説明

車両用天井構造

【課題】人が乗車しているか否か等を勘案し、居住性と断熱性とを適宜調整することができる車両用天井構造を提供する。
【解決手段】ルーフパネルと、ルーフパネルよりも車室内側に配されたルーフトリム2と、インフレータ4とを備え、ルーフトリム2には、ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部2aが設けられている車両用天井構造100であり、移動天井部2aのルーフパネルとの離隔距離は、車両に人が乗車している場合には、車両に人が乗車していない場合と比べて、小さくなるように移動天井部2aが移動するように制御されており、ルーフパネルと、ルーフトリム2との間には気体保持空間(ルーフ用エアバッグ)3が配され、気体保持空間3の内部の気体量を調整して気体保持空間3の厚みを変化させることにより、離隔距離を可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用天井構造に関する。更に詳しくは、本発明は、ルーフトリムに、ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部が設けられており、且つルーフパネルと移動天井部との間に気体保持空間が配されているため、乗車している人の頭上の空間、及びルーフパネルとルーフトリムとの間の空間、を広くしたり狭くしたりすることができ、人が乗車しているか否か等を勘案し、居住性と断熱性とを適宜調整することができるとともに、必要時にはインフレータから気体保持空間に気体を流入させエアバッグとして機能させ、乗員がルーフトリムに接触したときに受ける衝撃を緩和することができる車両用天井構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ルーフパネルと、このルーフパネルの車室側に配され、ルーフパネルに固定されているルーフトリムとを備える車両用天井構造が知られている。このような車両用天井構造では、乗員の頭上の空間が広いほど居住性が向上するが、ルーフパネルとルーフトリムとが近接すると、これらの間の空間が小さくなり、車室内の温度が外部からの伝熱等の影響を受け易くなる。また、このような外部雰囲気の影響を軽減し、快適な室内環境を維持するための空調により多くのエネルギーを必要とすることになる。
【0003】
前記のような問題に対処するため、ルーフパネルの車室側の面に低放射率フィルムを設けてなる車両天井構造が知られており(例えば、特許文献1参照。)、この低放射率フィルムにより、ルーフパネルから車室内への熱の侵入が抑えられるとともに、車室内から車室外への熱の放出が促進され、夏期であっても車室内の昇温が抑えられる。更に、ルーフパネルと内装基材との間に赤外線反射部材が配置されるとともに、内装基材と赤外線反射部材との間に制振部材が配置された車室用内装材が知られており(例えば、特許文献2参照。)、車室側への伝熱が遮断されるとともに、赤外線は赤外線反射部材により反射され、且つ制振部材により遮音され、車室内の静粛性が高められる。
【0004】
また、乗員が車室の天井部から大きな衝撃力を受けないようにするための自動車の天井部のエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。そして、このエアバッグ装置によれば、乗員が天井部に接触したときの衝撃が展開したエアバッグにより緩和され、且つ走行時における車室空間が狭められることがなく、良好な乗り心地も確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−136849号公報
【特許文献2】特開2009−126496号公報
【特許文献3】特開平11−334515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された車両天井構造では、内装トリム材と低放射率フィルムとの間には空間が形成されているのみであり、車室内から車室外への放熱を促進させる構造であるため、冬季、車室内を暖房したときに車室内の熱が車室外へ散逸してしまうことがある。また、特許文献2に記載された車両用内装材では、車室側への伝熱の遮断は、ルーフパネルと内装基材との間の空気層によりなされており、伝熱を十分に遮断するためには空気層を厚くする必要があるが、空気層を厚くすれば乗員の頭上の空間が小さくなり、居住性が低下するという問題がある。
【0007】
更に、特許文献3に記載された自動車の天井部のエアバッグ装置では、必要時にエアバッグとして作用し、乗員を衝撃から保護する機能を有するのみであり、走行時における車室空間が狭められることがなく、良好な乗り心地が確保されるという説明はあるものの、人が乗車しているか否か等により、居住性と断熱性とを適宜調整するという機能については全く着眼されていない。
