説明

選択性を操作した金属酸化物センサの製造方法

【課題】選択的に感度を向上させた金属酸化物センサを提供すること。
【解決手段】本発明は、選択的に感度を向上させた金属酸化物センサの製造するために、該センサ内部にZnOセンサ電極を備えるZnOセンサを形成する工程、および該ZnOセンサ電極をプラズマ流に曝露する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物センサに関し、より詳細には、水素プラズマに曝露することによってセンサの感度を選択的に向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ZnO、In、SnOおよびITOなどの金属酸化物は、さまざまな環境に対して敏感に反応することが知られており、電気的なガスセンサを構成する材料として利用されている。上記ガスセンサは、ナノワイヤと該ナノワイヤの表面にある吸収剤との間の電荷の変位という機序を介して機能している。ナノ構造(例えば、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノブリッジなど)を有する金属酸化物を利用したセンサは、本来、体積に対する表面積の割合が非常に高いため、非常に高い感度を有することが見込まれる。金属酸化物は、多くのガス(例えば、O、HO、エタノール、メタノール、CO、NOおよびNHなど)に対して敏感に反応することが証明されている。しかし、上記金属酸化物を用いてセンサを実現する場合に生じる大きな課題の1つとして、ガスに対する選択性、またはバックグラウンドのガスから所望のガスをどれだけ良好に区別することができるのか、を挙げることができる(非特許文献1を参照のこと)。
【0003】
最近、感度を向上させるためのいくつかの方法について、少なくとも部分的に効果的であるということが示されている。部分的に効果的な上記方法とは、Hに対する感度を向上させるために、バックゲート素子構造におけるバイアス制御、あるいはプラチナまたはパラジウムのナノロッドを用いることである(非特許文献2を参照のこと)。非特許文献2では、動作温度の慎重な制御、配列内における異なる金属酸化物の使用などについて議論されている。しかし、これらの方法の内、理想的であるということが証明されている方法はない。
【0004】
これまでに、われわれは金属酸化物センサの製造工程について記述している文献(特許文献1および特許文献2)を開示している。特許文献1および特許文献2に記載の技術は、1つの電極からもう1つの電極に対して選択的に成長させたZnOナノワイヤを備える、ナノブリッジを基にしたZnOセンサを形成するための、統合された方法を導くものである。なお、本出願は、参照を介して特許文献1および特許文献2を包含する。
【特許文献1】米国特許公開公報US2006/0090693 A1(2006年5月4日公開)
【特許文献2】米国特許公開公報US2006/0091499 A1(2006年5月4日公開)
【非特許文献1】Kolmakov et al.,Chemical sensing and catalysis by one−demensional metal−oxide nanostructures,Annu.Rev.Mater.Res.34,151(2004)
【非特許文献2】Wang et al., Hydorgen−selective sensing at room temperature with ZnO nanorods,Appl.Phys.Lett.86,243503(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述のように、非特許文献2に記載の方法は、ガスに対する選択性、またはバックグラウンドのガスから所望のガスをどれだけ良好に区別することができるのか、という課題の一部を解決するに過ぎない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、センサの感度を選択的に向上させた金属酸化物センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る感度を選択的に向上させた金属酸化物センサの製造方法は、金属酸化物センサおよび該センサ内部にセンサ電極を形成する工程;ならびに該センサ電極をプラズマ流に曝露する工程を包含する。
【0008】
また、本発明に係る感度を選択的に向上させた金属酸化物センサの製造方法は、該センサ内部にZnOセンサ電極を備えるZnOセンサを形成する工程;および該ZnOセンサ電極をプラズマ流に曝露する工程を包含する。
【0009】
また、本発明に係る感度を選択的に向上させた金属酸化物センサの製造方法において、上記センサ電極(センサ構造)に対して水素プラズマを処理することが好ましい。
【0010】
上述した本発明の目的および手段は、本発明の性質を容易に理解するための記載である。本発明のさらなる詳細については、図面を参照して説明する「発明を実施するための最良の形態」の項を参照することによって、理解されるであろう。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は、金属酸化物センサの内部に形成されたセンサ電極をプラズマ流に曝露することで、ガスの種類に応じて感度を選択的に向上させた金属酸化物センサを製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
金属酸化物を基にしたセンサの感度を選択的に操作する方法が、以下に開示されている。上記方法は、プラズマを用いて上記金属酸化物の表面を処理することを包含している。一形態において、上記金属酸化物の表面処理に用いるプラズマは、水素プラズマであることが好ましい。上記工程(金属酸化物表面のプラズマ処理)は、シリコンCMOSを基部として有する金属酸化物センサ素子の一連の製造工程への統合が容易であろう。金属酸化物の表面処理方法の根幹をなす水素プラズマ(の処理)が金属酸化物の選択的な感度の操作を可能にすることについて開示している。われわれがこれまで開示してきた技術は、1つの電極から他の電極に対してZnOナノワイヤの選択的な成長を含む、センサの基部をなすナノブリッジを形成するための統合された方法を導いている。
