィス形成部材 54:シャッタ部材 70:スタビライザバー 72:右スタビライザバー部材(右バー) 74:左スタビライザバー部材(左バー) 80:アクチュエータ 90:トーションバー部 92:アーム部 100:電動モータ(電磁式モータ) 102:減速機 104:ハウジング 120:波動発生器(ウェーブジェネレータ) 122:フレキシブルギヤ(フレクスプライン) 124:リングギヤ(サーキュラスプライン) 130:モータ回転角センサ 200:電子制御ユニット[ECU] θ:モータ回転角 δ:操作角 δv:操作速度 V:車速 G:横加速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のロールを抑制する効果が可変にされたアクティブスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させることにより、車体のロールを抑制する効果であるロール抑制効果が可変にされたアクティブスタビライザ装置が検討されている。下記特許文献1には、スタビライザバーが左右1対のバー部材を含んで構成され、それら1対のバー部材をアクチュエータによって相対回転させることにより、ロール抑制効果を変化させるスタビライザ装置が記載されている。
【特許文献1】特表2002−518245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のスタビライザシステムは、例えば、車体の横加速度に基づいて制御することができる。具体的には、例えば、横加速度が大きい場合には、ロール抑制効果を高めるために車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量が大きくされ、適切にロールが抑制される。しかしながら、スラローム走行を行う場合等には、例えば、左右の一方にロールした際にアクチュエータによってスタビライザバーが捩られ、その後左右の他方へのロールが始まるまでにスタビライザバーの捩れが解消されることが望ましいのであるが、アクチュエータの作動抵抗等によってスタビライザバーの捩れが速やかに戻らない場合がある。スタビライザバーの捩れの戻りが遅れることにより、上記の例では左右の一方から他方へロール方向が切換った後のアクティブスタビライザ装置(以後、「スタビライザ装置」と略記する場合がある)のロール抑制効果が低下して、車体のロールが適切に抑制されない虞があるという問題がある。
【0004】
以上のような問題を一例として、従来から検討されているスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムによって適切なロール抑制効果を発揮させる等、サスペンションシステムの実用性を向上させる上で障害となり得る様々な問題がある。すなわち、従来から検討されているスタビライザ装置を備えたサスペンションシステムには種々の観点からの改良の余地があり、そのサスペンションシステムに改良を施すことによってそれの実用性を向上させることが可能である。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的な車両用サスペンションシステムを得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、(a)減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、(b)左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させて車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置とを備え、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、その操舵操作がなされる前よりも前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用サスペンションシステムによれば、例えば、スラローム走行時等において、左右の一方から他方への操舵操作、つまり、中立位置を横切る操作がなされた場合には、例えば、スタビライザ装置のロール抑制効果の不足を補うために、1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させることによって、中立位置を横切った後のロールを適切に抑制することができる。すなわち、本発明のサスペンションシステムは、例えば、スラローム走行時等においても適切なロール抑制効果を発揮することができ、より実用的なサスペンションシステムにされているのである。なお、本発明の車両用サスペンションシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から一部の構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(3)項が請求項2に、(4)項が請求項3に、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項4に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)左右の車輪の各々に対応して設けられてそれら左右の車輪の各々と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、
左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体に加わるロールモーメントの大きさを推定することが可能な物理量であるロールモーメント推定物理量に応じて車体のロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量を変化させて前記スタビライザバーによる車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置と
を備えたサスペンションシステムであって、
中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする車両用サスペンションシステム。
【0010】
本項に記載のスタビライザ装置は、いわゆるアクティブスタビライザ装置とされており、車体のロール量あたりのスタビライザバーの捩れ量を変化させることによって、つまり、スタビライザバーの弾性力に起因するロールを抑制する力を変化させることによって、適度なロール抑制効果(例えば、「ロールの抑制の度合」と表現することもできる)を発揮することができる。すなわち、ロール量が同じ状態において、スタビライザバーの捩れ量を増減させることによって、ロール抑制効果を増減させることができるのである。具体的には、例えば、比較的少ないロール量で比較的捩れ量が大きくなるようにすれば、ロール抑制効果が大きくなり、旋回時等におけるロール量を減少させることができる。
【0011】
しかしながら、スタビライザバーの捩り量が不適切になり、適度なロール抑制効果を発揮させることができない場合がある。具体的には、例えば、スラローム走行時,S字カーブ走行時等のように、左右の一方から他方への操舵操作、つまり、中立位置(例えば、車両を直進させる操作位置)を横切る操作がなされるような場合である。そして、中立位置を横切る操作がなされた場合には、言い換えれば、車両の旋回方向を切り換える操作である旋回方向切換操作がなされた場合には、左右いずれか一方へロールした車体が、他方にロールする。そのような状態において、左右いずれか一方へ車体がロールした際にスタビライザバーが捩られた後、車体のロール量が減少するとともにスタビライザバーの捩れが減少し、車体が左右の他方にロールするまでにスタビライザバーの捩れが解消していることが望ましいが、例えば、アクチュエータの作動抵抗等によって、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じる場合がある。もし、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じると、上記他方へのロール(つまり、中立位置を横切った後のロール)の際にスタビライザ装置のロール抑制効果が不充分となり、上記他方へのロールが適切に抑制されない場合がある。
