説明

透明バイオセンサ

【課題】TFTを有するバイオセンサを用いて顕微鏡観察と同時に生体関連物質の信号情報を取得する場合に、その信号情報を正確に取得することができる透明バイオセンサを提供する。
【解決手段】透明基材1と、透明基材1上に設けられた透明な薄膜トランジスタ素子部A及び透明な生体関連物質感応部Bとを有し、その薄膜トランジスタ素子部Aが有するゲート電極2を、薄膜トランジスタ素子部Aを構成する酸化物半導体膜4に対する紫外線カット機能を有するように構成して、上記課題を解決した。このゲート電極2を、(i)紫外線カット材料を含む透明電極、(ii)紫外線カット材料からなる透明電極、及び、(iii)前記酸化物半導体膜のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを持つ透明電極、のいずれかであるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明バイオセンサに関し、さらに詳しくは、顕微鏡観察と同時に生体関連物質の信号情報を取得する場合に、その信号情報を正確に取得することができる透明バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
生物はμmオーダーの細胞から構成されており、その細胞はタンパク質、脂質又は核酸等のnmオーダーの構造の集合体である。一方、半導体加工技術の微細加工もnmオーダーであり、細胞の大きさと同程度である。こうした半導体加工技術で作製された素子を生物のナノ構造に対して適用することにより、例えば細胞の機能発現を制御したり、タンパク質や核酸等の生体分子情報を取得したりすることが可能になり、現在多方面で研究されている(非特許文献1)。
【0003】
特に、疾患の診断、薬物代謝に関する個人差の検出、又は、食品若しくは環境モニタ等の目的で、DNA、糖鎖又はタンパク質等の生体関連物質を検査する種々の方法が開発されており、生体分子(biomolecule)から電気的な信号情報を取得するバイオセンサの研究が進んでいる。最近では、電気的な信号の転換が速く、集積回路とMEMS(Micro Electro Mechanical System)との接続が容易であるという観点から、電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)を使用して生物学的な反応を検出するバイオセンサについて、多くの研究がなされている。
【0004】
FETを用いたバイオセンサは、MOSFETからゲート電極を除き、絶縁膜上に感応膜を被着した構造を有しており、「ISFET(Ion Sensitive FET)」と呼ばれている。そして、感応膜上に酸化還元酵素、各種タンパク質、DNA、抗原又は抗体等を載置することによって、各種バイオセンサとして機能できるようになっている(特許文献1,2)。具体的には、バイオセンサに用いられるFETは、シリコン基板の表面にソース電極、ドレイン電極及びゲート絶縁膜を形成し、ソース電極とドレイン電極と間のゲート絶縁膜の表面に金属電極を有している。この金属電極の表面には、DNAプローブとアルカンチオールが載置されている。
【0005】
ところで、近年、酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタ(以下「TFT」ともいう。)の研究が活発に行われている。特許文献3では、In、Ga及びZnからなる酸化物(「IGZO」と略す。)の多結晶膜を薄膜トランジスタの半導体膜に用いた例が提案され、非特許文献2と特許文献4では、IGZOの非晶質膜を薄膜トランジスタの半導体膜に用いた例が提案されている。これらのIGZOを半導体膜に用いた薄膜トランジスタは、室温での低温成膜が可能であり、プラスチック基板等の非耐熱性基板に熱ダメージを与えることなく形成できるとされている。このIGZO系の酸化物半導体は、可視光に対する透過率が高い透明材料であるとともに、ITO等の従来公知の透明導電材料をゲート電極、ソース電極又はドレイン電極とした場合であっても良好な電気的な接触特性が得られることから、透明材料のみを用いた透明な薄膜トランジスタも検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松元亮、宮原裕二、「バイオセンサの現状と今後の課題」、応用物理、第80巻、第3号、p.205-210(2011).