【0008】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、ルーフトリムに、ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部が設けられており、且つルーフパネルと移動天井部との間にルーフ用エアバッグからなる気体保持空間が配されているため、乗車している人の頭上の空間、及びルーフパネルとルーフトリムとの間の空間、を広くしたり狭くしたりすることができ、人が乗車しているか否か等を勘案し、居住性と断熱性とを適宜調整することができるとともに、必要時にはインフレータから気体保持空間に気体を流入させエアバッグとして機能させ、乗員がルーフトリムに接触したときに受ける衝撃を緩和することができる車両用天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
1.ルーフパネルと、
前記ルーフパネルよりも車室内側に配されたルーフトリムと、を備える車両用天井構造であって、
前記ルーフトリムには、前記ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部が設けられており、
前記ルーフパネルと、前記ルーフトリムとの間には気体保持空間が配され、
前記気体保持空間の内部の気体量を調整して前記気体保持空間の厚みを変化させることにより、前記離隔距離を可変とするとともに、
前記気体保持空間に気体を流入させるためのインフレータを備えることを特徴とする車両用天井構造。
2.前記移動天井部の前記ルーフパネルとの離隔距離は、車両に人が乗車している場合には、前記車両に人が乗車していない場合と比べて、小さくなるように前記移動天井部が移動するように制御されている請求項1に記載の車両用天井構造。
3.前記ルーフトリムは、芯材部と、前記芯材部に積層された表皮部とを備え、
前記ルーフトリムの前記移動天井部と、前記ルーフトリムのうち前記移動天井部以外の非移動天井部との連結部分は、前記芯材部が取り除かれた前記表皮部とされている請求項1又は2に記載の車両用天井構造。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用天井構造では、ルーフトリムに、ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部が設けられており、この移動天井部を移動させることにより、乗車している人の頭上の空間、及びルーフパネルとルーフトリムとの間の空間、をそれぞれ広くしたり狭くしたりすることができ、人が乗車しているときの居住性、及び駐車しているときの断熱性を適宜調整することができる。また、ルーフパネルと移動天井部との間にルーフ用エアバッグからなる気体保持空間が配されているため、必要時にはインフレータから気体保持空間に気体を流入させエアバッグとして機能させ、乗員がルーフトリムと接触したときに受ける衝撃を十分に緩和することができる。
更に、移動天井部のルーフパネルとの離隔距離が、車両に人が乗車している場合には、車両に人が乗車していない場合と比べて、小さくなるように移動天井部が移動するように制御されている場合は、人が乗車しているときは、移動天井部をルーフパネル側に移動させ、頭上の空間を広くすることによって居住性を向上させることができる。一方、人が乗車していないときは、移動天井部をルーフパネルと離隔した位置に移動させてルーフパネルとルーフトリムとの間の空間を広くすることにより、断熱性を向上させ、外部からの伝熱等による車室内の温度変化を抑えることができる。
また、ルーフトリムは、芯材部と、芯材部に積層された表皮部とを備え、ルーフトリムの移動天井部と、ルーフトリムのうち移動天井部以外の非移動天井部との連結部分が、芯材部が取り除かれた表皮部とされている場合は、連結のための他の部材を必要とすることなく、移動天井部と非移動天井部とを有するルーフトリムとすることができ、表皮部は柔軟であるため、移動天井部を容易に移動させることができる。更に、表皮部は柔軟であるため、移動天井部が車室側へ容易に移動可能であり、インフレータから気体保持空間に気体を流入させエアバッグとして機能させる場合に、気体保持空間の膨張が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】人が乗車しているときに、移動天井部がルーフパネルと近接した位置に移動している状態を説明するための模式図である。
【図2】人が乗車していないときに、移動天井部がルーフパネルと離隔した位置に移動している状態を説明するための模式図である。
【図3】インフレータからの高圧ガスの流入によりエアバッグとして機能した状態を説明するための模式図である。
