車両用自動変速機の制御装置
【課題】変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】アクセルが踏み込まれた状態での自動変速機20のダウン変速において、その変速で解放されるクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を漸減させることにより変速を進行させるクラッチ・トゥ・クラッチ変速、及び、それよりも急速にクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を減少させることにより変速を進行させる回転同期変速の何れかを、自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて選択するものであり、回転同期変速が選択される領域は、クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを適宜選択的に実行することができる。
【解決手段】アクセルが踏み込まれた状態での自動変速機20のダウン変速において、その変速で解放されるクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を漸減させることにより変速を進行させるクラッチ・トゥ・クラッチ変速、及び、それよりも急速にクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を減少させることにより変速を進行させる回転同期変速の何れかを、自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて選択するものであり、回転同期変速が選択される領域は、クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを適宜選択的に実行することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有段式の車両用自動変速機の制御装置に関し、特に、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
予め定められた変速線図から車両の走行状態に基づいて複数の変速段を選択的に成立させる有段式の自動変速機が各種車両に広く用いられている。斯かる自動変速機において、アクセルペダルの踏込量に応じて複数タイプの変速を選択的に実行する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機の変速制御装置がそれである。この技術によれば、アクセルペダルの踏込速度が比較的速い場合には、変速速度重視の変速と判断して係合装置の油圧を比較的急に抜いて素早い変速を行う一方、アクセルペダルの踏込速度が比較的遅い場合には、ショック重視の変速と判断して係合装置の油圧勾配を緩やかにする制御を行うことで、運転者の意思に沿った変速フィーリングを実現することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−295663号公報
【特許文献2】特開2010−216589号公報
【特許文献3】特開平08−296732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、例えば変速速度重視の変速が行われる場合において、その変速で解放される解放側係合装置を速やかに解放するために出力軸トルクの抜けが大きくなるという不具合があった。とりわけ、比較的大きな駆動力で走行している場合には、斯かる出力軸トルク抜けがドライバビリティの低下につながるおそれがあった。このような課題は、自動変速機の変速制御における変速応答性とドライバビリティの両立を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、駆動力源に連結され、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる有段式の車両用自動変速機の制御装置であって、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。すなわち、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速である。このようにすれば、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0009】
前記第1発明乃至前記第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記自動変速機の出力軸トルクが規定の閾値以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機の出力軸トルクが前記閾値未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、前記閾値は、車速、アクセル開度、及び前記自動変速機において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものである。このようにすれば、出力軸トルクが比較的大きい場合には前記係合装置の係合圧制御を主体とする変速制御を行うことで駆動力の抜けを抑制でき、出力軸トルクが比較的小さい場合には前記駆動力源の回転速度制御を主体とする変速制御を行うことで速やかに変速を行うことができる。更に、車速、アクセル開度、及び変速段等に基づいて閾値を変更することで、変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを更に適切に選択することができる。
【0010】
前記第1発明、前記第2発明、前記第1発明に従属する前記第3発明、乃至前記第2発明に従属する前記第3発明に従属する本第4発明の要旨とするところは、前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものである。このようにすれば、解放側の係合装置の係合圧を抜いている場合に、速やかに目標変速段を成立させることで変速応答性を更に向上させることができる。
【0011】
前記第1発明、前記第2発明、前記第1発明に従属する前記第3発明、前記第2発明に従属する前記第3発明、前記第1発明に従属する前記第4発明、前記第2発明に従属する前記第4発明、乃至前記第3発明に従属する前記第4発明に従属する本第5発明の要旨とするところは、前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び前記回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて選択するものである。このようにすれば、多重変速における後の変速に関して、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機を備えた車両の駆動装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。
【図4】図1の駆動装置の駆動を制御するためにその駆動装置に備えられた制御系統の要部を説明する図である。
【図5】図1の自動変速機の変速制御を行うための変速マップ及び駆動力源を切り換える制御を行うための駆動力源マップを併せて説明する図である。
【図6】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、車速と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図8】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、アクセル開度時間変化率と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図9】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、自動変速機の変速段と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図10】図4の電子制御装置による本実施例の変速制御について説明するタイムチャートであり、従来の技術による制御を併せて示している。
【図11】図4の電子制御装置による本実施例の変速制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、例えば、前記駆動力源として機能する電動機を備えた電気式差動部と、その電気式差動部に連結された前記自動変速機とを、備えたハイブリッド車両におけるその自動変速機の変速制御に好適に適用される。前記電気式差動部は、好適には、第1回転要素、入力回転部材であってエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたものである。この第2電動機は、好適には、前記電気式差動部の出力回転部材に連結され、その出力回転部材が前記自動変速機の入力軸に連結されている。前記回転同期変速において、好適には、前記第2電動機のトルクを制御することにより斯かる形態の変速制御が実現される。
【0014】
前記自動変速機の出力軸トルクが、その自動変速機の入力軸トルクに基づいて一義的に定まる構成においては、入力軸トルクが前記変速制御の形態の選択の基準とされるものであってもよい。すなわち、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の入力軸トルクに基づいて選択するものであってもよい。
【0015】
前記回転同期変速は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも速やかに低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。前記回転同期変速は、好適には、変速出力時にその変速で解放される前記係合装置の係合トルクを零まで低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。前記回転同期変速は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合トルクを可及的速やかに零まで低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。
【0016】
好適には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、変速開始から変速終了まで解放側係合装置及び係合側係合装置の何れかが係合(乃至半係合)された状態で変速が進行する変速形態であり、前記回転同期変速は、変速開始から変速終了までの間に解放側係合装置及び係合側係合装置の両方が開放される区間が存在する変速形態である。好適には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクで変速に係る回転速度を引き上げる変速形態であり、前記回転同期変速は、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクにより変速に係る回転速度を引き上げる割合(回転速度の上昇量全体に対する割合)が前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも少ない変速形態である。
【0017】
好適には、前記回転同期変速においては、解放側係合装置すなわちその変速において解放させられる係合装置の油圧(係合圧)が所定値(好適には零)まで速やかに低下させられ、駆動力源のトルクが一定時間維持された後、その駆動力源のトルクを変化させることで前記変速に係る回転速度の制御が行われる。
【0018】
好適には、前記回転同期変速で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、油圧式摩擦係合装置のようにその係合のために油圧制御を必要とする係合装置である場合には、斯かる変速の終了時に前記自動変速機の入力回転速度を同期回転速度よりも一旦大きくする制御を行う。すなわち、好適には、目標入力回転速度が同期回転速度よりも大きい値に設定される。
【0019】
好適には、前記回転同期変速で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、一方向クラッチのように油圧制御を必要とせず係合させられる係合装置である場合には、斯かる変速の終了時に前記自動変速機の入力回転速度を同期回転速度よりも一旦小さくする制御を行う。すなわち、好適には、目標入力回転速度が同期回転速度よりも小さい値に設定される。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機20を備えた車両の駆動装置10を説明する骨子図である。この図1に示す駆動装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、その入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された差動部16と、その差動部16と1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速機20と、その自動変速機20に連結された出力軸22とを、直列に備えている。
【0022】
上記駆動装置10は、上記入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパを介して直接的に連結された走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン24を備え、そのエンジン24と上記1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に設けられて、そのエンジン24により発生させられた動力を差動歯車装置32等を介して上記1対の駆動輪34へと伝達する動力伝達装置である。本実施例の駆動装置10において、上記エンジン24と差動部16とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。上記駆動装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0023】
前記差動部16は、第1電動機MG1と、前記入力軸14に入力されて前記エンジン24の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン24の出力を第1電動機MG1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配装置26と、前記伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機MG2とを、備えている。本実施例の駆動装置10に備えられた第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも発動機及び発電機として機能する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、上記第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(発動機)機能を少なくとも備える。斯かる構成により、前記差動部16は、上記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を介して運転状態が制御されることにより、入力回転速度(入力軸14の回転速度)と出力回転速度(伝達部材18の回転速度)の差動状態が制御される電気式差動部として機能する。
【0024】
前記動力分配装置26は、シングルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。この遊星歯車装置は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリアCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えており、キャリアCA0は前記入力軸14すなわち前記エンジン24に連結され、サンギヤS0は前記第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0は前記伝達部材18に連結されている。すなわち、差動機構としての前記動力分配装置26においては、サンギヤS0が第1回転要素に、キャリアCA0が第2回転要素に、リングギヤR0が第3回転要素にそれぞれ対応する。前記動力分配装置26において、キャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
【0025】
