説明

車両用灯具の取付構造

【課題】 車両が比較的低速で前方衝突したときにヘッドライトが損傷を受けてしまう可能性を低下させる。
【解決手段】 ヘッドライトユニット5の内端5aは取付ブラケット7を介してラジエータシュラウド1に連結される。取付ブラケット7は、ヘッドライトユニット5の内端5aよりもΔLだけ前方に突出した先当て部7aと、先当て部7aから後方に延びる脚7bとを有し、脚7bの後端部分には、取付座を構成する衝撃吸収部7cが形成されている。ヘッドランプユニット5は、その車幅方向内端5aに隣接した取付部5cがラジエータシュラウド1のアーム4の基端部分4aに連結され、この基端部分4aは相対的に弱い弱体部Aを構成する。前方衝突の際には、アーム4の基端の破断ラインRで折れように設計されている。この破断ラインRは、取付部5cよりも車幅方向内方側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用灯具の取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のコーナ部分に配置される灯具としてヘッドライトが歩行者に衝突したときに、その衝撃を緩和することにより歩行者を保護するための技術が開示されている。具体的には、ヘッドライトの車幅方向外端部に、上下方向に延びるピボット軸を設け、ヘッドライトに前方から所定以上の荷重が加わったときにヘッドライトの車幅方向内端部の車体取付部1つまり取付ブラケットの一部を破断させることにより、ヘッドライトがピボット軸を中心に回動してヘッドライトの内端部を後方移動させるようになっている。
【特許文献1】米国特許出願公開2003/0142503A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術は、ヘッドライトに直接的に衝撃が加わったときに、取付ブラケットの破断によってヘッドライトの車幅方向内端部が後方移動し、これにより歩行者への衝撃力を緩和するものであるため、歩行者との衝突事故に伴ってヘッドライトのレンズ面面が破損する可能性は大である。したがって、車体の修理は、破断した取付ブラケットの交換だけでなくヘッドライトの交換も必要となる。近年の車両は、ヘッドライトなどの灯具がユニット化され、単にレンズ面だけが破損したとしてもユニット単位で交換することが必要となり、また、ヘッドライトユニットのような灯具は比較的高価である。
【0004】
本発明は、車両が比較的低速で前方衝突したときに灯具が損傷を受けてしまう可能性を低下させることのできる車両用灯具の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
光源と該光源からの光を透過するレンズとを備え、取付ブラケットを介して車体に取り付けられる車両用灯具の取付構造であって、
前記取付ブラケットが、前記車両用灯具の車体前方に最も突出する車幅方向内端に配設され、
該取付ブラケットには、前記車両用灯具の車幅方向内端よりも前方に突出する先当て部が形成されていることを特徴とする車両用灯具の取付構造を提供することによって達成される。
【0006】
すなわち、本発明の車両用灯具の取付構造にあっては、前方衝突時に、車両用灯具の最も前方に突出する車幅方向内端よりも前方に突出する先当て部によって灯具を保護することができる。特に、灯具の前面に位置するレンズ面の破損を防止することができる。
【0007】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、上記取付ブラケットが、前記先当て部の車体後方側に設けられ且つ車体に着座する取付座を有し、前記車両用灯具の車幅方向内端と車体との間に車体前後方向に広がりを有する隙間が形成される。この隙間は、車両の衝突時に、灯具の車幅方向内端が後方へ逃げることのできる空間を提供することができ、衝突初期に、衝突物と車体との間に灯具の車幅方向内端が挟まれて、特に灯具のレンズ面が破損する可能性を低くすることができる。
【0008】
また、上記取付ブラケットの先当て部と取付座との間に衝撃吸収構造を設けるのが好ましい。衝撃吸収構造の最も典型的な例として、比較的小さな荷重で座屈変形するクラッシャブル構造を挙げることができる。取付ブラケットに衝撃吸収構造を設けることで、特に軽衝突による車体への影響を低減することができ、これにより、衝突による交換部品が取付ブラケットだけで足りる可能性を高めることができる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態では、上記の車体はラジエータシュラウドであり、このラジエータシュラウドは、ラジエータを搭載するシュラウド本体から左右に延びるアームを有する。また、前記車両用灯具は、典型的にはヘッドライトユニットであるが、このヘッドライトユニットは、車幅方向内端に隣接し且つこれをラジエータシュラウドに固定するための上記取付ブラケットの配置位置よりも車幅方向外方に位置する部位をラジエータシュラウドのアームに固定するための取付部を有する。このような構成を前提として、ラジエータシュラウドのアームには、前方からの所定以上の荷重によって前記取付部よりも車幅方向内方側で折れる又は破断するように設計された弱体部が設けられている。