【図4】移動天井部と非移動天井部とが、ルーフトリムが備える表皮部により連結されている状態を説明するための模式図である。
【図5】本発明の車両用天井構造の一実施形態の一部断面を含む斜視図である(但し、ルーフパネルは図示していない。)。
【図6】図5の車両用天井構造の断面の模式図である(但し、ルーフパネルは図示していない。)。
【図7】車両用天井構造の他の実施形態の断面の模式図である(樹脂ボードが配設されていない実施形態である。但し、ルーフパネルは図示していない。)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図1〜7を参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る車両用天井構造100(図1〜6参照、但し、図5、6ではルーフパネルは図示していない。)は、ルーフパネル1と、ルーフパネル1よりも車室内側に配されたルーフトリム2とを備え、ルーフトリム2には、ルーフパネル1との離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部2a(図4〜6参照)が設けられており、ルーフパネル1とルーフトリム2との間には気体保持空間3が配され、気体保持空間3の内部の気体量を調整して厚みを変化させることにより、離隔距離を可変とするとともに、気体保持空間3に気体を流入させるためのインフレータ4を備える。
【0014】
前記「車両用天井構造100」は、各種の車両の天井構造に適用することができる。この車両としては、例えば、乗用車、バス等の人の移動に用いられる自動車、及びトラック等の貨物自動車などの自動車の他、列車、汽車等の鉄道車両、建設車両、農業車両、産業車両等が挙げられる。これらの車両のうちで、本発明の車両用天井構造とすることで、特に居住性及び断熱性を向上させることができるのは自動車であり、自動車のうちでも、車体の小さい乗用車及び小型トラック、特に快適な居住空間であることが重要な乗用車に適用した場合に、特段の作用効果が奏される。
【0015】
前記「ルーフパネル1」は、車両の天井の外板であり(図1〜4参照)、その構造、形状、寸法、材質等は特に限定されない。このルーフパネル1としては、例えば、鋼板製、アルミニウム製等の金属製、及び繊維強化プラスチック製等の樹脂製のルーフパネル1が挙げられる。また、ルーフパネル1の車室側の面とルーフトリム2のルーフパネル1側の面との離隔距離(以下、「離隔距離」は、ルーフパネル1の車室側の面とルーフトリム2のルーフパネル1側の面との離隔距離を意味する。)は、例えば、自動車、特に乗用車の場合、通常、5〜50mm、特に20〜30mmである。本発明の車両用天井構造100においても、ルーフパネル1と非移動天井部2b(図4参照)との離隔距離(ルーフパネル1への取り付け部の近傍を除く、間隔が略一定となった部分の離隔距離)、及び移動天井部2aがルーフパネル1側へ移動したときの、ルーフパネル1と移動天井部2aとの離隔距離は前記の距離とすることができる。
【0016】
前記「ルーフトリム2」は、ルーフパネル1の車室内側に配された天井材であり、その構造、形状、寸法、材質等は特に限定されない。ルーフトリム2は、芯材部21と、この芯材部21に積層された表皮部22とを備え(図4〜6参照)、芯材部21がルーフパネル1側になるとともに、表皮部22が車室側の意匠面を形成するように配設される。芯材部21は、例えば、各種の不織布、及び発泡又は非発泡樹脂シート等を用いて形成することができる。また、表皮部22は、例えば、各種の不織布、織布、編布、塩化ビニルレザーシート等、又はエラストマーシートなどを用いて形成することができる。更に、芯材部21と表皮部22とは熱融着等により直接積層されていてもよいし、樹脂発泡層等を介して間接的に積層されていてもよい。また、ルーフトリム2には、その他のシート材やフィルム材が積層されていてもよい。
【0017】
ルーフトリム2は、ルーフパネル1に固定された前記「非移動天井部2b」と、ルーフパネル1側へ移動したときの位置と、離隔した位置との間で移動可能である前記「移動天井部2a」と、を備える。移動天井部2aがルーフパネル1側へ移動したときの位置(図1参照)、及び離隔した位置(図2参照)は特に限定されないが、ルーフパネル1側へ移動したときの位置は、ルーフパネル1の車室側の面と、移動天井部2aのルーフパネル1側の面とが前記の離隔距離となる位置であればよい。また、離隔する位置は、ルーフパネル1の車室側の面と移動天井部2aのルーフパネル1側の面との離隔距離が、断熱性を十分に向上させることができる距離となる位置であればよい。更に、樹脂ボード5が介装されるときも、前記の離隔距離とすることができるが、この場合、樹脂ボード5は移動天井部2aを支持することができる厚みであればよく、この厚みは適宜設定することができる。
