説明

通電加熱線の処理方法

【課題】熱伸びせず、耐久性に優れた通電加熱線、通電加熱線の製造方法及びこの通電加熱線を用いた真空処理装置を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る通電加熱線(TaBN線20)は、窒化タンタル線からなる第1の層21と、第1の層21の表面を被覆し、例えばホウ化物からなる第2の層22を有する。すなわち、強度が高く変形が少ない窒化タンタル線の表面を、第2の層が被覆することによって、高温環境下での窒化タンタル線からの脱窒素を抑制でき、耐久性が非常に高い通電加熱線として利用できる。また、このようなTaBN線20を用いた真空処理装置は、コストの低減・生産性の向上を図れると同時に、基板成膜時の膜質安定化も期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば触媒線化学気相成長装置における触媒線に用いられる通電加熱線の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒化学気相成長法(Cat−CVD:Catalytic-Chemical Vapor Deposition)は、例えば1500〜2000℃に加熱した触媒線に反応ガスを供給し、反応ガスの接触反応もしくは熱分解反応を利用して生成した分解種(堆積種)を被成膜基板上に堆積させる成膜法である。
【0003】
触媒化学気相成長法は、反応ガスの分解種を基板上に堆積させて膜を形成する点でプラズマCVD法と類似する。しかし、触媒化学気相成長法は、高温の触媒線上において反応ガスの分解種を生成するので、プラズマを形成して反応ガスの分解種を生成するプラズマCVD法に比べて、プラズマによる表面損失がなく、原料ガスの利用効率も高いという利点がある。
【0004】
この触媒化学気相成長法に使用される触媒線の材料としてタンタル、タングステン等の高融点金属が広く用いられている。また、触媒線の材料として、高融点金属の酸化物、窒化物、炭化物等を用いた例も知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−50252号公報(段落[0009])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
触媒化学気相成長装置用の触媒線には一般的に高価な金属材料が使用されている。このため、触媒線の耐久性は高いほどよい。また、使用済み触媒線の再生を容易に行えれば、触媒線の使用コストの低減を図ることができる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、耐久性に優れ、再生処理も容易な通電加熱線の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る通電加熱線の処理方法は、窒化タンタルで形成された通電加熱線を2000℃以上の温度に通電加熱することで、上記通電加熱線から窒素を除去する工程を含む。
窒素が除去された上記通電加熱線を窒化性雰囲気で1700℃以上2000℃未満の温度に通電加熱することで、上記通電加熱線は再窒化させられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る触媒化学気相成長装置を示す概略構成図である。
【図2】上記触媒化学気相成長装置において基板と触媒線との関係を示す要部の概略斜視図である。
【図3】処理温度を異ならせて作製したタンタル線各々の含有窒素濃度を示す実験結果であり、(A)は1700℃で処理したサンプルを、(B)は1800℃で処理したサンプルを、そして(C)は1900℃で処理したサンプルをそれぞれ示す。
【図4】処理温度を異ならせて作製したタンタル線各々の含有窒素濃度を示す実験結果であり、(A)は2000℃で処理したサンプルを、(B)は2100℃で処理したサンプルを、そして(C)は2200℃で処理したサンプルをそれぞれ示す。
【図5】図3(A)に示したサンプルの断面の光学顕微鏡写真である。
【図6】図3(A)に示したサンプルのX線回折測定結果である。
【図7】上記触媒化学気相成長装置に用いられる通電加熱線の製造工程を示すフローチャートである。
【図8】上記製造工程において使用及び製造される通電加熱線を示す図である。
【図9】上記触媒化学気相成長装置で上記通電加熱線の製造とp型シリコン膜の成膜とを連続して行った際に、上気通電加熱線の線抵抗を経時的に測定した結果である。
