説明

車両用ブレーキ装置および車両用ブレーキ装置のエア抜き方法

【課題】 ストロークシミュレータを備えたブレーキ装置において、ブレーキ液を圧送する特別の圧送装置を必要とせずにストロークシミュレータのエア抜きを行えるようにする。
【解決手段】 ストロークシミュレータ35が、マスタシリンダ11から供給側液路Ra,Rbを介して伝達されるブレーキ液圧で駆動されるピストン38と、ピストン38の背部に形成された背室70と、背室70をリザーバ20に接続する排出側液路Rc,Rdと、ピストン38および背室70をバイパスして供給側液路Ra,Rbおよび排出側液路Rc,Rdを接続するバイパス液路Re,Rfと、バイパス液路Re,Rfを遮断する開閉弁71とを備えるので、開閉弁71を開いた状態でブレーキペダル12を操作することで、ブレーキ液をマスタシリンダ11からリザーバ20に循環させ、ブレーキ液の圧送装置を必要とせずにストロークシミュレータ35に溜まったエアをリザーバ20に排出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作によりブレーキ液圧を発生するバックアップ用液圧発生源と、前記バックアップ用液圧発生源とホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、前記ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を電気的に発生する電気的液圧発生源と、前記電気的液圧発生源の作動時に、前記バックアップ用液圧発生源から供給側液路を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともに、前記ブレーキペダルに操作反力を付与するストロークシミュレータとを備える車両用ブレーキ装置と、そのブレーキ装置のエア抜き方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
組み立てを完了した車両用ブレーキ装置にブレーキ液を充填するときに配管等の内部にエアが残留すると、エアの圧縮性によって制動時におけるブレーキ液圧の立ち上がりが低下するため、配管等の内部からエアを除去するエア抜きを行う必要がある。従来、係るエア抜きを行うために、例えば、下記特許文献1に記載されているように、ブレーキ装置の内部を真空引きしてエアを除去した後に、圧送装置を用いてブレーキ装置の内部にブレーキ液を圧送することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−070153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記圧送装置を廃止することができれば、ブレーキ装置のエア抜きを簡便に済ますことが可能となるが、従来の構造のブレーキ装置では、圧送装置を廃止するとエア抜きを確実に行うことができず、配管等の内部にエアが残留してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ストロークシミュレータを備えたブレーキ装置において、ブレーキ液を圧送する特別の圧送装置を必要とせずにストロークシミュレータのエア抜きを行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作によりブレーキ液圧を発生するバックアップ用液圧発生源と、前記バックアップ用液圧発生源とホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、前記ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を電気的に発生する電気的液圧発生源と、前記電気的液圧発生源の作動時に、前記バックアップ用液圧発生源から供給側液路を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともに、前記ブレーキペダルに操作反力を付与するストロークシミュレータとを備える車両用ブレーキ装置であって、前記ストロークシミュレータは、前記バックアップ用液圧発生源からのブレーキ液圧で駆動されるピストンと、前記ピストンの背部に形成された背室と、前記背室をリザーバに接続する排出側液路と、前記ピストンおよび前記背室をバイパスして前記供給側液路および前記排出側液路を接続するバイパス液路と、前記バイパス液路を遮断する遮断手段とを備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記遮断手段は、マニュアルで開閉操作が可能な開閉弁で構成されることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記遮断手段は、前記バイパス液路の大気開放を阻止するシール手段を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記シール手段は、前記遮断手段の開閉状態によらずに前記バイパス液路の大気開放を阻止するように構成されることを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、ブレーキペダルの操作によりブレーキ液圧を発生するバックアップ用液圧発生源と、前記バックアップ用液圧発生源とホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、前記ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を電気的に発生する電気的液圧発生源と、前記電気的液圧発生源の作動時に、前記バックアップ用液圧発生源から供給側液路を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともに、前記ブレーキペダルに操作反力を付与するストロークシミュレータとを備える車両用ブレーキ装置のエア抜き