説明

車両用操舵装置

【課題】ステアバイワイヤ方式を採用した車両用操舵装置のクラッチでは、クラッチ板間に相対的な回転差があると、瞬時に接続状態にならない。
【解決手段】 クラッチは、出力プーリ15の端面に結合された内周面形成部材17と、該内周面形成部材17の内周面17aを転動する外周面形成部材18と、内周面形成部材17の筒部17bと外周面形成部材18の円形孔との間に形成された円環状空間31に設けられ基端部どうしが対向する一対のくさび20と、該一対のくさび20を引き離す方向へ付勢するばね21と、接続シャフト13の端面に突出形成され一対のくさび20の先端部間に挿入された駆動部13aと、接続シャフト13の端面から一対のくさび20の基端部間へ進退可能なロックピン23とを備え、ロックピン23が退出した状態ではクラッチ切り離し状態となる一方、ロックピン23が突出した状態では、クラッチ接続状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作部材であるステアリングホィールと、回転運動を往復運動に変換する操舵機構との機械的連結を切り離した状態で、ステアリングホィールの回転量を電気信号に変換し、該電気信号に基づいて操舵機構の入力回転軸を駆動して車輪を操舵する、いわゆるステアバイワイヤ(SBW)方式を採用した車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ(SBW)方式を採用した従来の車両用操舵装置として、特許文献1に開示されたものがある。本願の図8に示すように、車両用操舵装置100は、運転者により回転操作されるステアリングホィール101と、このステアリングホィール101の回転方向および回転量を電気信号として検出する舵角センサ102と、操舵モータ103aと、前記舵角センサ102の電気信号に基づいて前記操舵モータ103aを回転駆動制御するステアバイワイヤ制御部104と、前記操舵モータ103aの回転運動を往復運動に変換して車輪を操舵する操舵機構としての車輪角度変換機構103と、ステアリングホィール101と車輪角度変換機構103との接続・切り離しを機械的に行う電磁クラッチ機構105と、バッテリ110とを備えている。
【0003】
この電磁クラッチ機構105は、図9に示すように、ステアリングホィール101の回転操作に連動して回転する第1クラッチ板106と、該第1クラッチ板106に対向配置されると共に前記車輪角度変換機構103の入力回転軸に連結された第2クラッチ板107と、第1クラッチ板106を第2クラッチ板107へ向かってクラッチ接続方向へ付勢するバネ109と、該バネ109の付勢力に抗して第1クラッチ板106を第2クラッチ板107から離れる方向へ吸引する電磁クラッチ部108とを備えている。第1クラッチ板106と第2クラッチ板107との互いに対向する面には、クラッチ溝106a,107aが夫々放射状に形成されている。
【0004】
通常時は、ステアバイワイヤ制御部104の制御により電磁クラッチ部108の電磁コイル108aに通電されているため、電磁クラッチ機構105は切り離し状態であり、ステアリングホィール101と車輪角度変換機構103との機械的連結が絶たれた状態となっている。そして、ステアバイワイヤ制御部104は、ステアリングホィール101が回転操作されると、舵角センサ102が検出した電気量に応じて操舵モータ103aを回転駆動し、該操舵モータ103aの回転運動が車輪角度変換機構103により往復運動に変換され、図示しない車輪が操舵される。
【0005】
ステアバイワイヤ制御部104により、操舵モータ103aが故障したと判断された場合には、ステアバイワイヤ制御部104により、電磁コイル108aへの通電が止められ電磁クラッチ機構105が切り離し状態から接続状態にされ、舵角センサ102が検出した電気量による操舵モータ103aの駆動が止められる。これにより、ステアリングホィール101の操作力が電磁クラッチ機構105を介して車輪角度変換機構103へ伝達され、該車輪角度変換機構103により回転運動が往復運動に変換され、図示しない車輪が操舵される。
【0006】
このように、ステアバイワイヤ(SBW)方式の車両用操舵装置では、システム故障時には電磁クラッチ機構105が接続状態になり、万が一のことがあっても車輪の操舵を行うことができる。そして、第1クラッチ板106と第2クラッチ板107との対向面にはクラッチ溝106a,107aが形成してあるため、大きな伝達トルクで回転を伝達することができる。