【図10】2種の通電加熱線サンプルの含有窒素濃度を示す実験結果であり、(A)は製造後無処理のTaBN線サンプルを、(B)は製造後、真空通電加熱処理したTaBN線サンプルをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る通電加熱線の処理方法は、窒化タンタルで形成された通電加熱線を2000℃以上の温度に通電加熱することで、上記通電加熱線から窒素を除去する工程を含む。
窒素が除去された上記通電加熱線を窒化性雰囲気で1700℃以上2000℃未満の温度に通電加熱することで、上記通電加熱線は再窒化させられる。
【0011】
タンタル窒化物は、タンタルと窒素との蒸気圧の差が大きいため、高温に加熱されることで含有する窒素成分を放出し易い。一方、金属タンタルは、窒化性雰囲気で高温に加熱されることで、容易に窒素と化合する。上記通電加熱線の処理方法は、このようなタンタル窒化物の性質を利用して、通電加熱線の再生あるいはリサイクルを可能とする。
【0012】
一実施形態として、上記通電加熱線は、触媒化学気相成長装置の触媒線に適用される。一般に、タンタル窒化物は、金属タンタルと比較して、強度および硬度が非常に高いため、高温環境下での耐久性が非常に高い。したがって、タンタル窒化物で形成された触媒線を用いることによって、装置の稼働時間が長くなり、生産性の向上が図れるようになる。
【0013】
触媒線が長時間使用されると、成膜ガス等の反応物が付着することで触媒線の性能が劣化し、あるいは、触媒線6の含有窒素量が減少することで強度が低下するおそれがある。そこで、使用済みの触媒線を回収し、再生処理を施すことで、触媒線を初期の性能に回復させることができるとともに、触媒線の繰り返し使用による材料コストの低減を図ることができる。
【0014】
上記処理方法は、通電加熱線から窒素を除去する(脱窒素)工程と、通電加熱線を再窒化させる工程とを有する。通電加熱線の脱窒素工程では、通電加熱線を通電加熱により加熱する。加熱温度は、2000℃以上とされる。2000℃以上とすることで、通電加熱線の表面だけでなく内部の窒素成分をも容易に除去することができる。加熱温度の上限は特に限定されず、タンタルの融点より低ければよい。
【0015】
通電加熱線の再窒化工程も同様に、通電加熱線を通電加熱により加熱する。加熱温度は1700℃以上2000℃未満とされる。加熱温度が1700℃未満の場合、当該通電加熱線を触媒線として用いたときに成膜時の加熱温度に接近し、触媒線の脱窒素による膜質の低下が懸念される。また、加熱温度が2000℃以上の場合、触媒線からの脱窒素作用も進行するため、再窒化効率の低下が懸念される。すなわち再窒化工程での加熱温度は、成膜工程での加熱温度と脱窒素工程での加熱時間との間の温度範囲に設定される。
【0016】
上記通電加熱線の脱窒素処理と上記通電加熱線の再窒化処理とは、共通の真空チャンバ内で実施されてもよい。
これにより、通電加熱線の再生処理を共通の真空チャンバで連続的に行うことができる。
【0017】
さらに、上記通電加熱線の再窒化処理が行われた後、上記通電加熱線の表面を被覆するホウ化物層、炭化物層及びケイ化物層のいずれかからなる層が形成されてもよい。
【0018】
また、上記層を形成する処理は、真空チャンバにホウ素、炭素及びケイ素の少なくとも一つを含有するガスが導入される工程と、上記真空チャンバ内に設置された上記通電加熱線が通電加熱される工程を含んでもよい。
【0019】
上述のように、タンタル窒化物はタンタルと窒素との蒸気圧の差が大きいため、高温に加熱されることで含有する窒素成分を放出し易い。そこで、タンタル窒化物である窒化タンタル線を、例えばホウ化処理することによって、窒化タンタル線表面にホウ化物層を形成し、窒化タンタル線から窒素成分の放出を抑制することができる。このようにして製造された通電加熱線は、窒化タンタル線を第1の層とし、ホウ化物を被覆層(第2の層)とする2層構造を有する。上記通電加熱線を用いることによって、窒素の脱離と、それに伴う窒化タンタル線の硬度・強度の低下を抑制することができる。
【0020】
また、窒化タンタル表面に形成される層を構成する化合物については、第1の層の表面に上記機能を有する第2の層を形成できる材料であれば特に限定されず、例えば、ホウ化物、炭化物及びケイ化物が用いられる。これらの材料は、上記通電加熱線の使用温度域では物理的・化学的に安定であるので、第2の層の構成材料として用いることができる。
【0021】
