説明

運転支援装置

【課題】 車両にレーダ装置を設置し、自車に接近する危険度の高いターゲットを見失うことなく追尾して警報し、確実にドライバーをサポートする運転支援装置を提供する。
【解決手段】 水平方向に回転する折りたたみ機構を有するドアミラーケース31L,31Rの内部にレーダ1LD,1RDを設置し、ドアミラーケース31L,31Rの折りたたみ機構を利用して回転させる。これにより、危険度の高いターゲット6をできるだけ長い時間観測し、ドライバーに警報・表示を行う。また、レーダの検出結果から、前方には、自車15が通り抜ける幅がないと判断した場合には、車両後方を視野とする撮像装置を起動し、ドライバーに対して後方の映像を表示して、後退時の後方認知の支援を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレーダ装置を用いて障害物との接近を警報する運転支援装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、2つ以上のレーダ装置を車両に設置し、これらが検出するターゲット情報を用いてターゲットとの接近距離に間する情報を、その接近度合いに応じた喚起度で表示・警報する運転支援装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−120498号公報(全体)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、自車側方などから危険度の高いターゲットが接近するとき、自車の移動やターゲットの移動に伴い、前記ターゲットが設置されたレーダの視野角から外れ、継続して前記ターゲットを観測したいにも関わらず、観測できなくなるといった問題がある。
【0005】
また、狭い道でのすれ違いのときに、自車が通り抜けられるだけの幅がなく、後退を余儀なくされるとき、後続車の存在に気付かず後突する場合がある。
【0006】
本発明の目的は、危険度の高いターゲットをできるだけ長い時間観測し、ドライバーに表示・警報を行うことのできる運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の望ましい実施態様においては、車両のミラーケースにレーダ装置を装着して、ターゲットを検出し、このレーダ装置からのターゲット情報に基いて、このターゲットを、ミラーケースの回転によって追尾する。得られたターゲット情報から、自車とターゲットとの、例えば衝突の可能性のある接近を予測し、ドライバーに警報する。
【0008】
本発明の望ましい実施態様においては、車両の少なくとも2つのミラーケースにレーダ装置を装着して、ターゲットとの距離,相対速度,及び方位角度を含むターゲット情報を検出する。これら複数のレーダ装置から得られたターゲット情報に基いて、自車とターゲットとの接近の可能性を予測し、最も接近する可能性が高いと判断されたターゲットを、前記複数のミラーケースの回転によって追尾する。
【0009】
ここで、ターゲット追尾手段は、複数レーダからのターゲット情報が同一のターゲットからの情報であるか否かを判断し、複数のレーダ装置からの同一ターゲットに関するターゲット情報を繋いで当該ターゲットを追尾することが望ましい。
【0010】
また、本発明の望ましい実施態様においては、少なくとも1つのレーダは、水平方向に回転する折りたたみ機構を有するドアミラーケースに設置し、このドアミラーケースをほぼ水平方向に回転させる折りたたみ機構を用いて、ターゲット追尾手段を構成する。
【0011】
ここで、好ましくは、ミラーケースの回転に伴ない、内部のミラーを逆方向に回転させ、ミラー角度を保持する。
【0012】
また、好ましくは、上記運転支援装置において、自車進行方向に自車が通り抜けられる幅がないと判断した場合は、後方撮像装置を起動し自車後方の映像を警報する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の望ましい実施態様によれば、ターゲットを追尾するように、ミラーケースに設置したレーダ装置を回転させることにより、危険度の高いターゲットをより確実に観測することができる。これにより、必要に応じてドライバーに表示・警報を行うことにより、より安全な運転支援装置を提供することができる。
【0014】
また、レーダの検出結果から、前方に自車が通り抜ける幅がないと判断した場合には、後方撮像装置を起動し、自車後方映像を表示・警報装置に表示することで、後退時の後方認知の支援を行う機能を有した運転支援装置を提供することができる。
