説明

車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両および車両用操舵方法

【課題】 運転者への違和感を抑制することができる車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両および車両用操舵方法を提供すること。
【解決手段】 転舵角の推定値としての推定転舵角と実転舵角との偏差である転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を操舵部に付与するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によって操舵操作な操舵部と、該操舵部と機械的に分離され、操舵部の操舵角に応じて操向輪を転舵する転舵部と、操舵部に操作反力を付与する反力アクチュエータとを備えた車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両および車両用操舵方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、運転者が操作可能な操舵ハンドル(操舵部)と、該操舵ハンドルと機械的に分離され、操舵ハンドルの操舵角に応じて操向輪を転舵する転舵軸モータと、操舵ハンドルに接続された操舵軸を回転駆動する(反力トルクを付与する)事により、操舵軸を介して操舵ハンドルに反力を付与する操舵軸モータ(反力アクチュエータ)とを備えた車両用操舵装置において、操舵ハンドルに接続した操作軸の操舵角に基づいて目標転舵量を演算し、演算した目標転舵量と転舵変位量との偏差に基づき転舵軸モータを制御して操向輪を転舵駆動すると共に、操舵力と転舵反力との偏差及び目標転舵量と転舵変位量との偏差に基づき、操舵軸モータを制御して、操舵ハンドルに反力を付与するものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−217998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、例えば運転者が操舵ハンドルを急激に操舵した場合など、目標転舵量の変化速度が大きくなると、目標転舵量と転舵変位量との偏差が大きくなり、運転者に違和感を与えるおそれがあった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、操舵ハンドルに適切な操舵反力を付与する事により、操舵時に運転者への違和感を抑制することができる車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両および車両用操舵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、転舵角の推定値としての推定転舵角と実転舵角との偏差である転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を操舵部に付与するようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力が作用するため、運転者による操作部の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角に対して転舵アクチュエータによる操向輪の転舵角が追いつくため、結果的に操舵角に対応した目標転舵角と操向輪の転舵角との偏差を減少し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両および車両用操舵方法を実現する最良の形態を、実施例1に基づいて説明する。
【0008】
[実施例1]
まず、構成を説明する。
〔全体構成〕
図1は、実施例1の車両用操舵装置を適用した車両1の全体構成図である。この車両1は、前輪2FL,2FRと後輪3RL,3RRのうち、前輪2が転舵を行う操向輪となっている。また実施例1の車両用操舵装置は、操舵機構16と転舵機構17とが機械的に切り離された、いわゆる、ステア・バイ・ワイヤ・システムである。
【0009】
実施例1の車両用操舵装置は操舵機構16として、運転者が操舵を行うステアリング13と、ステアリング13に連結したステアリングシャフト18と、ステアリングシャフト18の回転角(操舵角)を検出する操舵角センサ19と、ステアリングシャフト18に入力されたトルク(操舵トルク)を検出する操舵トルクセンサ20と、ステアリングシャフト18に回転トルク(操舵反力)を付与する操舵軸モータ(反力アクチュエータ)8と、操舵軸モータ8の角度を検出する操舵軸モータ回転角センサ12とを有する。
【0010】
また実施例1の車両用操舵装置は転舵機構17として、前輪2FL、2FRを転舵駆動する第1転舵モータ9a(転舵アクチュエータ)、第2転舵モータ9b(転舵アクチュエータ)と、第1転舵モータ9a、第2転舵モータ9bの角度を検出する転舵モータ回転角センサ10a,10bと、転舵モータ9の回転をラック5に伝達するピニオン11a,11bと、ラック5に連結したタイロッド21a,21bと、タイロッド21に連結したナックルアーム4a,4bと、ナックルアーム4に連結した前輪(操向輪)2FR,2FLと、前輪2FR,2FLの横力として前輪2FR,2FLからラック5の軸方向に入力する力(タイヤ横力)を検出するタイヤ横力センサ15a,15bとを有する。
【0011】
また実施例1の車両用操舵装置は、車両用操舵装置の故障等により転舵モータ9を正確に駆動できなくなったときに、ステアリングシャフト18とピニオン11bを機械的に接続する事により操舵機構16と転舵機構17とを機械的に接続して、運転者がステアリング13を操作して前輪2FR,2FLを転舵可能とするバックアップ機構6としてのバックアップクラッチ7を有している。
【0012】
また実施例1の車両用操舵装置は各装置の制御機構23として、第1電子コントロールユニット14a、第2電子コントロールユニット14b、第3電子コントロールユニット14cを有している。
【0013】
