説明

車両用ブレーキ装置

【課題】車両用ブレーキ装置において、ブレーキ操作に応じた制動力を得る。
【解決手段】ストロークシミュレータ22のシミュレータ室2fとリザーバタンク82とを連通する流体供給路84中にキャンセラ弁81を設け、ブレーキバイワイヤの失陥時にキャンセラ弁81を閉鎖して、シミュレータ室2fからリザーバタンク82への流れを阻止しているので、ロスストロークを防止し、マスターシリンダ21の圧力室2d,2eで生じた制動圧を無駄なくホイールシリンダに伝達し、運転者の意思に沿った制動力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応答性に優れた車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキバイワイヤを行う車両用ブレーキ装置では、圧力ポンプなどのマスターシリンダとは別の制動源を用い、これをブレーキペダルの操作量などに基づいて駆動制御して、運転者の制動意思に応じた制動力を発生させている。また、ブレーキバイワイヤを行っているときは、マスターシリンダに代わって、ストロークシミュレータにより運転者に対してペダルフィーリングを発生させている。このようなストロークシミュレータの例を特許文献1に示す。
【0003】
特許文献1に示すストロークシミュレータはマスターシリンダと一体に形成されており、このように一体化すると省スペース化できるという利点がある。一体化されたストロークシミュレータでは、ペダルフィーリングを発生させる圧力室とリザーバタンクとを連通させることで、作動流体を逃がし、板踏み状態とならないよう、適度なペダルフィーリングを発生させている。
【特許文献1】特開2002−356159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようにマスターシリンダとストロークシミュレータとを一体化した場合、マスターシリンダのピストンとストロークシミュレータのピストンが連動する。従って、特許文献1のように、リザーバタンクとストロークシミュレータの圧力室とを連通させた場合、ブレーキバイワイヤが失陥し、マスターシリンダを制動源とする制動系統へ切り替えたときに、ストロークシミュレータの圧力室から作動流体を逃がす分ロスストロークが生じるという問題がある。ロスストロークが生じると、運転者はブレーキペダルの踏み込みに応じた目的の減速度が得られない。
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、ロスストロークを防止し、ブレーキペダルの踏み込みに応じた減速を実現可能な車両用ブレーキ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、本発明の車両用ブレーキ装置は、マスターシリンダを制動源とした第1の制動系統と、圧力ポンプを制動源とした第2の制動系統と、を備えた車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込みに応じて昇圧されるストロークシミュレータと、前記ストロークシミュレータの圧力室とリザーバタンクとを連通する流体供給路と、前記第2の制動系統の失陥時に、前記ストロークシミュレータの圧力室からリザーバタンクへの前記流体供給路中の流れを遮断する遮断手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用ブレーキ装置は、ロスストロークを防止し、運転者の制動意思を確実に反映した制動効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[第1実施形態]
(構成)
図1は、ブレーキバイワイヤを実行可能な車両用ブレーキ装置の構成図である。図1の車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル1に運転者のペダル踏力が入力されると、タンデム形シリンダ2に伝達される。
タンデム形シリンダ2は、マスターシリンダ21と、単動シリンダ状のストロークシミュレータ22と、が直列に配列され、一体的に形成されたものである。具体的には、タンデム形シリンダ2のシリンダ内部に3つのピストン2a,2b,2cが順に配され、これら前後のピストン同士又はピストン2cとシリンダ底部とがスプリング2g,2h,2iによって夫々連結され、弾性的に支持されている。これらスプリング2g,2h,2iが配された空間は、互いに隔離された2つの圧力室2d,2e又はシミュレータ室2fとなっている。
【0008】