上記のように構成された動力分配装置26では、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン24の出力が前記第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されると共に、分配された前記エンジン24の出力の一部で前記第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギにより蓄電が行われたり、前記第2電動機MG2が回転駆動される。従って、前記差動部16(動力分配装置26)は電気的な差動装置として機能させられて例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、前記エンジン24の所定回転に拘わらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記差動部16はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、前記動力分配装置26(差動部16)に動力伝達可能に連結された前記第1電動機MG1、第2電動機MG2、及びエンジン24の運転状態が制御されることにより、前記入力軸14の回転速度と差動部16の出力軸として機能する前記伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。
【0026】
前記駆動装置10においては、前記エンジン24を停止させると共に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方(好適には、第2電動機MG2)を走行用の駆動源とするEV走行状態(EVモード)、前記エンジン24を駆動させて走行用の駆動源とすると共に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を空転させるか或いは回生させるエンジン走行状態(エンジン走行モード)、前記エンジン24及び第2電動機MG2を走行用の駆動源とすると共に前記第1電動機MG1により必要に応じて回生を行うハイブリッド走行状態(ハイブリッドモード)等が選択的に成立させられる。
【0027】
前記自動変速機20は、前記エンジン24と前記1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に、前記動力分配装置26と直列に設けられたものであり、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる遊星歯車式の多段変速機である。前記自動変速機20は、シングルピニオン型の遊星歯車装置28、30を主体として構成されている。この遊星歯車装置28、30は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
【0028】
前記自動変速機20は、上記係合装置として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)を備えている。これらクラッチC及びブレーキBは、何れも従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。上記クラッチC及びブレーキBには、後述する電子制御装置50からの油圧指令値に応じて油圧制御回路40(図4等を参照)により調圧された油圧がそれぞれ供給されるようになっており、その油圧に応じて各クラッチC及びブレーキBの係合状態が制御されるように構成されている。
【0029】
前記自動変速機20では、上記サンギヤS1が上記ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。上記キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっていると共に、係合装置である一方向クラッチF1を介してそのケース12に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。上記サンギヤS2が第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。一体的に連結された上記キャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。上記リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に前記出力軸22に連結されている。
【0030】
図2は、前記自動変速機20の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。この図2に示すように、前記自動変速機20においては、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.20」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。ここで、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速時には、前記一方向クラッチF1により前記キャリアCA1及びリングギヤR2の前記ケース12に対する相対回転が阻止されるため、前記第2ブレーキB2は係合させられなくともよい。前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.72」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.00」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.67」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及びブレーキB2の係合により変速比γRが例えば「3.20」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0031】
以上のように構成された本実施例の駆動装置10において、無段変速機として機能する前記差動部16と、その差動部16に連結される前記自動変速機20とで全体として無段変速機が構成される。前記差動部16の変速比を一定となるように制御することにより、その差動部16と自動変速機20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。具体的には、前記差動部16が無段変速機として機能し、且つその差動部16に直列の前記自動変速機20が有段変速機として機能することにより、その自動変速機20の少なくとも1つの変速段Mに対してその自動変速機20に入力される回転速度(以下、自動変速機20の入力回転速度)すなわち前記伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。従って、前記駆動装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、前記駆動装置10において無段変速機が構成される。この駆動装置10の総合変速比γTは、前記差動部16の変速比γ0と自動変速機20の変速比γとに基づいて形成される前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0032】
例えば、無段変速機としての前記差動部16の作動により、図2の係合作動表に示される前記自動変速機20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対して、前記伝達部材18の回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。前記差動部16の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、前記駆動装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。例えば、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように前記自動変速機20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。前記自動変速機20の第3速ギヤ段において前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0033】
図3は、前記差動部16と自動変速機20とから構成される駆動装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であって、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン24の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度N18を示している。
【0034】
前記差動部16を構成する動力分配装置26の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素に対応するサンギヤS0、第2回転要素に対応するキャリアCA0、第3回転要素に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記動力配分装置26を構成する遊星歯車装置のギヤ比に応じて定められている。前記自動変速機20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、Y4がサンギヤS1の相対回転速度を、Y5が相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の相対回転速度を、Y6が相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の相対回転速度を、Y7がサンギヤS2の相対回転速度をそれぞれ表し、それら縦線Y4〜Y7の間隔は前記遊星歯車装置28、30のギヤ比に応じてそれぞれ定められている。
【0035】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の駆動装置10は、前記動力分配装置26(差動部16)において、その動力分配装置26の第2回転要素(キャリアCA0)が前記入力軸14すなわちエンジン24に連結され、第1回転要素(サンギヤS0)が前記第1電動機MG1に連結され、第3回転要素(リングギヤR0)が前記伝達部材18及び第2電動機MG2に連結されて、前記入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速機20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により前記サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0036】
例えば、前記差動部16においては、前記動力分配装置26の第1回転要素乃至第3回転要素が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される前記リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される前記キャリアCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される前記サンギヤS0の回転速度すなわち前記第1電動機MG1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0037】
前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、そのエンジン回転速度NEと同じ回転で前記リングギヤR0の回転速度すなわち前記伝達部材18が回転させられる。或いは、前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0038】
前記自動変速機20において、第4回転要素である前記サンギヤS1は前記第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結され、第5回転要素である相互に連結された前記キャリアCA1及びリングギヤR2は前記第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に前記第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)を介して前記ケース12に選択的に連結され、第6回転要素である相互に連結された前記リングギヤR1及びキャリアCA2は前記出力軸22に連結され、第7回転要素である前記サンギヤS2は前記第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されている。
【0039】
前記自動変速機20では、図3に示すように、前記第1クラッチC1と第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)とが係合させられることにより、第7回転要素の回転速度を示す縦線Y7と横線XGとの交点と第5回転要素の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)における前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、前記第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)における前記出力軸22の回転速度が示される。
【0040】
図4は、前記駆動装置10の駆動を制御するためにその駆動装置10に備えられた制御系統の要部を説明する図である。この図4に示す電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェイス等を含んで構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する所謂マイクロコンピュータであり、前記エンジン24の駆動制御や、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御をはじめとする前記駆動装置10の駆動に係る各種制御を実行する。この電子制御装置50は、前記エンジン24の出力制御用、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動制御用、前記自動変速機20の変速制御用といったように、必要に応じて各制御毎に個別の制御装置として構成される。
【0041】
図4に示すように、上記電子制御装置50には、前記駆動装置10の各部に設けられたセンサやスイッチ等から各種信号が供給されるように構成されている。すなわち、アクセル開度センサ52により運転者の出力要求量に対応する図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ54により前記エンジン24の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、MG1回転速度センサ56により前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、MG2回転速度センサ58により前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力回転速度センサ60により車速Vに対応する前記出力軸22の回転速度NOUTを表す信号、車輪速センサ62により前記駆動装置10における各車輪それぞれの速度NWを表す信号、及びバッテリSOCセンサ64によりバッテリ46の充電容量(充電状態)SOCを表す信号等が、それぞれ上記電子制御装置50に供給される。
【0042】
前記電子制御装置50からは、前記駆動装置10の各部に作動指令が出力されるように構成されている。すなわち、前記エンジン24の出力を制御するエンジン出力制御指令として、燃料噴射装置による吸気配管等への燃料供給量を制御する燃料噴射量信号、点火装置による前記エンジン24の点火時期(点火タイミング)を指令する点火信号、及び電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するためにスロットルアクチュエータへ供給される電子スロットル弁駆動信号等が、そのエンジン24の出力を制御するエンジン出力制御装置42へ出力される。
【0043】
前記電子制御装置50からは、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を指令する指令信号がインバータ44へ出力され、そのインバータ44を介して前記バッテリ46からその指令信号に応じた電気エネルギが前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に供給されてそれら第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力(トルク)が制御される。前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により発電された電気エネルギが上記インバータ44を介して前記バッテリ46に供給され、そのバッテリ46に蓄積されるようになっている。
【0044】
前記電子制御装置50からは、前記油圧制御回路40に対して、前記自動変速機20の変速制御を行うための油圧指令が出力される。具体的には、前記電子制御装置50により前記自動変速機20の変速が判定された場合、その変速が行われるように、前記油圧制御回路40に備えられたリニアソレノイド弁等の電子制御弁の作動(出力油圧)を制御するための油圧指令(油圧指令値)がその油圧制御回路40に出力される。これにより、前記油圧制御回路40から前記自動変速機20における各クラッチC及びブレーキBそれぞれに対応する油圧アクチュエータへ供給される油圧が制御され、図2に示す係合作動表のような組み合わせでそれらクラッチC及びブレーキBが選択的に係合させられることで、前記自動変速機20の変速制御が行われる。
