説明

軌道輪部材の製造方法

【課題】外周面に軸方向外寄り部分に支持フランジ7aを、内周面に複列の外輪軌道5、5を、それぞれ有するハブ10の如き軌道輪部材の製造方法を改良し、これら両軌道輪5、5の転がり疲れ寿命を確保する。
【解決手段】(A)→(B)の第一の据え込み工程と、(B)→(C)の剪断・押し出し工程と、(C)→(D)の第二の据え込み工程と、(D)→(E)の打ち抜き工程を経て、素材16を第四中間素材20に加工する。上記剪断・押し出し工程では、軸方向他端面に開口する断面円形の凹孔37の周囲を主円筒部36とした第二中間素材18を得る。上記第二の据え込み工程では、一部の金属材料を径方向外方に移動させ、上記支持フランジ7aを形成する。上記第四中間素材20のうちで外輪軌道5、5を形成すべき部分に、上記素材16を構成する金属材料のうちで径方向中間部の金属材料13を存在させて、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪及びブレーキディスク等の制動用回転部材を懸架装置に対して回転自在に支持する為に利用する、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する軌道輪部材の製造方法の改良に関する。本発明の製造方法の対象となる軌道輪は、内周面の軸方向2個所位置に複列の外輪軌道を、外周面のうちでこれら両外輪軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えたものである。この様な軌道輪部材は、上記車輪支持用転がり軸受ユニットが内輪回転型の場合には、懸架装置に結合固定される外輪が、同じく外輪回転型の場合には、車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転するハブが、それぞれ相当する。更には、上記車輪支持用転がり軸受ユニットが内輪回転型で駆動輪用の場合には、内輪と組み合わされてハブを構成するハブ本体も、上記軌道輪部材となり得る。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を構成するホイール、及び、制動用回転部材であるディスク或いはドラムを懸架装置を構成するナックルに回転自在に支持する為に、車輪支持用転がり軸受ユニットが広く使用されている。この様な車輪支持用転がり軸受ユニットとして一般的には、図6に示した内輪回転型のものが使用されているが、一部では、図7に示した様な外輪回転型のものも使用されている。
【0003】
先ず、図6に示した内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数の転動体4、4を介して、回転自在に支持している。使用状態では、上記外輪2を上記ナックルに結合固定し、上記ハブ3に車輪及び制動用回転部材を支持固定する。この為に、上記外輪2の内周面の2個所位置に複列の外輪軌道5、5を、外周面の軸方向内寄り部分(軸方向に関して内とは、使用状態で車体の幅方向中央側となる側を言い、図1〜5、10の下側、図6〜8の右側。反対に、使用状態で車体の幅方向外側となる、図1〜5、10の上側、図6〜8の左側を、軸方向に関して外と言う。本明細書全体で同じ。)に、特許請求の範囲に記載した外向フランジである取付部6を、それぞれ形成している。一方、上記ハブ3の外周面には、上記外輪2よりも軸方向外方に突出した外端寄り部分に、車輪及び制動用回転部材を支持固定する為の支持フランジ7を、軸方向中間部乃至内端寄り部分に複列の内輪軌道8、8を、それぞれ形成している。そして、これら両列の内輪軌道8、8と上記両列の外輪軌道5、5との間に、両列毎に複数個ずつの転動体4、4を配置して、上記外輪2の内径側での上記ハブ3の回転を自在としている。
【0004】
又、図7に示した、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、それぞれの外周面に内輪軌道8、8を形成した1対の内輪9、9の周囲にハブ10を、複数個の転動体4、4を介して回転自在に支持している。使用状態では上記両内輪9、9を、懸架装置に設けた車軸に外嵌固定し、上記ハブ10に車輪及び制動用回転部材を支持固定する。この為にこのハブ10の内周面の2個所位置に複列の外輪軌道5、5を、外周面の軸方向外寄り部分に、特許請求の範囲に記載した外向フランジである支持フランジ7aを、それぞれ形成している。そして、上記両列の内輪軌道8、8と上記両列の外輪軌道5、5との間に、両列毎に複数個ずつの転動体4、4を配置して、上記両内輪9、9の外径側での上記ハブ10の回転を自在としている。尚、図示の例では、転動体4、4として玉を示したが、重量の嵩む車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、転動体として円すいころを使用する場合もある。