【非特許文献2】K.Nomura et.al., Nature, vol.432, p.488-492(2004)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−296228号公報
【特許文献2】特開2007−108160号公報
【特許文献3】特開2004−103957号公報
【特許文献4】特表2005−088726号公報
【特許文献5】特開2011−009293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
TFTを用いたバイオセンサは、半導体加工技術を利用した微細加工が可能であることから研究が進められている。TFTを用いたバイオセンサによって細胞又はDNA等の生体関連物質の状態を電気的な信号情報として検出する場合、得られた情報データは重要な評価要素となるが、その検出時の細胞又はDNAの状態を顕微鏡観察することも重要な評価手段である。細胞等の顕微鏡観察は、透過光により高倍率で直接観察することが望ましい。感応膜上の生体関連物質から電気的な信号情報を取得するのと同時にその状態を顕微鏡観察するためには、生体関連物質をバイオセンサの下側から観察する倒立型顕微鏡が好ましく用いられる。そのため、TFTを有するバイオセンサでは、半導体膜として透明な酸化物半導体膜を用いることが好ましい。
【0009】
透明酸化物半導体であるIGZO系の酸化物半導体膜の使用は、TFTを有するバイオセンサ全体の透明化を実現できるが、その酸化物半導体自体が紫外線、特に波長が200nm〜280nmのUV−Cに対して感応することが知られている(特許文献5)。しかしながら、そうした酸化物半導体膜を、電気的な信号情報を取得すると共に顕微鏡観察できる透明なバイオセンサに適用した場合、その透明バイオセンサに対し、顕微鏡観察時の照射光が上方から又は下方から照射される。そのため、その照射光に含まれる紫外線によって、酸化物半導体膜からの出力信号が変動又は低下するおそれがある。その結果、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報と、顕微鏡観察と同時に取得しない生体関連物質の信号情報とが異なるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、TFTを有するバイオセンサを用いて顕微鏡観察と同時に生体関連物質の信号情報を取得する場合に、その信号情報を正確に取得することができる透明バイオセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る透明バイオセンサは、透明基材と、該透明基材上に設けられた透明な薄膜トランジスタ素子部及び透明な生体関連物質感応部とを有し、前記薄膜トランジスタ素子部が有するゲート電極が、前記薄膜トランジスタ素子部を構成する酸化物半導体膜に対する紫外線カット機能を有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、透明な薄膜トランジスタ素子部が有するゲート電極が、酸化物半導体膜に対する紫外線カット機能を有するので、透明バイオセンサの下方又は上方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側に配置されたゲート電極が紫外線をカットするように作用する。その結果、酸化物半導体膜が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【0013】
(2)本発明に係る透明バイオセンサにおいて、前記ゲート電極が、(i)紫外線カット材料を含む透明電極、(ii)紫外線カット材料からなる透明電極、及び、(iii)前記酸化物半導体膜のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを持つ透明電極、のいずれかであるように構成する。
【0014】
この発明によれば、紫外線カット手段であるゲート電極が、上記(i)〜(iii)のいずれかであるので、透明バイオセンサの下方又は上方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側に配置されたゲート電極が紫外線をカットするように作用する。特に、酸化物半導体膜のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを持つ透明電極は、照射光のうち、酸化物半導体膜で電子を励起する紫外線をカットできるので好ましい。
【0015】
(3)本発明に係る透明バイオセンサにおいて、前記薄膜トランジスタ素子部が、ボトムゲート型の薄膜トランジスタ構造又はトップゲート型の薄膜トランジスタ構造を有する。
【0016】
この発明によれば、トップゲート型及びボトムゲート型のいずれの薄膜トランジスタ構造でも好ましく適用できる。
【0017】
(4)本発明に係る透明バイオセンサにおいて、前記薄膜トランジスタ素子部がボトムゲート型の薄膜トランジスタ構造であり、該薄膜トランジスタ構造の上方に絶縁膜を介して前記ゲート電極に接続する検出電極が設けられ、該検出電極が前記酸化物半導体膜に対する前記紫外線カット機能を有する。
【0018】
この発明によれば、薄膜トランジスタ構造の上方に設けられた検出電極が、ゲート電極と同じ紫外線カット機能を有するので、透明バイオセンサの下方及び上方の両方から入り込む紫外線を、酸化物半導体膜の下方に配置されたゲート電極と上方に配置され検出電極とでカットするように作用する。
【0019】
(5)本発明に係る透明バイオセンサにおいて、前記酸化物半導体膜が、IGZO系の酸化物半導体膜であることが好ましい。
【0020】
