説明

車両用制動制御装置

【課題】停車中、プライマリピストンを戻り移動させる際にブレーキペダルの踏力およびストロークの変動を抑制して運転者の違和感をなくすことにある。
【解決手段】車両の停車中、電動式制動力補助手段の電動機でプライマリピストンを戻り移動させる際に、ホイールシリンダ圧低下手段が、VDC制御システムの電動ポンプでホイールシリンダ内に作動液を供給しつつそのホイールシリンダ内の作動液をリザーバに抜いてそのホイールシリンダの圧力を電動機の連続稼動可能圧力まで低下させ、次いでマスターシリンダ圧低下手段が、リザーバに蓄えた作動液を電動ポンプでマスターシリンダに戻しながら、プライマリピストンを電動機で、そのマスターシリンダの圧力によるインプットロッドの反力とプライマリピストンにより押し戻されるオフセットスプリングからの反力との和を一定に維持しつつ所定位置まで戻り移動させて、そのマスターシリンダの圧力を電動機の連続稼動可能圧力まで低下させる、車両の制動力制御装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式制動力補助手段を具える車両の制動力を制御する装置に関し、特にはさらに運転者のブレーキ操作量から独立して車輪の制動力を制御するとともにマスターシリンダの圧力に応じて車輪の制動力を制御する自動ブレーキ手段を具える車両の制動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述した電動式制動力補助手段としては従来、例えばブレーキペダルに連結されたインプットロッドと、そのインプットロッドを囲繞するとともに電動機によりボールねじ機構を介して進退駆動される筒状のプライマリピストンとをマスターシリンダに嵌挿するとともに、インプットロッドにその前進によりプライマリピストンと当接する当接部を設け、電動機の失陥時にインプットロッドの当接部をプライマリピストンに当接させてそれらでブレーキペダルの踏力を液圧に変換できるようにした電動式ブレーキ倍力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した電動式ブレーキ倍力装置では、長時間電動機に高出力を発生させると電動機が発熱し故障する可能性があるため、車両が停車した状態でブレーキペダルが踏まれている間は、電動機の駆動電流を抑制してプライマリピストンを戻し移動させる場合がある。
【0004】
しかしながら、プライマリピストンを戻し移動させると、マスターシリンダの圧力が低下するためブレーキペダルの反力(踏み応え)が低下し、これに対して運転者が踏力を維持しようとすると、ブレーキペダルのストロークが踏み込み方向に変動して運転者に違和感を与えという問題がある。
【0005】
本願発明は、ビークル・ダイナミクス・コントロールシステム(VDC)等の制動力制御装置の電動ポンプおよびリザーバが、マスターシリンダに作動液を戻す機能を持つ点に着目した本発明者が、この機能を利用することで、前述した従来の電動式制動力補助手段の課題を有利に解決するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した従来技術の課題を有利に解決するこの発明の車両の制動力制御装置は、前記車両が停車中であることを検知する車両停車中検知手段と、前記インプットロッドの位置を検出するインプットロッド位置検出手段と、前記プライマリピストンの位置を検出するプライマリピストン位置検出手段と、前記車両停車中検知手段が検知している前記車両の停車中、前記電動機で前記プライマリピストンを戻り移動させる際に、前記電動ポンプで前記ホイールシリンダ内に作動液を供給しつつそのホイールシリンダ内の作動液を前記リザーバに抜いてそのホイールシリンダの圧力を前記電動機の連続稼動可能圧力まで低下させるホイールシリンダ圧低下手段と、前記リザーバに蓄えた作動液を前記電動ポンプで前記マスターシリンダに戻しながら、前記プライマリピストン位置検出手段が位置を検出する前記プライマリピストンを前記電動機で、そのマスターシリンダの圧力による前記インプットロッドの反力と前記プライマリピストンにより押し戻される前記オフセットスプリングからの、前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置に応じた反力との和を一定に維持しつつ所定位置まで戻り移動させて、そのマスターシリンダの圧力を前記電動機の連続稼動可能圧力まで低下させるマスターシリンダ圧低下手段と、を具えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
かかるこの発明の車両の制動力制御装置にあっては、車両の停車中、電動式制動力補助手段の電動機でプライマリピストンを戻り移動させる際に、先ずホイールシリンダ圧低下手段が、電動ポンプでホイールシリンダ内に作動液を供給しつつそのホイールシリンダ内の作動液をリザーバに抜いてそのホイールシリンダの圧力を電動式制動力補助手段の電動機の連続稼動可能圧力まで低下させ、次いでマスターシリンダ圧低下手段が、リザーバに蓄えた作動液を電動ポンプでマスターシリンダに戻しながら、プライマリピストン位置検出手段が位置を検出するプライマリピストンを上記電動機で、そのマスターシリンダの圧力によるインプットロッドの反力とプライマリピストンにより押し戻されるオフセットスプリングからの、インプットロッド位置検出手段が検出するインプットロッドの位置に応じた反力との和を一定に維持しつつ所定位置まで戻り移動させて、そのマスターシリンダの圧力を上記電動機の連続稼動可能圧力まで低下させる。
【0008】
