説明

車両用ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】車両の乗員に違和感を与えることなく、車両関連情報の虚像の表示位置を調整する車両用HUD装置を、提供すること。
【解決手段】虚像36の表示位置を連続調整する調整指令が入力された場合に、安定点θsの間隔Iθよりも小さな設定角度Δθずつ電気角が変化するように駆動信号を制御することにより、ステッピングモータ40をマイクロステップ駆動する(S103)。その後、虚像36の表示位置を微調整する調整指令が入力された場合に、安定点θsの間隔Iθずつ電気角が変化するように駆動信号を制御することにより、ステッピングモータ40をフルステップ駆動する(S107)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示器により発光像を表示させ、その表示像をウインドシールド等の投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示する車両用HUD装置が、知られている。こうしたHUD装置の一種として特許文献1には、表示器の表示像を凹面鏡等の反射鏡により反射して、その反射像を投影部材へ投影する装置が、開示されている。このように反射鏡を利用することによれば、車両においてHUD装置が占有する設置スペースを小さくすることが、可能となる。
【0003】
さて、特許文献1に開示のHUD装置では、虚像の表示位置を調整するために、外部からの調整指令に従う駆動信号をステッピングモータに印加して、回転可能に設けた反射鏡を当該ステッピングモータにより回転駆動する構成が、採用されている。このような構成によれば、車両の乗員は調整指令をHUD装置へ入力することにより、車両関連情報の虚像を視認し易い状態にて表示させることが、可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示のHUD装置において、虚像の表示位置を乗員の嗜好に素早く且つ細かく対応させるには、調整指令に従って表示位置を滑らかに連続調整可能であることが、望ましい。ここで、虚像の表示位置を滑らかに連続調整する方法としては、ステッピングモータにおいて所定電気角毎に現れる安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御して、当該モータをマイクロステップ駆動する方法が、考えられる。
【0006】
しかし、そうしたマイクロステップ駆動の場合、表示位置の連続調整ではなく、微調整を乗員が実行しようとすると、表示位置の変化量が小さくなり過ぎて、乗員に違和感を与えるおそれがある。そこで、ステッピングモータにおいて安定点の間隔ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御して、当該モータをフルステップ駆動する方法を採用した場合、微調整には良いが、連続調整では滑らかさに欠けて乗員に違和感を与えるため、これも望ましくない。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両の乗員に違和感を与えることなく、車両関連情報の虚像の表示位置を調整する車両用HUD装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、発光像を表示する表示器と、回転可能に設けられて表示器の表示像を反射する反射鏡を有し、当該反射鏡の反射像を投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示させる光学系と、電気角に応じた振幅の駆動信号が印加されることにより、反射鏡を回転駆動して虚像の表示位置を調整するステッピングモータであって、所定の電気角毎に安定点が現れるステッピングモータと、外部から入力される調整指令に従って電気角が変化するように駆動信号を制御する制御系と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、制御系は、虚像の表示位置を連続調整する調整指令が入力された場合に、安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御することにより、ステッピングモータをマイクロステップ駆動するマイクロステップ駆動手段と、虚像の表示位置を微調整する調整指令が入力された場合に、安定点の間隔ずつ電気角が変化するように駆動信号を制御することにより、ステッピングモータをフルステップ駆動するフルステップ駆動手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