第1電子コントロールユニット14aは、転舵モータ回転角センサ10aから第1転舵モータ9aの回転角情報を入力し、また第1転舵モータ9aの制御を行う。第2電子コントロールユニット14bは、転舵モータ回転角センサ10bから第2転舵モータ9bの回転角情報を入力し、また第2転舵モータ9bの制御を行う。第3電子コントロールユニット14cは、操舵角センサ19から操舵角情報、操舵トルクセンサ20から操舵トルク情報、操舵軸モータ回転角センサ12から操舵軸モータ8の回転角情報、タイヤ横力センサ15a,15bからのタイヤ横力情報、ヨーレートセンサ26から車両のヨーレート、加速度センサ25から車両の横加速度を入力し、また操舵軸モータ8、バックアップクラッチ7の制御を行う。なお前輪2の実際の転舵角である実転舵角は、転舵モータ9aの回転角情報から算出することができる。
【0014】
第1電子コントロールユニット14a、第2電子コントロールユニット14b、第3電子コントロールユニット14cは、Controller Area Network(コントローラエリアネットワーク:以下、CAN)22により接続されている。第1電子コントロールユニット14a、第2電子コントロールユニット14b、第3電子コントロールユニット14cは、CAN22を介して互いにデータの送受信を行う事により情報を共有しており、いずれかの電子コントロールユニット14が故障したとしても、残りの電子コントロールユニット14により各センサから情報の入力、各装置の制御を行えるようになっている。また第1電子コントロールユニット14a、第2電子コントロールユニット14b、第3電子コントロールユニット14cはバッテリ24と接続し、バッテリ24から電力が供給されている。
【0015】
〔転舵モータ制御処理〕
転舵モータ9の制御は、以下のような処理によって行われる。
ステアリング13の操舵角を操舵角センサ19で検出し、第1電子コントロールユニット14aにおいて操舵角センサ19で検出した操舵角に基づいて目標転舵角θtを演算する。この目標転舵角θtは、操舵角に対する目標転舵角θtが予め定められたマップを参照する事により演算される。尚、操舵角に対する目標転舵角θtのマップは、例えば車速が高いほど操舵角に対する目標転舵角θtを小さく、また車速が低いほど操舵角に対する目標転舵角θtを大きくする等、車両の状態等に基づいて変更されるものであっても良い。
【0016】
第1、第2電子コントロールユニット14a,14bでは、実転舵角θaが目標転舵角θtと一致するように、転舵モータ9の駆動指令値が演算され、転舵モータ9が駆動されることで転舵動作が行われる。
【0017】
第1、第2電子コントロールユニット14a,14bで演算される駆動指令値は、目標転舵角θtに所定の応答特性で実転舵角θaが追従するように制御する角度サーボ系により演算される。
第1、第2電子コントロールユニット14a,14bの角度サーボ系は、ロバストモデルマッチング手法を用いた方法で構成される。この方法では、あらかじめ与えておいた所望の特性と一致させるためのモデルマッチング補償器により、目標転舵角θtに対し所定の規範応答特性を実現するための駆動指令値を演算し、ロバスト補償器により外乱成分に応じた補償電流が演算される。これにより、外乱発生時においても実転舵角θaが規範応答特性で追従可能な、耐外乱性に優れた制御系が実現できる。
【0018】
〔操舵軸モータ制御処理〕
図2は第3電子コントロールユニット14cにおいて行われる操舵軸モータ8の制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0019】
ステップS1では、車両状態としてのタイヤ横力センサ15a,15bで検出したタイヤ横力F1、転舵モータトルクF2、ヨーレートセンサ26で検出した車両のヨーレートF3及び、加速度センサ25で検出した車両の横加速度F4と、操舵角θsと、実転舵角θaとを入力し、ステップS2に移行する。転舵モータトルクFは、第1、第2電子コントロールユニット14a,14bによる転舵モータ9の駆動指令値から求めることができる。
ステップS2では、実転舵角θaを微分した実転舵角速度dθa/dtを演算して、ステップS3へ移行する。
【0020】
ステップS3では、推定転舵角θeを演算して、ステップS4へ移行する。推定転舵角θeは、ステップS1において入力した操舵角θsに応じた目標転舵角θtを算出するとともに、算出した目標転舵角θtに転舵モータ9の応答遅れと等価なフィルタLpを乗算して、転舵角の推定値である推定転舵角θeを算出する。すなわち、目標転舵角θtに対する実際の転舵角は、主に転舵モータ9の応答遅れによる遅れが発生する為、上述の角度サーボ系や転舵モータの電流応答等による転舵モータ9の応答遅れを予め実験やシミュレーション等によって求めておき、求めた目標転舵角θtに応答遅れを模擬するフィルタLpを乗算して、転舵角の推定値である推定転舵角θeを算出する。
θe=Lp・θt
ステップS4では、推定転舵角θeの微分値である推定転舵角速度dθe/dtを演算して、ステップS5へ移行する。
【0021】
ステップS5では、第1操舵反力TH1を演算して、ステップS6へ移行する。第1操舵反力TH1は、ステップS1において入力した車両状態としてのタイヤ横力F1、転舵モータトルクF2、車両ヨーレートF3及び車両横加速度F4と、運転者の操舵状態としての操舵角θs(ステップS1において入力した操舵角θs)、操舵角θsの一回微分値である操舵角速度、及び操舵角θsの二階微分値である操舵角加速度の操舵状態とにもとづいて、下記の式から求める。すなわち、第1操舵反力TH1は車両状態と運転者の操舵状態とに基づく操舵反力である。
TH1=G1・F1+G2・F2+G3・F3+G4・F4+G5・S1+G6・S2+G7・S3
尚、G1〜G7は実験等によって予め設定されたゲインである。
【0022】
ステップS6では、第2操舵反力TH2を演算して、ステップS8へ移行する。第2操舵反力TH2は、ステップS5において演算した推定転舵角θeとステップS1において入力した実転舵角θaとの差(転舵角偏差)に所定の重み係数Kを乗算して求める。
TH2=K・(θe−θa)
【0023】
ステップS7では、第3操舵反力TH3を演算して、ステップS9へ移行する。第3操舵反力TH3は、ステップS2において演算した推定転舵角速度dθe/dtとステップS4において入力した実転舵角速度dθa/dtとの差に所定の重み係数(予め実験等によって定められたゲイン)Cを乗算して求める。