【0018】
本発明の車両用天井構造では、樹脂ボード5を用いない他の形態とすることもできる(図7参照)。即ち、気体保持空間3を構成する袋体をルーフパネル1の車室側の面に接合等の方法により直接取り付けてもよい。但し、ルーフパネル1の車室側の面は、特に夏期等には相当な高温になるため、樹脂ボード5を用いないときは、ポリエステル製等の十分な耐熱性を有する基布を用いてなる袋体を使用して気体保持空間3を形成する必要がある。尚、この他の形態の場合、前記の一実施形態と同じ構成については、同一の符号を付する。
【0019】
移動天井部2aと非移動天井部2bとは、これらが一体に連結されてルーフトリム2が形成されるが、特に車室側からみたときに、表皮部22に皺が発生する等、意匠性が損なわれないように連結する必要がある。移動天井部2aと非移動天井部2bとは、例えば、芯材部21と、この芯材部21に積層された表皮部22とを備えるルーフトリム2のうちの芯材部21が取り除かれた表皮部22により連結することができる(図4参照)。このようにすれば、皺等のない優れた意匠性を有するルーフトリム2とすることができるとともに、特に他の連結部材を必要とすることもなく、コスト面でも有利である。
【0020】
ルーフトリム2の移動天井部2a及び非移動天井部2bの、ルーフトリム2全体の平面方向における各々の配設位置は特に限定されず、居住性と断熱性との観点で、適宜設定することができるが、通常、周縁部はルーフパネル1に固定された非移動天井部2bとし、中心部を移動天井部2aとすることが好ましい。また、中心部の全体が移動天井部2aであってもよく、一部のみが移動天井部2aであってもよい。更に、移動天井部2aは1個のみであってもよく、複数に分割されていてもよい。
【0021】
中心部の一部のみが移動天井部2aである場合、この移動天井部2aの面積、及び設けられる位置及び個数は特に限定されず、シートの個数(乗員数)及び配置によって設定することができる。この場合、気体保持空間3は、ルーフパネル1とルーフトリム2の中心部の全体との間に配されていてもよく、ルーフパネル1と移動天井部2aが設けられる部分との間にのみ配されていてもよい。特に移動天井部2aが設けられていない部分の下方に人が乗車しない車両構造であるときは、居住性及び気体保持空間3をエアバッグとして機能させるという観点では、気体保持空間3は必ずしも配する必要はないが、断熱性の観点では、気体保持空間3は、ルーフパネル1とルーフトリム2の中心部の全体との間に配されていることが好ましい。
【0022】
また、複数の移動天井部2aに分割されている場合、例えば、乗用車の前席と後席とに対応する移動天井部2aを想定し、ルーフトリム2のうちのルーフパネル1に固定された周縁部を除く中心部を前後に略2分割し、2個の移動天井部2aを形成するとともに、それぞれの移動天井部2aの境界部をルーフパネル1の車室側の面に固定してなる車両用天井構造とすることができる。更に、前席及び後席の各々の左右に略4分割し、4個の移動天井部2aを形成するとともに、それぞれの移動天井部2aの境界部をルーフパネル1の車室側の面に固定してなる車両用天井構造とすることもできる。このように分割された移動天井部2aの個数は、特に車両が乗用車である場合、その大きさ及び乗員数によって、例えば、2〜8個、特に2〜6個、更に2〜4個の移動天井部2aに分割することができる。尚、複数の移動天井部2aの境界部をルーフパネル1の車室側の面に固定する場合は、エアバッグとしての機能が損なわれることのないように留意して固定する必要がある。
【0023】
更に、移動天井部2aの面積のルーフトリム2の全面積に対する割合(平面視したときの面積割合であり、凹凸は考慮しない。)は、特に限定されず、移動天井部2aを設けることによる作用効果が十分に奏される面積割合とすることができる。尚、この面積割合は、前記のように、分割された複数の移動天井部2aが形成されている場合は、それらの合計面積のルーフトリム2の全面積に対する割合であるとする。
【0024】
前記「気体保持空間3」は、袋体の内部空間である。また、この袋体の車室側の面にはルーフトリム2の移動天井部2aが接合され、ルーフパネル1側の面には、通常、樹脂ボード5が接合され(図4〜6参照)、樹脂ボード5を、そのルーフパネル1側の面に設けられたクリップ51(図5、6参照)によりルーフパネル1に固定することにより、樹脂ボード5、袋体及び移動天井部2aを、ルーフパネル1に取り付けることができる。
【0025】
気体保持空間3を構成する袋体としては、一般にルーフ用エアバッグとして用いられる袋体を特に限定されることなく用いることができる。この袋体には前記「インフレータ4」が付設され、センサからの作動信号によりインフレータ4内で発生した高圧の気体が袋体内に流入することにより膨張し、展開して、エアバッグとして機能する。インフレータ4を配設する位置は特に限定されないが、例えば、リヤサイドレール、センタサイドレール等のサイドレール内に配設することができる。