【0045】
図5は、前記自動変速機20の変速制御を行うための変速マップ及び前記駆動装置10の駆動力源を切り換える制御を行うための駆動力源マップを併せて説明する図である。前記駆動装置10においては、予め定められた図5に示すような変速マップ及び駆動力源マップが記憶装置48に記憶されている。この図5に示す変速マップにおいては、低速段(高変速比ギヤ段)から高速段(低変速比ギヤ段)への変速すなわちアップ変速を判定するための変速線(アップ変速線)を実線で、高速段から低速段への変速すなわちダウン変速を判定するための変速線(ダウン変速線)を一点鎖線でそれぞれ示している。この図5に示す変速マップは、基本的に等パワー変速に対応するものである。図5に示す駆動力源マップにおいては、太線Aで示す切換線よりも低出力トルク側、低車速側がモータ走行領域とされ、その切換線よりも高出力トルク側、高車速側がエンジン走行領域とされている。このモータ走行領域において、前記電子制御装置50は、前記エンジン24を停止させると共に、例えば専ら前記第2電動機MG2を走行用の駆動力源とするモータ走行を実行する。エンジン走行領域において、前記電子制御装置50は、前記エンジン24を駆動させ、専らそのエンジン24を走行用の駆動力源とするエンジン走行、或いはそのエンジン24及び第2電動機MG2を走行用の駆動力源として併用するハイブリッド走行を実行する。
【0046】
図6は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。本実施例においては、図6に示す各種制御機能が前記電子制御装置50に一元的に備えられた態様について説明するが、それら制御機能が例えばエンジン制御用の電子制御装置、電動機制御用の電子制御装置、自動変速機制御用の電子制御装置等に分散的に備えられ、それら複数の電子制御装置が相互に通信を行うことにより以下に詳述する各種機能を奏するものであっても構わない。
【0047】
図6に示す変速制御部70は、前記駆動装置10における変速制御を行う。すなわち、電気的無段変速機としての前記差動部16及び有段変速機としての前記自動変速機20による変速を制御する。ここで、上記変速制御部70は、好適には、前記差動部16の変速制御を行う無段変速制御部と、前記自動変速機20の変速制御を行う有段変速制御部とに分けて構成されるが、本実施例においてはそれらを区別しないものとして説明する。
【0048】
上記変速制御部70は、電気的無段変速機としての前記差動部16に関して、予め定められた関係から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に応じて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御することにより前記差動部16の変速比を無段階に変化させる無段変速制御を行う。上記変速制御部70は、有段変速機としての前記自動変速機20に関して、前述した図5に示すような変速マップ等から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に基づいて、前記自動変速機20において成立させられる変速段(ギヤ段)を判定し、その判定結果に応じて前記油圧制御回路40から前記クラッチC及びブレーキBにそれぞれ供給される油圧を制御することで、前記自動変速機20において例えば前記第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかの変速段を選択的に成立させる有段変速制御を行う。
【0049】
図6に示すように、前記変速制御部70は、第1形態変速制御部72及び第2形態制御部74を備えている。これら第1形態変速制御部72及び第2形態制御部74により、前記自動変速機20における有段変速制御に関して、それぞれ形態の異なる少なくとも2種類の変速制御を選択的に実行する。例えば、第1の形態として、上記第1形態変速制御部72により解放側係合装置の解放制御及び係合側係合装置の係合制御を主体とする変速制御を実行すると共に、第2の形態として、上記第2形態変速制御部74により駆動力源トルクによる回転同期制御を主体とする変速制御を実行する。以下、これらの変速制御について詳述する。
【0050】
上記第1形態変速制御部72は、対象となる変速における解放側係合装置すなわちその変速で解放される係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を行う。ここで、対象となる変速で解放される係合装置とは、変速後の変速段を成立させるために解放される(係合から解放へ切り換えられる)係合装置を言うものであり、例えば第4速ギヤ段から第3速ギヤ段へのダウン変速における第1ブレーキB1、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段へのダウン変速における第2クラッチC2、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速における第1ブレーキB1がそれぞれ相当する。図2に示すように、前記自動変速機20における変速においては、解放側係合装置の解放及び係合側係合装置の係合による所謂クラッチ・トゥ・クラッチ変速が行われる。上記第1形態変速制御部72は、斯かるクラッチ・トゥ・クラッチ変速において、解放側係合装置の係合圧を速やかに例えば零まで低下させるのではなく、所定の時間をかけて漸減(比較的緩やかな勾配で低下)させることで変速を進行させる。換言すれば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を制御することにより前記自動変速機20の変速に係る要素の回転速度を制御する形態の変速制御を行う。この第1の形態の変速制御は、以下に詳述する第2の形態の変速制御に比べて変速に要する時間が長いが、変速ショックが生じ難い傾向にある。従って、上記第1の形態の変速制御は、ショック重視(変速ショック抑制重視)の変速制御であると言える。すなわち、本実施例においては、上記第1の形態の変速制御がその変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させるクラッチ・トゥ・クラッチ変速に相当する。
【0051】
前記第2形態変速制御部74は、駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を行う。好適には、駆動力源としての前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を制御することにより斯かる変速制御を行う。例えば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を速やかに(少なくとも第1の形態よりも速く)零まで低下(ドレーン)或いは規定の低圧状態(低圧待機)とした後、前記第2電動機MG2のトルク制御により前記伝達部材18(自動変速機20の入力回転部材)の回転速度を制御することで変速を進行させる回転速度同期制御すなわち回転同期変速を行う。換言すれば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を規定値(例えば零)まで低下させた後、駆動力源としての前記第2電動機MG2等のトルク制御により前記自動変速機20の変速に係る要素の回転速度を制御する形態の変速制御を行う。この第2の形態の変速制御は、上述した第1の形態の変速制御に比べて変速に要する時間が短いが、駆動状態から一旦駆動トルクを抜くことになるため変速ショックが生じ易い傾向にある。従って、上記第2の形態の変速制御は、変速速度重視(変速応答性重視)の変速制御であると言える。すなわち、本実施例においては、上記第2の形態の変速制御がその変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速(第1の形態の変速)よりも急速に減少させる回転同期変速に相当する。
【0052】
換言すれば、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記第1の形態の変速制御よりも速やかに低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。好適には、変速出力時にその変速で解放される前記係合装置の係合トルクを零まで低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合トルクを可及的速やかに零まで低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。
【0053】
換言すれば、前記第1形態変速制御部72により実行される第1の形態の変速制御は、好適には、変速開始から変速終了まで解放側係合装置及び係合側係合装置の何れかが係合(乃至半係合)された状態で変速が進行する変速形態であり、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、変速開始から変速終了までの間に解放側係合装置及び係合側係合装置の両方が開放される区間が存在する変速形態である。前記第1形態変速制御部72により実行される第1の形態の変速制御は、好適には、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクで変速に係る回転速度を引き上げる変速形態であり、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクにより変速に係る回転速度を引き上げる割合(回転速度の上昇量全体に対する割合)が前記第1の形態の変速制御よりも少ない変速形態である。
【0054】
図6に示す出力軸トルク算出部76は、前記自動変速機20の出力軸22のトルクTOUTを算出する。例えば、予め定められた関係から、前記エンジン24のトルクTE、前記第1電動機MG1のトルクTMG1、前記第2電動機MG2のトルクTMG2、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段の変速比γ等に基づいて、前記自動変速機20の出力トルクに相当する前記出力軸22のトルクTOUTを算出する。前記出力軸22のトルクTOUTは、前記駆動装置10の目標出力軸トルク(出力軸トルク目標値)に対応するものであるため、上記出力軸トルク算出部76は、斯かるトルク目標値を前記自動変速機20の出力軸22のトルクとして検出(算出)するものであってもよい。この出力軸トルク目標値は、予め定められた関係から前記アクセル開度センサ52により検出されるアクセル開度ACC及び前記出力回転速度センサ60により検出される出力回転速度(車速V)等に基づいて算出される。前記出力軸22に対応してトルクセンサが設けられた構成においては、前記自動変速機20の出力軸22のトルクTOUTがそのトルクセンサにより検出されるものであってもよい。
【0055】
前記変速制御部70は、前記自動変速機20のパワーオンダウン変速すなわち図示しないアクセルペダルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速において、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択的に実行する。具体的には、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択し、選択された形態の変速制御により前記自動変速機20のパワーオンダウン変速を実行する。
【0056】
前記変速制御部70は、好適には、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御すなわち対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo未満である場合には、前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御すなわち駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。この選択は、好適には、対象となる変速の判定乃至出力時点(好適には変速出力時点)における出力軸トルクTOUTに関して行われる。ここで、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTは、その自動変速機20の入力軸トルク(入力回転部材としての伝達部材18のトルク)TINに対応して一義的に定まるものであるため、上記選択の基準となる閾値Tboは、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに対応して予め定められたものであってもよい。すなわち、前記変速制御部70は、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択するものであってもよい。
【0057】
前記変速制御部70は、好適には、車速V、アクセル開度ACC、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段(変速開始前の変速段)の少なくとも1つに基づいて前記選択の基準となる閾値Tboを変更する。図7は、車速Vと前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図7に示す例では、車速Vが大きいほど(高車速であるほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、車速Vが大きいほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。車速Vが比較的大きい(高車速である)場合には、車速Vが比較的小さい(低車速である)場合に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれる(トルク抜けがショックにまぎれる)ことで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、車速が高いほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0058】
図8は、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtと前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図8に示す例では、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど(例えば、アクセル踏込速度が速いほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが比較的大きい(アクセル踏込速度が速い)場合には、斯かる時間変化率dACC/dtが比較的小さい(アクセル踏込速度が遅い)場合に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれることで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0059】
図9は、前記自動変速機20において成立させられている変速段(変速開始前の変速段)と前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図9に示す例では、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど(変速比γが大きな変速段ほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段である場合(変速比γが比較的大きい)には、高速段である場合(変速比γが比較的小さい)に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれることで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0060】
ここで、前述した図7〜図9に示す関係は、相互に複合的に適用され得る。すなわち、車速Vが大きいほど前記閾値Tboが大きくなり、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記閾値Tboが大きくなり、且つ前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記閾値Tboが大きくなる関係が予め定められており、その関係に基づいて前記変速制御部70による前記閾値Tboの変更(設定)が行われるものであってもよい。
【0061】