【0015】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施例の中で明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図12を参照して、2周波CW( Continuous Wave )式のミリ波レーダを、車両の左右前方及び左右サイドミラー内の計4つ搭載した本発明の一実施例による運転支援装置を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施例に用いた2周波CW式のミリ波レーダ1の概要を示す機能ブロック図である。送信制御部3にて2周波を切り替える変調信号を生成し、この変調信号に基づいて発振器4にて生成されたミリ波帯の電磁波を送信アンテナ5から自車両の前方に送信する。先行車両や路側物、歩行者など(以下ターゲット6と呼ぶ)から反射した電波を受信アンテナ7にて受信し、ミキサ8にて送信波とミキシングすることにより、ミリ波帯の周波数からIF( Intermediate Frequency;中間周波数)へ周波数変換する。ミキシングによって取り出されたビート信号は、アナログ信号処理部9にて増幅される。増幅されたビート信号は、A/D変換器10によりディジタル信号に変換され、FFT( Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)処理部11にてFFT処理され、ターゲットピークが得られる。アナログ信号処理部9、A/D変換器10及びFFT処理部11の詳細な処理内容は後述する。得られたターゲットピークは、ターゲット処理部12にて信号処理され、相対速度,距離,及び方位角度(以下ターゲット情報と呼ぶ)が算出される。次に、RCS算出部18にて、ターゲットピークのピーク強度と、ターゲット処理部12にて算出したターゲット6の距離と、較正データ記録部25に記録されたレーダ定数を用いて、RCS(レーダ散乱断面積)を算出する。算出されたRCSとターゲット情報は、通信ドライバ13を介して上位システム14に伝達され、車両制御やドライバーへの警報制御に用いられる。上位システム14としては、プリクラッシュコントロールユニット,ACC( Adaptive Cruise Control )制御ユニット,及び車間距離警報ユニットなどがある。
【0018】
次に、図1におけるアナログ信号処理部9、A/D変換器10及びFFT処理部11の詳細な処理内容について、図2及び図3を用いて説明する。
【0019】
図2は、アナログ信号処理部9の構成を示す機能ブロック図である。アナログ信号処理部9は、プリアンプ部16、DCサーボ部17、復調部19、S/H(Sample & Hold)部20、及び2次アンプ部21から構成される。ミキサ8から入力されるビート信号は、プリアンプ部16で増幅される。DCサーボ部17は、ビート信号のDCオフセットをキャンセルする働きをする。増幅された信号には、送信時に変調された二つの送信周波数(CF1、CF2)に対応した位相の異なるビート信号(F1、F2)が重畳されているため、復調部19にて復調している。復調された二種のビート信号は、S/H部20にてサンプルホールドされ、それぞれ2次アンプ部21で再度増幅後、A/D変換器10へと出力される。
【0020】
図3は、ミリ波レーダのA/DサンプリングデータとFFT処理結果の一例図である。図3(a)に示すような2次アンプ部21で増幅されたビート信号22は、A/Dサンプリング周波数Fs[Hz](A/Dサンプル周期T[s]=1/Fs)でサンプリングされ、図3(b)のようなサンプルデータ23が得られる。FFT処理部11にて、このサンプルデータを、FFTサンプル点数Nを1フレームとしてFFT処理することにより、図3(c)のような、周波数上限がFs/2[Hz]、周波数分解能がFs/N[Hz/bin]の周波数スペクトラム24が得られる。ここでは簡単のために入力信号を周波数f1の正弦波としたが、複数の周波数成分が含まれた入力信号であっても、FFTの分解能Fs/2・N[Hz]以上離れていて、かつFs/2より小さい周波数ならば、それぞれの周波数ピークに分解することができる。
【0021】
図4は、本発明の一実施例による運転支援装置の概略を示す全体システム構成図である。ミリ波レーダ1は、車両の左前方に1LF、右前方に1RF、及び左右ドアミラーケース31L,31R内に1DL,1DRの計4箇設置している。ドアミラーは、水平方向に回転する折りたたみ機構を有するドアミラーケース31L,31R内に設置される場合が多く、この折りたたみ機構を利用して、後述するターゲット追尾手段を構成することが望ましい。これらのミリ波レーダ1で計測されたターゲット情報は、CAN通信を介して障害物距離測定部26に伝達される。
