説明

配線基板およびその実装構造体

【課題】本発明は、電気的信頼性を向上させる要求に応える配線基板およびその実装構造体を提供するものである。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る配線基板2は、イミド基を有する樹脂を含む樹脂層11と、該樹脂層11に当接した、チタンを含む金属層13とを備え、樹脂層11は、金属層13に当接した第1層領域15と、該第1層領域15よりも樹脂層11の内部に位置する第2層領域16とを有し、第1層領域15は、炭素原子数に対する窒素原子数の比率が第2層領域16よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器(たとえば各種オーディオビジュアル機器、家電機器、通信機器、コンピュータ機器およびその周辺機器)に使用される配線基板およびその実装構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器における実装構造体としては、配線基板に電子部品を実装したものが使用されている。
【0003】
配線基板に関して、特許文献1には、樹脂層と、該樹脂層上に形成された導電層とを備えた構成が記載されている。
【0004】
ところで、隣接する導電間に電界が印加されると、樹脂に含まれる水分に起因して、導電層に含まれる導電材料がイオン化し、隣接する導電層に向って伸長することがある(イオンマイグレーション)。その結果、導電材料が隣接する導電層に達すると、隣接する導電層同士が短絡し、配線基板の電気的信頼性が低下しやすくなる。それ故、配線基板の電気的信頼性を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−23065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電気的信頼性を向上させる要求に応える配線基板およびその実装構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る配線基板は、イミド基を有する樹脂を含む樹脂層と、該樹脂層に当接した、チタンを含む金属層とを備え、前記樹脂層は、前記金属層に当接した第1層領域と、該第1層領域よりも前記樹脂層の内部に位置する第2層領域とを有し、前記第1層領域は、炭素原子数に対する窒素原子数の比率が前記第2層領域よりも大きい。
【0008】
本発明の一実施形態に係る実装構造体は、上記配線基板と、該配線基板に実装された電子部品とを備える。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、金属層がチタンを含むことによって、金属層同士のイオンマイグレーションを低減しつつ、樹脂層の第1層領域における窒素原子数を増加させることによって、チタンを含む金属層とイミド基を有する樹脂を含む樹脂層との接着強度を高めることができ、ひいては配線基板の電気的信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施形態にかかる実装構造体の断面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるR1部分の拡大図である。
【図2】図2(a)ないし(c)は、図1(a)に示す実装構造体の製造工程を説明する断面図である。
【図3】図3(a)および(b)は、図1(a)に示す実装構造体のR1部分における製造工程を説明する拡大図である。
【図4】図4(a)および(b)は、図1(a)に示す実装構造体のR1部分における製造工程を説明する拡大図である。
【図5】図5(a)および(b)は、図1(a)に示す実装構造体のR1部分における製造工程を説明する拡大図である。
【図6】本発明の実施例の条件および評価結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例における樹脂層の原子数の比率に係る分析結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例における樹脂層の構造に係る分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<配線基板および実装構造体の構成>
以下に、本発明の一実施形態に係る配線基板を含む実装構造体を図1に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1(a)に示す実装構造体1は、配線基板2と、配線基板2の上面にバンプ3を介してフリップチップ実装された電子部品4とを含んで構成されている。
【0013】
配線基板2は、基体5と、基体5の上下に積層された複数の絶縁層6と、基体5上または絶縁層6上に配された複数の導体層7とを含んで構成されている。
【0014】