こうした請求項1に記載の発明では、ステッピングモータにより回転駆動される反射鏡の反射像を投影部材に投影してなる車両関連情報の虚像の表示位置につき、連続調整する調整指令が入力されると、ステッピングモータがマイクロステップ駆動されることになる。このマイクロステップ駆動においてステッピングモータへ印加される駆動信号は、電気角が安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ変化するように制御されるので、当該小さな設定角度ずつの電気角変化に応じて虚像表示位置は、滑らかに連続調整され得る。したがって、虚像の表示位置の連続調整時においては、車両の乗員に違和感を与えることがない。
【0010】
また一方、請求項1に記載の発明では、虚像の表示位置を微調整する調整指令が入力されると、ステッピングモータがフルステップ駆動されることになる。このフルステップ駆動においてステッピングモータへ印加される駆動信号は、電気角が安定点の間隔ずつ大きく変化するように制御されるので、当該電気角変化に応じて虚像表示位置も、乗員に違和感を与えない程度に大きな変化量にて微調整され得る。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、制御系は、操作部材に対する乗員操作が設定時間以上継続することにより、虚像の表示位置を連続調整する調整指令が入力される一方、操作部材に対する乗員操作が設定時間内に終了することにより、虚像の表示位置を微調整する調整指令が入力される入力手段、を有する。この発明では、操作部材に対する乗員操作が設定時間以上継続すると、調整指令の入力により、電気角変化の小さなマイクロステップ駆動がステッピングモータにおいて実現されるので、当該操作時間に応じて連続的に且つ当該電気角変化に応じて滑らかに虚像表示位置が調整され得る。また一方、操作部材に対する乗員操作が設定時間内に終了すると、調整指令の入力により、電気角変化の大きなフルステップ駆動がステッピングモータにおいて実現されるので、当該電気角変化に応じて小さ過ぎず且つ当該操作時間に応じて大き過ぎない程度に、虚像表示位置が微調整され得る。これらによれば、二種類の調整方法のうち車両の乗員が嗜好する調整方法を、当該乗員による操作部材の操作時間から的確に判断して、当該乗員に違和感を与えることなく、実行できるのである。
【0012】
人間行動学の見地によると、一般に車両の乗員は、虚像の表示位置を連続調整した後に、虚像の表示位置を微調整することになる。そこで、請求項3に記載の発明によると、虚像の表示位置を連続調整する調整指令が入力されることにより、マイクロステップ駆動手段がステッピングモータをマイクロステップ駆動した後、虚像の表示位置を微調整する調整指令が入力されることにより、フルステップ駆動手段がステッピングモータをフルステップ駆動する。即ち、一般的な行動に従って乗員は、ステッピングモータのマイクロステップ駆動により虚像表示位置を滑らかに連続調整した後、ステッピングモータのフルステップ駆動により虚像表示位置を適度な変化量にて微調整可能となるので、違和感の抑制効果が高められ得る。
【0013】
連続調整の調整指令の入力によるマイクロステップ駆動の終了後において、現在の電気角がいずれの安定点からも外れていると、安定点を起点に電気角を変化させるフルステップ駆動の場合、当該フルステップ駆動の開始が困難となる。そこで、請求項4に記載に発明によると、フルステップ駆動手段が安定点を起点に電気角を変化させる制御系は、虚像の表示位置を連続調整する調整指令が入力されることによるマイクロステップ駆動の終了後に、現在の電気角が安定点から外れている場合には、電気角が安定点まで変化するように駆動信号を制御することにより、ステッピングモータを強制駆動する強制駆動手段、を有する。これによれば、マイクロステップ駆動の終了後において現在の電気角が安定点から外れていても、強制駆動により電気角が安定点まで変化させられるので、当該安定点を起点とするフルステップ駆動を確実に開始して、違和感の抑制効果を発揮することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による車両用HUD装置の概略的構成を示す構成図である。
【図2】図1のHUD装置による虚像の表示状態を示す模式図である。
【図3】図1のステッピングモータ及び減速ギア機構を示す断面図である。
【図4】図1のステッピングモータ及び制御系の接続状態を示す電気ブロック図である。
