説明

透明導電膜の形成方法

【課題】基板温度を目標温度まで到達させる時間を短縮し、熱効率を向上させた透明導電膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る透明導電膜の形成方法は、一主面上に金属を含む絶縁性の酸化膜を配してなり、ガラスから構成される基板を用い、前記基板に熱処理を施し、該基板の他主面上に透明導電膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の形成方法に係る。より詳細には、昇温時間の短縮と熱効率の向上が図れる透明導電膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜(TCO:Transparent Conductive oxide)は、絶縁体であるガラスの表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)や酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックスの薄膜を形成することにより導電性を備えたガラスであり、光学的に透明な性質を保ちつつ、電気を流す性質も有する。これらの中で特にITOが透明導電膜として広く知られており、パソコン、テレビ、携帯電話などの液晶ディスプレイや太陽電池の透明電極に応用されている。
【0003】
透明基板上にスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透明導電膜を成膜する方法として、スプレー熱分解法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
スプレー熱分解法は、加熱された基板に向けて原料溶液を噴霧することにより、反応初期には基板表面に付着した液滴中の溶媒蒸発と、溶質の熱分解に続く加水分解反応、および熱酸化反応することにより結晶が形成する。反応が進むと基板上に形成した結晶(多結晶膜)上に液滴が付着、液滴中の溶媒の蒸発とともに溶質および下部の結晶間で結晶成長が進む、という一連の反応を応用した技術である。
【0004】
このとき、基板を300℃以上の高温に加熱する必要があり、効率的な加熱が求められている。この基板の加熱には、従来、予めガラス基板をヒータ内蔵のステージ(基台)上に設置し、このヒータによりガラス基板を下面から間接的に加熱する伝熱方式や、カーボン板上に被膜用ガラス基板を設置して、赤外線ランプによる照射加熱方式が採られていた。
【0005】
しかしながら、ステージの熱容量を大きくしてガラス基板の温度を均一化する必要があるために、ガラス基板を高速で加熱することが難しく、場合によってはガラス基板の温度を均一化するまでに60分間以上も要するという問題点があった。
また、加熱したい対象のガラス基板以外に、ステージ本体やカーボン板など余分の部材を加熱する必要があるため、目標温度まで到達するのに時間がかかるとともに、熱効率の低下をともなっていた。
【特許文献1】特開2003−9758号公報
【特許文献2】特開2003−206158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、基板温度を目標温度まで到達させる時間を短縮し、熱効率を向上させた透明導電膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の透明導電膜の形成方法は、一主面上に金属を含む絶縁性の酸化膜を配してなり、ガラスから構成される基板を用い、前記基板に熱処理を施し、該基板の他主面上に透明導電膜を形成することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の透明導電膜の形成方法は、請求項1において、前記酸化膜は、FeO、NiO、ZnOから選ばれる少なくとも一種を主成分として含むことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の透明導電膜の形成方法は、請求項1において、前記酸化膜は、3000nmの波長における反射率が70%未満であることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の透明導電膜の形成方法は、請求項1において、前記透明導電膜を形成した後、前記酸化膜を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、一主面上に金属を含む絶縁性の酸化膜を配してなり、ガラスから構成される基板を用い、前記基板に熱処理を施し、該基板の他主面上に透明導電膜を形成することで、熱吸収効率を高めることができる。これにより目標温度まで到達する時間を短縮し、熱効率を向上させた透明導電膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る透明導電膜の形成方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明によって透明導電膜付き基板の一実施形態を示す概略断面図である。