基体5は、例えば樹脂と、該樹脂に被覆された基材を備えた構成を有している。基体5の樹脂は、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、または液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いることができ、低熱膨張の観点から液晶ポリマーを用いることが望ましい。また、基体5の基材は、繊維を縦横に織り込んでなる織布等を用いることができ、該繊維は、例えばガラス繊維または樹脂繊維等を用いることができる。
【0015】
この基体5には、厚み方向(Z方向)に貫通するスルーホールTが形成されており、該スルーホールTの内壁には、例えば円筒状のスルーホール導体8が被着しており、該円筒状のスルーホール導体8に取り囲まれた領域には、絶縁体9が充填されている。
【0016】
スルーホール導体8は、基体5の上下に配された導体層7同士を電気的に接続するものであり、例えば銅、銀、ニッケルまたはクロム等の導電材料によって形成することができる。また、絶縁体9は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって形成することができる。
【0017】
一方、絶縁層6は、接着層10と、該接着層10に接着した樹脂層11とを有している。
【0018】
接着層10は、樹脂層11同士、または樹脂層11と基体5とを接着するものであり、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シアネート樹脂、シリコン樹脂またはビスマレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂を含んでいる。この接着層10の厚みは、例えば2μm以上20μm以下となるように設定されている。また、接着層10の平面方向(XY平面方向)への熱膨張率は、例えば80ppm/℃以上300ppm/℃以下に設定されており、且つ、接着層10のヤング率は、例えば0.05GPa以上1GPa以下に設定されている。
【0019】
樹脂層11は、絶縁層6を低熱膨張且つ高剛性にするものであり、イミド基を有する樹脂、すなわちポリイミド樹脂を含んでいる。この樹脂層11におけるポリイミド樹脂の含有量は、例えば20体積%以上100体積%以下に設定されている。このポリイミド樹脂
は、イミド基の他に官能基を有していてもよく、例えばベンゾオキサゾール基を有するポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を用いることができる。また、樹脂層11のポリイミド樹脂は、各樹脂分子鎖の長手方向が同一方向である構造を有するフィルム状であることが望ましく、これにより、平面方向への熱膨張率を小さくすることができる。
【0020】
この樹脂層11の厚みは、例えば2μm以上20μm以下に設定されている。また、樹脂層11の平面方向への熱膨張率は、例えば−5ppm/℃以上20ppm/℃以下に設定されており、且つ、樹脂層11のヤング率は、例えば5GPa以上15GPa以下に設定されている。
【0021】
この絶縁層6には、厚み方向に貫通するビア孔Vが形成されており、該ビア孔V内にはビア導体12が配されている。
【0022】
ビア導体12は、絶縁層6の上下に配置された導体層7同士を電気的に接続するものであり、基体5に向かって幅が狭くなるテーパー状に形成されており、例えば銅、銀、金、アルミニウム、ニッケルまたはクロム等の導電材料により形成することができる。このビア導体12の熱膨張率は、例えば12ppm/℃以上20ppm/℃以下に設定されている。
【0023】
導体層7は、接地用配線、電力供給用配線又は信号用配線として機能するものであり、スルーホール導体8および/またはビア導体12と電気的に接続されている。なお、導体層7の線膨張係数は、例えば12ppm/℃以上20ppm/℃以下に設定されている。
【0024】
一方、電子部品4は、はんだ等のバンプ3を介して導体層7に電気的に接続されており、例えばICまたはLSI等の半導体素子を用いることができる。該半導体素子は、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム砒素リン、窒化ガリウムまたは炭化珪素等の半導体材料によって形成することができ、厚みが、例えば0.1mm以上1mm以下に設定されている。
【0025】
次に、導体層7および樹脂層11の構成について、より詳細に説明する。
【0026】
図1(a)および(b)に示すように、導体層7は、絶縁層6の樹脂層11上に形成された第1導体層7aと、基体5上に形成された第2導体層7bとを有する。
【0027】
第1導体層7aは、樹脂層11に接着した金属層13と、金属層13に接着した導電層14とを有する。
【0028】
金属層13は、樹脂層11と導電層14の間に介された下地層として機能するものであり、チタンを含んでいる。ここで、チタンは他の金属と比較してイオン化傾向が高く、表面が酸化して不動態膜を形成しやすいため、化学的に安定しやすい。それ故、金属層13にチタンを用いることによって、金属層13のイオン化を低減してイオンマイグレーションを低減し、ひいては金属層13同士の短絡を低減できる。
【0029】
