説明

車線保持装置、車線保持システム

【課題】コンピュータに異常が生じるような走行状況でも、走行車線からの逸脱傾向を検知して車線を維持する車線保持装置及び車線保持システムを提供すること。
【解決手段】舵角を制御する舵角制御手段22、14と、走行路の傾斜を検出する傾斜検出手段13と、車線近傍又は車線に設計速度に応じて設けられた凹凸を検出する凹凸検出手段11FR〜11RRと、凹凸検出手段により検出した信号の周期性から当該走行路の設計速度を検出する設計速度検出手段21と、を有し、舵角制御手段は傾斜及び設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき舵角を決定する、ことを特徴とする車線保持装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両が走行車線を保持する車線保持装置、車線保持システムに関し、特に、車両が逸脱傾向になった場合に逸脱を防止する車線保持装置、車線保持システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行状況を把握して車載装置を操作するという運転者の作業を支援するため、種々のセンサにより走行状況を検出しまた検出結果に応じて車載装置を制御する技術が提案されている。例えば、自車両が走行車線から逸脱傾向にある場合、走行車線の略中央からの乖離量に応じて、操舵アクチュエータを制御し走行車線からの逸脱を防止する車線保持装置が提案されている。
【0003】
このような車線保持装置では、自車両前方の画像を車載カメラで撮影し、撮像された画像から車線を区分する白線等を検出するが、夜間や雨天、霧等の天候状態においては白線を認識することが困難となるため、車載カメラによる視界が良好でない場合、車線保持の性能が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、車線区分線の上を車輪が走行した際の振動や音を検出して車線の逸脱の可能性があることを検出する車線保持装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1記載の車線保持装置では、逸脱の検出は可能であるがどのようにして逸脱を防止するかについては記載されていない。
【0005】
また、車載カメラにより走行車線を検出する場合、前方がカーブしていると走行車線の検出精度が低下するが、カーブを走行している場合にも走行車線を精度よく検出する車線保持装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
特許文献2記載の車線保持装置では、撮影された画像データの白線から前方のカーブのカーブ半径を推定すると共に、バンク角に応じてカーブ半径を補正する。バンク角は、横加速度、ヨーレイト及び車速から推定される。バンク角によりカーブ半径を補正することで、車載カメラが水平でないことに起因する画像の歪みが除去され、精度よくカーブ半径を推定することが可能となり、バンク角のあるカーブを走行中も車線の逸脱を防止した制御を可能とするとしている。
【特許文献1】特開平10−3598号公報
【特許文献2】特許第3393427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2記載の車線保持装置では、マップを参照してバンク角からカーブ半径の推定を行っているが、道路のバンク角は適正車速で走行した場合に快適な走行となるように曲率半径と設定速度に基づき設計されているため、バンク角だけではカーブ半径を推定することができないという問題を有する。例えば、実際のカーブの走行速度が設定速度と異なるほどマップからのズレが増大してしまう。また、特許文献2の車線保持装置では、カーブ半径の推定を車載カメラに撮影された画像データに基づき行っているため、視界が良好でない場合、車線保持の性能が低下するおそれがあるという問題が残る。
【0008】