【0005】
図6に示した車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する外輪2、或いは、図7に示した車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成するハブ10の如き、内周面の軸方向2個所位置に複列の外輪軌道を、外周面のうちでこれら両外輪軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えた軌道輪部材は、鍛造加工と切削加工及び研削加工とを組み合わせて造る。例えば、特許文献1には、図8に示す様な、駆動輪用で内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1bを構成する外輪2a、及び、内輪9aと組み合わされてハブ3aを構成するハブ本体11の加工方法に就いて記載されている。即ち、上記ハブ本体11は、図9の(A)に示す様な工程により、上記外輪2aは、図9の(B)に示す様な工程により、それぞれ素材に鍛造加工を施して完成品に近い形状を有する中間素材とする。そして、この中間素材に、必要な切削加工及び研削加工を施して、上記外輪2a或いは上記ハブ本体11とする。
【0006】
ところで、車輪支持用転がり軸受ユニット用の軌道輪部材を造る為の素材は、鉄鋼メーカーで押し出し成形された、断面円形の長尺材を所定長さに切断する事で造られた、円柱状のものを使用する。この様にして得られる円柱状の素材の組成(清浄度)は均一でない事が、特許文献2に記載される等により、従来から知られている。即ち、上記素材の中央部40%の範囲(中心から半径の40%までの中央寄り円柱状部分)は、非金属介在物が存在し易い事が、上記特許文献2に記載される等により、従来から知られている。又、上記素材の外径寄り20%の範囲(中心から半径の80%よりも外周面側に存在する円筒状部分)に関しても、酸化物や非金属介在物が存在し易い等により、清浄度が低い事が知られている。そして、中心寄り、外周面寄り、何れの部分に存在する金属材料にしても、清浄度が低い金属材料が軌道輪部材の周面に設けた軌道面のうちで、特に転動体の転動面が転がり接触する部分に露出すると、この部分の転がり疲れ寿命の確保が難しくなる。
【0007】
これらの事を考慮し、且つ、素材中の酸化物や非金属介在物の分布のばらつきや、製造作業時に発生する(押圧力等の)各種ばらつきを考慮した場合、上記素材の中央部50%の範囲、及び、上記素材の外径寄り30%の範囲に存在する金属材料が、軌道面のうちで、少なくとも転動面が転がり接触する部分に露出しない様にする事が好ましい。言い換えれば、上記軌道面のうちの少なくとも転動面が転がり接触する部分には、上記素材のうちで、中心からの半径が50〜70%の範囲である、中間円筒状部分に存在する金属材料を露出させる事が好ましい。
【0008】
ところが、本発明の製造方法の対象となる様な、周面の軸方向2個所位置に複列の軌道を、外周面のうちでこれら両軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えた軌道輪部材を鍛造加工により造る場合、上記中間円筒状部分を上記両軌道面に露出させる事が難しい。例えば、前記特許文献2に記載された様な方法で、前記図7に示した車輪支持用転がり軸受ユニット1aのハブ10を造ると、素材中の各部の金属材料、即ち、中心から半径の50%までの中央寄り円柱状部分の金属材料12と、中心からの半径が50〜70%の範囲である、中間円筒状部分に存在する金属材料13と、外径寄り30%の範囲の外径寄り円筒状部分に存在する金属材料14とは、図10に示す様に、上記ハブ10中に分布する。このハブ10は、鍛造加工により図10に実線で示した中間素材15を造った後、切削加工及び研削加工により、この図10に鎖線で示す状態にまで上記中間素材15を削り取り、上記ハブ10として完成する。
【0009】