IGZO系酸化物半導体材料からなる酸化物半導体膜は、生体関連物質を顕微鏡観察する際に照射される光に含まれる紫外線に感応し易い。この発明によれば、その酸化物半導体膜からの出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができるので、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る透明バイオセンサによれば、透明バイオセンサの下方又は上方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側に配置されたゲート電極が紫外線をカットするので、酸化物半導体膜が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明に係るボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサの他の一例を示す模式断面図である。
【図3】本発明に係るボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサのさらに他の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明に係るトップゲート型TFTを有する透明バイオセンサの一例を示す模式断面図である。
【図5】本発明に係るトップゲート型TFTを有する透明バイオセンサの他の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る透明バイオセンサについて図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、その技術的思想を含む範囲内で以下の形態に限定されない。
【0024】
本発明に係る透明バイオセンサ10,20は、図1〜図5に示すように、透明基材1と、透明基材1上に設けられた透明な薄膜トランジスタ素子部A(以下「TFT素子部A」ともいう。)及び透明な生体関連物質感応部Bとを有する。そして、TFT素子部Aが有するゲート電極2を、TFT素子部Aを構成する酸化物半導体膜2に対する紫外線カット機能を有するように構成したことに特徴がある。
【0025】
この透明バイオセンサ10,20では、透明なTFT素子部Aが有するゲート電極2が、酸化物半導体膜4に対する紫外線カット機能を有するので、透明バイオセンサ10,20の下方又は上方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側に配置されたゲート電極2が紫外線をカットするように作用する。その結果、酸化物半導体膜4が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜4による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【0026】
以下、透明バイオセンサの構成を、ボトムゲート型TFTを有するものと、トップゲート型TFTを有するものとに分けて詳しく説明する。なお、本発明において、「上に」とは、そのものの上に直に設けられていることを意味し、直に設けられていない場合は「上方に」と言い分ける。また、「覆う」とは、そのものの上に直接設けられるとともに、そのものの周りにも設けられていることを意味する。また、「紫外線をカットする」とは、紫外線を吸収又は反射することをいう。
【0027】
[ボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ]
図1〜図3に示す透明バイオセンサ10は、ボトムゲート型の薄膜トランジスタ(以下「TFT」ともいう。)を有するTFT素子部Aと、生体関連物質感応部Bとを有している。
【0028】
図1に示すボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ10Aは、透明基材1と、透明基材1上に設けられたTFT素子部A及び生体関連物質感応部Bとで構成されている。TFT素子部Aと生体関連物質感応部Bとは、平面視で重ならずに並んで設けられている。また、生体関連物質感応部Bの絶縁膜3’及び感応膜8の下に設けられた電極2’は、TFT素子部Aを構成するゲート電極2に接続されている。
【0029】
TFT素子部Aは、ボトムゲート型TFTを有するものであり、図1に示すように、透明基材1上に設けられたゲート電極2と、ゲート電極2上に設けられたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に設けられた酸化物半導体膜4と、酸化物半導体膜4の両側にトップコンタクト状に設けられたソース電極5及びドレイン電極6と、酸化物半導体膜4、ソース電極5及びドレイン電極6を覆う保護膜7とを有している。一方、生体関連物質感応部Bは、図1に示すように、透明基材1上にTFT素子部Aのゲート電極2と共に形成された電極2’と、その電極2’上にTFT素子部Aのゲート絶縁膜3と共に形成された絶縁膜3’と、その絶縁膜3’上に設けられた感応膜8とを有している。生体関連物質は、感応膜8上に載置される。
【0030】
図2に示すボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ10Bは、透明基材1と、透明基材1上に設けられたTFT素子部Aと、そのTFT素子部Aを覆う保護膜7と、その保護膜7上に設けられた生体関連物質感応部Bとで構成されている。TFT素子部Aと生体関連物質感応部Bとは、平面視で重ならずに並んで設けられている。また、生体関連物質感応部Bの絶縁膜3’及び感応膜8の下に設けられた電極2’は、TFT素子部Aを構成するゲート電極2と、絶縁膜3’及び感応膜8を上下に貫く配線2”を介して接続されている。
【0031】
TFT素子部Aもボトムゲート型TFTを有するものであり、図2に示すように、図1と同じ形態であるのでここではその説明を省略する。一方、生体関連物質感応部Bは、図2に示すように、透明基材1と、透明基材1上に設けられた絶縁膜3’と、絶縁膜3’上に設けられた保護膜7’と、保護膜7’上に設けられた電極2’と、電極2’上に設けられた感応膜8とを有している。生体関連物質は、感応膜8のうち、電極2’が設けられた範囲の感応膜8上に載置される。
【0032】
図3に示すボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ10Cは、図2とほぼ同じ形態である。異なる点は、生体関連物質感応部Bを構成する電極2’が、TFT素子部Aの上方にまで延びていることであり、それ以外は図1と同じ形態であるのでここではその説明を省略する。生体関連物質は、感応膜8のうち、電極2’が設けられた範囲の感応膜8上に載置される。
