説明

車軸駆動装置

【課題】動力を摩擦変速装置・差動装置を介して車軸に伝達する車軸駆動装置では、摩擦変速装置と差動装置は別体で互いに離間して配置されるため、摩擦変速装置から差動装置までのリンク機構が必要となり、部品コストの増加等を招く、という問題があった。
【解決手段】摩擦変速部40は、エンジン3からの動力によって回転駆動する入力軸42と、該入力軸42に支持する駆動側回転ディスク43と、該駆動側回転ディスク43のディスク下面43aにディスク周縁44aが接触する従動側回転ディスク44とを備え、該従動側回転ディスク44を、リング状にして差動部41のデフケース45の外周に外嵌すると共に、該デフケース45の回転軸心に対して相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に支持することにより、前記摩擦変速部40を差動部41と一体化した変速差動ユニット11を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に備えた駆動源からの動力を摩擦変速装置と差動装置を介して車軸に伝達する車軸駆動装置に関し、特に、該車軸駆動装置の小型化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン等の駆動源からの動力を無段に変速して左右の車軸に伝達する摩擦式の変速装置(以下、「摩擦変速装置」とする)が知られている。
該摩擦変速装置とは、前記駆動源に作動連結される入力軸と、該入力軸に支持される駆動側回転ディスクと、前記入力軸と直交するように配設される出力軸と、該出力軸に対して相対回転不能に支持される従動側回転ディスクとを備えており、前記駆動側回転ディスクと従動側回転ディスクのうちの一方のディスク面を他方の周縁部に摩擦係合させると共に、該摩擦係合部の相対位置を変化させることにより、前記出力軸から、変速と正逆切換が可能な出力を得られるようにしたものである。
このような摩擦変速装置を使って、乗用の除雪機や芝刈機等の作業車両の駆動輪に、前後進切換可能な変速動力を伝達する車軸駆動装置が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
該車軸駆動装置においては、摩擦変速装置からの変速出力軸と左右の駆動輪の車軸とは、機体の前後で互いに平行に離間して配置され、該左右の車軸間は、前記差動装置により差動連結されると共に、該差動装置と前記変速出力軸との間には減速装置が介設されており、前記変速出力軸からの変速動力は、減速装置を介して後方の差動装置に入力されてから、左右の車軸に伝達される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−36836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような従来の車軸駆動装置では、摩擦変速装置と差動装置とは、別体であって、しかも互いに離間して配置されているため、摩擦変速装置から差動装置までのリンク機構が必要となり、ギア・中間軸等の伝達部材が増加し、部品点数増加による部品コストの増加、メンテナンス性の悪化を招く、という問題があった。
更に、前記摩擦変速装置は、駆動側回転ディスクと従動側回転ディスクとを直交配置し、該従動側回転ディスクを出力軸の軸方向に移動させて変速を行うという機構であるため、従動側回転ディスクの移動に必要な空間の分だけ、その設置空間が大きくなり、車軸駆動装置の大型化が避けられない、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、作業車両に備えた駆動源からの動力を摩擦変速装置と差動装置を介して車軸に伝達する車軸駆動装置において、前記摩擦変速装置は、前記動力によって回転駆動する入力軸と、該入力軸に支持する駆動側回転ディスクと、該駆動側回転ディスクのディスク面に周縁部が接触する従動側回転ディスクとを備え、該従動側回転ディスクを、リング状にして前記差動装置のデフケースの外周に外嵌すると共に、該デフケースの回転軸心に対して相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に支持することにより、前記摩擦変速装置を差動装置と一体化した変速差動ユニットを設けたものである。
請求項2においては、前記変速差動ユニットと車軸との間に減速装置を介設し、該減速装置からの減速出力軸を、前記変速差動ユニットからのユニット出力軸と略同一軸心上に配置するものである。
