説明

転がり軸受

【課題】シールリップが摺接するシール部材の防錆を図ることで、軸受回転時におけるシールリップの摺動抵抗を低減させて該シールリップの発熱や摩耗を防止し、密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封機構を備えた転がり軸受を提供する。
【解決手段】回転輪16に固定された第1のシール部材80と、該第1のシール部材に対向して静止輪14に固定された第2のシール部材90とを有しており、第1のシール部材および第2のシール部材の少なくとも一方には、相手側のシール部材に向けて延設され、該相手側のシール部材に摺接する弾性部材製の環状のシールリップ98が設けられているとともに、シールリップが摺接する相手側のシール部材(第1のシール部材の芯金82)は、ステンレス鋼(SUS)で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪とを備えた転がり軸受において、特に軸受外部から軸受内部への異物の侵入を防止するために備えられる密封機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材を製作するための圧延設備として、種々の多段式圧延機が知られている。その一例として図7(a),(b)に示された多段式圧延機は、ハウジング2内に複数種の圧延ロール群が設けられており、挿入口2aから挿入された鉄鋼材(図示しない)は、パスライン2Pに沿って搬送される間に、圧延ロール群によって均一な厚みに圧延された後、排出口2bから排出される。
ここで、圧延ロール群は、鉄鋼材を圧延する一対のワークロール4と、一対のワークロール4を回転自在に支持する複数の第1中間ロール6と、これら第1中間ロール6を回転自在に支持する複数の第2中間ロール8とを備えており、各第2中間ロール8は、複数のバッキングロール軸10に組み付けられた各転がり軸受12によって回転自在に支持されている。なお、各バッキングロール軸10は、常時静止した状態(非回転状態)に維持されている。
【0003】
転がり軸受12は、図8に示すように、バッキングロール軸10に嵌合(固定)された内輪(静止輪)14と、内輪(静止輪)14に対向して回転可能に配置された外輪(回転輪)16と、内外輪14,16間に複列で組み込まれた複数の転動体(円筒ころ)18と、各転動体18を1つずつ等間隔に保持する保持器20とを備えている。これにより、転がり軸受12は、外輪回転の軸受構造を成している。なお、図示例の外輪16は中つばを有する形態が採用され、内輪14に設けられている潤滑油供給孔54から、軸受内部に潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる軸受形式である。
【0004】
このような多段式圧延機において、図7及び図8に示すように、転がり軸受12の外輪(回転輪)16は、複数の第2中間ロール8に圧接しており、当該第2中間ロール8と共に回転可能に位置決めされている。この場合、各外輪16からの圧力が第2中間ロール8から第1中間ロール6を介して一対のワークロール4に作用することで、当該ワークロール4の撓みが防止されている。これにより、パスライン2Pに沿って搬送される鉄鋼材は、一対のワークロール4によって均一な厚みに圧延される。
なお、内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば合金鋼などの鋼材で形成することができる。
【0005】
転がり軸受12には、軸受外部から軸受内部への異物(例えば、塵埃、圧延油)の侵入防止を図るために、軸受内部を軸受外部から密封する密封機構が設けられている。
また、この場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する。
【0006】
「先行技術1」
図8には、密封機構の一例が示されており、当該密封機構は、複列の転動体18の両側の内外輪14,16間にそれぞれ設けられている(非特許文献1)。
【0007】
図8に示された密封機構は、内径22eが内輪(静止輪)14に固定(圧入)され且つ外径22tが外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状のシールド22と、当該シールド22よりも軸受内部側に配置された環状のシール24とを備えている。
ここで、シール24は、外径24eが外輪(回転輪)16に固定され且つ内径24tが内輪(静止輪)14に向けて延出し、その内径24tから延出端(シールリップ)がシールド22方向に向けて傾斜するとともに、該シールド22に対して摺接した状態に位置決めされている。
【0008】
この場合、シール24は、芯金24aにゴム材24bを被覆して形成されており、その内径24tには、シールド22に向けて略V字状に突出したゴム製のシールリップLpが一体成形されており、当該リップLpがシールド22に常時摺接している。なお、シール24の外径24eは、環状の止め輪26によって外輪(回転輪)16に嵌め合わせて固定されている。
【0009】
「先行技術2」
先行技術2に係る密封機構は、図9に示すように、回転輪である外輪16に固定される環状の側板60と、静止輪である内輪14に固定される環状のシールド板66とで構成され、該シールド板66に別途備えたVリングシール74(シールリップとも言う)を、回転する側板60に摺接させることで密封を図っているものである(特許文献1)。