このうち、マスターシリンダ21は、後方に配置された2つの圧力室2d,2e、スプリング2g,2h及び2つのピストン2a,2bで構成される。すなわち、マスターシリンダ21自体も、2つのシリンダが直列に結合したタンデム形のシリンダとなっている。以下、マスターシリンダ21を構成する2つのシリンダのうち、後方に結合したシリンダ側をプライマリ側、前方に結合したシリンダ側をセカンダリ側と記述する。プライマリ側の圧力室2dは、フロント左のホイールシリンダ3FLに連通され、セカンダリ側の圧力室2eは、フロント右のホイールシリンダ3FRに連通される。また、2つの圧力室2d,2eは、リザーバタンク82に夫々連通しており、ピストン2a,2bがノーマル位置にあるときに圧力室2d,2eにブレーキ液が充填される。ピストン2a,2bが前進すると、この連通路(図示せず)がピストン2a,2bで塞がれるため、圧力室2d,2eが気密に保たれ、液圧が発生し、前記フロント左右のホイールシリンダ3FL,3FRに液圧が供給される。なお、ここでは、前輪のみにマスターシリンダ21から液圧を供給する構成としているが、前輪及び後輪の双方、又は後輪のみにマスターシリンダ21から液圧を供給する構成としてもよい。
【0009】
また、ストロークシミュレータ22は、前方に配置されたシミュレータ室2f、スプリング2i及びピストン2cで構成されている。シミュレータ室2fは、流体供給路84を介してリザーバタンク82に連通し、ブレーキ液が充填されると共に、別の部分では出力流路85が接続しており、これを介して後述するギアポンプ5p,5sに連通している。なお、流体供給路84にはキャンセラバルブ81が介装され、流体供給路84を開閉可能になっている。
フロント左右のホイールシリンダ3FL,3FRは、夫々、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキに内蔵されている。なお、リア左右のホイールシリンダ3RL,3RRについても同様である。
【0010】
次に、これらのホイールシリンダ3FL,3FR,3RL,3RRを制御する油圧系統について説明する。ここでは、ダイアゴナルスプリット方式を採用しているため、フロント左・リア右のホイールシリンダ3FL,3RRと、フロント右・リア左のホイールシリンダ3FR,3RLとが異なる油圧系統に分割されている。以下、フロント左・リア右のホイールシリンダ3FL,3RRを制御する油圧系統をプライマリ側の油圧系統、フロント右・リア左のホイールシリンダ3FR,3RLを制御する油圧系統をセカンダリ側の油圧系統として記述する。なお、ダイアナゴルスプリット方式に限らず、フロント左右のブレーキ系統とリア左右のブレーキ系統とで分割する前後スプリット方式を採用してもよい。
【0011】
セカンダリ側の油圧系統は、前記のようにフロント右のホイールシリンダ3FRの制御系統と、リア左のホイールシリンダ3RLの制御系統と、からなっている。まず、フロント右のホイールシリンダ3FRの制御系統について説明すると、当該制御系統は、マスターシリンダ21のセカンダリ側の圧力室2eとホイールシリンダ3FRとを連通する通常ブレーキ経路と、リザーバタンク82から出力流路85及びギアポンプ5sを介してホイールシリンダ3FRに連通する第1の増圧経路と、リザーバタンク82からホイールシリンダ3FRに連通する第1の減圧経路と、を備える。また、これらの経路を選択的に切り替えるべく、通常ブレーキ経路上には当該経路を開閉可能なゲートバルブ4sが介装され、第1の増圧経路上には当該経路を開閉可能なインレットバルブ6FRが介装され、第1の減圧経路には当該経路を開閉可能なアウトレットバルブ7FRが介装されている。なお、これらの経路は、一部で互いに流路を共用している。
【0012】
また、リア左のホイールシリンダ3RLの制御系統は、リザーバタンク82から出力流路85及びギアポンプ5sを介してホイールシリンダ3RLに連通する第2の増圧経路と、リザーバタンク82からホイールシリンダ3RLに連通する第2の減圧経路と、を備える。また、両経路を選択的に切り替えるべく、前記と同様に、第2の増圧経路上にはインレットバルブ6RLが介装され、第2の減圧系路上にはアウトレットバルブ7RLが介装されている。なお、両経路は、一部で互いに流路を共用している。また、図中の符号9はチェックバルブであり、一方向の油流だけを許容すべく設けられている。
【0013】
以上、セカンダリ側の油圧系統について説明したが、プライマリ側の油圧系統でも、ゲートバルブ4p、ギアポンプ5p、インレットバルブ6FL,6RR、アウトレットバルブ7FL,7RR、及びチェックバルブ9を備えており、セカンダリ側と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