前記変速制御部70は、好適には、前記パワーオンダウン変速が多重変速である場合において、先の変速(多重変速における複数の変速のうち変速判定、出力が先である方の変速)において前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御が選択された場合には、後の変速(多重変速における複数の変速のうち変速判定、出力が後である方の変速)においても同様に前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御を選択する。すなわち、先の変速において駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御が選択された場合には、後の変速においても同じ形態の変速制御を選択する。ここで、多重変速とは、前記自動変速機20において第1の変速(先の変速)が進行している間に第2の変速(後の変速)が判定、出力される場合を言うものであり、例えば、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段へのダウン変速中に第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速が判定され、それらの変速が連続的に行われる場合が相当する。
【0062】
前記変速制御部70は、好適には、前記パワーオンダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御が選択された場合には、後の変速において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択する。例えば、上記後の変速の判定乃至出力時点において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、上記後の変速に対応して、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御すなわち対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。上記後の変速の判定乃至出力時点において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo未満である場合には、上記後の変速に対応して、前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御すなわち駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。多重変速に関して、例えば、先の変速のイナーシャ相中に後の変速出力ができない変速パターンの場合には、先の変速終了時に後の変速を出力するため、その時点の出力軸トルクTOUTに基づいて変速制御の形態を選択すれば足りるのである。
【0063】
前記変速制御部70は、好適には、前記第2形態変速制御部74により第2の形態で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、前記一方向クラッチF1のように油圧制御を必要とせず係合させられる係合装置である場合には、前記第2形態変速制御部74による回転速度同期制御の終了時に入力回転部材(伝達部材18)の回転速度を同期回転速度よりも一旦小さくする制御を行う。例えば、目標入力回転速度NIN*を同期回転速度Nspよりも小さい値とする制御を行う。一方、前記パワーオンダウン変速における係合側係合装置が、前記クラッチC及びブレーキBのように油圧制御を必要とする(係合圧の上昇により係合させられる)係合装置である場合には、前記第2形態変速制御部74による回転速度同期制御の終了時に入力回転部材(伝達部材18)の回転速度を同期回転速度よりも一旦大きくする制御を行う。例えば、目標入力回転速度NIN*を同期回転速度Nspよりも大きい値とする制御を行う。
【0064】
図10は、前記電子制御装置50による本実施例の変速制御について説明するタイムチャートであり、本実施例の制御を行った場合における各関係値の経時変化を実線で、本実施例の制御を行わない従来の変速制御における各関係値の経時変化を破線でそれぞれ示している。更に、変速制御の形態を選択する上での基準となる前記閾値Tboを細い一点鎖線で示している。この図10に示す制御では、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに基づいて変速制御の形態を選択しており、閾値Tboは入力軸トルクTINに対応して定められている。
【0065】
先ず、時点t1において、図示しないアクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度ACCの上昇が開始される。このアクセルペダルの踏込操作に相前後して、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が判定される。次に、時点t2において、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が出力される。この時点t2において、前記自動変速機20の入力軸トルクTINが一点鎖線で示す閾値Tbo以上であるか否かが判定される。図10に示す例では、時点t2における前記自動変速機20の入力軸トルクTINが閾値Tbo未満であるため、第2の形態の変速制御すなわち駆動力源(第2電動機MG2)のトルクを変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御(回転速度同期制御)が選択される。すなわち、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速における解放側係合装置である第2クラッチC2の油圧が時点t2から急減させられ、速やかに零まで低下させられた後、時点t3から前記第2電動機MG2等のトルク制御により前記入力軸トルクTINが漸増させられ、それにより第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が進行させられる。ここで、本実施例の制御においては、時点t2から前記第2クラッチC2の油圧が急減させられた後、所定時間は駆動力源のトルク(入力軸トルクTIN)を増加させることなく、時点t2からt3まで一定に維持している。これは、解放側係合装置の解放時に、駆動系にトルク振動が発生してドライバビリティが低下するのを抑制するためであり、時点t3から前記第2電動機MG2のトルク増加が開始されている。斯かる本実施例の制御によれば、破線で示す従来の制御に比べて変速におけるイナーシャ相の開始が早くなり、変速応答性が向上していることがわかる。前記入力軸トルクTINが閾値Tbo未満の比較的低い状態では、ドレン油圧(第2クラッチC2の油圧)を急勾配で抜いても大きな前後加速度が発生し難いため、変速ショックは軽微なものとなる。
【0066】
図10に示す例では、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速中すなわち時点t2から時点t3までの間に、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速が判定されている。このため、時点t4において、前記自動変速機20における第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速が出力される。この時点t4において、前記自動変速機20の入力軸トルクTINが一点鎖線で示す閾値Tbo以上であるが、多重変速に係る先の変速である第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速において第2の形態の変速制御が行われているため、本実施例の制御では、多重変速に係る後の変速である第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速においても斯かる第2の形態の変速制御(回転速度同期制御)が継続して行われる。すなわち、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速における解放側係合装置である第1ブレーキB1の油圧が時点t4から急減させられ、速やかに零まで低下させられる。斯かる油圧制御と併行して、前記第2電動機MG2等のトルク制御により変速が進行させられる。ここで、前記自動変速機20は先の変速制御において既にニュートラル状態とされているため、時点t4から前記第1ブレーキB1の油圧を急勾配で抜いても変速ショックは発生し難い。
【0067】
図10においては、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速における、前記自動変速機20の入力回転速度NIN(=第2電動機MG2の回転速度)の変速後の同期回転速度をNspで示すと共に、その変速における係合側係合装置が前記クラッチC及びブレーキBのように油圧制御を必要とする係合装置である場合における前記第2電動機MG2の目標回転速度をNta1で、係合側係合装置が前記一方向クラッチF1のように油圧制御を必要としない係合装置である場合における前記第2電動機MG2の目標回転速度をNta2でそれぞれ示している。変速における係合側係合装置が油圧制御を必要とするクラッチC乃至ブレーキBである場合には、前記第2電動機MG2の目標回転速度を変速後の同期回転速度Nspよりも大きな値であるNta1に設定することで、変速終了時に係合側係合装置が係合させられる際に引き込み側の駆動力が発生するのを抑制できる。換言すれば、パワーオン変速であるため、常に蹴り出し方向のトルクが出るようにしてドライバビリティの悪化を抑制する。一方、変速における係合側係合装置が油圧制御を必要としない前記一方向クラッチF1である場合には、逆に前記第2電動機MG2の目標回転速度を同期回転速度Nspよりも低い値であるNta2に設定することで、同期ショックが発生するのを抑制できる。ここで、図2の係合作動表に示すように、前記自動変速機20における第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速における係合側係合装置は前記一方向クラッチF1である場合が考えられる。その場合、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速終了時における前記第2電動機MG2の目標回転速度は上記Nta2に設定されるが、図10においては、便宜上時点t5において第1速ギヤ段の同期回転速度Nspが達成された例を示している。
【0068】
図11は、前記電子制御装置50による前記自動変速機20の変速制御の要部を説明する図であり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0069】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、パワーオンダウンシフトすなわちアクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速が行われるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、S7において、実行中フラグF1が0(F1=0)とされた後、本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、実行される変速が単一変速であるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合、すなわち、多重変速が実行されると判断される場合(実行される変速が多重変速に係るものであると判断される場合)には、S5以下の処理が実行されるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが算出され、その出力軸トルクTOUTが予め定められた閾値Tbo以上であるか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、クラッチ係合圧制御(TP制御)すなわち第1の形態である解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。S5においては、実行中フラグF1が1であるか否かが判断される。このS5の判断が否定される場合には、S3以下の処理が実行されるが、S5の判断が肯定される場合には、S6において、解放側係合装置の油圧が即ドレーンされ、回転速度同期制御すなわち第2の形態である駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御が実行されると共に、実行中フラグF1が1(F1=1)とされた後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1〜S7が前記変速制御部70の動作に、S4が前記第1形態変速制御部72の動作に、S6が前記第2形態変速制御部74の動作に、S3が前記出力軸トルク算出部76の動作にそれぞれ対応する。
【0070】
このように、本実施例によれば、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速において、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。すなわち、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機20の電子制御装置50を提供することができる。
【0071】
前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置としてのクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速であることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0072】
前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが前記閾値Tbo未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、前記閾値Tboは、車速V、アクセル開度ACC、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものであるため、出力軸トルクTOUTが比較的大きい場合には前記係合装置の係合圧制御を主体とする変速制御を行うことで駆動力の抜けを抑制でき、出力軸トルクTOUTが比較的小さい場合には前記駆動力源の回転速度制御を主体とする変速制御を行うことで速やかに変速を行うことができる。更に、車速V、アクセル開度ACC、及び変速段等に基づいて閾値を変更することで、変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを更に適切に選択することができる。
【0073】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものであるため、解放側の係合装置の係合圧を抜いている場合に、速やかに目標変速段を成立させることで変速応答性を更に向上させることができる。
【0074】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて選択するものであるため、多重変速における後の変速に関して、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0076】
20:車両用自動変速機、22:出力軸、24:エンジン(駆動力源)、50:電子制御装置、B1:第1ブレーキ(係合装置)、B2:第2ブレーキ(係合装置)、C1:第1クラッチ(係合装置)、C2:第2クラッチ(係合装置)、F1:一方向クラッチ(係合装置)、MG2:第2電動機(駆動力源)
【技術分野】
【0001】
本発明は、有段式の車両用自動変速機の制御装置に関し、特に、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
予め定められた変速線図から車両の走行状態に基づいて複数の変速段を選択的に成立させる有段式の自動変速機が各種車両に広く用いられている。斯かる自動変速機において、アクセルペダルの踏込量に応じて複数タイプの変速を選択的に実行する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機の変速制御装置がそれである。この技術によれば、アクセルペダルの踏込速度が比較的速い場合には、変速速度重視の変速と判断して係合装置の油圧を比較的急に抜いて素早い変速を行う一方、アクセルペダルの踏込速度が比較的遅い場合には、ショック重視の変速と判断して係合装置の油圧勾配を緩やかにする制御を行うことで、運転者の意思に沿った変速フィーリングを実現することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−295663号公報
【特許文献2】特開2010−216589号公報
【特許文献3】特開平08−296732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、例えば変速速度重視の変速が行われる場合において、その変速で解放される解放側係合装置を速やかに解放するために出力軸トルクの抜けが大きくなるという不具合があった。とりわけ、比較的大きな駆動力で走行している場合には、斯かる出力軸トルク抜けがドライバビリティの低下につながるおそれがあった。このような課題は、自動変速機の変速制御における変速応答性とドライバビリティの両立を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、駆動力源に連結され、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる有段式の車両用自動変速機の制御装置であって、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。すなわち、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速である。このようにすれば、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0009】
