説明

車両用電源装置

【課題】フィルタリアクトルとしてインダクタンスが小さいものを選定することでフィルタリアクトルの外形とコストを削減できる車両用電源装置を提供する。
【解決手段】本発明は、直流電源から集電する集電器1と、集電器が取り込んだ電力を遮断する回路遮断器2と、回路遮断器に接続されたフィルタリアクトル5と、フィルタリアクトルに接続され、フィルタリアクトルとの間でフィルタを構成するフィルタコンデンサ6と、フィルタリアクトルに対してフィルタコンデンサと並列に接続され、直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して出力するインバータ7とを備え、フィルタリアクトル5とフィルタコンデンサ6とを、それらの共振周波数が35〜40Hzになる組み合わせにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータにより直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して負荷に供給する車両用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気車の架線または電車線から集電器にて取り込んだ直流電力を一定周波数、一定電圧に変換して車両用電源として出力する車両用電源装置は、架線からの入力部分にフィルタリアクトルを設けている。このフィルタリアクトルは当該車両用電源装置が使用しているインバータのスイッチング素子が故障により短絡した場合に、架線からの短絡電流の立ち上がりを抑え、短絡電流が過大になる前に高速度回路遮断器を遮断し、架線が短絡することにより変電所が停止することを防止するためのものである。
【0003】
このフィルタリアクトルのインダクタンスはインバータの入力側(直流側)に設けられたフィルタコンデンサとの間のLC共振周波数が、使用される鉄道路線の信号設備の軌道回路で使用している周波数に影響を与えないように選定される。
【0004】
信号設備で使用している周波数は関東地区では15〜35Hzおよび40〜60Hz、関西地区では20〜40Hzおよび50〜70Hzである。そのため、従来は、LC共振周波数がこれらの周波数よりも小さい15Hz以下の周波数となるようにフィルタリアクトルとフィルタコンデンサの組み合わせを決めていた。そしてこの場合、フィルタコンデンサの容量はインバータの制御により自ずと決まり、自由に選定することはできないため、従来からフィルタリアクトルとして適切な値のものを選定することでLC共振周波数が15Hz以下の周波数になるようにしていた。例えば、フィルタコンデンサ容量を10000μFであるとすると、LC共振周波数を15Hz以下にするためには、フィルタリアクトルとしてそのインダクタンスが12mH以上となるものを選定していた。
【0005】
ところが、一般に12mH以上のインダクタンスを有する車両電源装置用のリアクトルは空芯型ではなく鉄心型とならざるを得ず、外形が大きくなりコストも高くなるので、それらの削減を図ることが従来の課題となっていた。また、鉄心型のリアクトルは大きな電流が流れると鉄心の飽和によりインダクタンスが低下する特性があるので、上で述べたインバータの短絡時の架線からの短絡電流の流れ込みが起きたときにはフィルタリアクトルのインダクタンスが低下し、短絡電流の増大抑制機能を充分に発揮できない問題点もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたもので、入力側のフィルタリアクトルとフィルタコンデンサとのLC共振周波数が信号設備の軌道回路で使用している周波数の帯域に重ならないような仕様のフィルタリアクトルを採用することにより、フィルタリアクトルとしてそのインダクタンスが従来よりも小さいものを選定することができ、フィルタリアクトルの外形とコストを削減することができる車両用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、直流電源から集電する集電器と、前記集電器が取り込んだ電力を遮断する回路遮断器と、前記回路遮断器に接続されたフィルタリアクトルと、前記フィルタリアクトルに接続され、前記フィルタリアクトルとの間でフィルタを構成するフィルタコンデンサと、前記フィルタリアクトルに対して前記フィルタコンデンサと並列に接続され、直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して出力するインバータとを備えた車両用電源装置において、前記フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとを、それらの共振周波数が35〜40Hzになる組み合わせにしたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、直流電源から集電する集電器と、前記集電器が取り込んだ電力を遮断する回路遮断器と、前記回路遮断器に接続されたフィルタリアクトルと、前記フィルタリアクトルに接続され、前記フィルタリアクトルとの間でフィルタを構成するフィルタコンデンサと、前記フィルタリアクトルに対して前記フィルタコンデンサと