前記のキャンセラバルブ81、ゲートバルブ4p,4s、インレットバルブ6FR,6RL,6FL,6RR、及びアウトレットバルブ7FR,7RL,7FL,7RRは、夫々、2ポート2ポジション切換え/スプリングオフセット式の電磁操作弁であって、キャンセラバルブ81、ゲートバルブ4s,4p、インレットバルブ6FR,6RL,6FL,6RR及びアウトレットバルブ7RL,7RRは、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ7FR,7FLは、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成されている。なお、インレットバルブ6FR,6RL,6FL,6RR及びアウトレットバルブ7RL,7RRは、励磁したオフセット位置で流路を開放するようにしてもよい。
【0014】
これらの弁、及び、ギアポンプ5s,5pは、図示しないコントローラによって駆動制御される。コントローラは、通常ブレーキとブレーキバイワイヤとの切り替えを行うと共に、ブレーキバイワイヤの実行時には、運転者のブレーキペダルの操作量に応じた目標減速度を達成するように、弁、及び、ギアポンプ5s,5pを制御する。運転者のブレーキペダル1の操作量は、マスターシリンダ圧やペダルストロークを各種センサで検出する。
【0015】
(動作)
次に、前記の構成の車両用ブレーキ装置の動作について説明する。なお、プライマリ側及びセカンダリ側の油圧系統の動作は略同じであるので、ここではプライマリ側の説明を省略する。
ブレーキバイワイヤの実行時は、ゲートバルブ4sが閉鎖されると共に、キャンセラバルブ81が励磁され、流体供給路84が開放される。この状態で、運転者によってブレーキペダル1が踏み込まれると、マスターシリンダ21のプライマリ側のピストン2aを押す。しかし、前記のようにゲートバルブ4pは閉鎖されているので、圧力室2d内のブレーキ液は流路に吸収されることなくセカンダリ側のピストン2bを押し、同様に圧力室2e内のブレーキ液も、ストロークシミュレータ22のピストン2cを押す。このとき、シミュレータ室2fは、流体供給路84が開放され、リザーバタンク82と連通しているため、ピストン2cに押されたブレーキ液がリザーバタンク82に吸収され、その分だけピストン2cが前進することで、ブレーキペダル1のストロークが許容される。同時に、ピストン2cに押されたブレーキ液の一部は、シミュレータ室2fと連通する出力流路85の方にも流れ出し、出力流路85の液圧を増加させる。また、ピストン2cの前進に対し、反対方向にスプリング2iの弾性力が働くことで、運転者にはペダル反力も演出される。
【0016】
さらに、ブレーキペダル1の踏み込みが検知されると、ギアポンプ5sが正方向に回転駆動され、リザーバタンク82に貯留されたブレーキ液を吸入し、その吐出圧がインレットバルブ6FR,6RLの側に伝達される。このとき、ゲートバルブ4sを励磁して閉鎖した状態で、インレットバルブ6FRを非励磁にして開放し、且つアウトレットバルブ7FRを非励磁にして閉鎖しておく。すなわち、増圧経路を開放し、その他の経路を遮断すると、ギアポンプ5sの吐出圧によってフロント右のホイールシリンダ3FRが増圧される。また、インレットバルブ6RLを非励磁にして開放し、且つアウトレットバルブ7RLを励磁して閉鎖しておくと、ギアポンプ5sの吐出圧によってリア左のホイールシリンダ3RLが増圧される。
【0017】
ところで、ブレーキペダル1の踏み込みが検知されると前記のようにギアポンプ5sが駆動されるが、ブレーキペダル1が踏み込まれてからギアポンプ5sの吐出側の液圧が目標の液圧になるまでには、遅延が発生する。しかし、前記のように、ブレーキペダル1が踏み込まれるのと略同時に出力流路85が増圧される。この吸い込み側の液圧が増圧される分、出力流路85を設けない場合と比較して、ギアポンプ5sによって増加させるべき液圧量(吐出側の目標の液圧と吸い込み側の液圧との差)が小さくなる。このため、駆動開始からギアポンプ5sによる液圧の増加量(ギアポンプ5sの吐出側の液圧と吸い込み側の液圧との差)が次第に大きくなって上記増加させるべき液圧量に達するまでの応答時間は、出力流路85を設けない場合と比較して短く、昇圧応答性が向上する。従って、本実施形態の車両用ブレーキ装置は、運転者の制動意思に対して優れた応答性を発揮することができる。
【0018】