前記第1発明乃至前記第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記自動変速機の出力軸トルクが規定の閾値以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機の出力軸トルクが前記閾値未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、前記閾値は、車速、アクセル開度、及び前記自動変速機において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものである。このようにすれば、出力軸トルクが比較的大きい場合には前記係合装置の係合圧制御を主体とする変速制御を行うことで駆動力の抜けを抑制でき、出力軸トルクが比較的小さい場合には前記駆動力源の回転速度制御を主体とする変速制御を行うことで速やかに変速を行うことができる。更に、車速、アクセル開度、及び変速段等に基づいて閾値を変更することで、変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを更に適切に選択することができる。
【0010】
前記第1発明、前記第2発明、前記第1発明に従属する前記第3発明、乃至前記第2発明に従属する前記第3発明に従属する本第4発明の要旨とするところは、前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものである。このようにすれば、解放側の係合装置の係合圧を抜いている場合に、速やかに目標変速段を成立させることで変速応答性を更に向上させることができる。
【0011】
前記第1発明、前記第2発明、前記第1発明に従属する前記第3発明、前記第2発明に従属する前記第3発明、前記第1発明に従属する前記第4発明、前記第2発明に従属する前記第4発明、乃至前記第3発明に従属する前記第4発明に従属する本第5発明の要旨とするところは、前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び前記回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて選択するものである。このようにすれば、多重変速における後の変速に関して、出力軸トルクに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機を備えた車両の駆動装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。
【図4】図1の駆動装置の駆動を制御するためにその駆動装置に備えられた制御系統の要部を説明する図である。
【図5】図1の自動変速機の変速制御を行うための変速マップ及び駆動力源を切り換える制御を行うための駆動力源マップを併せて説明する図である。
【図6】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、車速と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図8】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、アクセル開度時間変化率と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図9】図4の電子制御装置による本実施例の制御に用いられる、自動変速機の変速段と選択の基準となる閾値との対応関係の一例を示す図である。
【図10】図4の電子制御装置による本実施例の変速制御について説明するタイムチャートであり、従来の技術による制御を併せて示している。
【図11】図4の電子制御装置による本実施例の変速制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、例えば、前記駆動力源として機能する電動機を備えた電気式差動部と、その電気式差動部に連結された前記自動変速機とを、備えたハイブリッド車両におけるその自動変速機の変速制御に好適に適用される。前記電気式差動部は、好適には、第1回転要素、入力回転部材であってエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたものである。この第2電動機は、好適には、前記電気式差動部の出力回転部材に連結され、その出力回転部材が前記自動変速機の入力軸に連結されている。前記回転同期変速において、好適には、前記第2電動機のトルクを制御することにより斯かる形態の変速制御が実現される。
【0014】
前記自動変速機の出力軸トルクが、その自動変速機の入力軸トルクに基づいて一義的に定まる構成においては、入力軸トルクが前記変速制御の形態の選択の基準とされるものであってもよい。すなわち、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の入力軸トルクに基づいて選択するものであってもよい。
【0015】
前記回転同期変速は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも速やかに低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。前記回転同期変速は、好適には、変速出力時にその変速で解放される前記係合装置の係合トルクを零まで低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。前記回転同期変速は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合トルクを可及的速やかに零まで低下させると共に前記駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。
【0016】
好適には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、変速開始から変速終了まで解放側係合装置及び係合側係合装置の何れかが係合(乃至半係合)された状態で変速が進行する変速形態であり、前記回転同期変速は、変速開始から変速終了までの間に解放側係合装置及び係合側係合装置の両方が開放される区間が存在する変速形態である。好適には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクで変速に係る回転速度を引き上げる変速形態であり、前記回転同期変速は、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクにより変速に係る回転速度を引き上げる割合(回転速度の上昇量全体に対する割合)が前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも少ない変速形態である。
【0017】
好適には、前記回転同期変速においては、解放側係合装置すなわちその変速において解放させられる係合装置の油圧(係合圧)が所定値(好適には零)まで速やかに低下させられ、駆動力源のトルクが一定時間維持された後、その駆動力源のトルクを変化させることで前記変速に係る回転速度の制御が行われる。
【0018】
好適には、前記回転同期変速で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、油圧式摩擦係合装置のようにその係合のために油圧制御を必要とする係合装置である場合には、斯かる変速の終了時に前記自動変速機の入力回転速度を同期回転速度よりも一旦大きくする制御を行う。すなわち、好適には、目標入力回転速度が同期回転速度よりも大きい値に設定される。
【0019】
好適には、前記回転同期変速で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、一方向クラッチのように油圧制御を必要とせず係合させられる係合装置である場合には、斯かる変速の終了時に前記自動変速機の入力回転速度を同期回転速度よりも一旦小さくする制御を行う。すなわち、好適には、目標入力回転速度が同期回転速度よりも小さい値に設定される。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機20を備えた車両の駆動装置10を説明する骨子図である。この図1に示す駆動装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、その入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された差動部16と、その差動部16と1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速機20と、その自動変速機20に連結された出力軸22とを、直列に備えている。
【0022】
上記駆動装置10は、上記入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパを介して直接的に連結された走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン24を備え、そのエンジン24と上記1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に設けられて、そのエンジン24により発生させられた動力を差動歯車装置32等を介して上記1対の駆動輪34へと伝達する動力伝達装置である。本実施例の駆動装置10において、上記エンジン24と差動部16とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。上記駆動装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0023】
前記差動部16は、第1電動機MG1と、前記入力軸14に入力されて前記エンジン24の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン24の出力を第1電動機MG1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配装置26と、前記伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機MG2とを、備えている。本実施例の駆動装置10に備えられた第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも発動機及び発電機として機能する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、上記第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(発動機)機能を少なくとも備える。斯かる構成により、前記差動部16は、上記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を介して運転状態が制御されることにより、入力回転速度(入力軸14の回転速度)と出力回転速度(伝達部材18の回転速度)の差動状態が制御される電気式差動部として機能する。
【0024】
前記動力分配装置26は、シングルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。この遊星歯車装置は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリアCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えており、キャリアCA0は前記入力軸14すなわち前記エンジン24に連結され、サンギヤS0は前記第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0は前記伝達部材18に連結されている。すなわち、差動機構としての前記動力分配装置26においては、サンギヤS0が第1回転要素に、キャリアCA0が第2回転要素に、リングギヤR0が第3回転要素にそれぞれ対応する。前記動力分配装置26において、キャリアC0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
【0025】
上記のように構成された動力分配装置26では、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン24の出力が前記第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されると共に、分配された前記エンジン24の出力の一部で前記第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギにより蓄電が行われたり、前記第2電動機MG2が回転駆動される。従って、前記差動部16(動力分配装置26)は電気的な差動装置として機能させられて例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、前記エンジン24の所定回転に拘わらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記差動部16はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、前記動力分配装置26(差動部16)に動力伝達可能に連結された前記第1電動機MG1、第2電動機MG2、及びエンジン24の運転状態が制御されることにより、前記入力軸14の回転速度と差動部16の出力軸として機能する前記伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。
【0026】
前記駆動装置10においては、前記エンジン24を停止させると共に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方(好適には、第2電動機MG2)を走行用の駆動源とするEV走行状態(EVモード)、前記エンジン24を駆動させて走行用の駆動源とすると共に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を空転させるか或いは回生させるエンジン走行状態(エンジン走行モード)、前記エンジン24及び第2電動機MG2を走行用の駆動源とすると共に前記第1電動機MG1により必要に応じて回生を行うハイブリッド走行状態(ハイブリッドモード)等が選択的に成立させられる。
【0027】
前記自動変速機20は、前記エンジン24と前記1対の駆動輪34との間の動力伝達経路に、前記動力分配装置26と直列に設けられたものであり、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる遊星歯車式の多段変速機である。前記自動変速機20は、シングルピニオン型の遊星歯車装置28、30を主体として構成されている。この遊星歯車装置28、30は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
【0028】
前記自動変速機20は、上記係合装置として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)を備えている。これらクラッチC及びブレーキBは、何れも従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。上記クラッチC及びブレーキBには、後述する電子制御装置50からの油圧指令値に応じて油圧制御回路40(図4等を参照)により調圧された油圧がそれぞれ供給されるようになっており、その油圧に応じて各クラッチC及びブレーキBの係合状態が制御されるように構成されている。
【0029】
前記自動変速機20では、上記サンギヤS1が上記ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。上記キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっていると共に、係合装置である一方向クラッチF1を介してそのケース12に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。上記サンギヤS2が第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。一体的に連結された上記キャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。上記リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に前記出力軸22に連結されている。
【0030】
