説明

車両用サスペンション装置

【課題】油圧ポンプの大型化を招くことなく姿勢制御の応答性を高め、かつ、姿勢を保持する場合に動力ロスの低減を図ることのできる車両用サスペンション装置を提供する。
【解決手段】対を成すサスペンションユニット1A,1Bにそれぞれ昇降調整機構14A,14Bを設ける。昇降調整機構14A,14Bは並列な第1の通路19と第2の通路20によって接続し、各通路19,20には、油圧ポンプ16,17と開閉弁V1〜V4を設ける。姿勢制御時に高い応答性が要求される場合には、両通路19,20の開閉弁V1〜V4を開き、両油圧ポンプ16,17を姿勢制御に使用する。高い応答性が要求されない場合や姿勢を保持する場合には、一方の通路20の開閉弁V3,V4のみを開き、一方の油圧ポンプ17のみを姿勢制御に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の姿勢を制御可能な車両用サスペンション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用サスペンション装置として、左右のサスペンションユニットにそれぞれ昇降調整機構を設け、車両の走行状態に応じて各昇降調整機構を制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車両用サスペンション装置は、一方のサスペンションユニットの昇降調整機構内の作動油を他方のサスペンションユニットの昇降調整機構に供給する第1の通路と、他方のサスペンションユニットの昇降調整機構内の作動油を一方のサスペンションユニットの昇降調整機構に供給する第2の通路を備え、各通路内に、送給用の専用の油圧ポンプと開閉弁がそれぞれ設けられている。この車両用サスペンション装置により、例えば、他方のサスペンションユニット側を上昇させる場合には、開閉弁によって第2の通路を閉じ、かつ第1の通路を開くとともに、第1の通路内の油圧ポンプによって一方の昇降調整機構から他方の昇降調整機構に作動油を供給する。また、逆に一方のサスペンションユニット側を上昇させる場合には、開閉弁によって第1の通路を閉じ、かつ第2の通路を開くとともに、第2の通路内の油圧ポンプによって他方の昇降調整機構から一方の昇降調整機構に作動油を供給する。
【特許文献1】特開2006−213119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来の車両用サスペンション装置においては、一方の昇降調整機構から他方の昇降調整機構に作動油を供給するための油圧ポンプと、他方の昇降調整機構から一方の昇降調整機構に作動油を供給するための油圧ポンプが各一つずつ割り当てられているため、昇降調整時における供給流量の調整幅が狭く、各油圧ポンプを大型化しなければ姿勢制御の応答性を高めることが難しい。
【0005】
また、姿勢制御状態を一定に保持する場合には、高圧側から低圧側への作動液の漏れを補償するために油圧ポンプを作動させておく必要があるが、油圧ポンプの吐出流量の調整幅が限られていることから、ポンプ動力のロスが大きくなる傾向にある。
【0006】
そこで、この発明は、油圧ポンプの大型化を招くことなく姿勢制御の応答性を高め、かつ、姿勢を保持する場合における動力ロスの低減を図ることのできる車両用サスペンション装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、車体左右、若しくは前後の対を成すサスペンションユニット(例えば、後述する実施形態におけるサスペンションユニット1A,1B)が、車体と車輪を弾性的に連結するコイルスプリング(例えば、後述する実施形態におけるコイルスプリング3)と、このコイルスプリングの上端を車体側にて支持するアッパスプリングシート(例えば、後述する実施形態におけるアッパスプリングシート5)と、前記コイルスプリングの下端を車輪側にて支持するロアスプリングシート(例えば、後述する実施形態におけるロアスプリングシート6)と、を備えて成る車両用サスペンション装置において、前記各サスペンションユニットのアッパスプリングシートとロアスプリングシートの少なくともいずれか一方に油圧により昇降を調整できる昇降調整機構(例えば、後述する実施形態における第1,第2昇降調整機構14A,14B)を設け、対を成すサスペンションユニットの昇降調整機構を、共通の駆動源(例えば、後述する実施形態におけるモータ15)によって駆動される油圧ポンプ(例えば、後述する実施形態における第1,第2の油圧ポンプ16,17)を複数備えた油圧回路(例えば、後述する実施形態における油圧回路2)に接続し、この油圧回路に、前記対を成す昇降調整機構の間を連通して、一つの通路で双方向に油圧を給排することを可能とする双方向通路(例えば、後述する実施形態における第1,第2の通路19,20)を複数設け、この双方向通路のそれぞれに、前記昇降調整機構同士の連通と遮断を切換え可能な開閉弁(例えば、後述する実施形態における開閉弁V1〜V4)と、前記油圧ポンプとを少なくとも一つずつ設け、車両の走行状態に応じて前記開閉弁の開閉を制御することを特徴とする。