【0012】
そこで、本項に記載のサスペンションシステムによれば、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、例えば、上述のようなスタビライザ装置のロール抑制効果の不足を補うために、1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を上記操舵操作がなされる前よりも増大させることによって上記他方へのロールを適切に抑制することができる。すなわち、本項に記載のサスペンションシステムは、例えば、スラローム走行時等においても適切なロール抑制効果を発揮することができ、より実用的なサスペンションシステムにされているのである。また、本項に記載のサスペンションシステムによれば、例えば、車両にストロークセンサやロールセンサ等が配備されていなくとも、操舵操作等に基づいてロール抑制効果の不足する状態を検知することができ、コスト等の面で、より実用的なサスペンションシステムとされている。
【0013】
本項に記載のサスペンションシステムでは、ロールを適切に抑制するために、アクチュエータによって、スタビライザバーの捩れ量がロールモーメント推定物理量に応じた捩れ量になるようにされる。ロールモーメント推定物理量は、例えば、旋回時の遠心力等の外力によって車体に作用するロールモーメントである外力ロールモーメントの大きさを推定し得る物理量とすることができ、例えば、車体のロール加速度,横加速度,あるいはそれらを推定し得る物理量とすることができる。なお、横加速度は、例えば、操舵角,ヨーレート,車速等に基づいて推定することができる。
【0014】
本項に記載の減衰力発生機構は、減衰力の大きさを変更できるものであればその構造が特に限定されず、例えば、オイルの粘性抵抗力を利用するショックアブソーバ,電磁力を利用する電磁式ショックアブソーバ等を含んで構成することができる。また、本項に記載の減衰力発生機構は、減衰力の大きさを変更するために、例えば、減衰係数を変更するものとすることができる。
【0015】
(2)当該サスペンションシステムが、
前記スタビライザ装置のロール抑制効果の不足に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0016】
本項に記載の態様によれば、例えば、ロール抑制効果の不足量が多いほど(例えば、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが多いほど)減衰力の増大量を大きくすることができ、より適切にロールを抑制することができる。また、本項に記載の態様によれば、例えば、ロール抑制効果の不足量が設定値以下である場合には、減衰力を増大させないようにすることもできる。
【0017】
(3)当該サスペンションシステムが、
中立位置を横切る操舵操作がなされた際の前記スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0018】
本項に記載のサスペンションシステムにおいて、アクチュエータの作動量とスタビライザバーの捩れの増減量とは密接に関連している。したがって、本項に記載のサスペンションシステムが、例えば、アクチュエータの作動量を検出するセンサを備えている場合には、そのアクチュエータの作動量に基づいてスタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度を取得することができる。そして、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に基づいて、例えば、ロール抑制効果の不足量を取得することができる。また、本項に記載のサスペンションシステムにおいて、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度は、例えば、操作速度,車速,ロールモーメント推定物理量等と相関があり、それらの少なくとも1つに基づいて、スタビライザバーの戻り遅れの程度を推定することができ、あるいは減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させることができる。
【0019】
(4)当該サスペンションシステムが、
操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0020】
中立位置を横切る操舵操作の操作速度と、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度、つまり、ロール抑制効果の不足量との間には相関関係があると考えられる。具体的には、操作速度が小さい場合には、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが少なくなり、ロール抑制効果の不足量が少なくなる傾向にあり、一方、操作速度が大きい場合にはロール抑制効果の不足量が多くなる傾向にある。そのため、本項に記載の態様によれば、例えば、中立位置を横切る操舵操作の操作速度に基づいて減衰力の増大量を決定することができ、より適切にロールを抑制することができる。また、本項に記載の態様によれば、例えば、中立位置を横切る操舵操作の操作速度が設定速度以下である場合には、減衰力を増大させないようにすることもできる。本項に記載の態様において、中立位置を横切る操舵操作の操作速度は、例えば、中立位置を横切るまでの操舵操作(中立位置に接近する向きの操作である切り戻し操作)の平均の操作速度や、中立位置を横切る時点の操作速度等に基づいて取得することができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0021】
(5)当該サスペンションシステムが、
車速に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0022】
車速が大きい場合には、車速が小さい場合と比較して旋回時のロールモーメントが大きくなるため、ロール抑制効果が比較的大きくされる場合が多い。そのため、スタビライザバーの捩れ量が比較的多くなり、その捩れ量の戻り遅れ量も多くなる傾向にある。本項に記載の態様において、車速は、例えば、中立位置を横切るまでの操舵操作(中立位置に接近する向きの操作である切り戻し操作)がなされている間の車速の平均や、中立位置を横切る時点の車速等に基づいて取得することができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0023】
(6)当該サスペンションシステムが、
切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0024】
