説明

車体下部構造

【課題】 アンダカバーを有する車体下部構造を改善することで、Cd値の向上とアンダカバーの保護の両立を図ること。
【解決手段】 本発明に係る車体下部構造は、バンパフェイシャ5と、ラジエタ22直後で車幅方向に延在するクロスメンバ62を有するサブフレームと、バンパフェイシャ5の下端部とクロスメンバ62の下面部との間を覆う前部アンダカバー10aとを備える。前部アンダカバー10aは、クロスメンバ62より下方位置で略水平に広がる底部111と、底部111の後方において後方上向きに屈曲して立ち上がって後縁部に連続する立ち上がり部112とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気抗力係数(Cd値)を改善すべく、車両下面部をアンダカバーで覆うことが行われている。アンダカバーの構造例は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1は、サスペンションメンバをマウントしボディサイドフレームの下方に接合されるサブフレーム(サスペンションフレーム)として、矩形状の枠体で構成されるいわゆるペリメータフレームを備えた自動車に関し、ペリメータフレームの後辺部に設けたジャッキアップポイントを車両前方から視認しやすいアンダカバー構造を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−306897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Cd値向上の観点からは、車両下面部下への気流の入り込みが少ないほどよい。そうすると、アンダカバーの位置は極力低いほうが望ましい。
【0005】
しかし、当然のことながら、単純にアンダカバーの位置を低くしたのでは、アンダカバーは路面と干渉しやすくなり、アンダカバーが破損する可能性は高くなる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、アンダカバーを有する車体下部構造を改善することで、Cd値の向上とアンダカバーの保護の両立を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、バンパフェイシャと、ラジエタ直後で車幅方向に延在するクロスメンバを有するサブフレームと、前記バンパフェイシャの下端部と前記クロスメンバの下面部との間を覆う前部アンダカバーとを備える車体下部構造であって、前記前部アンダカバーは、前記クロスメンバより下方位置で略水平に広がる底部と、前記底部の後方において後方上向きに屈曲して立ち上がって後縁部に連続する立ち上がり部とを有することを特徴とする車体下部構造が提供される。
【0008】
この構成によれば、前部アンダカバーの底部をクロスメンバより低い位置に配置できるので、車体下面部下への気流の入り込み量を少なくすることができ、空気抗力係数(Cd値)を向上させることができる。しかも、前記立ち上がり部の存在により、前輪の段差下りの際に路面に前部アンダカバーを路面に打ちつけたとしても、この立ち上がり部の撓みによりその衝撃が吸収されるので、前部アンダカバーの破損を防止することができる。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、好ましくは、前記前部アンダカバーは、前縁部から後方下向きに傾斜し前記底部に連続する前方傾斜部を有する。この前方傾斜部によって、ロードクリアランスを確保することができる。また、単純にバンパフェイシャの下端部とクロスメンバとを直線的に結ぶようなアンダカバーを設定した場合に比べて、風のはらみを防止できるため、車体下面部下の気流が乱れず、Cd値を向上させることができる。さらに、アプローチアングルとアンダガードの低さを両立することもできる。
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、前縁部が前記クロスメンバに固定され、エンジン下方に延在する後部アンダカバーを更に備え、前記後部アンダカバーは、前方上向きに屈曲して立ち上がって前縁部に連続する立ち上がり部を有し、前記前部アンダカバー及び後部アンダカバーは、略同じ高さで前後に連続した車体下面部を形成することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、前部アンダカバーに連続して後部アンダカバーもクロスメンバより低い位置に配置でき、かつ、車体下面部下の気流を乱さず、空気抗力係数(Cd値)を向上させることができる。また、後部アンダカバーの立ち上がり部の存在により、前輪の段差下りの際に路面に後部アンダカバーを路面に打ちつけたとしても、この立ち上がり部の撓みによりその衝撃が吸収されるので、後部アンダカバーの破損を防止することができる。
【0012】
