説明

車体フレーム構造

【課題】衝撃吸収性能を妨げることなく、剛性の高い車体フレーム構造を提供する。
【解決手段】車体フレーム構造1は、車室の前部における左右両端に配され、前方部分が後方部分よりも下方となるように傾斜するフロントピラアッパ11と、左右の前記フロントピラ11の下部に夫々設けられたフロントピラ12と、前記フロントピラ12に形成され、前記フロントピラ12の他の部分よりも車体前後方向の力に対する剛性が小さく構成されたボックス部16と、前記ボックス部16に設けられ、前方部分を後方部分よりも下方として延びる補強リブ17と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室前方及び車室下部に配される車体フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体フレーム構造において、車室の前方に配されるフロントフレームに、脆弱部を設けることにより、車体前方からの衝撃を吸収する技術が知られている。このような構成の車体フレーム構造に関し、フロントドアのベルトラインに補強材を設け、フロントピラの上方後端部を高剛性構造とするとともに、フロントピラの上方前端部との間に、上記補強材よりも強度が弱い変形可能部を設ける技術が提供されている(例えば特許文献1)。このフレーム構造においては上記構成によりフロントピラの上方前端部に、車輌前方から作用する荷重を伝達し、変形可能部の変形によって衝撃エネルギーを吸収している。
【特許文献1】特開2003-127898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した車体フレーム構造では、次のような事情があった。すなわち、高い衝撃吸収性能を確保するために強度が弱い変形可能部を設けると、車体の剛性を維持することが困難となる。
【0004】
そこで、本発明は、衝撃吸収性能を妨げることなく、剛性の高い車体フレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態にかかる車体フレーム構造は、車室の前部における左右両端に配され、前方部分が後方部分よりも下方となるように傾斜するフロントピラアッパと、左右の前記フロントピラアッパの下部に夫々設けられたフロントピラと、前記フロントピラに形成され、前記フロントピラの他の部分よりも車体前後方向の力に対する剛性が小さく構成された変形可能部と、前記変形可能部に設けられ、前方部分を後方部分よりも下方として延びる補強リブと、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の一形態にかかる車体フレーム構造は、前記変形可能部は、空隙が形成され、前記フロントピラの他の部分に比べて車体前後方向に垂直な面方向の断面積が小さく構成された中空構造部であり、前記補強リブは、前記中空構造部の前記空隙を斜めに横切るように、前記中空構造部の前下方端部から後上方端部に渡って配されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一形態にかかる車体フレーム構造は、車室下部に配され、左右の前記フロントピラロアから前後に延びる左右のサイドシルと、前記サイドシルよりも車幅方向内側において前後方向に延びる左右のフロアサイドメンバとを有して構成されるフロアフレーム部と、車室前方に配され、前輪の中心軸より上方に位置し、前記フロントピラより車両前方に延びるアッパメンバ部と、前記前輪の中心軸より下方に位置し、前記フロアフレーム部の前方で車両前方に延びるロアメンバ部と、前記アッパメンバ部と前記ロアメンバ部とがこれらの前方で結合される結合部より車両前方に延びるフロントメンバ部とを有して構成されるフロントフレーム部と、車体上部に配され、左右の前記フロントピラーの上端から夫々後方に延びるサイドルーフレールと、左右の前記サイドルーフレールの間で車幅方向に延びるルーフレールとを有して構成されるルーフ部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態にかかる車体フレーム構造は、前記補強リブは、車幅方向において一様な断面を有する板状に構成されるとともに、前記フロントピラは前記中空構造部及び前記補強リブを一体に備えたダイカスト材で構成され、前記アッパメンバ部は、後部内側面にスプリングハウスを一体に備えたダイカスト材で構成され、前記中空構造部は前記スプリングハウスの後方近傍に配されるとともに、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバアッパが、その左右両端部が前記中空構造部の下部に夫々取り付けられることにより左右の前記フロントピラの間に配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記構成により、衝撃吸収性能を妨げることなく、車体フレーム構造の剛性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態にかかる車体フレーム構造について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、自動車の進行方向Fを基準に前方(前側)、後方(後側)、左右幅方向を定義し、自動車の幅方向の中心に向かう方向を内方向(内側)、自動車の中心から幅方向に広がる方向を外方向(外側)とする。