方法であって、前記ピストンの背部に形成された背室をリザーバに接続する排出側液路と前記供給側液路とをバイパス液路を介して接続する工程と、前記バックアップ用液圧発生源を前記ストロークシミュレータに接続した状態で前記ブレーキペダルを操作する工程と、前記バイパス液路を遮断する工程とを含むことを特徴とする車両用ブレーキ装置のエア抜き方法が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のマスタシリンダ11は本発明のバックアップ用液圧発生源に対応し、実施の形態のスレーブシリンダ42は本発明の電気的液圧発生源に対応し、実施の形態の開閉弁71は本発明の遮断手段に対応し、実施の形態のOリング74は本発明のシール手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、通常時には運転者のブレーキペダルの操作量に応じて作動する電気的液圧発生源が発生したブレーキ液圧をホイールシリンダに供給して制動を行い、電気的液圧発生源の失陥時には運転者のブレーキペダルの操作により作動するバックアップ用液圧発生源が発生したブレーキ液圧をホイールシリンダに供給して制動を行う。電気的液圧発生源が作動するとき、ストロークシミュレータが、バックアップ用液圧発生源から供給側液路を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともにブレーキペダルに操作反力を付与する。
【0013】
ストロークシミュレータが、バックアップ用液圧発生源からのブレーキ液圧で駆動されるピストンと、ピストンの背部に形成された背室と、背室をリザーバに接続する排出側液路と、ピストンおよび背室をバイパスして供給側液路および排出側液路を接続するバイパス液路と、バイパス液路を遮断する遮断手段とを備えるので、遮断手段を開いてバックアップ用液圧発生源を供給側液路、バイパス液路および排出側液路を介してリザーバに接続した状態でブレーキペダルを操作することで、ブレーキ液をバックアップ用液圧発生源からリザーバに循環させ、ブレーキ液の圧送装置を必要とせずにストロークシミュレータに溜まったエアをリザーバに排出することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、遮断手段はマニュアルで開閉操作が可能な開閉弁で構成されるので、電源の状態に影響されることなく遮断手段の開閉を行うことができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、遮断手段はバイパス液路の大気開放を阻止するシール手段を備えるので、バイパス路からブレーキ液圧が漏洩するのを防止してストロークシミュレータを確実に作動させることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、シール手段は遮断手段の開閉状態によらずにバイパス液路の大気開放を阻止するので、開閉弁を開閉する際にストロークシミュレータにエアが混入するのを防止することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、通常時には運転者のブレーキペダルの操作量に応じて作動する電気的液圧発生源が発生したブレーキ液圧をホイールシリンダに供給して制動を行い、電気的液圧発生源の失陥時には運転者のブレーキペダルの操作により作動するバックアップ用液圧発生源が発生したブレーキ液圧をホイールシリンダに供給して制動を行う。電気的液圧発生源が作動するとき、ストロークシミュレータが、バックアップ用液圧発生源から供給側液路を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともにブレーキペダルに操作反力を付与する。
【0018】
バックアップ用液圧発生源をストロークシミュレータに接続する供給側液路とピストンの背部に形成された背室をリザーバに接続する排出側液路とをバイパス液路を介して接続し、バックアップ用液圧発生源をストロークシミュレータに接続した状態でブレーキペダルを操作した後にバイパス液路を遮断するので、ブレーキ液をバックアップ用液圧発生源からリザーバに循環させ、ブレーキ液の圧送装置を必要とせずにストロークシミュレータに溜まったエアをリザーバに排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図(電源OFF時)。
【図2】制御系のブロック図。
【図3】図1の3部拡大図。
【図4】通常制動時の作用説明図。
【図5】異常時(電源失陥時)の作用説明図。
【図6】エア抜き時の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図6に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者が操作するブレーキペダル12にプッシュロッド13を介して接続された第1ピストン14と、その前方に配置された第2ピストン15とを備えており、第1ピストン14および第2ピストン15間にリターンスプリング16が収納された第1液圧室17が区画され、第2ピストン15の前方にリターンスプリング18が収納された第2液圧室19が区画される。リザーバ20に連通可能な第1液圧室17および第2液圧室19はそれぞれ第1出力ポート21および第2出力ポート22を備えており、第1出力ポート21は液路Pa,Pb、VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)装置23および液路Pc,Pdを介して、例えば左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25のホイールシリンダ26,27(第1系統)に接続されるとともに、第2出力ポート22は液路Qa,Qb、VSA装置23および液路Qc,Qdを介して、例えば左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29のホイールシリンダ30,31(第2系統)に接続される。