この透明導電膜付き基板10は、透明基材11、および、その一方の面11bに形成された透明導電膜12から概略構成されている。
【0011】
透明基材11としては、光透過性の素材からなるガラス基板が用いられる。また、透明基材11としては、用途上、できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0012】
透明導電膜12は、透明基材11に導電性を付与するために、その一方の面11bに形成された薄膜である。本発明では、透明導電性基板の透明性を著しく損なわない構造とするために、透明導電膜12は、導電性金属酸化物からなる薄膜であることが好ましい。
【0013】
透明導電膜12を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)などが用いられる。これらの中でも、成膜が容易かつ製造コストが安価であるという観点から、ITO、FTOが好ましい。また、透明導電膜12は、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜であることが好ましい。
【0014】
透明導電膜12を、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜とすることにより、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電膜付き基板を構成することができる。
【0015】
また、前記透明導電膜12は、スプレー熱分解法により形成されたものであることが好ましい。透明導電膜12を、スプレー熱分解法により形成することで、容易にヘーズ率を制御することができる。また、スプレー熱分解法は、減圧システムが不要なため、製造工程の簡素化低コスト化を図ることができるので好適である。
【0016】
次に、この実施形態の透明導電性基板10の製造方法を、図2を参照して説明する。
本発明の透明導電膜の形成方法は、図2(a)に示すように、一主面11a上に金属を含む絶縁性の酸化膜13を配してなり、ガラスから構成される基板を用い、前記基板に熱処理を施し、該基板の他主面11b上に透明導電膜12を形成することを特徴とする。
これにより熱吸収効率を高めることができ、その結果、目標温度まで到達する時間を短縮し、熱効率を向上させることができる。
【0017】
前記酸化膜13は、FeO、NiO、ZnOから選ばれる少なくとも一種を主成分として含むことが好ましい。
これらの金属酸化膜を使用することにより、熱吸収効率をさらに高めることができ、その結果、目標温度まで到達する時間をより短縮し、熱効率をさらに向上させることができる。
【0018】
前記酸化膜13は、3000nmの波長における反射率が70%未満であることが好ましい。
反射率が70%未満であることで、赤外線の吸収効率が高まり、熱吸収効率を高めることができる。その結果、目標温度まで到達する時間を短縮し、熱効率を向上させることができる。
【0019】
このような酸化膜13の厚みは、特に限定されるものではないが、熱吸収効率を高めるために、透けない程度の厚さが必要であり、膜厚は例えば100nm以上であることが好ましい。
【0020】
そして、このようなガラス基板の他方の面11bの全域を覆うように透明導電膜12を形成する(図2(b)参照)。
透明導電膜12を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法、CVD(化学気相成長)法、スプレー熱分解法(SPD法)、蒸着法などの薄膜形成法が挙げられる。
【0021】
その中でも、前記透明導電膜12は、スプレー熱分解法により形成されたものであることが好ましい。透明導電膜12を、スプレー熱分解法により形成することで、容易にヘーズ率を制御することができる。また、スプレー熱分解法は、減圧システムが不要なため、製造工程の簡素化低コスト化を図ることができるので好適である。
【0022】
図3は、本実施形態において用いられる成膜装置を模式的に示す図である。
この成膜装置は、スプレー熱分解法により被処理体(ガラス基板)20上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記被処理体20を加熱する加熱手段と、前記被処理体20の一面の中心域に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミスト23を噴霧する吐出手段24と、を少なくとも備える。
【0023】
前記加熱手段は、赤外線を放出する1つ以上の光源が好ましい。
赤外線ランプ21は、ガラス基板を上方向から加熱するためのもので、単位面積当たりの平均加熱容量とランプの種類を選択することで、赤外線の平均加熱容量及び赤外線の種類を幅広く制御することができる。
【0024】
例えば、赤外線ランプ21の単位面積当たりの平均加熱容量を2〜30W/cmとした場合、ランプは赤外線ランプ(波長:2.5μm以下)、中波長赤外線ランプ(波長:2.5〜25μm)、遠赤外線ランプ(波長:25μm以上)から適宜選択すればよい。