【0022】
障害物距離測定部26では、4つのレーダから得られるターゲット情報を用いて、位置と速度についてターゲットマッチングを行う。ターゲットマッチングとは、複数のレーダから得られた情報のうち、同一ターゲットか否かを判断し、同一と判断されるものを統合することを言う。同一ターゲットか否かの判断に当っては、レーダの取付位置差や、取付角度差及びドアミラーケース角度計測部32から得られるドアミラーケースの現在の角度情報を考慮する。障害物距離測定部26の詳細な内容は後述する。
【0023】
障害物距離測定部26で選択されたターゲット情報は、接触判断部27と表示・警報部28に伝達される。
【0024】
接触判断部27では、自車両の形状情報とターゲット情報から、自車に接触する可能性がある距離まで接近するか否かを判断し、接触する可能性がある場合には、その接触可能性情報を表示・警報部28に伝達する。また、接触判断部27により障害物を通り抜けることが困難であると判断された場合には、後方撮像部30を起動し、後方映像を表示・警報部28に表示して後方認知の支援を行う。接触判断部27の詳細な内容は後述する。
【0025】
表示・警報部28では、障害物距離測定部26から伝達されるターゲット情報をナビゲーション画面と兼用の又は専用の表示装置に画像及び/又は数値で表示し、接触判断部27から伝達される接触可能性情報を警報音等でドライバーに伝達する。
【0026】
次に、図4における障害物距離測定部26の詳細な内容について、図5〜図9を用いて説明する。障害物距離測定部26では、大きく分けて位置の座標変換、速度ベクトルの算出、及びターゲットマッチングの3つの処理を行う。
【0027】
図5は、図4における障害物距離測定部26の一例機能ブロック図である。まず、ターゲットの位置の座標変換を行う座標変換部39の処理内容について図6及び図7を用いて説明する。
【0028】
図6は、自車両15の右前方に速度V[km/h]で移動するターゲット6が存在し、ある時刻において、車両右前方に設置された右前方レーダ1RFと右ドアミラーケース31R内に設置された右ドアミラーレーダ1RDが同時に検知している状態を示している。簡単化のため、これ以降左側のレーダ1LF及び1LDの処理については記述しないが、同様の方法で処理を行うことができる。右前方レーダ1RFが検知する距離をR1[m]、レーダ取付軸36からの相対角度をθ1[°]、レーダ散乱断面積をRCS1[dBsm]とし、同様に、右ドアミラーレーダ1RDが検知する距離をR2[m]、レーダ取付軸37からの相対角度をθ2[°]、レーダ散乱断面積をRCS2[dBsm]とする。また、右前方レーダ1RFとターゲット6の距離R1の、車両軸35に平行な成分をL1[m]、垂直な成分をXR1[m]、右ドアミラーレーダ1RDとターゲット6の距離R2の、車両軸35に平行な成分をL2[m]、垂直な成分をXR2[m]とする。また、右前方レーダ1RFの取付軸36と車両軸35との角度をζ1[°]、右ドアミラーレーダ1RDの取付軸較正時の取付軸37と車両軸35との角度をζ2[°]とする。ζ1、ζ2はレーダ取付軸較正時にレーダ取付角度記録部42に記録する。また、右ドアミラーレーダ1RDの取付軸較正時の角度を基準とした右ドアミラーケース31Rの相対角度をγ2[°]とする。この相対角度をγ2は、ドアミラーケース角度計測部32から得られる。このとき、L1、XR1、L2、XR2は、R1、θ1、R2、θ2、ζ1、ζ2、γ2を用いて(数式1)から(数式4)のように表される。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、上記L1、XR1とL2、XR2は、各々のレーダの取付位置を基準とした異なる座標系の数値であるため、これを共通の座標系に変換するため、各レーダ共通の基準となる車両基準点38(図7)を導入する。本実施例では、車両基準点38を、図7のように、右ハンドル車の運転席近辺に設定する。右前方レーダ1RFと車両基準点38との距離の、車両軸35に平行な成分をΔL1[m]、垂直な成分をΔXR1[m]、右ドアミラーレーダと車両基準点38との距離の、車両軸35に平行な成分をΔL2[m]、垂直な成分をΔXR2[m]とする。このとき、右前方レーダ1RFと右ドアミラーレーダ1RDのそれぞれが検知したターゲット6の車両基準点38を基準とした位置L1’、XR1’、L2’、XR2’は、(数式5)から(数式8)のように表される。
【0031】
【数2】