【特許文献1】特開2004−237785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の車両用操舵装置100では、電磁クラッチ機構105が切り離し状態から接続状態に切り換えられる際には、第2クラッチ板107は停止状態であるが、第1クラッチ板106はステアリングホィール101の回転操作に連動して回転している場合がある。このように、第1クラッチ板106と第2クラッチ板107とに相対的な回転差があると、双方のクラッチ溝106a,107aが直ちに噛み合わない場合があるため、瞬時に電磁クラッチ機構105が接続状態にならないという問題がある。なお、第1クラッチ板106,第2クラッチ板107のクラッチ溝106a,107aを無くすと電磁クラッチ機構105を瞬時に接続状態にすることができるが、大きな伝達トルクを発生させることができないという新たな問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、斯かる問題を解決するためになされたものであり、ステアバイワイヤ制御部がステアバイワイヤモードを正常に実行できないと判断した場合には、クラッチを瞬時に接続状態にでき、かつ大きな伝達トルクを発生させることができる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車輪の操舵角を変えるために回転操作する操作部材を設け、該操作部材の回転量を検出して得た検出値と対応した回転量だけ回転する操舵アクチュエータを設け、該操舵アクチュエータに、入力回転軸の回転運動を出力ロッドの往復運動に変換する操舵機構の前記入力回転軸を連結し、前記出力ロッドを車輪に連結する一方、前記操作部材に機械的な連結と切り離しとを行うクラッチを介して前記操舵機構の前記入力回転軸を連結した車両用操舵装置において、前記クラッチは、前記操作部材に連結される入力軸または前記操舵機構の入力回転軸に連結される出力軸のいずれか一方の端面に結合された内周面形成部材と該内周面形成部材の内周面を転動すると共に該内周面形成部材の内周寸法よりも短い外周寸法を有する外周面形成部材と、前記内周面形成部材の中心部に一体に設けられた筒部と前記外周面形成部材の中心部に形成された円形孔との間に形成された円環状空間と、該円環状空間に設けられ幅広の基端部どうしが対向配置された一対のくさびと、該一対のくさびの基端部どうしを相互に引き離す方向へ付勢する付勢手段と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面に突出形成され前記円環状空間の内部であって円周方向での前記一対のくさびの先端部どうしの間に挿入されている駆動部と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面から前記円環状空間の内部であって前記一対のくさびの基端部どうしの間へ進退可能に設けられたロックピンとを備え、前記ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間から退出しているロック解除状態では、前記駆動部が前記一対のくさびを押圧しながら前記内周面形成部材および前記外周面形成部材に対して空転しクラッチ切り離し状態となる一方、前記ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間に入り込んだロック状態では、前記一対のくさびの楔機能により一体化された前記一対のくさびと前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とを前記駆動部が押圧して回転駆動しクラッチ接続状態となることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、通常の使用状態であるステアバイワイヤモード時には、操作部材の回転による回転量が検出され、検出値と対応した回転量だけ操舵アクチュエータが回転し、該操舵アクチュエータの回転が操舵機構の入力回転軸に伝達され、該入力回転軸の回転運動が出力ロッドの往復運動に変換され、該出力ロッドの往復運動により車輪が操舵される。