上記通電加熱線の再窒化処理と、上記通電加熱線の表面を被覆するホウ化物層、炭化物層及びケイ化物層のいずれかを形成する処理とは、共通の真空チャンバ内で実施されてもよい。
これにより、通電加熱線の再窒化処理と、例えばホウ化処理とは、共通の真空チャンバで連続的に行うことができる。
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
<第1の実施形態>
[触媒化学気相成長装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る触媒化学気相成長装置を示す概略構成図である。本実施形態の触媒化学気相成長装置1は、反応室2が内部に形成された真空チャンバ3を備えている。真空チャンバ3には真空ポンプ4が接続されており、反応室2を所定の真空度に真空排気可能とされている。反応室2は、真空チャンバ3の内部に設置された防着板5の内方に形成されている。
【0024】
防着板5で区画された反応室2の内部には、複数本の触媒線6が設置されている。触媒線6は、窒化タンタル(TaN)で形成された通電加熱線で構成されている。本実施形態では、複数本の触媒線6が反応室2の内部を上下方向に横切るように平行に設置されている。なお、触媒線6の設置形態は上述の縦方向だけに限らず、反応室2を横方向に横切る形態で設置されていても構わない。
【0025】
各々の触媒線6は、防着板5の天面および底面に形成された通し穴5a,5bを貫通して設置され、両端部が真空チャンバ3の外部に設置されている制御部8に接続されている。制御部8は、触媒線6を通電加熱するためのコントローラであり、電流供給源と供給電流を調整するコンピュータ等によって構成されている。供給される電流は、直流でもよいし交流でもよい。
【0026】
反応室2の内部には、被成膜基材としての基板Sが設置されている。基板Sには、例えば矩形状のガラス基板が用いられている。本実施形態においては、図2に示すように、2枚の基板Sが触媒線6を挟むように互いに対向配置されている。ここでは、基板Sの長辺方向が触媒線6の延在方向と直交するように、基板Sが反応室2の内部に設置されている。なお、基板Sは、図示せずとも、キャリア等のような基板支持手段によって支持されている。この基板支持手段は、基板Sを所定温度に加熱する加熱源を内蔵していてもよい。
【0027】
防着板5はほぼ直方形状を有しており、その4辺部にそれぞれガス導入配管7が設置されている。ガス導入配管7は、反応室2へ成膜ガス、不活性ガス等のプロセスガスを導入するためのもので、ガス供給ラインを介して真空チャンバ3の外部に設置されたガス供給部9に接続されている。ガス導入配管7から噴出したガスは、主として、2枚の基板Sの間に導入される。
【0028】
成膜ガスは、基板Sの表面に成膜される材料の種類に応じて選択される。例えば、成膜すべき薄膜がアモルファスシリコン膜の場合、成膜ガスには、シラン(SiH)および水素(H)の混合ガスが用いられる。また、成膜すべき薄膜がp型シリコン膜の場合、シラン(SiH)及びジボラン(B)の混合ガス等が用いられる。
【0029】
[触媒化学気相成長装置の動作]
次に、以上のように構成される触媒化学気相成長装置1の典型的な動作について説明する。
【0030】
まず、真空ポンプ4を作動させて真空チャンバ3の内部を真空排気し、反応室2を所定の真空度(例えば1Pa)に減圧する。このとき、真空チャンバ3の内部は、ガス導入配管7から供給される不活性ガスによって置換されてもよい。
【0031】
次いで、制御部8は、各々の触媒線6に電流を供給することで、各々の触媒線6を例えば1700℃以上の温度に通電加熱する。このとき、基板支持手段によって基板Sを所定温度(例えば300℃程度)に加熱してもよい。
【0032】
成膜ガスは、ガス導入配管7から、互いに対向配置された2枚の基板Sの間に導入される。反応室2へ供給された成膜ガスは、高温に加熱された触媒線6に接触し、触媒反応もしくは熱分解反応により生成された成膜ガスの分解種が基板S上に堆積することで、アモルファスシリコン膜が形成される。
【0033】
本実施形態の触媒化学気相成長装置1においては、触媒線6が窒化タンタルで形成されている。一般に、タンタル窒化物は、金属タンタルと比較して、強度および硬度が非常に高いため、高温環境下での耐久性に優れる。したがって、タンタル窒化物で形成された触媒線を用いることによって、装置の稼働時間が長くなり、生産性の向上が図れるようになる。
【0034】