【0032】
図8は、図5における速度ベクトル算出部40の処理内容を示す図である。
【0033】
まず、右前方レーダ1RFにおける速度ベクトルの算出方法について説明する。レーダが直接測定する速度は、ターゲット6の速度ベクトルを、右前方レーダ1RFとターゲット6を結ぶ直線に投影した成分である。右前方レーダ1RFが測定する速度をV1[km/h]とする。また、ターゲット6の速度ベクトルが、車両軸35となす角度をθ、右前方レーダ1RFとターゲット6を結ぶ直線と成す角をθv1とする。このとき、V、V1、θv1には(数式9)に示す関係がある。
【0034】
【数3】

【0035】
θはレーダから直接測定することはできないが、前述のL1’、XR1’の時間的な履歴から次のように算出することができる。L1’、XR1’の今回値(nフレーム)をL1’(n)、XR1’(n)、前回値(n−1フレーム)をL1’(n−1)、XR1’(n−1)とすると、それぞれの今回値と前回値の差分ΔLt1、ΔXRt1は(数式10)及び(数式11)のように表される。さらに、右前方レーダ1RFにおけるθの計算値をθc1とすると、ΔLt1、ΔXRt1を用いて(数式12)のように表される。
【0036】
【数4】

【0037】
さらに、θv1は、θc1、θ1、ζ1を用いて(数式13)のように表され、(数式13)と(数式9)から、右前方レーダにおいて算出されるVの大きさの計算値Vc1は(数式14)のように表される。
【0038】
【数5】

【0039】
以上のように、ターゲット6の速度ベクトルVは、(数式12)から車両軸35に対する相対角度の計算値θc1が、(数式14)からその大きさの計算値Vc1が算出される。右ドアミラーレーダ1RDにおける速度ベクトルの算出も同様にして行うことができ、速度ベクトルの車両軸35に対する相対角度の計算値θc2は(数式15)、大きさの計算値Vc2は(数式16)のように表される。算出方法は、前述の右前方レーダ1RFと同様であるが、ドアミラーケースの角度γ2を考慮している点が異なる。
【0040】
【数6】

【0041】
図9は、図5におけるターゲットマッチング部41の処理内容を示しており、この図を用いてターゲットマッチングについて説明する。前述した位置の座標変換及び速度ベクトルの算出後、障害物距離測定部26では、右前方レーダ1RFと右ドアミラーレーダ1RDがそれぞれ検知したターゲットが同一のものであるかどうかを判定する。
【0042】
図9(A)は、座標変換後のターゲット位置情報とレーダ散乱断面積(XR’、L’、RCS)の3次元マップである。右前方レーダ1RFが検出した位置・レーダ散乱断面積情報43(XR1’、L1’、RCS1)と、右ドアミラーレーダ1RDが検出した位置・レーダ散乱断面積情報44(XR2’、L2’、RCS2)の空間的距離Dを算出し、これがしきい値Dthより小さいか否かを判定する。空間的距離Dは(数式17)によって算出される。
【0043】
【数7】

【0044】
図9(B)は速度ベクトルの角度と大きさ(θc、Vc)の2次元マップである。右前方レーダ1RFが検出した速度ベクトル45(Vc1、θc1)と、右ドアミラーレーダ1RDが検出した速度ベクトル46(Vc2、θc2)の空間的距離Kを算出し、これがしきい値Kthより小さいかどうかを判定する。空間的距離Kは(数式18)によって算出される。
【0045】
【数8】