【0026】
また、気体保持空間3を構成する袋体は、通常、平面視で略矩形状をなし、袋体の一辺、特に車両の前後方向の一辺、更に車両の前方向の一辺の近傍に、内部の気体を吸引するための吸引孔3aを設け(図5参照)、この吸引孔3aから内部の気体を吸引することにより、気体保持空間3の厚みを減じることができる。これにより、人が乗車したときに、頭上の空間を広くすることができ、居住性を向上させることができる。
【0027】
吸引孔3aは、矩形状の一辺の中央部に設けてもよいが、角部近傍に設けることが好ましい。吸引孔3aを角部近傍、特に車両の前方向の角部近傍に設ければ、下記のように、車両のエンジンルーム内の何らかの装置において発生する負圧を吸引手段として利用する場合に、例えば、吸引孔3aからエンジンルーム内へとホース7(図5参照)を配設するときに、フロントピラー内を挿通させて容易に配設することができる。尚、袋体に吸引孔3aを設ける際には、エアバッグとしての機能が損なわれることのないようにサイズ、個数、配置等に留意して設ける必要がある。
【0028】
気体保持空間3内の気体を吸引する吸引手段も特に限定されず、この気体の吸引のための別段の手段、例えば、減圧ポンプ等を用いてもよいが、コスト等の観点で、車両が元々有している何らかの装置において発生する負圧を吸引手段として利用する形態であることが好ましい。この負圧としては、エンジンの吸気による負圧などが挙げられ、このような負圧を利用することにより、低コストで、且つ効率よく気体を吸引し、移動天井部2aをルーフパネル1の側へと移動させることができる。
【0029】
また、気体保持空間3を構成する袋体の吸引孔3aを除く他部は、通気性を有していなくてもよく、通気性を有していてもよい。気体保持空間3は袋体により構成されており、ルーフ用エアバッグとしての性能設定により、実質的に通気性を有さない、又は所定の通気性を有する袋体とすることができる。袋体が通気性を有していないときは(通気性を有していないとは、JIS L 1096 8.27.1[A法(フラジール形法)]により通気量を測定した場合に、測定限界値以下であることを意味する。)、気体保持空間3内の気体をより効率よく吸引することができ、移動天井部2aをルーフパネル1の側により容易に移動させることができる。
【0030】
一方、気体保持空間3を構成する袋体の吸引孔3aを除く他部が通気性を有している場合、通気の程度は特に限定されないが、ルーフ用エアバッグの所要性能によって設定することができる。例えば、吸引孔3aを除く他部の前記の方法により測定した通気量が、吸引孔3aからの気体の吸引と、袋体の吸引孔3aを除く他部からの袋体内への気体の流入とで、移動天井部2aをルーフパネル1側の所定位置に容易に保持することができ、且つ袋体がエアバッグとして正常に作動する通気量であればよい。
【0031】
気体保持空間3を構成する袋体には、吸引孔3aを設けるとともに、吸引孔3aが設けられた一辺又は角部と対向する位置の他の辺、又は角部の近傍に、外部から気体を取り入れるための気体取入孔を設けてもよい。このようにすれば、吸引孔3aからの気体の吸引と、気体取入孔からの気体保持空間3内への気体の流入とで、移動天井部2aをルーフパネル1側の所定位置に容易に保持することができる。この場合、気体保持空間3を構成する袋体のエアバッグとしての機能が損なわれることのないように留意する必要がある。尚、エアバッグには、膨張後、急速に収縮させるための気体吸入孔が設けられているため、この気体吸入孔を気体取入孔として利用することもできる。
【0032】
吸引孔3aから吸引される気体の流路に弁を配設することもでき、この弁の開度によって気体の吸引量を調整することができる。より具体的には、例えば、乗員の体格等を考慮した居住性の観点で、弁の開度により移動天井部2aの最適な位置を容易に設定することができ、居住性をより容易に向上させることができる。この場合、気体保持空間3が袋体により構成され、このエアバッグとして機能する袋体には前記のように気体吸入孔が設けられているため、通常、気体の吸引は、弁を所定の開度として継続される。また、袋体に設けられた気体吸入孔がエアバッグとして作動する前は閉止されており、作動時にインフレータから流入する気体の圧力により開口し、気体吸入孔として機能する構造であれば、気体を吸引し、移動天井部2aをルーフパネル1側に移動させた後、弁を閉止し、吸引を停止してもよい。
【0033】
