車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】予め設定された変速線図に基づいて変速が実行される自動変速部を備えた車両用動力伝達装置において、コースト走行中の自動変速部のアップシフトに際してドライバビリティを向上させることができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両の加速度変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【解決手段】変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両の加速度変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定された変速線図に基づいて変速が実行される自動変速部を備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、コースト走行時のアップシフト制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
予め設定されたアップシフト線およびダウンシフト線を有する変速線図から、実際の車両の走行状態に基づいて変速が実施される自動変速部を備える車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば特許文献1の車両の減速制御装置もその一例である。特許文献1では、車両の先方の路面勾配情報を例えばナビゲーション装置によって予め検出し、その路面勾配情報に応じた車両減速度を発生させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−38078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記自動変速部を備える車両用動力伝達装置において、例えばコースト走行中に車両先方路面が平坦路から降坂路に切り換えられるとき、車速の増加に従って自動変速部が高速ギヤ段側にアップシフトされる場面がある。自動変速部がアップシフトされると、変速過渡中は自動変速部の動力伝達経路が遮断されることから、一時的な減速力の抜けが発生する。上記より、例えば路面状態が降坂路に移行することによって生じる車両加速度変化と、自動変速部がアップシフトされることで生じる減速力の抜けとが別個に発生し、運転者に対して短時間に2度の加速感を与えることになる。したがって、運転者に違和感を与えドライバビリティを低下させる可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、予め設定された変速線図に基づいて変速が実行される自動変速部を備えた車両用動力伝達装置において、コースト走行中の自動変速部のアップシフトに際してドライバビリティを向上させることができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)予め設定されている変速線図に基づいて変速が実行される有段式の自動変速部を備える車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更する変速時期変更手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速時期変更手段は、前記自動変速部がアップシフトされる車速付近で走行中であって、車両前方の路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、その路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、変速時期変更手段は、コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、運転者に与える車両加速度変化(減速力変化)による違和感を低減し、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両加速度の変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0012】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速時期変更手段は、車両がアップシフトされる車速付近で走行中であって、路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めるため、自動変速部のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路へ移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることができる。
【0013】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、その路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されるため、車両路面先方にある降坂路へ移行される地点を正確に検出することができる。
【0014】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であるため、降坂路へ移行される地点の検出精度が向上する。
【0015】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されるものである。高速変速段へのアップシフトである場合、車速が高いことから降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。これに対し、到達距離を長くすることで、車速が高い状態であっても到達時間を確保することができ、制御性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここで、好適には、自動変速部は、車速と自動変速部の出力トルク(またはアクセル開度等)とを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する変速線図から、実際の車速および自動変速部の要求出力トルク(またはアクセル開度等)で示される車両状態に基づいて自動変速部の変速すべき変速段が判断され、その判断された変速段が得られるように自動変速制御が実施されるものである。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置の一部を構成する変速機構10(本発明の車両用動力伝達装置に対応)を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接的に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11から駆動輪34(図6参照)への動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0019】
このように、本実施例の変速機構10においては、エンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介すことなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。
【0020】
差動部11は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に連結されており、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、出力軸として機能する伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、を備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1および第2電動機M2は、変速機構10の筐体であるケース12内に備えられ、変速機構10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0021】
動力分配機構16は、所定のギヤ比ρ0(=0.416)を有するシングルピニオン型の差動遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動遊星歯車装置24は、差動サンギヤS0、差動遊星歯車P0、その差動遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動キャリヤCA0、差動遊星歯車P0を介して差動サンギヤS0と噛み合う差動リングギヤR0を回転要素として備えている。なお、差動サンギヤS0の歯数をZS0、差動リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0022】