従って、この発明の車両の制動力制御装置によれば、停車中、プライマリピストンを戻り移動させる際に、リザーバに蓄えた作動液をマスターシリンダに戻しながら、マスターシリンダの圧力によるインプットロッドの反力とプライマリピストンにより押し戻されるオフセットスプリングからの反力との和であるブレーキペダルの反力(踏み応え)を一定に維持するので、電動機の駆動電流を抑制してプライマリピストンを戻し移動させ電動機の発熱による故障を防止しつつ、ブレーキペダルの踏力およびストロークの変動を抑制して運転者の違和感をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明の車両の制動力制御装置の一実施例の液圧ブレーキ系統を含む、車両のブレーキ装置を示す液圧回路図、図2は、その実施例の制動力制御装置の電気制御系統を示すブロック線図、図3はその実施例の制動力制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【0010】
図1,2に示すこの実施例の制動力制御装置は、車両のブレーキ装置に設けられて、運転者操作ブレーキ手段としての、運転者のブレーキペダル操作に応じて各車輪を制動する通常のマニュアルブレーキシステムと、自動ブレーキ手段としての、各車輪の制動力を別個に制御して車両の走行安定性を向上させるビークル・ダイナミクス・コントロールシステム(VDC)とを構成するとともに、電動式制動液圧ブースタの制御システムも構成するものである。
【0011】
ビークル・ダイナミクス・コントロールシステム(VDC)は、車両姿勢が乱れた際に車両姿勢等を各種センサによって感知し、各車輪の制動力を別個に制御して、車両の横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を発揮する制動力制御装置として知られている。
【0012】
このVDCは、運転者が操作するブレーキペダルと連結するマスターシリンダと、各車輪を制動するホイールシリンダとを連結する液圧ブレーキ系統に、インレットバルブ、アウトレットバルブ、加圧用の電動ポンプ、減圧用のリザーバといった各種制御弁、液圧給排手段を配設し、これらを作動させることで、ホイールシリンダ圧を各輪独立に増減圧する。
【0013】
上述の制動力制御による制動力は、運転者によるブレーキペダルのブレーキ操作量に比例するマスターシリンダ圧に必ずしも応じたものではない。また、このような制動力制御は、上記VDCによる走行制御の他に、トラクション制御やアンチスキッド制御といった各種の走行制御にも適用できる。
【0014】
かかるVDCのため、この実施例の制動力制御装置は、図2に示すように、VDC制御コントローラ101を具えている。このVDC制御コントローラ101は、例えばマイクロコンピュータで構成され、各種センサ・スイッチからの検出信号に基づき液圧ブレーキ系統102に指令を出力して、車両の各車輪の制動力を制御する。このためVDC制御コントローラ101には、当該車両の前後左右の4つの車輪の各々の車輪速度を検出する例えば電磁誘導式の車輪速センサ106からの信号と、当該車両のステアリングホイールの操舵角を検出する光学式・非接触型の操舵角センサ107からの信号と、当該車両の車体の横Gおよびヨーレイトを検出する横G・ヨーレイトセンサ108からの信号と、当該車両のブレーキペダルから入力されるマスターシリンダの圧力を検出するマスターシリンダ圧センサ109からの信号と、運転者がブレーキペダルを踏み込んだことを検出するブレーキスイッチ110からの信号とを入力する。
【0015】
そしてVDC制御を実行する際は、VDC制御コントローラ101は、液圧ブレーキ系統102の電気制御部品である第1ゲートバルブ12,インレットバルブ13,アウトレットバルブ15,第2ゲートバルブ16および電動ポンプ17に駆動指令を出力する。なお、これらの電気制御部品のうち複数個設けられたものについては、前輪Fまたは後輪Rを示す添え字や、右輪Rまたは左輪Lをを示す添え字や、プライマリ側Pまたはセカンダリ側Sを示す添え字A,Bを付して以下に説明する。
【0016】
図1において、液圧ブレーキ系統102は、マスターシリンダ3と各ホイールシリンダ11FL,11RR,11RL,11FRとの間に介装された回路である。マスターシリンダ3は、運転者が足踏みでブレーキ操作するブレーキペダル1から入力されて電動式制動液圧ブースタ2によって倍力されるペダル踏力に応じて2系統の液圧を作るタンデム式のもので、ブレーキペダル1に連結されたインプットロッド3aと、そのインプットロッド3aを囲繞する円筒状のプライマリピストン3bと、インプットロッド3aの前方(図では左方)に位置するセカンダリピストン3cとを液密に進退移動可能に嵌挿してなる。
【0017】
ここで、プライマリピストン3bはリターンスプリング3dで後退附勢し、セカンダリピストン3cはリターンスプリング3eと押圧スプリング3fとでマスターシリンダ3とプライマリピストン3bとの間に遊動状態に支持し、インプットロッド3aも二本のオフセットスプリング3g,3hでプライマリピストン3bに遊動状態に支持している。またインプットロッド3aは、プライマリピストン3b内に摺動自在に嵌合するピストン部とそれよりも拡径したブレーキペダル側の基部とを有し、プライマリピストン3bに対しインプットロッド3aが前進すると、それらピストン部と基部との間の段差部3iが、当接部としてプライマリピストン3bに当接してインプットロッド3aへのブレーキペダル1からの踏力をプライマリピストン3bに伝達する。
【0018】
電動式制動液圧ブースタ2は、電動式制動力補助手段を構成するもので、マスターシリンダ3に結合したケーシング2a内にプライマリピストン3bを囲繞してそのプライマリピストン3bの後端部と掛合するボールねじ2bと、そのボールねじ2bを囲繞してそのボールねじ2bと多数のボールを介して螺合するボールナット2cと、そのボールナット2cと結合するとともにケーシング2a内に二個の軸受け2dを介し前後端部を回転自在に支持されたロータ2eおよびそのロータ2eを囲繞してケーシング2a内に固定されたステータ2fを持つ制動力補助モータ2gと、ロータ2eの前端部に結合されたディスクの回転量を検出するようケーシング2a内に設けられたレゾルバ2hとを具えている。