また、ルーフトリム2に設けられた移動天井部2aを、どのように移動させるかは特に限定されないが、通常、車両に人が乗車しているときに、車両に人が乗車していないときと比べて、移動天井部2aとルーフパネル1との離隔距離が小さくなるように制御される。このようにして制御することにより、人が乗車しているときの居住性を向上させることができる。
【0034】
更に、ルーフトリム2の移動天井部2aを、ルーフパネル1に近接する位置と離隔する位置との間で移動させる移動手段としては、ルーフパネル1と、ルーフトリム2との間に配された気体保持空間3内の気体量を調整して気体保持空間3の厚みを変化させる移動手段が挙げられる。この場合、気体保持空間3内の気体の種類は特に限定されず、空気、窒素ガス等の危険性のない気体などであればよいが、特に特殊な気体を用いる必要はなく、通常、この気体は空気である。この移動天井部2aを移動させる手段は特に限定されず、例えば、モーターを用いた駆動手段によって移動させてもよい。
【0035】
また、気体保持空間3の厚みを増加させ、ルーフパネル1と移動天井部2aとを離隔させる場合、気体保持空間3に気体を流入させて増加させることもできるが、そのような特段の手段は必ずしも必要ではない。気体保持空間3の厚みは、移動天井部2a等の自量により増加させることができ、これにより、移動天井部2aをルーフパネル1と離隔する側に移動させることができる。この場合、気体保持空間3内に気体が流入することになるが、この気体の流入には、前記の吸引孔3a、気体取入孔及び気体吸入孔(袋体がエアバッグとして作動する前から開口している場合)を利用することができる。また、気体保持空間3の厚みは急激に増加させる必要はないため、気体保持空間3を構成する袋体の吸引孔3aを除く他部が通気性を有しているときは、この他部からの気体の流入により、気体保持空間3の厚みを徐々に増加させることもできる。
【0036】
前記のように、移動天井部2aをルーフパネル1側へと移動させ、ルーフパネル1と移動天井部2aとを近接させることにより、これらの間の空間が小さくなった場合、通常、断熱性は低下する。しかし、気体保持空間3内の気体を吸引して移動天井部2aを移動させることにより、気体保持空間3内を減圧状態とすることができ、これにより空間内の熱伝導性が小さくなるとともに、対流による伝熱が妨げられるため、断熱性の低下を十分に抑えることができる。
【0037】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施形態を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、各種の車両、特に乗用車の天井構造として利用することができ、居住性と断熱性とをともに向上させることができるため、特に乗用車等の快適な車室内空間が必要とされる車両の天井構造として有用である。
【符号の説明】
【0039】
100;車両用天井構造、1;ルーフパネル、2;ルーフトリム、21;芯材部、22;表皮部、2a;移動天井部、2b;非移動天井部、3;気体保持空間、3a;吸引孔、4;インフレータ、5;樹脂ボード、51;クリップ、6;位置決めピン、7;吸引用ホース、81;前席シートバック、82;後席シートバック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフパネルと、
前記ルーフパネルよりも車室内側に配されたルーフトリムと、を備える車両用天井構造であって、
前記ルーフトリムには、前記ルーフパネルとの離隔距離が可変するように移動可能な移動天井部が設けられており、
前記ルーフパネルと、前記ルーフトリムとの間には気体保持空間が配され、
前記気体保持空間の内部の気体量を調整して前記気体保持空間の厚みを変化させることにより、前記離隔距離を可変とするとともに、
前記気体保持空間に気体を流入させるためのインフレータを備えることを特徴とする車両用天井構造。
【請求項2】
前記移動天井部の前記ルーフパネルとの離隔距離は、車両に人が乗車している場合には、前記車両に人が乗車していない場合と比べて、小さくなるように前記移動天井部が移動するように制御されている請求項1に記載の車両用天井構造。
【請求項3】
前記ルーフトリムは、芯材部と、前記芯材部に積層された表皮部とを備え、
前記ルーフトリムの前記移動天井部と、前記ルーフトリムのうち前記移動天井部以外の非移動天井部との連結部分は、前記芯材部が取り除かれた前記表皮部とされている請求項1又は2に記載の車両用天井構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11921(P2012−11921A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151458(P2010−151458)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】