請求項3においては、前記変速差動ユニットと車軸との間に減速装置を介設し、該減速装置からの減速出力軸の軸心を、前記変速差動ユニットからのユニット出力軸の軸心に対して偏心させるものである。
請求項4においては、前記変速差動ユニットと減速装置とを単一のケース部材内に一緒に収容するものである。
請求項5においては、前記変速差動ユニットと減速装置とを異なるケース部材内に別々に収容するものである。
請求項6においては、前記駆動側回転ディスクのディスク面には、該ディスク面の回転中心部と前記従動側回転ディスクの周縁部との非接触域を設けるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1により、摩擦変速装置からの変速動力を差動装置内に直接入力することができ、摩擦変速装置から差動装置までのリンク機構が不要となり、該リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置の部品数減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を図ることができる。更に、摩擦変速装置の出力軸としてデフケースを利用し、該デフケースの周囲空間を従動側回転ディスクの移動に利用することができ、その分だけ摩擦変速装置の設置に必要な空間やケースを縮小し、車軸駆動装置の更なる小型化・軽量化を図ることができる。
請求項2により、ユニット出力軸と直結するようにして減速装置を設けることができ、ユニット出力軸から減速装置までの複雑な減速リンク機構が不要となり、該減速リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができる。これにより、一層の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化が図れる。
請求項3により、前記ユニット出力軸と減速出力軸のずれによって生じた空間に、様々な減速装置を配置することができ、変速比の増加や減少に柔軟に対応して、車軸駆動装置の汎用性を高めることができる。
請求項4により、前記変速差動ユニットと減速装置を同一部材内の空間を利用してコンパクトに組み込むことができると共に、各装置間の潤滑油や冷却油のための外部配管等が不要となる。これにより、一層の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化が図れる。
請求項5により、前記変速差動ユニットと減速装置の設置場所を自在に変更することができ、様々な仕様に対応して、車軸駆動装置の汎用性を高めることができる。
請求項6により、変速操作中に従動側回転ディスクの回転方向が反転する回転中心部の位置において、前記差動装置への動力伝達を確実に遮断してクラッチ「切」とし、安定した中立状態にすることができる。これにより、クラッチ機構を別途に設ける必要がなくなり、部品数減少が図れ、更に、クラッチ機構を用いて回転中心部から離間した位置でクラッチ操作を行う場合と比べて、より低速でクラッチ操作を行うことができ、変速ショックが小さくてすむと共に、クラッチ操作を一連の変速操作中に行うことができ、運転操作性も大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係わる車軸駆動装置2を備えた乗用芝刈機1の全体構成を示す側面図である。
【図2】車軸駆動装置2の背面一部断面図である。
【図3】同じく側面一部断面図である。
【図4】別形態の車軸駆動装置2Aの背面一部断面図である。
【図5】別形態の車軸駆動装置2Bの背面一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明に係わる車軸駆動装置2を備えた作業車両である乗用芝刈機1について、図1、図2により説明する。なお、該図1中の矢印Fで示す方向を乗用芝刈機1の前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの前進方向を基準とするものである。
【0009】
該乗用芝刈機1は、平面視矩形状の車体フレーム4を有し、該車体フレーム4における左右の側板部4a・4bの後部外側に、駆動輪としての左右の後輪5・5が配置されると共に、該後輪5・5間には、本発明に係わる車軸駆動装置2が配置されて前記側板部4a・4bに支持されており、該車軸駆動装置2から前記後輪5・5に走行動力が伝達されて、乗用芝刈機1を後輪駆動で走行できるようにしている。
【0010】