【0019】
マスターシリンダ3は大気圧下にブレーキ作動液を貯留するリザーバ4を具え、リザーバ4はマスターシリンダ3にブレーキ作動液を供給する。この液圧ブレーキ系統102は、X配管方式を採用している。これにより、マスターシリンダ3のプライマリピストン3bとセカンダリピストン3cとの間であるプライマリ側の液圧Prを左前輪、右後輪のホイールシリンダ11FL,11RRに伝達する。また、マスターシリンダ3のセカンダリピストン3cの前側であるセカンダリ側の液圧Snを右前輪・左後輪のホイールシリンダ11FR,11RLに伝達する。
【0020】
各ホイールシリンダ11FL,11RR,11RL,11FRは、ディスクロータをブレーキパッドで狭圧して制動力を発生させるディスクブレーキや、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧して制動力を発生させるドラムブレーキが内蔵している。液圧ブレーキ系統102は、公知の制動流体圧制御回路を利用したものであり、後述のように、運転者のブレーキ操作に関わらず各ホイールシリンダ11FL,11RR,11RL,11FRの液圧を増圧・保持・減圧できるように構成している。
【0021】
マスターシリンダ3と液圧配管6とを介して接続するプライマリ側Prは、マスターシリンダ3およびホイールシリンダ11FR,11RL間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型の第1ゲートバルブ12Aと、第1ゲートバルブ12Aおよびホイールシリンダ11FL,11RR間の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型のインレットバルブ13FR,13RLと、ホイールシリンダ11FR,11RLおよびインレットバルブ13FR,13RL間に連通したリザーバ14と、ホイールシリンダ11FR,11RLおよびリザーバ14間の流路を開放可能なノーマルクローズ型のアウトレットバルブ15FR,15RLと、マスターシリンダ3および第1ゲートバルブ12A間とリザーバ14およびアウトレットバルブ15FR,15RL間とを連通した流路を開放可能なノーマルオープン型の第2ゲートバルブ16Aとを具えている。
【0022】
プライマリ側Prはさらに、リザーバ14およびアウトレットバルブ15FR,15RL間に吸入側を連通し、且つ第2ゲートバルブ12Aおよびインレットバルブ13FR,13RL間に吐出側を連通したモータ駆動の電動ポンプ17を具えている。液圧配管7には、マスターシリンダ3内のブレーキ作動液の液圧を検出するマスターシリンダ圧力センサ109を接続する。
【0023】
また、マスターシリンダ3と液圧配管7を介して接続するセカンダリ側Snも、プライマリ側Prと同様に、第1ゲートバルブ12Bと、インレットバルブ13FL,13RRと、アキュムレータ14と、アウトレットバルブ15FL,15RRと、第2ゲートバルブ16Bと、プライマリ側Prと共用の電動ポンプ17とを具えている。液圧配管7には、マスターシリンダ3内のブレーキ作動液の液圧を検出するマスターシリンダ圧力センサ109を接続する。フロントホイールシリンダ11FR,11FLにはそれぞれ、前輪側ホイールシリンダ11FR,11FL内のブレーキ作動液の液圧を検出するホイールシリンダ圧センサ111を接続する。
【0024】
第1ゲートバルブ12A,12Bと、インレットバルブ13FL,13RR,13RL,13FRと、アウトレットバルブ15FL,15RR,15RL,15FRと、第2ゲートバルブ16A,16Bとは、2ポート2ポジション切換・シングルソレノイド・スプリングオフセット式の電磁操作弁であって、第1ゲートバルブ12A,12Bおよびインレットバルブ13FL,13RR,13RL,13FRは非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL,15RR,15RL,15FRおよび第2ゲートバルブ16A,16Bは非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するようにしている。
【0025】
リザーバ14は、シリンダのピストンに圧縮バネを対向させたバネ形のアキュムレータである。また電動ポンプ17は、負荷圧力に関わりなく略一定の吐出量を確保できる歯車ポンプ、ピストンポンプ等の容積形のポンプをDCモータで回転駆動するものである。
【0026】
以上の構成により、プライマリ側Prを例に説明すると、VDC制御コントローラ101が第1ゲートバルブ12A,インレットバルブ13FR,13RL、アウトレットバルブ15FR,15RLおよび第2ゲートバルブ16Aを全て非励磁のノーマル位置にするときは、マスターシリンダ3からの液圧がそのままホイールシリンダ11FR,11RLに伝達されて車輪を制動する。つまり、運転者のブレーキ操作が入力されるマスターシリンダ3の圧力を、液圧ブレーキ系統102を介してホイールシリンダ11FR,11RLに伝達し、該ホイールシリンダ11FR,11RL により車輪を制動する。従って、VDC制御コントローラ101と液圧ブレーキ系統102とは運転者操作ブレーキ手段に相当する。
【0027】
一方、ブレーキペダル1が非操作状態であっても、あるいは操作状態であっても、インレットバルブ13FR,13RLおよびアウトレットバルブ15FR,15RLを非励磁のノーマル位置にしたまま、第1ゲートバルブ12Aを励磁して閉鎖すると共に、第2ゲートバルブ16Aを励磁して開放し、更に電動ポンプ17を駆動することで、マスターシリンダ3内のブレーキ作動液を第2ゲートバルブ16Aを介して吸入し、電動ポンプ17から吐出されるブレーキ作動液をインレットバルブ13FR,13RLを介してホイールシリンダ11FR,11RLに供給する。これにより、マスターシリンダ3の液圧を増圧させてホイールシリンダ11FR,11RLに伝達し、ホイールシリンダ11FR,11RLの液圧を増圧させることができる。