このような構成とすることで、光源の種類と単位面積当たりの熱量を適宜選択することで、ガラス基板の温度を幅広く制御することができる。
【0025】
この赤外線ランプ21は、チャンバー26の天板かつ吐出手段24の両側に設けられているので、ガラス基板との距離を適宜選択することにより、ガラス基板からの熱対流を防止することが可能になり、その結果、吐出手段24から噴霧される液滴の流れを制御することが可能になる。
【0026】
前記加熱手段21の前記ガラス基板に対向する側に、前記吐出手段24から噴霧される液滴の付着を防止する付着防止部材25を設けてなることが好ましい。このような構成とすることで、吐出手段24から噴霧される液滴が前記加熱手段に付着するのを防止し、加熱手段の熱効率が低下する虞がなくなる。
【0027】
さらに、加熱手段としてガラス基板の下側に赤外線ヒータ22を設け、この赤外線ヒータが放射する赤外線によりガラス基板を加熱する。これにより、ガラス基板の温度を所定の温度範囲に保持することが容易になり、表面の温度分布もさらに均一化することができる。
【0028】
前記吐出手段24は、その吐出口24aを前記被処理体2の一面の中心付近で、その上方近傍に配置される。
吐出手段24は、例えばノズルである。そして吐出手段24から噴霧する原料溶液は、ミスト23(液状微粒子)とされている。
【0029】
吐出手段24は、ミスト3を、成膜室10の空間に配置された被処理体20上に吹き付けるものである。吐出口24aは、前記被処理体20の一面近傍を漂うミスト空間に含まれない位置(高さ)に配されている。吐出口24aからは、流速100〜100,000cm/分でミスト23が噴霧される。また、吐出口24aと被処理体2表面間の距離は、5〜200mmで制御されている。
また、被処理体20は、上記加熱手段により表面が加熱されており、200〜600℃の温度範囲に制御されている。
【0030】
また、被処理体20と前記吐出手段24とを含む空間は、フード25により包み込まれていることが好ましい。
フード25は、ステンレススチール等の耐食性金属により構成されている。底部近傍の両側に開口部25a,25bが形成されている。
【0031】
この成膜装置では、フード25が吐出手段24と対向する位置に配される被処理体20との間の空間を包み込むように配置されているので、吐出手段24の吐出口24aからスプレー状に噴射された原料溶液は外気の影響を受けることなく、吐出口24aから被処理体20に向かう放射状空間に噴霧された状態を安定に保つことができる。換言すると、フード25はその内部空間から装置への外部へ原料溶液が飛散し、無駄な使用量が増加するのも防ぐ働きもする、これにより、原料溶液は薄膜の形成に有効に使われる。
【0032】
また、吐出手段24と被処理体20との間を包み込むようにフード25が配置されているので、成膜時に、被処理体20からの放熱を抑制することができる。その結果、被処理体2の加熱に要する熱量を低減することが可能となり、被処理体20の表面温度の制御性を向上することができる。
【0033】
このように、本発明では、被処理体20として、赤外線吸収に優れた酸化膜13を配したガラス基板を用いることで、熱吸収効率を高めることができる。その結果、昇温時間の短縮と成膜時の温度保持時のエネルギー効率を飛躍的に向上させることができる。
また、カーボン板等の付加的な被加熱体をなくすことで、被加熱体の熱容量を減らすことができ、温度上昇速度を向上させるとともに、温度保持に必要な消費エネルギーを削減することができる。
また、基板を直接照射加熱するので、基板の反りによる表面温度分布の影響がなくなり、基板表面の温度分布を均一化することができる。
【0034】
最後に、図2(c)に示すように、前記透明導電膜12を形成した後、前記酸化膜13を除去することが好ましい。酸化膜13を除去することにより、ガラス基板の透明性を維持することができる。
【0035】
以上、本発明の透明導電膜の形成方法について説明してきたが、本発明は上記の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
例えば、上述した説明では、スプレー熱分解法により透明導電膜を形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の方法により透明導電膜を形成してもよい。
【実施例】
【0036】
以下の通り、種々の方法でガラス基板を加熱し、各表面温度への到達時間を調べた。
【0037】
(実施例1)
ガラス基板としては、300cm×300cm、厚さ2mmの硼珪酸ガラスからなる基板を用いた。
このガラス基板の一方の面に酸化鉄ペーストを塗布し、酸化膜として5000nmの厚さに酸化鉄膜を形成した。
【0038】
この酸化鉄膜付きガラス基板を、赤外線ランプ(中波頂赤外線、出力800W、有効波長500mm)を用いて照射加熱した。
