説明

農作業機における運転室

【課題】変形小区画で畦に囲まれた水田圃場などに多く利用されるクローラ式乗用管理機等の小型農作業機において、前方及び側方直近の状況が直視でき、天候や作業環境より操縦者を保護し、生産性に優れ、乗降容易で居住空間の広い運転室を提供する。
【解決手段】クローラ部3L・3Rより前方に延出し、クローラ部3L・3Rの上方を通り後方に延出する上部枠8上に運転室6を載置し、運転室体60の前壁透明体66を機体最前部に全幅に亘り立設し、また、前壁透明体66、左側壁透明体67及び右側壁透明体下68aをステップ77付近まで下垂する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業に使用する乗用管理機等、運転室を走行車体の前部に配した農作業機における運転室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用管理機等の農作業機においては、日射・風雨・粉塵・泥水飛散・騒音等の環境より操縦者を保護するため、座席と操作装置を備えた操縦部をガラス等の透明体を配した運転室体で被覆する構造の運転室を走行車体に配しているが、前記運転室を走行車体の中央部又は先端部一側に配置しているのが一般的である。
【0003】
これ等の公知技術として
1)運転室は機体の中央部に位置する操縦部を運転室体で被覆し構成したものであり、車輪式やクローラ式のトラクタ等で一般的に用いられる走行車体における運転室の配置構造である(例えば、特許文献1、2参照)。
2)前後に延設する機枠の下方左右に平行に掛け回されるクローラ部を配置し、このクローラ部より前方に延出する機枠の前部一側に運転室を設けた不整地運搬車における運転室の配置である(例えば、特許文献3参照)。
等が従来技術としてある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−115017号公報
【特許文献2】特開2003−237160号公報
【特許文献3】登録意匠番号1122151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の従来技術1)においては、走行車体中央部に位置する運転室の前方にエンジン部を突出状態に配しており、変形小区画で畦に囲まれた圃場などに多く利用されるクローラ式乗用管理機等の小型の農作業機においては、機体構造物による視界遮蔽により走行車体直前の視界を妨げ、また、乗降用開放部の足を掛ける位置が、車輪式では高く補助ステップを要し、クローラ式ではやや低くなるが機体構造物を乗り越える遠くの位置になる問題がある。
また、2)においては、走行車体の機枠の前方延出部一側に運転室を位置しているが、他側後方の視界を広く妨げ、また、乗降用開放部の位置が高く低い位置に補助ステップを要する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための技術的手段を説明する。
即ち、請求項1においては、上部に駆動スプロケットを配し、側面視三角状に掛け回されるクローラ部を、前後に延設する機枠の左右に配置し、該クローラ部の設置範囲より前方に延出する機枠の延出部に運転室を形成した農作業機において、ステップ体77を配した操縦部5を前壁と側壁をもって被覆する運転室体60の前壁透明体66を機体最前部に全幅に亘り立設する事を手段として用いた。
【0007】
また、請求項2においては、運転室体60の前壁及び側壁の透明体を操縦部5のステップ体77付近まで垂下する事を手段として用いた。
【0008】
また、請求項3においては、上部に駆動スプロケットを配し、側面視三角状に掛け回されるクローラ部を、前後に延設する機枠の左右に配置し、該クローラ部の設置範囲より前方に延出する機枠の延出部に運転室を形成した農作業機において、前記機枠7の延出部に後傾斜面を有するステップ体77を設け、該ステップ体77の前方から側方を経て前記クローラ部3L・3Rの上方を通り後方に延出する平面視U字形状の上部枠8を設け、該上部枠8上に運転室体60を載置する事を手段として用いた。
【0009】
また、請求項4においては、前記上部枠8の前方先端部に運転室体60の前端面を位置させ、且つ、上部枠8に運転室体60を構成する前後四隅の支柱前61L・61Rと支柱後62L・62Rを載置する事を手段として用いた。
【0010】
また、請求項5においては、支柱前61L・61Rと支柱後62L・62Rを、上部枠8の後方延出部の外側と接当する形状をもつ側部連結体64L・64Rにより連結する事を手段として用い、また、請求項6においては、前記運転室体は、共通の下部構成から成る運転室を備えない型式の機体上に着脱自在に載置されるものであって、運転室体60を備えない型式に装着する安全ガード84の取付箇所に、安全ガード84に替わって支柱後62L・62Rを取着可能とする事を手段として用いた。