更に、前記車体フレーム4上には、前から順に、ステアリングカバー6、該ステアリングカバー6から上方に突出するステアリングコラム13、該ステアリングコラム13上端に回動可能に支持される操向ハンドル7、プラットフォーム8、運転席9、及びエンジン3が支持されており、該エンジン3の後部下方に、前記車軸駆動装置2が配置されている。
【0011】
加えて、前記運転席9の右側方には、変速レバー10が配置され、該変速レバー10は、前記車軸駆動装置2内に備えた変速操作機構36に対し、ワイヤケーブル37等のリンク機構を介して連係されており、該変速レバー10を傾倒操作することにより、前記変速操作機構36を介して、後述する変速差動ユニット11が操作され、差動連結した後輪5・5に無段階の変速動力が伝達できるようにしている。
【0012】
また、前記車体フレーム4の前端部の左右各端には、操向輪としての左右の前輪12・12が水平回動可能に支持される。そして、該左右の前輪12・12間を連結するリンク部中央に設けた図示せぬ枢支軸の上端は、ステアリングシャフト14の下端に連結され、該ステアリングシャフト14は、前記ステアリングコラム13内を通って、前記操向ハンドル7に連動連結されており、該操向ハンドル7の回動量および回動方向に基づいて、前記ステアリングシャフト14を介して、左右の前輪12・12の左右方向の向きを制御し、乗用芝刈機1の旋回操作が行えるようにしている。
【0013】
更に、前記車体フレーム4の下方で、前輪12・12と後輪5・5との間には、刈取作業を行うモア装置15が配置される。該モア装置15においては、モアデッキ16が、前記車体フレーム4の前部に、吊り下げリンク17を介して上下高さ調整可能に支持されると共に、該モアデッキ16内には、ブレード18、その駆動軸19、及び該駆動軸19上端に固設される従動プーリ20が内装されている。
【0014】
ここで、前記エンジン3とモア装置15・車軸駆動装置2との間には、ベルト伝動装置81が介設されている。該ベルト伝動装置81においては、前記エンジン3より垂設されたエンジン出力軸3aの下部に、上下の駆動プーリ82a・82bから成る2連プーリ82が固設され、このうちの下駆動プーリ82bと前記従動プーリ20とは、略同一水平面上に配置されると共に、該両プーリ20・82bとの間にはベルト21が緊張状態で巻回されている。
【0015】
これにより、作業時には、エンジン3からのエンジン動力が、前記エンジン出力軸3a、下駆動プーリ82b、ベルト21、従動プーリ20、及び駆動軸19を介して、前記ブレード18に伝達され、該ブレード18を回転させて芝刈作業が行えるようにしている。
【0016】
更に、前記上駆動プーリ82aよりも後方で略同一平面上に、前記車軸駆動装置2にエンジン動力を入力する入力プーリ83が配置されると共に、該両プーリ83・82aとの間にはベルト84が緊張状態で巻回されている。
【0017】
これにより、走行時には、エンジン3からのエンジン動力が、前記エンジン出力軸3a、上駆動プーリ82a、ベルト84、及び入力プーリ83を介して、車軸駆動装置2に伝達され、該車軸駆動装置2内の前記変速差動ユニット11により、前後進切換と変速が行えるようにしている。
【0018】
次に、前記車軸駆動装置2について、図1乃至図3により詳細に説明する。
該車軸駆動装置2の左右両端には、同一軸心上に左右一対の車軸26・26が設けられ、各車軸26の外端にはハブ27が固設され、該ハブ27が、前記後輪5のリム5b内に配置されている。該後輪5は、タイヤ5a、該タイヤ5a内周部に取り付けた環状の前記リム5b、及び該リム5bの円形開口内に固設されているホイル5cにより構成されており、該ホイル5cに前記ハブ27をボルト28で締結することにより、左右の後輪5・5は、それぞれの車軸26・26に連結される。
【0019】
また、前記車軸駆動装置2のハウジングである車軸駆動ケース23は、機体の左右略中央に配置される中央ケース部材24と、該中央ケース部材24の左右端開口に覆設する車軸ケース部材25・25と、同じく中央ケース部材24の上端開口に覆設するディスクカバー48とから成り、これら中央ケース部材24、車軸ケース部材25・25、及びディスクカバー48を互いに連結したものが、単一のケース部材として機能する。
【0020】
このうちの中央ケース部材24は、軸心方向略中央部で半径方向に膨出した大径部46と、該大径部46よりも径の小さい左右の小径部47・47とから構成されると共に、前記大径部46と小径部47・47との間には、いずれも隔壁46aが設けられている。
【0021】