一方、触媒線6が長期にわたって使用され続けると、成膜ガス等の反応物が付着することで、触媒線6の性能が劣化するおそれがある。あるいは、触媒線6の含有窒素量が減少することで、強度が低下するおそれがある。このため、触媒線6を定期的にメンテナンスする必要がある。
【0035】
そこで本実施形態では、使用済みの触媒線6を回収し、再生処理を施すことで、触媒線を初期の性能に回復させる。タンタル窒化物は、タンタルと窒素との蒸気圧の差が大きいため、高温に加熱されることで含有する窒素成分を放出し易い。一方、金属タンタルは、窒化性雰囲気で高温に加熱されることで、容易に窒素と化合する。本実施形態では、このようなタンタル窒化物の性質を利用して、触媒線6の再生あるいはリサイクルを可能とする。以下、第1の実施形態として、触媒線6の再生処理方法について説明する。
【0036】
<第1の実施形態>
[触媒線の再生処理方法]
本実施形態の触媒線(通電加熱線)の再生処理方法は、触媒線から窒素を除去する第1の工程と、触媒線を再窒化させる第2の工程とを有する。
【0037】
第1の工程では、窒化タンタルで形成された触媒線6を2000℃以上の温度に通電加熱することで、触媒線6を脱窒素させる。触媒線6を2000℃以上に加熱することで、触媒線6の表面だけでなく内部の窒素成分をも容易に除去することができる。なお、触媒線6の加熱温度の上限は特に限定されず、タンタルの融点より低ければよく、例えば2500℃〜3000℃とされる。
【0038】
第2の工程では、脱窒素処理が完了した触媒線(タンタル線)を窒化性雰囲気で1700℃以上2000℃未満の温度に通電加熱することで、触媒線を再窒化させる。加熱温度が1700℃未満の場合、基板Sへの成膜時における触媒線6の加熱温度に接近し、触媒線からの脱窒素が懸念されるが、例えば窒化シリコン膜等の窒化膜の成膜プロセスでは影響が少ない。しかし必要に応じて、後述する、窒化処理した触媒線の表面をホウ化、炭化、またはケイ化させる処理をさらに行ってもよい。これにより触媒線の脱窒素が阻止されるため、安定した膜質が得られる。
【0039】
また、加熱温度が2000℃以上の場合、触媒線6からの脱窒素作用も進行するため、再窒化効率の低下が懸念される。以上のように、再窒化工程での加熱温度は、成膜工程での加熱温度と脱窒素工程での加熱時間との間の温度範囲に設定される。
【0040】
タンタル線の窒化処理は、真空チャンバ内で実施することができる。例えば図1に示したように、タンタル線は、真空チャンバ内に設置される。真空チャンバの内部は所定の減圧雰囲気に真空排気された後、アンモニア等の窒化性ガスが真空チャンバ内に導入される。この状態でタンタル線が通電加熱により上記所定温度に加熱されることで、タンタル線が窒化される。
【0041】
また、タンタル線の脱窒化処理と再窒化処理は、同一の真空チャンバ内で実施することも可能である。これにより、触媒線6の再生処理を共通の真空チャンバで連続的に行うことができる。さらに、図1に示した触媒化学気相成長装置において、基板Sへの成膜前に触媒線の再生処理を実施することも可能である。これにより、基材の成膜途中において定期的に触媒線の再生処理が可能となる。
【0042】
タンタル線の窒化の度合いは、加熱温度、処理時間等によって調整可能である。図3および図4は、処理温度を異ならせて作製した複数のタンタル線の断面をそれぞれEPMA(Electron Probe Micro-Analysis)で測定したときの実験結果であり、横軸は断面の直径方向における位置、縦軸は窒素強度を示している。実験では、窒化性ガスにアンモニア(NH)が用いられ、処理圧力は1Pa、処理時間は30分とした。なお、図中「ref」は、窒素強度のバックグラウンドに相当し、いわば含有窒素のゼロレベルを示している。
【0043】
図3(A)〜(C)に示すように、処理温度が高温であるほど窒化強度が減少する。これは、タンタルの窒化よりも脱窒素が優先的に進行するからであると推認される。図4(A)〜(C)に示すように、処理温度が2000℃〜2200℃に達すると、脱窒素が支配的となり、タンタルの窒化は困難になる。
【0044】
以上の実験結果より、窒化タンタルの脱窒素処理は、2000℃以上の加熱温度が効果的であり、タンタルの窒化処理は、要求される窒化の度合いにもよるが、1700℃〜2000℃の範囲が効果的であることがわかる。
【0045】
また、図3〜図4の結果から明らかなように、通電加熱による窒化法は、触媒線の断面全域にわたってほぼ一様な濃度で触媒線を窒化させることができる。すなわち、触媒線の表面近傍のみならず内部深くにまで窒化を進行させることができる。
【0046】