【0046】
D<DthかつK<Kthのとき、これらのターゲット情報が同一ターゲットであると判断し、それらの情報を統合する。1つのレーダで複数のターゲットを検出することが可能であるため、ある1つのレーダの、ある1つのターゲット情報に対し、当該レーダ以外の全てのレーダが検出する全てのターゲットと比較判定処理が行われ、統合するかどうかの判断が行われる。
【0047】
次に、図10〜図11を用いて、接触判断部の処理内容について説明する。
【0048】
図10は、図4及び図5における接触判断部27の詳細を示す機能ブロック図である。接触判断部27は、大きく分けて、接触可能性判断部48及び接触危険度判断部49の2つの処理を行う。
【0049】
図11は、図10における接触可能性判断部48の処理内容を示す図である。図は、横軸にXR’、縦軸にL’を取った2次元マップである。接触可能性判断部48は、障害物距離測定部26から出力される統合されたターゲット情報と、予め車両形状記録部47に記録された車両形状情報を用いて、検出したターゲット6が自車両15に接触する可能性があるほどに接近するか否かを判断する。
【0050】
車両形状情報48は、自車両15の最大外形となる4隅の点の、車両基準点38からの相対座標で表される。ここでは、右前方が(XR、L)、右後方が(XR、L)、左前方が(XR、L)、左後方が(XR、L)とする。図11に示すように、検出したターゲット6の情報(XR1’、L1’)をマップにプロットし、ここから大きさVc1で車両軸35に対する角度θc1の速度ベクトルを置く。この場合、接触する可能性があるほど接近するか否かは、この速度ベクトルの延長線49が前記車両形状情報48と交差するかどうかで判断できる。図11の例では、右前方のターゲット6が自車両15の正面方向へ向かっている状態を示しており、接触する可能性がある程度に異常接近する状態である。ここで、速度ベクトルと一致する直線は、(XR1’、L1’)を通る傾き1/tanθcの直線であるため、(数式19)のように表される。
【0051】
【数9】

【0052】
また、車両形状情報48で囲まれる範囲は(数式20)で表される。
【0053】
【数10】

【0054】
したがって、(数式21)〜(数式26)のいずれか1つ以上の条件が満たされるとき、(数式19)と(数式20)が交点を持つ。すなわち、接触する可能性があるほどに接近すると判断できる。いずれも満たさない場合は接触する可能性はない。
【0055】
左前方から車両正面への接触の場合:
【0056】
【数11】

【0057】
右前方から車両正面への接触の場合:
【0058】
【数12】

【0059】
左前方から車両左側面への接触の場合:
【0060】
【数13】

【0061】
左後方から車両左側面への接触の場合:
【0062】
【数14】

【0063】
右前方から車両右側面への接触の場合:
【0064】
【数15】

【0065】
右後方から車両右側面への接触の場合:
【0066】
【数16】

【0067】
上記の処理を全てのターゲット情報について行い、接触する可能性があるほど接近するというフレームがある既定数以上連続した場合、後述する接触危険度判断部49から表示・警報部28にそのターゲットの位置や接触危険度を送信する。表示・警報部28は、受信した情報の表示及び警報を行い、ドライバーに注意を促す。また、自車進行方向に複数のターゲットが存在し、かつそれらの間隔が前記車両形状情報から得られる自車両の幅よりも小さい場合、自車両15が通り抜けられないと判断し、後方撮像部30を起動し、その映像を表示・警報部28に表示し、後方認知の支援を行う。
【0068】
次に、図10における接触危険度判断部49の処理について説明する。接触の可能性があるほど接近する場合、その接触危険度はターゲットとの距離と速度ベクトルの大きさVcによって決定することができ、距離が小さければ小さいほど、また接近速度が大きければ大きいほど、すなわちVcが小さければ小さいほど接触危険度は高くなる。ここで、ターゲットとの距離Hは、自車両15のどの面への接触かによって異なり、それぞれ(数式27)〜(数式29)のように表される。
【0069】
車両正面への接触の場合:
【0070】
【数17】

