説明

軸封機構、およびこれを備えた鉄道車両用歯車装置

【課題】鉄道車両の高速走行化に支障がなく、高速走行時に歯車装置からの潤滑油の漏出を防止できる軸封機構を提供する。
【解決手段】小歯車2を一体に備える小歯車軸4と、小歯車2の軸方向の両側で小歯車軸4を支持する軸受6と、小歯車軸4に嵌め込まれ軸受6の軸方向の外側で小歯車軸4と一体で回転する油切り部材10と、軸受6を保持する軸受押え部材20と、油切り部材10に環装され軸受押え部材20に固定される押え蓋40と、を備える。油切り部材10の外周面を周方向に沿って延在する第1の突起部11と押え蓋40との間にラビリンス構造の第1シール部が形成される。第1の突起部11の軸方向の内側で、第1の突起部11の最外径よりも内径が小さく周方向に分割可能な分割環状部材30を軸受押え部材20に取り付け、分割環状部材30の内周面と油切り部材10の外周面との間で第2シール部が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両において、車輪が取り付けられた車軸に主電動機からの駆動力を伝達する鉄道車両用歯車装置(以下、「歯車装置」ともいう)の軸封機構、およびこれを備えた歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車枠に支持された主電動機からの駆動力が車軸に伝達されることにより、車輪が回転し、レール上を走行する。その車軸への駆動力の伝達に、歯車装置が用いられる。
【0003】
図1は、従来の鉄道車両用歯車装置の構成を示す断面図である。同図に示すように、歯車装置は、小歯車2と、この小歯車2に噛み合う大歯車3とを歯車箱1内に収容している。小歯車2は、同一素材から削りだす等の方法にて小歯車軸4と一体に形成され、小歯車軸4の一端には、図示しないたわみ軸継手を介して図示しない主電動機の駆動軸が連結されている。大歯車3は、車軸5に嵌め込まれて車軸5と一体化され、車軸5には、車輪8が嵌め込まれている。
【0004】
小歯車軸4は、小歯車2の軸方向の両側で軸受6によって回転可能に支持され、車軸5は、大歯車3の軸方向の両側で軸受7によって回転可能に支持されている。軸受6、7としては、円錐ころ軸受などのころ軸受が用いられる。主電動機の駆動により小歯車軸4と一体で小歯車2が回転し、これに伴って、大歯車3が小歯車2と噛み合いにより減速されて回転し、大歯車3の回転に伴って車軸5が回転する。
【0005】
歯車箱1内には、図示しない潤滑油が貯溜されており、この潤滑油は、回転する大歯車3によりかき上げられて、大歯車3と小歯車2同士の噛み合い部、および軸受6、7に供給され、これらの潤滑を行う。軸受6、7に供給された潤滑油は、従来、以下に示す軸封機構によって外部への漏出が防止されている。
【0006】
図2は、従来の鉄道車両用歯車装置の軸封機構を示す小歯車軸周辺の断面図である。ここでは、同図に示す小歯車軸に対する軸封機構を説明するが、車軸に対する軸封機構も基本的に同様の構成である。
【0007】
同図に示すように、小歯車軸4には、軸受6の軸方向の外側に、その軸受6の内輪に隣接して、管状の油切り部材10が嵌め込まれている。また、軸受6は、その外輪を環状の軸受押え部材20により保持され、軸受押え部材20は、ボルト42によって歯車箱1に取り付けられている。さらに、油切り部材10の周囲には押え蓋40が環装され、押え蓋40は軸受押え部材20に接合されている。
【0008】
油切り部材10の外周面には、周方向に沿って延在する第1の突起部11が設けられている。この油切り部材10の第1の突起部11と、押え蓋40との間の微小隙間により、非接触形のラビリンス構造のシール部(以下、「第1シール部」ともいう)が形成される。
【0009】
さらに、油切り部材10の外周面には、第1の突起部11の軸方向の内側に、第2の突起部15が設けられている。一方、軸受押え部材20には、第2の突起部15の外周面と微小な隙間をあけて対向する環状部25が設けられている。この油切り部材10の第2の突起部15の外周面と、軸受押え部材20の環状部25の内周面との微小隙間により、非接触形のシール部(以下、「第2シール部」ともいう)が形成される。
【0010】
このような従来の歯車装置の軸封機構は、以下の手順で組み立てられる。小歯車2および軸受6を備えた小歯車軸4に、油切り部材10を焼きばめなどによって嵌め込み、小歯車軸4と油切り部材10を一体化させる。次に、軸受6に軸受押え部材20を嵌め込み、その後に、押え蓋40を取り付ける。
【0011】