【0011】
また、請求項7においては、上部枠8の前方延出部に運転室6の乗降用開放部を位置させる事を手段として用い、また、請求項8においては、運転室体60の乗降用開放部をクローラ前輪径38と略同じ高さまで下げて位置させる事を手段として用いた。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のような構成にしたので、次のような効果が得られる。
即ち、請求項1記載のように、ステップ体を配した操縦部を前壁と側壁をもって被覆する運転室体の前壁透明体を機体最前部に全幅に亘り立設する事により、広い居住空間の運転室を確保し、前方には機体構造物による視界遮蔽がないので走行車体が移動する前方直近の状態が直視可能となり、作業上に支障を来す異常・異物を事前に視認しそれを回避除去して走行車体の機械的な損傷や転倒を防ぎ、操縦者はゆったりとした運転室内で安全に且つ、畦に囲まれた変形小区画圃場できめ細かな農作業が行なえる等の効果が得られる。
【0013】
また、請求項2記載のように、運転室体の前壁及び側壁の透明体を操縦部のステップ体付近まで垂下する事により、広い居住空間の運転室を確保し、前方及び側方には機体構造物による視界遮蔽がないので走行車体が移動する前方直近及び左右側方直近の状態が直視可能となり、作業上に支障を来す異常・異物を事前に視認しそれを回避除去して機械的な損傷を防ぐと共に、運転室下部の気密性を確保して運転室内の環境を良好に保ち、操縦者はゆったりとした運転室内で安全にきめ細かな農作業を快適に行なえる等の効果が得られる。
【0014】
また、請求項3記載のように、機枠の延出部に設けたステップ体の前方から側方を経て前記クローラ部の上方を通り後方に延出する平面視U字形状の上部枠を設け、該上部枠上に運転室体を載置する事により、運転室体を堅牢な幅の広い単一構成の部材に装着する構造となり、広い居住空間を確保し、取付位置の精度が確保され互換性に優れ着脱容易で組み付け労力も低減し、しかも、運転室下部の気密性を確保して操縦者への環境を良好に保つ広い居住空間の運転室を形成する事ができる効果が得られる。
【0015】
また、請求項4記載のように、上部枠の先端部に運転室体の先端面を位置させ、且つ、上部枠に運転室体を構成する前後四本の支柱を配置する事により、走行車体の全長を長くする事なく、走行車体が移動する前方直近及び左右側方直近の状態が直視可能となり、更に、取付位置の精度が容易に得られ互換性に優れた着脱容易な運転室体を供給する事ができる効果が得られる。
【0016】
また、請求項5記載のように、支柱前と支柱後を、上部枠の後方延長部の外側と接当する形状をもつ側部連結体により連結する事により、前後の支柱の位置決めと強度を補い、さらに上部枠に運転室体を組み付ける時の左右方向の位置決めになるので組立てを容易にすると共に、左右側壁透明体の下部の気密性を容易に保つ効果が得られる。
【0017】
また、請求項6記載のように、運転室体は、共通の下部構造から成る運転室を備えない型式の機体上に着脱自在に載置されるものであって、運転室体を備えない型式に装着する安全ガード取付個所に、安全ガードに替わって支柱後を着脱可能とする事により、運転室体を備えない型式の走行車体と共通化が計られて生産性が向上すると共に、顧客の要求に迅速に対応可能となる効果が得られる。
【0018】
また、請求項7記載のように、上部枠の前方延出部に運転室の乗降用開放部を位置させる事により、乗降時に足を掛ける位置を、機体構造物を越えて乗降する必要の無いしかも低い位置に配置することが可能となり乗降が容易で、しかも、走行車体が移動する左右直近を視認可能となる効果が得られる。
【0019】
また、請求項8記載のように、運転室体の乗降用開放部をクローラ前輪径と略同じ高さまで下げて位置させた事により、クローラ部より外れた位置でしかも低い位置に足掛け位置を設ける事が可能となり、クローラ部の前方または側方に補助ステップ等の突起構造物の無い乗降用開放部となるので、乗降が容易でしかも畦等を崩す恐れがなく、また急傾斜地の乗り越え性能の向上が計られる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を添付の図面を用いて説明する。
図1は本発明を織り込んだクローラ式乗用管理機の全体左側面図、図2は同じくA矢視全体図、図3は同じくB−B断面を施した全体平面図、図4は全体右側面図、図5はB−B断面の要部断面図である。