図2は、前記自動変速機20の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。この図2に示すように、前記自動変速機20においては、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.20」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。ここで、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速時には、前記一方向クラッチF1により前記キャリアCA1及びリングギヤR2の前記ケース12に対する相対回転が阻止されるため、前記第2ブレーキB2は係合させられなくともよい。前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.72」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.00」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.67」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。前記第1クラッチC1及びブレーキB2の係合により変速比γRが例えば「3.20」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0031】
以上のように構成された本実施例の駆動装置10において、無段変速機として機能する前記差動部16と、その差動部16に連結される前記自動変速機20とで全体として無段変速機が構成される。前記差動部16の変速比を一定となるように制御することにより、その差動部16と自動変速機20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。具体的には、前記差動部16が無段変速機として機能し、且つその差動部16に直列の前記自動変速機20が有段変速機として機能することにより、その自動変速機20の少なくとも1つの変速段Mに対してその自動変速機20に入力される回転速度(以下、自動変速機20の入力回転速度)すなわち前記伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。従って、前記駆動装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、前記駆動装置10において無段変速機が構成される。この駆動装置10の総合変速比γTは、前記差動部16の変速比γ0と自動変速機20の変速比γとに基づいて形成される前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0032】
例えば、無段変速機としての前記差動部16の作動により、図2の係合作動表に示される前記自動変速機20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対して、前記伝達部材18の回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。前記差動部16の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、前記駆動装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。例えば、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように前記自動変速機20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。前記自動変速機20の第3速ギヤ段において前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0033】
図3は、前記差動部16と自動変速機20とから構成される駆動装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であって、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン24の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度N18を示している。
【0034】
前記差動部16を構成する動力分配装置26の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素に対応するサンギヤS0、第2回転要素に対応するキャリアCA0、第3回転要素に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記動力配分装置26を構成する遊星歯車装置のギヤ比に応じて定められている。前記自動変速機20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、Y4がサンギヤS1の相対回転速度を、Y5が相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の相対回転速度を、Y6が相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の相対回転速度を、Y7がサンギヤS2の相対回転速度をそれぞれ表し、それら縦線Y4〜Y7の間隔は前記遊星歯車装置28、30のギヤ比に応じてそれぞれ定められている。
【0035】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の駆動装置10は、前記動力分配装置26(差動部16)において、その動力分配装置26の第2回転要素(キャリアCA0)が前記入力軸14すなわちエンジン24に連結され、第1回転要素(サンギヤS0)が前記第1電動機MG1に連結され、第3回転要素(リングギヤR0)が前記伝達部材18及び第2電動機MG2に連結されて、前記入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速機20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により前記サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0036】
例えば、前記差動部16においては、前記動力分配装置26の第1回転要素乃至第3回転要素が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される前記リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される前記キャリアCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される前記サンギヤS0の回転速度すなわち前記第1電動機MG1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0037】
前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、そのエンジン回転速度NEと同じ回転で前記リングギヤR0の回転速度すなわち前記伝達部材18が回転させられる。或いは、前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0038】
前記自動変速機20において、第4回転要素である前記サンギヤS1は前記第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結され、第5回転要素である相互に連結された前記キャリアCA1及びリングギヤR2は前記第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に前記第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)を介して前記ケース12に選択的に連結され、第6回転要素である相互に連結された前記リングギヤR1及びキャリアCA2は前記出力軸22に連結され、第7回転要素である前記サンギヤS2は前記第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されている。
【0039】
前記自動変速機20では、図3に示すように、前記第1クラッチC1と第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)とが係合させられることにより、第7回転要素の回転速度を示す縦線Y7と横線XGとの交点と第5回転要素の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)における前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、前記第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)における前記出力軸22の回転速度が示される。
【0040】
図4は、前記駆動装置10の駆動を制御するためにその駆動装置10に備えられた制御系統の要部を説明する図である。この図4に示す電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェイス等を含んで構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する所謂マイクロコンピュータであり、前記エンジン24の駆動制御や、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御をはじめとする前記駆動装置10の駆動に係る各種制御を実行する。この電子制御装置50は、前記エンジン24の出力制御用、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動制御用、前記自動変速機20の変速制御用といったように、必要に応じて各制御毎に個別の制御装置として構成される。
【0041】
図4に示すように、上記電子制御装置50には、前記駆動装置10の各部に設けられたセンサやスイッチ等から各種信号が供給されるように構成されている。すなわち、アクセル開度センサ52により運転者の出力要求量に対応する図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ54により前記エンジン24の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、MG1回転速度センサ56により前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、MG2回転速度センサ58により前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力回転速度センサ60により車速Vに対応する前記出力軸22の回転速度NOUTを表す信号、車輪速センサ62により前記駆動装置10における各車輪それぞれの速度NWを表す信号、及びバッテリSOCセンサ64によりバッテリ46の充電容量(充電状態)SOCを表す信号等が、それぞれ上記電子制御装置50に供給される。
【0042】
前記電子制御装置50からは、前記駆動装置10の各部に作動指令が出力されるように構成されている。すなわち、前記エンジン24の出力を制御するエンジン出力制御指令として、燃料噴射装置による吸気配管等への燃料供給量を制御する燃料噴射量信号、点火装置による前記エンジン24の点火時期(点火タイミング)を指令する点火信号、及び電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するためにスロットルアクチュエータへ供給される電子スロットル弁駆動信号等が、そのエンジン24の出力を制御するエンジン出力制御装置42へ出力される。
【0043】
前記電子制御装置50からは、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を指令する指令信号がインバータ44へ出力され、そのインバータ44を介して前記バッテリ46からその指令信号に応じた電気エネルギが前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に供給されてそれら第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力(トルク)が制御される。前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により発電された電気エネルギが上記インバータ44を介して前記バッテリ46に供給され、そのバッテリ46に蓄積されるようになっている。
【0044】
前記電子制御装置50からは、前記油圧制御回路40に対して、前記自動変速機20の変速制御を行うための油圧指令が出力される。具体的には、前記電子制御装置50により前記自動変速機20の変速が判定された場合、その変速が行われるように、前記油圧制御回路40に備えられたリニアソレノイド弁等の電子制御弁の作動(出力油圧)を制御するための油圧指令(油圧指令値)がその油圧制御回路40に出力される。これにより、前記油圧制御回路40から前記自動変速機20における各クラッチC及びブレーキBそれぞれに対応する油圧アクチュエータへ供給される油圧が制御され、図2に示す係合作動表のような組み合わせでそれらクラッチC及びブレーキBが選択的に係合させられることで、前記自動変速機20の変速制御が行われる。
【0045】
図5は、前記自動変速機20の変速制御を行うための変速マップ及び前記駆動装置10の駆動力源を切り換える制御を行うための駆動力源マップを併せて説明する図である。前記駆動装置10においては、予め定められた図5に示すような変速マップ及び駆動力源マップが記憶装置48に記憶されている。この図5に示す変速マップにおいては、低速段(高変速比ギヤ段)から高速段(低変速比ギヤ段)への変速すなわちアップ変速を判定するための変速線(アップ変速線)を実線で、高速段から低速段への変速すなわちダウン変速を判定するための変速線(ダウン変速線)を一点鎖線でそれぞれ示している。この図5に示す変速マップは、基本的に等パワー変速に対応するものである。図5に示す駆動力源マップにおいては、太線Aで示す切換線よりも低出力トルク側、低車速側がモータ走行領域とされ、その切換線よりも高出力トルク側、高車速側がエンジン走行領域とされている。このモータ走行領域において、前記電子制御装置50は、前記エンジン24を停止させると共に、例えば専ら前記第2電動機MG2を走行用の駆動力源とするモータ走行を実行する。エンジン走行領域において、前記電子制御装置50は、前記エンジン24を駆動させ、専らそのエンジン24を走行用の駆動力源とするエンジン走行、或いはそのエンジン24及び第2電動機MG2を走行用の駆動力源として併用するハイブリッド走行を実行する。
【0046】
図6は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。本実施例においては、図6に示す各種制御機能が前記電子制御装置50に一元的に備えられた態様について説明するが、それら制御機能が例えばエンジン制御用の電子制御装置、電動機制御用の電子制御装置、自動変速機制御用の電子制御装置等に分散的に備えられ、それら複数の電子制御装置が相互に通信を行うことにより以下に詳述する各種機能を奏するものであっても構わない。
【0047】
図6に示す変速制御部70は、前記駆動装置10における変速制御を行う。すなわち、電気的無段変速機としての前記差動部16及び有段変速機としての前記自動変速機20による変速を制御する。ここで、上記変速制御部70は、好適には、前記差動部16の変速制御を行う無段変速制御部と、前記自動変速機20の変速制御を行う有段変速制御部とに分けて構成されるが、本実施例においてはそれらを区別しないものとして説明する。
【0048】
上記変速制御部70は、電気的無段変速機としての前記差動部16に関して、予め定められた関係から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に応じて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御することにより前記差動部16の変速比を無段階に変化させる無段変速制御を行う。上記変速制御部70は、有段変速機としての前記自動変速機20に関して、前述した図5に示すような変速マップ等から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に基づいて、前記自動変速機20において成立させられる変速段(ギヤ段)を判定し、その判定結果に応じて前記油圧制御回路40から前記クラッチC及びブレーキBにそれぞれ供給される油圧を制御することで、前記自動変速機20において例えば前記第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかの変速段を選択的に成立させる有段変速制御を行う。
【0049】