TH3=C・(dθe/dt−dθa/dt)
尚、上式は
TH3=C・d/dt(θe-θa)
であっても良い。
【0024】
いずれにおいても、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(転舵角偏差)の微分値に所定の係数Cを乗算した値が第3操舵反力TH3に相当する。
尚、以下では第3操舵反力TH3と第1操舵反力及び第2操舵反力とを区別する為、第3操舵反力TH3を付加反力TH3と記載する。また、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差を、以下では転舵角偏差とも記載する。
【0025】
ステップS8では、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差(θt-θa)の正負の符号とが同一であるか否かを判定し、同一である場合にはステップS9へ移行し、同一でない場合にはステップS14へ移行する。
【0026】
ステップS9では、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の正負の符号とが同一であるか否かを判定し、符号が同一であればステップS10へ移行し、符号が同一でなければステップS14へ移行する。
【0027】
ステップS10では、付加反力TH3が予め定められた所定の上限値であるリミッタTLよりも大きいか否かを判定し、付加反力TH3がリミッタTLより大きいときにはステップS12へ移行し、付加反力TH3がリミッタTL以下であるときにはステップS11へ移行する。尚、リミッタTLは、付加反力TH3が大きすぎる事により操舵反力が大きくなりすぎ、運転者に違和感を与える可能性が有る値を予め実験等によって求めて設定した値である。
【0028】
ステップS11では、付加反力TH3の変化速度が予め定められた所定の速度SLよりも大きいか否かを判定し、付加反力TH3の変化速度が所定の速度SLよりも大きいときにはステップS13へ移行し、付加反力TH3の変化速度が所定の変化速度SL以下であるときにはステップS15へ移行する。
尚、所定の変化速度SLは、付加反力TH3の変化速度が大きすぎる事により操舵反力変化が急激となり、運転者に違和感を与える可能性が有る値を予め実験等によって求めて設定した値である。
【0029】
ステップS12では、付加反力TH3をリミッタTLに設定して、ステップS15へ移行する。
ステップS13では、付加反力TH3にフィルタSを乗算したものを新たな付加反力TH3として、ステップS15へ移行する。このフィルタSは、付加反力TH3の変化速度を抑制し、急激な付加反力TH3の立ち上がりを抑制する。
ステップS14では、付加反力TH3を0(ゼロ)として、ステップS15へ移行する。
ステップS15では、第1操舵反力TH1、第2操舵反力TH2、付加反力TH3の合計から操舵軸モータ8の駆動指令値を演算して処理を終了する。
【0030】
〔操舵軸モータ制御処理動作〕
推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差(θt-θa)の正負の符号とが同一であるときには、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと移行し、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差(θt-θa)の正負の符号とが同一でない場合はステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS14へと移行する。
【0031】
またステップS9において、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の正負の符号とが同一でないときには、ステップS14→ステップS15→RETURNへと移行する。
ステップS9において、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の符号とが同一であるときには、ステップS10へと移行する。
【0032】
またステップS10において、付加反力TH3がリミッタTLより大きいときには、ステップS12→ステップS15→RETURNへと移行する。
一方、ステップS10において、付加反力TH3がリミッタTLより以下であるときには、ステップS11へと移行する。
【0033】
またステップS11において、付加反力TH3の増加速度が所定の速度SLよりも大きいときには、ステップS13→ステップS15→RETURNへと移行する。
【0034】
一方、ステップS11において、付加反力TH3の増加速度が所定の速度SL以下であるとときには、ステップS15→RETURNへと移行する。
【0035】
(操舵反力について)
ステップS5において第1操舵反力TH1、ステップS7において第2操舵反力TH2を演算する。第1操舵反力TH1、第2操舵反力TH2は、操舵機構16と転舵機構17とが機械的に連結している(すなわちステア・バイ・ワイヤ・システムではない)車両用操舵装置において、ステアリングシャフト18に作用する操舵反力を模擬したものである。
【0036】
第1操舵反力TH1の演算に用いている転舵モータトルクFは、ラック5の軸力(ラック軸力)の反力によって生じる。図3はラック軸力の立ち上がりを示すグラフである。このラック軸力は、ステアリング13の操舵角θsに応じて転舵モータ9により前輪2が転舵し、その結果、ラック軸力が発生する。したがって、図3に示すように操舵初期にはラック軸力が発生せず、操舵開始後しばらくしてからラック軸力が発生する。そのため第1操舵反力TH1は、操舵初期では小さく、操舵開始後しばらくしてから第1操舵反力TH1も増大することになる。
【0037】
また第2操舵反力TH2は、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に基づいて演算している。図4は推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の立ち上がりを示すグラフである。操舵初期時に操舵角θsの増加に対応するが遅れると、図4に示すように、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が急激に増加する。そのため第2操舵反力TH2は、操舵初期から大きく立ち上がる。これにより、第1操舵反力TH1が小さい操舵初期から操舵反力を発生させることができる。