例えば、中立位置からの操作量が大きく旋回半径が小さい状態,旋回速度が大きい状態等の旋回状態では、ロールモーメントが比較的大きくなり、スタビライザバーの捩れ量が比較的大きくされるため、その捩れの戻り遅れの程度も大きくなる傾向にある。したがって、ロールモーメント推定物理量に応じて減衰力を増大させることにより、適切にロールを抑制することができる。切り戻し操作は、単純には中立位置に接近する向きの操作である。その切り戻し操作がなされた時点である切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量は、例えば、切り戻し操作が開始された時点(例えば、操作方向が中立位置から離間する向きから接近する向きに反転した時点)、あるいはスタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じやすい切り戻し操作がなされた時点(例えば、中立位置に接近する向きの操作速度が設定値を超えた時点)の値とすることができる。なお、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて減衰力発生機構の減衰力を増大させる態様の一例である。
【0025】
(7)当該サスペンションシステムが、中立位置を横切る操舵操作がなされた際に、前記1対の減衰力発生機構のうちの旋回外輪側のものの減衰力を増大させるものである(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0026】
減衰力の増大量が比較的小さい場合には、旋回外輪側の車体の下降を抑制するために、旋回外輪側の減衰力を増大させることが簡便である。なお、1対の減衰力発生機構のうちの旋回外輪側のもののみの減衰力を増大させることが望ましい。
【0027】
(8)前記スタビライザバーが、
それぞれが、車体に回転可能に保持された軸状のトーションバー部とそのトーションバー部の一端部から回転軸と交差する方向に延び出すアーム部とを有し、前記トーションバー部の起端部において前記アクチュエータに接続された左右1対のバー部材を含んで構成されるとともに、
それら1対のバー部材の各々の起端部の相対回転量が変化させられることによってロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量が変化するように構成された(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0028】
本項に記載の態様は、スタビライザバーが2つのバー部材を含んで構成されている態様である。それら2つのバー部材の起端部の相対回転量がアクチュエータによって変化させられることによって、ロール量あたりの捩れ量が変化し、ロール抑制効果が変化する。このような態様では、2つのバー部材の相対回転量が0に戻る際に、アクチュエータの作動抵抗等によって戻り遅れが生じやすいため、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に減衰力を増大させる効果が特に大きいのである。
【0029】
(9)前記アクチュエータが、
駆動力源となる電磁式モータと、自身に入力された前記電磁式モータの駆動回転を減速して出力する減速機とを含んで構成された(8)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0030】
本項に記載の態様は、アクチュエータが減速機を備えた態様である。減速機は、減速比の大きいものを採用してモータの負荷を減少させることが望ましいが、減速機自体の作動抵抗等が比較的大きくなる。そのため、本項に記載の態様は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが大きくなり易く、中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に減衰力を増大させる効果が特に大きいのである。なお、減速機は、例えば、ハーモニックギヤ機構(通称「ハーモニックドライブ(登録商標)」と呼ばれる場合もある)等の、減速比が大きいものとすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0032】
1. 車両用サスペンションシステム.
図1に、本発明の一実施例である車両用サスペンションシステム10(以後、単に「サスペンションシステム」と略記する)を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、各車輪16に対応して設けられて各車輪16と車体とを接近離間可能に連結する独立懸架式のサスペンション装置20と、車両の前輪側および後輪側の各々に配設されて車体のロールを抑制する2つのアクティブスタビライザ装置22(以後、「スタビライザ装置22」と略記する場合がある)とを含んで構成されている。なお、本実施例において、サスペンション装置20は4つ設けられているが、図には2つのサスペンション装置20が示されている。
【0033】
2. サスペンション装置.
図2には、サスペンション装置20の一部分と、一方のスタビライザ装置22の車両前方の車幅方向の中央から一方側の車輪16にかけての部分とが概略的に示されている。サスペンション装置20は、一般によく知られたダブルウィシュボーン式のものであり、一端部が車体に回動可能に連結されるとともに他端部が車輪16に連結された車輪支持部材としてのアッパアーム30およびロアアーム32を備えている。それらアッパアーム30およびロアアーム32は、車輪16と車体との接近離間(相対的な上下動の意味)に伴い、上記一端部(車体側)を中心に回動させられ、上記他端部(車輪側)が車体に対して上下させられる。
【0034】
サスペンション装置20は、図3に示すように、ショックアブソーバ34と、エア・スプリング36とを備えている。ショックアブソーバ34は、本実施例において、ツインチューブ式のものであり、その本体40を構成する外筒42の下端部においてロアアーム32に連結され、中空のピストンロッド44の上端部において車体に固定されたロッド支持部45に固定支持されている。ピストンロッド44は、本体40の内筒46内に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン48から延び出させられており、ピストン48が移動する際にピストン48内に設けられたオリフィスをオイルが流れることにより減衰力が発生する。
【0035】
また、本ショックアブソーバ34は、減衰力の大きさが可変にされている。ピストン48の下側には減衰力を調節するためにオリフィスの面積を変化させてオイルの通過抵抗を変化させる通過抵抗調節機構50が配設されている。その通過抵抗調節機構50は、ピストンの上下に伴いオイルを通過させるオリフィスが形成されたオリフィス形成部材52と、軸線回りに回転可能に設けられて回転位置の変化に伴い上記オリフィス形成部材によって形成されたオリフィスの面積を変化させるシャッタ部材54とを備えている。一方、中空のピストンロッド44にはコントロールロッド56が挿入されており、そのコントロールロッド56の上端部は電動モータ58(本実施例においてステップモータとされている)に接続されている。また、コントロールロッド56の下端部にはシャッタ部材54が接続されている。そして、電動モータ58によってシャッタ部材54の回転位置が変化させられて、減衰力の大きさが変化するようにされているのである。すなわち、本実施例のショックアブソーバ34は、車輪16と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた減衰力発生機構にされているのである。
【0036】
エア・スプリング36は、ショックアブソーバ34のピストンロッド44に固定されたエアチャンバ60と、ショックアブソーバ34の本体40に固定されたエアピストン62とを備えている。それらエアチャンバ60とエアピストン62とが、弾性変形可能なダイヤフラム64によって気密性を保ちつつ接近・離間可能に接続されて、それらの接近・離間に応じてエア・スプリング36内の容積が減少・増加して弾性力が増減するようにされている。
【0037】
3. スタビライザ装置.