側板60は、所定位置に外方に連通する軸方向の排気孔62を備えて円環状に形成されるとともに、外輪16の内径面側に嵌め合わされる外径にOリング64を周方向に配設して構成されている。
シールド板66は、内輪14の外径面側に嵌め合わされる円筒部68と、該円筒部68から径方向に延設される第一の円環部70と、該円環部70から外輪と非接触で軸方向に延設された第二の円環部72と、前記第一の円環部70の外径に別途備えられ、側板60と摺接するVリングシール(シールリップ)74とで構成されている。
【0010】
ところで、上記先行技術1,2に示された密封機構において、シールリップLp,74が摺接するシール部材(シールド22、側板60)は、例えば機械構造用炭素鋼(SC)や冷間圧延鋼板(SPCC)などの鋼材が使用される場合が多い。この場合、SCやSPCC材などの鋼材は、特に圧延油や水溶液にさらされる使用環境下で錆に弱いため、該鋼材で形成されたシール部材は、その表面に錆が発生し易いものとなっている。ここで、シール部材の表面に錆が発生すると、該表面の粗さが低下し、軸受回転時におけるシールリップLp,74の摺動抵抗が増加する。このとき、その摺動抵抗の程度によっては、シールリップLp,74の発熱や更には摩耗が生じる場合がある。
【0011】
そうなると、密封機構の密封性能が早期に低下して、軸受内部へ異物(例えば、塵埃、水など)が浸入し易くなったり、軸受外部へ潤滑剤(例えば、グリース、油)が漏洩し易くなったりすることで、該軸受が早期に劣化し、回転性能を一定に維持することが困難になってしまう虞がある。これを回避するためには、シールリップLp,74が摺接するシール部材に対して定期的に或いは必要に応じて随時表面加工を施して、その粗さを一定に維持する必要があるが、それに要する手間や時間がかかるため、煩に耐えない。
【非特許文献1】製品カタログ(株式会社ジェイテクト 製品カタログ 多段圧延機 バックアップロール用円筒ころ軸受 CAT.NO.246 P5 図例4)
【特許文献1】特開2004−278660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、シールリップが摺接するシール部材の防錆を図ることで、軸受回転時におけるシールリップの摺動抵抗を低減させて該シールリップの発熱や摩耗を防止し、密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封機構を備えた転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、第1の発明は、非回転状態に維持された静止輪(例えば内輪)と、静止輪に対向して回転する回転輪(例えば外輪)と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体(例えば円筒ころ)と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備えた転がり軸受であって、密封機構は、回転輪に固定された第1のシール部材と、該第1のシール部材に対向して静止輪に固定された第2のシール部材とを有しており、第1のシール部材および第2のシール部材の少なくとも一方には、相手側のシール部材に向けて延設され、該相手側のシール部材に摺接する弾性部材製の環状のシールリップが設けられているとともに、シールリップが摺接する相手側のシール部材は、ステンレス鋼で構成されていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第1の発明によれば、特に圧延油や水溶液にさらされる使用環境下においてもシールリップが摺接するシール部材の防錆を図ることができるため、該シール部材の表面の粗さを一定に維持することができる。これにより、軸受回転時におけるシールリップの摺動抵抗を低減させて該シールリップの発熱や摩耗を防止し、密封性能を長期に亘って一定に維持することができる。この結果、軸受内部へ異物の浸入防止や軸受外部への潤滑剤の漏洩防止を確実に図ることができるため、該軸受の回転性能を長期に亘って一定に維持することが可能となる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、第1のシール部材は、第2のシール部材よりも軸受内部方向に配設されており、環状のシールリップは、第1のシール部材の固定側方向に向けて傾斜していることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第2の発明によれば、シールリップは、固定輪側に固定して備えられる第1のシール部材に外向きに傾斜して備えられるため、特に軸受外部からの異物や圧延油などの侵入を防止し得る。
また、このようなシールリップ形態とすることにより、軸受内圧がシールリップの剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップが開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、耐荷重性を低下させることなく軸受内部及びシールリップ領域での潤滑不良が防止できる。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期損傷に寄与し得る。
