説明

酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法

【課題】 運転中を含む車両内において非接触的に運転者の酒気帯び度を推定し、酒気帯び度に応じて危険を回避する対応を行うことのできる酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法を提供する。
【解決手段】 車両運転者の画像を撮影する画像撮影部2と、酒気帯び状態でない平常時における車両運転者の平常時画像又は平常時の生体データを保持するデータ蓄積部10と、画像撮影部2により撮影された画像及び当該画像を解析することにより得られる生体データとデータ蓄積部10に保持されている平常時画像又は平常時の生体データとを比較対照することにより車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理・解析部8と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法に係り、特に車両運転者の酒気帯び度を検出する酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の運転者が飲酒運転を行うことに起因する事故等が増加している。そこで、行政側も、例えば車両の運転前に、運転者のアルコール濃度の検査とともに、運転者が酒気帯び状態でない(飲酒していない)ことを確認するために運転者と第三者との面談を行うこと等を交通機関側に要請する等、飲酒運転による事故を未然に防止するための指導や対策を行っている。しかし、車両運転前に運転者が酒気帯び状態でないか否かの検査等をしたのみでは、一旦運転動作を開始した後に酒気帯び状態となった場合等には検知することができず、飲酒運転による事故を十分に防止することができない。
【0003】
そこで、例えば、運転者の呼気中のアルコール濃度を測定し、それが基準値以上の場合に運転不可能と判断し、管理者サーバに報告する運転者検査システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、被測定者の虹彩画像を撮影して個人認証を行うことにより検査者と対面していなくても他人が被測定者に成り済ますことを防ぐとともに、センサでアルコール濃度や血圧を測定し、該当する個人情報と関連付けて管理する身体状態管理装置およびそのデータ管理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、車両停止中に車中でアルコール濃度を測定し、測定者の画像とともにメールによって測定結果を報告するよう構成し、アルコール濃度の測定時に健康管理データとして酸素飽和度や血圧を測定して、この測定結果をアルコール濃度の測定結果を報告するメールに同報するアルコール検知システムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−296252号公報
【特許文献2】特開2005−245956号公報
【特許文献3】特開2005−118177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に示された手法によれば、運転手が窓を開ける等することにより、実際には酒気帯び状態であっても測定結果が基準値を超えないようにして酒気帯びとの判定を免れる可能性がある。また、同乗者の呼気と区別をつけられないとの問題もある。
また、特許文献2に示された手法によれば、運転中又は乗車時に測定していないため、運転中の酒気帯び状態を検出することはできない。
また、特許文献3に示された手法によれば、車両停止中にしか測定できないとの問題があり、また、運転者自ら計測機器を操作しなければならないため、アルコール濃度、酸素飽和度や血圧の測定が煩わしく、運転者による計測の拒否も可能である。また、それらのセンサを体表面に装着しなければならないので、運転者に対する侵襲の問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、運転中を含む車両内において非接触的に運転者の酒気帯び度を推定し、酒気帯び度に応じて危険を回避する対応を行うことのできる酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の酒気帯び検知システムは、車両運転者の画像を撮影する画像撮影部と、
酒気帯び状態でない平常時における車両運転者の平常時画像又は平常時の生体データを保持する平常時データ保持手段と、
前記画像撮影部により撮影された画像及び当該画像を解析することにより得られる生体データと前記平常時データ保持手段に保持されている前記平常時画像又は前記平常時の生体データとを比較対照することにより車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理部と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
このような構成を有する請求項1に記載の発明においては、画像撮影部で撮影した画像及び当該画像を解析して得られる生体データと平常時画像又は平常時の生体データとを比較対照することによって、データ処理部が車両運転者の酒気帯び度を検出するようになっている。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の酒気帯び検知システムにおいて、前記画像撮影部は、車両運転者の頭部及び頚部の画像を撮影するものであることを特徴としている。
【0009】
したがって、請求項2に記載の発明では、車両運転者の頭部及び頚部の画像を取得し、これを解析することによって、酒気帯び度の検出に必要な生体データを得るようになっている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の酒気帯び検知システムにおいて、前記生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付ける評価関数又は評価テーブルを保持する関係付けデータ保持手段を備え、
前記データ処理部は、前記関係付けデータ保持手段に保持されている前記評価関数又は前記評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出するものであることを特徴としている。
【0011】
したがって、請求項3に記載の発明では、データ処理部は、評価関数又は前記評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出するようになっている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システムにおいて、車両運転者の酒気帯び度に基づいて、車両の動作制御に関する指示信号を出力する伝達部を備えていることを特徴としている。
【0013】
したがって、請求項4に記載の発明では、車両運転者の酒気帯び度に基づいて、伝達部から車両の動作制御に関する指示信号を出力するようになっている。
【0014】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システムにおいて、前記画像撮影部の撮影特性についてキャリブレーションを行う撮影キャリブレーション手段を備えていることを特徴としている。
【0015】
したがって、請求項5に記載の発明では、撮影キャリブレーション手段により画像撮影部の撮影特性についてキャリブレーションを行うようになっている。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システムにおいて、前記評価関数又は前記評価テーブルについてキャリブレーションを行う解析キャリブレーション手段を備えていることを特徴としている。
【0017】
したがって、請求項6に記載の発明では、解析キャリブレーション手段により評価関数又は評価テーブルについてキャリブレーションを行うようになっている。
【0018】
請求項7に記載の酒気帯び検知方法は、車両運転者の画像を撮影する画像撮影工程と、