この金属層13におけるチタンの含有量は、例えば99.9%以上100%以下に設定されており、金属層13は、チタン以外に鉄などを含んでいても構わない。また、金属層13の厚みは、例えば5nm以上100nm以下に設定されている。
【0030】
導電層14は、第1導体層7aの導電性を高めるものであり、導電性の高い銅を含んでいる。このように導電層14が銅を含んでいることから、導電層14の銅と金属層13のチタンが金属間化合物を形成するため、金属層13と導電層14との接着強度を高めるこ
とができる。この導電層14における銅の含有量は、例えば99%以上100%以下に設定されている。また、導電層14の厚みは、0.3μm以上30μm以下に設定されている。
【0031】
樹脂層11は、金属層13が接着した第1層領域15と、該第1層領域15よりも樹脂層11の内部に位置する第2層領域16とを有する。この第1層領域15は、ポリイミド樹脂における炭素(C)原子数に対する窒素(N)の原子数の比率が、第2層領域16よりも大きい領域となっている。
【0032】
本実施形態において、第1層領域15は、ポリイミド樹脂のイミド基と金属層13のチタンとが化学的に結合することによって、金属層13と強固に結合している。その結果、酸化して樹脂層11との接着強度が低下することがあるチタンを含む金属層13と、樹脂層11との接着強度を高めることができるため、樹脂層11と金属層13との剥離を低減し、ひいては第1導体層7aの断線を低減することができる。
【0033】
ここで、第1層領域15は、後述する如く、ポリイミド樹脂における窒素置換基の量の増加に伴って、ポリイミド樹脂のイミド基の反応性が高まるため、該イミド基とチタンとが化学的に結合しやすくなると推測される。
【0034】
なお、第1層領域15および第2層領域16の概念は、窒素の原子数の比率が、樹脂層11の内部側よりも第1導体層7aに接着する表面側において高くなっていることを説明するための便宜的なものである。したがって、酸素等の原子数の比率は、第1層領域15と第2層領域16との境界などにおいて、値が急激に変化したり、変化率が急激に変化したりする必要はなく、第1層領域15から第2層領域16にかけて徐々に変化してもよい。第1層領域15と第2層領域16との境界は、必ずしも明確に特定または設定されなくてもよい。
【0035】
第1層領域15の厚さは、樹脂層11の厚さの例えば0.05%以上1%以下に設定されている。この場合、接着強度に影響を及ぼすには薄すぎる厚さにおける比率が第1層領域15における比率として特定されたり、接着強度に影響を及ぼさない樹脂層11の内部側の比率が第1層領域15の比率に反映されたりすることが避けられると推測される。また、樹脂層11の厚さの0.05%は、例えば、樹脂層11の厚さが4μm以上40μm以下であれば、2nm以上20nm以下であり、当該範囲は、X線光電子分光分析(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)によって原子数の比率を求めることが可能な範囲内である。
【0036】
第2導体層7bは、加工容易性および導電性の観点から銅を含んでおり、導電層14と同様の構成からなるが金属層13を含んでいない。この第2導体層7bにおける銅の含有量は、例えば99%以上100%以下に設定されている。また、第2導体層7bの厚みは、例えば0.3μm以上30μm以下に設定されている。
【0037】
基体5は、N/Cが厚さ方向において一様になるように形成されている。換言すれば、基体5において、第2導体層7bに接着した領域は、当該領域よりも内部に位置する領域に比較して、N/Cが大きくなるようには形成されていない。
【0038】
したがって、樹脂層11のみが第1層領域15を有し、第1導体層7aのみが金属層13を有している。樹脂層11および第1導体層7は、配線を高密度化するための部分であり、当該部分において接着強度を向上させつつ配線を微細化することによって、配線基板2の電気的信頼性を担保しつつ配線を高密度化させることができる。
【0039】
一方、樹脂層11の金属層13が接着した表面は、基体5の第2導体層7bが接着した表面よりも表面粗さ(算術平均粗さ)が小さい。したがって、第2導体層7bにおいては、基体5の表面粗さを大きくしてアンカー効果による接着強度を得つつ、第1導体層7aにおいては、上述した化学的結合によって金属層13と樹脂層11との接着強度を高めつつ、樹脂層11の表面粗さを小さくしてイオンマイグレーションを低減することができる。それ故、第1導体層7aの断線を低減して電気的信頼性を高めつつ、第1導体層7a同士を近接させて配線を高密度化することができる。
【0040】
なお、樹脂層11の金属層13が接着した表面は、例えば過マンガン酸カリウム溶液を用いた粗面化処理や過度のプラズマエッチング処理を行わないことによって、算術平均粗さが1nm以上50nm以下に設定されていることが望ましい。また、基体5の第2導体層7bが接着した表面は、上述した粗面化処理やプラズマエッチング処理によって、算術平均粗さが100nm以上3μm以下に設定されていることが望ましい。また、算術平均粗さは、ISO4287:1997に準じて測定される。