図5は、図3(A)に示す1700℃で処理した窒化タンタル線の断面の光学顕微鏡写真である。ここでは、サンプルの断面部分を横に並べた状態で撮影した。窒化タンタル線の表面に変質層は認められず、径方向に一様な相が確認された。
【0047】
図6は、図3(A)に示す1700℃で処理した窒化タンタル線に係るX線回折測定の実験結果を示す。図示するように、窒化タンタル(TaN)相の回折ピークが現れており、したがって上記処理温度でタンタル線の窒化処理を適正に遂行できることが確認された。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、使用済みの触媒線6を回収し、再生処理を施すことで、触媒線を初期の性能に回復させることができる。また、触媒線の繰り返し使用が可能となるので、材料コストの低減を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、使用済み触媒線6から窒素のほぼ全量を除去した後、再窒化させるため、窒素の補給量の調整といった面倒な作業を必要とすることなく、すべての触媒線を一様な窒素濃度で容易に作製することができる。
【0050】
しかし、窒化タンタル線を触媒線として基板への成膜を行う場合、成膜条件によっては窒化タンタル線から窒素の脱離が起こる可能性も否定できない。そこで、通電加熱下における窒化タンタル線からの脱窒素を阻止し、さらに触媒線としての耐久性を向上させるため、窒化タンタル線の表面をホウ化、炭化、またはケイ化させる処理を行ってもよい。以下、第2の実施形態としてこの処理方法について説明する。
【0051】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態を説明する。本実施形態は、回収した窒化タンタル線から窒素を除去する工程と、窒素が除去された通電加熱線を再窒化させる工程と、再窒化した通電加熱線の表面に例えばホウ化物層を形成する工程とを有する。なお、通電加熱線からの窒素の除去工程及び通電加熱線の再窒化工程は上述の第1の実施形態と同様であるので、ここではそれらの説明を省略する。
【0052】
窒化タンタル線の表面を、例えばホウ化処理した触媒線は、窒化タンタル線の表面をホウ化物が被覆した2層構造を有する。このような構造を持つ触媒線をTaBN線80とし、図面を参照しながら、TaBN線80の製造方法について説明する。なお、第1の実施形態と同様の装置構成及び動作等については説明を省略又は簡略して説明する。
【0053】
[TaBN線の製造方法]
図7は、TaBN線80の製造工程を示すフローチャートである。TaBN線80の製造工程の説明は、以下の順序で行うものとする。
(1)窒化タンタル線の設置(S701)
(2)ホウ化処理(S702)
【0054】
一方図8は、図7の各製造工程で使用及び製造される触媒線を示している。すなわち、図8(A)はS701で用いられる窒化タンタル線、図8(B)はS702で製造されるTaBN線80を示している。以下、図7と図8を参照しながら製造工程及び各工程に対応する触媒線について説明する。
【0055】
[(1)窒化タンタル線の設置]
まず、窒化タンタル線(図8(A))を真空チャンバ内に設置する。このタンタル線は、例えば直径1mmとする(S701)。なお、上記真空チャンバは、タンタル線の窒化処理を行ったものと共通の真空チャンバでもよい。この場合、通電加熱線の再窒化処理後、後述するホウ化処理が連続して行われてもよい。
【0056】
[(2)ホウ化処理]
次に、真空チャンバ内を所定の真空雰囲気(例えば1Pa)に減圧し、タンタル線を1700℃に通電加熱する。そして、ホウ素を含むガスを真空チャンバ内に導入する。反応ガスは、例えば流量が179sccmのジボラン(B)ガスが用いられる。この処理によって、窒化タンタル層の表面を被覆するホウ化物層が形成され、TaBN線80(図8(B))が製造される(S702)。
【0057】
製造されたTaBN線80は2層構造となっている。すなわち、第1の層81は窒化タンタル線、第2の層82はホウ化物層からなり、第1の層の表面を第2の層が被覆する。
【0058】
第1の層81は、例えば直径1mmの窒化タンタル線からなる。第1の層81中は一様な濃度で窒化されている。タンタルと窒素の含有割合は特に制限されないが、タンタル:窒素=1:0.04〜1の窒化タンタル線が用いられる。このような窒化タンタル線は、硬度が加工に適するので容易に製造でき、さらに高温環境下での耐久性が非常に高く、熱伸び等の変形が少ない。