【0010】
これによれば、前方衝突の際に、衝突物がヘッドライトユニットの車幅方向内端の取付ブラケットを押し潰しながら相対的に後方に進入して、シュラウド本体を車体後方に向けて押し付けたときに、これに伴って、ヘッドライトユニットの車幅方向内端部分が後方に押し付けられたとしても、ラジエータシュラウドのアームの弱体部が折れる又は破断することにより、ヘッドライトユニットの車幅方向内端部分は車体後方側に逃げることができる。これにより、前方衝突により比較的高価なヘッドライトユニットが損傷を受ける可能性を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0012】
図1は樹脂製のラジエータシュラウド1を示す。図示のラジエータシュラウド1は、中央にラジエータ(図示せず)を搭載するための開口2を含むシュラウド本体3を有し、また、このシュラウド本体3から左右に延びるアーム4を有し、各アーム4の車幅方向外端は、夫々、左右のフロントフェンダ(図示せず)に連結される。なお、図1に図示のラジエータシュラウド1には、その下側に設けられるバンパーレインフォースメントの図示を省略してある。
【0013】
ラジエータシュラウド1はヘッドライトユニット5を含むフロントエンドモジュールを構成する。ヘッドライトユニット5は、図2に示すように、車幅方向外方に向かうに従って後方に回り込む横方向に細長い形状を有し、ヘッドライトユニット5の車幅方向内端5aが最も前方に突出した部位を構成している。ヘッドライトユニット5に内蔵された光源からの光は、前面に位置するレンズ面5bを通じて前方に投光される。
【0014】
ヘッドライトユニット5は、図3〜図5に示すように、その内端5aが樹脂製の取付ブラケット7を介してラジエータシュラウド1に連結される。図3は平面図であり、この図3から理解できるように、取付ブラケット7は、平面視したときに略L字状の形状を有し、ヘッドライトユニット5の内端5aよりもΔLだけ前方に突出した先当て部7aを備えている。取付ブラケット7は、先当て部7aから後方に延びる脚7bを有し、脚7bの後端部分には、容易に座屈可能な衝撃吸収部7cが形成され、この衝撃吸収部7cの後端面が取付座を構成している。ヘッドランプユニット5の車幅方向内端5aは、この取付ブラケット7を介してラジエータシュラウド1に図外のネジなどの締結手段に使って固定されている。このネジを挿通する孔を図5に参照符号8で示す。
【0015】
ヘッドライトユニット5は、その車幅方向内端5aに隣接し且つ車幅方向外方に位置する部分の上端に取付部5cを有し、この取付部5cを介して、ラジエータシュラウド1のアーム4の基端部分4aに連結されている。このアーム4の基端部分4aは、ラジエータシュラウド1を平面視した図6から理解できるように、一部を切り欠いた形状を備えた相対的に弱い弱体部Aを構成しており、ラジエータシュラウド1に前方から所定以上の荷重を加わると、この弱体部Aの仮想線Rで示すアーム基端で折れる又は破断するように設計されている。
【0016】
図7は、車両の前端のコーナ部分の平面図である。ヘッドライトユニット5の車幅方向外端部分5dは、車体前後方向に延びる樹脂製のプレート部材9を介してフロントフェンダ10に連結される。図8、図9に拡大して示すように、プレート部材9は、その前端部分9aに比較的肉厚のボス部9bを有し、このボス部9bに挿通されたネジでヘッドライトユニット5に固定される。プレート部材9は、ボス部9bから後方の部位は比較的肉薄の板状の形状を有し、後端部分9cにフロントフェンダ10との連結部を構成する透孔9dが形成されている。プレート部材9は、その後端部分9cの透孔9dに挿通された締結手段(例えばネジ)を使ってフロントフェンダ10に連結される。この透孔9dに挿通される締結手段は、上下方向に延びる軸線L1を有し(図9)、これによりプレート部材9は、上下方向に延びる軸線L1を中心に略水平面で揺動可能である。なお、図7に示す参照符号11は、バンパーレインフォースメントである。
【0017】