撮影された画像及び当該画像を解析することにより得られる生体データと酒気帯び状態でない平常時における車両運転者の平常時画像又は平常時の生体データとを比較対照することにより車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理工程と、
を備えることを特徴としている。
【0019】
このような構成を有する請求項7に記載の発明においては、撮影した画像及び当該画像を解析して得られる生体データと平常時画像又は平常時の生体データとを比較対照することによって、車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理を行うようになっている。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の酒気帯び検知方法において、前記画像撮影工程は、車両運転者の頭部及び頚部の画像を撮影することを特徴としている。
【0021】
したがって、請求項8に記載の発明では、車両運転者の頭部及び頚部の画像を取得し、これを解析することによって、酒気帯び度を検出に必要な生体データを得るようになっている。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項7又は請求項8に記載の酒気帯び検知方法において、前記データ処理工程は、前記生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付ける評価関数又は評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出することを特徴としている。
【0023】
したがって、請求項9に記載の発明では、評価関数又は前記評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理を行うようになっている。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法において、車両運転者の酒気帯び度に基づいて、車両の動作制御に関する指示信号を出力する伝達工程を備えていることを特徴としている。
【0025】
したがって、請求項10に記載の発明では、車両運転者の酒気帯び度に基づいて、車両の動作制御に関する指示信号を出力するようになっている。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法において、画像撮影における撮影特性についてキャリブレーションを行う撮影キャリブレーション工程を備えていることを特徴としている。
【0027】
したがって、請求項11に記載の発明では、画像撮影部の撮影特性についてキャリブレーションを行うようになっている。
【0028】
請求項12に記載の発明は、請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法において、前記評価関数又は前記評価テーブルについてキャリブレーションを行う解析キャリブレーション工程を備えていることを特徴としている。
【0029】
したがって、請求項12に記載の発明では、評価関数又は評価テーブルについてキャリブレーションを行うようになっている。
【発明の効果】
【0030】
請求項1及び請求項7に記載された発明によれば、車両乗車時の車両運転者の酒気帯び度を、非接触的に、運転者本人を煩わせることなく測定することができるという効果を奏する。
【0031】
また、車両運転者の平常時のデータを保持しているので、酒気帯びにより車両運転者に生じる影響を適切に検出することができる。
【0032】
請求項2及び請求項8に記載された発明によれば、車両運転者の手間を必要とせずに車両運転者の酒気帯び度を検知することができるという効果を奏する。
また、飲酒の影響が現われやすい部位で酒気帯び度の評価を行うことができるとの効果もある。
【0033】
請求項3及び請求項9に記載された発明によれば、画像を解析することにより得られる生体データと酒気帯び度との関係付けが可能となり、画像に基づいて酒気帯び度を検出することが可能となるという効果を奏する。
【0034】
請求項4及び請求項10に記載された発明によれば、酒気帯び状態での運転に起因する事故を回避することができるという効果を奏する。
【0035】
請求項5及び請求項11に記載された発明によれば、画像解析の精度を向上させることができるという効果を奏する。
【0036】
請求項6及び請求項12に記載された発明によれば、酒気帯び度の検出の精度を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図1から図10を参照しつつ、本発明に係る酒気帯び検知システム及び酒気帯び検知方法の一実施形態について説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0038】
本実施形態において酒気帯び検知システム1は、例えば車両内の運転席の前方、ダッシュボード等に設置されるものである。
【0039】
図1は、本実施形態における酒気帯び検知システム1の概略構成を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、酒気帯び検知システム1は、画像撮影部2、照明部3、光刺激用照明部4、ユーザインタフェイス部5、表示部6、メモリ部7、データ処理・解析部8、パラメータ設定・管理部9、データ蓄積部10、I/O部11、外部通信部12、車両制御部インタフェイス部13及びこれら各構成部を統括的に制御する制御部15等を備えて構成されている。酒気帯び検知システム1は、外部通信部12を介して各種の外部装置16との間で情報の送受信可能に構成されている。また、酒気帯び検知システム1には、車両制御部インタフェイス部13を介して車両の各種動作を制御する車両動作制御部17が接続されている。
【0040】
図2は、酒気帯び検知システム1を普通自動車等の車両内に設置する場合における画像撮影部2、照明部3、及び光刺激用照明4のそれぞれの配置例を示したものである。
図2に示すように、本実施形態における酒気帯び検知システム1では、画像撮影部2は撮影対象(撮影部位又は解析内容)の異なるカメラ21,22から構成されており、それぞれのカメラ21,22は、撮影対象を考慮してそれぞれ違う位置に設置されている。具体的には、車両運転者の顔部及び目(頭部)を撮影するための画像撮影部2であるカメラ21が車両の運転席101の前方であってフロントガラス103の上端部周辺に設置されている。また、運転者の頚部及び顎部を撮影する画像撮影部2であるカメラ22がフロントガラス103の下端部周辺であってダッシュボード102の中央部周辺に設置されている。また、フロントガラス103の下端部一端には、撮影の際に被写体である車両運転者の各撮影部位(検出部位)の照明を行う照明部3が配置されている。さらに、フロントガラス103の上端中央部付近には、瞳孔測定(瞳孔撮影)の際に目に光刺激を与える光刺激用照明部4が配置されている。
【0041】
各カメラ21,22には、運転者の頭部の位置や運転席101の位置、高さ等に応じて、カメラ21,22の位置を調整することができる位置調整機構がついていることが好ましい。画像撮影時にはカメラ21,22の位置を固定としてもよいし、カメラ21,22の位置を変えながら撮影し、位置を変えた移動情報を画像データと同時に取得して画像解析に用いるようにしてもよい。また、各カメラ21,22、照明部3、光刺激用照明部4は、非撮影時には収納され、撮影時に自動的にアーム等が伸びて所定の位置に配置される等の構成となっていてもよい。なお、画像撮影部2としてのカメラ21,22、照明部3、及び光刺激用照明部4の配置される位置及び配置される数等はここに例示したものに限定されない。画像撮影部2を一台のカメラで構成し、運転者の顔部から頚部までを当該一台のカメラで撮影するようにしてもよい。
【0042】
以下酒気帯び検知システム1を構成する各構成部について詳細に説明する。
【0043】