この動力分配機構16においては、差動キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結されて第1回転要素RE1を構成し、差動サンギヤS0は第1電動機M1に連結されて第2回転要素RE2を構成し、差動リングギヤR0は伝達部材18に連結されて第3回転要素RE3を構成している。このように構成された動力分配機構16は、差動遊星歯車装置24の3要素である差動サンギヤS0、差動キャリヤCA0、差動リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能すなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18に分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。
【0023】
自動変速部20は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、有段式の自動変速部として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、所定のギヤ比ρ1(=0.488)を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、所定のギヤ比ρ2(=0.455)を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0024】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。さらに第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0025】
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合および一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0026】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段および後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0027】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0028】
以上のように構成された変速機構10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0029】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、変速機構10において無段変速機が構成される。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0030】
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0031】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、変速機構10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0032】
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、X3が差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0033】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5に対応する相互に連結された第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2を、第6回転要素RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0034】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動サンギヤS0の回転速度と差動リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0035】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
【0036】
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0037】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。
【0038】
自動変速部20では、例えば差動部11において第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転速度を略零とすると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて第3回転要素RE3に出力される。そして図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0039】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0040】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46(図1参照)により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両加速度センサ48によって検出される車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ42により検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44(図1参照)により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号、ナビゲーション装置92からの道路情報などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ42、44及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0041】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0042】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0043】
そのシフトレバー52は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0044】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0045】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3の少なくとも1つが係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0046】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0047】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0048】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0049】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0050】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0051】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。また、ハイブリッド制御手段84は、自動変速部20の変速方向に対して、その変速を打ち消すように差動部11を反対方向に変速させることで、自動変速部20の変速前後のトータル変速比γTを一定に維持することができる。
【0052】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0053】
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0054】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0055】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0056】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0057】
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0058】
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0059】
ところで、アクセルペダルを踏み込まない惰性走行時(コースト走行時)において、車両の路面状態が平坦路から降坂路に切り替わると、車両加速度Gが減速側から加速側に変化するに伴い、車両の車速Vが増加する。そして、車速Vが増加するに従い、車速Vが図7に示すアップシフト線を跨ぐと、自動変速部20がアップシフトされる。
【0060】