この様な中間素材15とハブ10とを示した図10中、斜格子で示した、上記中間円筒状部分に存在する金属材料13が、1対の外輪軌道5、5部分に露出すれば、これら両外輪軌道5、5の転がり疲れ寿命を確保し、上記ハブ10を含む上記車輪支持用転がり軸受ユニット1aの耐久性確保を図り易くなる。ところが、上記図10から明らかな通り、従来の製造方法により上記ハブ10を造ると、上記中央寄り円柱状部分の金属材料12が、上記両外輪軌道5、5の表面に露出する。即ち、軸方向外側の外輪軌道5に関しては、その全体に上記中央寄り円柱状部分の金属材料12が露出する。又、軸方向内側の外輪軌道5に関しても、転動体の接触角の方向(転動体荷重の作用方向)に関して、上記中央寄り円柱状部分の金属材料12が露出若しくは表層部に存在する状態となる。この為、従来から知られている軌道輪部材の製造方法では、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1aの耐久性確保を図る為の設計の自由度が限られる。
【0010】
【特許文献1】特開2005−83513号公報
【特許文献2】特開2006−250317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、内外両周面のうちの何れかの周面の軸方向2個所位置に複列の軌道を、外周面のうちでこれら両軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えた軌道輪部材を、円柱状の素材を塑性変形させる事により造る場合に、上記両軌道のうち、少なくとも転動体荷重が作用する部分に、素材のうちで清浄度の高い中間円筒状部分の金属材料を露出させられる、軌道輪部材の製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の軌道輪部材の製造方法は、円柱状の素材を塑性変形させる事により、内外両周面のうちの何れかの周面の軸方向2個所位置に複列の軌道を、外周面のうちでこれら両軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えた軌道輪部材とする。
特に、請求項1に記載した軌道輪部材の製造方法に於いては、第一の据え込み工程と、剪断・押し出し工程と、第二の据え込み工程とを備える。
このうちの第一の据え込み工程では、上記素材を軸方向に押し潰して、第一中間素材とする。
又、上記剪断・押し出し工程では、ダイスにより周囲を囲まれる空間内で上記第一中間素材を、1対のパンチにより軸方向に押圧し、軸方向他端面に開口する断面円形の凹孔を有し、この凹孔の周囲を円筒部とした第二中間素材とする。
更に、上記第二の据え込み工程では、この第二中間素材の軸方向一端寄り部分を軸方向に圧縮して金属材料を径方向外方に移動させ、上記外向フランジを形成する。
【0013】
上述の様な本発明の軌道輪部材の製造方法を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記軌道輪部材の内外両周面のうちの何れかの周面を内周面とし、この内周面の軸方向2個所位置に複列の外輪軌道を設ける。
この様な請求項2に記載した態様で本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した様に、上記第一の据え込み工程で、上記第一中間素材の軸方向一端面中央部に凹部を形成する。又、上記剪断・押し出し工程で使用する1対のパンチのうち、上記第一中間素材の軸方向一端面を押圧する一方のパンチとして、先端面中央部に押圧面側凹部を設けたものを使用する。そして、上記剪断・押し出し工程で、上記第一中間素材の径方向外寄り部分を他方のパンチの外周面とダイスの内周面との間の円筒状空間に押し出して、円筒部を形成する。又、上記第一中間素材の軸方向一端部径方向中央寄り部分を上記押圧面側凹部に向け、1対の外輪軌道を形成すべき部分から軸方向一端側に離れる方向に変形させる。
【0014】
又、上述の様な請求項2に記載した態様で、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した様に、上記第二中間素材を塑性変形させて外向フランジを形成する第二の据え込み工程の際に、この第二中間素材に設けた円筒部の内周面に存在する、1対の外輪軌道となるべき部分に、金属材料を移動させない。