【0059】
第2の層82は、第1の層81の表面を被覆している。厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmである。これにより、窒素の脱離と、それに伴う第1の層81の硬度・強度の低下を抑制することができる。
【0060】
第2の層82を構成する化合物については、TaBN線80と同様の構造・機能を有する材料であれば特に限定されず、例えば、炭化物、ケイ化物が用いられる。これらの材料は、触媒線としての使用温度域において物理的・化学的に安定であるので、第2の層82の構成材料として用いることができる。
【0061】
さらに、触媒化学気相成長装置1を用いてTaBN線80を製造し、続けて、TaBN線80を触媒線6としてp型シリコン膜等の成膜を行うことも可能となる。以下、共通の真空チャンバで連続してTaBN線の製造、p型シリコン膜等の成膜を行った例を示す。
【0062】
図9は、真空チャンバ内でTaBN線の製造とp型シリコン膜の成膜とを連続して行った際の、通電加熱線(触媒線)の線抵抗を測定したときの実験結果であり、横軸は時間を、縦軸は電力を示している。測定中を通して通電加熱線の電流値は30Aに固定しているので、縦軸は実質的に抵抗値を示している。また図9は、経時的に以下の3相、すなわち、(1)0〜T1、(2)T1〜T2、(3)T2〜T3に分けることができる。以下、(1)〜(3)についてそれぞれ説明する。
【0063】
[(1)0〜T1]
まず、タンタル線を真空チャンバ内に設置し、窒化処理を行った。タンタル線は、直径1mm、長さが1320mmであり、1700℃に通電加熱された。窒化ガスとしてアンモニア(NH)が用いられ、処理圧力は1Pa、処理時間は30分とした。(1)ではタンタル線の窒化が進行し、窒化タンタル線が形成された。図9の結果から、タンタル線の窒化が進むにつれて、初期抵抗値(P0)から抵抗値が上昇し、ほぼ最高値(P1)に達していることがわかる。これは、タンタル線が熱伸びしたと同時に、窒化によって比抵抗が増加したためと考えられる。
【0064】
[(2)T1〜T2]
続いて、窒化タンタル線のホウ化処理を行った。ホウ化ガスとしてジボラン(B)が用いられ、処理圧力は1Pa、処理時間は3分間×2回、その後10分間真空中で通電した。(2)では窒化タンタル線のホウ化が進行し、TaBN線が形成された。図9の結果から、窒化タンタル線のホウ化が進むにつれてP1から抵抗値が低下していることがわかる。これは、窒化ガス源がなく窒化が全く進まないので、結果として窒化タンタル線からの脱窒素のみが起きたためと考えられる。しかし、タンタル線の初期抵抗値(P0)よりは高い値(P2)で下げ止まっている。これは、ホウ化処理が進むにつれて窒化タンタル線の表面を被覆するホウ化物層が徐々に形成され、このホウ化物層によって脱窒素が抑制されたためであると考えられる。
【0065】
[(3)T2〜T3]
次に、形成されたTaBN線を用いて、p型シリコン膜の成膜を行った。真空チャンバ内は引き続き1Paに調圧され、反応ガス(流量がそれぞれ25/90sccmのシラン(SiH)/ジボラン(B)ガス)が導入された。この処理は70秒間、間欠的に行われた。図9の結果から、(3)の間の抵抗値はほぼ安定な値(P2)で推移していることが示される。よって、TaBN線はp型シリコン膜等の成膜に用いられた場合でも、脱窒素及び熱伸び等の体積膨張がなく、安定した性質を保つことがわかる。さらにTaBN線を触媒線として用いる場合、本実験のように、共通の真空チャンバ内で触媒線の製造及び基板の成膜を連続的に行うことができるため、生産性の向上も図ることができる。
【0066】
一方、図10は、異なるTaBN線(直径1mm)の断面について、それぞれEPMAで窒素強度を測定したときの実験結果であり、横軸は断面の直径方向における位置、縦軸は窒素強度を示している。(A)は製造後無処理のTaBN線サンプル、(B)は製造後、1700℃で30分間、1Pa下で真空通電したTaBN線サンプルの結果を示している。なお、図中「ref」は、窒素強度のバックグラウンドに相当し、いわば含有窒素のゼロレベルを示している。
【0067】
図10の結果から、(A)と(B)の窒素強度に変化がなく、また(A)(B)ともに、表面近傍のみならず内部深くにまでほぼ一様な濃度で窒化されていた。さらに、両サンプルのタンタルと窒素の含有比を測定したところ、いずれもタンタル:窒素=1:0.05と同じ結果を示した。つまり、1700℃で30分間真空通電したTaBN線からの脱窒素はないと推認される。