ここで、前記車軸ケース部材25内には、前記車軸26の軸心方向途中部が、内外の軸受け39・39を介して軸支されると共に、該車軸ケース部材25の内端外周には、フランジ部25aが形成され、該フランジ部25aは、前記中央ケース部材24の小径部47の外端外周に形成したフランジ部47aに、図示せぬボルト等によって締結されている。
【0022】
これにより、小径部47内で、車軸ケース部材25・25の内端部25cと前記隔壁46aとに囲まれた空間に、第2室30が画成され、該第2室30内に、複合式遊星ギア機構から成る減速装置22が収容される。
【0023】
更に、前記大径部46内で、左右の隔壁46aと前記ディスクカバー48とに囲まれた空間には、第1室29が画成され、該第1室29内に前記変速差動ユニット11が収容されている。
【0024】
なお、前記車軸ケース部材25でフランジ部25aより外方の本体部25bは、前記車体フレーム4の側板部4a・4bに開口した図示せぬ支持孔に、内側から挿嵌固定されており、これにより、前記車軸駆動ケース23が車体フレーム4によって支持されている。
【0025】
また、以上のようなケース構造を有する車軸駆動ケース23内の前記変速差動ユニット11について説明する。
該変速差動ユニット11は、摩擦変速部40と差動部41とから構成される。
このうちの摩擦変速部40は、前記入力プーリ83を上端に固設して前記エンジン3からの動力によって回転駆動される入力軸42と、該入力軸42の下端に相対回転不能かつ上下方向摺動可能にスプライン結合される駆動側回転ディスク43と、該駆動側回転ディスク43のディスク下面43aにディスク周縁44aが接触する前記従動側回転ディスク44とから構成される。
【0026】
なお、前記駆動側回転ディスク43の上面と、前記ディスクカバー48で入力軸42を軸支するボス部48aの下端面との間には、入力軸42に巻回されたばね部材85が圧縮状態で介装されており、駆動側回転ディスク43のディスク下面43aは従動側回転ディスク44のディスク周縁44aに向けて常時付勢されている。これにより、ディスク下面43aとディスク周縁44aとの接触部分(以下、「摩擦係合部」とする)での摩擦力を増加させ、摩擦変速部40における動力伝達ロスを軽減させるようにしている。
【0027】
そして、該従動側回転ディスク44は、リング状であって、該リング内縁の溝部44bと、従動側回転ディスク44が外嵌されるデフケース45の外周の溝部45aとは、互いに噛合してスプライン結合されており、従動側回転ディスク44が、デフケース45に対して、相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に支持されている。
【0028】
ここで、該従動側回転ディスク44の軸心方向摺動は、前記変速操作機構36によって行われる。該変速操作機構36では、前記従動側回転ディスク44のボス部44cにおいて、その外周に溝状のシフト凹部44dが形成され、該シフト凹部44dには、シフトフォーク32のフォーク状の先部が係合され、該シフトフォーク32の基部32aは、シフト軸33に外嵌固定される。
【0029】
該シフト軸33の左端は、前記小径部47内部に形成された支持凹部47bに嵌入して支持される一方、シフト軸33の右端は、大径部46を貫通して突出され、その突出部に形成された係合溝部33aに、平面視L字状のベルクランク34の一方の端部34aが係合される。該ベルクランク34は、車軸駆動ケース23に設けた回転軸35を中心に揺動自在に取り付けられると共に、ベルクランク34の他方の端部34bには、前記ワイヤケーブル37の一端が連結されている。
【0030】
このような構成において、前記変速レバー10を傾倒操作すると、ワイヤケーブル37等のリンク機構を介して、ベルクランク34が回転軸35を中心に揺動し、該ベルクランク34によって前記シフト軸33が左右動される。すると、シフト軸33に固定したシフトフォーク32によって、前記従動側回転ディスク44が、スプライン結合されたデフケース45外周の溝部45a上を、前記第1室29内のデフケース45の周囲空間を利用して、軸心方向に摺動され、これにより、前記摩擦係合部の相対位置が変更される。
【0031】
例えば、摩擦係合部が、円形のディスク下面43a内の左右方向の直径上を移動する場合には、ディスク下面43aの回転中心部に相当する位置49では、従動側回転ディスク44は回転せずにデフケース45も停止したままであり、前記差動部41に動力が入力されない中立状態Nとなる。
【0032】
この際に、該中立状態Nを安定して維持できるよう、前記入力軸42の下端面42aと駆動側回転ディスク43のディスク下面43aとの間の隙間を利用して、中心凹部43bが形成されている。該中心凹部43bにおいては、駆動側回転ディスク43と従動側回転ディスク44との接触が防止されており、差動部41への動力伝達が確実に遮断されるようにしている。