或いは、請求項5に記載した様に、上記第二の据え込み加工で、軸方向一端面中央部に、円筒部の内径側に存在する凹孔と同心の第二の凹孔を形成し、その後、これら凹孔と第二の凹孔との間に存在する隔壁部を打ち抜き除去する。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明の軌道輪部材の製造方法によれば、周面のうちの軸方向に離隔した2個所位置に形成した両軌道のうち、少なくとも転動体荷重が作用する部分に、素材のうちで清浄度の高い中間円筒状部分の金属材料を露出させられる。この為、上記両軌道の転がり疲れ寿命を確保し、これら両軌道を備えた軌道輪部材を含む車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性確保の為の設計の自由度向上を図れる。
【0016】
特に、請求項2〜4に記載した発明の軌道輪部材の製造方法によれば、外輪或いはハブである軌道輪部材の内周面のうちの軸方向に離隔した2個所位置に形成した1対の外輪軌道のうちの、少なくとも転動体荷重が加わる部分に、上記中間円筒状部分の金属材料を効果的に露出させられる。
又、請求項5に記載した発明の軌道輪部材の製造方法によれば、無駄な金属材料を除去して、軽量な車輪支持用転がり軸受ユニットを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜5は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の製造方法は、図1の(A)に示した、中炭素鋼、軸受鋼、浸炭鋼の如き鉄系合金等の、塑性加工後に焼き入れ硬化可能な、金属製で円柱状の素材16に、順次、塑性加工或いは打ち抜き加工を施す。そして、(B)に示した第一中間素材17、(C)に示した第二中間素材18、(D)に示した第三中間素材19を経て、(E)に示した第四中間素材20を得る。更に、この第四中間素材20に、必要とする切削加工及び研削加工を施して、前述の図7に示した様な、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成するハブ10とする。以下、上記素材16を上記第四中間素材20に加工する工程に就いて、順番に説明する。尚、以下の加工は、基本的には総て熱間若しくは温間で行なうが、小型のハブを形成する場合等、可能であれば、冷間で行なっても良い。
【0018】
先ず、第一の据え込み工程で、図1の(A)→(B)に示す様に、上記素材16を軸方向に押し潰しつつ外径を拡げ、この素材16を上記第一中間素材17とする。本例の場合には、この様な第一の据え込み工程の際に、この第一中間素材17の軸方向一端面{図1の(B)の上端面、軸方向外端面}中央部に凹部21を、軸方向他端面{図1の(B)の下端面、軸方向内端面}外径寄り部分に円環状の突条22を、それぞれ形成する。この為に、上記素材16を軸方向両側から押し潰す為の1対の金型のうち、一方(上方)の金型としてその押圧面(下面)に上記凹部21に見合う突部を設けたものを、他方(下方)の金型としてその押圧面(上面)に上記突条22に見合う凹溝を設けたものを、それぞれ使用する。この様な第一の据え込み工程で、上記素材16を上記第一中間素材17に塑性加工する事に伴い、中央寄り円柱状部分の金属材料12と、中間円筒状部分の金属材料13と、外径寄り円筒状部分の金属材料14との分布状況が、図4の(A)→(B)に示す様に変化する。
【0019】
次の剪断・押し出し工程で、図1の(B)→(C)に示す様に、上記第一中間素材17を前記第二中間素材18に塑性加工する。この様な剪断・押し出し工程では、図2に示す様に、ダイス23により周囲を囲まれる空間内で上記第一中間素材17を、特許請求の範囲の1対のパンチである、押圧パンチ24とカウンターパンチ25とにより軸方向に押圧する。上記ダイス23に形成した成形孔26の内周面は、上半部を、軸方向に関して内径が変化しない円筒面部27とし、下半部を、下方に向かうに従って内径が漸次小さくなる複合曲面部28としている。この複合曲面部28は、上記第二中間素材18及び前記第三中間素材19の軸方向内半部の外周面の形状に見合う(凹凸反転した)形状としている。図示の例では、上記複合曲面部28の軸方向外端部の直径を、軸方向外方に向かう程急激に大きくして、上記円筒面部27と連続させている。
【0020】