【0038】
また付加反力TH3では、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の微分値に基づいて演算している。この付加反力TH3は、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の大きさが大きくなる以前の早期に操舵反力(付加反力)を付与することができる。
【0039】
ステップS8では、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(転舵角偏差)の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差の正負の符号とが同一でない場合には、付加反力TH3を0(ゼロ)としている。
前輪2の切り込み(切り増し)や切り戻しから保舵へ移行するときなどのように、ステアリング13の操舵速度を減速すると、操舵角θsに応じて設定した推定転舵角θeに対して実転舵角θaがオーバシュートすることがある。その場合、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(転舵角偏差)の微分値に基づいて演算している付加反力TH3は、切り込みや切り戻しを続ける方向に操舵反力が発生するように値が演算されてしまう。そのため、ステアリング13に作用する操舵反力が不安定となり、運転者に違和感を与えてしまう。
【0040】
そこで、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差(θt-θa)の正負の符号とが同一でないときには、付加反力TH3を0(ゼロ)とし、第1操舵反力TH1及び第2操舵反力のみに基づいて、ステアリング13に操舵反力を発生させるようにしている。
【0041】
また、ステップS9では、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の正負の符号とが同一である場合には、ステップS15で第1操舵反力TH1及び第2操舵反力に付加反力TH3を加算する。
【0042】
推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の正負の符号とが同一である場合、すなわち推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が発生し、且つ推定転舵角θeの変化速度が実転舵角θaの転舵角速度よりも大きい場合には、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(転舵角偏差)が増加している状態である。
【0043】
そこで、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差(θe-θa)の正負の符号と、偏差の微分値(dθe/dt-dθa/dt)の正負の符号とが同一である場合には、第1操舵反力TH1及び第2操舵反力に付加反力TH3を加算する事により、運転者の操舵速度の増大を抑制し、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が拡大する前に、ステアリングの操舵角に応じて設定する目標転舵角θtの変化速度を小さくすることができ、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の拡大を抑制することができる。
【0044】
(付加抵抗力について)
ステップS7、ステップS12、ステップS13では、付加反力TH3を演算している。第1操舵反力TH1、第2操舵反力TH2が操舵反力を模擬したものであるのに対して、付加反力TH3はステアリング13の操舵角に応じて演算した目標転舵角θtの変位速度が大きく、推定転舵角θeの変化速度が転舵モータ9による前輪2の最大転舵速度を超えているときに、運転者によるステアリング13の操舵速度を抑制させるために付与する付加的な抵抗力(付加反力)である。付加反力TH3の詳細については後述する。
【0045】
(ゲインについて)
ここで第2操舵反力TH2、付加反力TH3の演算に用いた重み係数K,Cを車速に応じて設定する。図5は重み係数K,Cのマップである。図5に示すように、重み係数K,Cを低車速では低く設定し、高車速では高く設定している。このように設定することにより低車速では操舵反力を小さくすることができ、低車速時には運転者は小さな操舵力でステアリング13を操舵することが可能となる。そのため、たとえば車庫入れ等のように前輪2の転舵角を大きくするようなときでも、運転者は楽に操舵を行うことができる。一方、高車速では操舵反力を大きくすることができ、高車速時には、運転者はステアリング13を操舵するために大きな操舵力が必要となる。そのため、高車速走行時の直進安定性を確保することができる。
【0046】
〔実施例1の作用〕
ステアリング13の操舵角に応じて設定する推定転舵角θeの変化速度が、転舵モータ9による前輪2の転舵角の速度を超えると、推定転舵角θeと実転舵角θaとの差が累積してしまう。推定転舵角θeと実転舵角θaとの差が累積すると、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が大きくなるため、運転者に過大な操舵反力を付与することとなり、操舵量や操舵反力が増えているにも関わらず転舵量が増加しないため運転者に違和感を与えるおそれがあった。
【0047】
そこで実施例1の第3電子コントロールユニット14cにおいては、目標転舵角θtの変位速度が、転舵モータ9による前輪2の転舵速度を超えるときは、操舵反力TH1及びTH2に加えて付加反力TH3をステアリング13に付与するように操舵軸モータ8を制御するようにした。
【0048】