重力の作用する方向を下方向(下側)、重力に逆らう方向を上方向(上側)とする。図中矢印X、Y及びZは直交する3方向を示し、矢印Xは車体前方、矢印Yは車幅方向左側、矢印Zは車体上方向を指している。また、左右で同様な構成については適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態にかかる自動車(車両)の車体フレーム構造の一部を示している。図1に示すように、車室の前部における左右両端に、前方部分が後方部分よりも下方に配されるように傾斜するフロントピラアッパが設けられている。この左右のフロントピラアッパ11の下部にそれぞれ形成された左右のフロントピラ12の間に車幅方向に向かって延びるカウルトップ13が配され、ダッシュクロスメンバアッパ14、ダッシュクロスメンバロア15が設けられている。カウルトップ13はフロントピラ12の上部に配され、車幅方向中央部分が前方に向かうように湾曲している。ダッシュクロスメンバアッパ14は、カウルトップ13よりも下方に配置され、車幅方向中央部分が下方となるように湾曲形成されている。ダッシュクロスメンバアッパ14は、車幅方向中央において左右に水平に延びる水平中央部14aと、この水平中央部14aの左右両端から緩やかなカーブを介して上方かつ左右外側方向に傾斜してそれぞれ延びる傾斜部14bと、左右の傾斜部14bの左右端部から緩やかなカーブを介してさらに車幅方向外側に向かって水平に延びる水平端部14cとを備えている。ダッシュクロスメンバアッパ14は、左右の水平端部14cにおいて、後述する左右のフロントピラ12におけるボックス部の下方に固定されている。
【0012】
ダッシュクロスメンバロア15はダッシュクロスメンバアッパ14よりも下方に配され、フロントピラ12の下部から内側に向かって延出している。なお、中空部材の端面とは、中空部の周りの外周部分の端面を指している。
【0013】
左右のフロントピラ12の下部から、車体後方に向けてサイドシル21が夫々延びている。サイドシル21よりも内側においてフロアサイドメンバ22が車体後方に向かって延びている。車幅方向中央部分にはバックボーン23が車体前後方向に延びている。
【0014】
左右のサイドシル21の間には、車幅方向に延びる各種クロスメンバ24,25,26が設けられている。これら前後方向に延びるサイドシル21、フロアサイドメンバ22及びバックボーン23と、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバロア15及び各種クロスメンバ24〜26とが互いに交差してラダー状に組み合わされ、フロアフレーム部20を構成している。このフロアフレーム部20の上部に、車室の床を形成するフロアパネル(不図示)が溶接等により固定される。
【0015】
フロアフレーム部20や後述するフロントフレーム部30を構成する各種フレーム材13〜15、21〜26、36、42等は、例えばアルミニウム合金などの軽合金塊から細長形状に形成された押出成形部材からなり、その断面形状は例えば中空部を有する四角形状に構成され、一定の閉断面で長手方向に連続している。湾曲形状のカウルトップ13やダッシュクロスメンバアッパ14はその断面形状が連続する範囲で曲げ変形されて構成される。
【0016】
ダッシュクロスメンバアッパ14の下端とフロアフレーム部の車幅方向端部とを繋ぐフロントピラ12はアルミダイキャスト材などの軽合金鋳物で構成されている。フロントピラ12の上部かつ前端部分には、変形可能部として、内部に空隙16aを有し周囲が薄い板状の部材で囲まれて中空構造部を構成するボックス部16が形成されている。この中空構造部としてのボックス部16は、フロントピラ12の他の部分に比べて車体前後方向に垂直な面方向の断面積が少さく、前後方向の力によって変形しやすく構成されている。
【0017】
このボックス部16の内部の空隙16aを、斜めに横切るように、補強リブ17が形成されている。補強リブ17はフロントピラアッパ11の延出方向と同方向に、前方が下方に向かって傾斜して延びる薄い板状に形成され、ボックス部16の前下方端部から後上方端部に渡って配されている。補強リブ17は車幅方向において一様な断面を有し、ダイカスト材であるフロントピラ12に一体形成されている。この補強リブ17によりボックス部16の前後方向の力による変形許容性を確保しつつ、前方からの衝突エネルギーをフロントピラ11に伝達することが可能となっている。さらに、この補強リブ17により、上下方向の力に対する剛性が確保される。