【0033】
(透明基材)
透明基材1は、透明であればその種類や構造は特に限定されるものではなく、用途に応じてフレキシブルな材料や硬質な材料等が選択される。具体的には、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。通常は、ITO付きガラス基板やITO付きプラスチック基板等が好ましく用いられる。なお、金属膜や透明導電膜がゲート電極として形成されたガラス基板やプラスチック基板等を用いてもよい。
【0034】
透明の定義は、透明基材1の下方から生体関連物質感応部Bに載置された生体関連物質を観察することができる程度に透明であればよい。例えば、(i)反射率で判断する場合には、波長350nm〜650nmの可視光域において、各膜の屈折率が約2以下で屈折率差が約0.5以下であることが好ましく、(ii)透過率で判断する場合には、波長350nm〜650nmの可視光域において、各膜の消光係数kが約0.1以下と低いことが好ましい。また、透明基材1の厚さは特に制限されないが、通常、1μm〜1mm程度である。透明基材1の形状は特に限定されないが、顕微鏡観察に利用できる形状であることが好ましく、例えばチップ状、カード状、ディスク状等を挙げることができる。
【0035】
(ゲート電極)
ゲート電極2は、図1〜図3に示すように、TFT素子部Aではゲート電極2として設けられ、生体関連物質感応部Bではゲート電極2が延びた電極2’として設けられており、いずれも透明基材1上にパターン形成されている。ゲート電極2の形成材料は、透明電極であればよく、例えばITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO、ZnO等の透明導電膜を好ましく挙げることができる。なお、所望の導電性を有するものであれば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような透明な導電性高分子等であってもよい。
【0036】
ゲート電極2の形成は、ゲート電極材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、透明導電膜でゲート電極2を形成する場合には、成膜手段としてスパッタリング法や各種CVD法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できる。ゲート電極2の形成に低温成膜が要求される場合には、成膜手段として低温成膜可能なスパッタリング法やプラズマCVD法を好ましく適用できる。また、導電性高分子でゲート電極2を形成する場合には、成膜手段として真空蒸着法やパターン印刷法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できる。ゲート電極2の形成工程時には、同時に、ゲート電極用配線、グラウンド配線及び電源配線等の回路配線群を、ゲート電極2と同一材料で形成してもよい。ゲート電極2の厚さ、及び、ゲート電極2の形成時に同時に形成する回路配線群(電極や配線)の厚さは、通常、0.05μm〜0.2μm程度である。
【0037】
(ゲート電極の紫外線カット機能)
本発明では、TFT素子部Aが有するゲート電極2が、TFT素子部Aを構成する酸化物半導体膜4に悪影響を及ぼす紫外線をカットする。こうしたゲート電極2を設けることにより、図1〜図3に示す透明バイオセンサ10では下方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側である下方に配置されたゲート電極2が紫外線をカットするように作用し、後述する図4及び図5に示す透明バイオセンサ20では上方から照射される光に含まれる紫外線を、その照射光側である上方に配置されたゲート電極2が紫外線をカットするように作用する。その結果、酸化物半導体膜4が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜4による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【0038】
ゲート電極2としては、(i)紫外線カット材料を含む透明電極、(ii)紫外線カット材料からなる透明電極、及び、(iii)酸化物半導体膜4のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを持つ透明電極、のいずれかを挙げることができる。「紫外線カット材料」とは、紫外線を吸収又は反射する能力のある材料を意味する。
【0039】
(i)又は(ii)の透明電極をゲート電極2として用いる場合、ゲート電極2の形成材料としては、例えば、ITOやZnO等の紫外線カット材料を挙げることができる。これらの材料を含むゲート電極2又はこれらの材料からなるゲート電極2は、その形成材料の種類等に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。成膜手段としては、スパッタリング法、各種CVD法、塗布等で成膜した後にフォトリソグラフィ等でパターニングすればよい。なお、紫外線カット材料を含有させる場合の含有量は、含有させる材料の特性によって任意に選択される。
【0040】
(iii)の透明電極をゲート電極2として用いる場合、ゲート電極2の形成材料としては、ゲート電極の形成材料のバンドギャップが酸化物半導体膜の形成材料のバンドギャップよりも小さく、且つ透明なゲート電極2を形成できる材料を用いる。こうした材料で形成したゲート電極2は、今まで酸化物半導体膜4でカットしていた紫外線をゲート電極2でカットできるので、酸化物半導体膜4への紫外線の入射を減らすことができ、紫外線に基づいた影響を極力減らすことができる。
【0041】
