説明

透明ガスバリア層の製造方法、透明ガスバリア層、透明ガスバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池

【課題】 ガスバリア性に優れた透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも、層形成時の窒化および酸化を精密に制御することで効率よく製造することが可能な、透明ガスバリア層の製造方法を提供する。
【解決手段】 スパッタリング法により透明ガスバリア層を製造する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲット17を用い、反応性ガスとして窒素ガスを用い、前記反応性ガスがさらに酸素ガスおよび水素ガスを含み、前記反応性ガスにおいて、前記窒素ガスに対する前記酸素ガスの混合比率が1〜10体積%であり、前記窒素ガスに対する前記水素ガスの混合比率が0.1〜30体積%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア層の製造方法、透明ガスバリア層、透明ガスバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、電子ペーパー、太陽電池等の各種エレクトロニクスデバイスは、近年、軽量化・薄型化が進んでいる。これらデバイスの多くは大気中の水蒸気によって変質して劣化することがわかっている。例えば、有機EL素子では、発光領域となる有機薄膜層に水蒸気が侵入すると、素子の劣化により発光効率が低下したり、ダークスポットと呼ばれる非発光領域が発生・成長したりする等の問題を招く。
【0003】
従来、これらデバイスにはその支持基板としてガラス基板が用いられてきたが、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えてプラスチック基板の使用が検討されている。プラスチック基板は、一般には、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質をもつ。したがって、上記用途においては、プラスチック基板のガスバリア性を、その光透過性を維持しつつ向上させることが要求される。
【0004】
このような要求に対し、プラスチック基板上にガスバリア層を形成させる方法が、種々提案されている。例えば、無機層とポリマー層とを交互に複数層積層させてハイブリッド化することによりガスバリア性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、異なる材料の層を異なるプロセスにより形成するため、生産効率やコストの観点からは好ましいものとはいえない。また、十分なガスバリア性を得るためには積層の数を増やしたり、各層を厚く形成する必要があり、そのために製造効率が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、有機シリコン化合物を始めとする有機分子を触媒CVD(chemical−vapor−deposition)法やプラズマCVD法により、緻密なネットワーク構造を有する炭素、シリコン、窒素および水素を含むガスバリア層を形成し、単層でも高いガスバリア性を発現させることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では、基板を200℃付近まで加熱することや、高いプラズマエネルギーの出力が必要となる。そのために樹脂基板が劣化して黄変が起こったり、前記劣化によりガスバリア性が低下するおそれがあり、樹脂基板には高い耐熱性が求められる。
【0006】
一方、高温に加熱することなく単層でガスバリア効果を得る手段として、炭化シリコンをスパッタした薄膜を形成することが提案されている。炭化シリコン薄膜は光吸収が大きいため着色が生じるが、スパッタ時に窒素や酸素を加えることで光透過性が付与できるとされている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2996516号公報
【特許文献2】特開2008−155585号公報
【特許文献3】特開2004−151528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によると、スパッタ時に窒素を加えることで、ガスバリア性は向上するが光透過性の低い層が形成され、また、酸素を加えることで、光透過性は向上するが、ガスバリア性が低下するという問題が見出された。ガスバリア性と光透過性とは、層形成条件においてトレードオフの関係にあるため、良好な性能の透明ガスバリア層を得るためには、層形成時の窒化および酸化を精密に制御することが重要である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ガスバリア性に優れた透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも、層形成時の窒化および酸化を精密に制御することで効率よく製造することが可能な、透明ガスバリア層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、スパッタリング法により透明ガスバリア層を製造する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応性ガスとして窒素ガスを用い、前記反応性ガスがさらに酸素ガスおよび水素ガスを含み、前記反応性ガスにおいて、前記窒素ガスに対する前記酸素ガスの混合比率が1〜10体積%であり、前記窒素ガスに対する前記水素ガスの混合比率が0.1〜30体積%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の透明ガスバリア層は、前記本発明の透明ガスバリア層の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、前記本発明の透明ガスバリア層であることを特徴とする。
【0014】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、光透過性と優れたガスバリア性の両方を兼ね備えた透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも、層形成時の窒化および酸化を精密に制御することで効率よく製造することが可能となる。また、本発明の透明ガスバリア層は、前記本発明の製造方法により製造されたものであるから、光透過性およびガスバリア性がともに優れている。そして、本発明の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したものであるから、光透過性およびガスバリア性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の透明ガスバリア層をバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記炭化金属が炭化アルミニウムであり、前記炭化半金属が炭化シリコンであることが好ましい。