又、上記両パンチ24、25のうち、押圧パンチ24の外周面は、上記成形孔26の円筒面部27に、金属材料が侵入する程の隙間なく嵌合する、円筒面としている。又、上記押圧パンチ24の先端面(下端面)は、中央部に押圧側凹孔29を形成し、この押圧側凹孔29の周囲を環状押圧部30により囲んでいる。この環状押圧部30の内周面側の断面形状は、ほぼ四分の一の円弧状である。尚、上記剪断・押し出し工程を実施する際には、上記押圧パンチ24は前記ダイス23に対し、プレス加工機のラムにより下降させる。
【0021】
更に、上記カウンターパンチ25は、上記成形孔26の複合曲面部28の内径よりも小さな外径を有する。又、このカウンターパンチ25の外周面でこの複合曲面部28と対向する部分の形状は、上記第二中間素材18及び前記第三中間素材19の軸方向内半部の内周面の形状に見合う(凹凸反転した)形状としている。即ち、上記カウンターパンチ25の外周面の軸方向中間部には、軸方向内側の外輪軌道5(図3の鎖線参照)となるべき凹曲面部を形成する為の、凸曲面状段部31を形成している。
【0022】
この様なカウンターパンチ25は、上記成形孔26の内側に固定された状態で、上記剪断・押し出し工程を実施する際にも動く事はない。但し、上記カウンターパンチ25の外周面と上記成形孔26の内周面との間には、円筒状の押し出しパンチ32を昇降可能に設けている。この押し出しパンチ32は、上記剪断・押し出し工程の進行時には図2に示した位置に留まり、金属材料により押圧されても動く(下方に変位する)事はない。これに対して、上記剪断・押し出し工程による上記第二中間素材18の成形を完了し、上記押圧パンチ24が上昇した後には上昇し、この第二中間素材18を上記カウンターパンチ25の外周面と上記成形孔26の内周面との間から上方に押し出す(排出する)。
【0023】
それぞれが上述の様な形状を有する、ダイス23と押圧パンチ24とカウンターパンチ25とから成る、剪断・押し出し装置を使用して、前記第一中間素材17を上記第二中間素材18に加工するには、先ず、図2の左半部に示す様に、この第一中間素材17を上記ダイス23内にセットする。次いで、プレス加工機のラムにより上記押圧パンチ24を、下方に押圧し、この押圧パンチ24の先端面で上記第一中間素材17を、上記カウンターパンチ25に向けて強く押圧する。
【0024】
このカウンターパンチ25と上記押圧パンチ24とにより軸方向両側から強く挟持された、上記第一中間素材17のうち、外径寄り部分は前記環状押圧部30により下方に押圧されて、図2の矢印α1 →α2 に示す様に、上記成形孔26の複合曲面部28と上記カウンターパンチ25の外周面との間の円筒状キャビティ33内に押し込まれ、特許請求の範囲に記載した円筒部である、主円筒部36を構成する。この主円筒部36の内側の空間が、特許請求の範囲に記載した凹孔(37)である。これに対して、上記第一中間素材17の径方向中央寄り部分は、上記押圧パンチ24の下降の反作用として、上記カウンターパンチ25の先端面(上端面)により、この押圧パンチ24の先端面中央部に設けた押圧側凹孔29内に、図2の矢印β1 →β2 に示す様に押し込まれる。
【0025】
要するに、上記第一中間素材17のうちで径方向中央部と径方向外寄り部分とを、上記カウンターパンチ25と上記押圧パンチ24とにより軸方向両側から強く挟持する事で、上記第一中間素材17に剪断力を発生させる。そして、この第一中間素材17のうちの外径寄り部分の金属材料を上記円筒状キャビティ33内に押し出し、径方向中央寄り部分の金属材料を上記押圧側凹孔29内に押し込む。この様な剪断・押し出し工程で、上記第一中間素材17を上記第二中間素材18に塑性加工する事に伴い、中央寄り円柱状部分の金属材料12と、中間円筒状部分の金属材料13と、外径寄り円筒状部分の金属材料14との分布状況が、図4の(B)→(C)に示す様に変化する。
【0026】
次の第二の据え込み工程で、図1の(C)→(D)に示す様に、上記第二中間素材18を前記第三中間素材19に塑性加工する。この様な第二の据え込み工程では、鍛造加工の分野で広く知られている方法により、この第二中間素材18の軸方向外端寄り部分を軸方向に圧縮して、金属材料を径方向外方に移動させる。そして、外周面に、特許請求の範囲に記載した外向フランジである支持フランジ7aを形成した、上記第三中間素材19とする。この様な支持フランジ7aを形成する為の第二の据え込み加工を行なうには、先ず、上記第二中間素材18を分割式の受型内にセットする。この受型の内面形状は、造るべき上記第三中間素材19のうち、軸方向外端部に形成すべきパイロット部34(図3の鎖線参照)を形成すべき円筒部35の内面部分の形状に一致している。