また、本発明の好適な実施形態においては、前記前部アンダカバーの後縁部と、前記後部アンダカバーの前縁部とが、前記クロスメンバの下面部に対して共締め固定される。これにより、前部又は後部アンダカバーの端部の捲れが防止され、しかも、組立工数を低減でき低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたとおり、本発明によれば、Cd値の向上とアンダカバーの保護の両立が図られた車体下部構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決手段として必須のものであるとは限らない。
【0015】
図1は本実施形態に係る車体下部構造を備えた車両Aの前方の側視図、図2は車両Aの前方の底面図(一部断面図)である。また、図3は車両Aの前方の車体下部構造の分解斜視図(細部省略)である。
【0016】
車両Aは、操舵輪である左右の前輪1,1と、前輪1,1を転舵可能に収納するホイールハウス2,2とを備える。図1に示されるように、車外側では、ホイールハウス2の上部にはフロントフェンダパネル7が接合され、ホイールハウス2の前部及びフロントフェンダパネル7の前部には、フロントバンパフェイシャ5が接合されている。
【0017】
前輪1,1は、ホイール1a,1aとホイール1a,1aに装着されたタイヤ1b,1bとを備え、ナックルアーム4,4を介して操舵されるように構成されている。前輪1,1にはブレーキ装置3,3が設けられている。ブレーキ装置3は、ブレーキディスク3aとキャリパー3bとから構成されており、ブレーキディスク3aはホイール1aに固定されている。キャリパー3bは不図示のステリングナックルに支持され、ブレーキディスク3aに鞍状にまたがって配設されている。前輪1はロアアーム8を含むフロントサスペンション(例えば、ダブルウィッシュボーン形式、マクファーソンストラット形式)により左右独立して懸架されている。
【0018】
本実施形態における車両Aは、モノコックボディの骨格をなす左右一対のフロントサイドフレーム21,21(図3参照)の下に、フロントサブフレームとしてのペリメータフレーム6を備える。ペリメータフレーム6は、フロントサイドフレーム21,21に沿う左右一対のフレームメンバ61,61と、車幅方向に延在する第1、第2クロスメンバ62,62とによって略矩形状に形成され、前面衝突時に、フルラップ及びオフセットの双方で高いエネルギ吸収を行う構造とされたものである。サスペンションを構成するロアアーム8,8はラバーブッシュ9,9を介してこのペリメータフレーム6に結合される。このペリメータフレーム6は、その上面4隅に設けられたラバーマウント64を介してフロントサイドフレーム21,21の下面に結合される。
【0019】
図3に示されるように、ラジエタ22は、ポリプロピレン等の合成樹脂でもって略矩形状に形成されたシュラウド20に支持される。このシュラウド20は、ペリメータフレーム6が形成する閉空間の上部に設置される不図示のエンジンの前方に配設されるもので、具体的には、フロントサイドフレーム21,21の前端部間で、第1クロスメンバ62の直前に設けられる。
【0020】
フロントサイドフレーム21,21の前端には、フランジ21a,21aが形成されている。シュラウド20、フロントサイドフレーム21,21の前方には、フロントバンパレインフォースメント23が位置している。このフロントレインフォースメント23は基本的には、バンパフェイシャ5の補強部材として機能するもので、フロントサイドフレーム21,21の前端に取り付けられる。フロントバンパレインフォースメント23の両端部後方にはそれぞれ、クラッシュカン24,24が取り付けられている。クラッシュカン24,24は、衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部材として機能する。
【0021】
クラッシュカン24,24の後端には更に、フロントサイドフレーム21,21の前端のフランジ21a,21aと接合されるフランジ25,25が設けられている。このフランジ25,25は、車幅方向中央側に延出し、かつその先端部にシュラウド締結孔が形成された延長部25a,25aを有する。一方、シュラウド20前面のサイド部には、上記シュラウド締結孔を介してボルトで締結される締結部20a,20aが形成されている。図4は、フロントサイドフレーム21,21に、ペリメータフレーム6を接合し、フロントバンパレインフォースメント23を取り付けると共に、フランジ25,25によってシュラウド20が支持された状態を示している。
【0022】
車両Aの前方の車体下面部にはアンダカバーが装着される。図2,3に示されるように、本実施形態におけるアンダカバーは、フロントバンパフェイシャ5の下端部から第1クロスメンバ62の下面部までの間を覆う前部アンダカバー10aと、この前部アンダカバー10aの車外側端部に設けられる側部アンダカバー10bと、ペリメータフレーム6が形成する閉空間を覆う、すなわちエンジン下方に延在する、後部アンダカバー10cとで構成される。このような分割構成は個々のアンダカバーを小型化し、取付性を向上できるという利点がある。