画像撮影部2は、前述のように車両の運転者の顔部及び目を撮影するためのカメラ21と運転者の頚部及び顎部を撮影して頚部の脈拍(頚脈拍データ)を取得するための画像を得るカメラ22とから構成されている。カメラ21,22は、例えばCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の図示しない撮像素子を備え、被写体である運転者の各部を撮影して動画像又は静止画像を得ることが可能となっており、例えば、カラー又はモノクロのビデオカメラ、CCDカメラ、CMOSカメラ、デジタルスチルカメラその他携帯電話等に付属のカメラモジュール等により構成することができる。
【0044】
特に、運転者の顔部及び目を撮影するためのカメラ21は、運転者の顔部のカラー画像及び熱画像を撮影可能となっている。顔部の画像は静止画像でも動画像でもよい。またカメラ21は、カメラ21の撮影位置及び視線方向を自動的に調整して、運転者の目の動画像を撮影可能となっている。
なお、運転者の顔部及び目を撮影するためのカメラ21として、例えば顔部の色彩データ(顔色彩データ)を取得するための画像を撮影するカメラとしてカラーカメラや、運転者の顔部等の皮膚の表面温度のデータ(顔温度データ)を取得するための画像を撮影するカメラとして被写体の近赤外〜赤外域に感度を有するサーモセンサ(熱画像カメラ)を備えるようにしてもよい。また、顔部の色彩データを取得するための画像を撮影するカメラ及び顔部等の表面温度のデータを取得するための画像を撮影するカメラは、モノクロカメラと帯域フィルタとの組み合わせにより構成してもよい。なお、サーモセンサ(熱画像カメラ)を備える場合には、サーモセンサ(熱画像カメラ)は撮影時にセンサ感度、レンジ、ゲイン又は測定温度域等のパラメータを一定の値に設定するようになっている。また、これらの値が変動した場合は、サーモセンサ内部でこれらの値を補正することにより、同一パラメータの場合と同様の撮影画像を出力できる構成とする必要がある。これは画素値から温度データへのデータ変換の精度を維持するために不可欠である。
【0045】
また、運転者の頚部及び顎部を撮影して頚脈拍データを取得するための画像を得るカメラ22は、被写体の検出部位を少なくとも2秒以上動画撮影するようになっている。このように撮影時間を2秒以上とすることにより、脈拍のほぼ2サイクル分の動画を得ることができる。撮影時間は長いほど正確な脈拍を検出することが可能となるが、その分被写体の動きに対する画像解析の信頼性を向上させる必要がある。
撮影する画像は、カラー画像、モノクロ画像いずれでもよい。例えばカラー画像の場合は、Rチャンネルの画像が後述する画像解析に用いられる。モノクロ画像の場合は、赤〜近赤外域の透過率が高い光学フィルタを用いて撮影を行う。頚動脈の脈動が画像から感知できない場合は、後述するように照明部3を点灯させて頚動脈部に陰影をつけることで感知できるようにして撮影を行う。
【0046】
なお、カメラ21,22は、近赤外領域及び赤外領域の感度が高いカメラにより構成することが望ましい。但し、カメラ21,22に、近赤外領域のカットフィルタ(例えばIRカットフィルタ)が付いている場合には、これを取り除いて撮影を行う。また、各カメラ21,22の位置、角度、絞り又はシャッタースピード等が制御部15により制御可能に構成されていてもよい。
【0047】
照明部3は、白色から白熱色の可視光を照射するランプであり、撮影時に被写体である運転者の周囲が暗い場合等に被写体を照明するものである。照明部3は、例えばLED(Light Emitting Diode)等の光源により構成されている。なお、照明部3を構成する光源はこれに例示したものに限定されない。また、照明部3の光源は点光源であってもよく、面光源であってもよい。
【0048】
なお、瞳孔抽出用の赤外光源を別途設けてもよい。また、照明部3として、首や顎を専用に照明する専用照明を別途設けてもよい。このような赤外光源や専用照明を設ける場合には、赤外光源や専用照明は酒気帯び検知システム1の内部に収納可能に構成し、撮影時に自動的にアーム等が伸びて所定の位置に配置される構成とすることができる。また、この赤外光源や専用照明の位置、角度又は照明強度等を制御部15によって制御可能に構成するとよい。
【0049】
また、首や顎を専用に照明する専用照明を設ける場合には、撮影時に被写体の検出部位に照明光を与えて陰影をつけるように構成されていてもよい。カメラ22は、頚部及び顎部を撮影して脈拍を知るためのデータを取得するためのものであるが、このような脈拍(脈動)は、頚動脈付近において最も顕著に皮膚表面付近での動きが現われる。したがって、被写体の顎及び首周辺に照明光を与えて陰影をつけることにより、動画像において首筋の脈をうっている部位の陰影の状態が変化するのを観測することが可能となる。
すなわち、頚動脈付近の皮膚表面の微妙な動きを検出するために、例えば首や顎を照明する専用の照明を、陰影を撮りやすい方向(例えば被写体の正面方向に対して斜め方向等)から被写体に光を照射することができるように配置する。照明光をあてる方向の角度としては、例えば被写体の正面方向から30度程度とすることができる。但し、被写体の体格や照明部3とカメラ22との距離関係により最適な角度は変化するため、照明光をあてる方向の角度は30度に限られるものではない。
【0050】
例えば、被写体の検出部位を右首筋とした場合は、左斜め前方から照明光をあてると陰影の変化の状況を最も好ましい状態で撮影することができる。また、被写体の検出部位を喉仏の脇にある窪みとした場合は、照明部3を画像撮影部2と同じ側に置くと直接光があたって陰影ができないことから、左斜め前方から照明光をあてるか、右斜め後方から照明光をあてると陰影の変化の状況を最も好ましい状態で撮影することができる。すなわち、いずれの方向からでも被写体の正面方向に対して検出部位と逆側(検出部位が被写体中心より右側に位置する場合は左側)の斜め方向から光をあてるとよい。但し、例えば、あまり左側に傾け過ぎると右側全体が完全に陰になってしまうので、被写体の正面に対して少し左側に傾ける程度がよい。なお、照明部3の光源の高さは、喉仏と同程度の高さとすることが望ましい。
【0051】
また、照明部3の光源により格子やパターンの像を形成してこれを被写体の撮影部位(検出部位)に投影してもよい。これにより、撮影画像における格子やパターンの歪みによって脈拍等の生体の動きを検出することが可能となる。
【0052】
また、照明部3は、撮影画像から抽出した被写体の動きベクトルに連動させて光源位置を移動させるように構成してもよい。この際、陰影をつくる検出部位に対して光源の相対的な位置関係を一定に保つようにする。また、照明部3を上述の首や顎を専用に照明する専用照明とする場合は、動きベクトルの保障分だけアームを移動させる。また、照明部3の光源としてのLEDを1次元状又は2次元状に並べた構成とする場合は、発光する光源の位置がその分ずれるように切り替えることで対応することができる。
【0053】
また、被写体に対する通常の照明と、陰影をつけるための照明を交互に照明させてもよい。交互照明(点滅)が人に分からないぐらいの速さ(20cycle/秒程度以上)で照明すると被写体に違和感を与えずに照明を行うことができる。断続的に点滅させながら撮像を行うにはLEDがよいが、同じ目的を達成できるのであれば他の光源でもよい。
【0054】
なお、複数人で同じ酒気帯び検知システム1を使用する場合、ユーザごとに最適な照明角度が異なるので、例えば、ユーザごとの最適な照明角度をパラメータ設定・管理部9において記憶し、ユーザインタフェイス部5における手入力又はユーザを認証する個人認証等を用いて照明部3の光源の位置を切り替えることが望ましい。この場合、ユーザごとの最適な照明角度は、例えば、予めユーザを適切なポジションに置いて、自分の手で最も脈動を感じる部分を押さえてもらい、それを検出すること等により求めることができる。
【0055】
光刺激用照明部4は、瞳孔測定(瞳孔撮影)の際に運転者の眼に対して可視光による光刺激を与えるランプであり、強度や照射時間が安定したフラッシュ光(瞬間光)を照射可能なフラッシュ光源(図示せず)を備えて構成される。