異常時にロックピンが前進して一対のくさびの基端部どうしの間に入り込むと、一対のくさびの楔機能により、一対のくさびと内周面形成部材と外周面形成部材とが相対回転できないロック状態になることから、駆動部が内周面形成部材を回転駆動する。つまり、クラッチの入力軸と出力軸とが一体に回転するクラッチ接続状態となり、操作部材と操舵機構とが機械的に直結されて車輪が操舵される。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用操舵装置において、前記ロックピンは、前記ロックピンを前記一対のくさびの基端部どうしの間へ向かって付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して前記ロックピンを待機位置へ吸引する電磁石とを備えた電磁ソレノイド機構により操作されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、電源が供給されている状態では付勢手段の付勢力に抗して電磁石がロックピンを待機位置へ吸引するので、クラッチが切り離し状態になる一方、電源が供給されない状態では付勢手段の付勢力によりロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間へ向かって移動し、クラッチが接続状態になる。つまり、電源が供給されない状態でも、操作部材と操舵機構とが機械的に直結され、車輪の操舵が可能となる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の車両用操舵装置において、前記外周面形成部材の外周面と前記内周面形成部材の内周面との少なくともいずれか一方に複数の凹凸を形成したことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、相互にころがり接触する内周面と外周面との少なくともいずれか一方に凹凸が形成されているので、内周面形成部材の内周面に外周面形成部材の外周面が接触して外周面形成部材が転がる際に、両者間の摩擦係数が大きく滑りが生じにくい。従って、クラッチ接続状態でのクラッチの入力軸と出力軸との間の滑りが抑制される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る車両用操舵装置によれば、ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間から退出しているロック解除状態では、駆動部が一対のくさびを押圧しながら内周面形成部材および外周面形成部材に対して空転しクラッチ切り離し状態となる一方、前記ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間に入り込んだロック状態では、一対のくさびの楔機能により一体化された一対のくさびと内周面形成部材と外周面形成部材とを駆動部が押圧して回転駆動しクラッチ接続状態となるので、異常時には、ロックピンを一対のくさびの基端部どうしの間に入り込ませてクラッチを瞬時に接続状態にすることができ、しかも、内周面形成部材と外周面形成部材とのころがり接触によって大きな伝達トルクを発生させることができる。
【0016】
また、内周面形成部材の内周面に内歯を設けて内歯車を構成し、外周面形成部材の外周面に外歯を設けて外歯車を構成することもできるが、内周面形成部材と外周面形成部材とがころがり接触し該接触部で回転を伝達する構成にした方が、歯車加工を要しない分だけ製造コストが安い。更に、歯車どうしの噛み合い接触の場合は噛み合いが外れる際に引っ掛かりが生じないように精度が要求されるが、ころがり接触なので精度が要求されない。また更に、噛み合い接触の場合はこのように精度が要求されるため内歯車と外歯車との偏心量の大きさが制限されるが、内周面形成部材と外周面形成部材との場合は精度が要求されないため、偏心量の大きさが制限されることはなく、偏心量を小さくしてくさびの角度を小さくすることにより伝達トルクを大きくすることもでき、設計の自由度が高い。
【0017】
請求項2に係る車両用操舵装置によれば、電源が供給されている状態では付勢手段の付勢力に抗して電磁石がロックピンを待機位置へ吸引してクラッチが切り離し状態になる一方、電源が供給されない状態では付勢手段の付勢力によりロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間へ向かって移動してクラッチが接続状態になるので、電源が供給されない状態では操作部材と操舵機構とが機械的に直結され、車輪の操舵が可能である。