【0015】
第3の発明は、第1の発明において、静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第3の発明によれば、内輪が回転を行わず、外輪が回転する外輪回転転がり軸受を構成することができる。
【0016】
第4の発明は、第1の発明において、軸受内部に、潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第4の発明によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップの制約もない。
【0017】
第5の発明は、第1の発明において、鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第5の発明によれば、バッキングロール軸の軸受構造に適した密封機構を提供することが簡易かつ安価にできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シールリップが摺接するシール部材の防錆を図ることで、軸受回転時におけるシールリップの摺動抵抗を低減させて該シールリップの発熱や摩耗を防止し、密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封機構を備えた転がり軸受を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受について添付図面を参照して説明する。
図1及び図2は実施例1、図3は実施例2、図4は実施例3、図5は実施例4、図6は実施例5をそれぞれ示す。
なお、それぞれの各実施例は、図7で示す多段式圧延機に用いた転がり軸受12(図8)の密封機構の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、上述した図8に開示の転がり軸受12と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施の形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。すなわち、例えば本実施例の場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に潤滑油とともに圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する潤滑構成を採用している。
なお、圧縮エアなしで潤滑油のみ供給する場合も勿論本発明の範囲内である。
また、本実施例の転がり軸受では、潤滑油の回収孔は内輪14に設けられておらず、また圧縮エアの排出孔も密封機構に設けていない形態としている。
さらに、本実施例では、本発明の転がり軸受の一適用例として上述の通り図7に示した多段式圧延機を用いて説明するが、本発明の転がり軸受は、この多段式圧延機に限定して適用されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。また、本実施例では、内輪14を静止輪、外輪16を回転輪とし説明するが、内輪14を回転輪、外輪16を静止輪として適用する形態であっても本発明の範囲内である。
【実施例1】
【0020】
図1及び図2に示す本実施例の密封機構は、回転輪としての外輪16に固定して備えられる第1のシール部材80と、静止輪としての内輪14に固定して備えられる第2のシール部材90とで構成されている。
【0021】
第1のシール部材80は、内輪14と非接触に設けられている円環状の芯金82と、該芯金82の軸受内方側の面部82aの全領域とともに、連続して外径82bを被覆する弾性部材84とで構成された円環部87を含むシールドで、外輪16の内径面に外径82b側を嵌め合わせて圧入し、軸受の軸方向で内方に配設されている。また、弾性部材84は、芯金82の内径よりも僅かに内輪14方向に突出して内輪14と非接触に備えられている。従って、芯金82の軸受外方側の面部82cは弾性部材84で被覆されておらず芯金82が露呈されている。
図中、86は第1のシール部材80を固定している止め輪である。
【0022】
第2のシール部材90は、内輪14の外径面に嵌め合わされている円筒部92aと、該円筒部92aから外輪16方向へと径方向に延設され、外輪16と非接触とした円板部92bとからなる断面視略L字形状の芯金92と、該芯金92の円筒部92aの外径面92cの全領域及び円板部92bの軸受内方側の面部92dの全領域とともに、連続して外径92eを被覆する弾性部材94とで構成された円環部96と、円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から一体に延設され、第1のシール部材80に摺接するシールリップ98で構成されている接触シールである(シールの形状からV型シールやY型シールとも言う。)。
そして、内輪14の外径面に円筒部92aの内径面を嵌め合わせて圧入し、第1のシール部材80の円環部87と対向させて軸受の軸方向で外方に配設されている。
【0023】