瞳孔の撮影を行う場合には、刺激による瞳孔の応答を観察するために、光刺激用照明部4の光源から光刺激であるフラッシュ光を一定間隔ごとに運転者に照射する。但し、フラッシュ光を用いた瞳孔の撮影は車両の停車中に行うものとする。光刺激用照明部4の光源の発光のタイミングや発光時間は、後述する酒気帯び検知システム1のパラメータ設定・管理部9で設定可能となっていることが好ましい。
【0056】
次に、ユーザインタフェイス部5は、例えば、表示部6と一体として構成されたタッチパネルである。なお、ユーザインタフェイス部5は、各種操作ボタン等、タッチパネル以外の構成とすることも可能である。また、スピーカーやマイク等の音響設備を備えることによりユーザの音声や身振り、ジェスチャ(手話等、高度なコミュニケート手段も含む)によってコミュニケートできる構成とすることが望ましい。
【0057】
本実施形態において、ユーザは、ユーザインタフェイス部5を操作することにより、どの程度の飲酒量、呼気アルコール濃度の場合に酒気帯び状態とし、どの程度までなら酒気帯び状態でないとして許容するか、という酒気帯び状態と判定するか否かの閾値(上限値)の設定を行うことができるようになっている。設定された閾値(上限値)は、例えばパラメータ設定・管理部9に格納される。
【0058】
上限値をどの程度とするかは酒気帯び検知システム1のユーザが任意に決定できるが、例えば呼気1リットル中0.15mg以上に対応する値を上限値として認めない等、ユーザ側が自由に設定できる値の範囲を限定して所定の値以上を上限値として設定できないようにしてもよい。また、運転者と運転者を管理する立場にある管理者や酒気帯び検知システム1のシステム運用者とが異なる場合には、管理者やシステム運用者のみが上限値を設定でき、設定された上限値を運転者が任意に変更することができないようにセキュリティ機能を設けることも可能である。
なお、上限値の一例としては、例えば、道路交通法(2002年6月1日改正版)において酒気帯び運転違反の下限とされている呼気1リットル中0.15mgに対応する値でもよいし、血中アルコール濃度0.05mgに対応する値(ビール大瓶1本程度)でもよい。また、0以外(少しでもアルコールを摂取している場合)には酒気帯びと判断するように上限値を設定してもよい。
【0059】
表示部6は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、プラズマディスプレイ又は投影方式等のディスプレイ等で構成することが可能であり、画像撮影部2により撮影された画像データ、データ処理・解析部8で画像処理中の画像データ又はデータ蓄積部10により保持された画像データ、後述するパラメータ設定・管理部9で管理されているパラメータ、酒気帯び検知システム1及び当該システムを構成する各構成部の動作状況に関する情報、画像処理結果、外部装置16から与えられた情報等を表示するようになっている。
なお、前述のように、表示部6をタッチパネルにより構成して、表示部6とユーザインタフェイス部5とが一体的に兼ねられる構成としてもよい。
【0060】
メモリ部7は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、DIMM(Dual Inline Memory Module)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SDRAM(Synchronous DRAM)等から構成され、撮影した画像データの一時保持や、データ処理・解析部8等において必要なデータをデータ蓄積部10等から転送して一時的に蓄えることにより、酒気帯び検知システム1を高速かつ安定に動作させるようになっている。なお、本実施形態のメモリ部7は、酒気帯び検知システム1における画像処理及び制御をリアルタイムに実行するために必要な程度の容量のメモリ空間を保有していることが必要である。
【0061】
データ処理・解析部(データ処理部)8は、カメラ21による撮影によって取得された運転者の顔部、目等の画像データや、カメラ22による撮影によって取得された運転者の頚部等の画像データ等の処理・解析を行うことにより顔色彩データ、顔温度データ、瞳孔データ、頚脈拍データ等の生体データの抽出・生成を行うとともに、生成された生体データに基づいて運転者の酒気帯び度を検出し、運転者が酒気帯び状態であるか否かの判定を行うものである。
【0062】
まず、データ処理・解析部8により行われる生体データの抽出・生成処理について説明する。
【0063】
データ処理・解析部8は、カメラ21による撮影によって取得された運転者の顔部のカラー画像から、顔内の所定の位置(検出部位)の顔色彩データを抽出・生成する。
具体的には、データ処理・解析部8は以下のような処理を行う。
後述するようにパラメータ設定・管理部9には予め各検出部位のパターン及び位置情報が記憶されている。カメラ21により運転者の顔部のカラー画像が撮影されると、データ処理・解析部8はパラメータ設定・管理部9から各検出部位のパターン及び位置情報を読み出し、カメラ21によって撮影された画像と前記各検出部位のパターン及び位置情報とのマッチングを行う。このようにしてカメラ21によって撮影された画像について検出部位が特定されると、当該検出部位の画像データを解析して顔色彩データを抽出・生成する。
なお、データを抽出する検出部位は複数がよい。また検出部位としては例えば唇や頬、耳、額等、血行の影響が現れやすい部位がよい。本実施形態においては、顔部のうち、唇、頬、耳、額の4箇所を検出部位とし、当該箇所の画像データを解析して顔色彩データを抽出・生成するようになっている。
【0064】
顔色彩データの抽出・生成を行うための画像の解析には、例えば画素値と色彩との関係表を用いて解析する手法、sRGBの規格に基づくRGB−XYZ変換公式を用いて解析する手法等、各種公知の手法を用いることができる。データ処理・解析部8は、最終的にはL*, u*, v*又はL*, a*, b*等、明度とその他の要素(色相、彩度)を分離する色空間座標のデータ形式で顔色彩データを抽出・生成するようになっている。
【0065】
また、データ処理・解析部8は、カメラ21による撮影によって取得された運転者の顔部の熱画像データから顔部のうちデータを抽出する顔内の所定位置(検出部位)の熱画像データを解析して自動的に温度データに変換することにより顔温度データを抽出・生成する。なお、ここにいう顔温度データは顔部表面の温度のデータであり、体温ではない。本実施形態においては、顔色彩データの場合と同様に、顔部のうち、唇、頬、耳、額の4箇所を検出部位とし、当該箇所の画像データを解析して顔温度データを抽出・生成するようになっている。
【0066】
ここで、熱画像の画素値は、例えば8bitなら0〜255の値であり、直接温度を表すものではない。しかし、カメラ21における各パラメータを所定の値に設定すると、熱画像の画素値と温度との関係は一意に決定することができる。そこで、例えば熱画像の画素値と温度とを対応づけたテーブルを予め自動的に作成して後述するパラメータ設定・管理部9に記憶させておき、カメラ21により顔部の熱画像が撮影されると、データ処理・解析部8は、パラメータ設定・管理部9からこのテーブルを読み出して参照することにより顔部の熱画像の画素値を温度に変換することにより顔温度データを抽出・生成するようになっている。なお、顔温度データの抽出・生成手法はここに例示したものに限定されず、各種公知の手法を用いることができる。
【0067】
また、データ処理・解析部8は、カメラ21による撮影によって取得された運転者の目の動画像から瞳孔の直径等の時系列的な変化を解析し、瞳孔の時系列変化についての各種パラメータを抽出・生成する。具体的には、まずデータ処理・解析部8は、カメラ21による撮影によって取得された運転者の目の動画像の各フレームの画像データから瞳孔領域を抽出し、瞳孔のサイズ及び瞳孔中心位置を取得する。
【0068】