図7を参照して、実施例の作用を説明すると、バンパーレインフォースメント11に例えばオフセットバリア12が衝突すると、オフセットバリア12は、取付ブラケット7の先当て部7aに当たり、衝撃吸収部7cを座屈させながら進入する。ここで注目すべきことは、平面視L字状の取付ブラケット7の存在によって、ヘッドライトユニット5の車幅方向内端とラジエータシュラウド1との間に、車体前後方向に広がる隙間Cが形成されていることである。この隙間Cは、取付ブラケット7が潰れていく過程でヘッドライトユニット5の車幅方向内端部5aが後方に逃げる空間を提供することになる。
【0018】
この隙間Cについて詳しく説明すると、隙間Cは上述したように車体前後方向に広がっており、この隙間Cの存在によって、ヘッドランプユニット5の車幅方向内端5aは、ラジエータシュラウド1から離間して位置している。換言すれば、ヘッドランプユニット5の車幅方向内端5aは、ラジエータシュラウド1に接していない。このことから、衝突初期に、衝突物(オフセットバリア)12とラジエータシュラウド1との間にヘッドランプユニット5の車幅方向内端5aが挟まれることはなく、衝突初期に、衝突物(オフセットバリア)12とラジエータシュラウド1との間にヘッドランプユニット5が挟まれることに伴うヘッドランプユニット5の破損又は損傷を効果的に防止することができる。
【0019】
また、オフセットバリアつまり衝突物12による衝撃により、ラジエータシュラウド1のシュラウド本体3が後退すると、ラジエータシュラウド1のアーム4が、その弱体部Aの設計上の破断ラインRで折れる又は破断し、これにより、ヘッドライトユニット5の車幅方向内端部分はシュラウド本体3の拘束から解放された状態となる。
【0020】
また、ヘッドライトユニット5に前方からの荷重が加わったとしても、ヘッドライトユニット5の車幅方向外方部分は、ラジエータシュラウド1のアーム4の車幅方向外端が、略水平面で揺動可能なプレート部材9を介してフロントフェンダ10に連結されているため、ヘッドライトユニット5は、車幅方向内端部分が衝突荷重を受けながら比較的容易に後方に逃げることができる。換言すれば、ヘッドランプユニット5の車幅方向外端部分が後方に移動する可能性を低減することができ、このことは、ヘッドライトユニット5の車幅方向外端部分が後退してフロントフェンダ10に損傷を与える可能性を低減できることを意味する。
【0021】
更に、前方衝突により、所定以上の荷重が加わったときには、プレート部材9が部位Bで破断又は折れ、これによりヘッドランプユニット5はラジエータシュラウド1及びフロントフェンダ10の拘束から実質的に解放されるため、このような状態を伴う衝突事故であっても、ヘッドライトユニット5が損傷を受ける可能性を低減することができる。
【0022】
衝突時の上述した一連の動作を典型的な軽衝突の場合を例に時系列に要約すると以下のとおりである。
(1)衝突物12が取付ブラケット7の先当て部7aに当たって進入すると、取付ブラケット7が圧縮される。
(2)衝突物12からの荷重をラジエータシュラウド1が受けて後退すると、アーム4の基端部分の弱体部Aが切断ラインRで折れる又は破断する。
(3)アーム4の基端が折れる又は破断すると、アーム4は、ヘッドライトユニット5の取付部5cで連結された状態のままであることから、ヘッドライトユニット5と一緒に車体外端部を中心にして図7の矢印Bで示すように揺動する。これにより、後方に回り込んだヘッドライトユニット5の車幅方向外端部5dが相対的に前方に移動してフロントフェンダ10から離れる傾向になることから、ヘッドライトユニット5の車幅方向外端部5dによるフロントフェンダ10の押し潰しを防止することができる。また、仮にアーム4が折れない構造であったとしたら及び/又はアーム4からヘッドライトユニット5が離れる構造であったとしたら、ヘッドライトユニット5がアーム4と衝突物12との間に挟まれて損傷を受ける可能性が大きくなるが、このような問題は、実施例のようにアーム4がヘッドライトユニット5と一体のまま供回りすることによって防止することができる。
(4)アーム4とヘッドライトユニット5の矢印Bの揺動が所定角度以上になると、プレート部材9が部位Bで破断又は折れる。これによりヘッドランプユニット5はラジエータシュラウド1及びフロントフェンダ10の拘束から実質的に解放され、衝突物12の進入と一緒にヘッドランプユニット5が後退することができる。
【0023】
したがって、前方衝突事故の後の車両の補修又は修理では、衝突の程度によるが、比較的高価なヘッドライトユニット5やフロントフェンダ10の交換を必要としないで、取付ブラケット7の交換、場合によってはラジエータシュラウド1の交換、また、場合によってはプレート部材9の交換で足りる。
【0024】