上記コースト走行中の自動変速部20のアップシフトにおいては、有段変速制御手段82は、変速初期において解放側の係合装置の係合油圧を急激に零まで低下させると共に、係合側の係合装置においても係合装置がトルク容量を有さない程度の係合油圧で定圧待機させる。したがって、自動変速部20の変速過渡期では、自動変速部20が動力伝達遮断状態となり、車両において一時的な減速力の抜けが発生する。そして、ハイブリッド制御手段84は、変速後の自動変速部20の入力軸回転速度を算出し、その入力軸回転速度を目標に差動部11の出力軸(本実施例においては伝達部材18)の回転速度が同期されるように第2電動機M2による同期制御(フィードバック制御)を実施する。なお、変速後の自動変速部20の入力軸回転速度は、出力軸22の回転速度NOUTと変速後のギヤ段の変速比γとの積で算出される。そして、差動部11の出力軸の回転速度(伝達部材回転速度N18)が同期されると、有段変速制御手段82は、係合側の係合装置の係合油圧を上昇させて変速を完了させる。
【0061】
ここで、車両の車速Vがアップシフト点付近において、例えば走行中の路面状態が平坦路から降坂路へ移行されると、路面の変化による車両加速度の変化が生じると共に、自動変速部20のアップシフトに伴う減速力の抜けが発生する。上記路面状態が降坂路へ移行される場合、運転者には加速感(駆動力増加)を与え、自動変速部20がアップシフトされる場合も同様、減速力が抜けることから運転者には加速感(駆動力増加)を与えることとなる。すなわち上記2つの事象は、共に運転者に加速感(駆動力増加感)を与えるものである。上記より、路面変化による車両加速度の変化とアップシフト時の減速力の抜けとが短時間に別個に発生すると、運転者に短時間に2度の加速感(駆動力増加感)を与えることとなることから、運転者に違和感を与えドライバビリティが低下する可能性があった。これに対して、変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて自動変速部20の変速開始時期を好適に変更することで、ドライバビリティの低下を抑制する。以下、上記制御について詳細に説明する。
【0062】
変速時期変更手段86は、車両先方において路面状態が平坦路から降坂路に移行する地点が存在し、且つ、車両がアップシフト点付近の車速Vにあるとき実施される。そこで、路面勾配判定手段88は、車両先方において路面状態が平坦路から降坂路に移行される地点(移行地点)が存在するか否かを判定する。また、車速判定手段90は、自動変速部20がアップシフトされる車速付近にあるか否かを判定する。
【0063】
路面勾配判定手段88は、例えば車両に備えられるナビゲーション装置92から検出される路面情報に基づいて、走行中の車両先方において平坦路から降坂路へ移行される地点(移行地点)が所定距離内にあるか否かを判定する。具体的には、ナビゲーション装置92が予め記憶している路面の勾配情報や高度情報に基づいて、車両先方の平坦路から降坂路へ移行される地点(移行地点)を検出し、上記移行地点が検出される場合、路面勾配判定手段88を肯定する。なお、上記所定距離は、予め実験等に基づいて好適に設定されており、移行地点に到達するまでに十分な時間を要す距離は除外される。また、上記所定距離は、高速ギヤ段側へのアップシフトである程、長くなるように設定される。高速ギヤ段においては車速Vが高いので、同じ所定距離である場合に降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。したがって、高速ギヤ段であっても上記到達時間が十分に確保できるように設定される。
【0064】
また、路面勾配判定手段88は、前記ナビゲーション装置92の代替手段として、車速センサ46によって検出される車速Vの変化率、または加速度センサ48によって検出される加速度Gの変化率に基づいて、車両先方の降坂路へ移行される移行地点があるか否かを予測判定することもできる。但し、上記検出手段は、検出精度がナビゲーション装置92に比べて低くなる。
【0065】
車速判定手段90は、現在の車両の車速Vが自動変速部20がアップシフトされるアップシフト点付近の速度であるか否かを判定する。図9に各変速段におけるアップシフト点付近の速度を示す。例えば、アクセル開度Accが零における第1速ギヤ段から第2速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup1としたとき、アップシフト点の車速Vup1に対して低車速側の閾値としてVaが設定され、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup2としたとき、アップシフト点の車速Vup2に対して低車速側の閾値としてVbが設定され、第3速ギヤ段から第4速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup3としたとき、アップシフト点の車速Vup3に対して低車速側の閾値としてVcが設定されている。すなわち、増速されるに伴い車速VがVaとVup1との間、VbとVup2との間、VcとVup3との間になったとき、車速判定手段90は、現在の車速Vがアップシフト点付近の速度にあると判定し本判定を肯定する。なお、上記閾値として機能する車速Va、Vb、Vcは、予め実験的に設定されるものであり、各ギヤ段のアップシフト点に対応する車速(Vup1、Vup2、Vup3)から予め実験的に設定された低車速側速度範囲とされる。また、各ギヤ段におけるダウンシフト点の速度(Vup1、Vup2、Vup3)と閾値となる速度(Va、Vb、Vc)との速度幅(α、β、γ)はそれぞれ同じ値である必要はなく、各ギヤ段に応じて変更されても構わない。
【0066】
そして、路面勾配判定手段88および車速判定手段90が肯定されると、変速時期変更手段86が実施される。変速時期判定手段88は、車両の車速Vがアップシフト線付近の速度であって、車両先方に路面状態が平坦路から降坂路へ移行される移行地点より所定距離内にある場合に、通常走行時のアップシフト線に基づくアップシフト開始判断に先立って、降坂路に移行されるタイミングに応じて変速開始時期を変更する。具体的には、自動変速部20のアップシフト開始判断時期(変速出力時期)を通常走行時のアップシフト判断時期よりも早めて実施する。
【0067】
変速時期変更手段86は、現在の車両の走行地点から降坂路に移行される移行地点までの距離を検出し、上記距離および車速Vに基づいて、移行地点までの到達予測時間を算出する。そして、変速時期変更手段86は、算出された到達予測時間後に自動変速部20のアップシフトが開始判断(変速出力)されるように、有段変速制御手段82に対して変速開始判断を通常走行時よりも早める指令を出力する。したがって、車両の路面状態が平坦路から降坂路へ移行される時点と同時期に、自動変速部20のアップシフトが開始判断(変速出力)される。上記のように制御されると、平坦路から降坂路へ移行されるに伴って発生する車両加速度Gの変化と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けとを、同じ時期に重複して発生させることができる。これにより、路面が降坂路へ移行されることによる車両の加速感(駆動力増加)と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けに伴う車両の加速感(駆動力増加)とを同時期に重複させることができるため、駆動力変化時に運転者に与える違和感が抑制され、ドライバビリティが向上される。なお、変速時期変更手段86を実施しない場合、路面が降坂路へ移行されることによって発生する車両の加速感(駆動力増加)と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けに伴う車両の加速感(駆動力増加)とが別個に生じることとなり、運転者に違和感を与えることとなる。
【0068】
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち車両コースト走行状態(アクセル開度零状態)において自動変速部20がアップシフトされるときの制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0069】
先ず、車速判定手段90に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、現在の車両の車速Vがアップシフト線付近の車速にあるか否かが判定される。なお、本実施例においては、車速Vが車速VaとVup1との間、車速VbとVup2との間、および車速VcとVup3との間にある状態か否かが判定される。SA1が否定されると、SA4において、図7に示す通常走行時の変速線図に基づいて自動変速部20の変速制御が実施される。一方、SA1が肯定されると、路面勾配判定手段88に対応するSA2において、車両前方の路面において平坦路から降坂路へ移行される移行地点があるか否かが判定される。SA2が否定されると、SA4において、通常走行時の変速制御が実施される。SA2が肯定されると、変速時期変更手段86に対応するSA3において、自動変速部20のアップシフト開始時期が早められることで、平坦路から降坂路へ移行されるに伴って発生する車両加速の変化と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けとが同じ時期に重複して発生するように制御される。