【0028】
また、第1ゲートバルブ12A、アウトレットバルブ15FR,15RLおよび第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FR,13RLを励磁して閉鎖すると、ホイールシリンダ11FR,11RLからマスターシリンダ3およびアキュムレータ14への流路が遮断される。これにより、ホイールシリンダ11FR,11RLの液圧を保持することができる。
【0029】
さらに、第1ゲートバルブ12Aおよび第2ゲートバルブ16Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ13FR,13RLを励磁して閉鎖すると共に、アウトレットバルブ15FR,15RLを励磁して開放すると、ホイールシリンダ11FR,11RLのブレーキ作動液がリザーバ14に流入してホイールシリンダ11FR,11RLの液圧が減圧される。リザーバ14に流入したブレーキ作動液は電動ポンプ17によって吸入され、マスターシリンダ3に戻される。これにより、ホイールシリンダ11FR,11RLの液圧を減圧させることができる。
【0030】
なお、上述の説明ではプライマリ側Prの二つのホイールシリンダ11FR,11RLについて一緒に説明したが、この実施例の構成によれば、センサ106,107によって検出している車両姿勢が乱れた場合に、インレットバルブ13FR,13RLとアウトレットバルブ15FR,15RLとの開閉状態の組み合わせを変えることで、二つのホイールシリンダ11FR,11RLの液圧を別個に増圧・保持・減圧させて、車両の安定性を維持することができる。
【0031】
セカンダリ側Snに関しても、運転者操作ブレーキ手段としての動作と、増圧・保持・減圧の可能な自動ブレーキ手段の動作は、上記プライマリ側Prの動作と同様であるため、その詳細説明は省略する。
【0032】
このようにVDC制御コントローラ101は、第1ゲートバルブ12A,12Bと、インレットバルブ13FL〜13RRと、アウトレットバルブ15FL〜15RRと、第2ゲートバルブ16A,16Bと、電動ポンプ17とを駆動制御することによって、各ホイールシリンダ11FL〜11RRの液圧を増圧・保持・減圧する。
【0033】
つまりVDC制御コントローラ101は液圧ブレーキ系統102を制御して、マスターシリンダ3とホイールシリンダ11との間でブレーキ作動流体を流すことで、運転者のブレーキ操作から独立して前後左右の4つの車輪の制動力を個別に制御して車両の安定性を維持したり、運転者のブレーキ操作量から独立してそれら4つの車輪のうち左右2輪の自動制御輪(例えば左右後輪)の制動力を個別に制御して車両の安定性を維持すると同時に、マスターシリンダ圧センサ109で検出したマスターシリンダの圧力に応じて残りの左右2輪の運転者制御輪(例えば左右前輪)の制動力を制御して運転者の要求減速度を出したりする。従って、VDC制御コントローラ101と液圧ブレーキ系統102とは自動ブレーキ手段にも相当する。
【0034】
なお、この実施例では、液圧ブレーキ系統を前左輪、後右輪と前右輪と後左輪で分割するX配管方式を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、前輪と後輪とで分割する前後配管方式を採用することもできる。
【0035】
また、この実施例では、バネ形のリザーバ14を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、各ホイールシリンダ11FL〜11RRから抜いたブレーキ作動液を一時的に貯え、減圧を効率よく行うことができればよいので、ガズ圧縮直圧形、ピストン形、金属ベローズ形、ダイアフラム形等、任意のタイプを採用することもできる。
【0036】
さらに、この実施例では、第1ゲートバルブ12A,12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A,16Bが、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構成しているが、これに限定されるものではない。要は、各バルブの開閉を行うことができればよいので、第1ゲートバルブ12A,12B及びインレットバルブ13FL〜13RRが、励磁したオフセット位置で流路を開放し、アウトレットバルブ15FL〜15RR及び第2ゲートバルブ16A,16Bが、励磁したオフセット位置で流路を閉鎖することもできる。
【0037】
この実施例の車両の制動力制御装置はまた、図2に示すように、制動力補助コントローラ112を具えている。この制動力補助コントローラ112は、例えばマイクロコンピュータで構成され、各種センサからの検出信号に基づきVDC制御コントローラ101および電動式制動液圧ブースタ2の制動力補助モータ2gに指令を出力して、車両の走行中の制動時は既知のように、ブレーキペダル1の釈放状態からのストロークに対応するインプットロッド3aの位置に応じて制動力補助モータ2gを作動させてボールナットを回転させ、それによりボールねじを前進移動させてプライマリピストン3bにブレーキペダル1の踏力に応じた補助力を与える制御を行う。制動力補助モータ2gからプライマリピストン3bへの補助力は液圧に変換され、またブレーキペダル1の踏力はインプッドロッド3aを介して液圧に変換され、両方の和がマスターシリンダ3で発生する液圧となる。発生した液圧はホイールシリンダ11FL〜11RRに伝達され制動力に変換される。