図6に示すように、前記変速制御部70は、第1形態変速制御部72及び第2形態制御部74を備えている。これら第1形態変速制御部72及び第2形態制御部74により、前記自動変速機20における有段変速制御に関して、それぞれ形態の異なる少なくとも2種類の変速制御を選択的に実行する。例えば、第1の形態として、上記第1形態変速制御部72により解放側係合装置の解放制御及び係合側係合装置の係合制御を主体とする変速制御を実行すると共に、第2の形態として、上記第2形態変速制御部74により駆動力源トルクによる回転同期制御を主体とする変速制御を実行する。以下、これらの変速制御について詳述する。
【0050】
上記第1形態変速制御部72は、対象となる変速における解放側係合装置すなわちその変速で解放される係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を行う。ここで、対象となる変速で解放される係合装置とは、変速後の変速段を成立させるために解放される(係合から解放へ切り換えられる)係合装置を言うものであり、例えば第4速ギヤ段から第3速ギヤ段へのダウン変速における第1ブレーキB1、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段へのダウン変速における第2クラッチC2、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速における第1ブレーキB1がそれぞれ相当する。図2に示すように、前記自動変速機20における変速においては、解放側係合装置の解放及び係合側係合装置の係合による所謂クラッチ・トゥ・クラッチ変速が行われる。上記第1形態変速制御部72は、斯かるクラッチ・トゥ・クラッチ変速において、解放側係合装置の係合圧を速やかに例えば零まで低下させるのではなく、所定の時間をかけて漸減(比較的緩やかな勾配で低下)させることで変速を進行させる。換言すれば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を制御することにより前記自動変速機20の変速に係る要素の回転速度を制御する形態の変速制御を行う。この第1の形態の変速制御は、以下に詳述する第2の形態の変速制御に比べて変速に要する時間が長いが、変速ショックが生じ難い傾向にある。従って、上記第1の形態の変速制御は、ショック重視(変速ショック抑制重視)の変速制御であると言える。すなわち、本実施例においては、上記第1の形態の変速制御がその変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させるクラッチ・トゥ・クラッチ変速に相当する。
【0051】
前記第2形態変速制御部74は、駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を行う。好適には、駆動力源としての前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を制御することにより斯かる変速制御を行う。例えば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を速やかに(少なくとも第1の形態よりも速く)零まで低下(ドレーン)或いは規定の低圧状態(低圧待機)とした後、前記第2電動機MG2のトルク制御により前記伝達部材18(自動変速機20の入力回転部材)の回転速度を制御することで変速を進行させる回転速度同期制御すなわち回転同期変速を行う。換言すれば、対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を規定値(例えば零)まで低下させた後、駆動力源としての前記第2電動機MG2等のトルク制御により前記自動変速機20の変速に係る要素の回転速度を制御する形態の変速制御を行う。この第2の形態の変速制御は、上述した第1の形態の変速制御に比べて変速に要する時間が短いが、駆動状態から一旦駆動トルクを抜くことになるため変速ショックが生じ易い傾向にある。従って、上記第2の形態の変速制御は、変速速度重視(変速応答性重視)の変速制御であると言える。すなわち、本実施例においては、上記第2の形態の変速制御がその変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速(第1の形態の変速)よりも急速に減少させる回転同期変速に相当する。
【0052】
換言すれば、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記第1の形態の変速制御よりも速やかに低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。好適には、変速出力時にその変速で解放される前記係合装置の係合トルクを零まで低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。好適には、その変速で解放される前記係合装置の係合トルクを可及的速やかに零まで低下させると共に前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる変速形態である。
【0053】
換言すれば、前記第1形態変速制御部72により実行される第1の形態の変速制御は、好適には、変速開始から変速終了まで解放側係合装置及び係合側係合装置の何れかが係合(乃至半係合)された状態で変速が進行する変速形態であり、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、変速開始から変速終了までの間に解放側係合装置及び係合側係合装置の両方が開放される区間が存在する変速形態である。前記第1形態変速制御部72により実行される第1の形態の変速制御は、好適には、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクで変速に係る回転速度を引き上げる変速形態であり、前記第2形態変速制御部74により実行される第2の形態の変速制御は、好適には、その変速で係合される前記係合装置の係合トルクにより変速に係る回転速度を引き上げる割合(回転速度の上昇量全体に対する割合)が前記第1の形態の変速制御よりも少ない変速形態である。
【0054】
図6に示す出力軸トルク算出部76は、前記自動変速機20の出力軸22のトルクTOUTを算出する。例えば、予め定められた関係から、前記エンジン24のトルクTE、前記第1電動機MG1のトルクTMG1、前記第2電動機MG2のトルクTMG2、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段の変速比γ等に基づいて、前記自動変速機20の出力トルクに相当する前記出力軸22のトルクTOUTを算出する。前記出力軸22のトルクTOUTは、前記駆動装置10の目標出力軸トルク(出力軸トルク目標値)に対応するものであるため、上記出力軸トルク算出部76は、斯かるトルク目標値を前記自動変速機20の出力軸22のトルクとして検出(算出)するものであってもよい。この出力軸トルク目標値は、予め定められた関係から前記アクセル開度センサ52により検出されるアクセル開度ACC及び前記出力回転速度センサ60により検出される出力回転速度(車速V)等に基づいて算出される。前記出力軸22に対応してトルクセンサが設けられた構成においては、前記自動変速機20の出力軸22のトルクTOUTがそのトルクセンサにより検出されるものであってもよい。
【0055】
前記変速制御部70は、前記自動変速機20のパワーオンダウン変速すなわち図示しないアクセルペダルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速において、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択的に実行する。具体的には、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択し、選択された形態の変速制御により前記自動変速機20のパワーオンダウン変速を実行する。
【0056】
前記変速制御部70は、好適には、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御すなわち対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo未満である場合には、前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御すなわち駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。この選択は、好適には、対象となる変速の判定乃至出力時点(好適には変速出力時点)における出力軸トルクTOUTに関して行われる。ここで、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTは、その自動変速機20の入力軸トルク(入力回転部材としての伝達部材18のトルク)TINに対応して一義的に定まるものであるため、上記選択の基準となる閾値Tboは、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに対応して予め定められたものであってもよい。すなわち、前記変速制御部70は、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択するものであってもよい。
【0057】
前記変速制御部70は、好適には、車速V、アクセル開度ACC、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段(変速開始前の変速段)の少なくとも1つに基づいて前記選択の基準となる閾値Tboを変更する。図7は、車速Vと前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図7に示す例では、車速Vが大きいほど(高車速であるほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、車速Vが大きいほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。車速Vが比較的大きい(高車速である)場合には、車速Vが比較的小さい(低車速である)場合に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれる(トルク抜けがショックにまぎれる)ことで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、車速が高いほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0058】
図8は、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtと前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図8に示す例では、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど(例えば、アクセル踏込速度が速いほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが比較的大きい(アクセル踏込速度が速い)場合には、斯かる時間変化率dACC/dtが比較的小さい(アクセル踏込速度が遅い)場合に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれることで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0059】
図9は、前記自動変速機20において成立させられている変速段(変速開始前の変速段)と前記選択の基準となる閾値Tboとの対応関係の一例を示す図である。この図9に示す例では、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど(変速比γが大きな変速段ほど)前記選択の基準となる閾値Tboが大きくなるように定められている。すなわち、前記変速制御部70は、好適には、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記選択の基準となる閾値Tboを大きな値とする。前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段である場合(変速比γが比較的大きい)には、高速段である場合(変速比γが比較的小さい)に比べて変速前後の駆動力変化量が大きく、元々大きいショックに埋もれることで変速における運転者のショック感度は低くなる。このため、前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記第2の形態の変速制御が行われる領域を拡大することで、変速に係る運転者のショックを抑制しつつ変速応答性を重視する変速制御を可及的に多く実行することができる。
【0060】
ここで、前述した図7〜図9に示す関係は、相互に複合的に適用され得る。すなわち、車速Vが大きいほど前記閾値Tboが大きくなり、アクセル開度ACCの時間変化率dACC/dtが大きいほど前記閾値Tboが大きくなり、且つ前記自動変速機20において成立させられている変速段が低速段であるほど前記閾値Tboが大きくなる関係が予め定められており、その関係に基づいて前記変速制御部70による前記閾値Tboの変更(設定)が行われるものであってもよい。
【0061】
前記変速制御部70は、好適には、前記パワーオンダウン変速が多重変速である場合において、先の変速(多重変速における複数の変速のうち変速判定、出力が先である方の変速)において前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御が選択された場合には、後の変速(多重変速における複数の変速のうち変速判定、出力が後である方の変速)においても同様に前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御を選択する。すなわち、先の変速において駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御が選択された場合には、後の変速においても同じ形態の変速制御を選択する。ここで、多重変速とは、前記自動変速機20において第1の変速(先の変速)が進行している間に第2の変速(後の変速)が判定、出力される場合を言うものであり、例えば、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段へのダウン変速中に第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速が判定され、それらの変速が連続的に行われる場合が相当する。
【0062】
前記変速制御部70は、好適には、前記パワーオンダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御が選択された場合には、後の変速において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御及び前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御の何れかを選択する。例えば、上記後の変速の判定乃至出力時点において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、上記後の変速に対応して、前記第1形態変速制御部72による第1の形態の変速制御すなわち対象となる変速における解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。上記後の変速の判定乃至出力時点において、前記出力軸トルク算出部76により算出される前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo未満である場合には、上記後の変速に対応して、前記第2形態変速制御部74による第2の形態の変速制御すなわち駆動力源である前記第2電動機MG2等の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御を選択する。多重変速に関して、例えば、先の変速のイナーシャ相中に後の変速出力ができない変速パターンの場合には、先の変速終了時に後の変速を出力するため、その時点の出力軸トルクTOUTに基づいて変速制御の形態を選択すれば足りるのである。
【0063】
前記変速制御部70は、好適には、前記第2形態変速制御部74により第2の形態で前記パワーオンダウン変速が行われる場合において、係合側係合装置すなわちその変速において係合させられる係合装置が、前記一方向クラッチF1のように油圧制御を必要とせず係合させられる係合装置である場合には、前記第2形態変速制御部74による回転速度同期制御の終了時に入力回転部材(伝達部材18)の回転速度を同期回転速度よりも一旦小さくする制御を行う。例えば、目標入力回転速度NIN*を同期回転速度Nspよりも小さい値とする制御を行う。一方、前記パワーオンダウン変速における係合側係合装置が、前記クラッチC及びブレーキBのように油圧制御を必要とする(係合圧の上昇により係合させられる)係合装置である場合には、前記第2形態変速制御部74による回転速度同期制御の終了時に入力回転部材(伝達部材18)の回転速度を同期回転速度よりも一旦大きくする制御を行う。例えば、目標入力回転速度NIN*を同期回転速度Nspよりも大きい値とする制御を行う。