【0019】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含み、前記金属および前記半金属が、単体、混合物または合金であってもよい。
【0020】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることが好ましい。
【0021】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記透明ガスバリア層が基材上に形成され、前記透明ガスバリア層形成時の前記基材の加熱温度が120℃以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法においては、前記透明ガスバリア層を連続して製造することが好ましい。
【0023】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることが好ましい。
【0024】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0025】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、スパッタリング法によるものであり、ターゲットとしては、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を主成分とするものを用いる。炭化金属としては、炭化アルミニウムを用いることが好ましく、炭化半金属としては、炭化シリコンを用いることが好ましい。炭化アルミニウムや炭化シリコンは、ネットワーク構造(網目状の構造)を形成可能である。さらに、他の炭化物に比べ、透明ガスバリア層形成時の内部応力が高くないので、透明ガスバリア層を形成する基材として、変形しやすい材料からなるものも使用することが可能となり、また、得られる透明ガスバリア層にクラック等も発生しにくい。
【0026】
また、反応性ガスとしては、酸素ガスおよび水素ガスを含む窒素ガスを用いる。そして、前記反応性ガスは、窒素ガスに対する酸素ガスの混合比率が1〜10体積%であり、窒素ガスに対する水素ガスの混合比率が0.1〜30体積%である。窒素ガスに対する酸素ガスの混合比率を1体積%以上とすることで、得られるガスバリア層の着色を防ぎ、透明性の高いガスバリア層を得ることができる。また、10体積%以下とすることで、透明ガスバリア層形成時に酸素による脱炭素化による構造の緻密化阻害が起こりにくく、ガスバリア性の良好な層を得ることができる。窒素ガスに対する水素ガスの混合比率を0.1体積%以上とすることで、真空槽内の残留水分を除去することができる。これにより、残留する水分子に由来する過剰な酸化を防ぎ、得られる透明ガスバリア層のガスバリア性の低下を抑制することができる。また、30体積%以下とすることで、層中にSi−CHのような水素を含む終端官能基が生じることによるネットワーク構造の形成阻害を防ぐことができ、ガスバリア性の良好な層を得ることができる。前記酸素ガスの混合比率は、1〜5体積%であることが好ましく、1〜3体積%であることがより好ましい。また、前記水素ガスの混合比率は、0.1〜10体積%であることが好ましく、0.5〜5体積%であることがより好ましい。前記反応性ガスは、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0027】
前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含んでいてもよい。前記金属および半金属は、単体、混合物または合金であってもよい。前記混合物は、複数種類の金属の混合物、複数種類の半金属の混合物、金属と半金属との混合物、単体と合金との混合物のいずれであってもよく、制限されない。前記金属および半金属の少なくとも1種を含む前記ターゲットを用いると、層形成速度を速くすることができ、製造の効率化を図ることが可能となる。また、例えば、炭化シリコンとシリコンとの混合ターゲットの場合、炭化窒化シリコンと窒化シリコンの成分を有する層が得られ、良好なガスバリア性が得られる。前記金属および半金属から選択される少なくとも1種を含む単体、混合物または合金の混合比率は、80重量%以下であることが好ましい。前記混合比率を80重量%以下とすることで、例えば、ターゲット内において粒界での割れの発生を防ぐことができ、スパッタリングでの層形成状態が劣化するのを防ぐことができる。前記混合比率は、より好ましくは50重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下である。前記金属および半金属は、前記炭化金属および炭化半金属を構成する金属および半金属と同じものであっても異なっているものであってもよいが、スパッタ効率を考慮すると、同じものであることが好ましい。
【0028】
前記スパッタリング法は、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法で行うことが好ましい。前記パルスDCスパッタリング法は、通常のDCスパッタリング法と比較して、ターゲットの表面に窒化物や酸化物などの絶縁層ができるのを防ぐことができ、スパッタによる層形成が不安定になるのを防ぐことができる。RFスパッタリング法による場合、周波数は10kHz〜30MHzの範囲であることが好ましく、より好ましくは、30kHz〜20MHzの範囲である。放電出力は、例えば1〜10W/cmの範囲であり、好ましくは3〜6W/cmの範囲である。前記パルスDCスパッタリング法での周波数や負バイアスとなるデューティー比には特に制限はないが、放電の時間は短いほうが好ましく、30〜95%の範囲であることが好ましい。
【0029】
透明ガスバリア層の形成時のスパッタリング条件に特に制限はない。例えば、真空槽内を10−4Pa以下に排気した後、放電ガスとしてアルゴンガスを、反応性ガスとして酸素ガスおよび水素ガスを含む窒素ガスを導入し、系の内圧が0.1〜1Paになるようにマスフローコントローラで流量制御(圧力制御)を行う。スパッタ時の放電出力は、1〜10W/cmを印加し、所望の厚みになるまでスパッタリングを行う。
【0030】
前記透明ガスバリア層形成時の加熱温度は120℃以下であることが好ましい。なお、前記透明ガスバリア層は基材上に形成されてもよく、前記基材として樹脂フィルムを用いると、透明ガスバリアフィルムを得ることができる。この場合、前記透明ガスバリア層形成時には、前記基材を120℃以下で加熱することが好ましい。本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、透明で良好なガスバリア性能を有する層を低温形成することも可能であるので、基材が例えば樹脂の場合であっても、樹脂の性質や形状を損なわない条件設定をすることが可能となる。
【0031】
基材の材質は、透明であることが好ましく、樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどがあげられる。また、基材の厚みは20〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜150μmの範囲である。