【0018】
請求項3に係る車両用操舵装置によれば、相互にころがり接触する内周面と外周面との少なくともいずれか一方に凹凸が形成されているので、内周面形成部材の内周面と外周面形成部材の外周面との摩擦係数が大きく、クラッチ接続状態でのクラッチの入力軸と出力軸との間の滑りが抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明による車両用操舵装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は車両用操舵装置の概略構成図、図2は電磁クラッチの切り離し状態の断面図、図3は電磁クラッチの接続状態の断面図、図4は電磁クラッチの斜視図、図5は図3のA−A矢視図、図6はクラツチ切り離し状態の一対のくさびとロックピンとの関係に係り、(a)は正面図、(b)は下面図、図7はクラツチ接続状態の一対のくさびとロックピンとの関係に係り、(a)は正面図、(b)は下面図である。
【0021】
図1に示すように、車両用操舵装置1は運転者により回転操作される操作部材としてのステアリングホィール2と、該ステアリングホィール2に結合されたステアリングシャフト2aの回転操作量を検出して舵角信号を発する操作量検出手段としての舵角センサ3と、ステアリングシャフト2aの回転トルクを検出して操舵トルク信号を発するトルクセンサ4と、ステアリングシャフト2aに反力を付与する操舵反力機構5と、前記舵角センサ3の舵角信号と対応した回転量だけ回転する図示しない舵角アクチュエータと、該舵角アクチュエータにより入力された入力回転軸6aの回転運動を出力ロッド6cの往復運動に変換して車輪10を操舵するための操舵機構としての車輪角度変換機構6と、ステアリングシャフト2aと車輪角度変換機構6の入力回転軸6aとを機械的に接続・切り離しするクラッチとしての電磁クラッチ8と、前記舵角信号,前記操舵トルク信号を入力し、車速(V),ヨーレート(ω),横加速度(G)等の各信号を車内LAN信号Sとして入力し、車輪角度変換機構6,操舵反力機構5,電磁クラッチ8を制御するステアバイワイヤ制御部(SBW制御部)9とを備えている。なお、11はバッテリである。
【0022】
ステアバイワイヤモード時には、ステアリングホィール2を回転操作すると、ステアリングシャフト2aの回転操作量を舵角センサ3が検出し、該舵角センサ3の舵角信号aに基づいてステアバイワイヤ制御部9が車輪角度変換機構6に制御信号Aを出す。これにより、車輪角度変換機構6に設けられている図示しない操舵アクチュエータが、ステアリングホィール2の回転操作量に応じて駆動される。そして、操舵アクチュエータの回転運動が車輪角度変換機構6の入力回転軸6aに伝達され、車輪角度変換機構6では該入力回転軸6aの回転運動が出力ロッド6cの往復運動に変換され、出力ロッド6cの往復運動により車輪10が操舵される。また、トルクセンサ4が操舵トルクを検出し、該トルクセンサ4の操舵トルク信号bに基づいてステアバイワイヤ制御部9が操舵反力機構5に制御信号Bを出し、ステアリングホィール2を適切なトルクで操作できるようにする。
【0023】
一方、車両電装系の異常やステアバイワイヤシステムの異常等によってステアバイワイヤモードを正常に実行できないと判断される場合には、ステアバイワイヤ制御部9が電磁クラッチ8に制御信号Cを出し、電磁クラッチ8を切り離し状態から接続状態に切り換え、直結モードにする。これにより、接続状態になった電磁クラッチ8を介して、ステアリングシャフト2aと車輪角度変換機構6とが接続される。
【0024】