ところで、車載装置の制御にはECU(Electrical Control Unit)というコンピュータが利用されることが多く、特許文献1及び2記載の車線保持装置はいずれもコンピュータがプログラムを実行した演算結果を利用するものである。しかしながら、コンピュータによる制御では熱や衝撃によりコンピュータに異常が生じた場合に正常に作動しないおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、コンピュータに異常が生じるような走行状況でも、走行車線からの逸脱傾向を検知して車線を維持する車線保持装置及び車線保持システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、舵角を制御する舵角制御手段(例えば、適正舵角計算回路22、操舵モータ14)と、走行路の傾斜を検出する傾斜検出手段と、車線近傍又は車線に設計速度に応じて設けられた凹凸を検出する凹凸検出手段と、凹凸検出手段により検出した信号の周期性から当該走行路の設計速度を検出する設計速度検出手段(例えば、適正速度検知回路21)と、を有し、舵角制御手段は傾斜及び設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき舵角を決定することを特徴とする車線保持装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、斜線上の凹凸を検出して適切な舵角を決定し自動的に操舵するので、逸脱を防止して車線を維持することができる。
【0012】
また、本発明の一形態において、舵角制御手段は、傾斜及び設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき当該走行路の曲率半径を算出し、舵角を決定することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、曲率半径を算出することで、曲率半径に適切な舵角を決定することができる。
【0014】
また、本発明の一形態において、車速を制御する車速制御手段を有し、車速制御手段は、設計速度検出手段により検出された設計速度に車速を制御する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、走行車線だけでなく設計速度が検出できることを利用して、設計速度という当該道路の走行に適した速度に車速を制御できる。
【0016】
また、本発明の一形態において、舵角制御手段は、走行路に沿って自動運転する自動運転装置を搭載した車両に搭載されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、自動運転時に走行路検知が困難となった場合に白線により逸脱防止できるので、自動運転時のフェイルセーフを実現できる。
【0018】
また、本発明は、道路の曲率半径、傾斜及び設計速度に所定の関係があるコースと、該コースを走行する車両とからなる車線保持システムにおいて、コースは、設計速度に応じた凹凸を車線又は車線近傍に有し、車両は、舵角を制御する舵角制御手段と、道路の傾斜を検出する傾斜検出手段と、凹凸を検出する凹凸検出手段と、凹凸検出手段により検出した信号の周期性から当該走行路の設計速度を検出する設計速度検出手段と、を有し、舵角制御手段は傾斜及び設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき舵角を決定する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、専用コースを走行する自動運転車両のフェールセーフとして車線保持装置を利用できる。
【発明の効果】
【0020】
コンピュータに異常が生じるような走行状況でも、走行車線からの逸脱傾向を検知して車線を維持する車線保持装置及び車線保持システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0022】
本実施の形態の車線保持装置は、車載カメラにより前方を撮影せずに、走行車線を検出して車線の逸脱を防止する。車両が車線区分線(以下、単に白線という)を検出するため、白線には車輪に振動を与える凹凸が形成されている。
【0023】
はじめに、白線の凹凸について説明する。図1は白線の一部の斜視図を示す。白線には人工的に凹凸が形成されており、車輪がその上にはみ出て走行した場合に振動や音が発生するので、車線保持装置は車線を検出しまた車線の逸脱を防止することができる。
【0024】