【0041】
また、ビア導体12は、導電層7と同様に、ビア孔Vの内壁に接着した金属層13と、金属層13に接着した導電層14とを有しており、絶縁層6は、ビア導体12に接着される第1層領域15と、第1層領域15よりも内部側の第2層領域16とを有している。その結果、ビア孔Vの内壁とビア導体12とを強固に接着することができる。
【0042】
<配線基板および実装構造体の製造方法>
次に、上述した配線基板2を含む実装構造体1の製造方法を、図2から図5に基づいて説明する。
【0043】
(1)図2(a)に示すように、基体5を準備し、該基体5にスルーホール導体8および第2導体層7bを形成する。具体的には、例えば以下のように行う。
【0044】
まず、基材に樹脂を含浸させた樹脂シートを複数枚準備した後、それらの樹脂シートを積層して加熱加圧をすることにより、基体5を準備する。次に、ドリル加工またはレーザー加工等を用いて、基体5にスルーホールTを形成する。次に、無電解めっき法を用いて、基体5の表面に導電材料を被着させて、スルーホールTの内壁面に円筒状のスルーホール導体8を形成する。次に、スルーホール導体8に取り囲まれた領域に、樹脂材料等を充填して絶縁体9を形成する。次に、無電解めっき法および電気めっき法を用いて、銅を含む導電材料を基体5の上下主面および絶縁体9の露出部に被着させた後、従来周知のフォトリソグラフィー技術、エッチング技術等を用いて、該導電材料をパターニングして第2導体層7bを形成する。なお、基体5の表面は、導電材料を被着させる前に、過マンガン酸塩等の薬液を用いて粗面化されてもよい。
【0045】
(2)図2(b)に示すように、基体5およびその第2導体層7b上に絶縁層6を形成し、該絶縁層6にビア導体12および第1導体層7aを形成する。そして、この工程を繰り返すことによって、図2(c)に示すように、配線基板2を作製する。具体的には、例えば以下のように行う。
【0046】
まず、基体5およびその第2導体層7b上に、接着層10を介して樹脂層11を配した後、加熱加圧することによって、絶縁層6を形成する。次に、例えばYAGレーザー装置、炭酸ガスレーザー装置またはエキシマレーザー装置を用いて、絶縁層6にビア孔Vを形成し、該ビア孔V内に第2導体層7bの少なくとも一部を露出させる。次に、ビア孔V内にビア導体12を形成するとともに、樹脂層11の上面に第1導体層7aを形成する。このような絶縁層6、ビア導体12および第1導体層7aの形成方法を繰り返すことによって、配線基板2を作製する。
【0047】
以下、本実施形態におけるビア導体12および第1導体層7aの形成方法について、詳細に説明する。
【0048】
まず、図3(a)および(b)に示すように、窒素プラズマを用いたプラズマ処理によって、樹脂層11の第1層領域15におけるN/Cを大きくする。このように、窒素プラズマを用いることによって、樹脂層11の表面には、多量の窒素官能基が形成される。すなわち、N/Cの比率が相対的に高い第1層領域15が形成される。
【0049】
このプラズマ処理の後、樹脂層11は、大気に晒されることなく、次工程のスパッタリングが行われる。例えば、樹脂層11は、プラズマ処理を行ったチャンバーからスパッタリングが行われるチャンバーへ真空雰囲気に保たれたまま移されたり、プラズマ処理を行ったチャンバーにおいて真空雰囲気が保たれたままスパッタリングが行われたりする。ここでいう真空雰囲気は、大気圧よりも低い雰囲気であればよく、例えば、0.3Pa以上1.5Pa以下の雰囲気である。
【0050】
なお、樹脂層11をプラズマに晒す時間は、20秒以上1800秒以下が望ましい。チャンバー内の圧力は、0.01Pa以上100Pa以下が望ましい。電極に印加する面積当たりの出力は、0.05W/cm以上0.7W/cm以下が望ましい。チャンバー内の温度は、100℃以上130℃以下が望ましい。
【0051】
このようにプラズマ条件を弱くすることによって、樹脂層11の表面のエッチングを低減して、樹脂層11の表面を算術平均粗さが1nm以上50nm以下と平坦性の高いものにすることができる。
【0052】
次に、図4(a)に示すように、樹脂層11の表面にチタンをスパッタリングし、金属層13を形成する。この際、金属層13のチタンと樹脂層11のポリイミド樹脂のイミド基とは化学的に結合する。これは、上述したプラズマ処理の際に、樹脂層11の表面に配されたポリイミド樹脂のイミド基が、窒素プラズマによってアタックされて、活性化されたラジカルの状態になっているため、スパッタリングの際にチタンとイミド基とが化学的に結合すると推測される。なお、チタンとイミド基との化学的な結合は、X線光電子分光分析によって確認することができる。
【0053】
また、チタンは、一般的に、酸化しやすい金属であり、酸化すると樹脂層11との接着性が低下しやすいが、本実施形態においては、上述した如く、窒素プラズマを用いてプラズマ処理を行うことから、樹脂層11の表面への酸素や水分の付着を低減することができるため、樹脂層11にスパッタされたチタンの酸化を低減することができ、ひいては、チタンと樹脂層11との接着強度を高めることができると推測される。