【0022】
尚、本明細書で、液路Pa〜Pdおよび液路Qa〜Qdの上流側とはマスタシリンダ11側を意味し、下流側とはホイールシリンダ26,27;30,31側を意味するものとする。
【0023】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である第1マスタカットバルブ32が配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である第2マスタカットバルブ33が配置される。第2マスタカットバルブ33の上流側の液路Qaから分岐する供給側液路Ra,Rbは、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35に接続される。ストロークシミュレータ35は、シリンダ36にスプリング37で付勢されたピストン38を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン38の反スプリング37側に形成された液圧室39が供給側液路Rbに連通する。
【0024】
第1、第2マスタカットバルブ32,33の下流側の液路Pbおよび液路Qbにタンデム型のスレーブシリンダ42が接続される。スレーブシリンダ42を作動させるアクチュエータ43は、電動モータ44の回転をギヤ列45を介してボールねじ機構46に伝達する。スレーブシリンダ42のシリンダ本体47には、ボールねじ機構46により駆動される第1ピストン48Aと、その前方に位置する第2ピストン48Bとが摺動自在に嵌合しており、第1ピストン48Aおよび第2ピストン48B間にリターンスプリング49Aが収納された第1液圧室50Aが区画され、第2ピストン48Bの前方にリターンスプリング49Bが収納された第2液圧室50Bが区画される。アクチュエータ43のボールねじ機構46で第1、第2ピストン48A,48Bを前進方向に駆動すると、第1、第2液圧室50A,50Bに発生したブレーキ液圧が第1、第2出力ポート51A,51Bを介して液路Pb,Qbに伝達される。
【0025】
スレーブシリンダ42のリザーバ69とマスタシリンダ11のリザーバ20とが排出側液路Rcで接続されており、ストロークシミュレータ35のピストン38の背室70が排出側液路Rdを介して排出側液路Rcの中間部に接続される。ストロークシミュレータ35をバイパスするように供給側液路Rbおよび排出側液路Rdを接続するバイパス液路Re,Rf間に、マニュアルで開閉する開閉弁71が設けられる。
【0026】
図3に示すように、ストロークシミュレータ35をバイパスするバイパス液路Re,Rfは、例えばストロークシミュレータ35のシリンダ36が一体に形成されるハウジング72の内部に相互に直交するように形成される。開閉弁71は、ハウジング72に形成されたボルト孔72aと、このボルト孔72aに螺合するボルト73とで構成される。
【0027】
即ち、ボルト孔72aは小径孔72bおよび大径孔72cが同軸に形成されており、小径孔72bに底部の中心にバイパス液路Reが連通し、小径孔72bの側壁にバイパス液路Rfが連通する。ボルト73は小径部73aと大径部73bと頭部73cとで構成されており、小径部73aの外周に装着したOリング74がボルト孔72aの小径孔72bに当接し、雄ねじを有する大径部73bが雌ねじを有する大径孔72cに螺合し、頭部73cがハウジング72の外部に露出する。ボルト孔72aの小径孔72bに形成した円錐状の座部aに、ボルト73の小径部73aに形成した環状のシール部bが当接する。
【0028】
従って、頭部73cを操作してボルト73をボルト孔72aにねじ込むと、ボルトのシール部bがボルト孔72aの座部aに着座して開閉弁71が閉弁し、バイパス液路Reおよびバイパス液路Rfの連通が遮断される。逆に頭部73cを操作してボルト73を緩めると、ボルトのシール部bがボルト孔72aの座部aから離反して開閉弁71が開弁し、バイパス液路Reおよびバイパス液路Rfが連通する。
【0029】
図1に戻り、VSA装置23の構造は周知のもので、左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統を制御する第1ブレーキアクチュエータ23Aと、左右の前輪のディスクブレーキ装置28,29の第2系統を制御する第2ブレーキアクチュエータ23Bとに同じ構造のものが設けられる。
【0030】
以下、その代表として左右の後輪のディスクブレーキ装置24,25の第1系統の第1ブレーキアクチュエータ23Aについて説明する。
【0031】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは、上流側に位置する第1マスタカットバルブ32に連なる液路Pbと、下流側に位置する左右の後輪のホイールシリンダ26,27にそれぞれ連なる液路Pc,Pdとの間に配置される。
【0032】
第1ブレーキアクチュエータ23Aは左右の後輪のホイールシリンダ26,27に対して共通の液路52および液路53を備えており、液路Pbおよび液路52間に配置された可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ54と、このレギュレータバルブ54に対して並列に配置されて液路Pb側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ55と、液路52および液路Pd間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ56と、このインバルブ56に対して並列に配置されて液路Pd側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ57と、液路52および液路Pc間に配置された常開