【0038】
一方、制動力補助コントローラ112は、車両の停止中の制動時は、VDC制御コントローラ101への指令をも行って、各ホイールシリンダ11FL〜11RRの圧力を所定圧まで低下させるとともにそれによって得た作動液をマスターシリンダ3に戻しながら、図3に示す如き処理によってプライマリピストン3bを所定位置まで戻り移動させ、制動力補助モータ2gの駆動電流を抑制して、制動力補助モータ2gの発熱による故障を防止する。このため制動力補助コントローラ112には、ホイールシリンダ圧センサ111からの信号と、当該車両のブレーキペダル1の踏み込みおよび戻しによる釈放状態からのストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサ113からの信号と、電動式制動液圧ブースタ2のレゾルバ2hからの信号とを入力するとともに、VDC制御コントローラ101を介して車輪速センサ106から左右前後輪の車輪速を示す信号を入力する。従って、ブレーキペダルストロークセンサ113はインプットロッド位置検出手段に相当し、レゾルバ2hはプライマリピストン位置検出手段に相当する。
【0039】
上述した車両停止中の制動力制御のため、制動力補助コントローラ112は、車輪速センサ106からの左右前後輪の車輪速を示す信号が何れも車輪速0を示している場合に、車両の停止中すなわち停車中(Y)と判定し、その停車中に、VDC制御コントローラ101への指令によって、先ずインレットバルブ13FL〜13RRを開き、電動ポンプ17を駆動制御して作動液を供給しつつ、アウトレットバルブ15FL〜15RRを開いて各ホイールシリンダ11FL〜11RRの作動液をリザーバ14に戻すことにより、各ホイールシリンダ11FL〜11RRの圧力を所定圧まで低下させる。このホイールシリンダ圧力の所定圧とは、ホイールシリンダ圧力に等しいマスターシリンダ圧力が、制動力補助モータ2gを連続稼動させてその圧力を維持し得る駆動電流になる高さ(例えば4MPa)に設定した圧力である。従って制動力補助コントローラ112は車両停止中検知手段およびホイールシリンダ圧低下手段に相当する。
【0040】
このようにしてホイールシリンダの圧力を所定圧に下げるとともにリザーバ14に作動液を蓄積した後、制動力補助コントローラ112は、図3にフローチャートで示す如き制御を行って、プライマリピストン3bを所定位置まで戻り移動させる。この所定位置とは、マスターシリンダ圧力を上記所定圧に維持しつつ、通常の制動時のブレーキペダルストロークであれば上記のようにしてリザーバ14に蓄積した作動液をリザーバ14に僅かに残してあとは全てマスターシリンダ3に戻し得る位置であり、このプライマリピストン3bの所定位置では、踏込み位置でのインプットロッド3aの段差部3iの位置が、プライマリピストン3bの、その段差部3iと当接する部分の位置と僅かに前後するため、プライマリピストン3bを所定位置まで戻り移動させる間に、インプットロッド3aの段差部3iがプライマリピストン3bに当接しない場合とする場合とが生じ得る。
【0041】
図3に示す処理は、制動力補助コントローラ112が所定時間(例えば100 msec)間隔で繰返し実行するものであり、このフローチャート中、符号S1,Srはプライマリピストン3bの戻り開始時位置および戻り目標位置(上記所定位置)、b,br,b0はプライマリピストン3bの戻り開始時、現在および所定微小(例えば0.3mm)のそれぞれのプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとの間の軸線方向距離、N,Wは電動ポンプ17のモータ回転数およびそのモータ1回転あたりのプランジャ吐出量、t1,t2は通常の作動液戻しレートおよび最小の作動液戻しレートでの電動ポンプ17のモータON時間、α,βは制動力補助モータ2gの制御電流の下限値および上限値、D,dはプライマリピストン3bおよびインプットロッド3aの外径、Ir,I0はインプットロッド3a の現在位置およびリザーバ14に僅かに残した作動液分の戻り分を考慮した戻り完了位置(初期位置)をそれぞれ示す。
【0042】
図3のフローチャートでは、先ずステップS1で、プライマリピストン3bの戻り開始時位置S1から戻り目標位置Srを引いた戻り量が、プライマリピストン3bの戻り開始時のプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとの間の軸線方向距離b0より大きいか否かを判断し、大きくない(N)場合にはプライマリピストン3bが目標位置Srまで戻ってもプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとは当接しないのでステップS2へ進む。
【0043】
このステップS2では、次式により算出した戻しレートで電動ポンプ17のモータを駆動して、リザーバ14に蓄積した作動液を時間t1の間にマスターシリンダ3に戻しながら、制動力補助モータ2gの駆動電流を抑制するように制御して、プライマリピストン3bを開始時位置S1から戻り目標位置Srまで戻しつつ、マスターシリンダ3の圧力を、そのプライマリピストン3bの戻り移動によってもプッシュロッド3aの位置が変動しないように、プライマリピストン3bの戻り移動に伴う二本のオフセットスプリング3g,3hのスプリング反力分少なくなるように低下させるようにする。
N×W/t1=(S1−Sr)(D2−d2)π/4t1
ここで二本のオフセットスプリング3g,3hのスプリング反力は、プライマリピストン3bの現在位置とインプットロッド3aの現在位置とから求めることができる。
従って、プライマリピストン3bの所定位置への戻り移動によってもプッシュロッド3aの位置ひいてはブレーキペダル1の位置が実質的に変動せず、ブレーキペダル1の踏力も変動しないので、運転者が違和感を覚えることはない。