ここで目領域画像を抽出する手法及び瞳孔領域の画像を抽出する手法は、例えば目領域や瞳孔領域のパターンや位置情報を後述するパラメータ設定・管理部9に予め記憶させておき、撮影された目の動画像と目領域・瞳孔領域のパターンや位置情報とのテンプレートマッチングを行うことにより、カメラ21による撮影によって取得された運転者の目の動画像の各フレームの画像データから目領域画像、瞳孔領域を抽出する等の手法を用いることができる。なお、カメラ21によって目の動画像のみでなく目を含む顔部の動画像を撮影し、データ処理・解析部8は撮影された顔部の動画像から目領域画像を抽出しさらにその中から瞳孔領域を抽出するようにしてもよい。
【0069】
また、本実施形態においては、例えば白目と黒目の比率等について予めデータを取得してテンプレートが生成され、パラメータ設定・管理部9に記憶されている。そして、瞳孔領域が抽出されると、データ処理・解析部8は抽出された瞳孔領域のデータをパラメータ設定・管理部9に記憶されているテンプレートを用いて解析し、瞳孔のサイズ及び瞳孔中心位置を取得して、当該瞳孔のサイズ及び瞳孔中心位置の時系列変化に基づく各種のパラメータ(生体データ)を抽出する。なお、瞳孔領域を抽出する手法及び瞳孔のサイズ、瞳孔中心位置を取得する手法は、ここに例示したものに限定されず、各種公知の手法を用いることができる。
【0070】
ここで瞳孔の時系列変化は、例えば図3のように現われる。図3(a)は、光刺激を3回与えた場合の瞳孔の直径の時系列変化を示したグラフである。光刺激用照明部4を発光させることにより目に光刺激を与えると、図3(a)に示すように、光刺激を与えたとき(刺激付与時(a)、刺激付与時(b)、刺激付与時(c))には、瞳孔の直径が大きく変化する。図3(b)は、図3(a)に示す刺激付与時(b)における瞳孔の時系列変化をより詳細に示したものである。
【0071】
このような瞳孔の時系列変化からデータ処理・解析部8により抽出・生成されるパラメータとしては、例えば、刺激応答開始径Pa、刺激応答終了径Pb、刺激応答ピーク径Pc、刺激応答開始〜ピーク間時間Ta、刺激応答ピーク〜終了間時間Tb、刺激応答開始〜終了間時間Tc、刺激応答開始〜ピーク間径変化量Sa、刺激応答終了〜ピーク間径変化量Sb、刺激無し時径平均値&分散値(図3(a)の「刺激無し時」参照)、瞳孔中心位置(横方向)分散値(図4の太線グラフ参照)、瞳孔中心位置(縦方向)分散値(図4の細線グラフ参照)等が挙げられる。なお、瞳孔の時系列変化から抽出・生成されるパラメータはここに例示したものに限定されない。また、データ処理・解析部8はこれら全てを抽出・生成してもよいし、このうちの一部のみを抽出・生成してもよい。
【0072】
また、データ処理・解析部8は、カメラ22による撮影によって取得された運転者の頚部及び顎周辺(検出部位)の動画像における陰影の状態の変化を解析することにより、頚動脈部の頚脈拍データを抽出・生成するようになっている。
【0073】
すなわち、本実施形態のデータ処理・解析部8は、動画像の各フレームごとに検出部位における陰影部分の平均画素値を算出し、撮影時刻(経過)ごとの平均画素値を蓄積する。そして、例えばこの平均画素値の時系列的な変化をグラフに表した場合の1分間におけるグラフの山(又は谷)の個数を数えることにより、被写体である運転者の頚動脈部の頚脈拍データ(脈拍数)を検出するようになっている。
なお、頚脈拍データを取得する手法は、ここに例示したものに限定されず、各種公知の手法を用いることができる。
【0074】
次に、図5を参照しつつ、データ処理・解析部8により行われる運転者の酒気帯び度の検出・判定処理について説明する。
【0075】
本実施形態において、後述するようにデータ蓄積部10には、運転者が酒気帯び状態でないときに撮影された平常時画像やこの平常時画像を解析することにより得られた顔色彩データ、顔温度データ、瞳孔データ、頚脈拍データ等の平常時の生体データが、平常時データとして格納されている。
【0076】
図5に示すように、データ処理・解析部8は、新たに運転者の各検出部位の撮影が行われ、撮影された画像から各種生体データが取得されると、これを解析対象データとし、当該解析対象データと上記平常時データとの違いを検出して、違いデータを生成する。
【0077】
違いを検出する手法としては、両者の差分(絶対値含む)を計算((解析対象データ)−(平常時データ))したり、両者の比を計算((解析対象データ)/(平常時データ))する手法等が用いられる。両者の違いにおいて、正負が意味を持つ場合は正負を含めた値で違いデータを生成する。例えば、顔色彩データの違いでは、L*, a*, b*の差の正負は、色等の違いの方向を意味しているため、正負を含めた値で違いデータを生成する。
なお、以下本実施形態においては、解析対象データと平常時データとの差分を計算して違いデータを生成する場合について説明する。
【0078】
また、後述するようにパラメータ設定・管理部9には、予め作成された酒気帯び度を評価する評価関数又は評価テーブルが格納されている。データ処理・解析部8は、解析対象データと平常時データとの違いデータを生成すると、パラメータ設定・管理部9から評価関数又は評価テーブルを読み出して、評価関数又は評価テーブルを用いて前記違いデータの評価を行い、運転者の酒気帯び度を検出する。さらに、パラメータ設定・管理部9には、前述のようにユーザインタフェイス部5を操作することによりユーザが設定した酒気帯び状態と判断される閾値(上限値)が格納されており、データ処理・解析部8は、検出された酒気帯び度がこの閾値を超えているか否かを判断し、運転者が酒気帯び状態であるか否かの判定を行う。そして、データ処理・解析部8は、酒気帯び状態であるか否かの判定結果を制御部15に出力するようになっている。
【0079】
パラメータ設定・管理部9は、画像撮影部2における撮影やデータ処理・解析部8における各種データの抽出、解析等の処理等、酒気帯び検知システム1の各構成部の制御に関するパラメータの設定や、設定されたパラメータの管理を行うようになっている。
【0080】
また、本実施形態においては、前述のように、各種生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付け酒気帯び度を評価する評価関数又は評価テーブルが予め作成されてパラメータ設定・管理部9に格納されており、パラメータ設定・管理部9は関連付けデータ保持手段として機能する。
【0081】
評価関数の作成は、例えば、以下のようにして行われる。
すなわち、本実施形態における酒気帯び検知システム1では、前述した解析対象データを取得する際と同様の手法により、予め運転者が酒気帯び状態でないとき(平常時)の画像を撮影して得られた平常時画像を解析することによって、顔色彩データ、顔温度データ、瞳孔データ、頚脈拍データ(平常時の生体データ)を取得する。また、同様に予め運転者の飲酒時の画像を撮影して得られた飲酒時画像を解析することによって、前記各生体データ(飲酒時の生体データ)を取得する。
なお、飲酒時の生体データは、飲酒量又は呼気中のアルコール濃度を測定し、飲酒量の少ない状態又は呼気中のアルコール濃度の低い状態から飲酒量の多い状態又は呼気中のアルコール濃度の高い状態までの複数のデータを測定時の飲酒量又は呼気中のアルコール濃度と対応付けて取得しておく。そして、例えば、前記データ処理・解析部8においてそれぞれのデータを解析し、平常時のデータと飲酒時のデータとの差分を計算する等により各生体データの平常時と飲酒時との違いを検出し、この違いと飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係を統計的に解析する。
酒気帯び度と飲酒量又は呼気中のアルコール濃度とは相関性をもつことから、各データの平常時と飲酒時との違いと飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係とを解析することによって、顔色彩データ、顔温度データ、瞳孔データ、頚脈拍データといった各生体データと酒気帯び度との評価関数を取得することができる。なお、この評価関数から、必要に応じて評価テーブルを作成し、パラメータ設定・管理部9に格納してもよい。
【0082】
ここで、一般的に飲酒と各種生体データとは、例えば以下のような関係があるといわれている。
血行→よくなる。