この構成により、目標転舵角θtの変位速度が、転舵モータ9による前輪2の転舵速度を超えると操舵反力TH1及びTH2に加えて付加反力TH3がステアリングシャフト18に作用するため、運転者によるステアリング13の操舵速度を抑えることが可能となる。よって、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が拡大する前に、ステアリング13の操舵角に応じて設定する推定転舵角θeの変化速度を小さくすることができ、転舵モータ9による前輪2の転舵角が推定転舵角θeに追いつくため、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の拡大を抑制することができる。したがって、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が増大することを抑制することができ、結果的に運転者に付与する操舵反力を減少し、操舵量や操舵反力の増加に応じて転舵量が増加するようになるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0049】
また実施例1の第3電子コントロールユニット14cにおいては、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差とこの偏差の微分値の符号が一致するときに、偏差の微分値に基づいて付加反力TH3を演算するようにした。
【0050】
図6は推定転舵角θe、実転舵角θa、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差、この偏差の微分値のタイムチャートである。図6より、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の正負の符号と、この偏差の微分値の正負の符号とが一致するときは、推定転舵角θeの変化速度が実転舵角θaの転舵角速度よりも大きいときであることがわかる。このときに付加反力TH3を発生させる(図6中の斜線部分)ことで、運転者のステアリング13の操舵速度を抑制することができる。したがって、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が増大することを抑制することができ、結果的に運転者に付与する操舵反力を減少し、操舵量や操舵反力の増加に応じて転舵量が増加するようになるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。一方、推定転舵角θeの変化速度が実転舵角θaの転舵角速度以下であるときは、運転者のステアリング13の操舵速度は減少している。このときは付加反力TH3を発生させないことで、運転者に余計な操作負担を与えることを防ぐことができる。
【0051】
また、実施例1の第3電子コントロールユニット14cにおいては、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の正負の符号と、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差の正負の符号とが同一でないときには、付加反力TH3を0(ゼロ)とするようにした。
【0052】
図7は目標転舵角θt、推定転舵角θe、実転舵角θa、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差、この偏差の微分値のタイムチャートである。転舵モータ9の慣性力により、図7に示すように、推定転舵角θeに対して実転舵角θaがオーバシュートすることがある。その場合、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に基づいて演算している付加反力TH3は、運転者の操舵方向と同じ方向に力が発生するように値が演算されてしまう。実転舵角θaの絶対値が推定転舵角θeの絶対値より大きいときには、付加反力TH3を0(ゼロ)と演算することによって、ステアリング13に作用する操舵反力を安定させ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0053】
また実施例1の第3電子コントロールユニット14cにおいては、付加反力TH3の増加を抑制するフィルタSを用いて付加反力TH3を演算するようにした。
この構成により、付加反力TH3が急激に増大することを抑制することが可能となり、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0054】
また実施例1の第3電子コントロールユニット14cにおいては、付加反力TH3の大きさを制限するリミッタTLを用いて演算するようにした。
この構成により、付加反力TH3によりステアリングシャフト18に作用する抵抗力(反力)の粘性が強すぎることを防止し、また運転者に余計な操作負担を与えることを防ぐことができる。
【0055】
〔実施例1の効果〕
次に実施例1の効果について、以下に列記する。
【0056】
(1)運転者が操舵操作するステアリング13と機械的に分離した操向輪である前輪2を転舵する転舵モータ9と、前輪2の実際の転舵角である実転舵角θaを検出する転舵モータ回転角センサ10と、ステアリング13の操舵角θsに応じて前輪2の目標転舵角θtを演算し、前輪2の転舵角が目標転舵角θtとなるように転舵モータ9を制御する第1、第2電子コントロールユニット14a,14bと、ステアリング13に付与する操舵反力を算出する第3電子コントロールユニット14cと、第3電子コントロールユニット14cで算出された操舵反力に基づいてステアリング13に操舵反力を付与する操舵軸モータ8とを備え、第3電子コントロールユニット14cは、目標転舵角θtに対する転舵角の応答遅れに基づいて前輪2の転舵角の推定値である推定転舵角θeを算出し、算出した推定転舵角θeと転舵モータ回転角センサ10によって検出された実転舵角θaとの偏差である転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出するようにした。
【0057】
よって、転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力が作用するため、運転者による操作部の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角θeに対して転舵モータ9による前輪2の転舵角が追いつくため、結果的に操舵角に対応した目標転舵角θtと前輪2の転舵角との偏差を減少し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0058】