例えば酸化物半導体膜4をIGZO酸化物半導体で形成した場合には、バンドギャップが3.1eV超、4.05V未満の範囲の材料でゲート電極2を形成することが好ましい。詳しくは、IGZO酸化物半導体のバンドギャップは最大4.05eVであり、一方、可視光域と紫外光域の境目はエネルギーが3.1eVの400nmである。そのため、ゲート電極2としては、400nm未満の紫外線を吸収し、IGZO酸化物半導体のバンドギャップよりも小さい範囲であることが好ましい。したがって、400nmの光のエネルギー(3.1eV)を超えるエネルギー(3.1eV超)から、IGZO酸化物半導体のバンドギャップ(最大4.05eV)未満のエネルギー(4.05eV未満)の範囲のバンドギャップを持つ材料でゲート電極2を作製すれば、そのゲート電極2がその範囲のエネルギーの光を吸収でき、酸化物半導体膜4に紫外線の影響を及ぼさない。
【0042】
その結果、バンドギャップが4.05eVのIGZOで酸化物半導体膜4を構成した場合、その酸化物半導体膜4に、エネルギーが4.05eVよりも小さい光が照射しても、その光は酸化物半導体膜4を透過して電子を励起しない。一方、その酸化物半導体膜4に、エネルギーが4eVよりも大きい光が照射すると、その光は酸化物半導体膜4で吸収されて電子を励起する。したがって、ゲート電極2は、酸化物半導体膜4が吸収するエネルギーの光、すなわち紫外線を吸収する材料で構成されていればよい。波長400nmの可視光のエネルギーは、3.1eV(400nm)〜1.55eV(800nm)であるので、これらの範囲の光は、バンドギャップが4.05eVのIGZO酸化物半導体膜4を透過し、電子が励起しないので、悪影響が生じない。なお、光エネルギーE(eV)は、1240/λ(波長:nm)で計算できる。
【0043】
この例では、バンドギャップが4.05eVのIGZOで酸化物半導体膜4を作製しているが、用いる酸化物半導体材料によってバンドギャップは違ってくる。そのため、上記同様の考え方で、用いた酸化物半導体膜4のバンドギャップに応じて、ゲート電極2を構成する材料を選定する。例えば、ゲート電極2に使用可能な透明材料としては、ITO(3.3eV)、IZO(3.3eV)、ZnO(3.2eV)、SnO(3.8ev)等を挙げることができる。中でも、ITO(3.3eV)、IZO(3.3eV)、ZnO(3.2eV)が好ましい。
【0044】
一方、そうした材料と組み合わされるIGZO酸化物半導体としては、In:Ga:Zn比が1.1:0.9:1(3.77eV)、In:Ga:Zn比が1:1:1(3.81eV)、In:Ga:Zn比が0.7:1.3:1(3.97eV)、In:Ga:Zn比が0.5:1.5:1(4.05eV)、In:Ga:Zn比が1.1:0.9:2(3.61eV)、In:Ga:Zn比が1:1:2(3.68eV)、In:Ga:Zn比が0.7:1.3:2(3.79eV)、In:Ga:Zn比が0.5:1.5:2(3.85eV)、等を挙げることができる。
【0045】
また、IGZO酸化物半導体以外の酸化物半導体としては、n型半導体では、ZnO(3.37eV)、In(3.75)、Ga(4.8eV)、SnO(3.57eV)を挙げることができ、p型半導体では、CuAlO(3.5eV)、LaCuOS(3.1eV)、LaCuOSe(3.1eV)、SrCu(3.2eV)等を挙げることができる。本発明では、透明性が必要であるので、IGZO酸化物半導体が好ましく用いられる。
【0046】
上記した材料からなるゲート電極2の成膜には、その形成材料の種類等に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。成膜手段としては、スパッタリング法、各種CVD法、塗布等で成膜した後にフォトリソグラフィ等でパターニングすればよい。なお、紫外線カット材料を含有させる場合の含有量は、含有させる材料の特性によって任意に選択される。
【0047】
ここで説明した紫外線カット材料であるITO膜(バンドギャップ3.3eV)をゲート電極2とし、IGZO(バンドギャップ4.05eV)を酸化物半導体膜4としたときの半導体特性を測定した。具体的には、ソース電極とドレイン電極との間のチャネル長さを10μmとし、チャネル幅を100μmとしたIGZO酸化物半導体膜を用いた。UVライトとしては、SPECTROLINE LONGGIFE_TM FILTER HIGHEST ULTRAVILET INTENSITY GUARANTEEDを用い、半導体膜とUVライトとの距離を13cmとして365nmの紫外光を照射した。このとき、ドレイン電圧を1V固定とし、ゲート電圧を15V〜−15Vの間で変化させたときの半導体特性(V−I特性)を測定した。ITO膜で遮蔽したときと遮蔽しないときの半導体特性の結果は、移動度で最大約10cm/(V・s)の差が確認できた。ITO膜で遮蔽しない場合は、遮蔽した場合と比較して、紫外線照射によりキャリアが増加してリーク電流が増加し、OFFレベルが上がって、ON/OFF比が悪化した。そして、キャリアが多くなったため、トランジスタがONし易くなり、閾値Vthがマイナスにシフトした。さらに、閾値Vthがマイナスにシフトした。
【0048】
(ゲート絶縁膜)
ゲート絶縁膜3は、図1〜図3に示すように、TFT素子部Aではゲート電極2を覆うゲート絶縁膜3として設けられ、生体関連物質感応部Bでは電極2’を覆うように絶縁膜3’として設けられている。ゲート絶縁膜3は、透明で、絶縁性が高く、誘電率が比較的高く、ゲート絶縁膜として適しているものであれば各種の材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素等のケイ素の酸化物、窒化物又は酸窒化物等を好ましく挙げることができる。また、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化スカンジウム及びチタン酸バリウムストロンチウムのうち少なくとも1種又は2種以上を挙げることができる。特に透明性に優れる酸化ケイ素、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素等のケイ素の酸化物、窒化物又は酸窒化物等が好ましい。
【0049】