【0032】
透明ガスバリア層の厚みは、0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。前記厚みを0.01μm以上とすることで、十分なガスバリア性を得ることができ、1μm以下とすることで、内部応力を低くすることができ、クラックの発生を防ぐことができる。前記厚みは、0.05〜0.2μmの範囲であることがより好ましい。
【0033】
前記透明ガスバリア層は、バッチ方式でも連続生産方式でも製造することができる。連続生産方式の場合、前記透明ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明基材フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明基材フィルムの上に前記透明ガスバリア層を形成する。
図1に、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この製造装置10は、真空槽11、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、二つの補助ロール14aおよび14b、カソード16、真空ポンプ20、スパッタリング用ガス供給手段18、反応性ガス供給手段19を主要な構成部材として有する。真空槽11内には、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、および二つの補助ロール14a、14bが配置されており、巻出ロール13aから、巻取ロール13bにわたり、キャンロール15および二つの補助ロール14a、14bを介して、透明基材フィルム12が掛け渡されている。前記カソード16は、前記キャンロール15と対向するように、前記真空槽11の底部に設置されている。前記カソード16の上面には、前記ターゲット17が装着されている。前記真空ポンプ20は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽11内を減圧することが可能となっている。前記スパッタリング用ガス供給手段18および前記反応性ガス供給手段19は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記スパッタリング用ガス供給手段18は、スパッタリング用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力のスパッタリング用ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記反応性ガス供給手段19は、窒素ボンベ22、酸素ボンベ23および水素ボンベ24に接続されており、これにより、酸素ガスおよび水素ガスを前記所定の混合比率で含む窒素ガスを、反応性ガスとして、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記キャンロール15には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、前記キャンロール15の表面温度を調整することで、前記透明基材フィルム12の温度を、前記所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0034】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でスパッタリングを行い、連続して透明ガスバリア層を形成すること以外は、後述のバッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【0035】
図2に、本発明の透明ガスバリア層をバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、この製造装置30は、前記各種ロールに代えて、真空槽31内に、基板加熱ヒータ33が配置され、前記基板加熱ヒータ33に枚葉の透明基材(例えば、透明基材フィルム)32が設置されている以外は、図1と同様の構成である。前記基板加熱ヒータ33としては、前記温度制御手段と同様のものがあげられる。
【0036】
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有するものであって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、前記本発明の透明ガスバリア層であることを特徴とする。前記陽極層としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機発光層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極層としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層等が形成される。前記基板としては、ガラス基板を用いることができるが、プラスチック基板等を用いてもよい。ガス透過性の十分でない材料を前記基板として使用する場合、本発明の透明ガスバリア層を形成したものを用いることが好ましい。なお、従来の有機EL素子は、十分な封止性能を有するガスバリア層がなかったため、前記積層体を形成した後、この積層体を封止するために、有機EL素子の裏面全体を金属の封止缶で被覆する構造を採用していた。本発明の透明ガスバリア層によると、被覆も容易であり、また、有機EL素子の薄型化も可能となる。
【0037】
本発明の有機EL素子においては、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることも好ましい。有機EL素子の基板として、前記本発明の透明ガスバリアフィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。したがって、ディスプレイとしての有機EL素子はフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。
【0038】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含み、前記太陽電池セルが、前記本発明のガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されている。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは、太陽電池の保護用バックシートとしても好適に使用できる。太陽電池の構造の一例としては、薄膜シリコンやCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜により形成した太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂により封止し、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムにより挟み込むことで構成されるものがあげられる。前記樹脂による封止をせずに、本発明の透明ガスバリアフィルムで直接挟み込んでもよい。また、樹脂により封止をした後に、前記樹脂上に本発明の透明ガスバリア層を形成してもよい。