【0033】
摩擦係合部を、前記位置49からディスク下面43aの最左端の位置50まで移動させると、その間に、回転中心部からの半径方向距離が増加し、摩擦係合部における周速も速くなる。すると、従動側回転ディスク44が駆動側回転ディスク43から受ける前進方向の回転力が無段で増加し、位置50では前進の最速状態Fとなる。
【0034】
逆に、摩擦係合部を、前記位置49からディスク下面43aの最右端の位置51まで移動させると、その間に、回転中心部からの半径方向距離が増加し、摩擦係合部における周速も速くなる。すると、従動側回転ディスク44が駆動側回転ディスク43から受ける後進方向の回転力が無段で増加し、位置51では後進の最速状態Rとなる。
【0035】
前記差動部41は、前記車軸26と同一軸心上のデフヨーク軸52・52と、該デフヨーク軸52・52と同一軸心を有するように前記中央ケース部材24内に支持された前記デフケース45と、前記デフケース45内においてデフヨーク軸52・52と直交配置されデフケース45と一体的に回転するピニオン軸53と、該ピニオン軸53の両端部に回転自在に配置されるピニオン54・54と、前記デフヨーク軸52・52の内端側に固定され前記ピニオン54・54に噛合されるデフサイドギア55・55とから構成される。
【0036】
前記デフケース45には、前述の如く、その外周に、摩擦変速部40の従動側回転ディスク44が相対回転不能かつ軸心方向摺動可能にスプライン結合されており、摩擦変速部40によって無段変速された変速動力を、そのままデフケース45内に入力し、差動回転可能にデフヨーク軸52・52に伝達するようにしている。
【0037】
また、前記減速装置22について説明する。
該減速装置22では、前記デフヨーク軸52の外端に第1サンギア56が固設されると共に、該第1サンギア56と、前記車軸26上で軸受け39・39よりも内側に設けた内端フランジ26aとの間にあって、前記デフヨーク軸52と同一軸心上には、第2サンギア57が相対回転可能に軸支され、これにより、減速装置22が、デフヨーク軸52の軸心周りに周設されている。そして、該第2サンギア57のボス部の内端部には、遊星ギアキャリア58が相対回転不能に外嵌されている。
【0038】
該遊星ギアキャリア58には、前記デフヨーク軸52と平行な遊星ギア軸59が植設され、該遊星ギア軸59上に、第1遊星ギア60が相対回転可能に外嵌されている。そして、該第1遊星ギア60は、前記第1サンギア56に常時噛合されると共に、前記中央ケース部材24の小径部47の内周面に形成されたリングギアであるインターナルギア部47cにも常時噛合されている。
【0039】
前記内端フランジ26aには、前記デフヨーク軸52と平行に遊星ギア軸61が支持され、該遊星ギア軸61を介して、第2遊星ギア62が内端フランジ26aに枢支されている。そして、該第2遊星ギア62は、前記第2サンギア57に常時噛合されると共に、前記インターナルギア部47cにも常時噛合されている。
【0040】
このような遊星ギア機構を介することにより、前記デフヨーク軸52から差動回転可能に伝達されてきた変速動力は、複雑な制動リンク機構を介することなく直接的に減速された後、そのまま前記遊星ギア軸61に公転動力として伝達され、車軸26を回転駆動するようにしている。
【0041】
すなわち、作業車両である乗用芝刈機1に備えた駆動源であるエンジン3からの動力を摩擦変速装置である摩擦変速部40と差動装置である差動部41を介して車軸26・26に伝達する車軸駆動装置2において、前記摩擦変速部40は、前記動力によって回転駆動する入力軸42と、該入力軸42に支持する駆動側回転ディスク43と、該駆動側回転ディスク43のディスク面であるディスク下面43aに周縁部であるディスク周縁44aが接触する従動側回転ディスク44とを備え、該従動側回転ディスク44を、リング状にして前記差動部41のデフケース45の外周に外嵌すると共に、該デフケース45の回転軸心に対して相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に支持することにより、前記摩擦変速部40を差動部41と一体化した変速差動ユニット11を設けたので、摩擦変速部40からの変速動力を差動部41内に直接入力することができ、摩擦変速部40から差動部41までのリンク機構が不要となり、該リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができ、車軸駆動装置2の部品数減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を図ることができる。更に、摩擦変速部40の出力軸としてデフケース45を利用し、該デフケース45の周囲空間を従動側回転ディスク44の移動に利用することができ、その分だけ摩擦変速部40の設置に必要な空間やケースを縮小し、車軸駆動装置2の更なる小型化・軽量化を図ることができる。