【0071】
車両左側面への接触の場合:
【0072】
【数18】

【0073】
車両右側面への接触の場合:
【0074】
【数19】

【0075】
接触危険度判断部49では、図12に示すようなVcとHと接触危険度の関係のマップを参照し、接触危険度を決定する。このマップでは、Vcが小さいほどHが大きくても接触危険度が高くなるようになっている。また、Vcが負(接近)のときと正(離間)のときで接触危険度の曲線の傾きを変えており、離間のときでも距離Hが小さければ接触危険度が高くなるようにしている。また、ターゲットが移動物の場合は、同じ条件でもより危険度が高くなるように処理を行う。
【0076】
次に、図4及び図10における回転指令算出部50の処理内容について説明する。側方のターゲット6が、自車両15やターゲット6の移動に伴い、右ドアミラーレーダ1RDの検知範囲外に移動することがある。この場合、前述の接触危険度判断部49で接触の可能性が高いほどに接近すると判断したターゲットについては、自車両15の位置関係や接触危険度の観測を継続して行うことが望ましい。そこで、このような最も危険度の高いターゲットをできるだけ長く検知するように、回転指令算出部50で、回転角度を算出し、その回転指令を右ドアミラーレーダ1RDが設置されているドアミラーケース31Rの駆動制御部29に送る。このドアミラーケース31Rの駆動制御部29は、ドアミラーケース31Rの角度を変化させる処理を行う。また、このままでは、ドアミラーケース31Rの回転に伴いドライバーの視点から見たミラーの角度も変化してしまうので、ドライバーの後方視界を維持するように、ケース31R内のミラーを、ドアミラーケース31Rの回転と逆方向に同じ角度回転させる。
【0077】
ただし、一般的に、ドアミラーケース31Rの回転速度は車両の動きに比べて低いため、ある相対速度以下のターゲットだけに対してのみ、追尾動作を行うように構成している。
【0078】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、請求項に記載された範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、上記実施例では、2周波CW方式のミリ波レーダに適用したが、FMCW方式など、どのレーダでも適用できる。その中でも、接触可能性の判断に重要な、相対速度の検知精度に優れ、かつ、複数設置しても相互干渉を生じにくい2周波CW方式が有利である。
【0079】
また、上記実施例では、ミリ波レーダ1の設置場所を左右前方及び左右ドアミラー内の4箇所としたが、検知範囲が確保できるのであればこれ以外の場所、例えば、フェンダーミラーケースに取付けてもよい。また、個数も必要に応じて増減させることができる。さらに、後方に設置して後退時の運転支援等に利用することもできる。また、表示・警報部28での機能をナビゲーション画面への画像による表示と音による警報としたが、表示場所はインパネやヘッドアップディスプレイでもよいし、警報は音だけでなくシートベルトの巻き取りやシートの振動等でもよい。また、車両基準点38を右ハンドル車の運転席に設置したが、各レーダとの相対位置が予め既定できる位置であればどこでもよい。例えば、車両中心軸上の先端部でもよいし、車両の中心部でもよい。ただし、レーダの検知結果は、車両基準点38を基準とした数値になるため、これを表示・警報部28を介してドライバーに表示する場合は、ドライバーの視覚と一致する運転席に設置することが望ましい。また、車両形状情報を車両4隅の4点の情報としたが、精度を上げるために点数を増やしてもよい。この場合、接触可能性判断部48での接触可能性判断の式(数式21)〜(数式26)やターゲットとの距離の算出式(数式27)〜(数式29)をその点数に合わせて変更する必要がある。さらに、接触危険度判断部49の危険度の特性マップに2直線を組み合わせたものを3段階にして用いたが、特性マップは人間の感覚に合わせて曲線にしてもよく、危険度の段階は必要に応じて増減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例に用いた2周波CW式ミリ波レーダの機能ブロック図。
【図2】図1におけるアナログ信号処理部9の構成を示す機能ブロック図。
【図3】ミリ波レーダのA/DサンプリングデータとFFT処理結果の一例図。
【図4】本発明の一実施例による運転支援装置の概略を示す全体システム構成図。
【図5】図4における障害物距離測定部26の詳細を示す機能ブロック図。
【図6】図5における座標変換部39の座標変換前の状態を示す図。
【図7】図5における座標変換部39の座標変換後の状態を示す図。
【図8】図5における速度ベクトル算出部40の処理内容を示す図。
【図9】図5におけるターゲットマッチング部41の処理内容を示す図。
【図10】図4における接触判断部27の詳細を示す機能ブロック図。
【図11】図10における接触可能性判断部48の処理内容を示す図。