【0044】
そしてその後、ステップS3で、インプットロッド3a の現在位置Irが、リザーバ14に僅かに残した作動液分の戻り分を考慮したインプットロッド3a の戻り完了位置(初期位置)I0より小さいか等しいか否か判断し、Ir≦I0でなければ次のステップS4をスキップして当該処理を終了し、Ir≦I0であればインプットロッド3a が初期位置に戻り、ひいてはブレーキペダル1が釈放状態になっているので、ステップS4でリザーバ液戻し処理を実行して電動ポンプ17のモータを駆動し、リザーバ14に僅かに残した作動液をマスターシリンダ3に戻す。その際、インプットロッド3aの僅かな戻り移動が生ずるが、ブレーキペダル1が釈放状態になっているので、運転者が違和感を覚えることはない。
【0045】
説明をステップS1に戻すと、ステップS1で、プライマリピストン3bの戻り開始時位置S1から戻り目標位置Srを引いた戻り量が、プライマリピストン3bの戻り開始時のプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとの間の軸線方向距離b0よりも大きい(Y)場合には、プライマリピストン3bが目標位置Srまで戻る間にプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接するのでステップS5へ進む。
【0046】
ステップS5では、プライマリピストン3bの現在位置でのプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとの間の軸線方向距離bが所定微小距離(例えば0.3mm)brより大きいか否かを判断して、大きい(b>br)場合は未だプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとは当接していないのでステップS6へ進む。
【0047】
ステップS6では、次式により算出した戻しレートで電動ポンプ17のモータを駆動して、ステップS2と同様に、リザーバ14に蓄積した作動液を時間t1の間にマスターシリンダ3に戻しながら、制動力補助モータ2gの駆動電流を抑制するように制御して、プライマリピストン3bを開始時位置S1から戻り目標位置Srまで戻しつつ、マスターシリンダ3の圧力を、そのプライマリピストン3bの戻り移動によってもプッシュロッド3aの位置が変動しないように、プライマリピストン3bの戻り移動に伴う二本のオフセットスプリング3g,3hのスプリング反力分少なくなるように低下させるようにし、ステップS3へ進む。
N×W/t1=b0(D2−d2)π/4t1
【0048】
またステップS5で、プライマリピストン3bの現在位置でのプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとの間の軸線方向距離bが所定微小距離brより大きくない(b≦br)場合は、プライマリピストン3bの戻り移動によってプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接直前であるのでステップS7へ進む。
【0049】
ステップS7では、制動力補助モータ2gの駆動電流をその制動力補助モータ2gの制御電流の下限値αと上限値βとの間で低く抑えて制動力補助モータ2gを低速回転制御することとし、続くステップS8では、次式により算出した最小戻しレートで電動ポンプ17のモータを駆動して、リザーバ14に残った作動液を時間t2の間にマスターシリンダ3に戻しながら、マスターシリンダ3の圧力を除々に低下させて、プライマリピストン3bを戻り目標位置Srまで戻すようにし、ステップS3へ進む。
N×W/t2=(S1−Sr−b0)(D2−d2)π/4t2
ここに、(S1−Sr−b0)はプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接した後にプライマリピストン3bが戻り移動すべき距離である。
従って、プライマリピストン3bの所定位置への戻り移動の間にプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接する場合でもプッシュロッド3aの位置が実質的に変動せず、ブレーキペダル1の踏力の変動も僅かであるので、運転者が違和感を覚えることはない。それゆえ上記図3のフローチャートで示す処理を実行する制動力補助コントローラ112は、マスターシリンダ圧低下手段に相当する。
【0050】
この実施例の車両の制動力制御装置による制動力補助モータ2gの制御およびVDC制御の効果につき、図4および図5に、図6の従来の場合と比較しつつタイムチャートで示す。図4は、上記ステップS1からステップS2へ向かう、プライマリピストン3bの所定位置への戻り移動の間にプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接しない場合の状態変化を示し、ここでは先ず、時刻t0からttの間にホイールシリンダの作動液をリザーバ17に抜いてホイールシリンダ圧を減圧させ、制動力補助モータ2gの連続稼動が可能な所定の液圧で保持する。次に、プライマリピストン3bの現在位置をレゾルバ2hの出力信号から決定し、目標位置との差分を算出して、マスターシリンダ3の液室での作動液増加分を決定する。
【0051】
次に、図中A部に示すように、VDCユニットからの戻り液量をマスターシリンダ3の液圧とオフセットスプリング3g,3hのスプリング反力との和で設定し、VDCユニットの電動ポンプ吐出レートに合わせて制動力補助モータ2gによるプライマリピストン3bの戻しレートを決定し、時刻ttから時間t1の間電動ポンプ17を作動させ、時刻teの時点で所定位置Srまでプライマリピストン3bを戻り移動させるとともに、ブレーキペダル1を僅かに踏込んでインプッドロッド3aの段差部3iをプライマリピストン3bに当接させるようにする。このプライマリピストン3bの戻り移動の際には、インプッドロッド3aの位置をストロークセンサ113の出力信号から決定し、プライマリピストン3bとインプッドロッド3aの段差部3iとの間のクリアランス量からスプリング反力を算出する。