【0070】
図11は、上記図10のフローチャートに基づく制御作動を説明するタイムチャートである。t0時点において、路面勾配判定手段88および車速判定手段90に基づいて、変速時期変更手段86が実施されると、自動変速部20のアップシフト開始判断が通常走行時よりも早められ、t1時点に対応する路面が平坦路から降坂路へ移行される時点と同時期に自動変速部20への変速出力(変速開始判断)が有段変速制御手段82を介して出力される。そして、t2時点において、自動変速部20の油圧制御が開始される。図11に示すように、t2時点において解放側油圧が零まで急激に低下させられることで、自動変速部20が動力伝達遮断状態となり、減速力の抜けが発生する。また、t1時点においても路面勾配の変化に基づいて車両の加速度が負の値(減速力発生状態)から正の値(加速力発生状態)に変化する。これに対して、上記減速度の抜けと上記加速度の変化とが略同時に生じるように制御されることから、通常走行時では別個に発生する加速感が1度の加速感に重複させられる。なお、図11において、路面の降坂路への移行に伴って加速感が生じるt1時点と、自動変速部20が動力伝達遮断状態とされることで加速感が生じるt2時点とでは、厳密には時間差が生じるが、t1時点とt2時点との間の時間差は、変速制御において非常に短い時間であるため、運転者はその時間差に基づいて違和感を感じない。
【0071】
t2時点からt3時点においては、第2電動機M2による伝達部材18の回転同期制御が実施される。伝達部材18の回転速度N18は第2電動機M2によって制御され、自動変速部20の変速後の入力軸回転速度を目標に、伝達部材回転速度N18がフィードバック制御される。そして、t3時点において、伝達部材回転速度N18が変速部入力軸回転速度と同期されると、t3時点乃至t4時点において、係合側油圧が増圧されて変速が完了する。
【0072】
なお、図11においては、路面が降坂路へ移行される時点(t1時点)と同時に自動変速部20の変速出力(変速開始判断)が為されるものであったが、変速時期変更手段86は、路面が降坂路へ移行される前すなわち平坦路走行時点において、変速出力(変速開始判断)が出力されるようにアップシフト判断をさらに早めることができる。上記のように制御されると、自動変速部20のアップシフト開始が通常走行時よりもさらに早められることとなるため、図12のタイムチャートに示すように、自動変速部20の油圧制御が実際に開始されて減速力の抜けが実際に発生する時点と降坂路へ移行される時点とをさらに厳密に同時点(t12時点)とすることができる。
【0073】
上述のように、本実施例によれば、変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、運転者に与える車両加速度変化(減速力変化)による違和感を低減し、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両の加速度変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0074】
また、本実施例によれば、変速時期変更手段86は、車両がアップシフトされる車速付近で走行中であって、路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めるため、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路へ移行することによる車両加速度Gの変化が発生するタイミングとを重複させることができる。
【0075】
また、本実施例によれば、路面の勾配を検出する路面勾配検出手段88を備え、その路面勾配検出手段88に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されるため、車両路面先方にある降坂路へ移行される地点を正確に検出することができる。
【0076】
また、本実施例によれば、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であるため、降坂路へ移行される地点の検出精度が向上する。
【0077】
また、本実施例によれば、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定される。高速変速段へのアップシフトである場合、車速Vが高いことから降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。これに対し、到達距離を長くすることで、車速Vが高い状態であっても到達時間を確保することができ、制御性を維持することができる。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0079】
例えば、前述の実施例では、変速時期変更手段86は、路面状態が降坂路へ移行する時点において、自動変速部20のアップシフトの開始判断を実施するように制御するものであったが、変速時期変更手段86は、平坦路において自動変速部20のアップシフトを開始させることで、自動変速部20の油圧制御開始時点すなわち実際に自動変速部20が動力伝達遮断状態となって減速力の抜けが発生する時点と、降坂路へ移行する時点とを同時点となるように制御しても構わない。さらには、自動変速部20の変速に伴って減速力の抜けが発生する時点が、降坂路へ移行する時点よりも早くなるように、変速時期変更手段86は、アップシフト開始判断をさらに早めても構わない。
【0080】
また、前述の実施例では、変速機構10は差動部11を備えるハイブリッド型式の動力伝達装置であったが、本発明は、ハイブリッド型式の動力伝達装置に限定されるものではなく、差動部11を有さない通常の動力伝達装置であっても適用することができる。すなわち、有段式の自動変速部を備えた車両用動力伝達装置であれば、本発明を適用することができる。また、1モータ式のハイブリッド型式の動力伝達装置や駆動源を電動機とする動力伝達装置であっても有段式の自動変速部を備える構成であれば当然に適用可能となる。
【0081】
また、前述の実施例では、路面先方の降坂路へ移行される地点は、ナビゲーション装置92によって検出されるものであったが、ナビゲーション装置92の代替手段である車速センサ46によって検出される車速変化、或いは、車両加速度センサ48によって検出される加速度変化に基づいて、降坂路への移行地点を予測するものであっても構わない。
【0082】
また、前述の実施例では、路面が平坦路から降坂路へ移行される場合を一例に本発明が適用されているが、例えば、登坂路から降坂路、或いは降坂路からさらに勾配が急勾配となる降坂路へ移行される場合であっても本発明を適用することができる。
【0083】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0084】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車両の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】各変速段におけるアップシフト点付近に設定される車速を示す図である。
【図10】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両コースト走行状態(アクセル開度零状態)において自動変速部がアップシフトされるときの制御作動を説明するフローチャートである。
【図11】図10のフローチャートに基づく制御作動を説明するタイムチャートである。
【図12】図10のフローチャートに基づく制御作動を説明する他のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0086】
10:変速機構(車両用動力伝達装置)
20:自動変速部
86:変速時期変更手段
88:路面勾配判定手段
92:ナビゲーション装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定された変速線図に基づいて変速が実行される自動変速部を備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、コースト走行時のアップシフト制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