前後のスタビライザ装置22の各々は、両端部において左右の車輪16を支持するロアアーム32(図2参照)に連結されたスタビライザバー70を備えている。そのスタビライザバー70は、中央部で分割されており、左右一対のバー部材としての一対のスタビライザバー部材、すなわち右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とを含む構成のものとされている。それら一対のスタビライザバー部材72,74がアクチュエータ80を介して相対回転可能に接続されており、大まかに言えば、スタビライザ装置22は、アクチュエータ80が、左右のスタビライザバー部材72,74を相対回転させることによって(図1の矢印,点線矢印を参照のこと)、スタビライザバー70全体のロール量あたりの捩れ量を変化させて車体のロール抑制を行う。なお、図2には、右スタビライザバー部材72および左スタビライザバー部材74の一方が示されている。
【0038】
各スタビライザバー部材72,74は、それぞれ、略車幅方向に延びるトーションバー部90と、トーションバー部90と一体化されてそれと交差して概ね車両前方あるいは後方に延びるアーム部92とに区分することができる。各スタビライザバー部材72,74のトーションバー部90は、アーム部92に近い箇所において、車体の一部であるスタビライザ装置配設部94に固定的に設けられた支持部材96によって回転可能に支持され、互いに同軸に配置されている。それらトーションバー部90の端部(車幅方向における中央側の端部)の間には、上述のアクチュエータ80が配設されており、後に詳しく説明するが、各トーションバー部90の端部は、それぞれ、そのアクチュエータ80に接続されている。一方、アーム部92の端部(トーションバー部90側とは反対側の端部)は、上述のロアアーム32に設けられたスタビライザバー連結部98に、それと相対回転可能に連結されている。
【0039】
アクチュエータ80は、図4に模式的に示すように、電動モータ100と、電動モータ100の回転を減速する減速機102とを含んで構成されている。これら電動モータ100および減速機102は、アクチュエータ80の外殻部材であるハウジング104内に設けられている。ハウジング104は、ハウジング保持部材106によって、回転可能かつ軸方向(略車幅方向)に移動不能に、車体に設けられたスタビライザ装置配設部94に保持されている。図2から解るように、ハウジング104の両端部の各々には、2つの出力軸110,112の各々が延び出すように配設されている。それら出力軸110,112のハウジング104から延び出した側の端部が、それぞれ、各スタビライザバー部材72,74の端部と、セレーション嵌合によって相対回転不能に接続されている。また、図4から解るように、一方の出力軸110は、ハウジング104の端部に固定して接続されており、また、他方の出力軸112は、ハウジング104内に延び入る状態で配設されるとともに、ハウジング104に対して回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。その出力軸112のハウジング104内に存在する一方の端部が、後に詳しく説明するように、減速機102に接続され、その出力軸112は、減速機102の出力軸を兼ねるものとなっている。
【0040】
電動モータ100は、ハウジング104の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のステータコイル114と、ハウジング104に回転可能に保持された中空状のモータ軸116と、モータ軸116の外周においてステータコイル114と向きあうようにして一円周上に固定して配設された永久磁石118とを含んで構成されている。電動モータ100は、ステータコイル114がステータとして機能し、永久磁石118がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。
【0041】
減速機102は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)120,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)122およびリングギヤ(サーキュラスプライン)124を備え、ハーモニックギヤ機構(ハーモニックドライブ機構(登録商標),ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構等とも呼ばれる)として構成されている。波動発生器120は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボール・ベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸116の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ122は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯が形成されている。このフレキシブルギヤ122は、先に説明した出力軸112に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、出力軸112は、モータ軸116を貫通しており、それから延び出す端部にフレキシブルギヤ122の底部が固着されることで、フレキシブルギヤ122と出力軸112とが接続されているのである。リングギヤ124は、概してリング状をなして内周に複数(フレキシブルギヤの歯数よりやや多い数、例えば2つ多い数)の歯が形成されたものであり、ハウジング104に固定されている。フレキシブルギヤ122は、その周壁部が波動発生器120に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ124と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。波動発生器120が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ100のモータ軸116が1回転すると、フレキシブルギヤ122とリングギヤ124とが、それらの歯数の差分だけ相対回転させられる。ハーモニックギヤ機構はその構成が公知のものであることから、本減速機102の詳細な図示は省略し、説明はこの程度の簡単なものに留める。
【0042】
以上の構成から、電動モータ100が回転させられる場合、つまり、アクチュエータ80が作動する場合に、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とが相対回転させられ(詳しくは、それらの各トーションバー部90の端部が相対回転させられ)、右スタビライザバー部材72と左スタビライザバー部材74とによって構成された1つのスタビライザバー70が、捩られることになるのである。そのスタビライザバー70が捩られることによって発生する弾性力は、左右の各々の車輪16と車体とを接近あるいは離間させ、ロールを抑制する力、つまり、ロール抑制モーメントとして作用することになる。つまり、本スタビライザ装置22では、アクチュエータ80の作動によって車体のロール量あたりのスタビライザバー70の捩れ量を変化させ、車体のロール量に対するロール抑制モーメントの大きさ,すなわち,見かけの剛性を変化させることにより、ロール抑制効果を変化させる構成の装置とされているのである。
【0043】
なお、アクチュエータ80には、ハウジング104内に、モータ軸116の回転角度、すなわち、電動モータ100の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ130が設けられている。モータ回転角センサ130は、本アクチュエータ80ではエンコーダを主体とするものであり、それによる検出値は、電動モータ100の通電相の切換に利用されるとともに、左右のスタビライザバー部材72,74の相対回転角度(相対回転位置)を取得するために利用される。
【0044】
4. 電子制御ユニット.