シールリップ98は、円環部96を構成する弾性部材94における円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から、第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに向けて傾斜状(外向きに傾斜状)に一体に延設され、外輪16の回転に伴って回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップである。
詳しくは、本実施例によれば、円板部92bの内径と外径の間の径方向略中央位置から、肉厚の円筒状の分岐部98aを介して、該分岐部98aよりも薄肉で、第1のシール部材80の固定側である外径82b方向に向けて傾斜している断面視略V字形状を有した全体円すい状(大径D1側を第1のシール部材80方向に対向させた形状)のシールリップとしている。
シールリップ98の大きさ、配設位置、あるいは接触領域の大小は特に限定解釈されるものではなく、仕様に応じて本発明の範囲内で設計変更可能である。例えば、シールリップ98を大きく構成して剛性が弱くて長い構造とすることも可能である。
【0024】
また、本実施例の密封機構において、シールリップ98が摺接する相手側のシール部材(第1のシール部材80)は、ステンレス鋼(SUS)で構成されている。具体的には、シールリップ98は、第1のシール部材80の芯金82(図2)に摺接するため、該芯金82をステンレス鋼(SUS)で形成する。なお、ステンレス鋼としては、例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼があるが、軸受の使用環境や使用目的に応じて任意に選択することが可能である。
【0025】
以上、本実施例のように、シールリップ98が摺接する第1のシール部材80(芯金82)をステンレス鋼(SUS)で構成したことにより、特に圧延油や水溶液にさらされる使用環境下においてもシールリップ98が摺接する第1のシール部材80(芯金82)の防錆を図ることができるため、該芯金82の表面の粗さを一定に維持することができる。これにより、軸受回転時におけるシールリップ98の摺動抵抗を低減させて該シールリップ98の発熱や摩耗を防止し、密封性能を長期に亘って一定に維持することができる。この結果、軸受内部へ異物の浸入防止や軸受外部への潤滑剤の漏洩防止を確実に図ることができるため、該軸受の回転性能を長期に亘って一定に維持することが可能となる。
【0026】
また、このような効果は、第1のシール部材80(芯金82)をステンレス鋼(SUS)で構成するだけで長期に亘って維持されるため、該芯金82に対して定期的に或いは必要に応じて随時表面加工を施すといった手間や時間も不要になる。更に、ステンレス鋼(SUS)製の芯金82では、例えばプレス加工などの型加工だけで、その表面の粗さを向上させることができるため、利便性に優れた密封機構を備えた転がり軸受を提供することができる。
【0027】
また、本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、特に軸受外部からの異物や圧延油などの侵入を防止し得る。
また、このような密封機構とすることにより、本実施例のように、潤滑油又は潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる形式において、軸受内圧がシールリップ98の剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップ98が開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、軸受内部及びシールリップ98領域での潤滑不良が防止される。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期損傷に寄与し得る。
本実施例によれば、外輪16とともに回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成するシールリップ98が、内輪14に配設された第2のシール部材90に備えられているため、従来のように接触のシール領域を形成しているシールリップが遠心力により開いてシール性能を低下させてしまうという不具合も生じなくなる。
また、第2のシール部材90を一体に構成している弾性部材94の所定領域にシールリップ98を一体に備えているため、密封機構の組み込み工程も簡易であるとともに、軸受内部における密封機構の配設領域の省スペース化が可能となる。
また、本実施例によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップ98の制約もない。すなわち、シールリップ98は、第1のシール部材80の芯金82の軸受外方側の面部82cであればどこに接触(摺接)してもよく、シールのリップ開き圧力の調整が容易である。
【実施例2】
【0028】
図3は本発明の実施例2に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、上述した転がり軸受の密封機構(図8)において、第1のシール部材(シール24)から突出したシールリップLpが摺接する相手側のシール部材としてのシールド22をステンレス鋼(SUS)で構成した形式である。なお、他の構成は、図8の軸受構成と同一であるため、その説明は省略する。