並列に接続され、直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して出力するインバータとを備えた車両用電源装置において、前記フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとを、それらの共振周波数が40〜50Hzになる組み合わせにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用電源装置によれば、フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとをそれらの共振周波数が35〜40Hzになる組み合わせにしているので、関東地区の電気車に使用することで、入力側のフィルタリアクトルとフィルタコンデンサのLC共振周波数が関東地区の鉄道信号設備で使用している15〜35Hzおよび40〜60Hzの周波数の帯域に重ならず、しかも、フィルタコンデンサとしてその容量がインバータの制御により決まるほぼ固定的な従来と同様の仕様のものを採用する場合にフィルタリアクトルとして従来よりもインダクタンスの小さなものを採用でき、フィルタリアクトルの外形とコストを削減することができる。
【0010】
また、本発明の車両用電源装置によれば、フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとをそれらの共振周波数が40〜50Hzになる組み合わせにしているので、関西地区の電気車に使用することで、入力側のフィルタリアクトルとフィルタコンデンサとのLC共振周波数が関西地区の鉄道信号設備で使用している20〜40Hzおよび50〜70Hzの周波数の帯域に重ならず、しかも、フィルタコンデンサとしてその容量がインバータの制御により決まるほぼ固定的な従来と同様の仕様のものを採用する場合にフィルタリアクトルとして従来よりもインダクタンスの小さなものを採用でき、フィルタリアクトルの外形とコストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0012】
<第1の実施の形態>図1は、本発明の第1の実施の形態の関東地区の鉄道用の車両用電源装置を示していて、この車両用電源装置は、架線から直流電力を取り込む集電装置1、集電装置1からの電源の取り込みを高速度で遮断する高速度遮断器2、充電抵抗短絡用接触器3、充電抵抗器4、フィルタリアクトル5、フィルタコンデンサ6、インバータ7、ACリアクトル8、ACコンデンサ9、交流電圧を変圧する変圧器10、負荷(L)13への出力を開閉する3相接触器11から構成されている。尚、図1において、符号12は車輪である。
【0013】
高速度遮断器2は、直流電源である架線とインバータ7との回路の接続・切り離しを行う。充電抵抗短絡用接触器3と充電抵抗器4は、インバータ7を起動する前にフィルタコンデンサ6を充電するためのものである。フィルタリアクトル5は架線からインバータ7へ流れる電流を平滑する働きをする。フィルタコンデンサ6はインバータ7の直流側電圧を平滑する働きをする。
【0014】
フィルタリアクトル5とフィルタコンデンサ6とは、それらのLC共振周波数が35〜40Hzになるように選定されている。信号設備で使用されている周波数は関東地区では15〜35Hzおよび40〜60Hzである。そして、フィルタコンデンサ6の容量はインバータ7の制御により決まり、約10000μFであり、これに対して、LC共振周波数が35〜40Hzになるように、フィルタリアクトル5としてそのインダクタンスが約4.4〜5.2mHとなる空芯型のものを選定する。
【0015】
ACリアクトル8とACコンデンサ9は、インバータ7の出力する各相の電流、電圧のパルス波形の正弦波波形に整形する。
【0016】
上記構成の車両用電源装置では、インバータ7を起動する前に高速度遮断器2を投入し、充電抵抗器4で制限された電流によってフィルタコンデンサ6を充電する。フィルタコンデンサ6の充電が完了した後に充電抵抗用接触器3を投入して架線とインバータ7を接続する。充電抵抗用接触器3の投入タイミングについては、充電抵抗器4の抵抗値とフィルタコンデンサ6の容量から求められる充電時間を考慮する。
【0017】
このように本実施の形態の車両用電源装置によれば、フィルタリアクトル5とフィルタコンデンサ6とのLC共振周波数について、それが35〜40Hzになるようにフィルタリアクトル5のインダクタンスを選定しているので、本実施の形態の車両用電源装置を関東地区の50Hz地域を走行する鉄道車両で使用することにより、LC共振周波数が鉄道信号設備の軌道回路で使用している周波数帯15〜35Hzおよび40〜60Hzに重なることがなく、しかも従来では、LC共振周波数が15Hz以下となるように選定していたフィルタリアクトル5のインダクタンスをLC共振周波数が2倍以上になるものを選定することができ、そのためフィルタリアクトル5としてインダクタンスが従来の1/2以下の小さなものを選定することができ、フィルタリアクトル5の外形を小さくでき、またコストも抑制できる。またフィルタリアクトル5のインダクタンスが小さいことから、従来の鉄心型ではなくて空芯型のものを使用でき、従来の鉄心型のフィルタリアクトルのようにインバータ7が短絡したときの短絡電流による鉄心の飽和によってインダクタンスが低下して短絡電流増大の抑制が十分できないということがなく、短絡電流が流れてもインダクタンスが低下することがないために短絡電流の抑制も十分に行える。