【0023】
図5は左斜め前方下方から車両Aの底面を見た要部外観斜視図、図6は図2のB−B断面図である。本実施形態における前部アンダカバー10aおよび後部アンダカバー10cの特徴的な構成は、これら図5及び図6に示される。
【0024】
本実施形態では、図6に示されるように、前部アンダカバー10aの前縁部はフロントバンパフェイシャ5の下端部に対して例えばボルト101で締結固定され、後縁部は第1クロスメンバ62の下面部に対して例えばボルト102で締結固定される。これによりフロントバンパフェイシャ5から第1クロスメンバ62bの下面部までの間の車体下面を覆う。また、後部アンダカバー10cの前縁部も、第1クロスメンバ62の下面部に固定され、後部アンダカバー10cの後縁部は、第2クロスメンバ63の下面部に、例えばボルト103で締結固定される。
【0025】
従来、前部アンダカバーの形状としては、図6の破線Sで示されるような、側面視で、フロントバンパフェイシャ5の下端部と第1クロスメンバ62の下面部とを結ぶ直線状とするものが考えられていた。これに対し、本実施形態では、前部アンダカバー10aは、破線Sよりも下方位置、すなわち、第1クロスメンバ62より下方位置、に設定される。ここで本実施形態では、この前部アンダカバー10aは、略水平に広がる底部111を有すると共に、その底部111の前方には、フロントバンパフェイシャ5の下端部に接続された前縁部から下方下向きに傾斜し底部111へと連続する前方傾斜部113を有する。
【0026】
このような前部アンダカバー10aによれば、まず、従来考えられていた単純な側面視直線状のアンダカバー(破線S)に比べてより低い位置に設定できるから、車体下面部下への気流の入り込み量を少なくすることができ、車両全体のCd値を向上させることができる。また、前方傾斜部113によって、ロードクリアランスを確保できる。このような前方傾斜部113を設けたことにより、アプローチアングルとアンダガードの低さを両立することもできるとも言えよう。
【0027】
くわえて、このような底部111及び前方傾斜部113を有する前部アンダカバー10aの構成は、次のような作用も及ぼす。
【0028】
車両Aの走行時、車体下面部下を通過する走行風はホイールハウス2内に流入して車体側面から流出する。操舵輪である前輪1を収容するホイールハウス2は前輪1の転舵代を見込んで奥行き空間が大きく形成されているため、ホイールハウス2から車体側面に流出する空気量は多くなりやすい。ホイールハウス2から流出する大量の空気は風のはらみとなって、これが車体側面の円滑な空気の流れを乱す要因となり、車両全体のCd値を悪化させることになる。そのため、Cd値改善のためには、ホイールハウス2内に流入する走行風を低減することが必要である。
【0029】
この点に関し、従来考えられていた単純な側面視直線状の前部アンダカバー(破線S)を採用した場合には、フロントバンパ下に流入し前部アンダカバーに沿って車体後方に流れる空気は、その直線的・連続的な後ろ下がりの傾斜面によって、前部アンダカバーと路面との空間が後方に行くほど減少するために次第に圧力が上昇し、このときちょうど車幅方向外側に存在するホイールハウス2に逃げるように流れ込んでいることが分かった。
【0030】
これに対し、本実施形態における前部アンダカバー10aは、ホイールハウス2より前方位置まで略水平に広がる底部111が存在し、前方傾斜部113は、その底部111の前方からフロントバンパ下の間に配置される。つまり、フロントバンパ下から車体下面に入り込む空気は、前方傾斜部113と路面との空間が後方ほど小さくなるために早々に圧力が高まり、ホイールハウス2に到達する前に車幅方向外側に逃げようとする挙動が発生し、また、底部111と路面との間に車幅方向一様に圧力の高い流れが形成されてからホイールハウス2の位置に至るため、圧力が高くなる過程でホイールハウスが存在する従来技術と異なり、ホイールハウス2に流れ込む空気量が低減する。これにより、ホイールハウス2から車体側面部に流れ出す空気を低減でき、車両全体のCd値を改善できる。これが、前部アンダカバー10aが底部111及び前方傾斜部113を有する構成としたことによる顕著な作用である。
【0031】
一方、上記したようにアンダカバーの位置を低くするほど、アンダカバーは路面と干渉しやすくなるため、その干渉によるアンダカバーの破損を回避することが重要となる。
【0032】
これに対し本実施形態の前部アンダカバー10aには、底部111の後方に、後方上向きに屈曲して立ち上がって後縁部に連続する第1立ち上がり部112と、この第1立ち上がり部112に連続して車体後方に形成される第1フランジ部112aが形成されている。この第1フランジ部112aが第1クロスメンバ62の下面部に対してボルト102で締結固定される。前輪1の段差下りの際に路面に前部アンダカバー10aを路面に打ちつけた際には、この第1立ち上がり部112が撓み、この撓みによって衝撃が吸収される。これによって、前部アンダカバー10aを破損から守ることができる。