【0054】
さらに、上述した如く、プラズマ処理の後、真空雰囲気を維持しつつ樹脂層11にスパッタリングを行っているため、スパッタリングの前にて、樹脂層11の表面への酸素や水分の付着をより低減することができる。
【0055】
また、例えば過マンガン酸カリウム溶液等を用いた粗面化処理および過度のプラズマエッチング処理を行わず、上述した弱い条件でプラズマ処理をした後にスパッタリングをしているため、平坦性の高い樹脂層11の表面に金属層13を形成することができ、ひいては金属層13同士のイオンマイグレーションを低減することができる。
【0056】
なお、チタンのスパッタリングは、出力が例えば100W以上2kW未満に設定され、温度が例えば5℃以上300℃未満に設定されている。
【0057】
次に、図4(b)に示すように、金属層13の表面に銅をスパッタリングしてスパッタ層14xを形成した後、図5(a)に示すように、スパッタ層14xの表面に電気めっき法を用いて銅を析出させることによって、該スパッタ層14xを含む導電層14を形成する。このように導電層14を形成することによって、スパッタ層14xによって金属層13のチタンの酸化を低減しつつ、電気めっき法によって導電層14を効率良く形成することができる。なお、導電層14を形成することによって、ビア孔V内には、金属層13および導電層14を含むビア導体12が形成される。また、銅のスパッタリングの出力は、例えば200W以上10kW以下に設定されている。
【0058】
次に、図5(b)に示すように、フォトリソグラフィー技術またはエッチング技術等を用いて、導電層14および金属層13をパターニングすることによって、第1導体層7aを形成する。
【0059】
以上のようにして、ビア導体12および第1導体層7aを形成することができる。
【0060】
(3)配線基板2にバンプ3を介して電子部品4をフリップチップ実装することによって、図1(a)に示す実装構造体1を作製することができる。
【0061】
本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0062】
例えば、上述した本発明の実施形態においては、基体の上面および下面に形成される絶縁層が2層である構成を例に説明したが、絶縁層は1層または3層以上であっても構わない。絶縁層は、接着層と樹脂層とを有するものに限定されない。例えば、絶縁層は、液状の樹脂のコーティングまたはフィルム状の樹脂の圧着により形成された1層の樹脂層であってもよい。また、樹脂層は、粗面化されても構わない。
【0063】
また、上述した本発明の実施形態においては、電子部品を配線基板の上面にフリップチップ実装した構成を例に説明したが、電子部品を配線基板の上面にワイヤボンディング実装しても構わない。
【0064】
また、上述した本発明の実施形態においては、基体上に第2導体層を形成した構成を例に説明したが、基体上に第1導体層を形成しても構わない。
【0065】
また、上述した本発明の実施形態においては、複数の樹脂層上に第1導体層を形成した構成を例に示したが、電子部品との接続信頼性の観点から、複数の樹脂層のうち、最上層の樹脂層上のみに第1導体層を形成し、他の樹脂層上に第2導体層を形成しても構わない。この場合、第2導体層を形成した樹脂層においては、第1層領域における窒素の原子数が、第2層領域における窒素の原子数よりも大きくなっていない。
【実施例】
【0066】
<ピール強度の測定>
(プラズマ装置の構成など)
プラズマ装置の構成、および、複数の実施例および比較例に共通の条件を以下に示す。
【0067】
電極:平行平板型、面積は1487.5cm
電源:RF(高周波)電源、周波数は13.56MHz
チャンバーの容積:129569cm
チャンバー内の圧力:0.01Pa〜100Pa
(プラズマの種類)
種々のプラズマを用いることにより、複数の実施例および比較例を設定した。具体的には、アルゴンプラズマ、窒素プラズマ、または、酸素プラズマを用いた。なお、以下に説明する図において、これらのプラズマの種類は、「Ar」、「N2(またはN)」、「O2(またはO)」と略記されることがある。
【0068】
(プラズマ処理の出力)
電極に印加される面積当たりの電力の出力が0.05W/cm〜0.7W/cmとなるよう100W〜1KWの間で複数の実施例および比較例を設定した。なお、本願では、200W〜600Wの結果を掲載している。
【0069】
(プラズマ処理の時間)
プラズマ処理の時間を変化させることにより、複数の実施例および比較例を設定した。具体的には、1分〜30分の間でプラズマ処理の時間を設定した。
【0070】
(大気開放の有無)
プラズマ処理とスパッタリングとの間における大気開放の有無によって、複数の実施例および比較例を設定した。大気開放「有り」は、プラズマ処理とスパッタリングとの間で大気開放したものであり、大気開放「無し」は、プラズマ処理とスパッタリングとの間で大気開放しないもの、すなわち、真空雰囲気を維持しつつプラズマ処理およびスパッタリングを行ったものである。なお、大気開放を行う場合、その時間は、1時間以上24時間以内とした。