本サスペンションシステム10は、図1に示すように、サスペンション装置20およびスタビライザ装置22、詳しくは、アクチュエータ80の作動を制御する制御装置である電子制御ユニット(ECU)200(以下、単に「ECU200」という場合がある)を備えている。そのECU200は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されている。ECU200には、上述のモータ回転角センサ130とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ210,車両走行速度(以下、「車速度」と略す場合がある)を検出するための車速度センサ212,および,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ214が接続されている。(図1では、それぞれ「θ」,「δ」,「V」,「G」と表されている)。
【0045】
また、ECU200は、インバータ134にも接続され、ECU200が、そのインバータ134に各種の制御指令を送信することによって、インバータ134からアクチュエータ80に駆動電力が供給される。さらにまた、ECU200は、駆動回路を介して電動モータ58に接続されており、ECU200が駆動回路に減衰力を変更する旨の指令を送信することによって、駆動回路から電動モータ58に駆動電力が供給される。なお、ECU200は、ROM,RAM等を含んで構成される記憶部230を備えており、その記憶部230には、後に説明するロール抑制制御プログラム,ロール抑制効果補完プログラム等のプログラム、ロール抑制等の制御に関する各種のデータ等が記憶されている。
【0046】
なお、本スタビライザシステム10は、前輪側,後輪側の2つのスタビライザ装置22を備えており、それら2つのスタビライザ装置22は、設定されたロール剛性配分に従ってそれぞれが個別に制御され、その個々の制御下において、それぞれが所定のロール抑制モーメントを発生させることになるが、ここからの説明では、特に断わりのない限り、説明の単純化に配慮して、2つのスタビライザ装置22を同一構成のものとして扱い、また、それらを一元化して扱うこととする。
【0047】
4.1. ロール抑制制御.
以下に、スタビライザ装置14によって適切なロール抑制効果を発揮させるためのECU200によるアクチュエータ80の制御について詳細に説明する。ECU200は、ロール抑制制御プログラムを極短い時間間隔で繰り返し実行することによってアクチュエータ80を制御し、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量を変化させて、適度なロール抑制効果を発揮させる。ロール抑制制御は、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量が、後述する制御横加速度Gy*に応じた量になるように1対のスタビライザバー部材72,74を相対回転させて、適切なロール抑制効果を発生させる制御である。そのロール抑制制御のフローチャートを図5に示し、そのフローチャートに沿ってロール抑制制御を説明する。
【0048】
ステップ11(以後、ステップ11を「S11」と略記し、他の符号についても同様とする)において、車速V,ステアリングホイールの操作角δ(中立状態、すなわち、直進操作状態を0とした場合において、その状態からの角度偏差)が、それぞれ車速センサ212,操作角センサ210の検出値に基づいて取得される。また、本実施例において、ロール抑制制御時に1対のスタビライザバー部材72,74の目標回転量を決定するために、ロールモーメント推定物理量たる制御横加速度Gy*が取得される。その制御横加速度Gy*は、本実施例において、操作角δと車速Vとに基づいて推定されたいわゆる推定横加速度Gycと、横加速度センサ214によって検出された実横加速度Gyとに基づいて次式によって取得される。
[式1] 制御横加速度Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr
なお、本実施例において、K1およびK2は、走行試験の結果に基づいてロールを効果的に抑制できるように予め設定された係数とされている。また、それらK1およびK2は、例えば、それらの和が1になるように設定された値とすることや、車速V,操作角δ,実横加速度Gyr等に基づいて変化する値とすることもできる。
【0049】
S12において、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量の目標値である目標回転量θ*が制御横加速度Gy*に基づいて決定される。すなわち、制御横加速度Gy*に応じて設定された目標回転量θ*が目標回転量マップとしてECU200の記憶部230に記憶されており、その目標回転量マップから制御横加速度Gy*に応じた目標回転量θ*が読み出されることによって目標回転量θ*の決定がなされるのである。その後、S13において、モータ回転角センサ130の検出値に基づいて1対のスタビライザバー部材72,74の実際の相対回転量θが取得される。
【0050】
S14において、相対回転量θと目標回転量θ* との偏差Δθを減少させるようにアクチュエータ80を作動させるために、電動モータ100に供給する適切な電力の値である目標電力値が決定される。目標電力値が決定された後、S15において、インバータ104に対して指令がなされる。すなわち、インバータ104によって、目標電力値と等しい大きさの電力を電動モータ100に供給するのである。その結果、1対のスタビライザバー部材72,74は相対回転させられて、適度なロール抑制効果が発揮される。以上で、ロール抑制制御の1回の処理が終了する。
【0051】
4.2. ロール抑制効果補完プログラム.