ここで、軸受押え部材20を組み付ける際、軸受押え部材20の環状部25の内径が、先に組み付けられた油切り部材10の第1の突起部11の最外径よりも小さく設定されていると、環状部25が第1の突起部11に干渉し、軸受押え部材20の組み付けを行うことができない。そのため、従来の軸封機構では、軸受押え部材20の環状部25の内径が、油切り部材10の第1の突起部11の最外径よりも大きく設定されている。
【0012】
このような構成の従来の軸封機構において、軸受6に供給された潤滑油は、第2シール部、さらに第1シール部という2重のシール部で封じられる。
【0013】
ところが、近年、鉄道車両の益々の高速走行化に伴い、軸受に供給された潤滑油が、第2シール部および第1シール部を順次通じて、歯車装置の外部に漏出することがあった。この改善策として、特許文献1には、車軸に対する軸封機構に関し、押え蓋と車輪ボスとの間に、ラビリンスの一部として作用する隙間を形成した外蓋を設ける技術が提案されている。そして、特許文献1では、ラビリンスシールとして機能する外蓋を設けることにより、潤滑油の漏出を防止できるとされている。
【0014】
【特許文献1】実開平6−81857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記特許文献1で提案された技術では、第1シール部および第2シール部に加えて、さらに歯車装置の外側に設けた別途の外蓋によりシール部を形成するものであるため、外蓋が追加された分、歯車装置が大型化し、歯車装置の重量が増大するとともに、軸方向のスペースが必要となる。これは、鉄道車両の高速走行化を阻害する要因となる。
【0016】
しかも、前記特許文献1で提案された技術は、主軸に対しての軸封機構であり、小歯車軸に対しては、依然、高速走行時の潤滑油の漏出を防止できない。
【0017】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、鉄道車両の高速走行化に支障がなく、高速走行時に歯車装置からの潤滑油の漏出を防止することができる軸封機構、およびこれを備えた鉄道車両用歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鉄道車両の高速走行時、すなわち小歯車軸および車軸の高速回転時における潤滑油の流動に関して鋭意検討を重ねた結果、下記の知見を得た。
(A)大歯車によりかき上げられて小歯車軸の軸受に供給された潤滑油は、小歯車軸の高速回転による高い遠心力を受け、軸受から第2シール部までの空間において、その回転軸である小歯車軸の径方向の外方に向けて飛散する。車軸の軸受に供給された潤滑油も、同様に、その回転軸である車軸の径方向の外方に向けて飛散する。
(B)一方、従来の軸封機構では、上述したように、各部材の組付け時の制約から、軸受押え部材の環状部の内径が、油切り部材の第1の突起部の最外径よりも大きく設定されているため、第2シール部の形成位置が回転軸の径方向の外方寄りにならざるを得ない。
(C)上記(A)および(B)より、従来の軸封機構では、回転軸の径方向の外方に向けて飛散した潤滑油が、そこに形成されている第2シール部にそのまま到達するため、第2シール部を通過し易く、シール外側の圧力が低くなった場合、その負圧により、第2シール部が十分にシール機能を果たすことができない。すなわち、潤滑油の漏出に第2シール部の形成位置が大きく影響を及ぼすことを知見した。
【0019】
このような知見に基づき、軸封機構における第2シール部の形成位置に着目し、以下に示す本発明を完成させた。
【0020】
本発明の軸封機構は、歯車を一体に備える回転軸と、前記歯車の軸方向の両側で前記回転軸を支持する軸受と、前記回転軸に嵌め込まれ前記軸受の軸方向の外側で前記回転軸と一体で回転する油切り部材と、前記軸受を保持する軸受押え部材と、前記油切り部材に環装され前記軸受押え部材に固定される押え蓋と、を備えた鉄道車両用歯車装置において、前記油切り部材の外周面を周方向に沿って延在する第1の突起部と前記押え蓋との間にラビリンス構造の第1シール部が形成される軸封機構であって、前記第1の突起部の軸方向の内側で、前記第1の突起部の最外径よりも内径が小さく周方向に分割可能な分割環状部材を前記軸受押え部材に取り付け、前記分割環状部材の内周面と前記油切り部材との間で第2シール部が形成されることを特徴とするものである。ここでいう回転軸とは、小歯車軸または車軸のことを意味し、回転軸と一体の歯車とは、小歯車軸の場合は小歯車のことを、車軸の場合は大歯車のことをそれぞれ意味する。
【0021】