【0071】
(ピール強度の測定条件)
実施例および比較例の評価項目として、ピール強度(g/cm)を測定した。ピール強度は、導体層を樹脂層から剥離させるのに必要な力であり、JISC6481:1996に準じて測定した。実施例においては、ピール強度が測定される導体層および樹脂層は、第1導体層および第1樹脂層である。
【0072】
ピール強度は、導体層の形成直後と、その後、配線基板が高温下に置かれた後で異なる。そこで、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を含む樹脂層に対してチタンスパッタリング(厚み75nm)、銅スパッタリング(厚み500nm)、電気銅めっき(厚み18μm)を順次行った後(「初期」)、130℃で30分の熱処理を行い(「130℃30分」)、その後、172℃で1日、2日、5日、10日の高温処理を行って(「172℃1日」、「172℃2日」、「172℃5日」、「172℃10日」)、各時期でピール強度を測定した。
【0073】
(ピール強度の評価結果)
図6の上段は実施例および比較例におけるピール強度の評価結果を示すグラフであり、下段は実施例および比較例の条件および評価結果を示す図表である。上段のグラフの横軸および下段の図表の列は、互いに対応しているとともに、実施例1〜2(A1〜A2)および比較例1〜6(B1〜B6)に対応している。
【0074】
上段のグラフの縦軸はピール強度を示している。実施例または比較例それぞれにおいては、6つのピール強度が上段のグラフにより示されている。当該6つのピール強度は、図6の左側から、「初期」、「130℃30分」、「172℃1日」、「172℃2日」、「172℃5日」、「172℃10日」におけるピール強度に対応している。
【0075】
下段の図表の「プラズマ」の欄は、スパッタリング前のプラズマ処理における条件を示している。具体的には、プラズマの種類、プラズマ処理の出力およびプラズマ処理の時間
を示している。
【0076】
「大気開放」の欄は、プラズマ処理とスパッタリングの間で配線基板を大気に晒したか否かを示している。
【0077】
「初期」、「130℃30分」、「172℃1日」、「172℃2日」、「172℃5日」、「172℃10日」の欄は、それぞれの時期におけるピール強度(g/cm)を示している。
【0078】
実施例1〜2(A1〜A2)は、窒素プラズマを用いたプラズマ処理を行った後、配線基板を大気に晒すことなく、スパッタリングを行った例である。比較例1〜3(B1〜B3)は、アルゴンプラズマを用いたプラズマ処理を行った後、配線基板を大気に晒し、その後、スパッタリングを行った例である。比較例4〜5(B4〜B5)は、アルゴンプラズマを用いたプラズマ処理を行った後、配線基板を大気に晒すことなく、スパッタリングを行った例である。比較例6(B6)は、酸素プラズマを用いたプラズマ処理を行った後、配線基板を大気に晒すことなく、スパッタリングを行った例である。
【0079】
実施例1〜2は、比較例1〜6に比較して、配線基板が高温下に晒された後のピール強度が高くなっている。その結果、プラズマ処理を窒素プラズマにより行った場合、他のプラズマにより行った場合と比較して、ピール強度の向上の効果が奏されることが分かる。
【0080】
<X線光電子分光分析>
図7は、実施例および比較例における樹脂層の原子数の比率をX線光電子分光分析(以下、XPS分析とする)により測定した結果を示している。XPS分析は、元素の種類およびその電子状態に固有の値である光電子の結合エネルギーと、該元素の量を示す光電子数とを測定するものであり、これにより、原子数の比率を測定することができる。なお、樹脂層を構成する材料はポリイミドベンゾオキサゾール樹脂とした。
【0081】
「Calculated from repeating unit」の欄は、比較例として、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂における原子数の比率の計算値を示している。「Pristine」の欄は、比較例として、プラズマ処理がされる前の樹脂層の原子数の比率を示している。「Ar plasma-treated」の欄は、アルゴンプラズマによるプラズマ処理がなされた樹脂層の原子数の比率を
示している。「O2 plasma-treated」の欄は、酸素プラズマによるプラズマ処理がなされ
た樹脂層の原子数の比率を示している。「N2 plasma-treated」の欄は、窒素プラズマに
よるプラズマ処理がなされた樹脂層の原子数の比率を示している。「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」の欄は、窒素プラズマによるプラズマ処理がなされ、大気に晒されることなく、チタンのスパッタリングを行った樹脂層の原子数の比率を示している。すなわち、「pristine」、「N2 plasma-treated」「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」の