本サスペンションシステム10において、上述のようにロール抑制制御プログラムが実行されることにより、スタビライザ装置22が適切なロール抑制効果を発揮するようにされている。しかしながら、スラローム走行時等において、車体のロール方向が左右の一方から他方へ切り換わる際に、ロール抑制効果(詳しくは、スタビライザバー70の捩れ量に応じて発生するロールを抑制する力)が不足する場合がある。それは、車体が左右の一方へロールした際に1対のスタビライザバー部材72,74がそのロールを抑制する回転方向に相対回転させられた後、アクチュエータ80の作動抵抗等によって、左右の他方へロールするまでに1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量が0に戻るのが遅れることが一因である。その戻り遅れによって、車体が左右の他方へロールした際に、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転量θと目標回転量θ*との偏差Δθの絶対値が比較的大きくなり、つまり、実際の相対回転量θが目標回転量θ*よりも小さくなり、その偏差Δθが設定値以下になるまでのタイムラグが比較的長くなる等の現象が生じる場合が多い。すなわち、車体のロール量あたりの1対のスタビライザバー部材72,74の捩れ量が不足するためロール抑制効果が不足すると考えられる。本実施例のアクチュエータ80が備える減速機102は、減速比が大きく(例えば、200:1)、作動抵抗が比較的大きいため、1対のスタビライザバー部材72,74の戻り遅れが生じやすい傾向にある。そのため、例えば、1対のスタビライザバー部材72,74が相対回転許容状態にされていても、具体的には、電動モータ100に電力が供給されず、かつ、インバータ134との電気的接続が遮断されて電動モータ100の各相がオープンな状態にされていても、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転に対して相当程度の作動抵抗がアクチュエータ80によって発生する。
【0052】
上述の1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転の戻り遅れによるロール抑制効果の不足に対処するために、本実施例において、ロール抑制効果補完プログラムがECU200によって実行される。ロール抑制効果補完プログラムは、戻り遅れによるロール抑制効果の不足が生じる場合に、ショックアブソーバ34の減衰力を増大させてロールを適切に抑制するプログラムである。そのロール抑制効果補完プログラムのフローチャートを図6〜図8に示し、そのフローチャートに沿ってロール抑制効果補完プログラムを説明する。
【0053】
S20において、車速V,ステアリングホイールの操作角δ、操作速度δv、推定横加速度Gycが取得される。なお、操作速度δvは、現時点から設定時間前までの間における操作角δの変化に基づいて決定される。また、推定横加速度Gycは、操作角δと車速Vとに基づいて取得される。なお、本実施例において、中立位置から右の操作角δは正の値、左の操作角δは負の値にされ、右向きの操作速度δvは正の値、左向きの操作速度δvは負の値にされている。S21において、後述するショックアブソーバ34の減衰力を増大させる指令がなされたか否かが判定される。その判定において、減衰力を増大させる指令がなされたか否かを示すフラグF1がONの場合には、減衰力を増大させる指令がなされており、処理が丸1に進んでS22以下の処理がスキップされ、後述するが、適切な時点に減衰力の増加を解除する処理(図8参照)が行われる。フラグF1がOFFの場合には、S22以下の処理が行われる。なお、本プログラムが最初に実行される際にはフラグF1はOFFにされている。また、後述する他のフラグF2,F3についても同様にOFFにされている。
【0054】
S22〜S25において、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作(中立位置に接近する操作)が行われたか否かが検出される。すなわち、(a)旋回操作がなされており(S22:|操作角δ|>設定角度A)、(b)ある程度の操作速度で切り戻し操作がなされ(S23)、(c)旋回による横加速度がある程度大きい状態(S24)である場合には、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作がなされたと判定される。そして、ロール抑制効果の不足を生じさせ得る旋回の後に切り戻し操作がなされたことを示すフラグF2がONにされる(S25)。なお、本実施例において、中立位置に接近する操作の操作速度δvの絶対値が設定速度B1よりも大きい場合に、切り戻し操作がなされていると判定される(S23)。切り戻しの操作速度δvが十分小さい場合には、ロール抑制効果の不足が生じにくいと考えられるからである。すなわち、本処理において、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量は、スタビライザバーの捩れの戻り遅れが生じやすい操作速度で切り戻し操作がなされた時点の推定横加速度Gycとされているのである。上記S24の判定により、推定横加速度Gycが設定値G1を超えている場合には、ロール抑制効果の不足が生じ易い状態と判断される。つまり、推定横加速度Gycが設定値G1を超えている場合には、旋回によって相当程度のロールモーメントが車体に加わっており、ロールを抑制するために1対のスタビライザバー部材72,74がある程度相対回転させられていると推測され、その後の操舵操作によってロール方向が切り換わった際にはロール抑制効果の不足が生じ易いと考えられる。なお、S22の処理を省略し、S23,S24の処理によって、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に基づいて、ロール抑制効果の不足が生じ得るか否かを判定することもできる。上記S25の、ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回がなされたことを示すフラグF2は、後の判定に用いられる。
【0055】
上記のフラグF2が一旦ONにされても、S26,S27において、切り増し操作(中立位置から離間する操作)がなされた場合や、切り戻し操作であっても操作速度δvが非常に小さい場合に、フラグF2がOFFにされる。ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回が一旦なされたとしても、そのまま連続的に切り戻し操作がなされなければロール抑制効果の不足が生じにくいからである。また、切り戻し操作がなされていても操作速度δvが十分小さい場合(絶対値が設定速度B2以下)には、1対のスタビライザバー部材72,74の相対回転の戻り遅れが生じにくいのである。なお、設定速度B2は、非常に小さくされ、また、設定速度B1よりも小さくされている。
【0056】