【図5】図1のステッピングモータのコイルへ印加される駆動信号の例を示す特性図である。
【図6】図1の表示制御回路が実施する駆動信号制御のフローを示すフローチャートである。
【図7】図6の変形例のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態による車両用HUD装置1の概略的構成を示している。
【0016】
(基本構成)
まず、車両用HUD装置1の基本構成を説明する。車両に搭載されるHUD装置1は、ハウジング10、表示器20、光学系30、ステッピングモータ40、減速ギア機構50、調整スイッチ60及び制御系70を備えている。
【0017】
ハウジング10は、HUD装置1の他の要素20,30,40,50等を収容する中空形状に形成され、車両のインストルメントパネル2に設置される。ハウジング10は、車両の運転席前方に固定された「投影部材」としてのウインドシールド4と上下方向に対向する箇所に、透光性の出射窓14を有している。
【0018】
表示器20は、本実施形態では透過照明式の液晶パネルであり、画像を表示する画面22を有している。表示器20は、内蔵のバックライト(図示しない)により画面22が透過照明されることで、当該画面22の表示像を発光させる。このようにして表示器20に表示される発光像は、車両運転乃至は車両状態に関連した車両関連情報を報知するものであり、本実施形態では、例えば車両進行方向等のナビゲーション情報(図2参照)を報知する。但し、表示器20の表示像については、ナビゲーション情報以外にも、車速、燃料残量、冷却水温度等の物理量情報や、交通状況、安全状況等の車外状況情報を報知するものであってもよい。
【0019】
光学系30は、反射鏡32を含む複数の光学部材(図1において、反射鏡32以外は図示しない)からなり、表示器20の表示像を出射窓14へ出射する。ここで反射鏡32は、本実施形態では凹面鏡からなり、滑らかな曲面状に凹んだ反射面34を有している。反射鏡32は、表示器20から反射面34へ直接的乃至は間接的に入射される光学像としての表示像を、拡大して出射窓14側へと反射する。かかる反射鏡32の反射像は、出射窓14を通過してウインドシールド4へ投射されることにより、当該シールド4の前方にて結像される。その結果、表示器20の表示像により指示される車両関連情報は、虚像36(図2参照)として車両内の運転席側に表示されることとなる。
【0020】
反射鏡32は、ハウジング10に回転自在に支持された回転軸38を、有している。反射鏡32は、回転軸38が回転駆動されることにより、図2に示す如き虚像36の表示位置をウインドシールド4に対して上下方向に変化させる。ここで、光学系30及びウインドシールド4の光学特性に起因して本実施形態では、図2に実線で示す虚像36の下限表示位置Dlと、図2に破線で示す虚像36の上限表示位置Duとの間において、虚像36の表示が実現されるようになっている。
【0021】
図3に示すようにステッピングモータ40は、本実施形態ではクローポール構造の永久磁石型であり、回転子41及び固定子44を有している。ここで回転子41は、後述のギアケース51により回転自在に支持されるモータ軸42の外周側に、ロータ磁石43を組み付けてなる。ギアケース51に固定される固定子44は、図3,4に示す如く、A相を形成するクローポールヨーク45a及び一対のコイル46aと、B相を形成するクローポールヨーク45b及び一対のコイル46bとを組み合わせてなり、それらヨーク45a,45bのクローポールが機械角で1/2ピッチずらして配置されてなる。
【0022】
こうした構成のステッピングモータ40は、A,B各相のコイル46a,46bが駆動信号を受けて励磁することによりロータ磁石43を回転駆動させて、モータ軸42にモータトルクを発生させることとなる。さらにステッピングモータ40は、全てのコイル46a,46bへ駆動信号が印加されない消磁状態にあっても、それらコイル46a,46bとロータ磁石43との相互作用により、ディテントトルクをモータ軸42に発生させるようになっている。
【0023】
減速ギア機構50は、ステッピングモータ40を収容する中空形状のギアケース51内にて、複数のギア52〜59を直列に噛合させてなる。ここで、初段のギア52はモータ軸42に形成され、最終段のギア59は反射鏡32の回転軸38に形成されている。したがって、ステッピングモータ40がモータ軸42の回転によって発生するモータトルクは、各ギア52〜59間の減速比(ギア比)に応じて増幅されて回転軸38へと伝達されることにより、反射鏡32を回転駆動するトルクとなる。ここで、ステッピングモータ40が正回転するときは、虚像36の表示位置が上方へ移動するように反射鏡32も正回転し、ステッピングモータ40が逆回転するときは、虚像36の表示位置が下方へ移動するように反射鏡32も逆回転するようになっている。
