説明

転がり軸受

【課題】軸穴に対して転がり軸受の外輪を確実に固定することが可能であるようにし、特に空気抜き用の溝やキー溝が形成されている軸穴に対して確実に固定できる転がり軸受とすることであり、さらに使用条件の厳しいオルタネータ用の転がり軸受としてもクリープ防止を充分に図ることができる転がり軸受とすることである。
【解決手段】転がり軸受の外輪4の外周面に周溝5を1以上形成し、外輪4の外周面より径方向外側に突出するようにアンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる樹脂帯6を周溝5に嵌め合せた状態に設けた転がり軸受とする。樹脂帯6は、周溝5に未硬化樹脂を充填して外輪4と一体成型したものであってもよい。樹脂帯は、熱履歴を受けると硬くなり、空気抜き用の溝またはキー溝と係合一体化して確実なクリープ防止機能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸穴に嵌めた際に予圧で固定される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にハウジング等の軸穴に隙間嵌めされ、予圧でもって固定される転がり軸受は、高温条件下でも軸受外輪の「しめしろ(締め代)」を確保して、軸穴形成部材との熱膨張差による支持力の減少と回転方向への「ずれ」を防止できるように、いわゆる「クリープ」を防止する必要性を勘案し、外輪の外径面に樹脂帯を一体に設けている。
樹脂帯は、外輪の外周面に周方向に延びる無端環状に設けられており、その底部が周溝に嵌まり合った状態で外輪と一体に設けられている。
【0003】
この樹脂帯によって熱膨張による「しめ(締め)しろ」の誤差を補正する機能を付加したものを、特に膨張補正軸受(またはEC軸受(Expansion Compensating Bearing))と称している。
【0004】
転がり軸受に付設されている樹脂帯の材質は、線膨張係数が比較的大きいポリアミド66(PA66と略称される。)などで形成されていることが多い(特許文献1)。
【0005】
樹脂帯の外輪の外周上に突出する所定の高さは、外輪の常温から高温に昇温したときの膨張量と、同じくハウジングの膨張量と、樹脂帯の膨張量とを総合的に勘案し、常温時にも高温時にも適当な厚さで「しめしろ」が得られるように、樹脂の材質と体積と形状などを調整して設定されたものである。
【0006】
このような要求を特に要求される転がり軸受として、温度条件その他の使用条件が厳しい用途であるオルタネータ用転がり軸受がある。
【0007】
図3に示すように、自動車用オルタネータは、ハウジングに、ロータ12を装着されたロータ回転軸13が、一対の玉軸受Aで回転自在に支持されている。ロータ12にはロータコイル15が取り付けられ、ロータ12の外周に配置されたステータ16には、120°の位相で3巻のステータコイル17が取り付けられている。
このような自動車用オルタネータは、自動車エンジンの回転を図外のベルトで受けて発電し、車両の電気負荷に電力を供給すると共に、バッテリを充電することが可能な交流発電機である。
【0008】
ロータ回転軸13は、その先端に取り付けられたプーリ20にベルト(図示省略)で伝達される自動車エンジンからの回転トルクで回転駆動され、ロータコイル15に電気が流れると、各ステータコイル17に交流電流が誘起され、レクティファイヤ21で全波整流され、バッテリに充電される。
【0009】
プーリ20は片持ち状態でロータ回転軸13に取り付けられており、高速回転に伴って振動も発生するため、プーリ20側を支持する玉軸受Aは、特に苛酷な負荷を受ける。なお、図3中の符号18はステップリング、19はファンを示している。
【0010】
玉軸受Aは、加熱されたエンジンルーム内の雰囲気で10000rpm以上の高速回転をするため、180℃以上の高温になる場合がある。このような軸受には、耐熱性や温度上昇を抑制するための低回転トルク性が求められ、さらに耐久性も要求されている。
【0011】
【特許文献1】特開平09−314695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記した従来の転がり軸受は、軸穴に対して充分な固定力を得ることは容易でなく、樹脂帯は軸受の温度上昇によって熱変形し、特にオルタネータではハウジングがアルミ合金で形成されているものが通例であるため、高温時の熱膨張による「しめしろ」の減少が生じ、充分なクリープ防止を図ることが難しいという問題点がある。
【0013】
また、転がり軸受を軸穴に取り付ける際、圧入方向の先端部分に溜まりやすい圧縮空気を逃がすために、軸穴には空気抜き用の溝が設けられている場合があり、また、キー溝が形成された軸穴に樹脂帯付きの転がり軸受を嵌める場合もある。
【0014】
しかし、これらの溝が形成されている軸穴に、転がり軸受の樹脂帯付きの外輪を圧入すると、溝のある部分には外輪に対して締め付け力が生じないので、転がり軸受のクリープ防止を充分に図ることができない。