このような構成にすれば、第2シール部の形成位置が回転軸の径方向の内寄りとなるため、鉄道車両の高速走行時、回転軸の径方向の外方に向けて飛散した潤滑油は、第2シール部への到達が抑制され、第2シール部を通過し難い状態になる。その結果、第2シール部が高速走行時のシール機能を十分に発揮し、これにより、第1シール部のシール機能とあいまって、潤滑油の漏出を防止することが可能になる。しかも、歯車装置の大型化や重量増大は生じず、鉄道車両の高速走行化に支障はない。
【0022】
ここで、潤滑油の漏出防止の確実性を高めるためには、前記第2シール部が前記分割環状部材の内周面と前記油切り部材の外周面との間で形成されることが好ましい。保守点検時の分割環状部材の取付けおよび取外しの容易性を踏まえると、前記分割環状部材が前記軸受押え部材にボルトによって取り付けられることが好ましい。潤滑油の漏出防止を一層図る観点から、前記分割環状部材が軸方向に複数段設けられることが好ましい。
【0023】
また、本発明の歯車装置は、主電動機とたわみ軸継手を介して連結され小歯車を一体に備える小歯車軸と、前記小歯車と噛み合う大歯車を一体に備える車軸と、上記の軸封機構を備えた鉄道車両用歯車装置であって、前記回転軸が、前記小歯車軸、および前記車軸のうちの少なくとも一方であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の軸封機構、およびこれを備えた歯車装置によれば、第2シール部が高速走行時のシール機能を十分に発揮し、潤滑油の漏出を防止することができる。しかも、歯車装置の大型化や重量増大は生じず、鉄道車両の高速走行化に支障はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の軸封機構および歯車装置の実施形態について、図面を参照しながら詳述する。
【0026】
図3は、本発明の鉄道車両用歯車装置の軸封機構を示す小歯車軸周辺の図であり、同図(a)は軸方向に沿った断面図、同図(b)は軸方向視での平面図である。
【0027】
同図に示すように、小歯車軸4には、軸受6の軸方向の外側に、その軸受6の内輪に隣接して、管状の油切り部材10が嵌め込まれている。油切り部材10は、小歯車軸4と一体で回転する。また、軸受6は、その外輪を環状の軸受押え部材20により保持されている。この軸受押え部材20の軸方向の外側となる側面には、周方向に分割可能な板状の分割環状部材30が取り付けられている。さらに、油切り部材10の周囲には押え蓋40が環装されている。押え蓋40は軸受押え部材20に重ねられ、軸受押え部材20とともに、周縁部の4箇所をノックピン43により位置決めされつつ、周縁部の8箇所をボルト42により歯車箱1に取り付けられている。
【0028】
油切り部材10の外周面には、周方向に沿って延在する第1の突起部11が設けられており、この第1の突起部11の軸方向の外側となる側面には、同心円状に2つの凸部12が設けられている。一方、押え蓋40には、油切り部材10の第1の突起部11からの凸部12を微小な隙間をあけて受け入れる凹部41が設けられている。この油切り部材10の第1の突起部11からの凸部12と、押え蓋40の凹部41との間の微小隙間により、非接触形のラビリンス構造の第1シール部が形成される。
【0029】
分割環状部材30は、ボルト31により軸受押え部材20の外側面に取り付けられ、油切り部材10の第1の突起部11の軸方向の内側に配置された状態になっている。分割環状部材30の内径は、油切り部材10の外周面の径よりも僅かに大きく設定されており、分割環状部材30の内周面と、油切り部材10の外周面との微小隙間により、非接触形の第2シール部が形成される。
【0030】
図4は、本発明の軸封機構を構成する分割環状部材の一例を示す平面図である。同図に示すように、分割環状部材30は、周方向に2分割された半円弧状の上側分割部材30Aおよび下側分割部材30Bから成り、上側分割部材30Aと下側分割部材30Bとを組み合わせることにより、環状となるものである。上側分割部材30Aおよび下側分割部材30Bの各周縁部には、ボルト31による軸受押え部材20への取付けのためのボルト取付け穴32、および位置決めのためのノックピン33が2箇所ずつ設けられている。
【0031】
また、下側分割部材30Bは、その周縁部の鉛直方向の下部に切欠き34が設けられている。この切欠き34には、軸受押え部材20に形成された切り穴21の一端が臨んでおり、この切り穴21は、歯車箱1の内部に連通している(前記図3参照)。
【0032】