【0042】
更に、前記変速差動ユニット11と車軸26との間に減速装置22を介設し、該減速装置22からの減速出力軸である内端フランジ26aを、前記変速差動ユニット11からのユニット出力軸であるデフヨーク軸52と略同一軸心上に配置するので、デフヨーク軸52と直結するようにして減速装置22を設けることができ、デフヨーク軸52から減速装置22までの複雑な減速リンク機構が不要となり、該減速リンク機構を形成するための部品や設置するための配置空間を省略することができる。これにより、一層の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化が図れる。
【0043】
加えて、前記変速差動ユニット11と減速装置22とを単一のケース部材である車軸駆動ケース23内に一緒に収容するので、前記変速差動ユニット11と減速装置22を同一部材内の空間を利用してコンパクトに組み込むことがでると共に、各装置間の潤滑油や冷却油のための外部配管等が不要となる。これにより、一層の部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化が図れる。
【0044】
更に、前記駆動側回転ディスク43のディスク面であるディスク下面43aには、該ディスク下面43aの回転中心部と前記従動側回転ディスク44の周縁部であるディスク周縁44aとの非接触域である中心凹部43bを設けるので、変速操作中に従動側回転ディスク44の回転方向が反転する回転中心部の位置49において、前記差動装置である差動部41への動力伝達を確実に遮断してクラッチ「切」とし、安定した中立状態Nにすることができる。これにより、クラッチ機構を別途に設ける必要がなくなり、部品数減少が図れ、更に、クラッチ機構を用いて回転中心部から離間した位置でクラッチ操作を行う場合と比べて、より低速でクラッチ操作を行うことができ、変速ショックが小さくてすむと共に、クラッチ操作を一連の変速操作中に行うことができ、運転操作性も大きく向上する。
【0045】
なお、以下に、前記車軸駆動装置2の別形態について説明するが、前記車軸駆動装置2と異なる点を中心に説明すると共に、各要素に用いた符号と同じ符号は、同一または同等の機能を有する要素を指すものであり、同じ符号を付した要素については、特に必要としない限り、その説明は省略する。
【0046】
次に、前記車軸駆動装置2の別形態について、図4、図5により説明する。
図4に示す車軸駆動装置2Aは、図2に示す前記車軸駆動装置2における変速差動ユニット11と減速装置22とを分離させ、それぞれを、車体フレーム63と、該車体フレーム63にブラケット75を介して取り付けた減速ケース64という、別々のケース部材内に収容することにより、車軸駆動装置2の設置自由度を高めたものである。
【0047】
前記車体フレーム63は、前記車体フレーム4とは異なり、背面断面視で下方に開いた矩形状の部材が前後方向に延設されたものであって、左右の側板63a・63bと上板63cとから成り、該左右の側板63a・63bと上板63cとに囲まれた空間に、第1室78が画成されている。
【0048】
更に、前記上板63cには、前記変速差動ユニット11への入力軸42が回動可能に支持されると共に、前記側板63a・63bには、左右方向に同一軸心上を貫通するようにして、それぞれに、取付孔63a1・63b1が穿孔されている。そして、該取付孔63a1・63b1には、前記ブラケット75の内端部75aが内挿支持された上で、ボルト76により締結固定される。
【0049】
前記ブラケット75は、外方に開いた円錐台状であって、その円錐軸心上には、左右方向に外孔75dが穿孔され、該外孔75d内には、連結軸77が回動可能に軸支されている。そして、該連結軸77の内端には、前記デフヨーク軸52の外端が連結されると共に、該デフヨーク軸52を遊嵌支持する前記デフケース45の左右の縮径端部45b・45cは、前記外孔75dよりも内側で大径の内孔75cに回動可能に軸支されている。
【0050】