次に、前記電磁クラッチ8の構成を説明する。図2に示すように、筒状のハウジング11の上部には入力軸としての接続シャフト13が軸受12を介して回転自在に設けられ、下部には出力軸としての出力プーリ15が軸受14を介して回転自在に設けられている。接続シャフト13は、図1に示すステアリングシャフト2aに連結される一方、出力プーリ15は、車輪角度変換機構6の入力回転軸6aに連結されている。即ち、出力プーリ15と、車輪角度変換機構6の入力回転軸6aに固着したプーリ6bとの間にケーブル7が巻回されている。 このように上下方向に対向する接続シャフト13と出力プーリ15との間には、これらの2軸を連結して一体回転させたり切り離して回転を伝えないようにするための連結機構30が設けられている。該連結機構30は、図2,図5に示すように、出力プーリ15の上部端面に結合された内周面形成部材17と、該内周面形成部材17の内周面17aを転動する外周面形成部材18と、一対のくさび20と、ばね21と、接続シャフト13から突出する駆動部13aとから構成されている。図2に示すように、内周面形成部材17には円盤の内部をプレスで半抜きすることにより円形凹部が形成され、内周面形成部材17はボルト29を介して出力プーリ15の上端面に結合されている。そして、円形凹部の内周面17aには細かな凹凸が形成されている。また、内周面形成部材17の中心部には円形凹部から軸方向へ立ち上がるように筒部17bが一体成形されている。内周面形成部材17の円形凹部であって内周面17aと筒部17bとの間には、外周面形成部材18が遊嵌されている。該外周面形成部材18の外周面18aにも細かな凹凸が形成されており、内周面形成部材17の内周寸法よりも外周面形成部材18の外周寸法が短くなっている。内周面17aおよび外周面18aの細かな凹凸は、ローレット加工等により形成される。図5に示すように、外周面形成部材18の中央部には円形孔が形成されており、該円形孔の内周面は摺動内周面19を構成している。
【0025】
前記のように構成された内周面形成部材17の内周面17aには外周面形成部材18の外周面18aがころがり接触しており、偏心転動体機構33を構成している。そして、図5に示すように、内周面形成部材17の筒部17bと外周面形成部材18の摺動内周面19との間には円環状空間31が形成されている。該円環状空間31には、一対のくさび20が収容されている。該一対のくさび20は、幅広の基端部どうしが対向配置され、該一対のくさび20を相互に引き離す方向へ付勢する付勢力の小さな付勢手段としてばね21が設けられている。該ばね21は略円形に形成した両端部を軸方向の同一方向へ屈曲させてばね掛け部を形成したものであり、該ばね掛け部が一対のくさび20の基端部に凹状に形成された後述するガイド溝22に夫々係合している。
【0026】
一方、図2において偏心転動体機構33と対向する接続シャフト13の下端の端面の軸芯位置には、センタリング軸部13bが突出形成されている。該センタリング軸部13bは、前記内周面形成部材17の筒部17bに回転自在に挿通されている。また、接続シャフト13の下端の端面の偏心した位置に、駆動部13aが突出形成されている。該駆動部13aは図4,図5に示すように円筒の一部を形成する形状であり、前記円環状空間31の内部であって前記一対のくさび20の先端部どうしの間に介装されている。ここで、円周方向で対向する一対のくさび20の先端部と駆動部13aの端面との間には隙間が形成されている。また、図2,図4,図5に示すように、接続シャフト13の端面から軸方向下方へ向かって進退可能にロックピン23が設けられている。該ロックピン23は、図5のように一対のくさび20の基端部どうしの間へ割り込ませるため、円弧上の駆動部13aの円弧を180度反対側へ延長した偏心位置であって、駆動部13aの両端から略同じ距離の位置に配置されている。
【0027】
次に、前記駆動部13aと前記ロックピン23との関係を説明する。相対回転する接続シャフト13と内周面形成部材17との関係において、図5に示すように接続シャフト13から突出する駆動部13aが円環状空間31内の一対のくさび20の先端部どうしの間に介装されることにより、一対のくさび20と接続シャフト13との円周方向での相対的な位置は常に一定であり、従って接続シャフト13が回転していても、接続シャフト13から突出するロックピン23の位置は、常に一対のくさび20の基端部どうしの間となる。
【0028】
図2のように、ロックピン23が一対のくさび20の基端部どうしの間から退出しているロック解除状態では、図6のように駆動部13aが前記一対のくさび20を押圧しながら内周面形成部材17および外周面形成部材18に対して空転しクラッチ切り離し状態となる一方、図3ように、ロックピン23が一対のくさび20の基端部どうしの間に入り込んだロック状態では、図7のように一対のくさび20の楔機能により一体化された一対のくさび20と内周面形成部材17と外周面形成部材18とを駆動部13aが押圧して回転駆動しクラッチ接続状態となる。