S31〜S36(図7)において、操舵操作によって操作角δが中立位置を超えたか否かが判定される。具体的には、操作角δの絶対値が比較的小さな設定角度C(例えば、数度程度)を超えた時点の操作角δoldの符号と、現時点の操作角δの符号が反転した場合、つまり、互いの符号が異なる場合に、操作角δが中立位置を超えたと判定される(S35)。なお、本実施例において、操作角δの絶対値が一旦設定角度Cを超えたことを示すフラグF3がONにされた後(S32,S34)、でないと中立位置を超えたことが判定されないようにされている(S31)。それは、操作角δの絶対値が設定角度Cを超えない状態、つまり、フラグF3がOFFにされている状態では、概ね直進状態で中立位置付近で操舵操作がなされており、ロール抑制効果の不足が生じにくいためである。すなわち、操作角δの絶対値が設定角度Cを超えない範囲は、不感帯とされているのである。なお、一旦中立位置を超えたと判定された場合には、フラグF3がOFFにされ、再び操作角δの絶対値が設定角度Cを超えるまで中立位置を超えたか否かの判定が行われないようにされている。
【0057】
S37の判定により、車速Vが設定速度Dよりも大きく、かつ、前述のフラグF2がONである場合を除き、S38以下のロール抑制効果の不足を補完する処理がスキップされる。それは、車速Vが十分小さい場合、あるいは、ロール抑制効果の不足を生じさせる程度の旋回がなされていなかった場合(前述のF2がOFFの場合)には、ロール抑制効果の不足が生じにくいためである。
【0058】
S37の判定がYESとなる場合に、S38においてロール抑制効果の不足分、具体的には、1対のスタビライザバー部材72,74の捩れ量の不足に起因するロールを抑制する力の不足分が取得される。そのロール抑制効果の不足分は、本実施例において、操作速度δvに基づいて取得される。具体的には、操作速度δvとロール抑制効果の不足分との関係が、図9に模式的に示すロール抑制効果不足分マップとして記憶装置230に記憶されており、S38の処理において操作速度δvに応じたロール抑制効果の不足分が読み出される。なお、ロール抑制効果不足分マップは、図10、図11に模式的に示すように、図9のマップを直線的に近似したものとすることもできる。
【0059】
S39において、S38の処理によって取得されたロール抑制効果の不足分に基づいて、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力の増加分が取得される。具体的には、ロール抑制効果の不足分と、減衰力の増加分との関係がマップ(図示省略)として記憶装置230に記憶されており、ロール抑制効果の不足分に応じた減衰力の増加分が読み出される。ちなみに、旋回外輪側は、例えば、現時点の操作角δが正の値である場合は、右に操舵操作されているので、旋回外輪側は左側となる。すなわち、操作角δの符号に基づいて旋回外輪が左右いずれの側になるのかを取得することができるのである。なお、操作速度δvと減衰力の増加分との関係をマップ(図示省略)として記憶装置230に記憶させておき、S38,S39の処理を、操作速度δvに基づいて減衰力の増加分を取得する1つの処理とすることもできる。
【0060】
S40において、ECU200から駆動回路に対して、減衰力の増加分に応じて旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力を増加させる旨の指令がなされる。そして、駆動回路によって電力が供給されて電動モータ58によってシャッタ部材52が減衰力の増加分に応じた角度だけ回転させられて、ショックアブソーバ34の減衰係数が増加させられる。その後、S41において、減衰力増加指令がなされたことを示すフラグF1がONにされる。
【0061】
フラグF1がONにされた状態で本プログラムが実行された場合には、前述のS21の判定がNOとなり、S42以下の処理(図8)が実行される。フラグF1は、左右の一方から他方への旋回が開始された際にONにされるため、通常、フラグF1がONにされてからしばらくの間は継続して切り増し操作(中立位置から離間する向きの操作)がなされる。そして、本実施例において、切り増し操作が終了して切り戻し操作が開始される時点、つまり、中立位置に接近する向きに操作が開始された場合(S42)に、減衰力の増加を解除する指令がなされる(S43)。なお、前述のS23における切り戻し操作時の判定条件と異なるが、本処理では、車体のロール量がほぼ増加しなくなった状態を検知するために上述のような判定条件とされている。本処理の切り戻し操作時の判定条件は、切り戻し操作が開始された時点を検出する条件とされている。S43においてECU200から駆動回路に解除指令がなされると、駆動回路から電動モータに電力が供給されてシャッタ部材52が減衰力の増加分に応じた角度だけ逆回転させられて、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰係数が増加前の値に戻される。S44において、減衰力増加指令がなされたことを示すフラグF1がOFFにされた後、処理が丸3に進み(図7へ)、本プログラムの一回の実行が終了する。
【0062】
本実施例において、「中立位置を横切る操舵操作がなされた」ことが、ECU200のS22〜S37の処理を実行する部分によって検知されている。そして、「1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させる」処理が、ECU200のS38〜S40の処理を実行する部分によって行われている。なお、例えば、S22〜S27の処理と、S37の車速Vに関する判定との少なくとも一方を省略しても、中立位置を横切る操舵操作がなされたことを検知することができる。判定条件を少なくすることにより、ロール抑制補完プログラムをシンプルにすることができる。一方、判定条件を多くすれば、ロール抑制効果の低下が起こる可能性が比較的高い状態で、あるいは、ロール抑制効果の低下の度合いが大きい状態で、「減衰力を増大させる」処理が行われ、ロール抑制効果の低下が起こる可能性が比較的低い状態や、あるいは、ロール抑制効果の低下の度合いが比較的小さい状態では、「減衰力を増大させる」処理が行われにくくなる。
【0063】
本サスペンションシステム10は、ECU200がS37の車速Vに関する判定を実行することによって、車速に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。また、本サスペンションシステム10は、ECU200がS22〜S27の処理を実行することによって、切り戻し操作時のロールモーメント推定物理量に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。さらにまた、本サスペンションシステム10は、ECU200がS38の処理を実行することにより、操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されている。なお、ECU200が本プログラムを実行することにより、スラローム走行を行う場合等において、車体のロール量が設定値(例えば、ロール角度の絶対値が数度程度)以下の状態、つまり、車体が左右の一方にロールした後に旋回方向が切り換えられて左右の他方にロールし始める状態におけるロール速度を低減する効果も期待できる。
【0064】
5. その他.