皮膚表面温度→上昇する
肌色→赤くなる。
脈拍数→増加する
呼吸→早くなる
瞳孔動き→少なくなる、視野が狭くなる、反応が遅くなる
【0083】
このような生体データのうち、顔の表面温度(顔温度データ)の平常時と飲酒時との差(以下「表面温度差」と称する。)と飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係の例を図6(a)に示す。図6(a)では、飲酒量が多くなる又は呼気中のアルコール濃度が高くなるほど表面温度差が大きくなる。
また、頚部の脈拍数(頚脈拍データ)の平常時と飲酒時との差(以下「脈拍差」と称する。)と飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係の例を図6(b)に示す。図6(b)では、飲酒量が多くなる又は呼気中のアルコール濃度が高くなるほど脈拍差が大きくなる。
また、図6(c)に酒気帯び度を評価する評価関数の例を示す。上記表面温度差と飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係及び脈拍差と飲酒量又は呼気中のアルコール濃度との関係を解析することにより図6(c)に示すような評価関数を取得する。この評価関数を用いることにより、表面温度差、脈拍差等の生体データの平常時と飲酒時との違いを解析すれば、各解析結果に対応する飲酒量又は呼気中のアルコール濃度を判断でき、さらに、飲酒量又は呼気中のアルコール濃度と相関関係にある酒気帯び度を検出することができる。
【0084】
データ蓄積部10は、外部から入力された画像データ、過去に撮影された画像データ、酒気帯び検知システム1によってすでに画像処理、解析等が行われたデータ、又は画像処理、解析途中のテンポラリデータ等を管理して保持するようになっている。また、本実施形態において、データ蓄積部10は、酒気帯び検知システム1による解析の結果運転者が酒気帯び状態でないと判断されたときに撮影された平常時画像及びこの平常時画像を解析することにより得られた顔色彩データ、顔温度データ、瞳孔データ、頚脈拍データ等、平常時の生体データ(以後「平常時データ」と称する。)を管理・保持する平常時データ保持手段として機能する。平常時データは、運転者の普段(正常時)の体調に関するデータとみなすことができるものである。
なお、前述のように、データ処理・解析部8によって生体データ(解析対象データ)を平常時データと比較対照することにより解析した結果、運転者が酒気帯び状態でないと判断されると、当該解析対象データも含めて運転者が酒気帯び状態でないと判断されたときのデータが全て平均化され、統計的に解析されて平常時データとなる。すなわち、解析対象データが酒気帯び状態でないと判断されると、平常時データは当該解析対象データを含めたものに更新され、データ蓄積部10は、当該更新された平常時データを保持する。
【0085】
I/O部11は、生体データ取得手段としてのバイタルセンサー(体温計、体重計、体脂肪率計、血圧計、心電計、肌年齢計測計、骨密度計、肺活量計等)や、CFカード、SDカード、USBメモリカード等の可搬型デバイスを扱う機器を接続できるように構成されており、これらの機器から酒気帯び検知システム1の動作設定に必要な各種データを入力又は出力してもよい。なお、I/O部11は酒気帯び検知システム1の必須の構成要素ではなく、I/O部11を備えない構成としてもよい。
【0086】
外部通信部12は、有線又は無線の通信手段により外部装置16と情報通信ができるように構成されている。なお、本実施形態の酒気帯び検知システム1は画像データを扱うことも考えられるため、できる限り高速伝送できる通信形態であることが望ましい。
【0087】
外部通信部12は、ネットワークを介して互いに通信可能に外部装置16と接続されている。酒気帯び検知システム1において車両の運転者が酒気帯び状態にあると判定されると、その旨が制御部15に送られ、制御部15は外部通信部12を介して、運転者が酒気帯び状態であることを報知する信号やメッセージを外部装置16に送信するようになっている。
【0088】
なお、本実施形態におけるネットワークはデータ通信可能である通信網を意味するものであれば特に限定されず、例えばインターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、電話回線網、ISDN(Integrated Services Digital Network)回線網、CATV(Cable Television)回線、光通信回線等を含めることができる。また、有線のみならず無線によって通信可能な構成としてもよい。
【0089】
外部装置16は、例えばパーソナルコンピュータ等によって構成されており、例えば酒気帯び検知システム1がタクシーの車両内に設置される場合であれば、当該タクシーの所属するタクシー会社に設置されているコンピュータ等である。また、外部装置16を車両の運転者の家族の携帯電話等、予め登録してある携帯端末によって構成してもよい。また、外部装置16に代わり又は外部装置16に加えて、酒気帯び検知システム1で得られた画像データ等のデータの解析を行うほか、これらのデータのデータベースとしての機能を果たす図示しないデータ処理装置が、外部通信部12を介して酒気帯び検知システム1に接続されている構成としてもよい。
【0090】
車両制御接続インタフェイス部13は、本実施形態において酒気帯び検知システム1の判定結果に応じて、車両の機能・動作を制御する車両動作制御部17に対して車両の動作制御に関する指示信号を伝達する伝達部として機能するものである。
【0091】
運転者が酒気帯び状態であるとの判定が制御部15に送られると、制御部15は車両制御接続インタフェイス部13を介して、酒気帯び状態であるとの判定がされた際の車両の状況に応じた指示信号を車両動作制御部17に伝達する。例えば、酒気帯び状態であるとの判定がされた場合に、現状の車両状況がエンジンを切って停車中である場合には、「エンジンをONできないようにする」旨の指示信号が車両制御接続インタフェイス部13から車両動作制御部17に伝達される。また、現状の車両状況がエンジンがかかった状態での停車中である場合には、「エンジンを止める」旨の指示信号が車両制御接続インタフェイス部13から車両動作制御部17に伝達される。また、例えば運行中であれば、「自動操縦に切り替え、安全なところに退避してエンジンを止める」等の指示信号が車両制御接続インタフェイス部13から車両動作制御部17に伝達される。
なお、制御部15から車両制御接続インタフェイス部13を介して伝達される信号は、運転者が酒気帯び状態であるとの判定結果のみとし、車両動作制御部17が、当該判定結果を受けてどのような制御を行うかを決定し、これに応じた指示を車両各部に送るようにしてもよい。
【0092】
制御部15は、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、システムプログラム等、各種の制御プログラム等を格納するROM(Read Only Memory)、各種データ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)(いずれも図示せず)等を備えて構成されており、制御部15は、ROM等に記憶されている各種プログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムに従って各種処理を実行し、後述する酒気帯び検知システム1の各構成部を駆動制御するようになっている。
特に本実施形態において制御部15のROMには、システムプログラムの他に、後述する撮影キャリブレーションを行うための撮影キャリブレーション制御プログラム、解析キャリブレーションを行うための解析キャリブレーション制御プログラム等が格納されており、制御部15は、撮影キャリブレーション制御プログラム、解析キャリブレーション制御プログラムとの協働により、撮影キャリブレーション及び解析キャリブレーションを行う撮影キャリブレーション手段及び解析キャリブレーション手段として機能するようになっている。