一方、この状態で、運転者によるブレーキペダル1の踏力が低下すると、ストロークシミュレータ22のピストン2cがスプリング2iに付勢されて後退する。このとき、キャンセラバルブ81は開放しておくと、リザーバタンク82からシミュレータ室2fにブレーキ液が補充される。また、コントローラが踏力の低下を検知すると、ゲートバルブ4sを励磁して閉鎖した状態で、インレットバルブ6FRを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7FRを励磁して開放する。これにより、減圧経路が開放され、その他の経路が遮断されると、フロント右のホイールシリンダ3FRが減圧される。また、インレットバルブ6RLを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7RLを非励磁にして開放すると、リザーバタンク82との連通によって、リア左のホイールシリンダ3RLが減圧される。
【0019】
なお、ホイールシリンダ3FR(3RL)を保圧又は減圧するときに、ギアポンプ5sの回転駆動が停止していれば、チェックバルブ9がインレットバルブ6FR(6RL)を閉鎖した状態と同等の働きをするので、インレットバルブ6FR(6RL)は開放したままでもよい。そして、ゲートバルブ4s、インレットバルブ6FR、アウトレットバルブ7FRの全てを非励磁にすると、マスターシリンダ21の油圧がそのままフロント右のホイールシリンダ3FRに伝達される。
さらに、ブレーキバイワイヤを行っている状態で、ギアポンプ5sの故障等の異常が発生したものとすると、ゲートバルブ4s,4p、インレットバルブ6FR、アウトレットバルブ7FRの全てを非励磁にすることで、通常ブレーキ経路を開放し、他の経路を閉鎖する。また、キャンセラバルブ81を非励磁にして閉鎖する。
【0020】
この状態で、運転者によってブレーキペダル1が踏み込まれると、マスターシリンダ21のプライマリ側のピストン2aが前進する。このとき、前記のようにゲートバルブ4pが開放されているので、プライマリ側の圧力室2dで発生した液圧がプライマリ側の通常ブレーキ経路に出力される。また、プライマリ側の圧力室2dで発生した液圧に押されてセカンダリ側のピストン2bも前進し、セカンダリ側の圧力室2eで発生した液圧がセカンダリ側の通常ブレーキ経路に出力される。これにより、ホイールシリンダ3FR,3FLにマスターシリンダ21の液圧がそのまま伝達され、前輪に制動力が発生し通常ブレーキがなされる。
【0021】
一方、ストロークシミュレータ22のピストン2cも、マスターシリンダ21の圧力室2eで発生した液圧に押される。しかし、前記のようにキャンセラバルブ81やアウトレットバルブ7FR,RLは閉鎖されているので、シミュレータ室2f内のブレーキ液は流路に吸収されることなく、ピストン2cは静止したままとなる。これにより、ブレーキペダル1の無駄なストロークの増加を抑えることができる。
【0022】
なお、ゲートバルブ4sを励磁して閉鎖した状態で、インレットバルブ6FRを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7FRを非励磁にして閉鎖すると、ギアポンプ5sやリザーバタンク82との流路が遮断されることによって、フロント右のホイールシリンダ3FRの油圧が保持される。また、インレットバルブ6RLを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7RLを励磁して閉鎖すると、ギアポンプ5sやリザーバタンク82との流路が遮断されることによって、リア左のホイールシリンダ3RLの油圧が保持される。
【0023】
以上のように、第1実施形態の車両用ブレーキ装置は、ストロークシミュレータ22のシミュレータ室2fとリザーバタンク82とを連通する流体供給路84中にキャンセラ弁81を設け、ブレーキバイワイヤの失陥時(ギアポンプ5p,5sの故障等)にキャンセラ弁81を閉鎖して、シミュレータ室2fからリザーバタンク82への流れを阻止しているので、ロスストロークを防止し、マスターシリンダ21の圧力室2d,2eで生じた制動圧を無駄なくホイールシリンダに伝達し、運転者の意思に沿った制動力を得ることができる。ストロークシミュレータ22とギアポンプ5p,5sを連通する出力流路85を設けることで、ブレーキペダル1の踏み込みに応じてギアポンプ5p,5sの吸い込み側の液圧を増圧させることができ、ギアポンプ5p,5sの昇圧応答性を高めることができる。従って、運転者の意思を確実に反映した応答性に優れた制動効果を得られる。なお、実施形態中、ギアポンプ5p,5sを制動源としたブレーキバイワイヤの制動系統はマスタシリンダとは別の制動系統に相当し、図示しないコントローラ及びキャンセラ弁81は遮断手段に相当する。