欄は、作製工程の進行に伴う原子数の比率の変化を順に示している。なお、図7において、数値ではなく「−」と示した箇所は、未測定の箇所である。
【0082】
「Take-off angle of 20 deg .(depth:5nm)」の欄は、X線を樹脂層の表面に対して2
0度の角度で照射することにより得られた、樹脂層の表面から約5nmまでの深さ(第1層領域)における原子数の比率を示している。「Take-off angle of 45 deg .(depth:10nm)」の欄は、X線を樹脂層の表面に対して45度の角度で照射することにより得られた、樹脂層の表面から約10nmまでの深さ(第2層領域)における原子数の比率を示している。
【0083】
なお、プラズマ処理は、上述したプラズマ装置において、チャンバー内の圧力:10〜20Pa程度、出力:600W、処理時間:2分の条件下で行われた。また、チタンのス
パッタリングは、出力:1200W、時間:2秒、温度130℃の条件で行われた。
【0084】
樹脂層の第1層領域におけるN/Cは、作製工程が「pristine」から「N2 plasma-treated」、「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」へと進行するにつれて増加している。
具体的には、「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」は、N/Cが「pristine」の約2.1倍に増加している。また、「N2 plasma-treated」においては、樹脂層の第1層領域
におけるN/Cが、樹脂層の第2層領域におけるN/Cよりも大きくなっている。
【0085】
一方、樹脂層の第1層領域におけるN/Cは、作製工程が「pristine」から「Ar plasma-treated」および「O2 plasma-treated」へ進行すると減少している。また、「pristine」「Ar plasma-treated」および「O2 plasma-treated」においては、樹脂層の第1層領域におけるN/Cが、樹脂層の第2層領域におけるN/Cよりも小さくなっている。
【0086】
この結果より、樹脂層の第1層領域において、窒素プラズマ以外によるプラズマ処理を行うとプラズマ処理前よりも窒素官能基が減少しているのに対し、窒素プラズマによるプラズマ処理を行うとプラズマ処理前よりも窒素官能基が増加しており、さらには、この窒素官能基の増加がチタンのスパッタリングをした後も維持されることが見て取れる。したがって、図6の結果を鑑みると、このような窒素官能基の増加により、樹脂とチタンとの結合が促され、ひいては、樹脂層と金属層とのピール強度が向上していると推測される。
【0087】
また、樹脂層の第1層領域におけるO/Cは、作製工程が「pristine」から「N2 plasma-treated」に進むと増加し、「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」へ進むと「N2 plasma-treated」よりも若干減少するが「pristine」よりは増加している。具体的には、「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」は、N/Cが「pristine」の約2.1倍に増加している。
【0088】
一方、樹脂層の第1層領域におけるO/Cは、作製工程が「pristine」から「Ar plasma-treated」および「O2 plasma-treated」に進むと増加しているが、「N2 plasma-treated」の場合よりも増加量は小さい。
【0089】
この結果より、酸素官能基の増減が、樹脂層と金属層とのピール強度に何らかの寄与をしていると推測される。
【0090】
一方、図8上方の構造式は、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の構造式を示している。また、図8下方の複数のグラフは、それぞれ、図7に示した「Pristine」および「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」のXPS分析についてO1sスペクトルにおけるナロー分析を行った結果を示しており、横軸は光電子の結合エネルギー(Binding Energy)を、縦軸は光電子数の相対値(Relative intensity)を示している。なお、O1sスペクトルにおけるナロー分析は、XPS分析において、酸素に固有の光電子の結合エネルギーについて詳細に分析したものであり、図8下方のグラフは、電子状態の異なる酸素、すなわち図8上方の構造式にて結合状態の異なる酸素の量を相対的に示すものである。
【0091】