【0021】
まず、本発明を織り込んだクローラ式乗用管理機における運転室の配置構造を図1、図2、図3、図4を用いて説明する。
実施例の走行車体1の全体の構成は、接地部に前輪32L・32Rと後輪33L・33Rを配し、該接地部の上方に駆動スプロケット31L・31Rを設けた側面視三角状に掛け回されるクローラ部3L・3Rを前後に延設する機枠体71L・71Rの左右に平行して配置し、該クローラ部3L・3Rより前方に延出する機枠体71L・71Rとその先端に配した前ヒッチ72に後傾斜面を有するステップ体77を設け、このステップ体77の前方と側方に沿う湾曲と側面視において前輪32L・32Rとほぼ同芯の湾曲を有し、クローラ部3L・3Rの上方を通り後方上方に延出する後端を上部枠取付体76L・76Rを介して機枠体71L・71Rに固着した平面視U字形状の上部枠8を配して機枠7を形成し、該機枠7に、後部には動力源のエンジン10を搭載し、その前方に動力伝達部12を連動連結して配置し、また、前部には座席50と動力伝達部12を操作する操作装置20を運転室体60で被覆した運転室6を配置し、更に、後端部には作業機4を装着する昇降装置40を運転室6より操作可能に連動連結して構成したものである。
【0022】
本発明を織り込んだ運転室6の構成は、座席50と操作装置20を備えた操縦部5を、前壁と左右側壁をガラス等の透明体を配した運転室体60を機枠7に着脱可能に締結固定して被覆した構成であり、図5を含めて詳細に説明する。
操縦部5の構成は、座席50の前方でステップ体77の上面前部に固着し上延するハンドル台29には、上端部で操向ハンドル23を支持し、上部前面に前照灯55を装着し、一側面にL字形のアクセルレバー26を配し夫々がハンドル台29の内部を通り所定の機能と連動連結する一方、座席50の左右には動力伝達部を操作する変速レバー24、副変速レバー25、PTOレバー27及び昇降レバー28を配置した操作装置20を、又、ステップ体77には上面に突出する主クラッチペダル21とフートブレーキ22を配した構成で、運転室体60を備えない型式の走行車体1と共通である。
【0023】
運転室体60の構造は、下方が垂直で上方が後傾し図5に示す直角辺を有するL字溝を一対設けた断面形状の支柱前61L・61Rを、上部枠8の先端部に上部枠8とほぼ同じ幅の間隔で立設し、且つ、前部連結体下、中、上63a・63b・63cを配し、支柱前61L・61Rの対向するL字溝の一辺と前部連結体下、中63a・63bにより下方の平面枠を形成し、該平面枠に前壁透明体下66aを締結固定し、又、支柱前61L・61Rと前部連結体中、上63b・63cにより上方の平面枠を形成し、該平面枠に前壁透明体上66bを接着する事により前壁を構成する。
【0024】
また、前記支柱前61L・61Rの後方に、垂直で下部後面に取付体後79L・79Rを固着する角パイプ材の支柱後62L・62Rを、該支柱後62L・62Rの外側面が支柱前61L・61Rの後方向きのL字溝の面と同一面となる幅に配し、前後の位置を操縦部を被覆する間隔に立設し、且つ、左側壁は、側部連結体64L及び側部連結体上64cLを配し、支柱前61Lの後方向きのL字溝の面と支柱後62L外側面と側部連結体64Lの下垂外側面及び側部連結体上64cLの外側により平面枠を形成し、外周をゴム体67bで保護し開閉把手67cを配した左側壁透明体67を、支柱後62Lの外側に設けた一対の蝶番65・65に装着し、前記平面枠に密着状態も可能で乗降時に開閉する左側壁を構成する。
【0025】
また、右側壁は、側部連結体64R、側部連結体中64b及び側部連結体上64cRを配し、支柱前61Rの後方向きのL字溝の面と支柱後62R外側面と側部連結体64Rの下垂外側面及び側部連結体中64bの外側面により平面枠を形成し、該平面枠に右側壁透明体下68aを締結固定すると共に、支柱前61Rと支柱後62Rと側部連結体中64b及び側部連結体上64cRの外側面により平面枠を形成し、外周をゴム体68cで保護した右側壁透明体上68bを、側部連結体上64cRの外周に設けた一対の小蝶番68b・68bに装着し、前記平面枠に密着状態可能で開閉する窓を設けて右側壁を構成する。
【0026】
なお、側部連結体64L・64Rは、図5に示す通り上部枠8の上面と外側面に接当するよう配置されている。
また、支柱後62L・62Rの上端は後部連結材を配し運転室体60の強度を補い、前部連結体上63cと共に、運転室体60の上端の日除けカバー69を支持する。
【0027】