型電磁弁よりなるインバルブ58と、このインバルブ58に対して並列に配置されて液路Pc側から液路52側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ59と、液路Pdおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60と、液路Pcおよび液路53間に配置された常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ61と、液路53に接続されたリザーバ62と、液路53および液路Pb間に配置されて液路53側から液路Pb側へのブレーキ液の流通を許容するチェックバルブ63と、液路52および液路53間に配置されて液路53側から液路52側へブレーキ液を供給するポンプ64と、このポンプ64を駆動する電動モータ65と、ポンプ64の吸入側および吐出側に設けられてブレーキ液の逆流を阻止する一対のチェックバルブ66,67と、チェックバルブ63およびポンプ64の中間位置と液路Pbとの間に配置された常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ68とを備える。
【0033】
尚、前記電動モータ65は、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bのポンプ64,64に対して共用化されているが、各々のポンプ64,64に対して専用の電動モータ65,65を設けることも可能である。
【0034】
図1および図2に示すように、液路Paには、その液圧を検出する第1液圧センサSaが接続され、液路Qbには、その液圧を検出する第2液圧センサSbが接続される。第1、第2マスタカットバルブ32,33、シミュレータバルブ34、スレーブシリンダ42およびVSA装置23に接続された電子制御ユニットUには、前記第1液圧センサSaと、前記第2液圧センサSbと、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSc…とが接続される。
【0035】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0036】
先ず、図4に基づいて正常時における通常の制動作用について説明する。
【0037】
システムが正常に機能する正常時に、液路Paに設けた第1液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33が励磁されて閉弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34が励磁されて開弁する。これと同時にスレーブシリンダ42のアクチュエータ43が作動して第1、第2ピストン48A,48Bが前進することで第1、第2液圧室50A,50Bにブレーキ液圧が発生し、そのブレーキ液圧は第1、第2出力ポート51A,51Bから液路Pbおよび液路Qbに伝達され、両液路Pb,QbからVSA装置23の開弁したインバルブ56,56;58,58を介してディスクブレーキ装置24,25;28,29のホイールシリンダ26,27;30,31に伝達されて各車輪を制動する。
【0038】
また常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34は励磁されて開弁し、かつ開閉弁71は閉弁状態にあるため、マスタシリンダ11の第2液圧室19が発生したブレーキ液圧は開弁したシミュレータバルブ34を介してストロークシミュレータ35の液圧室39に伝達され、そのピストン38をスプリング37に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0039】
そして液路Qbに設けた第2液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ42によるブレーキ液圧が、液路Paに設けた第1液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11によるブレーキ液圧に応じた大きさになるように、スレーブシリンダ42のアクチュエータ43の作動を制御することで、運転者がブレーキペダル12に入力する操作量に応じた制動力をディスクブレーキ装置24,25;28,29に発生させることができる。
【0040】
次に、VSA装置23の作用を説明する。
【0041】
VSA装置23が作動していない状態では、レギュレータバルブ54,54が消磁されて開弁し、サクションバルブ68,68が消磁されて閉弁し、インバルブ56,56;58,58が消磁されて開弁し、アウトバルブ60,60;61,61が消磁されて閉弁する。従って、運転者が制動を行うべくブレーキペダル12を踏んでスレーブシリンダ42が作動すると、スレーブシリンダ42の第1、第2出力ポート51A,51Bから出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ54,54から開弁状態にあるインバルブ56,56;58,58を経てホイールシリンダ26,27;30,31に供給され、四輪を制動することができる。
【0042】
VSA装置23の作動時には、サクションバルブ68,68が励磁されて開弁した状態で電動モータ65でポンプ64,64が駆動され、スレーブシリンダ42側からサクションバルブ68,68を経て吸入されてポンプ64,64で加圧されたブレーキ液が、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58に供給される。従って、レギュレータバルブ54,54を励磁して開度を調整することで液路52,52のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を開弁したインバルブ56,56;58,58を介してホイールシリンダ26,27;30,31に選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。