この発明の場合、車両の姿勢制御時には、複数の双方向通路を車両の走行状態に応じて開閉弁によって開閉することにより、複数の油圧ポンプを選択的に利用することができる。例えば、姿勢制御時に高い応答性を要求されない場面では、いずれか一つの双方向通路のみを開いて一つの油圧ポンプのみを昇降調整機構の作動に利用し、高い応答性を要求される場面では、総ての双方向通路を開いて全油圧ポンプを昇降調整機構の作動に利用する。また、昇降調整機構で調整した姿勢を保持する場合には、開閉弁によって一つの双方向通路のみを開いて一つの油圧ポンプのみを油圧の漏れ補償のために使用する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用サスペンション装置において、前記双方向通路のうちの少なくとも一つの通路には、他の通路に設けられる前記油圧ポンプよりも吐出容量の小さい油圧ポンプを設け、車両の姿勢保持を行う際には、吐出容量の小さい油圧ポンプのみで作動油を吐出することを特徴とする。
これにより、車両の姿勢を保持するときには、吐出容量の小さい油圧ポンプのみが油圧の漏れ補償のために使用されるようになる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両用サスペンション装置において、前記各双方向通路内の開閉弁は、同双方向通路内の油圧ポンプを両側で挟むように二つずつ設け、前記各双方向通路には、同通路内の前記各開閉弁と油圧ポンプの間を連通して、同油圧ポンプの吐出側から吐出された作動油を吸入側に還流させる還流通路(例えば、後述する実施形態における還流通路21,22)と、その還流通路を開閉可能な還流開閉弁(例えば、後述する実施形態における開閉弁V5,V6)と、を設け、前記双方向通路内の二つの開閉弁が閉じているときに、前記還流開閉弁を開くように制御することを特徴とする。
これにより、双方向通路内の油圧ポンプの前後の開閉弁が閉じられると、その双方向通路に接続されている還流通路内の還流開閉弁が開き、前記油圧ポンプから吐出された作動油が還流通路を通して同油圧ポンプの吸入側に戻されるようになる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置において、前記各双方向通路内の開閉弁は、同双方向通路内の油圧ポンプを両側で挟むように二つずつ設け、前記対を成す昇降調整機構は、それぞれ前記開閉弁よりも昇降調整機構側において、車高調整用の油圧給排回路(例えば、後述する実施形態における油圧給排回路30)に接続したことを特徴とする。
これにより、車高を上昇調整する場合には、車高調整用の油圧給排回路から対を成す昇降調整機構に作動油が供給され、車高を下降調整する場合には、対を成す昇降調整機構から車高調整用の油圧給排回路に作動油が排出されるようになる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両用サスペンション装置において、前記油圧給排回路から前記対を成す昇降調整機構に油圧を給排して車高を調整する際に、少なくとも一つの双方向通路を前記開閉弁によって開くとともに同通路内の油圧ポンプを作動させ、前記対を成すサスペンションユニットのストロークの速度が等しくなるように補正することを特徴とする。
これにより、対を成すサスペンションユニット間に、フリクションや輪荷重の差等に起因してストルーク速度に差が生じると、双方向通路内の油圧ポンプが作動して、ストロークの速い側の昇降調整機構から遅い側の昇降調整機構へと作動油が送給される。この結果、対を成すサスペンションユニットのストローク速度は等しくなるように補正される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、複数の双方向通路の開閉を開閉弁によって制御することで、姿勢制御時に、複数の油圧ポンプを車両の走行状態に応じて選択的に利用することができるため、姿勢制御時における作動油の流量調整幅を拡張することができる。