なお、本実施形態の酒気帯び検知システム1は動画像も扱うため、制御部15はできる限り高速動作・制御が可能なチップにより構成することが望ましい。
【0093】
ここで、本実施形態において制御部15により行われる撮影キャリブレーション及び解析キャリブレーションについて説明する。
【0094】
例えば周辺環境の変化が大きい使用環境の下では、長時間の時間経過により画像撮影部2の撮影特性の変化が生じ得る。撮影キャリブレーションは、この画像撮影部2の撮影特性の変化を日常的に取得し、この特性に応じて画像を補正して、安定した画像取得を行うためのものである。
【0095】
図7に示すように、本実施形態において、例えば車両の天井部105には、撮影キャリブレーション用のカラーチャート104が設けられている。カラーチャート104は、一端が車両の天井部105に固定され、この固定位置を軸として天井部105とほぼ平行な位置から天井部105とほぼ垂直となる位置まで回動自在となっており、非撮影キャリブレーション時には天井部105とほぼ平行な位置に配置され、撮影キャリブレーション時には天井部105とほぼ垂直となる位置まで自動的に回動するようになっている。また、カラーチャート104は、天井部105とほぼ垂直となったときに運転席101のシート106の前方であって、運転者がシート106に座ったときに運転者の顔が位置する位置近傍に配置されるように構成されている。
【0096】
カラーチャート106は、反射タイプ又は自己発光タイプのいずれでも適用することができる。反射タイプの場合は照明ランプを設けて照明を行う。なお、別途照明ランプを設けずに、照明部3によってカラーチャート106を照明するようにしてもよい。カラーチャート106を形成する材料としては、紙等の熱による劣化が激しい材料は不適であり、例えばタイル等の熱に強い材料を使用する。自己発光タイプの場合は、撮影キャリブレーションに使用する色のLEDを2次元状に並べて配置する。カラーチャート106は、照明光が必要ないこと、発光パターンによってチャートの内容を変えられること等の観点から、自己発光タイプのものが好ましい。なお、自己発光タイプのカラーチャート106を用いる場合には各LEDの照明光の特性をデータ蓄積部10に保管しておく。
【0097】
撮影キャリブレーションを行う場合には、例えば画像撮影部2のカメラ21によりカラーチャート104の画像を撮影する。制御部15は、撮影によって得られた画像から、階調特性、色測定用パラメータを取得し、パラメータ設定・管理部9に保存する。そして、制御部15は、取得した階調特性、色測定用パラメータに基づいて、適宜画像撮影部2の特性変化に応じた画像の補正を行う。
【0098】
また、酒気帯び検知システム1は、図8(a)に示すように、ディストーション補正用のチャート107を備えてもよい。個人認証や瞳孔等の画像解析値の精度を上げるには、テンプレートと撮影画像とを一致させるために撮影画像から正面視画像を得る必要がある。ディストーション補正は、撮影された画像が正面視画像でない場合に、撮影画像を正面視に近い画像に補正するものである。
この場合には、図8(b)に示すように、チャート107のパターンを格子状のディストーション補正用パターンに変更し、例えば画像撮影部2のカメラ21によりチャート107の画像を撮影する。制御部15は、撮影によって得られたパターンから、ディストーション補正の補正パラメータを算出し、パラメータ設定・管理部9に保存する。そして、制御部15は、撮影された画像が正面視画像でない場合には、この補正パラメータを用いて、撮影画像を正面視に近い画像に修正する補正を行う。
なお、ディストーション補正用のチャート107は図8(a)に示すようなモノクロのチャート107でもよい。また、例えば、前記画像撮影部2の特性変化に応じた補正を行うためのパラメータを得るために用いられるカラーチャート104(図7参照)として、自己発光タイプのものを備えている場合には、ディストーション補正用のチャート107を別途備えずに、カラーチャート104(図7参照)のパターンを格子状のディストーション補正用パターンに変更し、ディストーション補正用の補正パラメータを算出してもよい。
【0099】
なお、撮影キャリブレーション時と酒気帯び度判定時では車両内の温度が異なり、それによって画像撮影部2の撮影特性が変化する可能性がある。そこで、予め複数の温度下における画像撮影部2の撮影特性の変化を取得しておき、車両内の温度の違いによる画像撮影部2の撮影特性の違いを補正することが好ましい。同じ温度のデータがなければ、その温度に近い周辺のデータを用いて補正を行うようにする。
【0100】
なお、撮影キャリブレーションは、車両内に人がいない夜に行うことが好ましい。また、車両が駐車場等の暗い場所に置かれているときに行うことが好ましい。撮影キャリブレーションのための画像撮影を行ったときは、当該画像撮影時の車両内の温度を計測し、そのデータをデータ蓄積部10等に保持しておく。
【0101】
次に、解析キャリブレーションについて説明する。
酒気帯び度は予め作成された評価関数(又はこれに基づく評価テーブル)に基づき決定されるため、酒気帯び判定時の年齢、体重等の条件と、評価関数作成時の条件とが異なると、それによって両者の関係が変わってくる。解析キャリブレーションは、このような年齢や体重の影響を補正して、酒気帯び判定時における運転者の実状に近い評価関数(又はこれに基づく評価テーブル)を作成するものである。
【0102】
例えば、年齢については、運転者の年齢の一定間隔ごとに様々なレベルの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する運転者の生体データを実験的に調査し評価関数を更新する仕組みを設ける。
具体的は、例えば、図9(a)及び図9(b)に示すように、運転者の年齢が一定に達するごと(例えば、30歳、35歳、40歳・・・の5年ごと)に様々なレベルの飲酒量又は呼気アルコール濃度となるアルコールを運転者に飲ませたり、又は所定の飲酒量又は呼気アルコール濃度に相当するように皮膚にアルコールパッチを貼り変化をみる等により、各飲酒量又は呼気アルコール濃度の場合における運転者の顔部、目、頚部等の画像を撮影し、この画像に基づいて顔の色彩、顔の温度、頚脈拍等の生体データを抽出・生成する。そして、生成された生体データに基づいて、各年齢ごとの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する評価関数を取得する。
各年齢ごとの評価関数は、作成時の個人データと実験データとともにデータ蓄積部10に保持しておき、酒気帯び度の検出を行う際には、データ蓄積部10に保持されている各年齢ごとの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する評価関数を参照することにより、当該酒気帯び度の検出・判定を行う時点での運転者の年齢(例えば図9において44歳)に応じて評価関数を補正する。具体的には、各年齢ごとの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する評価関数から重み係数を導き、この重み係数を評価関数に掛け合わせることにより、図9(c)に示すような酒気帯び度の検出・判定時の年齢に対する評価関数を作成する。
【0103】
また、体重は、例えば運転席のシートに体重センサ、加圧センサ等を設けて計測する。
体重についても年齢と同様に、評価関数更新時の体重を計測して個人データに含めてデータ蓄積部10に保持しておく。酒気帯び度の検出を行う際には、データ蓄積部10に保持されている各体重ごとの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する評価関数を参照することにより、当該酒気帯び度の検出を行う時点での運転者の体重に応じて評価関数を補正する。具体的には、各体重ごとの飲酒量又は呼気アルコール濃度に対する評価関数から重み係数を導き、この重み係数を評価関数に掛け合わせることにより、酒気帯び度の検出時の体重に対する評価関数を作成する。
【0104】