(2)第3電子コントロールユニット14cは、転舵角偏差の変化速度を算出し、転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合の操舵反力に対して、転舵角偏差の変化速度が大きくなるほど増大する付加反力TH3を加算する事により、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出するようにした。
【0059】
よって、転舵角偏差が増加している場合には、操舵反力に転舵角偏差の変化速度が大きくなるほど増大する付加反力TH3を加算するため、運転者による操作部の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角θeに対して転舵モータ9による前輪2の転舵角が追いつくため、結果的に操舵角に対応した目標転舵角θtと前輪2の転舵角との偏差を減少し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0060】
(3)第3電子コントロールユニット14cは、転舵角偏差を微分して転舵角偏差の変化速度を算出するようにした。
【0061】
よって、転舵角偏差が増加している場合には、操舵反力に転舵角偏差の変化速度が大きくなるほど増大する付加反力TH3を加算するため、運転者による操作部の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角θeに対して転舵モータ9による前輪2の転舵角が追いつくため、結果的に操舵角に対応した目標転舵角θtと前輪2の転舵角との偏差を減少し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0062】
(4)第3電子コントロールユニット14cは、転舵角偏差の正負の符号と転舵角偏差の変化速度の正負の符号とが一致するときに、転舵角偏差が増加していると判定するようにした。
【0063】
転舵角偏差の正負の符号と転舵角偏差の変化速度の正負の符号とが一致するときは、転舵角偏差が大きくなる方向に変位しているときである。このとき、操舵反力に付加反力TH3を加算し、転舵角偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が増大することを抑制することができ、結果的に運転者に付与する操舵反力を減少し、操舵量や操舵反力の増加に応じて転舵量が増加するようになるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0064】
(5)第3電子コントロールユニット14cは、目標転舵角θtと転舵モータ9の応答遅れとに基づいて前輪2の推定転舵角θeを算出するようにした。
よって、転舵角偏差が実際に生じ始める前に、付加反力TH3を発生させることができ、転舵角偏差の拡大を抑制することができる。
【0065】
(6)第3電子コントロールユニット14cは、付加反力TH3の変化速度を算出し、算出した変化速度が予め定められた所定の変化速度より大きい場合に、付加反力TH3の変化速度を抑制するようにした。
よって、付加反力TH3が急増することを抑制し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0066】
(7)第3電子コントロールユニット14cは、付加反力TH3を予め定められた所定の値以下に制限するようにした。
よって、付加反力TH3が大幅に増加することを抑制し、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0067】
(8)第3電子コントロールユニット14cは、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差の正負の符号と、転舵角偏差の符号が同一でない場合には、付加反力TH3をゼロとするようにした。
転舵角偏差の正負の符号と転舵角偏差の変化速度の正負の符号とが一致しないときは、転舵角偏差が小さくなる方向に変位しているときである。このときは付加反力TH3を発生させないことで、運転者に余計な操作負担を与えることを防ぐことができる。
【0068】
(9)第3電子コントロールユニット14cは、転舵角偏差が増加していない場合には車両の状態、運転者の操舵状態及び転舵角偏差に基づいた操舵反力を算出し、転舵角偏差が増加している場合には、操舵反力に付加反力TH3を加算するようにした。
転舵角偏差が増加していない場合には、操舵感を良好にすることが可能となり、転舵角偏差が増加しているときには、運転者による操作部の操舵速度を抑えることが可能となるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0069】
(10)車両の状態はタイヤ横力F1、転舵モータトルクF2、車両ヨーレートF3、車両横加速度F4であって、運転者の操舵状態は操舵角θs、操舵角速度、操舵角加速度とした。
よって、ステアリングと前輪とを機械的に連結した車両においてステアリングに作用する反力を模して操舵反力を求めることが可能となるため、操作感を良好にすることができる。
【0070】
(11)車両1において運転者が操舵操作するステアリング13と機械的に分離した操向輪である前輪2を転舵する転舵モータ9と、前輪2の実際の転舵角である実転舵角θaを検出する転舵モータ回転角センサ10と、ステアリング13の操舵角θsに応じて前輪2の目標転舵角θtを演算し、前輪2の転舵角が目標転舵角θtとなるように転舵モータ9を制御する第1、第2電子コントロールユニット14a,14bと、ステアリング13に付与する操舵反力を算出する第3電子コントロールユニット14cと、第3電子コントロールユニット14cで算出された操舵反力に基づいてステアリング13に操舵反力を付与する操舵軸モータ8とを備え、第3電子コントロールユニット14cは、目標転舵角θtに対する転舵角の応答遅れに基づいて前輪2の転舵角の推定値である推定転舵角θeを算出し、算出した推定転舵角θeと転舵モータ回転角センサ10によって検出された実転舵角θaとの偏差である転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出するようにした。