予め設定されたアップシフト線およびダウンシフト線を有する変速線図から、実際の車両の走行状態に基づいて変速が実施される自動変速部を備える車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば特許文献1の車両の減速制御装置もその一例である。特許文献1では、車両の先方の路面勾配情報を例えばナビゲーション装置によって予め検出し、その路面勾配情報に応じた車両減速度を発生させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−38078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記自動変速部を備える車両用動力伝達装置において、例えばコースト走行中に車両先方路面が平坦路から降坂路に切り換えられるとき、車速の増加に従って自動変速部が高速ギヤ段側にアップシフトされる場面がある。自動変速部がアップシフトされると、変速過渡中は自動変速部の動力伝達経路が遮断されることから、一時的な減速力の抜けが発生する。上記より、例えば路面状態が降坂路に移行することによって生じる車両加速度変化と、自動変速部がアップシフトされることで生じる減速力の抜けとが別個に発生し、運転者に対して短時間に2度の加速感を与えることになる。したがって、運転者に違和感を与えドライバビリティを低下させる可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、予め設定された変速線図に基づいて変速が実行される自動変速部を備えた車両用動力伝達装置において、コースト走行中の自動変速部のアップシフトに際してドライバビリティを向上させることができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)予め設定されている変速線図に基づいて変速が実行される有段式の自動変速部を備える車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更する変速時期変更手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速時期変更手段は、前記自動変速部がアップシフトされる車速付近で走行中であって、車両前方の路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、その路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、変速時期変更手段は、コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、運転者に与える車両加速度変化(減速力変化)による違和感を低減し、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両加速度の変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0012】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速時期変更手段は、車両がアップシフトされる車速付近で走行中であって、路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めるため、自動変速部のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路へ移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることができる。
【0013】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、その路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されるため、車両路面先方にある降坂路へ移行される地点を正確に検出することができる。
【0014】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であるため、降坂路へ移行される地点の検出精度が向上する。
【0015】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されるものである。高速変速段へのアップシフトである場合、車速が高いことから降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。これに対し、到達距離を長くすることで、車速が高い状態であっても到達時間を確保することができ、制御性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここで、好適には、自動変速部は、車速と自動変速部の出力トルク(またはアクセル開度等)とを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する変速線図から、実際の車速および自動変速部の要求出力トルク(またはアクセル開度等)で示される車両状態に基づいて自動変速部の変速すべき変速段が判断され、その判断された変速段が得られるように自動変速制御が実施されるものである。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置の一部を構成する変速機構10(本発明の車両用動力伝達装置に対応)を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接的に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11から駆動輪34(図6参照)への動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0019】
このように、本実施例の変速機構10においては、エンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介すことなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。
【0020】
差動部11は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に連結されており、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、出力軸として機能する伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、を備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1および第2電動機M2は、変速機構10の筐体であるケース12内に備えられ、変速機構10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0021】
動力分配機構16は、所定のギヤ比ρ0(=0.416)を有するシングルピニオン型の差動遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動遊星歯車装置24は、差動サンギヤS0、差動遊星歯車P0、その差動遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動キャリヤCA0、差動遊星歯車P0を介して差動サンギヤS0と噛み合う差動リングギヤR0を回転要素として備えている。なお、差動サンギヤS0の歯数をZS0、差動リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0022】
この動力分配機構16においては、差動キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結されて第1回転要素RE1を構成し、差動サンギヤS0は第1電動機M1に連結されて第2回転要素RE2を構成し、差動リングギヤR0は伝達部材18に連結されて第3回転要素RE3を構成している。このように構成された動力分配機構16は、差動遊星歯車装置24の3要素である差動サンギヤS0、差動キャリヤCA0、差動リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能すなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18に分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。
【0023】
自動変速部20は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、有段式の自動変速部として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、所定のギヤ比ρ1(=0.488)を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、所定のギヤ比ρ2(=0.455)を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0024】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。さらに第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0025】
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合および一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3および第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0026】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段および後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0027】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0028】