変形例として、プレート部材9を補修部品として用意し、車両の出荷時には、ヘッドランプユニット5の車幅方向外端部から後方に延びる一体構造の比較的偏平なプレート部を介して、ヘッドランプユニット5をフロントフェンダ10に連結する構成を採用してもよい。この変形例によれば、前方衝突によりヘッドランプユニット5の上記プレート部が破損したときには、これに代えて補修部品としてのプレート部材9をヘッドランプユニット5に取り付け、このプレート部材9を介してヘッドランプユニット5を上述した要領でフロントフェンダ10に連結することで車両の修理を行うようにしてもよい。
【0025】
特に、近時の車両はモジュール化されているため、仮に比較的軽度の衝突であっても、これにより複数のモジュールが損傷を受けたときには、これら損傷が各モジュールの一部であったとしても全てのモジュールを交換する必要があり、車両の所有者に経済的に大きな負担を掛けることになるが、実施例のヘッドライトユニット5の取付構造を採用することで、比較的高価なヘッドライトユニット5やフロントフェンダ10の損傷の可能性を低減することができ、これにより補修又は修理に要する費用を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ラジエータシュラウドを斜め前方から見た斜視図であり、バンパーレインフォースメントの図示を省いてある。
【図2】ヘッドライトユニットの正面図である。
【図3】ヘッドライトユニットの車幅方向内端部の取付構造を示す部分平面図である。
【図4】ヘッドライトユニットの車幅方向内端部をラジエータシュラウドに連結するための取付ブラケットの平面図である。
【図5】ヘッドランプユニットの車幅方向内端部の取付構造を示す、図3に対応した部分斜視図である図である。
【図6】ラジエータシュラウドの平面図である。
【図7】ヘッドライトユニットを組み込んだフロントエンドモジュールをフロントフェンダに組み付けた車体コーナ部分の平面図である。
【図8】ヘッドライトユニットの車幅方向外端部をフロントフェンダに連結するためのプレート部材の斜視図である。
【図9】図8のプレート部材の側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ラジエータシュラウド
2 中央開口(ラジエータ搭載用)
3 シュラウド本体
4 ラジエータシュラウドのアーム
4a アームの基端部分
R アームの設計上の破断ライン
5 ヘッドライトユニット
5a ヘッドライトユニットの車幅方向内端
5b ヘッドランプのレンズ面
5c ヘッドライトユニットの内端に隣接し且つ車幅方向外方に位置する取付部
7 取付ブラケット
7a 先当て部
7b 脚
7c 衝撃吸収部(取付座)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と該光源からの光を透過するレンズとを備え、取付ブラケットを介して車体に取り付けられる車両用灯具の取付構造であって、
前記取付ブラケットが、前記車両用灯具の車体前方に最も突出する車幅方向内端に配設され、
該取付ブラケットには、前記車両用灯具の車幅方向内端よりも前方に突出する先当て部が形成されていることを特徴とする車両用灯具の取付構造。
【請求項2】
前記取付ブラケットが、前記先当て部の車体後方側に設けられ且つ車体に着座する取付座を有し、前記車両用灯具の車幅方向内端と車体との間に車体前後方向に広がりを有する隙間が形成される、請求項1に記載の車両用灯具の取付構造。
【請求項3】
前記取付ブラケットの先当て部と取付座との間に衝撃吸収構造が設けられている、請求項2に記載の車両用灯具の取付構造。
【請求項4】
前記車体がラジエータシュラウドであり、該ラジエータシュラウドは、ラジエータを搭載するシュラウド本体から左右に延びるアームを有し、
前記車両用灯具は、前記取付ブラケットの配置位置に隣接し且つ該取付ブラケットの配置位置よりも車幅方向外方に位置する部位を前記ラジエータシュラウドのアームに固定するための取付部を有し、
前記ラジエータシュラウドのアームには、前方からの所定以上の荷重によって前記取付部よりも車幅方向内方側で折れる又は破断する弱体部が設けられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用灯具の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−1344(P2006−1344A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178049(P2004−178049)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】