【0071】
よって、目標転舵角θtの変異速度が、転舵モータ9による前輪2の転舵速度を超えると操舵反力に加えて付加反力TH3がステアリングシャフト18に作用するため、運転者によるステアリング13の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が拡大する前に、ステアリング13の操舵角に応じて設定する推定転舵角θeの変化速度を小さくすることができ、転舵モータ9による前輪2の転舵角が推定転舵角θeに追いつくため、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の拡大を抑制することができる。したがって、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が増大することを抑制することができ、結果的に運転者に付与する操舵反力を減少し、操舵量や操舵反力の増加に応じて転舵量が増加するようになるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0072】
(12)運転者が操舵操作するステアリング13と機械的に分離した操向輪である前輪2を転舵する転舵モータ9と、前輪2の実際の転舵角である実転舵角θaを検出する転舵モータ回転角センサ10と、ステアリング13の操舵角θsに応じて前輪2の目標転舵角θtを演算し、前輪2の転舵角が目標転舵角θtとなるように転舵モータ9を制御する第1、第2電子コントロールユニット14a,14bとを有し、ステアリング13の操舵角θsに応じて前輪2の目標転舵角θtを演算し、前輪2の転舵角が目標転舵角θtとなるように転舵モータ9を制御し、ステアリング13に付与する操舵反力を算出し、目標転舵角θtに対する転舵角の応答遅れに基づいて前輪2の転舵角の推定値である推定転舵角θeを算出し、算出した推定転舵角θeと転舵モータ回転角センサ10によって検出された実転舵角θaとの偏差である転舵角偏差が増加している場合には、転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出するようにした。
【0073】
よって、目標転舵角θtの変位速度が、転舵モータ9による前輪2の転舵速度を超えると操舵反力に加えて付加反力TH3がステアリングシャフト18に作用するため、運転者によるステアリング13の操舵速度を抑えることが可能となる。これにより、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差が拡大する前に、ステアリング13の操舵角に応じて設定する推定転舵角θeの変化速度を小さくすることができ、転舵モータ9による前輪2の転舵角が推定転舵角θeに追いつくため、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の拡大を抑制することができる。したがって、推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差に応じて演算している第2操舵反力TH2が増大することを抑制することができ、結果的に運転者に付与する操舵反力を減少し、操舵量や操舵反力の増加に応じて転舵量が増加するようになるため、運転者へ与える違和感を抑制することができる。
【0074】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0075】
また実施例1では、付加反力TH3を推定転舵角θeと実転舵角θaとの偏差の微分に基づいて演算するようにした。しかしながら、転舵モータ9に応答遅れが無い、若しくは無視できる程度の応答遅れである場合は、この付加反力TH3の演算を、目標転舵角θtと実転舵角θaとの偏差の微分に基づいて演算するようにしても良い。
【0076】
なお、ステアリング13は本発明の操舵部に相当し、前輪2は本発明の操向輪に相当し、転舵モータ9は本発明の転舵アクチュエータに相当し、操舵軸モータ8は本発明の反力アクチュエータに相当し、転舵モータ回転角センサ10は本発明の転舵角検出手段に相当し、第1電子コントロールユニット14a、第2電子コントロールユニット14bは本発明の目標転舵角演算手段、転舵角制御手段に相当し、第3電子コントロールユニット14cは本発明の操舵反力算出手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1の車両用操舵装置を適用した車両の全体構成図である。
【図2】実施例1の操舵軸モータの制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施例1のラック軸力の立ち上がりを示すグラフである。
【図4】実施例1の推定転舵角と実転舵角との偏差の立ち上がりを示すグラフである。
【図5】実施例1の重み係数K,Cのマップである。
【図6】実施例1の作用を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1の作用を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0078】
2 前輪(操向輪)
9a,9b 転舵モータ(転舵アクチュエータ)
8 操舵軸モータ(操舵軸アクチュエータ)
10a,10b 転舵モータ回転角センサ(転舵角検出手段)
13 ステアリング(操作部)
14a 第1電子コントロールユニット(目標転舵角演算手段、転舵角制御手段)
14b 第2電子コントロールユニット(目標転舵角演算手段、転舵角制御手段)
14c 第3電子コントロールユニット(操舵反力演算手段)
18 ステアリングシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操舵操作する操舵部と、
該操舵部とは機械的に分離した操向輪を転舵する転舵アクチュエータと、
前記操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出する転舵角検出手段と、