このような歯車装置の軸封機構は、以下の手順で組み立てられる。小歯車2および軸受6を備えた小歯車軸4に、油切り部材10を焼きばめなどによって嵌め込み、小歯車軸4と油切り部材10を一体化させる。次に、軸受6に軸受押え部材20を嵌め込み、その後に、分割環状部材30を構成する上側分割部材30Aおよび下側分割部材30Bを個々に軸受押え部材20に取り付ける。このとき、分割環状部材30は、分割された上側分割部材30Aと下側分割部材30Bとを組み合わせて成るものであるため、その内径が、先に組み付けられた油切り部材10の第1の突起部11の最外径よりも小さく設定されていても、第1の突起部11との干渉を回避しながら組み付けを行うことができる。そして、軸受押え部材20に押え蓋40を取り付ける。
【0033】
このような構成の軸封機構において、軸受6に供給された潤滑油は、第2シール部、さらに第1シール部という2重のシール部で封じられる。その際、第2シール部は、油切り部材10の第1の突起部11の最外径よりも小さく設定された内径の内周面と、油切り部材10の外周面との微小隙間により形成されるため、第2シール部の形成位置は、小歯車軸4の径方向の内寄りとなる。このため、鉄道車両の高速走行時、小歯車軸4の径方向の外方に向けて飛散した潤滑油は、そこに第2シール部が形成されていないことから、第2シール部への到達が抑制され、第2シール部を通過し難い状態になる。そして、軸受6から第2シール部までの空間に存在する潤滑油、および第2シール部を通過して第1シール部までの空間に存在する潤滑油は、分割環状部材30を構成する下側分割部材30Bの切欠き34から軸受押え部材20の切り穴21を通じ、歯車箱1内に回収される。
【0034】
従って、本発明の軸封機構によれば、第2シール部が高速走行時のシール機能を十分に発揮し、これにより、第1シール部のシール機能とあいまって、潤滑油の漏出を防止することが可能になる。しかも、本発明の軸封機構は、前記特許文献1で提案されたような外蓋を歯車装置の外側にさらに設けるわけではなく、従来の軸封機構と比較して、第2シール部自体を改良したものであるため、歯車装置の大型化や重量増大は生じず、鉄道車両の高速走行化に支障はない。
【0035】
本発明の軸封機構は、上述した通り、小歯車軸に対して適用できるが、歯車を一体で備えた回転軸であれば同様の状況が起こるため、大歯車を一体に備えた車軸に対しての適用も可能である。すなわち、本発明の軸封機構は、歯車装置において、小歯車軸および車軸のうちの少なくとも一方に対して適用することができる。
【0036】
また、前記図3および図4に示す軸封機構では、分割環状部材30の内周面と油切り部材10の外周面との間で第2シール部が形成されているが、分割環状部材30の内径が油切り部材10の第1の突起部11の最外径よりも小さく設定される限り、例えば、油切り部材10の外周面の一部に第2の突起部を設け、当該第2の突起部との間で第2シール部が形成されるようにしてもよい。ただし、潤滑油の漏出防止の確実性を高めるためには、第2シール部の形成位置が回転軸の径方向の最も内寄りとなるように、分割環状部材30の内周面と油切り部材10の外周面との間で第2シール部が形成されるのが好ましい。
【0037】
また、前記図3および図4に示す軸封機構では、軸受押え部材20への分割環状部材30の取付けをボルト31による締結で行っているが、圧入や、溶接などの接合で行うこともできる。ただし、保守点検時の分割環状部材30の取付けおよび取外しの容易性を踏まえると、ボルト31による締結が好ましい。
【0038】
また、前記図3および図4に示す軸封機構では、分割環状部材30を軸方向に1段設けた構成であるが、分割環状部材を軸方向にシムなどを間に挟んで複数枚重ね、複数段設けた構成にすることができる。分割環状部材の段数が増えるほど、第2シール部自体のシール性能が向上するため、複数段の分割環状部材の設置は、潤滑油の漏出防止を一層図ることができる点で有効である。
【0039】
また、前記図3および図4に示す軸封機構では、分割環状部材30が周方向に2分割された半円弧状の上側分割部材30Aおよび下側分割部材30Bから構成されるが、分割環状部材の分割数に制限はなく、3分割以上に分割された円弧状の部材から分割環状部材が構成されても構わない。
【実施例】
【0040】
本発明の軸封機構による効果を確認するため、以下の試験を行った。本実施例の試験では、試験用の歯車装置に、本発明例として前記図3および図4に示す本発明の軸封機構を小歯車軸に対して組み込み、この歯車装置を稼動させて、潤滑油の漏れ状況を調査した。その際、鉄道車両の速度に相当する指標として、その速度上昇に対応して上昇する潤滑油の温度を採用し、潤滑油の温度ごとに油漏れを調査した。比較例として、前記図2に示す従来の軸封機構を歯車装置に組み込んだものについて、同様の油漏れ調査を行った。