【0013】
この構造(ナノブリッジが形成された構造)は、本発明に係る実施した技術の適用を実証するために、より好ましい実施形態において用いられている。しかし、本発明に係る上記技術は、もちろん「ピック アンド プレイス(pick and place)」法を介して製造されるナノワイヤガスセンサに適用される。上記「ピック アンド プレイス」法は、ナノワイヤを成長させるための基板から回収したナノワイヤを、パターン形成の前または後の電極を備える素子基板上、あるいは直立したナノワイヤを基部に有する構造上に分散させるという方法である。
【0014】
「ピック アンド プレイス」法を用いたセンサの製造方法について、米国特許第11,115,814号(発明者:コンリー ジュニア(Conley Jr.)ら、発明の名称:Method to fabricate a nanowire CHEMFET sensor device using selective nanowire deposition、出願日:2005年4月26日)、および米国特許第11,152,289号(発明者:コンリー ジュニア(Conley Jr.)ら、発明の名称:Nanowire sensor device structure、出願日:2005年6月13日)に記載されている。なお、本発明は、参照を介して米国特許第11,115,814号および米国特許第11,152,289号を包含する。
【0015】
図1(a)は、従来のZnOナノブリッジセンサの水平方向に対する構造を上方から見た平面図である。図1(b)は、従来のZnOナノブリッジセンサの垂直方向に対する構造を示す、図1(a)の線分Aにおける断面の断面図である。これらの構造は、ZnOナノワイヤの選択的成長を含む、直接的な統合方法を用いて製造した。上記方法については、先願であり、同時係属中の特許出願に記載されている。
【0016】
図1(a)の「S」および「D」のそれぞれは、ソースおよびドレインを意味している。図1(b)の「Vs」、「Vd」および「Vbg」のそれぞれは、ソース電圧、ドレイン電圧およびバックゲート電圧を意味している。また、「Si」、「BOX」および「n−Si」のそれぞれは、シリコン、埋蔵された酸化物(bureid oxide)からなる絶縁層、およびn型のシリコンを意味している。
【0017】
図2に示すような3電極素子としてセンサを動作させる場合、成長させた水平なセンサ構造は、空気、清浄な乾燥空気(CDA;clean dry air)およびNに対して、電流対温度および時間対温度についてプロットした図3〜図7に示されるような感度を示す。図2の構造において、導電率が空気およびCDAに対する曝露後に低下することが示されている。導電率は、Nによる浄化によって回復する。上述の引用文献に記載されているように、ZnOのガス検出特性は、よく知られている。
【実施例】
【0018】
未処理の成長させたナノワイヤおよびナノブリッジ構造を、さまざまな環境に対する曝露したときの電流対温度および時間対温度を表すグラフが、図3に示されている。Hプラズマに2分間曝露させた成長させたナノワイヤおよびナノブリッジ構造を、さまざまな環境に対する曝露したときの電流対温度および時間対温度を表すグラフが、図4〜7に示されている。本発明の方法には他の形態のプラズマを用いてもよく、特定のプラズマ処理のパラメータは、図に示した結果に関するものであることに注意されたい。
【0019】
プラズマは、13.33パスカル(Pa)(100ミリトル(mTorr))の圧力、および50立方センチメートル毎秒(sccm;standered cubic centimeters per minite)の流量を有する純粋な水素の流れという条件において作用させた誘導結合プラズマ放電を含む。さらに、上記Hプラズマの作用条件として、700ワット(W)の電力で13.56メガヘルツ(MHz)の高周波(RF;radio frequency)を、直径152.4mm(6インチ)のウェーハチャック上にある203.2平方ミリメートル(8インチ平方)の領域上に印加する。
【0020】
最近、ZnO薄膜のHプラズマ(Oプラズマ)によって、その導電性が増強(減少)するという報告が、Woldena et al.,Infared detection of hydrogen−generated free carriers in polycrystalline ZnO thin films,Appl.Phys.Lett.97,043522(2005)においてなされている。ここで、上記報告を行った筆者らは、ZnOのn−導電性の増強または減少させるための水素プラズマ処理または酸素プラズマ処理について記載している。しかし、上記報告において、筆者らは、ナノ構造への適用、またはガス検出に関して見込まれる効果について明確にしていない。
【0021】
プラズマの曝露後において、さまざまな変化が発生していることを観察した。図3と図4とを比較すると、Hプラズマの曝露の結果、導電性の大きさが約1次数分ほど増強していると思われる。この導電性の増強は、Woldena et al.の報告から予想されるものである。
【0022】
図5〜図7のそれぞれにおいて、25℃、100℃および150℃におけるプラズマ処理前とプラズマ処理後の応答(変化)を、正規化電流を再びプロットすることによって比較している。予想された導電性の増強に加えて、素子のガスに対する感受性が変化しているようである。全ての場合(25℃、100℃および150℃)において、プラズマ処理は、素子の空気に対する感受性を低下させているようである。例えば、プラズマ処理を行うことによって、空気に曝露させた後に観察される導電性の低下が、未処理の場合と比較して小さくなっている。導電性の回復が、プラズマ処理および未処理において、同じ割合で生じていると思われる。一方、Hプラズマの曝露によって、素子は、CDAに対する感受性が高くなっている。例えば、プラズマ処理を行うことによって、プラズマ処理を行うことによって、CDAに曝露させた後に観察される導電性の低下が、未処理の場合と比較して非常に大きくなっている。25℃、100℃および150℃における(正規化電流の環境変化に応答した)振る舞いはほぼ同じである。プラズマ処理は、その効果を破壊または阻害しない範囲において、温度が上昇するほど作用が強まるようである。