【0027】
特に、本例の場合には、上記第二中間素材18を上記第三中間素材19に加工する際に、この第二中間素材18に設けた主円筒部36の内周面に存在する、1対の外輪軌道5、5(図3の鎖線参照)となるべき部分に金属材料を移動させない。この為に、上記受型のうち、上記支持フランジ7aよりも軸方向内方に突出している、上記主円筒部36を保持する部分の内面形状は、この主円筒部36の外面との間に、金属材料の流動に結び付く様な隙間を介在させない形状としている。
【0028】
一方、上記第二中間素材18の軸方向外端寄り部分を軸方向に圧縮する為のパンチは、この第二中間素材18の軸方向外端面の外径よりも小さな外径を有し、先端面外周縁部を断面円弧状の凸曲面としている。上記第二の据え込み工程では、この様なパンチを上記第二中間素材18の軸方向外端面中央部にを押し付けて、この中央部を軸方向に押し潰し、この部分の金属材料を径方向外方に移動させ、上記支持フランジ7aを形成する。上記パンチが押し込まれた部分が、第二の凹孔38となる。同時に、この第二の凹孔38の周囲に、上記円筒部35を形成する。この様な第二の据え込み工程で、上記第二中間素材18を上記第三中間素材19に塑性加工する事に伴い、中央寄り円柱状部分の金属材料12と、中間円筒状部分の金属材料13と、外径寄り円筒状部分の金属材料14との分布状況が、図4の(C)→(D)に示す様に変化する。
【0029】
そして、最後に、図1の(D)→(E)に示す様に、前記凹孔37と上記第二の凹孔38との間に存在する隔壁部39を、プレス加工等により打ち抜き除去し、前記第四中間素材20とする。この第四中間素材20は、完成後のハブ10(図3の鎖線参照)よりも厚肉である。そこで、この第四中間素材20に、所定の切削(旋削)加工及び研削加工を施して、上記ハブ10として完成する。図5に、上記第三中間素材19の段階での、上記各金属材料12〜14の分布状態と、完成後のハブ10の断面形状とを示している。この様な図5から明らかな通り、本例のハブ10の製造方法によれば、このハブ10の内周面のうちの軸方向に離隔した2個所位置に形成した両外輪軌道5、5のうち、少なくとも転動体荷重が作用する部分に、素材のうちで清浄度の高い中間円筒状部分の金属材料13を露出させられる。この為、上記両外輪軌道5、5の転がり疲れ寿命を確保し、これら両外輪軌道5、5を備えたハブ10を含む車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性確保の為の設計の自由度向上を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
上述の説明は、本発明の軌道輪部材の製造方法により、前述の図7に示した様な、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成するハブ10を造る場合を中心に説明した。但し、本発明の軌道輪部材の製造方法は、前述の図6に示した様な、内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する外輪2を造る場合に利用する事もできる。更には、前述の図8に示した様な、駆動輪用で内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット1bを構成するハブ本体11を造る場合に利用する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の軌道輪部材の製造方法の実施の形態の1例を工程順に示す、素材乃至第四中間素材の断面図。
【図2】剪断・押し出し加工の実施状況を、左半部の加工前の状態と右半部の加工後の状態とで示す断面図。
【図3】第四中間素材の断面形状と完成後のハブの断面形状との関係を示す図。
【図4】素材から中間素材への加工進行に伴って、中央寄り円柱状部分の金属材料と、中間円筒状部分の金属材料と、外径寄り円筒状部分の金属材料との分布状況が変化する状況を示す断面図。
【図5】第三中間素材の段階での、中央寄り円柱状部分の金属材料と、中間円筒状部分の金属材料と、外径寄り円筒状部分の金属材料との分布状況を示す断面図。
【図6】本発明の製造方法の対象となる軌道輪部材である外輪を備えた、内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。