したがって、この発明によれば、油圧ポンプの大型化を招くことなく姿勢制御の応答性を高め、かつ、姿勢を保持する場合における動力ロスの低減を図ることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、車両の姿勢保持時には、吐出容量の小さい油圧ポンプのみが漏れの補償に供されるため、駆動源の動力ロスをより低減することが可能になる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、双方向通路内の油圧ポンプの前後の開閉弁が閉じられたときには、油圧ポンプから吐出された作動油が仕事に供されずに還流通路で還流するため、油圧ポンプでの動力ロスをより低減することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、油圧回路の僅かな追加のみによって車高調整機能を追加することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、双方向通路内の油圧ポンプの作動により、対を成すサスペンションユニットの車高調整時におけるストローク速度の差を補正することができるため、車高調整時の車体のぐらつきを低減し、乗り心地を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
最初に、図1〜図4に示す第1の実施形態について説明する。
図1〜図3は、この発明にかかる車両用サスペンション装置(以下、「サスペンション装置」と呼ぶ。)の概略構成を示すものである。この実施形態のサスペンション装置は、図示しない車体左右の前輪に車体を懸架させる一対のサスペンションユニット1A,1Bと、これらのサスペンションユニット1A,1Bを制御する油圧回路2と、を備えている。
【0018】
各サスペンションユニット1A,1Bは、車体と車輪の間の振動や衝撃を吸収するコイルスプリング3と、作動油の流通抵抗によって減衰力を発生するショックアブソーバ4と、を備えており、コイルスプリング3はアッパスプリングシート5とロアスプリングシート6を介して車体側と車輪側に夫々支持されている。ショックアブソーバ4は、作動油が充填されたシリンダチューブ7と、このシリンダチューブ7に進退自在に挿入嵌合されたピストンロッド8を備え、シリンダチューブ7の下端が図示しないサスペンションアームを介して車輪側に結合されると共に、ピストンロッド8の上端が前記アッパスプリングシート5と共に車体側に結合されている。コイルスプリング3はショックアブソーバ4の外周側に配置され、ロアスプリングシート6はシリンダチューブ7の外周面に支持され、このシリンダチューブ7を介して車輪側に支持されている。
【0019】
ロアスプリングシート6は、シリンダチューブ7の外周面に固定された環状ピストン9と、この環状ピストン9の外側に摺動自在に嵌合され、環状ピストン9との間に作動室10を形成するシリンダ壁11と、シリンダ壁11の外周面に結合されてコイルスプリング3の下端部を直接支持するシート本体12と、を備え、シリンダ壁11と環状ピストン9が油圧による昇降調整機構14A,14Bを主として構成している。なお、以下では、図中左側のサスペンションユニット1Aの昇降調整機構を第1昇降調整機構14Aと呼び、図中右側のサスペンションユニット1Bの昇降調整機構を第2昇降調整機構14Bと呼ぶものとする。
【0020】
油圧回路2は、共通のモータ15(駆動源)によって駆動される第1の油圧ポンプ16と第2の油圧ポンプ17を備えている。これらの油圧ポンプ16,17は、プランジャポンプ等の正逆回転可能なポンプによって構成されている。また、油圧回路2には、第1昇降調整機構14Aと第2昇降調整機構14Bの給排通路18A,18B同士を接続する2系統の通路である第1の通路19と第2の通路20が並列に設けられている。第1の通路19と第2の通路20には、第1の油圧ポンプ16と第2の油圧ポンプ17がそれぞれ介装され、これらの油圧ポンプ16,17の正逆回転により、第1昇降調整機構14Aと第2昇降調整機構14Bの間で双方向の作動油の給排が可能とされている。この実施形態の場合、第1の通路19と第2の通路20がこの発明における複数の双方向通路を構成している。また、この実施形態の場合、第2の通路20に介装される第2の油圧ポンプ17は、第1の通路19に介装される第1の油圧ポンプ16に比較して吐出容量の小さいものが用いられている。
【0021】
また、第1の通路19には、第1の油圧ポンプ16を間に挟むようにその前後に電磁式の開閉弁V1,V2が設けられ、第2の通路20には、同様に、第2の油圧ポンプ17を間に挟むように前後に電磁式の開閉弁V3,V4が設けられている。
【0022】