【図12】図10における接触危険度判断部49の処理内容を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1,1LF,1RF,1LD,1RD…ミリ波レーダ、6…ターゲット、11…FFT処理部、12…ターゲット処理部、15…自車両、26…障害物距離測定部、27…接触判断部、28…表示・警報部、29…ドアミラーケース駆動制御部、30…後方撮像部、31L…左ドアミラーケース、31R…右ドアミラーケース、32…ドアミラーケース角度計測部、38…車両基準点、42…レーダ取付角度記録部、47…車両形状記録部、50…回転指令算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、送信アンテナから電波を放射し、ターゲットからの反射波を受信してターゲットを検出する複数のレーダ装置と、これらのレーダ装置から得られたターゲット情報に基いて、自車とターゲットとの接近情報をドライバーに警報する警報手段を備えた運転支援装置において、複数の前記レーダ装置は、ミラーケースに装着されたレーダ装置を含み、前記ターゲットを追尾するように、前記ミラーケースを回転させるターゲット追尾手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
車両の少なくとも2つのミラーケースに装着され、送信アンテナから電波を放射し、ターゲットからの反射波を受信してターゲットとの距離,相対速度,及び方位角度を検出する2以上のレーダ装置と、これらレーダ装置から得られたターゲット情報に基いて、自車とターゲットとの衝突の可能性のある接近を予測する接近予測手段と、この接近予測手段によって接近する可能性が高いと判断されたターゲットを追尾するように、前記ミラーケースを回転させるターゲット追尾手段と、これらのレーダ装置から得られたターゲット情報に基いて、自車とターゲットとの接近情報をドライバーに警報する警報手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ミラーケースの回転に伴ない、当該ミラーケース内のミラーを逆回転させるミラー角度保持手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記ターゲット追尾手段は、複数レーダからのターゲット情報が同一のターゲットからの情報か否かを判断するターゲット判断手段と、このターゲット判断手段の判断に基き、複数のレーダ装置からの同一ターゲットに関するターゲット情報を繋いで当該ターゲットを追尾する手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記ミラーケースは、ドアミラーケースを含むことを特徴とする運転支援装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、前記レーダ装置の少なくとも1つは、手動操作により、ほぼ水平方向に回転する折りたたみ機構を有するミラーケースに設置され、前記ターゲット追尾手段は、前記折りたたみ機構による水平方向回転を利用して構成したことを特徴とする運転支援装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記ターゲット追尾手段は、ターゲットとの相対速度の絶対値があるしきい値以下のときに、前記ミラーケースを回転させることを特徴とする運転支援装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、前記ターゲットが移動物か停止物かを判定する移動物/停止物判定手段と、このターゲットと自車との所定の接近を予測する接近予測手段と、この接近予測手段の判定基準を、前記移動物/停止物判定手段の判定結果に応じて変更する判定基準変更手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、接近予測手段の情報に基いて、自車進行方向に自車が通り抜けられる幅がないことを判断する前方通過不能検出手段と、この前方通過不能検出手段の出力に応じて、後方撮像装置を起動し自車後方の映像を表示する表示手段を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項10】
車両の前方,後方または側方に装着され、送信アンテナからミリ波帯の電波を放射し、ターゲットからの反射波を受信してターゲットとの距離,相対速度,及び方位角度を検出する複数のレーダ装置と、これらレーダ装置の初期角度を記録するレーダ取付角度記録手段と、複数の前記レーダ装置からのターゲット情報を、前記レーダ装置の取付角度から車両基準点と車両軸を基準とした変換後ターゲット情報に変換し、同一のターゲットであるか否かを判断するターゲット判断手段と、前記車両基準点を基準とした自車の車両形状情報を記録する車両形状記録手段と、前記車両形状情報と前記変換後ターゲット情報とに基いて、ターゲットと自車の接触の可能性のある接近を判断する接触可能性判断手段と、この接触可能性判断手段の判断結果を警報する警報手段とを備えたことを特徴とする運転支援装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−221498(P2006−221498A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35562(P2005−35562)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】