【0043】
従って、第1、第2ブレーキアクチュエータ23A,23Bにより四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0044】
また運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左後輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを車輪速センサSc…の出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキアクチュエータ23Aの一方のインバルブ58を励磁して閉弁するとともに、一方のアウトバルブ61を励磁して開弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧をリザーバ62に逃がして所定の圧力まで減圧した後、アウトバルブ61を消磁して閉弁することで、左後輪のホイールシリンダ26のブレーキ液圧を保持する。その結果、左後輪のホイールシリンダ26のロック傾向が解消に向かうと、インバルブ58を消磁して開弁することで、スレーブシリンダ42の第1出力ポート51Aからのブレーキ液圧を左後輪のホイールシリンダ26に供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0045】
この増圧によって左後輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左後輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0046】
以上、左後輪のホイールシリンダ26がロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右後輪のホイールシリンダ27、左前輪のホイールシリンダ30、右前輪のホイールシリンダ31がロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0047】
次に、図5に基づいて電源の失陥等によりスレーブシリンダ42が作動不能になった場合の作用について説明する。
【0048】
電源が失陥すると、常開型電磁弁よりなる第1、第2マスタカットバルブ32,33は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ34は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ56,56;58,58およびレギュレータバルブ54,54は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ60,60;61,61およびサクションバルブ68,68は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の第1、第2液圧室17,19に発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ35に吸収されることなく第1、第2マスタカットバルブ32,33、レギュレータバルブ54,54およびインバルブ56,56;58,58を通過して各車輪のディスクブレーキ装置24,25;30,31のホイールシリンダ26,27;30,31を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0049】
このとき、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧がスレーブシリンダ42の第1、第2液圧室50A,50Bに作用して第1、第2ピストン48A,48Bを後退させてしまうと、第1、第2液圧室50A,50Bの容積が拡大して前記ブレーキ液圧が減圧してしまい、ブレーキ液圧を維持しようとするとブレーキペダル12のストロークが増加してしまう可能性がある。しかしながら、スレーブシリンダ42のボールねじ機構46は、第1ピストン48A側から荷重が入力した場合には後退を抑制されるため、第1、第2液圧室50A,50Bの容積増加が軽減される。尚、スレーブシリンダ42の失陥時に第1、第2ピストン48A,48Bの後退を規制する部材を別途設けても良い。この場合は通常動作時に駆動抵抗を増加させない構造であることが望ましい。
【0050】
次に、図6に基づいてブレーキ液のエア抜き時の作用を説明する。
【0051】
組み立てを完了したブレーキ装置にブレーキ液を充填するには、先ず全ての電磁弁、つまり第1マスタカットバルブ32、第2マスタカットバルブ33、シミュレータバルブ34、レギュレータバルブ54,54、インバルブ56,56;58,58、アウトバルブ60,60;61,61およびサクションバルブ68,68を開弁した状態で、例えばマスタシリンダ11のリザーバ20に真空引き用ポンプを接続してブレーキ装置の内部を真空引きした後、真空になったブレーキ装置の内部にリザーバ20からブレーキ液を充填する。このように真空を利用してブレーキ装置の内部にブレーキ液を充填しても、ストロークシミュレータ35や、その周辺の液路Ra〜Rfにエアが残留する場合がある。
【0052】
このエアを排出するには、先ず第1マスタカットバルブ32および第2マスタカットバルブ33励磁して閉弁し、かつシミュレータバルブ34を励磁して開弁した状態で、図3に示す開閉弁71のボルト73の頭部73cを工具で回転させる。その結果、ボルト孔72aの雌ねじよりなる大径孔72cに対してボルト73の雄ねじよりなる大径部73bが緩められ、鎖線で示すようにボルト孔72aの小径孔72bの座部aからボルト73の小径部73aのシール部bが離間することで、ストロークシミュレータ35の供給側液路Ra,Rbと排出側液路Rc,Rdとがバイパス液路Re,Rfで接続されてマスタシリンダ11がリザーバ20に連通する。