【0041】
試験の結果、比較例では、65℃〜69℃で油漏れが発生したが、本発明例では、比較例で油漏れが発生した温度をはるかに超える98℃でも油漏れの発生はなかった。すなわち、本発明例では、比較例と比べて、鉄道車両の高速走行時であっても潤滑油の漏出を防止できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の軸封機構、およびこれを備えた歯車装置によれば、第2シール部の形成位置が小歯車軸または車軸の径方向の内寄りとなるため、鉄道車両の高速走行時、それぞれの回転軸の径方向の外方に向けて飛散した潤滑油は、第2シール部への到達が抑制され、第2シール部を通過し難い状態になる。その結果、第2シール部が高速走行時のシール機能を十分に発揮し、これにより、第1シール部のシール機能とあいまって、潤滑油の漏出を防止することができる。しかも、歯車装置の大型化や重量増大は生じず、鉄道車両の高速走行化に支障はない。従って、本発明は、高速走行化に対応した鉄道車両の歯車装置に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来の鉄道車両用歯車装置の構成を示す断面図である。
【図2】従来の鉄道車両用歯車装置の軸封機構を示す小歯車軸周辺の断面図である。
【図3】本発明の鉄道車両用歯車装置の軸封機構を示す小歯車軸周辺の図であり、同図(a)は軸方向に沿った断面図、同図(b)は軸方向視での平面図である。
【図4】本発明の軸封機構を構成する分割環状部材の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 歯車箱
2 小歯車
3 大歯車
4 小歯車軸
5 車軸
6 軸受
7 軸受
8 車輪
10 油切り部材
11 第1の突起部
12 凸部
20 軸受押え部材
21 切り穴
30 分割環状部材
30A 上側分割部材
30B 下側分割部材
31 ボルト
32 ボルト取付け穴
33 ノックピン
34 切欠き
40 押え蓋
41 凹部
42 ボルト
43 ノックピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を一体に備える回転軸と、前記歯車の軸方向の両側で前記回転軸を支持する軸受と、前記回転軸に嵌め込まれ前記軸受の軸方向の外側で前記回転軸と一体で回転する油切り部材と、前記軸受を保持する軸受押え部材と、前記油切り部材に環装され前記軸受押え部材に固定される押え蓋と、を備えた鉄道車両用歯車装置において、前記油切り部材の外周面を周方向に沿って延在する第1の突起部と前記押え蓋との間にラビリンス構造の第1シール部が形成される軸封機構であって、
前記第1の突起部の軸方向の内側で、前記第1の突起部の最外径よりも内径が小さく周方向に分割可能な分割環状部材を前記軸受押え部材に取り付け、前記分割環状部材の内周面と前記油切り部材との間で第2シール部が形成されることを特徴とする軸封機構。
【請求項2】
前記第2シール部が前記分割環状部材の内周面と前記油切り部材の外周面との間で形成されることを特徴とする請求項1に記載の軸封機構。
【請求項3】
前記分割環状部材が前記軸受押え部材にボルトによって取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の軸封機構。
【請求項4】
前記分割環状部材が軸方向に複数段設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軸封機構。
【請求項5】
主電動機とたわみ軸継手を介して連結され小歯車を一体に備える小歯車軸と、前記小歯車と噛み合う大歯車を一体に備える車軸と、請求項1〜4のいずれかに記載の軸封機構を備えた鉄道車両用歯車装置であって、
前記回転軸が、前記小歯車軸、および前記車軸のうちの少なくとも一方であることを特徴とする鉄道車両用歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−150504(P2009−150504A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330348(P2007−330348)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】