なお、本実施例において、旋回外輪側のショックアブソーバ34の減衰力のみが増加させられていたが、左右のショックアブソーバ34の減衰力を増加させることもできる。また、旋回内輪側のショックアブソーバ34の減衰力のみを増加させることも可能である。また、本実施例とは異なるが、ショックアブソーバ34の減衰力が、例えば、ピッチング制御,路面状況(良路、悪路)に応じた制御等の他のアクティブ制御によって増減させられている場合がある。そういった場合には、例えば、他のアクティブ制御によって決定された減衰力に、ロール抑制効果の不足を補う減衰力の増加分を上乗せするように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】請求可能発明の実施例であるサスペンションシステムを模式的に示す図である。
【図2】上記サスペンションシステムの一部を模式的に示す図である。
【図3】上記サスペンションシステムのサスペンション装置の断面を示す図である。
【図4】上記サスペンションシステムのアクチュエータの断面を示す図である。
【図5】上記サスペンションシステムの電子制御ユニットによって実行されるロール抑制制御のフローチャートを示す図である。
【図6】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第1部分を示す図である。
【図7】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第2部分を示す図である。
【図8】上記電子制御ユニットによって実行されるロール抑制補完プログラムのフローチャートの第3部分を示す図である。
【図9】上記電子制御ユニットの記憶部に記憶されたロール抑制効果不足分マップを模式的に示す図である。
【図10】上記とは異なるロール抑制効果不足分マップの例を模式的に示す図である。
【図11】上記とはさらに異なるロール抑制効果不足分マップの例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10:車両用サスペンションシステム 16:車輪 20:サスペンション装置 22:アクティブスタビライザ装置 34:ショックアブソーバ(減衰力発生機構) 36:エアスプリング 50:通過抵抗調節機構 52:オリフィス形成部材 54:シャッタ部材 70:スタビライザバー 72:右スタビライザバー部材(右バー) 74:左スタビライザバー部材(左バー) 80:アクチュエータ 90:トーションバー部 92:アーム部 100:電動モータ(電磁式モータ) 102:減速機 104:ハウジング 120:波動発生器(ウェーブジェネレータ) 122:フレキシブルギヤ(フレクスプライン) 124:リングギヤ(サーキュラスプライン) 130:モータ回転角センサ 200:電子制御ユニット[ECU] θ:モータ回転角 δ:操作角 δv:操作速度 V:車速 G:横加速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪の各々に対応して設けられてそれら左右の車輪の各々と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、
左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体に加わるロールモーメントの大きさを推定することが可能な物理量であるロールモーメント推定物理量に応じて車体のロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量を変化させて前記スタビライザバーによる車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置と
を備えたサスペンションシステムであって、
中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
当該サスペンションシステムが、
中立位置を横切る操舵操作がなされた際の前記スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
当該サスペンションシステムが、
操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された請求項1または2に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
前記アクチュエータが、
駆動力源となる電磁式モータと、自身に入力された前記電磁式モータの駆動回転を減速して出力する減速機とを含んで構成され、
前記スタビライザバーが、
それぞれが、車体に回転可能に保持された軸状のトーションバー部とそのトーションバー部の一端部から回転軸と交差する方向に延び出すアーム部とを有し、前記トーションバー部の起端部において前記アクチュエータに接続された左右1対のバー部材を含んで構成されるとともに、
それら1対のバー部材の各々の起端部の相対回転量が変化させられることによってロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量が変化するように構成された請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項1】
左右の車輪の各々に対応して設けられてそれら左右の車輪の各々と車体との接近離間に対する減衰力の大きさを変更することが可能にされた1対の減衰力発生機構と、
左右の車輪の各々に連結されるスタビライザバーと、車体に加わるロールモーメントの大きさを推定することが可能な物理量であるロールモーメント推定物理量に応じて車体のロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量を変化させて前記スタビライザバーによる車体のロール抑制効果を変化させるアクチュエータとを含んで構成されたスタビライザ装置と
を備えたサスペンションシステムであって、
中立位置を横切る操舵操作がなされた場合に、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成されたことを特徴とする車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
当該サスペンションシステムが、
中立位置を横切る操舵操作がなされた際の前記スタビライザバーの捩れの戻り遅れの程度に応じて、前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
当該サスペンションシステムが、
操作速度に応じて前記1対の減衰力発生機構の少なくとも一方の減衰力を増大させるように構成された請求項1または2に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
前記アクチュエータが、
駆動力源となる電磁式モータと、自身に入力された前記電磁式モータの駆動回転を減速して出力する減速機とを含んで構成され、
前記スタビライザバーが、
それぞれが、車体に回転可能に保持された軸状のトーションバー部とそのトーションバー部の一端部から回転軸と交差する方向に延び出すアーム部とを有し、前記トーションバー部の起端部において前記アクチュエータに接続された左右1対のバー部材を含んで構成されるとともに、
それら1対のバー部材の各々の起端部の相対回転量が変化させられることによってロール量あたりの前記スタビライザバーの捩れ量が変化するように構成された請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−83853(P2007−83853A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274540(P2005−274540)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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