【0033】
本実施形態では更に、エンジン60の下方に延在する後部アンダカバー10cも、前部アンダカバー10aと同様に、前方上向きに屈曲して立ち上がって前縁部へと連続する第2立ち上がり部114と、この第2立ち上がり部114に連続して車体前方に形成される第2フランジ部114aを有する。この第2フランジ部114aが、第1クロスメンバ62の下面部に対し、第1フランジ部112aと共に、ボルト102で共締めされる。第2立ち上がり部114によって、前部アンダカバー10aの第1立ち上がり部112と同様の効果を後部アンダカバー10cにも与えることができる。すなわち、前輪1の段差下りの際に路面に後部アンダカバー10cを路面に打ちつけた際には、この第2立ち上がり部114が撓み、この撓みによって衝撃が吸収される。これによって、後部アンダカバー10cを破損から守ることができる。
【0034】
また、この立ち上がり部114の存在によって、前部アンダカバー10aと後部アンダカバー10cは、略同じ高さで前後に連続した車体下面部を形成することができる。この場合、前部アンダカバーに連続して後部アンダカバーもクロスメンバより低い位置に配置でき、かつ、車体下面部下の気流を乱さず、車両全体のCd値を向上させることができる。
【0035】
また、上記したように、後部アンダカバー10cの前縁部も、第1クロスメンバ62の下面部に固定されるが、このとき、図示の如くボルト102でもって、前部アンダカバー10aの後縁部と後部アンダカバー10cの前縁部を、第1クロスメンバ62の下面部に共締め固定される。そうすることで、前部アンダカバー10aの後縁部又は後部アンダカバー10cの前縁部の捲れを防止することができるし、しかも、ボルト102だけで双方ともに固定できるから、組立工数を低減でき、かつ低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係る車体下部構造を備えた車両の前方の側視図である。
【図2】実施形態に係る車両の前方の底面図(一部断面図)である。
【図3】実施形態に係る車両の前方の車体下部構造の分解斜視図(細部省略)である。
【図4】ペリメータフレーム、フロントバンパレインフォースメント、シュラウドを、フロントサイドフレームに取り付けた状態の一例を示す図である。
【図5】左斜め前方下方から実施形態に係る車両の底面を見た要部外観斜視図である。
【図6】図2のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 前輪
2 ホイールハウス
3 ブレーキ装置
4 ナックルアーム
5 フロントバンパフェイシャ
6 ペリメータフレーム
10a 前部アンダカバー
10b 側部アンダカバー
10c 後部アンダカバー
20 シュラウド
21 フロントサイドフレーム
22 ラジエタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパフェイシャと、
ラジエタ直後で車幅方向に延在するクロスメンバを有するサブフレームと、
前記バンパフェイシャの下端部と前記クロスメンバの下面部との間を覆う前部アンダカバーと、
を備える車体下部構造であって、
前記前部アンダカバーは、
前記クロスメンバより下方位置で略水平に広がる底部と、
前記底部の後方において後方上向きに屈曲して立ち上がって後縁部に連続する立ち上がり部と、
を有することを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
前記前部アンダカバーは、前縁部から後方下向きに傾斜し前記底部に連続する前方傾斜部を有することを特徴とする請求項1に記載の車体下部構造。
【請求項3】
前縁部が前記クロスメンバに固定され、エンジン下方に延在する後部アンダカバーを更に備え、
前記後部アンダカバーは、前方上向きに屈曲して立ち上がって前縁部に連続する立ち上がり部を有し、
前記前部アンダカバー及び後部アンダカバーは、略同じ高さで前後に連続した車体下面部を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の車体下部構造。
【請求項4】
前記前部アンダカバーの後縁部と、前記後部アンダカバーの前縁部とが、前記クロスメンバの下面部に対して共締め固定されることを特徴とする請求項3に記載の車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−247121(P2008−247121A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88969(P2007−88969)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】