【0039】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明のガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されている。薄膜電池としては、薄膜リチウムイオン電池などがあげられる。前記薄膜電池としては、基板上に金属を用いた集電層、金属無機層を用いた陽極層、固体電解質層、陰極層、金属を用いた集電層を順次積層させた構成が代表的である。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは薄膜電池の基板としても使用することができる。
【実施例】
【0040】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0041】
(透明ガスバリア層の厚み)
ガスバリア層の反射率および透過率を日本分光株式会社製の分光光度計(商品名:V−560)により測定した。透過率測定結果から得られるλ=500〜600nmの範囲でのピーク波長λにおける、反射率Rから、下記(式1)によって屈折率nを算出する。算出された屈折率nおよびλの値から、下記(式2)により得られる光学膜厚dを、透明ガスバリア層の厚みとした。
n=(1+R1/2)/(1−R1/2) (式1)
nd=λ/4 (式2)
(参考文献「小檜山光信、光学薄膜の基礎理論(オプトロニクス社 2003),p.35」)
【0042】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度は、水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN−W)を用い、40℃、90%RH環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲は0.1g・m−2・day−1以上である。
【0043】
(可視光透過率)
可視光透過率は、日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計(商品名:V−560−DS)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0044】
[実施例1]
〔透明基材フィルムの準備〕
透明基材フィルムとして、東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm、商品名「ルミラーT60」)を準備した。
【0045】
〔透明ガスバリア層形成工程〕
つぎに、前記PETフィルムを、図2に示す製造装置に装着した。カソード16の上面には、炭化ケイ素ターゲット(純度5N:99.999%)17を装着した。真空ポンプ20により真空槽31内を減圧し、到達真空度1.0×10−4Pa以下を得た。その後、スパッタリング用ガス供給手段18および反応性ガス供給手段19により、前記真空槽31内にアルゴンガスおよび反応性ガスを導入した。ついで、DCパルスを200kHz、放電出力を3W/cm、透明基材フィルム温度を100℃の条件下で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。この際、アルゴンガスの供給量(流量)は、150sccm(150×1.69×10−3Pa・m/秒)、反応性ガスの供給量(流量)は、N/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)/0.6sccm(0.6×1.69×10−3Pa・m/秒)とした。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、2.0体積%であった。また、このとき、系内圧力は、0.5Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0046】
[実施例2]
ターゲットを炭化アルミニウム(純度4N:99.99%)、反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=40sccm(40×1.69×10−3Pa・m/秒)/2sccm(2×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化アルミニウム化合物層を形成することにより、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ5.0体積%、2.5体積%であった。
【0047】
[実施例3]
ターゲットを、炭化ケイ素80重量%とケイ素20重量%との合金とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、2.0体積%であった。
【0048】
[実施例4]
ターゲットを、炭化アルミニウム70重量%とアルミニウム30重量%との合金とした以外は、実施例2と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化アルミニウム化合物層を形成することにより、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ5.0体積%、2.5体積%であった。
【0049】
[比較例1]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、ともに0体積%であった。
【0050】
[比較例2]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/5sccm(5×1.69×10−3Pa・m/秒)/0.6sccm(0.6×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ16.7体積%、2.0体積%であった。
【0051】
[比較例3]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、0体積%であった。
【0052】
[比較例4]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)/15sccm(15×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例1と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、50.0体積%であった。
【0053】
[比較例5]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例3と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、ともに0体積%であった。
【0054】