さらに、第1の通路19のうちの第1の油圧ポンプ16と一方の開閉弁V1の間の領域と、第1の油圧ポンプ16と他方の開閉弁V2の間の領域は還流通路21によって相互に接続され、その還流通路21に、電磁式の開閉弁V5(還流開閉弁)が設けられている。同様に、第2の通路20のうちの第2の油圧ポンプ17と一方の開閉弁V3の間の領域と、第2の油圧ポンプ17と他方の開閉弁V4の間の領域は還流通路22によって相互に接続され、その還流通路22に、電磁式の開閉弁V6(還流開閉弁)が設けられている。
【0023】
上記の各開閉弁V1〜V6とモータ15は、車両の走行状態(例えば、ロール状態)に応じて図示しないコントローラによって制御されるようになっている。このコントローラは、入力側に加速度センサや車速センサ、ストロークセンサ等の車両の運転挙動を検出するための検出手段が接続され、その検出手段の入力信号を受けて開閉弁V1〜V6とモータ15を適宜制御するようになっている。
【0024】
ここで、図1は、能動的な車両の姿勢制御を行わないときの油圧回路2の状態を示し、図2は、急激に姿勢制御を行うとき(高い応答性を要求されるとき)の油圧回路2の状態を、図3は、緩やかに姿勢制御を行うとき(高い応答性を要求されないとき)の油圧回路2の状態をそれぞれ示す。
【0025】
図1の状態では、すべての開閉弁V1〜V6とモータ15の通電がオフにされ、第1の通路19と第2の通路20が開閉弁V1〜V4によって閉じられるとともに、油圧ポンプ16,17が停止状態とされている。したがって、この状態においては、第1の昇降調整機構14Aと第2の昇降調整機構14Bの間の作動油の流通が完全に遮断され、左右のロアスプリングシート6の高さが一定に維持されている。なお、このとき各還流通路21,22は開閉弁V5,V6によって閉じられている。
【0026】
図2の状態は、左側のサスペンションユニット1A側を下げ、右側のサスペンションユニット1B側を上げる姿勢制御を急激に行うときのものであり、この状態では、還流通路21,22の開閉弁V5,V6が閉じられ、かつ第1の通路19と第2の通路20の開閉弁V1〜V4が開かれた状態において、モータ15が設定方向に回転駆動されて第1の油圧ポンプ16と第2の油圧ポンプ17が作動する。これにより、第1昇降調整機構14A内の作動油が第1の通路19と第2の通路20を通して第2昇降調整機構14Bに供給され、左右のサスペンションユニット1A,1Bの高さが急激に調整される。なお、このとき各還流通路21,22は開閉弁V5,V6によって閉じられている。
【0027】
図3の状態は、左側のサスペンションユニット1A側を下げ、右側のサスペンションユニット1B側を上げる姿勢制御を緩やかに行うときのものであり、この状態では、第1の通路19が開閉弁V1,V2によって閉じられ、第2の通路20が開閉弁V3,V4によって開かれた状態で、モータ15が設定方向に回転駆動される。また、このとき第1の通路19側の還流通路21は開閉弁V5によって開かれ、第2の通路20側の還流通路22は開閉弁V6によって閉じられる。これにより、第1昇降調整機構14A内の作動油が第2の通路20を通して第2昇降調整機構14Bに供給される。このときの作動油の供給は吐出容量小さい第2の油圧ポンプ17のみによって行われ、その結果、左右のサスペンションユニット1A,1Bの高さは緩やかに調整されることになる。なお、このとき第1の通路19側の還流通路21が開かれているため、第1の油圧ポンプ16は低負荷状態で運転される。
【0028】
また、ここでは図示されていないが、左右のサスペンションユニット1A,1Bの高さを中速度で調整する場合には、第2の通路20と還流通路21を開閉弁V3,V4とV5でそれぞれ閉じるとともに、第1の通路19と還流通路22を開閉弁V1,V2とV6でそれぞれ開き、その状態においてモータ15を回転駆動させる。この場合には、第1調整機構14A内の作動油が第1の通路19を通して第2昇降機構14Bに供給され、作動油の供給は吐出容量の大きい第1の油圧ポンプ16のみによって行われる。このとき、第2の通路20側の還流通路22が開かれるため、第2の油圧ポンプ17は低負荷状態で運転される。
【0029】
以下、このサスペンション装置の姿勢制御の一例を図4のフローチャートに沿って説明する。
ステップS101においては、図示しない加速度センサや速度センサ等によって車両の旋回状態を検出するとともに、各サスペンションユニット1A,1Bに設けられた図示しないストロークセンサによって各昇降調整機構14A,14Bのストロークを検出する。
ステップS102においては、ステップS101の検出値に基づいて車両のロール量を予測(演算)する。