比較例(「Pristine」)のグラフでは、構造式の各部に記載された#1〜#2に対応して、光電子数のピークが生じている。一方、実施例(「N2 plasma-treated and Ti-sputtered」)では、比較例において生じている#1〜#2の光電子数のピークの値が減少するとともに、新しい光電子数のピーク(#3)が生じている。
【0092】
このように、窒素プラズマ処理およびチタンスパッタリングをした後に、イミド基の酸素を示す#1の光電子数のピークの値が減少して#3の光電子数のピークが出現していることから、#3の光電子数のピークは、イミド基にチタンが化学的に結合したものであり
、Ti・・・=Cの配位結合に対応していると推測される。
【0093】
また、窒素プラズマ処理およびチタンスパッタリングをした後に、ベンゾオキサゾール基における酸素を示す#2の光電子数のピークの値が減少して#3の光電子数のピークが出現していることから、#3の光電子数のピークは、ベンゾオキサゾール基にチタンが化学的に結合したものも含むと推測される。
【0094】
さらに、図8の実施例においては、#3の光電子数のピークの値が、#1の光電子数のピークの値よりも大きい。これは、チタンと結合したイミド基がチタンと結合していないイミド基よりも多くなっており、樹脂がチタンと強く結合していることを示すと推測される。同様のことは、#3の光電子数のピークの値と#2の光電子数のピークの値とにおいても言える。
【0095】
また、上述した如く、プラズマ処理およびスパッタリングといった表面処理によって、第1層領域に#3の光電子数のピークが生じていることから、第1層領域における#3の光電子数のピークの値は、第1層領域よりも内部にある第2層領域における#3の光電子数のピークの値よりも大きいと推測される。
【0096】
ここで、図8において、#1の光電子数のピークは、光電子の結合エネルギーが531.5eV以上532.5eV以下の範囲にあり、#2の光電子数のピークは、光電子の結合エネルギーが532.9eV以上533.9eV以下の範囲にあり、#3の光電子数のピークは、光電子の結合エネルギーが530.0eV以上531.0eV以下の範囲にある。
【0097】
なお、これらの光電子の結合エネルギーの値は、図8の構造式にてベンゼン環の炭素を示す#4における光電子の結合エネルギーが284.6eVとなるように補正した値である。
【0098】
以上、図6ないし図8に示したように、実施例においてピール強度が向上したのは、樹脂層の表面において、樹脂のイミド基にチタンが化学的に結合したことによるものであると推測できる。
【符号の説明】
【0099】
1 実装構造体
2 配線基板
3 バンプ
4 電子部品
5 基体
6 絶縁層
7 導体層
7a 第1導体層
7b 第2導体層
8 スルーホール導体
9 絶縁体
10 接着層
11 樹脂層
12 ビア導体
13 金属層
14 導電層
15 第1層領域
16 第2層領域
T スルーホール
V ビア孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド基を有する樹脂を含む樹脂層と、該樹脂層に当接した、チタンを含む金属層とを備え、
前記樹脂層は、前記金属層に当接した第1層領域と、該第1層領域よりも前記樹脂層の内部に位置する第2層領域とを有し、
前記第1層領域は、炭素原子数に対する窒素原子数の比率が前記第2層領域よりも大きいことを特徴とする配線基板。
【請求項2】
請求項1に記載の配線基板において、
前記イミド基と前記チタンとが化学的に結合していることを特徴としていることを特徴とする配線基板。
【請求項3】
請求項1に記載の配線基板において、
前記第1層領域に対するX線光電子分光分析の結果における光電子の結合エネルギーが530.0eV以上531.0eV以下の範囲にある光電子数のピークの値は、前記第2層領域に対するX線光電子分光分析の結果における光電子の結合エネルギーが530.0eV以上531.0eV以下の範囲にある光電子数のピークの値よりも大きいことを特徴とする配線基板。
【請求項4】
請求項1に記載の配線基板において、
前記第1層領域に対するX線光電子分光分析の結果における光電子の結合エネルギーが530.0eV以上531.0eV以下の範囲にある光電子数のピークの値は、前記第1層領域に対するX線光電子分光分析の結果における光電子の結合エネルギーが531.5eV以上532.5eV以下の範囲にある光電子数のピークの値よりも大きいことを特徴とする配線基板。
【請求項5】
請求項1に記載の配線基板において、
前記金属層を介して前記樹脂層に接続した、銅を含む導電層をさらに備えたことを特徴とする配線基板。
【請求項6】
請求項1に記載の配線基板と、該配線基板に実装された電子部品とを備えたことを特徴とする実装構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−209494(P2012−209494A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75363(P2011−75363)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】