ゲート絶縁膜3の形成は、ゲート絶縁膜材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、ケイ素の酸化物、窒化物又は酸窒化物等でゲート絶縁膜3を形成する場合には、成膜手段としてスパッタリング法や各種CVD法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できる。ゲート絶縁膜3の成膜に低温成膜が要求される場合には、成膜手段として低温成膜可能なスパッタリング法やプラズマCVD法を好ましく適用できる。なお、ゲート絶縁膜3の厚さは、通常、0.1μm〜0.3μm程度である。
【0050】
(酸化物半導体膜)
酸化物半導体膜4は、図1〜図3に示すように、TFT素子部Aで、TFT素子部Aを構成するゲート絶縁膜3上であって、ゲート電極2の上方に所定のパターンで設けられている。酸化物半導体膜4は、透明であり、TFT素子部Aを構成するチャネル領域として使用できる程度の移動度を有するものであれば、その種類は特に限定されず、現在知られている酸化物半導体膜であっても、今後発見される酸化物半導体膜であってもよい。
【0051】
こうした透明な酸化物半導体膜4は、例えばIGZO系酸化物半導体膜のように紫外線に感応し易いものが多く、生体関連物質を顕微鏡観察する際に照射される光に含まれる紫外線に感応して、酸化物半導体膜4からの出力信号が変動又は低下することがある。そのため、紫外線カット能を有するゲート電極2で紫外線をカットすることにより、酸化物半導体膜4からの出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【0052】
酸化物半導体膜4を構成する酸化物としては、例えば、InMZnO(MはGa,Sn,Al及びFeのうち少なくとも1種)を主たる構成元素とするアモルファス酸化物を挙げることができる。特に、MがGaであるInGaZnO系のアモルファス酸化物が好ましく、この場合、In:Ga:Znの比が1:1:m(m<6)であることが好ましい。また、Mgをさらに含む場合には、In:Ga:Zn1-xMgxの比が1:1:m(m<6)で0<x≦1であることが好ましい。なお、組成割合は、蛍光X線(XRF)装置で測定したものである。InMZnOを含むアモルファス酸化物である酸化物半導体材料で酸化物半導体膜4を形成した場合、その酸化物半導体膜4は、特に可視光域で良好な光透過性を示するので好ましく適用できる。特にMがGaであるInGaZnO系のアモルファス酸化物が好ましい。
【0053】
InGaZnO系のアモルファス酸化物については、InとGaとZnの広い組成範囲でアモルファス相を示す。この三元系でアモルファス相を安定して示す組成範囲としては、InGaZn(3x/2+3y/2+z)で比率x/yが0.4〜1.4の範囲であり、比率z/yが0.2〜12の範囲にあるように表すことができる。なお、ZnOに近い組成とInに近い組成で結晶質を示す。
【0054】
また、アモルファス酸化物が、InxGa1-x酸化物(0≦x≦1)、InxZn1-x酸化物(0.2≦x≦1)、InxSn1-x酸化物(0.8≦x≦1)、及びInx(Zn,Sn)1-x酸化物(0.15≦x≦1)から選ばれるいずれかのアモルファス酸化物であってもよい。
【0055】
InGaZnO系(以下「IGZO系」と略す)酸化物半導体膜は、可視光を透過して透明膜となるので好ましく用いられる。また、このIGZO系酸化物半導体膜には、必要に応じて、Al、Fe又はSn等を構成元素として加えたものであってもよい。このIGZO系酸化物半導体膜は、透明性を要求される薄膜集積回路に好ましく用いられる。また、このIGZO系酸化物半導体膜は、スパッタリング法(特にRFスパッタリング法)により、室温から150℃程度の低温での成膜が可能であることから、ガラス転移温度が200℃未満の耐熱性に乏しいプラスチック基板に対して好ましく適用できる。
【0056】
酸化物半導体膜4の形成は、酸化物半導体材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、成膜手段としてスパッタリング法やCVD法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できるが、低温成膜が要求される場合には、成膜手段としてスパッタリング法(特にRFスパッタリング法)やプラズマCVD法を好ましく適用できる。
【0057】
酸化物半導体膜4の厚さは、成膜条件によって任意に設計されるために一概には言えないが、通常10nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、30nm〜100nmの範囲内であることがより好ましい。
【0058】
(ソース電極、ドレイン電極)
ソース電極5及びドレイン電極6は、図1〜図3に示すように、TFT素子部Aで、酸化物半導体膜4の両側にトップコンタクトするようにパターン形成されている。ソース電極材料及びドレイン電極材料は、透明であり、酸化物半導体膜4のソース電極接続部(図示しない)及びドレイン電極接続部(図示しない)とのオーミック接触が考慮されて選択される。ソース電極材料及びドレイン電極材料としては、通常、導電性の良い金属膜又は導電性酸化物膜等が用いられる。金属膜としては、チタン膜、アルミニウム膜、アルミニウム膜上にチタン膜を設けた積層膜等を挙げることができ、導電性酸化物膜としては、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO、ZnO等の透明導電膜を挙げることができる。また、所望の導電性を有するものであれば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子等であってもよい。
【0059】