【0029】
前記ロックピン23を接続シャフト13の端面から下方へ向かって進退させるための駆動手段について説明する。図2に示すように、接続シャフト13は、前記センタリング軸部13bを有する軸端部材13cと、筒状部材13dと、軸端部材13fとを、ボルト13eを介して結合することによって構成されている。接続シャフト13の内部には電磁ソレノイド機構16が収容されている。該電磁ソレノイド機構16は電磁石26と付勢手段としての復帰ばね25とによって構成されている。電磁石26は、コイル27と、該コイル27の内部に移動自在に設けられた可動鉄心28とによって構成されている。可動鉄心28の先端には、可動鉄心28に対して直角な円板32がねじ24を介して結合され、該円板32の偏心した位置に形成された嵌合孔に前記ロックピン23が嵌合固定されている。該ロックピン23は、軸端部材13cに形成された軸方向孔13gに挿通されている。復帰ばね25は、電磁石26と円板32との間に設けられている。
【0030】
ロックピン23が一対のくさび20の基端部どうしの間へ確実に割り込むように、図6(a)に示すようにロックピン23の先端部には、先細りの円錐形状のテーパ部23aと、円柱部23bとが形成される一方、図6(b)に示すように一対のくさび20の基端部にはロックピン23をガイドするための前記ガイド溝22が形成されている。該ガイド溝22の幅寸法は前記ロックピン23の円柱部23bの外径寸法よりも大きく設定されている。前記のように、ガイド溝22はばね21のばね掛け部としても機能する。
【0031】
次に、車両用操舵装置の作用を説明する。
【0032】
通常作動状態であるステアバイワイヤモード時には、電磁石26のコイル27に通電される。このため、図2のように電磁石26が可動鉄心28を待機位置へ吸引し、円板32およびロックピン23が復帰ばね25の付勢力に抗して後退した位置を占める。このため、図6に示すロック解除状態となり、一対のくさび20はばね21により相互に離反する方向に弱い力で付勢されつつ基端部どうしが接近した状態を保持する。この状態でステアリングホィール2を回転させると、ステアリングシャフト2aを介して接続シャフト13が回転し、接続シャフト13から突出している駆動部13aが図6(b)に示すように円環状空間31の内部で一対のくさび20を一方側から円周方向に沿って例えば時計方向へ押圧する。このため一対のくさび20は、駆動部13aに押されながら円環状空間31の内部で空転する。一対のくさび20が空転することにより、外周面形成部材18が内周面形成部材17に対して偏心して転がる接触部が時計回りに円周方向へ移動し、駆動部13aの1回転に付き外周面形成部材18が駆動部13aの回転方向とは逆方向の反時計方向へ、内周面形成部材17の全周と外周面形成部材18の全周との長さの差分だけ回転することを繰り返す。このとき、一対のくさび20はばね21の作用により相互に離れる方向へ常に付勢された状態で回転するので、内周面形成部材17と外周面形成部材18との間にガタが生じない。駆動部13aの回転により一対のくさび20が回転し、それに伴って内周面形成部材17の内周面17aを外周面形成部材18が転がるが、接続シャフト13の駆動部13aの回転が内周面形成部材17に伝わることはない。つまり、駆動部13aは円環状空間31の内部で一対のくさび20と共にいずれの方向へも自由に回転するが、空回りするだけであり、接続シャフト13の回転は出力プーリ15には伝わらない。
【0033】
このように接続シャフト13の回転は出力プーリ15には伝わらないので、電磁クラッチ8は切り離された状態であり、ステアリングホィール2と車輪角度変換機構6とが機械的に切り離されている。この状態でステアリングホィール2が操作されると、舵角センサ3が検出した舵角信号aに基づいてステアバイワイヤ制御部9が車輪角度変換機構6に制御信号Aを出し、車輪角度変換機構6の図示しない操舵アクチュエータが駆動されるため、車輪10が操舵される。
【0034】