【0068】
さらに、図10(B)の加熱処理条件はp型シリコン膜等の成膜に用いられることから、TaBN線を触媒線として基板成膜をした際も脱窒素がなく、TaBN線が硬度・強度を維持できると考えられる。さらに、放出された窒素成分が基板成膜時に混入する可能性も否定できる。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、触媒化学気相成長装置において、TaBN線は熱伸びせず、耐久性に優れた触媒線として利用でき、それによってコストの低減・生産性の向上が図れる。さらに、熱伸び等の変形がなく基板と触媒線との位置関係が維持できること、及び脱窒素もなく成膜中の基板への窒素成分の混入を抑制できることから、基板成膜時の膜質安定化も期待できる。
【0070】
なお、触媒線としてTaBN線80が長期にわたって使用され続けると、成膜ガス等の反応物が付着することで、触媒線6の性能が劣化するおそれがある。そこで、使用済みのTaBN線80を回収し、再生処理を施すことで、触媒線を初期の性能に回復させてもよい。この場合においても、回収したTaBN線を例えば2000℃以上の所定の温度に通電加熱することで、TaBN線から窒素を除去することができる。一方、再窒化に際しては、通電加熱線は、第1の実施形態と同様に窒素雰囲気中で通電加熱される。この場合、真空チャンバ内を高温・高圧の窒素雰囲気としてもよい。このように、使用済みのTaBN線を回収し再生処理を施すことで、TaBN線を初期の性能に回復させることができれば、耐久性が非常に高いTaBN線の繰り返し使用が可能となるので、大幅な材料コストの低減を図ることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0072】
例えば以上の実施形態では、通電加熱線として、触媒化学気相成長装置用の触媒線に適用した例を説明したが、これに限られず、ヒータ等を構成する抵抗加熱線にも本発明は適用可能である。
【0073】
また、以上の実施形態では、真空チャンバ内で縦方向または横方向に横切るように触媒線を設置する例を説明したが、これに代えて、触媒線各々の両端部を上方に設置し、中央部が折り返されるように触媒線を鉛直方向に吊り下げてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…触媒化学気相成長装置
3…真空チャンバ
6…触媒線
S…基板
80…TaBN線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化タンタルで形成された通電加熱線を2000℃以上の温度に通電加熱することで、前記通電加熱線から窒素を除去し、
窒素が除去された前記通電加熱線を窒化性雰囲気で1700℃以上2000℃未満の温度に通電加熱することで、前記通電加熱線を再窒化させる
通電加熱線の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の通電加熱線の処理方法であって、
前記通電加熱線の脱窒素処理と前記通電加熱線の再窒化処理とを共通の真空チャンバ内で実施する通電加熱線の処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の通電加熱線の処理方法であって、さらに、
前記通電加熱線の再窒化処理を行った後、前記通電加熱線の表面を被覆するホウ化物層、炭化物層及びケイ化物層のいずれかからなる層を形成する
通電加熱線の処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の通電加熱線の処理方法であって、
前記層を形成する処理は、
真空チャンバにホウ素、炭素及びケイ素の少なくとも一つを含有するガスを導入する工程と、
前記真空チャンバ内に設置された前記通電加熱線を通電加熱する工程とを有する
通電加熱線の処理方法。
【請求項5】
請求項3に記載の通電加熱線の処理方法であって、
前記通電加熱線の再窒化処理と、前記層を形成する処理とを共通の真空チャンバ内で実施する通電加熱線の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−64919(P2012−64919A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94006(P2011−94006)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】