ソース電極5及びドレイン電極6の形成は、電極材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、金属膜又は導電性酸化物でソース電極5及びドレイン電極6を形成する場合には、成膜手段として真空蒸着法、スパッタリング法又は各種のCVD法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できるが、低温成膜が要求される場合には、成膜手段として低温成膜可能なスパッタリング法やプラズマCVD法を好ましく適用できる。また、導電性高分子でソース電極5及びドレイン電極6を形成する場合には、成膜手段として真空蒸着法やパターン印刷法等を適用でき、パターニング手段としてフォトリソグラフィを適用できる。ソース電極5及びドレイン電極6の形成工程時には、同じ電極材料で、同時に、既に形成されている回路配線群への接続や新しい回路配線群の形成を行うことが好ましい。ソース電極5及びドレイン電極6の厚さは、通常、0.1μm〜0.3μm程度である。
【0060】
(保護膜)
保護膜7は、図1〜図3に示すように、TFT素子部Aで、酸化物半導体膜4、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うように形成されている。透明な保護膜7としては、厚さ500nm〜1000nm程度のPVP(ポリビニルピロリドン)膜等の有機保護膜、又は厚さ100nm〜500nm程度の酸化ケイ素や酸窒化ケイ素等からなるガスバリア性の無機保護膜等を好ましく挙げることができる。また、上記した酸化物半導体膜4の構成材料と同じ酸化物半導体材料で形成してもよい。
【0061】
保護膜7の形成は、保護膜材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、有機保護膜を形成する場合には、塗布法や蒸着法等を適用でき、無機保護膜を形成する場合には、スパッタリング法や各種のCVD法等を適用できる。また、パターニングする場合は、フォトリソグラフィを適用できる。
【0062】
(感応膜)
感応膜8は、図1〜図3に示すように、生体関連物質感応部Bで、絶縁膜3’上にパターン形成されている。感応膜8は、被検査流体に含まれる生体関連物質、例えば細胞、DNA、糖鎖、タンパク質、酸化還元酵素、抗原又は抗体等を載置可能な材料で形成される。感応膜8の形成材料としては、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(Si)、酸化タンタル(Ta)又は酸化アルミニウム(Al)等を挙げることができる。これらの材料で形成した感応膜8は、イオン感応性膜であり、測定したいイオン種に応じて適宜選定される。感応膜8は、単層であっても積層であってもよく、積層の場合は、例えば酸化ケイ素膜上に窒化ケイ素膜を設けてもよいし、さらにその上に酸化タンタル膜を設けてもよい。
【0063】
また、必要に応じて、DNA、タンパク質又は糖鎖等を固定化するための表面修飾を行うこともできる。感応膜8の周囲には、後述する隔壁9が設けられ、酸化物半導体膜4のチャネル領域(図示しない)上に、被検査流体に含まれる生体関連物質を載置する載置領域が設けられている。
【0064】
なお、感応膜8は絶縁性を有するので、例えばゲート電極2を覆う保護膜として利用してもよい。感応膜8の形成は、感応膜材料の種類や透明基材1の耐熱性に応じた成膜手段とパターニング手段が適用される。例えば、スパッタリング法や各種のCVD法等を適用でき、パターニング手段としてはフォトリソグラフィを適用できる。
【0065】
感応膜8の厚さは、通常、50nm〜500nm程度である。例えば厚さ100nmの酸化ケイ素膜を単層で形成したり、例えば厚さ100nmの酸化ケイ素膜上に厚さ100nmの窒化ケイ素膜を形成したりしてもよいし、さらにその上に厚さ100nmの酸化タンタル膜を形成したりしてもよい。
【0066】
以上説明したように、ボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ10では、透明バイオセンサ10の下方から照射される光に含まれる紫外線を、紫外線カット機能を有するゲート電極2によって紫外線をカットする。その結果、酸化物半導体膜4が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜4による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【0067】
[トップゲート型TFTを有する透明バイオセンサ]
図4及び図5に示す透明バイオセンサ20は、トップゲート型のTFTを有するTFT素子部Aと、生体関連物質感応部Bとを有している。なお、このトップゲート型TFTを有する透明バイオセンサ20では、紫外線カット能を有するゲート電極2を含め、TFT素子部A及び生体関連物質感応部Bの各構成要素は、図1〜図3のボトムゲート型TFTを有する透明バイオセンサ10の場合と同様である。そのため、図4及び図5には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0068】
図4に示すトップゲート型TFTを有する透明バイオセンサ20Aは、透明基材1と、透明基材1上に設けられたTFT素子部A及び生体関連物質感応部Bとで構成されている。図4に示すTFT素子部Aと生体関連物質感応部Bとは、平面視で重ならずに並んで設けられている。また、生体関連物質感応部Bの感応膜8の下方に設けられた電極2’は、TFT素子部Aを構成するゲート電極2に接続されている。
【0069】
TFT素子部Aは、トップゲート型TFTを有するものであり、図4に示すように、透明基材1上に設けられたソース電極5及びドレイン電極6と、そのソース電極5及びドレイン電極6にボトムコンタクト態様で両側で接続するように設けられた酸化物半導体膜4と、ソース電極5、酸化物半導体膜4及びドレイン電極6を覆うように設けられたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に設けられたゲート電極2と、ゲート電極2上に設けられた保護層7とを有している。一方、生体関連物質感応部Bは、図4に示すように、透明基材1上にTFT素子部Aのゲート絶縁膜3と共に形成された絶縁膜3’と、その絶縁膜3’上にTFT素子部Aのゲート電極2と共に形成された電極2’と、その電極2’上にTFT素子部Aの保護膜7と共に形成された保護膜7と、その保護膜7上に設けられた感応膜8とを有している。生体関連物質は、感応膜8上に載置される。
【0070】