一方、車両電装系の異常やステアバイワイヤシステムの異常等によってステアバイワイヤモードが正常に実行できず、ステアバイワイヤ制御部9が異常時であると判断した場合には、電磁コイル27への通電が止められる。すると、可動鉄心28への吸引力が作用しなくなり、復帰ばね25の付勢力が円板32に作用して円板32および可動鉄心28と共にロックピン23が軸方向の下方へ向かって突出し、図3のようになる。図5に示すように円周方向でのロックピン23の位置は、一対のくさび20の基端部どうしの間に常に位置決めされており、図6(b)のように駆動部13aが一対のくさび20を例えば時計方向へ押圧している場合は、ロックピン23の小径部23bは右側のくさび20のガイド溝22の位置で突出し、ロックピン23は一対のくさび20の基端部どうしの間へ入り込む。ロックピン23の先端にはテーパ部23aが形成されているので、駆動部13aにより一対のくさび20が押されて回転している状態においても、ロックピン23はガイド溝22にガイドされて一対のくさび20の基端部どうしの間へ容易に割り込むことになる。この割り込みにより、図7に示すように一対のくさび20が互いに離れる方向へ移動して楔効果が生じる。この楔効果により一対のくさび20と外周面形成部材18と内周面形成部材17とが相対回転できないロック状態になり、この状態で駆動部13aが内周面形成部材17を回転駆動することになる。これにより、接続シャフト13と出力プーリ15とが連結されて一体回転し、電磁クラッチ8が接続された直結モードとなる。
【0035】
電磁クラッチ8が接続状態になると、舵角センサ3が検出した舵角信号aに基づく車輪角度変換機構6への制御信号Aが止められる。そして、ステアリングホィール2の操作力が電磁クラッチ8を介し、直接に車輪角度変換機構6の入力回転軸6aに伝達され、車輪10が操舵される。
【0036】
この発明によれば、通常の使用状態であるステアバイワイヤモード時には、ステアリングシャフト2の回転による回転量が検出され、検出値と対応した回転量だけ図示しない操舵アクチュエータが回転し、該操舵アクチュエータの回転が車輪角度変換機構6の入力回転軸6aに伝達され、該入力回転軸6aの回転運動が出力ロッド6cの往復運動に変換され、該出力ロッド6cの往復運動により車輪10が操舵される。異常時にロックピン23が前進して一対のくさび20の基端部どうしの間に入り込むと、一対のくさび20の楔機能により、一対のくさび20と内周面形成部材17と外周面形成部材18とが相対回転できないロック状態になることから、駆動部13aが内周面形成部材17を回転駆動し、電磁クラッチ8の接続シャフト13と出力プーリ15とが一体に回転する。つまり、クラッチの入力軸と出力軸とが一体に回転するクラッチ接続状態となり、ステアリングシャフト2と車輪角度変換機構6とが機械的に直結されて車輪10が操舵される。
【0037】
この発明によれば、電源が供給されている状態では復帰ばね25の付勢力に抗して電磁石26がロックピン23を待機位置へ吸引するので、クラッチが切り離し状態になる一方、電源が供給されない状態では復帰ばね25の付勢力によりロックピン23が一対のくさび20の基端部どうしの間へ向かって移動し、クラッチが接続状態になる。つまり、電源が供給されない状態でも、ステアリングシャフト2と車輪角度変換機構6とが機械的に直結され、車輪10の操舵が可能となる。
【0038】
この発明によれば、相互にころがり接触する内周面17aと外周面18aとの双方に凹凸が形成されているので、内周面形成部材17の内周面17aに外周面形成部材18の外周面18aが接触して外周面形成部材18が転がる際に、両者間の摩擦係数が大きく滑りが生じにくい。従って、クラッチ接続状態でのクラッチの接続シャフト13と出力プーリ15との間の滑りが抑制される。
【0039】
なお、本実施の形態ではクラッチを構成する出力軸の端面に内周面形成部材を結合し、入力軸の端面に駆動部を突出形成したが、出力軸と入力軸とを逆にしてもよい。また、電磁クラッチ8は、電磁コイル27への通電時に切り離され、非通電時に接続される構成としたが、反対に、通電時に接続され、非通電時に切り離されるように構成しても良い。更にクラッチとしては、電磁クラッチに限定されるものではない。また更に、外周面形成部材の外周面と内周面形成部材の内周面との双方に複数の凹凸を形成したがいずれか一方に複数の凹凸を形成するだけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】車両用操舵装置の全体構成を示す構成図(実施の形態)。
【図2】電磁クラッチの切り離し状態の断面図(実施の形態)。
【図3】電磁クラッチの接続状態の断面図(実施の形態)。