白線の凹凸は、道路の線形や交通量、車線数等に応じて定められた設計速度に応じた間隔で設けられている。例えば、図1の上部の白線の道路は設計速度がV1で、下部の白線の道路は設計速度がV2であるが、それぞれの白線の凸部間の間隔d1、d2は、設計速度で走行した場合に凸部の検出速度が同じになるように設定される。したがって、次の関係が満たされる。
d1/V1=d2/V2 …(1)
すなわち、車輪が設計速度で白線上を走行した場合、車輪の振動を検出したセンサの信号の周波数は、道路の別に関わらず一定となる。本実施の形態の車線保持装置は、この信号の周期性を利用して車線を保持する。
【0025】
図2は、車線保持装置の概略構成図を示す。図2の車両は所定の傾斜のあるカーブを右側輪を内輪側にして旋回している。
【0026】
車両の各輪の近傍には車輪が白線上を走行した際の振動を検出する振動センサ11FL〜11RRが設けられている(図では前輪の11FL、FRのみが示されている)。振動センサ11FL〜11RRは車輪の上下方向の変位を検出する位置であればどこに配設されてもよく、例えば、車輪と車体とを連結するアッパーアームやロアアームの一部やコイルスプリングの伸縮量が検出できる位置に配設される。振動センサ11FL〜11RRは、例えば圧電効果や静電容量の変化を利用したセンサである。なお、本実施の形態では凹凸を検出できればよいので、振動センサの代わりにマイクロフォンを備え音波を検出してもよい。
【0027】
各輪には車速を検出する車速センサ12FL〜12RRが配設されており各輪の回転速度を検出する。車速センサ12FL〜12RRは、例えば、各輪に備えられたロータの円周上に定間隔で設置された凸部が通過する際の磁束の変化をパルスとして検出する。
【0028】
また、車両には車体の車幅方向の傾斜角(ローリング方向)を検出する傾斜センサ13が配設されている。傾斜センサ13は、ジャイロ機構を利用したものや封入液面レベルの変化を電気的に検出するものが用いられる。
【0029】
操舵輪である前輪FL、FRには、周知のラックアンドピニオン式の操舵機構により連結されている。前輪FL、FRは操舵軸により舵角が与えられるものであり、操舵軸にはラック及びこれに噛合するピニオンが接続され、ピニオンにはステアリングホイールと連動して回転するステアリングシャフトが接続されている。
【0030】
ステアリングシャフトには同軸にギヤが取り付けられており、これに噛合するドライブギヤとこのドライブギヤを回転駆動する操舵モータ14とが備えられている。操舵モータ14が駆動信号に応じて回転すると回転トルクがドライブギヤを介しステアリングシャフトに伝達され、自動操舵が行われる。なお、操舵モータ14とドライブギヤとの間にはクラッチ機構が介挿されており、自動操舵制御時にのみクラッチ機構が締結されるようになっている。なお、本実施の形態では、車線を保持すべく自動操舵が可能な構成であればどのような操舵機構であってもよい。
【0031】
車両はこれらのセンサからの検出値を処理する電子回路を有し、また、電子回路の処理結果に応じて舵角(操舵モータ14)を制御する。電子回路の処理について説明する。振動センサ11FR〜11RRからの周波数及び車速センサ12FR〜RRからの車速パルスは適正速度検知回路21に入力され、適正速度検知回路21は周波数と車速パルスから走行している道路の設計速度を算出する。
【0032】
また、適正速度検知回路21が出力する設計速度と傾斜センサの検出値は適正舵角計算回路22に入力され、適正速度検知回路21は、設計速度及び傾斜角に基づき走行している道路(カーブ)の曲率半径を算出する。そして、適正舵角計算回路22は曲率半径に対し適切な舵角を出力する。オフセット補正回路23は、振動センサ11FR〜11RRの出力により車輪が白線上を走行したことを検出し、逸脱を防止する方向に舵角を補正する。
【0033】
図3は適正速度検知回路21の構成、並びに、設計速度及び曲率半径の計算の流れを示す図である。適正速度検知回路21には振動センサ11FR〜11RRの検出値が入力される。振動センサ11FR〜11RRが検出する振動は白線の1つの凸部についてバネ減衰の波形と類似したものとなるので、振動センサ11FR〜11RRはフィルタにより所定以上の振幅の波を通過させまた半波整流等を施し波形を整形する。白線上を一定速度で走行すれば、半波状の波形が連続して出力される。
【0034】