図4に示す透明バイオセンサ20Aにおいては、紫外線カット能を有するゲート電極2は酸化物半導体膜4の上方に設けられているので、そのゲート電極2は、透明バイオセンサ20の上方から照射される光に含まれる紫外線をカットする。なお、図4の例では、感応膜8は、平面視でTFT素子部A以外の領域に設けられているが、TFT素子部Aの上方にも設けてもよい。そうすることで、感応膜8上での生体関連物質の載置面積を大きくし、観察範囲を広くすることができる。
【0071】
図5に示すトップゲート型TFTを有する透明バイオセンサ20Bは、透明基材1と、透明基材1上に設けられたTFT素子部A及び生体関連物質感応部Bとで構成されている。図5に示すTFT素子部Aと生体関連物質感応部Bとは、平面視で重なるように上下の位置関係で設けられている。また、生体関連物質感応部Bの感応膜8の下方に設けられた電極は、感応膜8の検出電極2’とTFT素子部Aを構成するゲート電極2とを兼ねている。
【0072】
TFT素子部Aは、トップゲート型TFTを有するものであり、図5に示すように、透明基材1上に設けられたソース電極5及びドレイン電極6と、そのソース電極5及びドレイン電極6にボトムコンタクト態様で両側で接続するように設けられた酸化物半導体膜4と、ソース電極5、酸化物半導体膜4及びドレイン電極6を覆うように設けられたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に設けられたゲート電極2とを有している。なお、ゲート電極2と感応膜8との間には、保護膜7が設けられていてもよい。
【0073】
一方、生体関連物質感応部Bは、図5に示すように、そのTFT素子部A上を構成するゲート電極2上に設けられたものである。そして、この生体関連物質感応部Bでは、TFT素子部Aが有するゲート電極2を、検出電極2’として併用し、その検出電極2’上には、感応膜8が設けられている。感応膜8が設けられた生体関連物質感応部Bの周縁には、隔壁9が設けられており、その隔壁9で囲まれた領域に、被検査流体に含まれる生体関連物質が投入され、透明バイオセンサによる電気的な信号情報と、顕微鏡観察とが同時に行われる。「周縁」とは、生体関連物質感応部Bに設けられた検出電極2’を平面視した場合に、その検出電極2’に重ならない外側位置のことを意味する。感応膜8上には、被検査流体に含まれる生体関連物質、例えば細胞、DNA、糖鎖、タンパク質、酸化還元酵素、抗原又は抗体等が、隔壁9,9間に配置される。
【0074】
隔壁9は、生体関連物質感応部Bの周縁の感応膜8上に設けられている。隔壁9は、水溶液又は培養液等の被検査流体を感応膜8上に滞留させるためのものであり、所定の高さで設けられる。障壁9の形成材料は、被検査流体を漏出させない材料であればよく、特に限定されるものではない。具体的には被検査流体の種類に応じて、各種の樹脂材料や金属材料から選択して適用できる。
【0075】
図5に示す透明バイオセンサ20Bにおいては、紫外線カット能を有するゲート電極2は酸化物半導体膜4の上方に設けられているので、そのゲート電極2は、透明バイオセンサ20の上方から照射される光に含まれる紫外線をカットする。
【0076】
以上説明したように、トップゲート型TFTを有する透明バイオセンサ20では、透明バイオセンサ20の上方から照射される光に含まれる紫外線を、紫外線カット機能を有するゲート電極2によって紫外線をカットする。その結果、酸化物半導体膜4が紫外線に感応するのを防いで、その酸化物半導体膜4による出力信号が変動又は低下するのを防ぐことができ、顕微鏡観察と同時に取得する生体関連物質の信号情報を正確に取得することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 透明基材
2 ゲート電極
2’ 検出電極
2” 連結配線
3 ゲート絶縁膜
3’ 絶縁膜
4 酸化物半導体膜
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
8 感応膜
9 隔壁
10,10A,10B,10C 透明バイオセンサ
20,20A,20B 透明バイオセンサ
A 薄膜トランジスタ素子部
B 生体関連物質感応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に設けられた透明な薄膜トランジスタ素子部及び透明な生体関連物質感応部とを有し、前記薄膜トランジスタ素子部が有するゲート電極が、前記薄膜トランジスタ素子部を構成する酸化物半導体膜に対する紫外線カット機能を有することを特徴とする透明バイオセンサ。
【請求項2】
前記ゲート電極が、(i)紫外線カット材料を含む透明電極、(ii)紫外線カット材料からなる透明電極、及び、(iii)前記酸化物半導体膜のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを持つ透明電極、のいずれかである、請求項1に記載の透明バイオセンサ。
【請求項3】
前記薄膜トランジスタ素子部が、ボトムゲート型の薄膜トランジスタ構造又はトップゲート型の薄膜トランジスタ構造を有する、請求項1又は2に記載の透明バイオセンサ。
【請求項4】
前記薄膜トランジスタ素子部がボトムゲート型の薄膜トランジスタ構造であり、該薄膜トランジスタ構造の上方に絶縁膜を介して前記ゲート電極に接続する検出電極が設けられ、該検出電極が前記酸化物半導体膜に対する前記紫外線カット機能を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明バイオセンサ。
【請求項5】
前記酸化物半導体膜が、IGZO系の酸化物半導体膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明バイオセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−76656(P2013−76656A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217282(P2011−217282)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】