ステップS103において、予測したロール量が所定値α未満であるかどうかを判定し、α未満である場合にはステップS104へと進み、α以上である場合にはステップS105へと進む。ステップS105では、さらに予測したロール量がα以上β未満の範囲にあるかどうか判定し、その範囲にある場合にはステップS106に進み、その範囲にない場合にはステップS107へと進む。
すなわち、このステップS103とS105においては、予測ロール量に応じて3つの処理に分けられ、予測ロール量が大の区分ではステップS107以下の処理を行い、予測ロール量が中の区分ではステップS106以下の処理を行い、予測ロール量が小の区分ではステップS104以下の処理を行う。
【0030】
予測ロール量がβよりも大きくステップS107に進んだ場合には、そこで昇降調整目標値を決め、つづくステップS108においては、図1に示すように、開閉弁V5,V6を閉じるとともに開閉弁V1〜V4を開き、その後にステップS109へと進む。
また、予測ロール量がα以上β未満であってステップS106に進んだ場合には、そこで昇降調整目標値を決め、つづくステップS121においては、開閉弁V3〜V5を閉じるとともに開閉弁V1,V2,V6を開き、その後にステップS109へと進む。
ステップS109においては、モータ15を所定方向に回転駆動させる。次のステップS110においては、昇降調整量が目標値に達したかどうかを判定し、昇降調整量が目標値に達しない間はモータ15を回転させ、目標値に達したところでリターンする。
【0031】
予測ロール量がα未満であってステップS104に進んだ場合には、そこで昇降調整目標値を決め、つづくステップS131においては、開閉弁V1,V2,V6を閉じるとともに開閉弁V3〜V5を開き、その後にステップS132へと進む。
ステップS132においては、モータ15を所定方向に回転駆動させる。次のステップS133においては、昇降調整量が目標値に達したかどうかを判定し、昇降調整量が目標値に達しない間はモータ15を回転させ、目標値に達したところでステップS134に進む。
ステップS134では、現在の姿勢を保持しつづける必要があるかどうかを判定し、姿勢の保持が必要であるときにはステップS132に戻ってモータ15の回転を継続し、姿勢の保持が不要であるときにはステップS135でモータ15を停止させ、その後にリターンする。
【0032】
以上のようにこのサスペンション装置は、車両の走行状態に応じて第1の通路19と第2の通路20の開閉弁V1〜V4を制御することで、昇降調整に実際に使用する油圧ポンプ17,18を選択して用いることができるため、姿勢制御時における作動油の流量調整幅を大幅に拡張することができる。つまり、迅速な姿勢制御を要求される場合には、第1の通路19と第2の通路20をともに開くことで両油圧ポンプ17,18を同時に使用し、さして迅速な姿勢制御を要求されない場合や姿勢保持の場合には、第1の通路19と第2の通路20の一方のみを開くことで、油圧ポンプ16,17の一方のみを使用することができる。したがって、このサスペンション装置においては、各油圧ポンプ16,17の大型化を招くことなく姿勢制御の応答性を高めることができるとともに、迅速な姿勢制御を要求されない場合や姿勢を保持する場合における動力ロスを低減することができる。
【0033】
特に、この実施形態のサスペンション装置の場合、第2の油圧ポンプ17の吐出容量が第1の油圧ポンプ16の吐出容量よりも小さく設定されているため、姿勢保持の際に第2の油圧ポンプ17を用いることで、動力ロスをより一層低減することができる。
【0034】
また、このサスペンション装置においては、第1の通路19と第2の通路20にそれぞれ還流通路21,22が設けられ、開閉弁V1〜V4によって各通路19,20と昇降調整機構14A,14Bとの連通が遮断されたときに、その遮断された通路19,20内の還流通路21,22が開閉弁V5,V6によって開かれるため、油圧ポンプ16,17を低負荷状態での運転させ、油圧ポンプ16,17での動力ロスをより有効に低減することができる。
【0035】
次に、図5に示す第2の実施形態について説明する。なお、図1〜図3に示した第1の実施形態と同一部分には同一符号を付し、重複部分については説明を省略するものとする。
この実施形態のサスペンション装置は、左右のサスペンションユニット1Aの構成や姿勢制御のための油圧回路2の構成等は第1の実施形態とほぼ同様であるが、この油圧回路2に車高調整用の油圧給排回路30が接続されている点が異なっている。
【0036】