これにより、プライマリピストン3bを戻してもブレーキペダル1の位置が実質的に変動せず、ブレーキペダル1の踏力も変動しないので、運転者が違和感を覚えるのを防止することができる。
【0052】
また、ブレークペダル1が釈放された時刻tf以後、図中B部に示すように、電動ポンプ17を作動させて、リザーバ14に僅かに残した作動液をマスターシリンダ3に戻す。その際、インプットロッド3aの僅かな戻り移動が生ずるが、ブレーキペダル1が釈放状態になっているので、運転者が違和感を覚えることはない。
【0053】
この一方、図6に示すように、マスターシリンダ3に作動液を戻さずにプライマリピストン3bを時点t0から減圧側である戻り側に移動させると、図中C部に示すように、マスターシリンダ3の液室の圧力が下がり、インプッドロッド3aがブレーキペダル1の踏力で押し込まれ、ブレーキペダル1のペダルストローク変動が発生する。また、プライマリピストン3bを戻り側に移動させると、図中D部に示すように、時刻ttでインプッドロッド3aの段差部3iがプライマリピストン3bに当接し、ブレーキペダル1の踏力の増大変化およびキッバックが発生するため、運転者が違和感を覚えることになる。
【0054】
図5は、上記ステップS1からステップS5へ向かう、プライマリピストン3bの所定位置への戻り移動の間にプライマリピストン3bとインプットロッド3aの段差部3iとが当接する場合の状態変化を示し、この場合には、図中E部に示すように、プライマリピストン3bとインプッドロッド3aとの位置関係が所定値br以下になった時点で、VDC制御システムの電動ポンプ17の吐出量を最小に設定するとともに制動力補助モータ2gによるプライマリピストン3bの戻しレートを変更し、インプッドロッド3aの段差部3iにプライマリピストン3bが当接する時に発生するショック(音振)を低減させるので、運転者が違和感を覚えることはない。
またこの場合も、ブレークペダル1が釈放された時刻tf以後、図中B部に示すように、電動ポンプ17を作動させて、リザーバ14に僅かに残した作動液をマスターシリンダ3に戻す。その際、インプットロッド3aの僅かな戻り移動が生ずるが、ブレーキペダル1が釈放状態になっているので、運転者が違和感を覚えることはない。
【0055】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加え得るものであり、例えば、制動力補助コントローラ112は、ブレーキペダル1が釈放される以前に、リザーバ14に僅かに残した作動液をマスターシリンダ3にゆっくり戻すようにしてもよい。また、この発明における自動ブレーキ手段は、VDC制御以外の、トラクション制御やアンチスキッド制御等を行うために車輪を制動こともできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
かくしてこの発明の車両の制動力制御装置によれば、停車中、プライマリピストンを戻り移動させる際に、リザーバに蓄えた作動液をマスターシリンダに戻しながら、マスターシリンダの圧力によるインプットロッドの反力とプライマリピストンにより押し戻されるオフセットスプリングからの反力との和であるブレーキペダルの反力(踏み応え)を一定に維持するので、電動機の駆動電流を抑制してプライマリピストンを戻し移動させ電動機の発熱による故障を防止しつつ、ブレーキペダルの踏力およびストロークの変動を抑制して運転者の違和感をなくすことができる。
【0057】
なお、この発明の車両の制動力制御装置においては、前記マスターシリンダ圧低下手段は、前記プライマリピストン位置検出手段が検出する前記プライマリピストンの位置と前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置とから、前記プライマリピストンが前記所定位置まで戻り移動する間に前記インプットロッドの前記当接部と当接する場合を検知し、前記当接する場合にその当接する直前の前記プライマリピストンの位置からそのプライマリピストンの戻り移動速度が遅くなるよう前記電動ポンプでの戻し流量および前記電動機での戻り移動を制御するようにしてもよい。このようにすれば、車両の停止のために通常時よりも深くブレーキペダルを踏込んだ場合でも、停車中、プライマリピストンを戻り移動させる際に、電動機の駆動電流を抑制してプライマリピストンを戻し移動させ電動機の発熱による故障を防止しつつ、ブレーキペダルの踏力およびストロークの変動を抑制して運転者の違和感をなくすことができる。
【0058】
また、この発明の車両の制動力制御装置においては、前記マスターシリンダ圧低下手段は、前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置がブレーキペダルの釈放状態に対応する初期位置に戻った後、前記電動ポンプを所定時間駆動して、前記リザーバに残った作動液をその電動ポンプで前記マスターシリンダに戻すようにしてもよい。このようにすれば、ブレーキペダルの釈放後に、リザーバに残った作動液を電動ポンプでマスターシリンダに戻すので、運転者の違和感をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の車両の制動力制御装置の一実施例の液圧ブレーキ系統を含む、車両のブレーキ装置を示す液圧回路図である。
【図2】上記実施例の制動力制御装置の電気制御系統を示すブロック線図である。
【図3】上記実施例の制動力制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図4】上記実施例の制動力制御装置による制動力補助モータの制御およびVDC制御の効果を示すタイムチャートである。