【0024】
なお、本発明の適用は、上記第1実施形態に限定されない。例えば、ストロークシミュレータ22は、マスターシリンダ21の前方でなく、後方に配置させたものでもよい。この場合に、シミュレータ室2fに出力流路85及び流体供給路85を接続させるのは同じである。また、第1実施形態では、流体供給路85にキャンセラバルブ81を設けているが、キャンセラバルブ81は必ずしも設ける必要はない。但し、上記のようにキャンセラバルブ81を設け、流体供給路85をブレーキバイワイヤの実行時に開放し、通常ブレーキ時に閉鎖することで、通常ブレーキ時にペダルストロークが無駄に大きくなるのを防止できる。また、キャンセラバルブ81に代わる他の開閉機構により、上記作用効果を実現してもよい。例えば、ピストンの前進によって流体供給路85を塞ぐようにしてもよい。
【0025】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、第2実施形態の車両用ブレーキ装置の全体構成を示す図である。第2実施形態の車両用ブレーキ装置は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置と略同様の構成及び動作であるので、以下異なる点について、セカンダリ側の油圧系統を基に説明する。なお、プライマリ側の油圧系統については、セカンダリ側と同様であるので説明を省略する。
【0026】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、第1及び第2の増圧経路、第1及び第2の減圧経路を設けるが、増圧経路のうちリザーバタンク82から流体供給路84に至る部分は、増圧経路及び減圧経路で共用化せずに、減圧経路用に、リザーバタンク82に接続するドレン管路86を別に設けている点で異なっている。なお、図2では、分かり易くするために、ストロークシミュレータ22とギアポンプ5sとを連通させる流路を一部省略し、省略した流路の接続点を‘A’で示している。
【0027】
以上の構成の車両用ブレーキ装置の動作及び効果について説明する。
ブレーキバイワイヤの実行時には、ゲートバルブ4sが閉鎖され、キャンセラバルブ81が開放される。この状態で、ブレーキペダル1が踏み込まれたものとすると、第1実施形態と同様にシミュレータ室2fから流れたブレーキ液によって出力流路85が増圧される。このとき、コントローラによりペダル踏力の上昇が検出されると、第1実施形態のように、ギアポンプ5sが正方向に回転駆動される。また、インレットバルブ6FRが開放され、且つアウトレットバルブ7FRが閉鎖されて、ホイールシリンダ3FRが増圧される。また、インレットバルブ6RLを非励磁にして開放し、且つアウトレットバルブ7RLを励磁して閉鎖しておくと、ギアポンプ5sの吐出圧によってリア左のホイールシリンダ3RLが増圧される。このように、ストロークシミュレータ22と連通し、ギアポンプ5sの駆動当初の吸い込み側の液圧を高めることで、昇圧応答性に優れた制動効果を得られる。
【0028】
一方、この状態で、ブレーキペダル1の踏力が低下すると、キャンセラバルブ81が励磁され開放された状態で、ストロークシミュレータ22のピストン2cが後退し、これに伴い、シミュレータ室2fにリザーバタンク82からブレーキ液が吸い込まれる。また、コントローラによって、踏力の低下が検出されると、インレットバルブ6FRが閉鎖され、且つアウトレットバルブ7FRが開放される。これにより、リザーバタンク82とホイールシリンダ3FRが連通し、ホイールシリンダ3FRが減圧される。また、インレットバルブ6RLを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7RLを非励磁にして開放すると、リザーバタンク82との連通によって、リア左のホイールシリンダ3RLが減圧される。
【0029】
ところで、運転者の制動意思が弱くなり、ブレーキペダル1の踏力が小さくなったときに、キャンセラバルブ81が閉故障(閉じたまま開かなくなる故障)を起こしていることがある。このような場合、第1実施形態のように構成したとすると、アウトレットバルブ7FRがキャンセラバルブ81を介してリザーバタンク82に接続しているため、キャンセラバルブ81が開かないと、ブレーキ液がリザーバタンク82に排出されず、減圧されない。しかしながら、第2実施形態では、前記のように、アウトレットバルブ7FRとリザーバタンク82とが、ストロークシミュレータ22を介さずにドレン管路86により直接連通しているので、キャンセラバルブ81に閉故障が起きたとしても、ホイールシリンダ3FR,3RLが減圧される。すなわち、キャンセラバルブ81が故障しても、運転者の意思を反映して確実に制動力を弱めることができ、信頼性の高い制動効果を実現できる。