【図4】電磁クラッチの斜視図(実施の形態)。
【図5】電磁クラッチの連結機構を示す構成図(実施の形態)。
【図6】連結機構のロック解除状態に係り、(a)は正面図、(b)は下面図(実施の形態)。
【図7】連結機構のロック状態に係り、(a)は正面図、(b)は下面図(実施の形態)。
【図8】車両用操舵装置全体構成を示す構成図(従来)。
【図9】電磁クラッチ機構の断面図(従来)。
【符号の説明】
【0041】
1…車両用操舵装置
2…ステアリングホィール(操作部材)
6…車輪角度変換機構(操舵機構)
6a…入力回転軸
6c…出力ロッド
8…電磁クラッチ(クラッチ)
10…車輪
13…接続シャフト(入力軸)
13a…駆動部
15…出力プーリ(出力軸)
16…電磁ソレノイド機構
17…内周面形成部材
17a…内周面
17b…筒部
18…外周面形成部材
18a…外周面
20…くさび
21…ばね(付勢手段)
23…ロックピン
25…復帰ばね(付勢手段)
26…電磁石
31…円環状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の操舵角を変えるために回転操作する操作部材を設け、該操作部材の回転量を検出して得た検出値と対応した回転量だけ回転する操舵アクチュエータを設け、該操舵アクチュエータに、入力回転軸の回転運動を出力ロッドの往復運動に変換する操舵機構の前記入力回転軸を連結し、前記出力ロッドを車輪に連結する一方、前記操作部材に機械的な連結と切り離しとを行うクラッチを介して前記操舵機構の前記入力回転軸を連結した車両用操舵装置において、
前記クラッチは、前記操作部材に連結される入力軸または前記操舵機構の入力回転軸に連結される出力軸のいずれか一方の端面に結合された内周面形成部材と該内周面形成部材の内周面を転動すると共に該内周面形成部材の内周寸法よりも短い外周寸法を有する外周面形成部材と、前記内周面形成部材の中心部に一体に設けられた筒部と前記外周面形成部材の中心部に形成された円形孔との間に形成された円環状空間と、該円環状空間に設けられ幅広の基端部どうしが対向配置された一対のくさびと、該一対のくさびの基端部どうしを相互に引き離す方向へ付勢する付勢手段と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面に突出形成され前記円環状空間の内部であって円周方向での前記一対のくさびの先端部どうしの間に挿入されている駆動部と、前記入力軸または前記出力軸の他方の端面から前記円環状空間の内部であって前記一対のくさびの基端部どうしの間へ進退可能に設けられたロックピンとを備え、
前記ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間から退出しているロック解除状態では、前記駆動部が前記一対のくさびを押圧しながら前記内周面形成部材および前記外周面形成部材に対して空転しクラッチ切り離し状態となる一方、前記ロックピンが一対のくさびの基端部どうしの間に入り込んだロック状態では、前記一対のくさびの楔機能により一体化された前記一対のくさびと前記内周面形成部材と前記外周面形成部材とを前記駆動部が押圧して回転駆動しクラッチ接続状態となることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記ロックピンは、前記ロックピンを前記一対のくさびの基端部どうしの間へ向かって付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して前記ロックピンを待機位置へ吸引する電磁石とを備えた電磁ソレノイド機構により操作されることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用操舵装置において、
前記外周面形成部材の外周面と前記内周面形成部材の内周面との少なくともいずれか一方に複数の凹凸を形成したことを特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−155782(P2008−155782A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346883(P2006−346883)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】