【0024】
図1,4に示す調整スイッチ60は、車両内の運転席上の乗員により押し操作可能に設置されている。調整スイッチ60は、虚像36の表示位置を上方向に移動させるためのアップ調整指令と、虚像36の表示位置を下方向に移動させるためのダウン調整指令との二種類を乗員により選択的に入力可能に、例えばプッシュ式等の二つの操作部材62,63を有している。調整スイッチ60は、操作部材62の乗員操作により入力されるアップ調整指令に応じた指令信号と、操作部材63の乗員操作により入力されるダウン調整指令に応じた指令信号とを、それぞれ区別して出力可能となっている。
【0025】
制御系70は、表示制御回路72及び複数のスイッチング素子74を組み合わせてなり、ハウジング10の内部乃至は外部に配置されている。表示制御回路72は、本実施形態ではマイクロコンピュータを主体に構成された電気回路であり、表示器20及び調整スイッチ60に電気接続されている。図4に示すように各スイッチング素子74は、本実施形態ではコレクタがいずれかのコイル46a,46bに電気接続されるトランジスタであり、エミッタ及びベースがそれぞれアース(図示しない)及び表示制御回路72に電気接続されている。各スイッチング素子74は、表示制御回路72から入力されるベース信号に従って、A,B各相のコイル46a,46bへ印加する駆動信号の振幅を変化させる。そこで以下では、表示制御回路72によりスイッチング素子74へのベース信号を制御することを、コイル46a,46bへの駆動信号を制御することとして、説明する。
【0026】
こうした構成の制御系70において表示制御回路72は、表示器20による画像の表示を制御する。それと共に表示制御回路72は、調整スイッチ60から入力される指令信号に応じて、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を制御する。具体的には、操作部材62の操作によるアップ調整指令に応じて表示制御回路72は、ステッピングモータ40と共に反射鏡32を正回転駆動するように各相のコイル46a,46bへの駆動信号の電気角を制御することで、虚像36の表示位置を上方へと変化させる。また一方、操作部材63の操作によるダウン調整指令に応じて表示制御回路72は、ステッピングモータ40と共に反射鏡32を逆回転駆動するように各相コイル46a,46bへの駆動信号の電気角を制御することで、虚像36の表示位置を下方へと変化させるのである。
【0027】
(特徴部分)
次に、本実施形態による車両用HUD装置1の特徴部分を説明する。HUD装置1においてA,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号は、固定子44を二相励磁するようにして、図5に例示する如くステッピングモータ40の電気角に応じた振幅(本実施形態では電圧振幅)に、制御される。これにより各相コイル46a,46bへの駆動信号は、上述のディテントトルクが実質90度の電気角毎に最大となる安定点θsにおいて、図5に例示の如き最大振幅(Vmax)又は最小振幅(0)を実現するように、制御されることとなる。
【0028】
ここで、A相コイル46aの一方への駆動信号につき、マイクロステップ駆動、強制駆動及びフルステップ駆動をステッピングモータ40にて実施する場合の制御特性を、それぞれ図5の各分図(a),(b),(c)に例示する。図5(a)に示すマイクロステップ駆動では、安定点θsの間隔Iθ(即ち、実質90度)よりも小さな設定角度Δθずつ電気角が変化するように、駆動信号を制御する。図5(b)に示す強制駆動では、マイクロステップ駆動終了時点の電気角がいずれの安定点θsからも外れている場合に(同分図のθo)、当該マイクロステップ駆動時の変化方向にて直近となる安定点θsまで電気角が変化するように、駆動信号を制御する。図5(c)に示すフルステップ駆動では、いずれかの安定点θsを起点として間隔Iθずつ電気角が変化するように、駆動信号を制御する。
【0029】
これらの駆動形態を実現するHUD装置1において表示制御回路72は、調整スイッチ60から入力される指令信号に応じて駆動形態を切り換えることにより、各相コイル46a,46bへの駆動信号を適切に制御して、虚像36の表示位置を調整する。そこで、以下では、表示制御回路72がコンピュータプログラムの実行によって実施する駆動信号制御のフローにつき、図6を参照しつつ詳細に説明する。尚、図6の駆動信号制御フローは、車両のエンジンスイッチがオンされるのに応じて開始され、当該エンジンスイッチがオフされるのに応じて終了する。