[比較例6]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/5sccm(5×1.69×10−3Pa・m/秒)/0.6sccm(0.6×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例3と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ16.7体積%、2.0体積%であった。
【0055】
[比較例7]
反応性ガスの供給量(流量)をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)/0sccm(0×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例3と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、0体積%であった。
【0056】
[比較例8]
反応性ガスの流量をN/O/H=30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)/1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)/15sccm(15×1.69×10−3Pa・m/秒)とした以外は、実施例3と同様の条件で、前記PETフィルム上に厚み80nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。窒素ガスに対する酸素ガスおよび水素ガスの混合比率は、それぞれ3.3体積%、50.0体積%であった。
【0057】
実施例1〜4および比較例1〜8で得られた透明ガスバリア層付きフィルムについて、水蒸気透過速度(WVTR)および550nmの波長における可視光透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた透明ガスバリア層付きフィルムは、水蒸気透過速度の検出限界以下の良好なガスバリア性と、70%以上の良好な可視光透過率を有しており、厚みが80nmと非常に薄く、また、単層であっても好適な特性を有する透明ガスバリア層が得られていることがわかる。一方、反応性ガスに酸素ガスおよび水素ガスをともに混合していない比較例1および5では、可視光透過率が70%を下回り、光透過性は十分とはいえなかった。また、比較例2〜4および6〜8では、水蒸気透過速度が0.20g・m−2・day−1以上と大きく、ガスバリア性に劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法によれば、ガスバリア性に優れた透明ガスバリアフィルムを効率よく製造することが可能である。本発明の透明ガスバリア層および透明ガスバリアフィルムは、例えば有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、薄膜電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電気素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10、30 製造装置
11、31 真空槽
12、32 透明基材フィルム
13a 巻出ロール
13b 巻取ロール
14a、14b 補助ロール
15 キャンロール
16 カソード
17 ターゲット
18 スパッタリング用ガス供給手段
19 反応性ガス供給手段
20 真空ポンプ
21 スパッタリング用ガスボンベ
22 窒素ボンベ
23 酸素ボンベ
24 水素ボンベ
33 基板加熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により透明ガスバリア層を製造する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応性ガスとして窒素ガスを用い、前記反応性ガスがさらに酸素ガスおよび水素ガスを含み、前記反応性ガスにおいて、前記窒素ガスに対する前記酸素ガスの混合比率が1〜10体積%であり、前記窒素ガスに対する前記水素ガスの混合比率が0.1〜30体積%であることを特徴とする透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項2】
前記炭化金属が炭化アルミニウムであり、前記炭化半金属が炭化シリコンであることを特徴とする、請求項1記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項3】
前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含み、前記金属および前記半金属が、単体、混合物または合金であることを特徴とする、請求項1または2記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項4】
前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項5】
前記透明ガスバリア層が基材上に形成され、前記透明ガスバリア層形成時の前記基材の加熱温度が120℃以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項6】
前記透明ガスバリア層を連続して製造することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法によって製造されたことを特徴とする透明ガスバリア層。
【請求項8】
請求項7記載の透明ガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したことを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項9】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、請求項7に記載の透明ガスバリア層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記基板が、請求項8記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする、請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、請求項7記載の透明ガスバリア層および請求項8記載の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、請求項7記載の透明ガスバリア層および請求項8記載の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする薄膜電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−207269(P2012−207269A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73648(P2011−73648)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】