【0015】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、軸穴に対して転がり軸受の外輪を確実に固定することが可能であるようにし、特に空気抜き用の溝やキー溝が形成されている軸穴に対して確実に固定できる転がり軸受とすることであり、さらに使用条件の厳しいオルタネータ用の転がり軸受としてもクリープ防止を充分に図ることができる転がり軸受とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、この発明においては、転がり軸受の外輪の外周面に周溝を1以上形成し、前記外輪の外周面より径方向外側に突出するように、アンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる樹脂帯を前記周溝に嵌め合せた状態で設けた転がり軸受としたのである。樹脂帯は、周溝に未硬化樹脂を充填して外輪と一体成型したものであってもよい。
【0017】
上記したように構成されるこの発明の転がり軸受は、空気抜き用の溝またはキー溝が1以上形成されている軸穴、または軸穴に何らかの目的で溝その他の凹所がある場合に、アンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる固定用樹脂帯の一部が弾性変形などによる変形によって溝または凹所に入り込む。
【0018】
そして、アンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる樹脂帯は、積極的にアフターベーキングをすることにより、または使用中などに軸受に発生する熱量や使用時の外部環境から受ける熱量によって熱履歴を受けると、残留している硬化剤や残留モノマーの反応が進み、架橋密度が増加する。
【0019】
このように加熱等により架橋密度が増加した後に自然冷却された樹脂帯は、熱履歴を受けたことにより、以前より硬くなり、空気抜き用の溝またはキー溝と係合して外輪とその支持面を一体化し、確実なクリープ防止機能を発揮する。
すなわち使用中などの熱履歴によって硬化が進行した樹脂帯は、溝に入り込んだ部分が、硬化して、いわゆる「キー構造のような回り止め構造」が形成されてクリープ防止性が高まる。
【0020】
樹脂帯を成形するには、転がり軸受の外輪の周溝に未硬化樹脂を注入して、外輪と一体に成型されることが、転がり軸受と密着性をよくして一体的にするために好ましく、また製造効率を高めるために好ましい。
【0021】
転がり軸受を軸穴に取り付けるには、外輪の外周面を圧接させながら軸方向に圧入して予圧で固定すればよく、通常の圧入固定用の転がり軸受と同様である。
このような転がり軸受からなり、空気抜き用の溝またはキー溝が形成されている軸穴に外輪を嵌め入れて固定する溝付軸穴固定用の転がり軸受は、特に環境温度などの使用条件の厳しいオルタネータ用の転がり軸受としてクリープ防止性を充分に発揮する。
【0022】
樹脂帯が、フェノール樹脂からなる樹脂帯であれば、充填剤を添加しなくても、例えばロックウェル硬さMスケールで124〜128という充分な硬さに硬化し、そのため空気抜き用の溝またはキー溝と確実に一体化してクリープ防止作用を奏する。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、転がり軸受の外輪の外周面に形成した周溝に、アンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる固定用樹脂帯を嵌めた状態に設けた転がり軸受としたので、空気抜き用の溝またはキー溝などの係止可能な凹部が形成されている軸穴に対し、転がり軸受の外輪を確実に固定することが可能になり、特に使用条件の厳しいオルタネータ用転がり軸受としてもクリープ防止性を充分に発揮させることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1、2に示すように、実施形態は、ハウジング1の軸穴2に空気抜き用の溝3が形成されており、この軸穴2に軸方向に圧入されて固定される転がり軸受であって、その外輪4の外周面に周溝5を軸方向に間隔を開けて1つ以上形成し、この周溝5にアンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる樹脂帯6を嵌めた溝付軸穴固定用の転がり軸受である。図中の符号7は球状の転動体、符号8は内輪、符号9は保持器、符号10はシール部材を示している。
【0025】
軸穴2に形成する空気抜き用の溝3は、その断面形状からみた溝形態を特に限定したものではなく、円(または楕円)溝状、多角形溝状、V溝状、段付き溝、底部その他の内側に凸条を有する溝など、周知の溝形状であってよい。
【0026】
周溝5は、外輪4の外周面に軸方向の間隔を開けて2本形成したものを図示したが、その配置と数は適宜に設定できるものであり、1本の溝を外周面の縁部または中央部などに設けてもよく、3本以上の複数の溝を適当な間隔で配置してもよい。
【0027】
樹脂帯6を周溝5に嵌め合わせた状態に設けるには、樹脂帯6をリング状に成型後、周溝5に嵌め入れてもよいが、外輪4の周溝5を覆うように別途設けた金型を被せ、この金型に設けたゲートから成型材料の未硬化樹脂を注入する成型法などにより、外輪4に樹脂帯6を複合成型してもよい。