運転室6は、運転室体60を備えない型式の走行車体1に、機枠7の前部延出部に配した前ヒッチ72の左右側面に設けた取付部に取付体前78L・78Rを介して運転室体60の支柱前61L・61Rの下端を締結固定する一方、上部枠8に設けた運転室体60を備えない型式においては安全ガード84を装着するガード取付体83L・83Rに、安全ガード84に替わって運転室体60の取付体後79L・79Rを締結固定して装着し、操縦部5を前壁と左右側壁を透明体で被覆し運転室6を構成している。
なお、図1、図2、図4では、透明体の内面に装着または固着する部分については細い実線をもって表わしている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
これ等の効果を織り込むことにより、前方視界が機体の直近まで視認でき、乗降容易でゆったりとした居住空間と良い環境が得られ、運転室体を備えた型式と運転室体を備えない型式の走行車体の共通化が具現し、生産性の向上が計られ、又、市場で型式替えが容易に行なえる構造となりユーザの選定が容易となるので、機体前部に配置する操縦部を運転室体で被覆する運転室の配置構造として採用する可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を織り込んだクローラ式乗用管理機の全体左側面図である。
【図2】同じくA矢視全体図である。
【図3】同じくB−B断面を施した全体平面図である。
【図4】同じく全体右側面図である。
【図5】同じくB−B断面の要部断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 走行車体
3 クローラ部
4 作業機
5 操縦部
6 運転室
7 機枠
8 上部枠
20 操作装置
40 昇降装置
60 運転室体
66 前壁透明体
A 図の投影方向を示す
B−B 図の断面位置と投影方向を示す


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に駆動スプロケットを配し、側面視三角状に掛け回されるクローラ部を、前後に延設する機枠の左右に配置し、該クローラ部の設置範囲より前方に延出する機枠の延出部に運転室を形成した農作業機において、ステップ体77を配した操縦部5を、前壁と側壁をもって被覆する運転室体60の前壁透明体66を機体最前部に全幅に亘り立設した事を特徴とする農作業機における運転室。
【請求項2】
運転室体60の前壁及び側壁の透明体を操縦部5のステップ体77付近まで垂下した事を特徴とする請求項1記載の農作業機における運転室。
【請求項3】
上部に駆動スプロケットを配し、側面視三角状に掛け回されるクローラ部を、前後に延設する機枠の左右に配置し、該クローラ部の設置範囲より前方に延出する機枠の延出部に運転室を形成した農作業機において、前記機枠7の延出部に後傾斜面を有するステップ体77を設け、該ステップ体77の前方から側方を経て前記クローラ部3L・3Rの上方を通り後方に延出する平面視U字形状の上部枠8を設け、該上部枠8上に運転室体60を載置した事を特徴とする農作業機における運転室。
【請求項4】
上部枠8の前方先端部に運転室体60の前端面を位置させ、且つ、上部枠8に運転室体60を構成する前後四隅の支柱前61L・61Rと支柱後62L・62Rを載置した事を特徴とする請求項3記載の農作業機における運転室。
【請求項5】
支柱前61L・61Rと支柱後62L・62Rを、上部枠8の後方延出部の外側と接当する形状をもつ側部連結体64L・64Rにより連結した事を特徴とする請求項3記載の農作業機における運転室。
【請求項6】
前記運転室体は、共通の下部構成から成る運転室を備えない型式の機体上に着脱自在に載置されるものであって、運転室体60を備えない型式に装着する安全ガード84の取付箇所に、安全ガード84に替わって支柱後62L・62Rを着脱可能とした事を特徴とする請求項3記載の農作業機における運転室。
【請求項7】
上部枠8の前方延出部に運転室6の乗降用開放部を位置させた事を特徴とする請求項3記載の農作業機における運転室。
【請求項8】
運転室体60の乗降用開放部をクローラ前輪径38と略同じ高さまで下げて位置させた事を特徴とする請求項7記載の農作業機における運転室。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−35924(P2006−35924A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215274(P2004−215274)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000005164)セイレイ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】