振動センサ11FR〜11RRの出力は矩形化回路21aに入力され矩形化された後に出力される。矩形化回路21aは半波から略一定形状の矩形波(パルス)を出力するものであればよく、例えば、コンパレータや簡単なA/D変換器により構成される。
【0035】
矩形化回路21aから出力される矩形波は積分回路21bに入力される。積分回路21bは入力された信号波形を時間について積分した信号波形に変換する回路である。時間について矩形波が積分されるため時間あたりの矩形波が大きいほど積分回路21bの出力も大きくなる。積分回路は予め定められた所定時間に入力される矩形波について積分する。
【0036】
積分回路21bは周知の構成、例えば、抵抗及びコンデンサの直列回路の両端を入力側とし、コンデンサの端子間を出力側とした回路(但し、時定数がパルス幅に比べ、非常に大きい)や、オペアンプの反転入力端子へ抵抗を介して矩形波を入力すると共に出力端子と反転入力端子をコンデンサを介して接続した回路等により構成される。
【0037】
除算回路21cには、予め格納してある定数21d及び積分回路21bの出力値が入力される。この定数21dは、その道路の設計速度で走行した場合に積分回路21bから出力される値である。上述したように道路毎に定められた設計速度で走行した場合は単位時間に検出する凹凸は一定であるので、定数21dは1つの定数として予め記憶しておくことができる。
【0038】
除算回路21cは定数21dを積分回路21bからの出力値で除算するので、除算回路21cは現在の車速と設計速度との比を出力することになる。除算回路21cは、アナログマルチプライヤ、デジタル除算器等により構成される。
【0039】
図3の右側の処理手順では、車輪速センサ12FR〜RRの出力は積分回路21eに入力される。車輪速センサ12FR〜RRの出力値はパルス(矩形波)であるので、そのまま積分回路21eは車速パルスを時間に対して積分する。
【0040】
積分回路21eの構成については積分回路21bと同様であるが、積分回路21eは、実際の車速〔km/h〕と一致する積分値を出力するように校正されている。
【0041】
ついで乗算回路21fは、積分回路21eの出力と除算回路21cの出力を乗算する。乗算により現在走行している道路の設計速度が算出される。乗算回路21fは、アナログマルチプライヤやワレストリー回路等のデジタル乗算器により構成される。以上の処理により、設計速度が算出される。
【0042】
設計速度及び傾斜角センサ13の出力は適正舵角計算回路22に入力される。カーブの設計では、曲率半径と設計速度に応じて傾斜角が推奨されるため、設計速度と傾斜角が既知となればそのカーブの曲率半径を推定することができる。
【0043】
図4は、曲率半径を推定するための演算式の一例を示す。演算式は設計速度毎に異なるため、演算式は設計速度に応じて選択される。図4の演算式ではxに傾斜角を入力すると曲率半径がyとして算出される。
【0044】
適正舵角計算回路22は、道路の傾斜角と設計速度が入力され場合に、図4の演算式と同様な計算をして出力するように構成された回路(例えば、ASIC (Application Specific Integrated Circuit))である。設計速度は10〜20〔km/h〕刻みに定められるので必要な回路の数はそれほど多くないが、設計速度毎に傾斜角xの係数を格納しておき、傾斜角xの計算後に各係数を乗算する。以上のような演算回路及び手順により走行しているカーブの曲率半径が出力される。
【0045】
続いて、舵角の計算について説明する。カーブの曲率半径が算出されたので、該曲率半径のカーブを走行するために適切な舵角は車両の諸元により算出可能である。
【0046】
図5は車両の平面視及び諸元と曲率半径の関係を示す図である。図5ではLはトレッド長、Wはホイールベース、pはキングピン軸間の距離、Roは外輪の回転半径、Riは内輪の回転半径である。曲率半径Rのカーブを走行する場合の内輪の操舵角をβ、外輪の操舵角をαとして、内輪から水平に対しβ傾けた直線を引き、外輪から水平に対しα傾けた直線を引くと、それらの直線と後輪の車軸を通る線との交点が得られ、交点におけるなす角がそれぞれ操舵角α及びβになる。
【0047】
これらの関係からα、βは次のように表すことができる。
α=sin−1[w/{Ro−(L−p)/2}] …(2)
β=sin−1[w/{Ri+(L−p)/2}] …(3)