油圧給排回路30は、第1昇降調整機構14A側と第2昇降調整機構14B側の各給排通路18A,18Bに接続される一対の給排通路31A,31Bと、この各給排通路31A,31Bに合流接続される供給通路32A,32Bおよび排出通路33A,33Bを備えており、各供給通路32A,32Bには共通の油圧ポンプ34から作動油が供給されるようになっている。この油圧ポンプ34は図示しないモータによって駆動され、リザーバタンク35内の作動油を汲み上げて各給排通路31A,31Bに供給する。また、各供給通路32A,32Bには、油圧ホンプ34から給排通路31A,31B方向の流れのみを許容する逆止弁36A,36Bが介装されている。一方、排出通路33A,33Bは給排通路31A,31Bの作動油をリザーバタンク35に戻すものであるが、各通路途中には電磁式の開閉弁V7,V8が介装され、作動油の排出時にその開閉弁V7,V8を開放するようになっている。
【0037】
このサスペンション装置によって車高を下降させる場合には、油圧給排回路30内の開閉弁V7,V8を開き、第1昇降調整機構14Aと第2昇降調整機構14Bの内部の作動油を給排通路31A,31Bと排出通路33A,33Bを介してリザーバタンク35に排出する。また、車高を上昇させる場合には、開閉弁V7,V8を閉じた状態において、油圧給排回路30内の油圧ポンプ34を作動させ、油圧ポンプ34から吐出された作動油を給排通路31A,31Bを介して第1昇降調整機構14Aと第2昇降調整機構14Bに供給する。
【0038】
また、この実施形態においては、車高の調整時に、ストロークセンサによって左右のサスペンションユニット1A,1Bのストロークを検出し、左右のサスペンションユニット1A,1Bのストローク速度を比較する。そして、両ユニット1A,1Bのストローク速度に差があるときには、開閉弁V1〜V4を開いて、第1,第2昇降調整機構14A,14Bを第1の通路19と第2の通路20によって相互に連通させるとともに、適宜油圧ポンプ16,17を作動させて両昇降調整機構14A,14B間で作動油を流通させる。具体的には、例えば、車高の上昇制御時に、左側のサスペンションユニット1Aのストローク速度が右側のサスペンションユニット1Bのストローク速度よりも遅い場合には、油圧ポンプ16,17の制御によって右側の昇降調整機構14Bから左側の昇降調整機構14Aに作動油を流す。これにより、車高の調整時に左右のサスペンションユニット1A,1Bのストローク速度が等しくなるように補正される。
【0039】
この実施形態のサスペンション装置は、基本的には第1の実施形態の同様の作用および効果を得ることができるが、それに加え、僅かな回路の追加によって車高調整機能を持たせることができる。
そして、このサスペンション装置の場合、車高の調整に際しては、両サスペンションユニット1A,1Bのストローク速度が等しくなるように開閉弁V1〜V4とモータ15が制御されるため、車高調整時の車体のぐらつきを低減し、乗り心地を向上させることができる。
【0040】
なお、以上の実施形態においては、左右のサスペンションユニット1A,1Bのストローク速度に差があるときに、開閉弁V1〜V4を開いた状態において、油圧ポンプ16,17で積極的に作動油を送給するようにしているが、油圧ポンプ16,17が停止状態でも作動油の流れを妨げない構造であれば、単に開閉弁V1〜V4を開くのみであっても良い。
【0041】
図6は、この発明の第3の実施形態を示すものである。図6においては、第1,第2の実施形態と同一部分には同一符号を付してある。
この実施形態のサスペンション装置は、油圧給排回路30中の各給排通路31A,31Bに、作動油の通過流量を任意に調整し得る流量調整弁40A,40Bが介装されている。
【0042】
車高の調整時に、左右のサスペンションユニット1A,1Bのストローク速度に差があるときには、開閉弁V1〜V4をすべて閉じた状態において、ストローク速度が速い側の流量調整弁40Aまたは40Bの絞り量を増大し、ストローク速度が遅い側の流量調整弁40Bまたは40Aの絞り量を減少させる。この実施形態の場合、流量調整弁40A,40Bの絞りの制御によって左右のサスペンションユニット1A,1Bのストローク速度を等しく補正することができる。
【0043】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、サスペンションユニットのロアスプリングシート6側に昇降調整機構14A,14Bを設けたが、アッパスプリングシート5側に同様の昇降調整機構14A,14Bを設けることも可能である。また、車体前後のサスペンションユニットを対にして、これに前述と同様の構成を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の第1の実施形態を示すものであり、姿勢制御を行わない場合の車両用サスペンション装置の油圧回路図。