【0023】
明らかにした粗計測の結果、境界のはっきりしない2つの環境に対してのみ感度の変化を示しているが、このプラズマ処理は、原理的に多くのガスに対してセンサを調整するために利用し得る。
【0024】
プラズマ処理は、メタライゼーションの後に行われてもよく、ガスセンサ素子構造内への組み込みを達成してもよい。また、プラズマ処理は、素子の形成が完了した後に適用されてもよい。プラズマ処理は、整列した素子に異なる感受性を付与するために、プラズマ処理の前にリソグラフィー技術を用いてパターニングすることによって、ZnOナノワイヤ素子に対して選択的に適用されてもよい。また、検知し得るガスの種類を増やすために、選択するガスに対して半透過性または不透過性を有する膜として機能する障壁材料を、選択したナノワイヤ素子の周りに配置してもよい。Oのような他のプラズマ処理によって、選択性に影響させることもまた、有望であろう。これらの他のプラズマ処理は、特定の成分に対する選択性をそれぞれ有している、ZnOセンサの選択的な配列を形成することと、組み合わせてもよい。
【0025】
特定の構造が、本発明に係る実施した技術の適用を実証するために、より好ましい実施形態において用いられているが、該方法(技術)は、もちろん「ピック アンド プレイス」法を介して製造されるナノワイヤガスセンサに適用される。上記「ピック アンド プレイス」法は、ナノワイヤを成長させるための基板から回収したナノワイヤを、パターン形成の前または後の電極を備える素子基板上、直立したナノワイヤを基部に有する構造上、あるいは他の想像し得るナノ構造上または薄膜を基にした構造上に分散させる方法を意味している。
【0026】
このように、金属酸化物センサの感度を増強させるための方法が開示されている。上記方法のさらなる変化および改良は、添付の特許請求の範囲において明確にされている本発明の範囲に含まれるということが、理解されるであろう。
【0027】
また、本明細書中に記載された特許文献および非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、環境の変化を高感度に検知するセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は、従来の金属酸化物センサを上面から見た平面図であり、(b)は、(a)の線分Aにおける金属酸化物センサの断面図である。
【図2】図1の金属酸化物センサとは異なる、従来の金属酸化物センサの断面図である。
【図3】未処理の金属酸化物センサの温度変化に対する性質を示すグラフである。
【図4】本発明に係る処理を施した金属酸化物センサの温度変化に対する性質を示すグラフである。
【図5】25℃における本発明に係る処理を施した金属酸化物センサの性質と、未処理の金属酸化物センサの性質とを比較したグラフである。
【図6】100℃における本発明に係る処理を施した金属酸化物センサの性質と、未処理の金属酸化物センサの性質とを比較したグラフである。
【図7】150℃における本発明に係る処理を施した金属酸化物センサの性質と、未処理の金属酸化物センサの性質とを比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感度を選択的に向上させた金属酸化物センサの製造方法であって、
金属酸化物センサ、および該金属酸化物センサ内部にセンサ電極を形成する工程;ならびに
該センサ電極をプラズマ流に曝露する工程
を包含することを特徴とする金属酸化物センサの製造方法。
【請求項2】
上記金属酸化物センサがZnOセンサであり、上記センサ電極がZnOセンサ電極であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項3】
センサ電極をプラズマ流に曝露する上記工程が、該センサ電極の水素プラズマ流への曝露を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項4】
上記水素プラズマ流が、誘導結合プラズマ放電を用いたHプラズマ流を含むことを特徴とする請求項3に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項5】
上記Hプラズマ流を、約13.33パスカルの圧力、50立方センチメートル毎秒の流量を有する純粋な水素の流れ、および700ワットの電力で13.56メガヘルツの周波数という条件において作用させることを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項6】
センサ電極をプラズマ流に曝露する上記工程が、該センサ電極の酸素プラズマ流への曝露を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項7】
金属酸化物センサ、および該金属酸化物センサ内部にセンサ電極を形成する上記工程が、ZnOセンサの形成を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項8】
金属酸化物センサ、および該金属酸化物センサ内部にセンサ電極を形成する上記工程が、ZnOナノ構造を有するセンサの形成を含むことを特徴とする請求項7に記載の金属酸化物センサの製造方法。
【請求項9】
センサ電極をプラズマ流に曝露する上記工程の前に、該センサ電極をリソグラフィー技術によってパターニングする工程を、さらに包含することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−225596(P2007−225596A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353291(P2006−353291)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】