【0028】
この発明に用いる熱硬化性樹脂は、アンダーキュア状態で所要の弾性が得られる樹脂であれば、特に特定の樹脂種に限定されることなく、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などを採用できる。
【0029】
所要弾性のアンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる固定用樹脂帯にするには、いわゆる熱硬化性樹脂を熱、光、放射線、触媒などの作用によって架橋させるという通常の硬化処理をするに際して、通常よりも成形温度を5〜30℃程度低くし、または成形時間もしくは硬化時間を5〜30分程度短くすることによって行なえる。後述するように、例えばフェノール樹脂では、150℃で1分間程度加熱すればよい。
【0030】
アンダーキュア状態は、その程度を特に限定するものではなく、軸穴に対し、外輪の外周面を圧接させながら軸方向に圧入した際に、熱硬化性樹脂が溝内に弾性変形する状態にあれば良く、その後で二次加熱等によって二次的に硬化できるものであればよい。
完全に硬化(キュア)するための二次的な加熱に必要な熱量は、転がり軸受の使用状態において徐々に、または速やかに転がり軸受全体を加熱することによって、予め使用前に行なってもよく、好ましくはガラス転移温度のTg付近まで加熱する。例えば、Tgより30℃低い程度まで加熱することにより、残留硬化剤や残留モノマーなど残っている未反応基の反応が進み、架橋密度が増加するため、当初の硬化直後よりも硬さや弾性率が増加し、ガラス転移温度も上昇する。
具体的には、いわゆるアフターベーキングと同様な手法をとることができ、積極的な加熱処理条件の例として、120〜150℃で数時間から数十時間(通常48時間以内)の加熱を行なうことが好ましい。」
【実施例1】
【0031】
転がり軸受の外輪の外周面に形成されている周溝を覆うように別途設けた金型を被せ、この金型にゲートから、成型材料のフェノール樹脂を注入し、150℃で1分間だけ加熱して外輪にアンダーキュア状態の樹脂帯を複合成型した深溝玉軸受(図1、2参照)を設けた。
【0032】
図3に示すように、得られた転がり軸受を、自動車のオルタネータに組み込み、その際に軸穴に対し、外輪の外周面を圧接させながら軸方向に圧入して予圧で固定し、その状態で使用状態を想定して、転がり軸受全体が160℃に加熱される条件を30時間維持し、その後に放冷して常温にまで冷却した。
【0033】
得られた転がり軸受を強制的にオルタネータから取り外して調べたところ、溝に入り込んだ部分が、硬化していわゆる「キー構造のような回り止め構造」が形成されており、クリープ防止性が高められていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態の要部を拡大して示す軸方向の断面図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】実施形態の使用状態を説明するオルタネータの断面図
【符号の説明】
【0035】
1 ハウジング
2 軸穴
3 溝
4 外輪
5 周溝
6 樹脂帯
7 転動体
8 内輪
9 保持器
10 シール部材
12 ロータ
13 ロータ回転軸
15 ロータコイル
16 ステータ
17 ステータコイル
18 ステップリング
19 ファン
20 プーリ
21 レクティファイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の外輪の外周面に周溝を1以上形成し、前記外輪の外周面より径方向外側に突出するようにアンダーキュア状態の熱硬化性樹脂からなる樹脂帯を前記周溝に嵌め合せた状態に設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
樹脂帯が、周溝に未硬化樹脂を充填して外輪と一体成型したものである請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の転がり軸受からなり、軸穴に対し、外輪の外周面を圧接させながら軸方向に圧入して予圧で固定する圧入固定用の転がり軸受。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受からなり、空気抜き用の溝またはキー溝が形成されている軸穴に外輪を嵌め入れて固定する溝付軸穴固定用の転がり軸受。
【請求項5】
転がり軸受が、オルタネータの回転軸を支持する転がり軸受である請求項4に記載の転がり軸受。
【請求項6】
樹脂帯が、フェノール樹脂からなる樹脂帯である請求項4に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−168046(P2009−168046A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3518(P2008−3518)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】