【0030】
なお、通常ブレーキ時の動作は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
以上のように、第2実施形態の車両用ブレーキ装置は、減圧経路用にキャンセラバルブ81を介さないドレン管路86を設けているので、キャンセラバルブ81の閉故障時にも減圧が可能であり、信頼性の高い制動効果を実現できる。なお、第1実施形態のように、出力流路85からリザーバタンク82に至るまでの流路を増圧経路と減圧経路で共用化した場合には、ピストン2cの後退によってシミュレータ室2fに瞬間的に出力流路85が減圧されるので、減圧応答性が高まる効果が期待できる。
【0031】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
図3は、第3実施形態の車両用ブレーキ装置の全体構成を示す図である。第3実施形態の車両用ブレーキ装置は、第2実施形態の車両用ブレーキ装置と略同様の構成及び動作であるので、以下異なる点について、セカンダリ側の油圧系統を基に説明する。なお、プライマリ側の油圧系統については、セカンダリ側と同様であるので説明を省略する。
第3実施形態では、ストロークシミュレータ22とリザーバタンク82とを連通させる流路に、電磁操作弁であるキャンセラバルブ81の代わりに、チェックバルブ83を介装している点が第2実施形態と異なっている。このチェックバルブ83は、リザーバタンク82からストロークシミュレータ22への流れのみを許容し、逆方向への流れを阻止する。
【0032】
以上の構成の車両用ブレーキ装置の動作及び効果について説明する。なお、キャンセラバルブ81の開閉動作以外は第2実施形態と同様であるので、キャンセラバルブ81の開閉動作以外の部分については詳細な説明を省略する。
ブレーキバイワイヤを行っているときに、ブレーキペダルが踏み込まれたものとすると、前記のようにストロークシミュレータ22のピストン2cが圧力室2eの液圧に押される。このとき、リザーバタンク82への流れはチェックバルブ83により阻止されるので、シミュレータ室2fで発生した液圧は、ギアポンプ5sと連通する流路に出力され、当該流路の液圧を上昇させる。また、コントローラによってブレーキペダルの踏み込みが検知されると、前記のように、ギアポンプ5sが駆動され、インレットバルブ6FRが開放され、且つアウトレットバルブ7FRが閉鎖される。このとき、チェックバルブ83はリザーバタンク82からの流れは許容するので、ストロークシミュレータ22を介してギアポンプ5sにブレーキ液が供給され、当該ブレーキ液がギアポンプ5sによって増圧されてホイールシリンダ3FRに伝達される。同様に、インレットバルブ6RLを非励磁にして開放し、且つアウトレットバルブ7RLを励磁して閉鎖しておくと、ギアポンプ5sの吐出圧によってリア左のホイールシリンダ3RLが増圧される。この過程において、前記のように、ストロークシミュレータ22のシミュレータ室2fで発生した液圧が駆動時にギアポンプ5sに伝えられるので、昇圧応答性が向上する。
【0033】
一方、この状態で、ブレーキペダル1の踏力が低下すると、前記のように、スプリング2iに付勢されてストロークシミュレータ22のピストン2cが後退する。このピストン2cの後退によるシミュレータ室2fの減圧に伴って、ブレーキ液がリザーバタンク82からチェックバルブ83を介してシミュレータ室2fに吸い込まれる。また、コントローラによってブレーキペダル1の踏力の低下が検出されると、ゲートバルブ4sを閉鎖した状態で、インレットバルブ6FRが閉鎖され、且つアウトレットバルブ7FRが開放される。これにより、リザーバタンク82とホイールシリンダ3FRが連通し、ホイールシリンダ3FRが減圧される。同様に、インレットバルブ6RLを励磁して閉鎖し、且つアウトレットバルブ7RLを非励磁にして開放すると、リザーバタンク82との連通によって、リア左のホイールシリンダ3RLが減圧される。
【0034】
さらに、ギアポンプ5sの故障等の異常が発生したものとすると、コントローラがゲートバルブ4s,4p、インレットバルブ6FR、アウトレットバルブ7FRの全てを非励磁にすることで、通常ブレーキ経路を開放し、他の経路を閉鎖する。