曲率半径Rは回転半径Ro、Riの中央値としてよいので、Ri=R−L/2、Ro=R+L/2である。以上により、操舵角α及びβが求められる。
【0048】
適正舵角計算回路22は、式(2)又は式(3)の演算と同様な計算をして出力するように構成された回路を備える。算出された適正な舵角は操舵モータ14に出力されるので、操舵輪FR及びFLは走行しているカーブの曲率半径に基づき適正な舵角に制御され、車線を保持することができる。
【0049】
ところで、適正速度検知回路21により設定車速が検出されるので、設定車速で走行するように車両を制御してもよい。この場合、設定車速はエンジンECU及びブレーキECUに出力され、エンジンECUは設定車速にて走行するようにエンジンへの吸気通路の途中に配設されるスロットル弁の開度を制御する。また、ブレーキECUは設定車速を超過している場合にホイルシリンダの制動圧を増大させ車速を低減させる。
【0050】
以上の構成により、車線保持装置が車線保持制御を行う処理手順を図6のフローチャート図に基づき説明する。なお、図6の処理では既に一度は白線上を走行したことにより所定の操舵角度により操舵されているものとする。また、操舵角は、運転席から車両正面方向を向いて右方向がプラス、左方向がマイナスとする。
【0051】
走行中の車線保持装置は定期的に白線上を走行したことによる振動が検知されるか否かを判定している(S11)。ここでは、図7に示すように車両が内輪側(右側)の白線上を走行したものとする。
【0052】
振動を検出した場合(S11のYes)そのまま振動を検出したのは内輪側か外輪側か判定される(S12)。内輪により振動が検出された場合オフセット補正回路23は舵角を−Δ補正し(S18)、外輪により振動が検出された場合オフセット補正回路23は舵角を+Δ補正する(S19)。すなわち、オフセット補正回路23は白線上を走行した車輪と反対方向に操舵角をΔ補正し、操舵モータ14に出力する。なお、内輪又は外輪のいずれが白線を走行したかは振動を検出した振動センサにより既知である。
【0053】
図7の場合、オフセット補正回路23は左側に操舵角をΔだけ補正する。これにより、車両は左方向に向きを変え、内輪側の白線から離れ外輪側方向に走行する。
【0054】
振動を検出しない場合(S11のNo)、直前に振動を検出したのが内輪であったか否かを判定する(S13)。この判定は、舵角を切り足すか否か、切り足す場合、内輪又は外輪のいずれの方向に切り足すかを判定するためのものである。
【0055】
直前に内輪側で振動を検出していた場合、オフセット補正回路23は現在の舵角が舵角限界内か否か判定する(S14)。舵角限界は、走行道路の曲率半径に対して舵角が過大又は過小とならないように定めた最大又は最小の舵角である。
【0056】
舵角限界はどのように定めてもよいが、例えば、適正舵角計算回路22が算出した曲率半径Rに、標準車線幅員と拡幅量を見込んだ場合の曲率半径R_limに相当する舵角として決定できる。すなわち、曲率半径R_limは、例えば
R_lim=曲率半径R+(標準車線幅員+拡幅量)/2 …外輪側
R_lim=曲率半径R+(標準車線幅員−拡幅量)/2 …内輪側
である。適正舵角計算回路22は、このような限界の曲率半径R_limに基づき内輪側と外輪側の限界舵角をそれぞれ算出しておく。
【0057】
舵角限界内であった場合(S14のYes)、オフセット補正回路23は舵角を−Δ補正する(S20)。すなわち、外輪方向に舵角を切り足す。
【0058】
このように舵角を切り足すのは、振動を検出した場合に急激に操舵角を補正すると、車両がすぐに逆方向の車線に到達し蛇行が大きくなるため、振動を検出した場合には比較的小さい操舵量で補正することが好適となるからである。このため、振動を検出した側とは逆方向に少しずつ舵角の補正を繰り返す(本実施例では2回まで)。
【0059】
そして、舵角が操舵限界以上となった場合(S14のNo)、オフセット補正回路23は舵角を舵角限界(+)に設定する(S21)。舵角限界(+)はR_limに基づく外輪側の舵角限界を示す。操舵限界が設定されると車両は、いずれ外輪側(左側)の白線上を走行することになるが、外輪側の白線により振動を検出すると、以降は図7と逆方向(内輪側)への舵角制御を行う。すなわち、内輪側に舵角を補正する(S19)。