これにより、前記変速差動ユニット11を、前記車体フレーム63とブラケット75に支持した状態で、前記第1室78内に収容することができる。この場合、該車体フレーム63が変速差動ユニット11のケース部材としても機能するので、収容ケースを省略することができ、車軸駆動装置2Aの部品数減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上、及び小型化・軽量化を図ることができる。
【0051】
前記減速ケース64において、その内端開口には、前記ブラケット75の外端部75bが覆設されてボルト80により締結固定されており、該外端部75bと減速ケース64とに囲まれた空間に、第2室79が画成されている。
【0052】
ここで、前記連結軸77の外端は、前記ブラケット75の外端部75bを貫通して外方に突出され、その突出部には、前記第1サンギア56と略同じ構造の第1サンギア部77aが一体的に形成されている。
【0053】
そして、減速ケース64の外半部には、内外の軸受け39・39を介して前記車軸26が軸支されており、該車軸26から前記第1サンギア部77aまでの間に、該第1サンギア部77aに前記第1遊星ギア60、遊星ギアキャリア58等を加えて成る減速装置22Aが構成されている。
【0054】
これにより、前記減速装置22Aを、前記ブラケット75と減速ケース64に支持した状態で、前記第2室79内に収容することができる。この場合も前記車軸駆動装置2と同様に、内端フランジ68aとデフヨーク軸52とは、略同一軸心上に配置されている。
【0055】
以上のような構成において、単一の前記車軸駆動ケース23を、車体フレーム63と減速ケース64という二つのケース部材に分離することにより、例えば、走行性能を向上させたい場合には、前記車体フレーム63と減速ケース64を離間配置して左右の車輪間隔を拡大し、走行安定性を確保することができる。また、乗用芝刈機の小型化・軽量化を図りたい場合には、逆に、車体フレーム63と減速ケース64を連結するブラケット75を省く等して、左右の車輪間隔を縮小したり、部品数を減少させることができる。
【0056】
すなわち、前記変速差動ユニット11と減速装置22Aとを異なるケース部材である車体フレーム63内と減速ケース64内とに別々に収容するので、前記変速差動ユニット11と減速装置22Aの設置場所を自在に変更することができ、様々な仕様に対応して、車軸駆動装置2Aの汎用性を高めることができる。
【0057】
また、図5に示す車軸駆動装置2Bは、図2に示す車軸駆動装置2における変速差動ユニット11と減速装置22とを分離させると共に、複合式遊星ギア機構から成る該減速装置22の代わりに、大型の単純インターナルギア式遊星ギア機構から成る減速装置70を用いることにより、車軸駆動装置2の設置自由度と減速比を高めたものである。
【0058】
なお、本実施例では、各車軸71毎に車軸駆動装置2Bを設けて独立駆動可能としたもので説明するが、前記車軸駆動装置2Aのように、共通の変速差動ユニット11により左右の車軸26を駆動する構成としてもよい。
【0059】
該車軸駆動装置2Bにおいて、変速差動ユニット11は、前記車軸駆動装置2Aと同様に、前記車体フレーム63内の第1室78内に収容される。そして、該車体フレーム63の側板63aには取付孔63a1が穿孔され、該取付孔63a1に、前記ブラケット75と同様なブラケット86の内端部86aが内挿支持される。
【0060】
該ブラケット86には、左右方向に、外孔86cが穿孔され、該孔86c内に前記連結軸77が回動可能に軸支されている。そして、該連結軸77の内端は、前記デフヨーク軸52に軸心89上で連結されると共に、該連結軸77の外端は、ブラケット86の外端部86bを貫通して外方に突出され、その突出部には、第1サンギア部77aが一体的に形成されている。
【0061】
更に、前記外端部86bは、前記外孔86cよりも下方に延出して形成されており、該外端部86bの側面視上部に、前記軸心89が配置されるようにしている。そして、該外端部86bの外側には、ボルト80によって減速ケース87が締結固定され、該外端部86bと減速ケース87とに囲まれた空間に、第2室88が画成され、該第2室88内に、前記減速装置70が収容されている。
【0062】
該減速ケース87においては、その側面視略中央位置に車軸71が配置されていることから、該車軸71の軸心90は、前記外端部86bの側面視中央部に配置されることとなり、該軸心90は前記軸心89に対して下方に大きく偏心した位置に配置される。
【0063】