この状態で、運転者によってブレーキペダル1が踏み込まれると、マスターシリンダ21のピストン2a,2bが前進し、圧力室2d,2eで発生した液圧がホイールシリンダに伝達され、制動力が発生する。一方、ストロークシミュレータ22では、アウトレットバルブ7FR,RLが閉鎖され、またチェックバルブ83によってストロークシミュレータ22からリザーバタンク82への流れが阻止されているので、シミュレータ室2f内のブレーキ液は流出することなく、ピストン2cは静止したままとなる。これにより、ブレーキペダル1の無駄なストロークの増加が抑えられる。
【0035】
以上のように、キャンセラバルブ81の代わりにチェックバルブ83を用いた場合にも、キャンセラバルブ81を用いたのと略同じ動作及び制動効果を実現できる。このように、チェックバルブ83を用いると、電磁操作弁を用いるよりもコストを抑えることができる。また、コントローラによって制御する必要もないので簡便に設置でき、キャンセラバルブ81のような機械的部分以外の故障(例えば、制御線の断線による故障)がないため信頼性の高い車両用ブレーキ装置を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の車両用ブレーキ装置の構成を示す図である。
【図2】第2実施形態の車両用ブレーキ装置の構成を示す図である。
【図3】第3実施形態の車両用ブレーキ装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ブレーキペダル
2 タンデム形シリンダ
21 マスターシリンダ
22 ストロークシミュレータ
2a,2b,2c ピストン
2d,2e 圧力室
2f シミュレータ室
2g,2h,2i スプリング
3FL ホイールシリンダ
3FR ホイールシリンダ
3FL,3FR,3RL,3RR ホイールシリンダ
4s,4p ゲートバルブ
5p,5s ギアポンプ
6FR,6FL,6RR,6RL インレットバルブ
7FR,7FL,7RR,7RL アウトレットバルブ
81 キャンセラバルブ
82 リザーバタンク
83 チェックバルブ
84 流体供給路
85 出力流路
86 ドレン管路
9 チェックバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターシリンダとは別の制動源を用いた制動系統を備えた車両用ブレーキ装置において、
前記マスタシリンダと連結したシリンダとして形成され、圧力室が流体供給路を介してリザーバタンクに連通するストロークシミュレータと、
前記制動系統の失陥時に、前記ストロークシミュレータの圧力室からリザーバタンクへの前記流体供給路中の流れを遮断する遮断手段と、
を備えることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記制動系統の制動源として圧力ポンプを備え、
前記圧力ポンプの吸い込み側と前記ストロークシミュレータの圧力室とを連通する出力流路を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
リザーバタンクとホイールシリンダに供給された制動圧を減圧させるための減圧弁とを直通させるドレン管路を設けたことを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記遮断手段は、前記流体供給路に介装され、リザーバタンクから前記ストロークシミュレータの圧力室への流れのみを許容し、逆方向への流れを阻止するチェック弁を備えて構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記遮断手段は、
前記流体供給路に介装され、当該流体供給路を開閉する電磁弁と、
前記第2の制動系統の失陥時に、前記電磁弁を閉鎖するコントローラと、
を備えて構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
ブレーキペダルの踏み込みに応じストロークするストロークシミュレータを備えた車両用ブレーキ装置において、
前記ストロークシミュレータをマスタシリンダに連結すると共に、前記マスタシリンダで発生した制動圧を制動源として用いる時は前記ストロークシミュレータがストロークしない状態で、当該ストロークシミュレータとリザーバタンクとを連通させたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−265450(P2008−265450A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109125(P2007−109125)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】