【0060】
ステップS13に戻り、直前に内輪側に振動を検出していない場合(S13No)、直前に外輪が振動を検知したか否かを判定する(S15)。
【0061】
直前に外輪が振動を検知した場合は(S15のYes)、内輪側(右側)に舵角を切り足す(S23)。なお、同様に舵角が限界内か否かを判定し(S16)、舵角限界以上の場合、舵角に限界舵角(−)を設定する(S22)。舵角限界(−)はR_limに基づく内輪側の舵角限界を示す。
【0062】
直前に内輪側及び外輪側のいずれも振動を検出していない場合(S13のNoかつS15のNo)、走行路の比較的中央を車両が走行していると判定できるので、そのままの舵角で走行を継続する(S24)。つまり、標準的な幅員の道路であれば、直前に内輪側及び外輪側のいずれも振動を検出しない状況となり、安定的な車線保持状態となる。
【0063】
以上のような処理により、車両は常に白線の内側を走行するように舵角が制御されることとなり、車線が保持される。
【0064】
本実施例では白線上に凹凸が設けられていることとしたが、白線とは別に白線の内側に凹凸のみが設けられている場合、車線を逸脱する可能性が更に低減するので、より安定的に車線を保持することができる。
【0065】
本実施例の車線保持装置によれば、車載カメラにより白線を検知することがないので、夜間や悪天候時でも車線を保持した走行が容易となる。また、設計速度や適正舵角はコンピュータがプログラムを実行して算出するのでなく電子回路により出力されるので、コンピュータに異常が生じるような状況でも正常に車線の保持が可能である。また、道路がカーブしている場合、車載カメラにより検出された走行路は精度が低下するが、本実施例の車線保持装置は凹凸を検出して車線を保持するので、カーブを走行する場合でも容易に車線を保持できる。
【0066】
ところで、本実施の形態の凹凸を所定の車両用のコース内の白線に設けてもよい。例えば、自動運転のためのコースでは、車両に次のような機能が搭載されている。
車線保持機能: 走行路面中央に埋設された磁気マーカに沿い自動操舵制御
隊列走行機能: 非連結な(電子連結による)隊列編成
速度維持機能: 運行ダイヤに基づき、駅停止・発車も含む自動速度制御
定点停止機能: 設定されたプラットホーム位置に各車両を正確に停車
衝突防止機能: 車々間通信及び地上信号装置等による自動ブレーキ制御
が可能となっている。
【0067】
自動運転用の車両に車線保持装置を搭載すれば、磁気マーカをロストした場合でも車線を保持できるので、自動運転時のフェイルセーフとして利用することができる。
【実施例2】
【0068】
実施例1のような車線保持装置を車載している場合、車線保持のための白線以外にも路面に凹凸を施工することで、車両に有効な運転支援を提供することができる。
【0069】
図8(a)は凹凸が形成された分岐帯の平面図を、図8(b)は分岐帯のAA’線断面図を示す。図8(a)では斜線部分が凹凸形成された領域であり、分岐帯に向かって右側の凹凸領域には右下がりの傾斜が、分岐帯に向かって左側の凹凸領域には左下がりの傾斜が設けられている。左右に分岐した道路を分岐帯に向かって走行している車両は、正常に操舵されていれば凹凸領域を走行せずに右又は左方向に分岐帯を通過する。
【0070】
分岐帯の存在に気づくのが遅れたり操舵を誤った場合、車両は凹凸領域を走行することになる。図9は凹凸領域を走行する車輪の状態の一例を示す。図9の右側に示すように右側の凹凸領域を走行する場合車両は右側に傾斜し、図9の左側に示すように左側の凹凸領域を走行する場合車両は左側に傾斜する。
【0071】
車両が凹凸領域を走行した場合、車線保持装置は凹凸が生じさせる振動及び車速から設計速度を検出できるので、例えば、設計速度になるように自動的に減速することができる。したがって、分岐帯の凹凸の間隔(設計速度)は、分岐帯に異常接近した場合でも衝撃を緩和されるように、小さい設計速度を示す間隔であることが好適となる。
【0072】
また、更に凹凸領域の傾斜を検出することで曲率半径が検出されるので、曲率半径に沿って走行するように自動的に車両が操舵され、分岐帯との衝突を回避できる。
【0073】