【0064】
図10は、前記電子制御装置50による本実施例の変速制御について説明するタイムチャートであり、本実施例の制御を行った場合における各関係値の経時変化を実線で、本実施例の制御を行わない従来の変速制御における各関係値の経時変化を破線でそれぞれ示している。更に、変速制御の形態を選択する上での基準となる前記閾値Tboを細い一点鎖線で示している。この図10に示す制御では、前記自動変速機20の入力軸トルクTINに基づいて変速制御の形態を選択しており、閾値Tboは入力軸トルクTINに対応して定められている。
【0065】
先ず、時点t1において、図示しないアクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度ACCの上昇が開始される。このアクセルペダルの踏込操作に相前後して、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が判定される。次に、時点t2において、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が出力される。この時点t2において、前記自動変速機20の入力軸トルクTINが一点鎖線で示す閾値Tbo以上であるか否かが判定される。図10に示す例では、時点t2における前記自動変速機20の入力軸トルクTINが閾値Tbo未満であるため、第2の形態の変速制御すなわち駆動力源(第2電動機MG2)のトルクを変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御(回転速度同期制御)が選択される。すなわち、第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速における解放側係合装置である第2クラッチC2の油圧が時点t2から急減させられ、速やかに零まで低下させられた後、時点t3から前記第2電動機MG2等のトルク制御により前記入力軸トルクTINが漸増させられ、それにより第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速が進行させられる。ここで、本実施例の制御においては、時点t2から前記第2クラッチC2の油圧が急減させられた後、所定時間は駆動力源のトルク(入力軸トルクTIN)を増加させることなく、時点t2からt3まで一定に維持している。これは、解放側係合装置の解放時に、駆動系にトルク振動が発生してドライバビリティが低下するのを抑制するためであり、時点t3から前記第2電動機MG2のトルク増加が開始されている。斯かる本実施例の制御によれば、破線で示す従来の制御に比べて変速におけるイナーシャ相の開始が早くなり、変速応答性が向上していることがわかる。前記入力軸トルクTINが閾値Tbo未満の比較的低い状態では、ドレン油圧(第2クラッチC2の油圧)を急勾配で抜いても大きな前後加速度が発生し難いため、変速ショックは軽微なものとなる。
【0066】
図10に示す例では、前記自動変速機20における第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速中すなわち時点t2から時点t3までの間に、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速が判定されている。このため、時点t4において、前記自動変速機20における第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速が出力される。この時点t4において、前記自動変速機20の入力軸トルクTINが一点鎖線で示す閾値Tbo以上であるが、多重変速に係る先の変速である第3速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速において第2の形態の変速制御が行われているため、本実施例の制御では、多重変速に係る後の変速である第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速においても斯かる第2の形態の変速制御(回転速度同期制御)が継続して行われる。すなわち、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速における解放側係合装置である第1ブレーキB1の油圧が時点t4から急減させられ、速やかに零まで低下させられる。斯かる油圧制御と併行して、前記第2電動機MG2等のトルク制御により変速が進行させられる。ここで、前記自動変速機20は先の変速制御において既にニュートラル状態とされているため、時点t4から前記第1ブレーキB1の油圧を急勾配で抜いても変速ショックは発生し難い。
【0067】
図10においては、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速における、前記自動変速機20の入力回転速度NIN(=第2電動機MG2の回転速度)の変速後の同期回転速度をNspで示すと共に、その変速における係合側係合装置が前記クラッチC及びブレーキBのように油圧制御を必要とする係合装置である場合における前記第2電動機MG2の目標回転速度をNta1で、係合側係合装置が前記一方向クラッチF1のように油圧制御を必要としない係合装置である場合における前記第2電動機MG2の目標回転速度をNta2でそれぞれ示している。変速における係合側係合装置が油圧制御を必要とするクラッチC乃至ブレーキBである場合には、前記第2電動機MG2の目標回転速度を変速後の同期回転速度Nspよりも大きな値であるNta1に設定することで、変速終了時に係合側係合装置が係合させられる際に引き込み側の駆動力が発生するのを抑制できる。換言すれば、パワーオン変速であるため、常に蹴り出し方向のトルクが出るようにしてドライバビリティの悪化を抑制する。一方、変速における係合側係合装置が油圧制御を必要としない前記一方向クラッチF1である場合には、逆に前記第2電動機MG2の目標回転速度を同期回転速度Nspよりも低い値であるNta2に設定することで、同期ショックが発生するのを抑制できる。ここで、図2の係合作動表に示すように、前記自動変速機20における第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速における係合側係合装置は前記一方向クラッチF1である場合が考えられる。その場合、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速終了時における前記第2電動機MG2の目標回転速度は上記Nta2に設定されるが、図10においては、便宜上時点t5において第1速ギヤ段の同期回転速度Nspが達成された例を示している。
【0068】
図11は、前記電子制御装置50による前記自動変速機20の変速制御の要部を説明する図であり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0069】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、パワーオンダウンシフトすなわちアクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速が行われるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、S7において、実行中フラグF1が0(F1=0)とされた後、本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、実行される変速が単一変速であるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合、すなわち、多重変速が実行されると判断される場合(実行される変速が多重変速に係るものであると判断される場合)には、S5以下の処理が実行されるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが算出され、その出力軸トルクTOUTが予め定められた閾値Tbo以上であるか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、クラッチ係合圧制御(TP制御)すなわち第1の形態である解放側係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる形態の変速制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。S5においては、実行中フラグF1が1であるか否かが判断される。このS5の判断が否定される場合には、S3以下の処理が実行されるが、S5の判断が肯定される場合には、S6において、解放側係合装置の油圧が即ドレーンされ、回転速度同期制御すなわち第2の形態である駆動力源の回転速度を変化させることにより変速を進行させる形態の変速制御が実行されると共に、実行中フラグF1が1(F1=1)とされた後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1〜S7が前記変速制御部70の動作に、S4が前記第1形態変速制御部72の動作に、S6が前記第2形態変速制御部74の動作に、S3が前記出力軸トルク算出部76の動作にそれぞれ対応する。
【0070】
このように、本実施例によれば、アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機20のダウン変速において、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。すなわち、変速応答性を向上させつつショックの発生を抑制する車両用自動変速機20の電子制御装置50を提供することができる。
【0071】
前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置としてのクラッチC乃至ブレーキBの係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速であることから、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0072】
前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが規定の閾値Tbo以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTが前記閾値Tbo未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、前記閾値Tboは、車速V、アクセル開度ACC、及び前記自動変速機20において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものであるため、出力軸トルクTOUTが比較的大きい場合には前記係合装置の係合圧制御を主体とする変速制御を行うことで駆動力の抜けを抑制でき、出力軸トルクTOUTが比較的小さい場合には前記駆動力源の回転速度制御を主体とする変速制御を行うことで速やかに変速を行うことができる。更に、車速V、アクセル開度ACC、及び変速段等に基づいて閾値を変更することで、変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを更に適切に選択することができる。
【0073】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものであるため、解放側の係合装置の係合圧を抜いている場合に、速やかに目標変速段を成立させることで変速応答性を更に向上させることができる。
【0074】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを、前記自動変速機20の出力軸トルクTOUTに基づいて選択するものであるため、多重変速における後の変速に関して、出力軸トルクTOUTに応じて変速速度重視の変速と変速かショック重視の変速とを選択的に実行することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0076】
20:車両用自動変速機、22:出力軸、24:エンジン(駆動力源)、50:電子制御装置、B1:第1ブレーキ(係合装置)、B2:第2ブレーキ(係合装置)、C1:第1クラッチ(係合装置)、C2:第2クラッチ(係合装置)、F1:一方向クラッチ(係合装置)、MG2:第2電動機(駆動力源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源に連結され、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる有段式の車両用自動変速機の制御装置であって、
アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、
前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速である
請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機の出力軸トルクが規定の閾値以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機の出力軸トルクが前記閾値未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、
前記閾値は、車速、アクセル開度、及び前記自動変速機において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものである
請求項1又は2に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものである請求項1から3の何れか1項に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び前記回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて選択するものである請求項1から4の何れか1項に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項1】
駆動力源に連結され、複数の係合装置を選択的に係合させることで予め定められた複数の変速段の何れかを成立させる有段式の車両用自動変速機の制御装置であって、
アクセルが踏み込まれた状態での前記自動変速機のダウン変速において、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて、クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び回転同期変速の何れかを選択的に実行するものであり、前記回転同期変速が選択される領域は、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択される領域より前記出力軸トルクが低い側とされたものであることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を漸減させることにより変速を進行させる変速であり、
前記回転同期変速は、その変速で解放される前記係合装置の係合圧を前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速よりも急速に減少させる変速である
請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機の出力軸トルクが規定の閾値以上である場合には、前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速を選択し、前記自動変速機の出力軸トルクが前記閾値未満である場合には、前記回転同期変速を選択するものであり、
前記閾値は、車速、アクセル開度、及び前記自動変速機において成立させられている変速段の少なくとも1つに基づいて変更されるものである
請求項1又は2に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記回転同期変速が選択された場合には、後の変速においても前記回転同期変速を選択するものである請求項1から3の何れか1項に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記ダウン変速が多重変速である場合において、先の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速が選択された場合には、後の変速において前記クラッチ・トゥ・クラッチ変速及び前記回転同期変速の何れかを、前記自動変速機の出力軸トルクに基づいて選択するものである請求項1から4の何れか1項に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−96422(P2013−96422A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236530(P2011−236530)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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