【0030】
まず、S101では、アップ調整指令及びダウン調整指令の入力の有無を、調整スイッチ60からの指令信号に基づき判定する。双方の調整指令の無判定が下される間は、A,B各相のコイル46a,46bのいずれに対しても駆動信号の印加を停止したまま、S101を繰り返すのに対し、いずれか一方の調整指令について有判定が下された場合には、S102へ移行する。
【0031】
アップ調整指令又はダウン調整指令の有判定により移行するS102では、操作部材62,63のうち当該有判定対象の調整指令に対応した一方の操作につき、その開始から設定時間T以上継続しているか否かを、調整スイッチ60からの指令信号に基づき判定する。尚、時間Tについては、調整スイッチ60の操作の開始から虚像36の表示位置が変化するまでの時間に起因して乗員に違和感やストレスを感じさせることがないように、例えば0.5秒程度に予め設定されるが、他の値に予設定しても勿論よい。
【0032】
操作部材62,63のうち一方の長押しにより当該一方の操作が設定時間T以上継続した場合には、当該一方の操作に対応するアップ調整指令及びダウン調整指令が虚像36の表示位置の連続調整を指令するものとして、S102からS103に移行する。このS103では、図5(a)に例示の如きマイクロステップ駆動をステッピングモータ40において実施するように、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を制御する。即ち、調整指令のアップ又はダウンに従う方向において、現在の電気角から、安定点θsの間隔Iθよりも小さな設定角度Δθだけ離れた次の電気角まで、駆動信号を変化させる。その結果、ステッピングモータ40の電気角変化に応じて反射鏡32が正回転駆動又は逆回転駆動され、操作部材62又は操作部材63の長押しの間は連続して、虚像36の表示位置が上方又は下方へと調整されるのである。尚、角度Δθについては、虚像36の表示位置調整が滑らかとなるように、例えば図5(a)の如く18度程度に予め設定されるが、他の値に予設定しても勿論よい。
【0033】
図6に示すようにS103から続くS104では、操作部材62,63の一方の操作による調整指令の入力が終了したか否かを、調整スイッチ60からの指令信号に基づき判定する。即ち、操作部材62,63のうち一方の操作中は継続されて虚像36の表示位置の連続調整を実現することとなるマイクロステップ駆動につき、終了したか否かを判定する。そして、マイクロステップ駆動の終了判定が下されると、S104からS105へ移行して、現在の電気角は安定点θsであるか否かを判定することとなる。
【0034】
マイクロステップ駆動の終了直後に現在の電気角が安定点θsから外れている場合は、S105からS106へ移行することで、図5(b)に例示の如き強制駆動をステッピングモータ40にて実施するよう、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を制御する。即ち、直近のS103によるマイクロステップ駆動時の電気角変化の方向において、現在の電気角から、次の安定点θsまで、駆動信号を変化させる。その結果、安定点θsからずれた電気角においてマイクロステップ駆動が終了した場合であっても、ステッピングモータ40の電気角は、いずれかの安定点θsまで強制変化させられることとなる。
【0035】
以上、操作部材62,63のうち一方の長押しにより当該一方の操作が設定時間T以上継続した場合について、説明した。これに対して、操作部材62,63のうち一方の短押しにより当該一方の操作が設定時間T内に終了した場合には、当該一方の操作に対応するアップ調整指令及びダウン調整指令が虚像36の表示位置の微調整を指令するものとして、S102からS107に移行する。このS107では、図5(c)に例示の如きフルステップ駆動をステッピングモータ40において実施するように、A,B各相のコイル46a,46bへの駆動信号を制御する。即ち、調整指令のアップ又はダウンに従う方向において、現在の電気角である一安定点θsから、間隔Iθだけ離れた次の安定点θsまで、駆動信号を変化させる。その結果、ステッピングモータ40の電気角の変化に応じて反射鏡32が正回転駆動又は逆回転駆動され、操作部材62又は操作部材63の短押しに応じた短い時間にて、虚像36の表示位置が上方又は下方へと微調整されるのである。
【0036】