例えば、傾斜を大きめにつけておけば曲率半径も小さくなるので、回避のための操舵角が大きくなり、分岐帯との衝突を確実に回避できる。なお、凹凸領域には通常の走行路面に対して段差dが設けられているので、凹凸領域の走行開始時に左右いずれの車輪が先に凹凸領域を走行し始めたかを確実に検出できる。
【0074】
車両が全く傾斜せずに凹凸領域の走行を開始することもあり得るが、その場合でも、中央帯との正面へのコースは取りえない形状に凹凸領域の形状を施工する。このような設計は車両逸脱シミュレータにより算出できる。
【0075】
分岐帯の中央にはゴムなどの衝突吸収材やライトが配置され車両の進入を防止しているが、基本的にはコンクリート等の構造物を有するため、このように分岐帯の衝突を避ける自動操舵は非常に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】凹凸を有する白線の斜視図である。
【図2】車線保持装置の概略構成図である。
【図3】適正速度検知回路の構成及び曲率半径の計算の流れを示す図である。
【図4】曲率半径を推定するための演算式の一例である。
【図5】車両の平面視及び諸元と曲率半径の関係を示す図である。
【図6】車線保持装置が車線保持制御を行う処理手順を示すフローチャート図である。
【図7】車線内に保持される車両を示す図である。
【図8】凹凸が形成された分岐帯の平面図及び断面図である。
【図9】分岐帯の凹凸領域を走行する車輪の状態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
11FR〜11RR 振動センサ
12FR〜12RR 車速センサ
13 傾斜センサ
14 操舵モータ
21 適正速度検知回路
22 適正舵角計算回路
23 オフセット補正回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵角を制御する舵角制御手段と、
走行路の傾斜を検出する傾斜検出手段と、
車線近傍又は車線に設計速度に応じて設けられた凹凸を検出する凹凸検出手段と、
前記凹凸検出手段により検出した信号の周期性から当該走行路の設計速度を検出する設計速度検出手段と、を有し、
前記舵角制御手段は前記傾斜及び前記設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき前記舵角を決定する、
ことを特徴とする車線保持装置。
【請求項2】
前記舵角制御手段は、前記傾斜及び前記設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき当該走行路の曲率半径を算出し、該曲率半径に応じた前記舵角を決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の車線保持装置。
【請求項3】
車速を制御する車速制御手段を有し、
前記車速制御手段は、前記設計速度検出手段により検出された設計速度に車速を制御する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の車線保持装置。
【請求項4】
前記舵角制御手段は、走行路に沿って自動運転する自動運転装置を搭載した車両に搭載されている、ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の車線保持装置。
【請求項5】
道路の曲率半径、傾斜及び設計速度に所定の関係があるコースと、該コースを走行する車両とからなる車線保持システムにおいて、
前記コースは、前記設計速度に応じた凹凸を車線又は車線近傍に有し、
前記車両は、舵角を制御する舵角制御手段と、
道路の傾斜を検出する傾斜検出手段と、
前記凹凸を検出する凹凸検出手段と、
前記凹凸検出手段により検出した信号の周期性から当該走行路の設計速度を検出する設計速度検出手段と、を有し、
前記舵角制御手段は前記傾斜及び前記設計速度検出手段により検出された設計速度に基づき前記舵角を決定する、
ことを特徴とする車線保持システム。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−283876(P2007−283876A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112491(P2006−112491)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】