【図7】本発明の製造方法の対象となる軌道輪部材であるハブを備えた、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。
【図8】本発明の製造方法の対象となる軌道輪部材であるハブ本体を備えた、内輪回転型で駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。
【図9】従来から知られている軌道輪部材の製造方法の2例を、それぞれ工程順に示す断面図。
【図10】従来の製造方法により第三中間素材を造った状態での、中央寄り円柱状部分の金属材料と、中間円筒状部分の金属材料と、外径寄り円筒状部分の金属材料との分布状況を示す断面図。
【符号の説明】
【0032】
1、1a、1b 車輪支持用転がり軸受ユニット
2、2a 外輪
3、3a ハブ
4 転動体
5 外輪軌道
6 取付部
7、7a 支持フランジ
8 内輪軌道
9、9a 内輪
10 ハブ
11 ハブ本体
12 中央寄り円柱部分の金属材料
13 中間円筒状部分の金属材料
14 外径寄り円筒状部分の金属材料
15 中間素材
16 素材
17 第一中間素材
18 第二中間素材
19 第三中間素材
20 第四中間素材
21 凹部
22 突条
23 ダイス
24 押圧パンチ
25 カウンターパンチ
26 成形孔
27 円筒面部
28 複合曲面部
29 押圧側凹孔
30 環状押圧部
31 凸曲面状段部
32 押し出しパンチ
33 円筒状キャビティ
34 パイロット部
35 円筒部
36 主円筒部
37 凹孔
38 第二の凹孔
39 隔壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の素材を塑性変形させる事により、内外両周面のうちの何れかの周面の軸方向2個所位置に複列の軌道を、外周面のうちでこれら両軌道同士の間の中央位置よりも軸方向一端寄り部分に外向フランジを、それぞれ備えた軌道輪部材とする、軌道輪部材の製造方法に於いて、上記素材を軸方向に押し潰して第一中間素材とする第一の据え込み工程と、この第一中間素材をダイスにより周囲を囲まれる空間内で1対のパンチにより軸方向に押圧する事で、軸方向他端面に開口する断面円形の凹孔を有し、この凹孔の周囲を円筒部とした第二中間素材とする剪断・押し出し工程と、この第二中間素材の軸方向一端寄り部分を軸方向に圧縮して金属材料を径方向外方に移動させ、上記外向フランジを形成する第二の据え込み工程とを備える事を特徴とする軌道輪部材の製造方法。
【請求項2】
軌道輪部材の内外両周面のうちの何れかの周面が内周面であり、この内周面の軸方向2個所位置に複列の外輪軌道を設ける、請求項1に記載した軌道輪部材の製造方法。
【請求項3】
第一の据え込み工程で、第一中間素材の軸方向一端面中央部に凹部を形成すると共に、剪断・押し出し工程で使用する1対のパンチのうち、上記第一中間素材の軸方向一端面を押圧する一方のパンチとして、先端面中央部に押圧面側凹部を設けたものを使用する事により、上記剪断・押し出し工程で、上記第一中間素材の径方向外寄り部分を他方のパンチの外周面とダイスの内周面との間の円筒状空間に押し出して円筒部を形成すると共に、上記第一中間素材の軸方向一端部径方向中央寄り部分を上記押圧面側凹部に向け、1対の外輪軌道を形成すべき部分から軸方向一端側に離れる方向に変形させる、請求項2に記載した軌道輪部材の製造方法。
【請求項4】
第二中間素材を塑性変形させて外向フランジを形成する第二の据え込み工程の際に、この第二中間素材に設けた円筒部の内周面に存在する、1対の外輪軌道となるべき部分に金属材料を移動させない、請求項2〜3のうちの何れか1項に記載した軌道輪部材の製造方法。
【請求項5】
第二の据え込み加工で、軸方向一端面中央部に、円筒部の内径側に存在する凹孔と同心の第二の凹孔を形成し、その後、これら凹孔と第二の凹孔との間に存在する隔壁部を打ち抜き除去する、請求項2〜4のうちの何れか1項に記載した軌道輪部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−128256(P2008−128256A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309916(P2006−309916)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】