図6に示すように、S105〜S107のいずれかの実行後には、S101へ戻ることにより、エンジンスイッチがオフされるまで、当該S101及び後続のS101〜S107が繰り返されることとなる。したがって、乗員の一般的な行動によれば、まず、操作部材62又は操作部材63が設定時間T以上の長押しをされると、ステッピングモータ40がマイクロステップ駆動されて、虚像36の表示位置が連続調整される(一回り目のフローのS101〜104)。ここで、マイクロステップ駆動において駆動信号は、操作部材62又は操作部材63の長押しの間、電気角が安定点θsの間隔Iθよりも小さな設定角度Δθずつ変化するように、制御される。したがって、かかるマイクロステップ駆動により虚像36の表示位置は、操作部材62又は操作部材63の操作時間に応じて連続的に、且つ小さな設定角度Δθずつの電気角変化に応じて滑らかに、調整され得るのである。
【0037】
こうしたマイクロステップ駆動の終了後に、ステッピングモータ40の電気角が安定点θsから外れている場合には、ステッピングモータ40の強制駆動により、当該電気角がいずれかの安定点θsまで変化させられる(一回り目のフローのS105,S106)。一方、ステッピングモータ40の電気角が安定点θsと一致している場合には、当該電気角がそのまま保持される(一回り目のフローのS105)。このように本実施形態では、マイクロステップ駆動の後、乗員の一般的な行動により操作部材62又は操作部材63が短押しされる前には、電気角が必ず安定点θsに制御されることとなる。
【0038】
そして、電気角が安定点θsに制御された状態下、乗員により操作部材62又は操作部材63が設定時間T内の短押しをされると、ステッピングモータ40が当該安定点θsを起点にフルステップ駆動されて、虚像36の表示位置が微調整される(二回り目のフローのS101,S102,S107)。ここで、フルステップ駆動において駆動信号は、操作部材62又は操作部材63の短押しの間は、電気角が安定点θs間をその間隔Iθずつ変化するように、制御される。したがって、かかるフルステップ駆動により虚像36の表示位置は、安定点θsの間隔Iθずつの電気角変化に応じて小さ過ぎず、且つ操作部材62又は操作部材63の操作時間に応じて大き過ぎない程度に、微調整され得るのである。
【0039】
ここまで説明したことから、本実施形態のHUD装置1によれば、虚像36の表示位置に関する二種類の調整方法のうち乗員が嗜好する調整方法を、当該乗員による操作時間から的確に判断して、当該乗員に違和感を与えることなく実行できるのである。尚、本実施形態では、S101〜S104を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「マイクロステップ駆動手段」に相当し、S101,S102,S107を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「フルステップ駆動手段」に相当し、S104〜S106を実行する表示制御回路72が特許請求の範囲に記載の「強制駆動手段」に相当している。
【0040】
(他の実施形態)
さて、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0041】
具体的に、駆動信号制御フローのS106では、直近のS103によるマイクロステップ駆動時の電気角変化の方向において、現在の電気角から、次の安定点θsよりも先の安定点θsまで駆動信号を変化させるように、強制駆動を実施してもよい。また、駆動信号制御フローのS106では、直近のS103によるマイクロステップ駆動時の電気角変化の方向とは反対方向において、現在の電気角から、次の乃至はその先の安定点θsまで駆動信号を変化させるように、強制制御を実施してもよい。さらに、駆動信号制御フローの変形例を図7に示すように、S105,S106をS102,S107間にて実施してもよい。尚、この場合にも、乗員の一般的な行動により、連続調整用のマイクロステップ駆動(一回り目のフローのS101〜S104)が実施された後、設定時間T内の乗員操作が確認されると(二回り目のフローのS101,S102)、強制駆動(二回り目のフローのS105,S106)によって又はそのままの保持(二回り目のフローのS105)によって電気角が安定点θsに制御され、当該制御状態下、微調整用のフルステップ駆動(二回り目のフローのS107)が実施されることとなる。
【0042】