また、本実施例の効果は、上述した実施例1と同様であるため、その説明は省略する。
【実施例3】
【0029】
図4は本発明の実施例3に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、複列の円筒ころ間に浮き輪100を備えた実施の一形態で、密封機構に本発明の密封機構を適用するとともに、該密封機構において、シールリップ98が摺接する相手側のシール部材(具体的には、第1のシール部材80の芯金82(図2))をステンレス鋼(SUS)で構成した形式である。
浮き輪100は、内輪つば14a,14aと外輪つば16aと連携してそれぞれの列の転動体(円筒ころ)18の軸方向の動きを制限するとともに、転動体(円筒ころ)18の斜行を防止する周知構成である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例4】
【0030】
図5は本発明の実施例4に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、内輪14の外つば14aを別部品とした実施の一例に本発明の密封機構を適用するとともに、該密封機構において、シールリップ98が摺接する相手側のシール部材(具体的には、第1のシール部材80の芯金82(図2))をステンレス鋼(SUS)で構成した形式である。
図5(a)は潤滑油供給孔54を内輪に設けた形式、図5(b)は内輪14,14間に間座102を備えるとともに、転動体(円筒ころ)18,18間に浮き輪100を備えた実施の一形態である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例5】
【0031】
図6は本発明の実施例5に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、転動体18として複列の円すいころを組み込んだ複列の円錐ころ軸受に本発明の密封機構を適用するとともに、該密封機構において、シールリップ98が摺接する相手側のシール部材(具体的には、第1のシール部材80の芯金82(図2))をステンレス鋼(SUS)で構成した形式である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
「変形例1」
【0032】
上述した各実施例では、シールリップ98,Lpを単一構成としているが、例えば第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに接触する複数のリップを備える形態であっても本発明の範囲内である。また、その複数のリップは、本実施例のシールリップ98から分岐されている形式であっても、本実施例のシールリップ98とは別に弾性部材94の所定領域から突出させる形式であってもよいが、トルクがあまりに高くならないように留意する必要がある。
「変形例2」
【0033】
上述した図1乃至図5に示す実施例1乃至4では、転動体18として、“円筒ころ”を例示し、図6に示す実施例5では、転動体18として、“円錐ころ”を示したが、“玉”などの他の転動体形態を適用しても同様の効果を得ることができる。更に、上述した各実施例では、転動体18を軸方向に2列に備えた軸受構造としたが、軸方向に1列、或いは、3列以上としても同様の効果を得ることができる。
「変形例3」
【0034】
軸受潤滑油中には金属の切粉や削り屑、バリ及び摩耗粉などの異物が混入されていることがあり、これら異物が軌道輪や転動体に損傷を与え、軸受寿命の大幅な低下を招くことがある。内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば従来と同様に合金鋼などの鋼材で形成することができるが、内輪14は軸10とともに回転を伴わない形式であるため、外輪16に負荷するラジアル荷重に対して内輪14に負荷する荷重は常に同じ位相に負荷する。そのため、内輪14は外輪16や転動体18と比して早期に疲れ寿命となる。すなわち、異物による損傷を受けて寿命が低下し易いという問題もある。
従って、特に静止輪としての内輪は以下の構成とするのが好ましい。
すなわち、例えばその一例を説明すると、主として炭素(C);0.1〜1.2重量%、クロム(Cr);1〜3重量%を含有し、さらにモリブデン(Mo)を2.0重量%以下添加してなる合金鋼からなり、浸炭又は浸炭窒化処理して表面層(転がり表面層ともいう。)を形成し、その表面層の残留オーステナイト量(γR vol%)が20〜45vol%、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径が2.3μm以下とする。
また、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径は、例えば0.5〜1.5μmとするのが好ましい。
また、表面層の表面硬さ(Hv)は、前記残留オーステナイト量(γR vol%)に対し、−4.7×(γR vol%)+920≦Hv≦−4.7×(γR vol%)+1020の範囲にあるのが好ましい。
さらに、前記モリブデン(Mo)の含有量は、クロム(Cr)含有量の1/3以上とするのが好ましい。