以上のように構成された変速機構10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0029】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、変速機構10において無段変速機が構成される。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0030】
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0031】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、変速機構10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0032】
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、X3が差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0033】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5に対応する相互に連結された第1リングギヤR1および第2キャリヤCA2を、第6回転要素RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0034】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動サンギヤS0の回転速度と差動リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0035】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
【0036】
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0037】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。
【0038】
自動変速部20では、例えば差動部11において第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動サンギヤS0の回転速度を略零とすると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて第3回転要素RE3に出力される。そして図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0039】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0040】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ46(図1参照)により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両加速度センサ48によって検出される車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ42により検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44(図1参照)により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号、ナビゲーション装置92からの道路情報などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ42、44及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0041】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0042】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0043】
そのシフトレバー52は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0044】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0045】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1乃至第3クラッチC3の少なくとも1つが係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1乃至第3クラッチC3による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0046】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0047】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0048】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0049】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0050】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0051】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。また、ハイブリッド制御手段84は、自動変速部20の変速方向に対して、その変速を打ち消すように差動部11を反対方向に変速させることで、自動変速部20の変速前後のトータル変速比γTを一定に維持することができる。
【0052】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0053】
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0054】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0055】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0056】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0057】
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0058】
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0059】
ところで、アクセルペダルを踏み込まない惰性走行時(コースト走行時)において、車両の路面状態が平坦路から降坂路に切り替わると、車両加速度Gが減速側から加速側に変化するに伴い、車両の車速Vが増加する。そして、車速Vが増加するに従い、車速Vが図7に示すアップシフト線を跨ぐと、自動変速部20がアップシフトされる。
【0060】
上記コースト走行中の自動変速部20のアップシフトにおいては、有段変速制御手段82は、変速初期において解放側の係合装置の係合油圧を急激に零まで低下させると共に、係合側の係合装置においても係合装置がトルク容量を有さない程度の係合油圧で定圧待機させる。したがって、自動変速部20の変速過渡期では、自動変速部20が動力伝達遮断状態となり、車両において一時的な減速力の抜けが発生する。そして、ハイブリッド制御手段84は、変速後の自動変速部20の入力軸回転速度を算出し、その入力軸回転速度を目標に差動部11の出力軸(本実施例においては伝達部材18)の回転速度が同期されるように第2電動機M2による同期制御(フィードバック制御)を実施する。なお、変速後の自動変速部20の入力軸回転速度は、出力軸22の回転速度NOUTと変速後のギヤ段の変速比γとの積で算出される。そして、差動部11の出力軸の回転速度(伝達部材回転速度N18)が同期されると、有段変速制御手段82は、係合側の係合装置の係合油圧を上昇させて変速を完了させる。
【0061】
ここで、車両の車速Vがアップシフト点付近において、例えば走行中の路面状態が平坦路から降坂路へ移行されると、路面の変化による車両加速度の変化が生じると共に、自動変速部20のアップシフトに伴う減速力の抜けが発生する。上記路面状態が降坂路へ移行される場合、運転者には加速感(駆動力増加)を与え、自動変速部20がアップシフトされる場合も同様、減速力が抜けることから運転者には加速感(駆動力増加)を与えることとなる。すなわち上記2つの事象は、共に運転者に加速感(駆動力増加感)を与えるものである。上記より、路面変化による車両加速度の変化とアップシフト時の減速力の抜けとが短時間に別個に発生すると、運転者に短時間に2度の加速感(駆動力増加感)を与えることとなることから、運転者に違和感を与えドライバビリティが低下する可能性があった。これに対して、変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて自動変速部20の変速開始時期を好適に変更することで、ドライバビリティの低下を抑制する。以下、上記制御について詳細に説明する。