前記操舵部の操舵角に応じて前記操向輪の目標転舵角を演算する目標転舵角演算手段と、
前記操向輪の転舵角が前記目標転舵角となるように前記転舵アクチュエータを制御する転舵角制御手段と、
前記操舵部に付与する操舵反力を算出する操舵反力算出手段と、
前記操舵反力算出手段で算出された操舵反力に基づいて前記操舵部に操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
を備え、
前記操舵反力算出手段は、前記目標転舵角に対する転舵角の応答遅れに基づいて前記操向輪の転舵角の推定値である推定転舵角を算出し、算出した前記推定転舵角と前記転舵角検出手段によって検出された前記実転舵角との偏差である転舵角偏差が増加している場合には、前記転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は前記転舵角偏差の変化速度を算出し、前記転舵角偏差が増加している場合には、前記転舵角偏差が増加していない場合の操舵反力に対して、前記転舵角偏差の変化速度が大きくなるほど増大する付加反力を加算する事により、前記転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記転舵角偏差を微分して前記転舵角偏差の変化速度を算出することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記転舵角偏差の正負の符号と前記転舵角偏差の変化速度の正負の符号とが一致するときに、前記転舵角偏差が増加していると判定することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記目標転舵角と前記転舵アクチュエータの応答遅れとに基づいて前記操向輪の前記推定転舵角を算出することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は前記付加反力の変化速度を算出し、該算出した変化速度が予め定められた所定の変化速度より大きい場合に、前記付加反力の変化速度を抑制することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記付加反力を予め定められた所定の値以下に制限することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項8】
請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記目標転舵角と前記実転舵角との偏差の正負の符号と、前記転舵角偏差の符号が同一でない場合には、前記付加反力をゼロとすることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項9】
請求項2ないし請求項8に記載した車両用操舵装置において、
前記操舵反力算出手段は、前記転舵角偏差が増加していない場合には車両の状態、運転者の操舵状態及び前記転舵角偏差に基づいた操舵反力を算出し、前記転舵角偏差が増加している場合には、前記操舵反力に前記付加反力を加算することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項10】
請求項9に記載に記載した車両用操舵装置において、
前記車両の状態はタイヤ横力、転舵モータトルク、車両ヨーレート、車両横加速度であって、運転者の操舵状態は操舵角、操舵角速度、操舵角加速度であることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項11】
運転者が操舵操作する操舵部と、
該操舵部とは機械的に分離した操向輪を転舵する転舵アクチュエータと、
前記操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出する転舵角検出手段と、
前記操舵部の操舵角に応じて前記操向輪の目標転舵角を演算する目標転舵角演算手段と、
前記操向輪の転舵角が前記目標転舵角となるように前記転舵アクチュエータを制御する転舵角制御手段と、
前記操舵部に付与する操舵反力を算出する操舵反力算出手段と、
前記操舵反力算出手段で算出された操舵反力に基づいて前記操舵部に操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
を備え、
前記操舵反力算出手段は、前記目標転舵角に対する転舵角の応答遅れに基づいて前記操向輪の転舵角の推定値である推定転舵角を算出し、算出した前記推定転舵角と前記転舵角検出手段によって検出された前記実転舵角との偏差である転舵角偏差が増加している場合には、前記転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出することを特徴とする車両用操舵装置付き車両。
【請求項12】
運転者が操作する操舵部と機械的に分離した操向輪を転舵する転舵アクチュエータと、
前記操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出する転舵角検出手段と、
前記操舵反力算出手段で算出された操舵反力に基づいて前記操舵部に操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
を有し、
前記操舵部の操舵角に応じて前記操向輪の目標転舵角を演算し、前記操向輪の転舵角が前記目標転舵角となるように前記転舵アクチュエータを制御し、前記操舵部に付与する操舵反力を算出し、前記目標転舵角に対する転舵角の応答遅れに基づいて前記操向輪の転舵角の推定値である推定転舵角を算出し、算出した前記推定転舵角と前記転舵角検出手段によって検出された前記実転舵角との偏差である転舵角偏差が増加している場合には、前記転舵角偏差が増加していない場合よりも大きな操舵反力を算出することを特徴とする車両用操舵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149650(P2010−149650A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328910(P2008−328910)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】