このように内輪14を構成することにより、内輪14の寿命を長くし得るとの効果が得られる。
「変形例4」
【0035】
また、本実施例では、第2のシール部材90における芯金92の円板部92bをフラット形状としているが、円周方向に連続する凹部と凸部(図示省略)が、軸中心を同一とする同心円に配されることにより側面視波形状に構成することも可能で、本発明の範囲内である。このように構成することにより、芯金92の強度が向上し、内輪14に圧入して嵌め込む際の変形を防止し得る。従って、芯金92の変形によりシールリップ98が第1のシール部材80に強く当たりすぎたり、あるいはシールリップ98が第1のシール部材80に当たらず接触のシール領域が形成されないという不具合を防止することができる。これにより、潤滑不良や異物混入による軸受の早期焼付け防止が図れ、軸受の寿命を向上することが可能となる。
また、この凹凸構造は、それぞれの凹部と凸部が円状に構成されておらず、蛇行している形態であってもよい。また、凹部と凸部はそれぞれ大きさ(深さ・高さ及び幅など)を異にする形態であってもよい。さらに、凹部と凸部は断続的に設けられているものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明転がり軸受の一実施形態である実施例1の一部を省略するとともに拡大して示す断面図である。
【図2】図1の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図3】実施例2の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、(a)は、転がり軸受の構成を一部省略するとともに拡大して示す断面図、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図4】実施例3の一部を省略するとともに拡大して示す断面図である。
【図5】実施例4の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、(a)は、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態、(b)は、外輪の中つばを無くし、ころ間に浮き輪を設置するとともに、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態である。
【図6】実施例5の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、複列の円すいころ軸受に本発明を適用した実施の一形態である。
【図7】本発明の転がり軸受の一適用事例で、(a)は、多段式圧延機の圧延ロール群の構成例を示す概略側面図、(b)は、バッキングロール軸まわりの構成例を示す概略正面である。
【図8】先行技術1に係る転がり軸受の断面図で、(a)は、バッキングロール軸に組み込まれている従来の転がり軸受の構成を一部省略するとともに拡大して示す断面図、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図9】先行技術2に係る転がり軸受の断面図で、(a)は、全体を示す概略断面図、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
14 内輪(静止輪)
16 外輪(回転輪)
18 転動体
80 第1のシール部材
82 芯金
84 弾性部材
87 円環部
90 第2のシール部材
92 芯金
94 弾性部材
96 円環部
98 シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備えた転がり軸受であって、
密封機構は、回転輪に固定された第1のシール部材と、該第1のシール部材に対向して静止輪に固定された第2のシール部材とを有しており、
第1のシール部材および第2のシール部材の少なくとも一方には、相手側のシール部材に向けて延設され、該相手側のシール部材に摺接する弾性部材製の環状のシールリップが設けられているとともに、
シールリップが摺接する相手側のシール部材は、ステンレス鋼で構成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
第1のシール部材は、第2のシール部材よりも軸受内部方向に配設されており、
環状のシールリップは、第1のシール部材の固定側方向に向けて傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
軸受内部に、オイルまたはオイルと圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項5】
鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、
多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−63097(P2009−63097A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231925(P2007−231925)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】