加えて、ステッピングモータ40としては、ディテントトルクに応じて安定点が現れるものであれば、上記実施形態の永久磁石型以外にも、例えばハイブリッド型等を採用してもよい。また加えて、表示器20としては、上記実施形態の液晶パネル以外にも、例えばEL(Electro-Luminescence)パネルやインジケータ等により発光像を表示するものを、採用してもよい。さらに加えて、反射鏡の反射像を投影させる「投影部材」としては、上記実施形態の如く車両に固定されたウインドシールド4以外にも、例えばHUD装置1に専用に設けられるコンバイナ等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用HUD(ヘッドアップディスプレイ)装置 2 インストルメントパネル、4 ウインドシールド(投影部材)、10 ハウジング、14 出射窓、20 表示器、22 画面、30 光学系、32 反射鏡、34 反射面、36 虚像、38 回転軸、40 ステッピングモータ、41 回転子、42 モータ軸、43 ロータ磁石、44 固定子、45a,45b クローポールヨーク、46a,46b コイル、50 減速ギア機構、51 ギアケース、60 調整スイッチ、62,63 操作部材、70 制御系、72 表示制御回路(マイクロステップ駆動手段・フルステップ駆動手段・強制駆動手段)、74 スイッチング素子、T 設定時間、θs 安定点、Iθ 間隔、Δθ 設定角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光像を表示する表示器と、
回転可能に設けられて前記表示器の表示像を反射する反射鏡を有し、当該反射鏡の反射像を投影部材へ投影することにより、車両関連情報の虚像を表示させる光学系と、
電気角に応じた振幅の駆動信号が印加されることにより、前記反射鏡を回転駆動して前記虚像の表示位置を調整するステッピングモータであって、所定の前記電気角毎に安定点が現れるステッピングモータと、
外部から入力される調整指令に従って前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御する制御系と、
を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、
前記制御系は、
前記虚像の表示位置を連続調整する前記調整指令が入力された場合に、前記安定点の間隔よりも小さな設定角度ずつ前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御することにより、前記ステッピングモータをマイクロステップ駆動するマイクロステップ駆動手段と、
前記虚像の表示位置を微調整する前記調整指令が入力された場合に、前記安定点の間隔ずつ前記電気角が変化するように前記駆動信号を制御することにより、前記ステッピングモータをフルステップ駆動するフルステップ駆動手段と、
を有することを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記制御系は、
操作部材に対する乗員操作が設定時間以上継続することにより、前記虚像の表示位置を連続調整する前記調整指令が入力される一方、前記操作部材に対する乗員操作が前記設定時間内に終了することにより、前記虚像の表示位置を微調整する前記調整指令が入力される入力手段、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記虚像の表示位置を連続調整する前記調整指令が入力されることにより、前記マイクロステップ駆動手段が前記ステッピングモータをマイクロステップ駆動した後、前記虚像の表示位置を微調整する前記調整指令が入力されることにより、前記フルステップ駆動手段が前記ステッピングモータをフルステップ駆動することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記フルステップ駆動手段が前記安定点を起点に前記電気角を変化させる前記制御系は、
前記虚像の表示位置を連続調整する前記調整指令が入力されることによるマイクロステップ駆動の終了後に、現在の電気角が前記安定点から外れている場合には、前記電気角が前記安定点まで変化するように前記駆動信号を制御することにより、前記ステッピングモータを強制駆動する強制駆動手段、
を有することを特徴とする請求項3に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23806(P2012−23806A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157827(P2010−157827)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】