【0062】
変速時期変更手段86は、車両先方において路面状態が平坦路から降坂路に移行する地点が存在し、且つ、車両がアップシフト点付近の車速Vにあるとき実施される。そこで、路面勾配判定手段88は、車両先方において路面状態が平坦路から降坂路に移行される地点(移行地点)が存在するか否かを判定する。また、車速判定手段90は、自動変速部20がアップシフトされる車速付近にあるか否かを判定する。
【0063】
路面勾配判定手段88は、例えば車両に備えられるナビゲーション装置92から検出される路面情報に基づいて、走行中の車両先方において平坦路から降坂路へ移行される地点(移行地点)が所定距離内にあるか否かを判定する。具体的には、ナビゲーション装置92が予め記憶している路面の勾配情報や高度情報に基づいて、車両先方の平坦路から降坂路へ移行される地点(移行地点)を検出し、上記移行地点が検出される場合、路面勾配判定手段88を肯定する。なお、上記所定距離は、予め実験等に基づいて好適に設定されており、移行地点に到達するまでに十分な時間を要す距離は除外される。また、上記所定距離は、高速ギヤ段側へのアップシフトである程、長くなるように設定される。高速ギヤ段においては車速Vが高いので、同じ所定距離である場合に降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。したがって、高速ギヤ段であっても上記到達時間が十分に確保できるように設定される。
【0064】
また、路面勾配判定手段88は、前記ナビゲーション装置92の代替手段として、車速センサ46によって検出される車速Vの変化率、または加速度センサ48によって検出される加速度Gの変化率に基づいて、車両先方の降坂路へ移行される移行地点があるか否かを予測判定することもできる。但し、上記検出手段は、検出精度がナビゲーション装置92に比べて低くなる。
【0065】
車速判定手段90は、現在の車両の車速Vが自動変速部20がアップシフトされるアップシフト点付近の速度であるか否かを判定する。図9に各変速段におけるアップシフト点付近の速度を示す。例えば、アクセル開度Accが零における第1速ギヤ段から第2速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup1としたとき、アップシフト点の車速Vup1に対して低車速側の閾値としてVaが設定され、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup2としたとき、アップシフト点の車速Vup2に対して低車速側の閾値としてVbが設定され、第3速ギヤ段から第4速ギヤ段への通常走行時のアップシフト点の速度をVup3としたとき、アップシフト点の車速Vup3に対して低車速側の閾値としてVcが設定されている。すなわち、増速されるに伴い車速VがVaとVup1との間、VbとVup2との間、VcとVup3との間になったとき、車速判定手段90は、現在の車速Vがアップシフト点付近の速度にあると判定し本判定を肯定する。なお、上記閾値として機能する車速Va、Vb、Vcは、予め実験的に設定されるものであり、各ギヤ段のアップシフト点に対応する車速(Vup1、Vup2、Vup3)から予め実験的に設定された低車速側速度範囲とされる。また、各ギヤ段におけるダウンシフト点の速度(Vup1、Vup2、Vup3)と閾値となる速度(Va、Vb、Vc)との速度幅(α、β、γ)はそれぞれ同じ値である必要はなく、各ギヤ段に応じて変更されても構わない。
【0066】
そして、路面勾配判定手段88および車速判定手段90が肯定されると、変速時期変更手段86が実施される。変速時期判定手段88は、車両の車速Vがアップシフト線付近の速度であって、車両先方に路面状態が平坦路から降坂路へ移行される移行地点より所定距離内にある場合に、通常走行時のアップシフト線に基づくアップシフト開始判断に先立って、降坂路に移行されるタイミングに応じて変速開始時期を変更する。具体的には、自動変速部20のアップシフト開始判断時期(変速出力時期)を通常走行時のアップシフト判断時期よりも早めて実施する。
【0067】
変速時期変更手段86は、現在の車両の走行地点から降坂路に移行される移行地点までの距離を検出し、上記距離および車速Vに基づいて、移行地点までの到達予測時間を算出する。そして、変速時期変更手段86は、算出された到達予測時間後に自動変速部20のアップシフトが開始判断(変速出力)されるように、有段変速制御手段82に対して変速開始判断を通常走行時よりも早める指令を出力する。したがって、車両の路面状態が平坦路から降坂路へ移行される時点と同時期に、自動変速部20のアップシフトが開始判断(変速出力)される。上記のように制御されると、平坦路から降坂路へ移行されるに伴って発生する車両加速度Gの変化と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けとを、同じ時期に重複して発生させることができる。これにより、路面が降坂路へ移行されることによる車両の加速感(駆動力増加)と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けに伴う車両の加速感(駆動力増加)とを同時期に重複させることができるため、駆動力変化時に運転者に与える違和感が抑制され、ドライバビリティが向上される。なお、変速時期変更手段86を実施しない場合、路面が降坂路へ移行されることによって発生する車両の加速感(駆動力増加)と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けに伴う車両の加速感(駆動力増加)とが別個に生じることとなり、運転者に違和感を与えることとなる。
【0068】
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち車両コースト走行状態(アクセル開度零状態)において自動変速部20がアップシフトされるときの制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0069】
先ず、車速判定手段90に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、現在の車両の車速Vがアップシフト線付近の車速にあるか否かが判定される。なお、本実施例においては、車速Vが車速VaとVup1との間、車速VbとVup2との間、および車速VcとVup3との間にある状態か否かが判定される。SA1が否定されると、SA4において、図7に示す通常走行時の変速線図に基づいて自動変速部20の変速制御が実施される。一方、SA1が肯定されると、路面勾配判定手段88に対応するSA2において、車両前方の路面において平坦路から降坂路へ移行される移行地点があるか否かが判定される。SA2が否定されると、SA4において、通常走行時の変速制御が実施される。SA2が肯定されると、変速時期変更手段86に対応するSA3において、自動変速部20のアップシフト開始時期が早められることで、平坦路から降坂路へ移行されるに伴って発生する車両加速の変化と、自動変速部20の変速過渡期に発生する減速力の抜けとが同じ時期に重複して発生するように制御される。
【0070】
図11は、上記図10のフローチャートに基づく制御作動を説明するタイムチャートである。t0時点において、路面勾配判定手段88および車速判定手段90に基づいて、変速時期変更手段86が実施されると、自動変速部20のアップシフト開始判断が通常走行時よりも早められ、t1時点に対応する路面が平坦路から降坂路へ移行される時点と同時期に自動変速部20への変速出力(変速開始判断)が有段変速制御手段82を介して出力される。そして、t2時点において、自動変速部20の油圧制御が開始される。図11に示すように、t2時点において解放側油圧が零まで急激に低下させられることで、自動変速部20が動力伝達遮断状態となり、減速力の抜けが発生する。また、t1時点においても路面勾配の変化に基づいて車両の加速度が負の値(減速力発生状態)から正の値(加速力発生状態)に変化する。これに対して、上記減速度の抜けと上記加速度の変化とが略同時に生じるように制御されることから、通常走行時では別個に発生する加速感が1度の加速感に重複させられる。なお、図11において、路面の降坂路への移行に伴って加速感が生じるt1時点と、自動変速部20が動力伝達遮断状態とされることで加速感が生じるt2時点とでは、厳密には時間差が生じるが、t1時点とt2時点との間の時間差は、変速制御において非常に短い時間であるため、運転者はその時間差に基づいて違和感を感じない。
【0071】
t2時点からt3時点においては、第2電動機M2による伝達部材18の回転同期制御が実施される。伝達部材18の回転速度N18は第2電動機M2によって制御され、自動変速部20の変速後の入力軸回転速度を目標に、伝達部材回転速度N18がフィードバック制御される。そして、t3時点において、伝達部材回転速度N18が変速部入力軸回転速度と同期されると、t3時点乃至t4時点において、係合側油圧が増圧されて変速が完了する。
【0072】