【図5】上記実施例の制動力制御装置による制動力補助モータの制御およびVDC制御の効果を示すタイムチャートである。
【図6】従来の電動式ブレーキ倍力装置による制動力補助モータの制御を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 ブレーキペダル
2 電動式制動液圧ブースタ(電動式制動力補助手段)
2a ケーシング
2b ボールネジ
2c ボールナット
2d 軸受け
2e ロータ
2f ステータ
2g 制動力補助モータ(電動機)
2h レゾルバ
3 マスターシリンダ
3a インプットロッド
3b プライマリピストン
3c セカンダリピストン
3d,3e リターンスプリング
3f 押圧スプリング
3g,3h オフセットスプリング
3i 段差部(当接部)
4 リザーバ
6 プライマリ側液圧配管
7 セカンダリ側液圧配管
11 ホイールシリンダ
12 第1ゲートバルブ
13 インレットバルブ
14 リザーバ
15 アウトレットバルブ
16 第2ゲートバルブ
17 電動ポンプ
101 VDC制御コントローラ(運転者操作ブレーキ手段,自動ブレーキ手段)
102 液圧ブレーキ系統(運転者操作ブレーキ手段,自動ブレーキ手段)
106 車輪速センサ
107 操舵角センサ
108 横G・ヨーレイトセンサ
109 マスターシリンダ圧センサ
110 ブレーキスイッチ
111 ホイールシリンダ圧センサ
112 制動力補助コントローラ(車両停車中検知手段,プライマリピストン位置検出手段,ホイールシリンダ圧低下手段,マスターシリンダ圧低下手段)
113 ブレーキペダルストロークセンサ(インプットロッド位置検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルに連結されたインプットロッドと、そのインプットロッドを囲繞するとともに電動機により進退駆動される筒状のプライマリピストンとをマスターシリンダに嵌挿するとともに、前記インプットロッドにその前進により前記プライマリピストンと当接する当接部を設け、前記インプットロッドと前記プライマリピストンとの間にそのインプットロッドの当接部を前記プライマリピストンから離間させるようそのインプットロッドを附勢するオフセットスプリングを介挿した電動式制動力補助手段と、
前記マスターシリンダの圧力を、液圧ブレーキ系統を介して、ホイールシリンダに伝達し、該ホイールシリンダで車輪を制動する運転者操作ブレーキ手段と、
前記液圧ブレーキ系統内に加圧用の電動ポンプと減圧用のリザーバとを有し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダとの間でブレーキ作動流体を流して、前記運転者のブレーキ操作量から独立して前記車輪の制動力を制御するとともに、前記マスターシリンダの圧力に応じて前記車輪の制動力を制御する自動ブレーキ手段と、
を具える車両において、
前記車両が停車中であることを検知する車両停車中検知手段と、
前記インプットロッドの位置を検出するインプットロッド位置検出手段と、
前記プライマリピストンの位置を検出するプライマリピストン位置検出手段と、
前記車両停車中検知手段が検知している前記車両の停車中、前記電動機で前記プライマリピストンを戻り移動させる際に、前記電動ポンプで前記ホイールシリンダ内に作動液を供給しつつそのホイールシリンダ内の作動液を前記リザーバに抜いてそのホイールシリンダの圧力を前記電動機の連続稼動可能圧力まで低下させるホイールシリンダ圧低下手段と、
前記リザーバに蓄えた作動液を前記電動ポンプで前記マスターシリンダに戻しながら、前記プライマリピストン位置検出手段が位置を検出する前記プライマリピストンを前記電動機で、そのマスターシリンダの圧力による前記インプットロッドの反力と前記プライマリピストンにより押し戻される前記オフセットスプリングからの、前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置に応じた反力との和を一定に維持しつつ所定位置まで戻り移動させて、そのマスターシリンダの圧力を前記電動機の連続稼動可能圧力まで低下させるマスターシリンダ圧低下手段と、
を具えることを特徴とする車両の制動力制御装置。
【請求項2】
前記マスターシリンダ圧低下手段は、前記プライマリピストン位置検出手段が検出する前記プライマリピストンの位置と前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置とから、前記プライマリピストンが前記所定位置まで戻り移動する間に前記インプットロッドの前記当接部と当接する場合を検知し、前記当接する場合にその当接する直前の前記プライマリピストンの位置からそのプライマリピストンの戻り移動速度が遅くなるよう前記電動ポンプでの戻し流量および前記電動機での戻り移動を制御することを特徴とする、請求項1記載の車両の制動力制御装置。
【請求項3】
前記マスターシリンダ圧低下手段は、前記インプットロッド位置検出手段が検出する前記インプットロッドの位置がブレーキペダルの釈放状態に対応する初期位置に戻った後、前記電動ポンプを所定時間駆動して、前記リザーバに残った作動液をその電動ポンプで前記マスターシリンダに戻すことを特徴とする、請求項1または2記載の車両の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36811(P2010−36811A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204587(P2008−204587)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】