赤外線ランプは、被加熱物(ガラス基板)の上側と下側に8本づつ計16本配した。ランプ間隔は50mm、被加熱物(ガラス基板)−ランプ間隔は50mmとした。
【0039】
(比較例1)
酸化膜を形成せず、ガラス基板のみを用いた。
このガラス基板を、赤外線ランプを用いて照射加熱した。
【0040】
(比較例2)
酸化膜を形成せず、ガラス基板のみを用いた。
このガラス基板をカーボンセラミックス板(カーボンと硼珪酸ガラスの複合体、400mm×400mm×8mm、虹技株式会社製)上に載置して、赤外線ランプを用いて照射加熱した。
【0041】
(比較例3)
酸化膜を形成せず、ガラス基板のみを用いた。
このガラス基板をヒータ内蔵の基台(SUS製、450mm×450mm、13.5kW、550℃max)上に設置し、このヒータによりガラス基板を下面から間接的に加熱した。
【0042】
以上のようにしてガラス基板を加熱し、各温度(200℃、300℃、400℃)への到達時間を測定した。その結果を表1に示す。また、経過時間と表面温度との関係を図4に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1および図4から明らかなように、酸化膜付きガラス基板を用いた実施例1では、比較例に比べて、目標温度への到達時間を飛躍的に短縮することができた。
また、加熱開始から2時間が経過し、表面温度が一定になってから、図5に示すガラス基板上の各地点A〜地点Hにおいて表面温度を測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなように、酸化膜付きガラス基板を用いた実施例1では、温度分布が均一になっていることがわかる。
これに対し、カーボン板を用いた比較例2、ヒーター内蔵基台を用いた比較例3では、温度低下が発生していることがわかる。これは、基板表裏での温度差によってガラス基板に反りが発生したことに起因すると考えられる。
一方、赤外線ランプを用いて加熱した実施例1、比較例1では、赤外ランプから照射されるエネルギーの吸収により加熱するため、基板に反り等が発生しても温度分布には殆ど影響していない。
【0047】
以上の結果より、本発明では、赤外線吸収に優れた酸化膜を配したガラス基板を用いることで、熱吸収効率を高めることができ、その結果、昇温時間の短縮と成膜時の温度保持時のエネルギー効率を飛躍的に向上させることができた。
また、カーボン板等の付加的な被加熱体をなくすことで、被加熱体の熱容量を減らすことができ、温度上昇速度を向上させるとともに、温度保持に必要な消費エネルギーを削減することができた。
また、基板を直接照射加熱するので、基板の反りによる表面温度分布の影響がなくなり、基板表面の温度分布を均一化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、スプレー熱分解法等により透明導電膜を形成する透明導電膜の形成方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明により形成された透明導電膜付き基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】透明導電膜の形成方法を示す概略断面図である。
【図3】透明導電膜の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【図4】加熱時間と基板表面温度との関係を示す図である。
【図5】基板面内における温度測定地点を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 透明導電性基板、11 透明基材、12 透明導電膜、13 酸化膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面上に金属を含む絶縁性の酸化膜を配してなり、ガラスから構成される基板を用い、
前記基板に熱処理を施し、該基板の他主面上に透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【請求項2】
前記酸化膜は、FeO、NiO、ZnOから選ばれる少なくとも一種を主成分として含むことを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項3】
前記酸化膜は、3000nmの波長における反射率が70%未満であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜の形成方法。
【請求項4】
前記透明導電膜を形成した後、前記酸化膜を除去することを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−123893(P2008−123893A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307787(P2006−307787)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】