なお、図11においては、路面が降坂路へ移行される時点(t1時点)と同時に自動変速部20の変速出力(変速開始判断)が為されるものであったが、変速時期変更手段86は、路面が降坂路へ移行される前すなわち平坦路走行時点において、変速出力(変速開始判断)が出力されるようにアップシフト判断をさらに早めることができる。上記のように制御されると、自動変速部20のアップシフト開始が通常走行時よりもさらに早められることとなるため、図12のタイムチャートに示すように、自動変速部20の油圧制御が実際に開始されて減速力の抜けが実際に発生する時点と降坂路へ移行される時点とをさらに厳密に同時点(t12時点)とすることができる。
【0073】
上述のように、本実施例によれば、変速時期変更手段86は、コースト走行中に自動変速部20がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更するため、運転者に与える車両加速度変化(減速力変化)による違和感を低減し、ドライバビリティを向上させることができる。例えば、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路に移行することによる車両加速度の変化が発生するタイミングとを重複させることで、車両の加速度変化(減速力変化)が別個に発生することを回避することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0074】
また、本実施例によれば、変速時期変更手段86は、車両がアップシフトされる車速付近で走行中であって、路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めるため、自動変速部20のアップシフトによる減速力の抜けが発生するタイミングと、路面状態が降坂路へ移行することによる車両加速度Gの変化が発生するタイミングとを重複させることができる。
【0075】
また、本実施例によれば、路面の勾配を検出する路面勾配検出手段88を備え、その路面勾配検出手段88に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されるため、車両路面先方にある降坂路へ移行される地点を正確に検出することができる。
【0076】
また、本実施例によれば、前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であるため、降坂路へ移行される地点の検出精度が向上する。
【0077】
また、本実施例によれば、前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定される。高速変速段へのアップシフトである場合、車速Vが高いことから降坂路へ移行される地点への到達時間が短くなる。これに対し、到達距離を長くすることで、車速Vが高い状態であっても到達時間を確保することができ、制御性を維持することができる。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0079】
例えば、前述の実施例では、変速時期変更手段86は、路面状態が降坂路へ移行する時点において、自動変速部20のアップシフトの開始判断を実施するように制御するものであったが、変速時期変更手段86は、平坦路において自動変速部20のアップシフトを開始させることで、自動変速部20の油圧制御開始時点すなわち実際に自動変速部20が動力伝達遮断状態となって減速力の抜けが発生する時点と、降坂路へ移行する時点とを同時点となるように制御しても構わない。さらには、自動変速部20の変速に伴って減速力の抜けが発生する時点が、降坂路へ移行する時点よりも早くなるように、変速時期変更手段86は、アップシフト開始判断をさらに早めても構わない。
【0080】
また、前述の実施例では、変速機構10は差動部11を備えるハイブリッド型式の動力伝達装置であったが、本発明は、ハイブリッド型式の動力伝達装置に限定されるものではなく、差動部11を有さない通常の動力伝達装置であっても適用することができる。すなわち、有段式の自動変速部を備えた車両用動力伝達装置であれば、本発明を適用することができる。また、1モータ式のハイブリッド型式の動力伝達装置や駆動源を電動機とする動力伝達装置であっても有段式の自動変速部を備える構成であれば当然に適用可能となる。
【0081】
また、前述の実施例では、路面先方の降坂路へ移行される地点は、ナビゲーション装置92によって検出されるものであったが、ナビゲーション装置92の代替手段である車速センサ46によって検出される車速変化、或いは、車両加速度センサ48によって検出される加速度変化に基づいて、降坂路への移行地点を予測するものであっても構わない。
【0082】
また、前述の実施例では、路面が平坦路から降坂路へ移行される場合を一例に本発明が適用されているが、例えば、登坂路から降坂路、或いは降坂路からさらに勾配が急勾配となる降坂路へ移行される場合であっても本発明を適用することができる。
【0083】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0084】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車両の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1のハイブリッド車両の車両用駆動装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】各変速段におけるアップシフト点付近に設定される車速を示す図である。
【図10】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両コースト走行状態(アクセル開度零状態)において自動変速部がアップシフトされるときの制御作動を説明するフローチャートである。
【図11】図10のフローチャートに基づく制御作動を説明するタイムチャートである。
【図12】図10のフローチャートに基づく制御作動を説明する他のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0086】
10:変速機構(車両用動力伝達装置)
20:自動変速部
86:変速時期変更手段
88:路面勾配判定手段
92:ナビゲーション装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定されている変速線図に基づいて変速が実行される有段式の自動変速部を備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更する変速時期変更手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記変速時期変更手段は、前記自動変速部がアップシフトされる車速付近で走行中であって、車両前方の路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記車両前方の路面勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
該路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
予め設定されている変速線図に基づいて変速が実行される有段式の自動変速部を備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
コースト走行中に前記自動変速部がアップシフトされるに際して、車両の路面状態が降坂路に移行するタイミングに応じて変速開始時期を変更する変速時期変更手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記変速時期変更手段は、前記自動変速部がアップシフトされる車速付近で走行中であって、車両前方の路面状況が降坂路へ移行される地点より所定距離内にある場合に、アップシフト開始判断を通常走行時よりも早めることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記車両前方の路面勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
該路面勾配検出手段に基づいて、路面状態が降坂路に移行される地点が検出されることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記路面勾配検出手段は、車両に備えられたナビゲーション情報に基づく路面勾配検出であることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記所定距離は、高速変速段へのアップシフトであるほど長くなるように設定されることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−117018(P2010−117018A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292725(P2008−292725)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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