【0018】
<第2の実施の形態>次に、本発明の第2の実施の形態の車両用電源装置について説明する。本実施の形態の回路構成は、図1に示した第1の実施の形態と共通である。本実施の形態の特徴は、関西地区の60Hz区域を走行する鉄道車両用の車両用電源装置であることを特徴とする。
【0019】
すなわち、関西地区の60Hz地域では、鉄道信号設備の軌道回路で使用している周波数帯は20〜40Hzおよび50〜70Hzであるので、フィルタリアクトル5とフィルタコンデンサ6としてそのLC共振周波数が、この周波数帯20〜40Hzおよび50〜70Hzを避けて40〜50Hzになるようにフィルタリアクトル5のインダクタンスを選定した点にある。つまり、従来ではLC共振周波数が15Hz以下となるように設定していたフィルタリアクトル5のインダクタンスを、その2倍以上にする。ここでも、フィルタコンデンサ6の容量は、インバータ7により制限を受け固定的な値のもの、約10000μFであり、これに対して、LC共振周波数が40〜50Hzになるように、フィルタリアクトル5としてそのインダクタンスが約3.9〜4.6mHとなるものを選定する。
【0020】
本実施の形態によれば、フィルタリアクトル5とフィルタコンデンサ6とのLC共振周波数について、それが40〜50Hzになるようにフィルタリアクトル5のインダクタンスを選定しているので、本実施の形態の車両用電源を関西地区の60Hz地域を走行する鉄道車両で使用することにより、LC共振周波数が鉄道信号設備の軌道回路で使用している周波数帯20〜40Hzおよび50〜70Hzになることがなく、しかも従来よりもLC共振周波数が2倍以上になるフィルタリアクトル5を選定することができ、そのためフィルタリアクトル5としてインダクタンスが従来の1/2以下の小さなものを選定することができ、フィルタリアクトル5の外形を小さくでき、またコストも抑制できる。またフィルタリアクトル5のインダクタンスが小さいことから、従来の鉄心型ではなくて空芯型のものを使用でき、従来の鉄心型のフィルタリアクトルのようにインバータ7が短絡したときの短絡電流による鉄心の飽和によってインダクタンスが低下して短絡電流増大の抑制が十分できないということがなく、短絡電流が流れてもインダクタンスが低下することがないために短絡電流の抑制も十分に行える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の1つの実施の形態の車両用電源装置の回路図。
【符号の説明】
【0022】
1:集電装置
2:高速度遮断器
3:充電抵抗短絡用接触器
4:充電抵抗器
5:フィルタリアクトル
6:フィルタコンデンサ
7:インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から集電する集電器と、前記集電器が取り込んだ電力を遮断する回路遮断器と、前記回路遮断器に接続されたフィルタリアクトルと、前記フィルタリアクトルに接続され、前記フィルタリアクトルとの間でフィルタを構成するフィルタコンデンサと、前記フィルタリアクトルに対して前記フィルタコンデンサと並列に接続され、直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して出力するインバータとを備えた車両用電源装置において、
前記フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとを、それらの共振周波数が35〜40Hzになる組み合わせにしたことを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
直流電源から集電する集電器と、前記集電器が取り込んだ電力を遮断する回路遮断器と、前記回路遮断器に接続されたフィルタリアクトルと、前記フィルタリアクトルに接続され、前記フィルタリアクトルとの間でフィルタを構成するフィルタコンデンサと、前記フィルタリアクトルに対して前記フィルタコンデンサと並列に接続され、直流電力を一定周波数、一定電圧の交流電力に変換して出力するインバータとを備えた車両用電源装置において、
前記フィルタリアクトルとフィルタコンデンサとを、それらの共振周波数が40〜50Hzになる組み合わせにしたことを特徴とする車両用電源装置。
【請求項3】
前記フィルタリアクトルは、空芯型であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用電源装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−63288(P2010−63288A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227323(P2008−227323)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】