【0018】
フロントピラ12の前端部から連続するように、図4に破線で示す前輪Wの中心軸Cより上方において車体前方かつ下方に向かって湾曲して延びるフロントサイドメンバアッパ31(アッパメンバ部)が設けられている。フロントサイドメンバアッパ31の後端面とフロントピラ12の前端面とは溶接により接合されている。フロントサイドメンバアッパ31はアルミダイキャスト材などの軽合金鋳物で構成されている。フロントサイドメンバアッパ31の後部内側面に、スプリングハウス32やフェンダーシールドパネル33が内側方向に突出して一体形成されている。
【0019】
前輪Wの中心軸Cより下方でフロアフレーム部20とほぼ同じ高さにおいて、ダッシュクロスメンバロア15の外側両端部近傍から車体前方に向かって連続して延びるフロントサイドメンバロア34(ロアメンバ部)が設けられている。フロントサイドメンバロア34は、左右の車体前方延出部分34aが車幅方向内側に向かって湾曲し、互いに近接する部分において連結され、平面視においてH字状となるようにアルミダイカスト材などの軽合金鋳物で一体形成されている。フロントサイドメンバアッパ31の下方であって、フロントサイドメンバロア34の湾曲部分の外側に形成された左右の空間Sに前輪Wが配置される。
【0020】
フロントサイドメンバアッパ31の前端部とフロントサイドメンバロア34の前端部とは、前輪Wよりも前方に配される結合部35において例えば溶接により結合されている。図2に示すように、平面視において、結合部35付近の形状はY字状になっている。左右の結合部35の前方には、車体前方に向けて延びるフロントサイドメンバ(フロントメンバ部)36がそれぞれ設けられている。結合部35の前端部とフロントサイドメンバ36の後端部とは、それぞれに設けられたフランジ部を介して溶接又はボルト締めにより固定されている。
【0021】
フロントサイドメンバ36の前方には車体前方に向けて延びるクラッシュボックス39が設けられている。フロントサイドメンバ36の前端部とクラッシュボックス39の後端部とは、それぞれに設けられたフランジ部40、41を介して溶接又はボルト締めにより固定されている。クラッシュボックス39は車両が低速度で衝突した際に積極的に軸圧潰することで、衝突のエネルギーを吸収し、クラッシュボックス39より後方の部分が損傷を防ぐ機能を有する。
【0022】
左右のクラッシュボックス39の前端部の間に車幅方向に延びるフロントバンパービーム42が設けられている。フロントバンパービーム42は左右のクラッシュボックス39や更にその後方にあるフロントサイドメンバアッパ31やフロントサイドメンバロア34等の左右の各種フレーム部材31に衝突のエネルギーを振り分ける機能を有する。
【0023】
カウルトップ13、ダッシュクロスメンバアッパ14、フロントサイドメンバアッパ31、フロントサイドメンバロア34、フロントサイドメンバ36、フロントバンパービーム42等によって車体のフロントフレーム部30が構成される。
【0024】
フロントピラ11の上端は車体の左右端部において車体前後方向に延びるルーフサイドレール51に接続されている。左右のルーフサイドレール51の間において、フロントルーフレールやリヤルーフレール等の車幅方向に延びる複数のルーフレール52が掛け渡されている。これらルーフサイドレール51及び複数のルーフレール52は例えばアルミニウム合金などの軽合金塊から細長形状に形成された押出成形部材からなり、その断面形状は例えば中空部を有する四角形状に構成され、一定の閉断面で長手方向に連続している。これらルーフサイドレール51及びルーフレール52によってルーフ部50が構成されている。
【0025】
上記のように構成されたフレーム構造1では、図4において矢印で示すように、前部から入力される衝撃力は、フロントバンパービーム42により左右に振り分けられ、クラッシュボックス39の変形で吸収されるとともにフロントサイドメンバ36に伝達される。フロントサイドメンバ36に入力された衝撃力はフロントサイドメンバアッパ31及びフロントサイドメンバロア34に振り分けられて分散して伝達される。衝突の際にフロントサイドメンバアッパ31に入力されたエネルギーは、ボックス部16の変形によって吸収されるとともに、フロントピラーロア12の後方上端部に伝達され、フロントピラアッパ11を介してルーフ部50に伝達されるとともにフロントピラ12の下端部からフロアフレーム部20に伝達される。またフロントサイドメンバロア34に入力された荷重はフロントピラ12を介してサイドシル21などのフロアフレーム部20に伝達される。
【0026】