【図2】同実施形態を示すものであり、高い応答性を要求される姿勢制御時における車両用サスペンション装置の油圧回路図。
【図3】同実施形態を示すものであり、高い応答性を要求されない姿勢制御時における車両用サスペンション装置の油圧回路図。
【図4】同実施形態の制御の流れを示すフローチャート。
【図5】この発明の第2の実施形態を示すものであり、車両用サスペンション装置の油圧回路図。
【図6】この発明の第3の実施形態を示すものであり、車両用サスペンション装置の油圧回路図。
【符号の説明】
【0045】
1A,1B…サスペンションユニット
2…油圧回路
3…コイルスプリング
5…アッパスプリングシート
6…ロアスプリングシート
14A…第1の昇降調整機構(昇降調整機構)
14B…第2の昇降調整機構(昇降調整機構)
15…モータ(駆動源)
16…第1の油圧ポンプ(油圧ポンプ)
17…第2の油圧ポンプ(油圧ポンプ)
19…第1の通路(双方向通路)
20…第2の通路(双方向通路)
21,22…還流通路
30…油圧給排回路
V1〜V4…開閉弁
V5,V6…開閉弁(還流開閉弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体左右、若しくは前後の対を成すサスペンションユニットが、車体と車輪を弾性的に連結するコイルスプリングと、このコイルスプリングの上端を車体側にて支持するアッパスプリングシートと、前記コイルスプリングの下端を車輪側にて支持するロアスプリングシートと、を備えて成る車両用サスペンション装置において、
前記各サスペンションユニットのアッパスプリングシートとロアスプリングシートの少なくともいずれか一方に油圧により昇降を調整できる昇降調整機構を設け、
対を成すサスペンションユニットの昇降調整機構を、共通の駆動源によって駆動される油圧ポンプを複数備えた油圧回路に接続し、
この油圧回路に、前記対を成す昇降調整機構の間を連通して、一つの通路で双方向に油圧を給排することを可能とする双方向通路を複数設け、
この双方向通路のそれぞれに、前記昇降調整機構同士の連通と遮断を切換え可能な開閉弁と、前記油圧ポンプとを少なくとも一つずつ設け、
車両の走行状態に応じて前記開閉弁の開閉を制御することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記双方向通路のうちの少なくとも一つの通路には、他の通路に設けられる前記油圧ポンプよりも吐出容量の小さい油圧ポンプを設け、車両の姿勢保持を行う際には、吐出容量の小さい油圧ポンプのみで作動油を吐出することを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記各双方向通路内の開閉弁は、同双方向通路内の油圧ポンプを両側で挟むように二つずつ設け、
前記各双方向通路には、同通路内の前記各開閉弁と油圧ポンプの間を連通して、同油圧ポンプの吐出側から吐出された作動油を吸入側に還流させる還流通路と、その還流通路を開閉可能な還流開閉弁と、を設け、
前記双方向通路内の二つの開閉弁が閉じているときに、前記還流開閉弁を開くように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記各双方向通路内の開閉弁は、同双方向通路内の油圧ポンプを両側で挟むように二つずつ設け、
前記対を成す昇降調整機構は、それぞれ前記開閉弁よりも昇降調整機構側において、車高調整用の油圧給排回路に接続したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
前記油圧給排回路から前記対を成す昇降調整機構に油圧を給排して車高を調整する際に、少なくとも一つの双方向通路を前記開閉弁によって開くとともに同通路内の油圧ポンプを作動させ、前記対を成すサスペンションユニットのストロークの速度が等しくなるように補正することを特徴とする請求項4に記載の車両用サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126455(P2009−126455A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305948(P2007−305948)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】