【0053】
続いて、ブレーキペダル12を繰り返し踏むことで、マスタシリンダ11の第1、第2液圧室17,19から送出されたブレーキ液が、供給側液路Ra,Rb、バイパス液路Re,Rfおよび排出側液路Rc,Rdの経路でリザーバ20に流入し、その経路に溜まったエアをリザーバ20に排出することでエア抜きが行われる。
【0054】
以上のように、本実施の形態によれば、ストロークシミュレータ35の前後をバイパスするバイパス液路Re,Rfに開閉弁71を設けるだけの簡単な構造で、ブレーキ液の圧送装置を用いることなくストロークシミュレータ35の近傍に残留したエアを排出することが可能となる。
【0055】
また開閉弁71はマニュアルで開閉操作されるので、電源の状態に影響されることなく開閉を行うことができる。しかも開閉弁71のボルト73がOリング74を備えるので、バイパス液路Re,Rfがボルト孔72aを介して大気に開放するのを阻止することができ、ストロークシミュレータ35の作動時にバイパス路Re,Rfからブレーキ液圧が漏洩するのを防止して該ストロークシミュレータ35を確実に作動させることができるだけでなく、開閉弁71を開閉する際にストロークシミュレータ35にエアが混入するのを防止することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0057】
例えば、開閉弁71の構造は実施の形態に限定されず、バイパス路Re,Rfを開放・遮断できるものであれば、電磁弁を含む任意の構造のものを採用可能である。
【符号の説明】
【0058】
11 マスタシリンダ(バックアップ用液圧発生源)
12 ブレーキペダル
20 リザーバ
26 ホイールシリンダ
27 ホイールシリンダ
30 ホイールシリンダ
31 ホイールシリンダ
35 ストロークシミュレータ
38 ピストン
42 スレーブシリンダ(電気的液圧発生源)
70 背室
71 開閉弁(遮断手段)
74 Oリング(シール手段)
Ra,Rb 供給側液路
Rc,Rd 排出側液路
Re,Rf バイパス液路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(12)の操作によりブレーキ液圧を発生するバックアップ用液圧発生源(11)と、前記バックアップ用液圧発生源(11)とホイールシリンダ(26,27;30,31)との連通を遮断した状態で、前記ブレーキペダル(12)の操作量に応じたブレーキ液圧を電気的に発生する電気的液圧発生源(42)と、前記電気的液圧発生源(42)の作動時に、前記バックアップ用液圧発生源(11)から供給側液路(Ra,Rb)を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともに、前記ブレーキペダル(12)に操作反力を付与するストロークシミュレータ(35)とを備える車両用ブレーキ装置であって、
前記ストロークシミュレータ(35)は、前記バックアップ用液圧発生源(11)からのブレーキ液圧で駆動されるピストン(38)と、前記ピストン(38)の背部に形成された背室(70)と、前記背室(70)をリザーバ(20)に接続する排出側液路(Rc,Rd)と、前記ピストン(38)および前記背室(70)をバイパスして前記供給側液路(Ra,Rb)および前記排出側液路(Rc,Rd)を接続するバイパス液路(Re,Rf)と、前記バイパス液路(Re,Rf)を遮断する遮断手段(71)とを備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記遮断手段(71)は、マニュアルで開閉操作が可能な開閉弁で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記遮断手段(71)は、前記バイパス液路(Re,Rf)の大気開放を阻止するシール手段(74)を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記シール手段(74)は、前記遮断手段(71)の開閉状態によらずに前記バイパス液路(Re,Rf)の大気開放を阻止するように構成されることを特徴とする、請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
ブレーキペダル(12)の操作によりブレーキ液圧を発生するバックアップ用液圧発生源(11)と、前記バックアップ用液圧発生源(11)とホイールシリンダ(26,27;30,31)との連通を遮断した状態で、前記ブレーキペダル(12)の操作量に応じたブレーキ液圧を電気的に発生する電気的液圧発生源(42)と、前記電気的液圧発生源(42)の作動時に、前記バックアップ用液圧発生源(11)から供給側液路(Ra,Rb)を介して供給されるブレーキ液を吸収するとともに、前記ブレーキペダル(12)に操作反力を付与するストロークシミュレータ(35)とを備える車両用ブレーキ装置のエア抜き方法であって、
前記ピストン(38)の背部に形成された背室(70)をリザーバ(20)に接続する排出側液路(Rc,Rd)と前記供給側液路(Ra,Rb)とをバイパス液路(Re,Rf)を介して接続する工程と、
前記バックアップ用液圧発生源(11)を前記ストロークシミュレータ(35)に接続した状態で前記ブレーキペダル(12)を操作する工程と、
前記バイパス液路(Re,Rf)を遮断する工程とを含むことを特徴とする車両用ブレーキ装置のエア抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86687(P2012−86687A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235491(P2010−235491)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】