更に、このように偏心した車軸71は、その途中部が減速ケース87の左半部に、内外の軸受け39・39を介して軸支されると共に、車軸71の内端部には、大径のインターナルギア71aが設けられ、該インターナルギア71a内周のギア部71a1に、前記第1サンギア部77aが噛合されるようにして、前記減速装置70が形成されている。
【0064】
以上のような構成において、前記デフヨーク軸52から差動回転可能に伝達されてきた変速動力を、単純インターナルギア式遊星ギア機構から成る減速装置70によって大きく減速した後に、車軸71に伝達することができる。更に、このような減速比の大きい大型の減速装置70のための配置空間は、前記車軸71をデフヨーク軸52から大きくずらして配置することにより、確保するようにしている。
【0065】
すなわち、前記変速差動ユニット11と車軸71との間に減速装置70を介設し、該減速装置70からの減速出力軸である車軸71の軸心90を、前記変速差動ユニット11からのユニット出力軸であるデフヨーク軸52の軸心89に対して偏心させるので、前記デフヨーク軸52と車軸71のずれによって生じた空間に、様々な減速装置70を配置することができ、変速比の増加や減少に柔軟に対応して、車軸駆動装置2Bの汎用性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、作業車両に備えた駆動源からの動力を摩擦変速装置と差動装置を介して車軸に伝達する、全ての車軸駆動装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 乗用芝刈機(作業車両)
2 車軸駆動装置
3 エンジン(駆動源)
11 変速差動ユニット
22・22A・70 減速装置
23 車軸駆動ケース(単一のケース部材)
26 車軸
26a 内端フランジ(減速出力軸)
40 摩擦変速部(摩擦変速装置)
41 差動部(差動装置)
42 入力軸
43 駆動側回転ディスク
43a ディスク下面(ディスク面)
43b 中心凹部(非接触域)
44 従動側回転ディスク
44a ディスク周縁(周縁部)
45 デフケース
52 デフヨーク軸(ユニット出力軸)
63 車体フレーム(異なるケース部材)
64 減速ケース(異なるケース部材)
71 車軸(減速出力軸)
89・90 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両に備えた駆動源からの動力を摩擦変速装置と差動装置を介して車軸に伝達する車軸駆動装置において、前記摩擦変速装置は、前記動力によって回転駆動する入力軸と、該入力軸に支持する駆動側回転ディスクと、該駆動側回転ディスクのディスク面に周縁部が接触する従動側回転ディスクとを備え、該従動側回転ディスクを、リング状にして前記差動装置のデフケースの外周に外嵌すると共に、該デフケースの回転軸心に対して相対回転不能かつ軸心方向摺動可能に支持することにより、前記摩擦変速装置を差動装置と一体化した変速差動ユニットを設けたことを特徴とする車軸駆動装置。
【請求項2】
前記変速差動ユニットと車軸との間に減速装置を介設し、該減速装置からの減速出力軸を、前記変速差動ユニットからのユニット出力軸と略同一軸心上に配置することを特徴とする請求項1に記載の車軸駆動装置。
【請求項3】
前記変速差動ユニットと車軸との間に減速装置を介設し、該減速装置からの減速出力軸の軸心を、前記変速差動ユニットからのユニット出力軸の軸心に対して偏心させることを特徴とする請求項1に記載の車軸駆動装置。
【請求項4】
前記変速差動ユニットと減速装置とを単一のケース部材内に一緒に収容することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車軸駆動装置。
【請求項5】
前記変速差動ユニットと減速装置とを異なるケース部材内に別々に収容することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車軸駆動装置。
【請求項6】
前記駆動側回転ディスクのディスク面には、該ディスク面の回転中心部と前記従動側回転ディスクの周縁部との非接触域を設けることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載の車軸駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83319(P2013−83319A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224152(P2011−224152)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】