本実施形態にかかる車体フレーム構造は以下に掲げる効果を奏する。変形可能部としてのボックス部を斜めに横切る補強リブを設けたことにより、衝突時のエネルギー吸収効率を下げることなく、効率よくエネルギーを伝達することができるとともに車体の剛性も向上することができる。すなわち、補強リブが薄い板状で斜めに構成されているため前後方向に垂直な断面積を小さく維持することにより、衝突時の前方からの力に対する変形許容性が確保されているため衝撃吸収性能は損なわれない。さらに、補強リブ17により、上下方向の力に対する剛性が確保されるため、例えば通常時におけるボックス部16の下方におけるフロントピラ12の下面に取り付けられたダッシュクロスメンバアッパ14からの上下方向の荷重やフロントピラ12の前方に接続されたフロントサイドメンバアッパ31のスプリングハウス32等からの上下方向の荷重に対する剛性が向上する。
【0027】
なお本発明を実施するにあたり、格構成部材の具体的な形状や各種フレーム部材の断面形状など本発明の構成要素を発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更して実施できることは言うまでもない。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車体フレーム構造を示す斜視図。
【図2】同車体フレーム構造を示す平面図。
【図3】同車体フレーム構造の図1におけるA部分を拡大して示す斜視図。
【図4】同車体フレーム構造を示す側面図。
【符号の説明】
【0029】
1…フレーム構造、11…フロントピラアッパ、12…フロントピラ、
14…ダッシュクロスメンバアッパ、14a…水平中央部、14b…傾斜部、
14c…水平端部、15…ダッシュクロスメンバロア、16a…空隙、
16…ボックス部、17…補強リブ、20…フロアフレーム部、21…サイドシル、22…フロアサイドメンバ、30…フロントフレーム部、31…フロントサイドメンバアッパ、32…スプリングハウス、33…フェンダーシールドパネル、34…フロントサイドメンバロア、50…ルーフ部、51…ルーフサイドレール、52…ルーフレール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前部における左右両端に配され、前方部分が後方部分よりも下方となるように傾斜するフロントピラアッパと、
左右の前記フロントピラアッパの下部に夫々設けられたフロントピラと、
前記フロントピラアッパに形成され、前記フロントピラの他の部分よりも車体前後方向の力に対する剛性が小さく構成された変形可能部と、
前記変形可能部に設けられ、前方部分を後方部分よりも下方として延びる補強リブと、を備えたことを特徴とする車体フレーム構造。
【請求項2】
前記変形可能部は、空隙が形成され、前記フロントピラの他の部分に比べて車体前後方向に垂直な面の断面積が小さく構成された中空構造部であり、
前記補強リブは、前記中空構造部の前記空隙を斜めに横切るように、前記中空構造部の前下方端部から後上方端部に渡って配されていることを特徴とする請求項1記載の車体フレーム構造。
【請求項3】
車室下部に配され、左右の前記フロントピラから前後に延びる左右のサイドシルと、前記サイドシルよりも車幅方向内側において前後方向に延びる左右のフロアサイドメンバとを有して構成されるフロアフレーム部と、
車室前方に配され、前輪の中心軸より上方に位置し、前記フロントピラより車両前方に延びるアッパメンバ部と、前記前輪の中心軸より下方に位置し、前記フロアフレーム部の前方で車両前方に延びるロアメンバ部と、前記アッパメンバ部と前記ロアメンバ部とがこれらの前方で結合される結合部より車両前方に延びるフロントメンバ部とを有して構成されるフロントフレーム部と、
車体上部に配され、左右の前記フロントピラの上端から夫々後方に延びるサイドルーフレールと、左右の前記サイドルーフレールの間で車幅方向に延びるルーフレールとを有して構成されるルーフ部と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の車体フレーム構造。
【請求項4】
前記補強リブは、車幅方向において一様な断面を有する板状に構成されるとともに、前記フロントピラは前記中空構造部及び前記補強リブを一体に備えたダイカスト材で構成され、
前記アッパメンバ部は、後部内側面にスプリングハウスを一体に備えたダイカスト材で構成され、
前記中空構造部は前記スプリングハウスの後方近傍に配されるとともに、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバアッパが、その左右両端部が前記中空構造部の下部に夫々取り付けられることにより左右の前記フロントピラの間に配されていることを特徴とする請求項3記載の車体フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247350(P2008−247350A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94604(P2007−94604)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)
【Fターム(参考)】