その他、図示はしないが、酒気帯び検知システム1が設置される車両の運転席101のシート106のシート部分又は背もたれ部分には圧力センサ(体重センサ、加圧センサ等)が設けられており、圧力センサは検知結果を制御部15に出力するようになっている。これにより、制御部15は運転席に人が座ったこと(乗車したこと)を検知可能となっている。
【0105】
次に、図10を参照しつつ、本実施形態における酒気帯び検知方法について説明する。
【0106】
まず、酒気帯び検知システム1においては、制御部15は圧力センサからの検知結果から車両の運転席に運転者が乗車したか否かを常に判断する(ステップS1)。運転者が乗車していないと判断する場合(ステップS1;NO)には、ステップS1の判断を繰り返す。
運転者が乗車したと判断する場合(ステップS1;YES)には、制御部15は、カメラ21,22を動作させて、顔部のカラー画像撮影、顔部の熱画像撮影、目部の動画像撮影、頚部及び顎部の動画像撮影を行い、各画像を取得する(ステップS2)。画像が取得されると、データ処理・解析部8において各画像について解析を行い、生体データ(解析対象データ)を抽出・生成する(ステップS3)。
【0107】
生体データ(解析対象データ)が生成されると、データ処理・解析部8は、この解析対象データと平常時データとの違いを検出し違いデータを生成する(ステップS4)。そして、データ処理・解析部8は、評価関数又は評価テーブルを参照しつつ、違いデータを解析して酒気帯び度を検出する(ステップS5)。さらに、データ処理・解析部8は、パラメータ設定・管理部9に保持されている酒気帯び状態か否かを判断する閾値(上限値)を参照して運転者が酒気帯び状態か否かを判定する(ステップS6)。
【0108】
データ処理・解析部8による判定結果は制御部15に送られ、酒気帯び状態と判定された場合には(ステップS6;YES)、制御部15は、車両制御インタフェイス部13を介して車両動作制御部17に対し、車両制御についての指示信号を出力する(ステップS7)。これに対して、酒気帯び状態と判定されなかった場合には(ステップS6;NO)、データ処理・解析部8は、取得された今回取得された解析対象データを平常時データとして、既に保存されている平常時データと平均化して新たな平常時データを生成し、この生成された平常時データをデータ蓄積部10に保存する(ステップS8)。これにより、データ蓄積部10に保存されていた平常時データは今回取得された解析対象データを含むデータに更新される。
【0109】
本実施形態において、酒気帯び検知システム1によって上記酒気帯び度検出処理を行うタイミングは、運転者が車両に乗車したときとしてもよいし、乗車後一定期間経過後としてもよい。また、運転者が車両に乗車している間は、一定期間経過ごとに繰返し酒気帯び度検出処理を行うようにしてもよい。酒気帯び度検出処理を行うタイミング及びその回数等は、予め設定されていてもよいし、ユーザが任意に設定してもよい。
【0110】
なお、制御部15は、一定期間ごと又は毎回の酒気帯び度検出の度に、画像撮影部2の撮影特性についての撮影キャリブレーション及び評価関数(又は評価テーブル)についての解析キャリブレーションを行う。各キャリブレーションを行うタイミングは予め設定されていてもよいし、ユーザが任意に設定してもよい。
【0111】
このように、本実施形態によれば、車両運転者の画像を撮影し、この画像を解析して得られる生体データと平常時の生体データとを比較対照し、さらに生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付ける評価関数を参照することによって、非接触的に、車両乗車時の車両運転者の酒気帯び度を検出することができる。このため、運転者本人を煩わせることなく、酒気帯び度の検出を行うことができる。
【0112】
また、制御部15により、画像撮影部の撮影特性についての撮影キャリブレーションを行うので、画像撮影部の撮影特性が経時的に変化する場合でも、画像撮影部の撮影特性に応じて画像を補正して、酒気帯び度の検出を行うのに適した画像を安定して取得することができる。
【0113】
また、制御部15により、評価関数又は評価テーブルについて補正する解析キャリブレーションを行うので、評価関数又は評価テーブルを作成した時点から運転者の年齢や体重等が変化した場合でも、適切に酒気帯び度の検出を行うことができる。
【0114】
さらに、車両運転者が酒気帯び状態にあると判定された場合には、車両制御インタフェイス部13を介して、車両の機能・動作を制御する車両動作制御部17にその旨を伝え、状況に応じた対処を行うよう指示する指示信号を出力するので、酒気帯び状態での運転に起因する事故を未然に防止することができる。
【0115】
なお、本実施形態においては、運転席101のシート106に設けられた圧力センサによって運転席に運転者が乗車したか否かの乗車検知を行うものとしたが、乗車検知の手法はこれに限定されない。例えば、画像撮影部2のカメラ21により常に又は一定時間おきに運転席を撮影し、撮影画像を解析することにより運転席に運転者が乗車しているか否かを判断するようにしてもよい。
このように、画像撮影部2のカメラ21によって乗車検知を行う場合には、検知の後に頭部のデータを用いて、乗車した運転者の個人認証を行ってもよい。個人認証の手法としては、顔認証、虹彩認証、声紋認証等があるが、いずれの手法でも適用可能である。個人認証の結果、運転者を特定したときは、撮影した画像や当該画像を解析して得られた生体データ等に運転者情報(例えば、氏名、年齢、社員番号等)を付帯させ、データベース等で管理するようにしてもよい。また、外部装置に運転者の酒気帯び度を報告する際に、運転者情報を付帯してもよい。
【0116】
また、本実施形態においては、顔部・目部・頚部を同時に全て撮影したが、顔部・目部・頚部をそれぞれ別々に又は2箇所以上を同時に撮影してもよい。
また、画像撮影を行ってから解析を行う順序も、本実施形態においては、全検出部位の画像を先に撮影してから各検出部位画像の画像解析を行う例について説明したが、撮影及び解析の順序はこれに限定されず、顔部・目部・頚部をそれぞれ別々に撮影し、撮影した順に順次画像解析を行うようにしてもよい。
【0117】
また、本実施形態においては、顔部・目部・頚部を撮影して得られる画像及び当該画像を解析して得られる生体データに基づいて酒気帯び度の検出・判定を行うものとしたが、酒気帯び度の検出・判定を行うための生体データはここに例示したものに限定されない。例えば、ハンドルやシート、フットペダル等、車両運転者の生体と接触するところに生体データ計測用のセンサを埋め込み、これらのセンサによって生体データを取得してもよい。具体的には、例えば、ハンドルに温度センサや脈拍センサ、酸素飽和度センサを設けることが考えられる。また、シートベルトやシートに血圧センサ等を設けてもよい。
【0118】
また、本実施形態においては、運転者のデータを実験的に取得することにより評価関数又は評価テーブルを作成するものとしたが、評価関数又は評価テーブルを作成するためのデータは運転者のデータに限定されない。例えば、複数の一般成人を対象とした実験結果を使用して評価関数(又はこれに基づく評価テーブル)を作成してもよい。このように一般成人を対象とした実験結果を使用して評価関数を作成した場合には、運転者にアルコールを規定量飲ませ、呼気中のアルコール濃度を計測し、その値に基づいて運転者本人用に評価関数又は評価テーブルのキャリブレーションを行う。
【0119】
また、本実施形態においては、画像から抽出する生体データとして、生体の顔部の肌色(顔色彩データ)、顔部の肌表面温度(顔温度データ)、瞳孔の大きさや中心位置の時系列変化のデータ、頚脈拍データを用いたが、他の生体データを画像から抽出してもよい。
【0120】
例えば、顔部の画像解析において、熱画像データを動画像的に取得して、運転者の呼吸数を抽出し、これを酒気帯び度の検出・判定を行うための生体データとしてもよい。
【0121】
また、本実施形態におけるシステムは、酒気帯び状態での運転か否かを判定するものとしたが、運転者の画像を撮影して当該撮影画像を解析することにより生体データを取得し、これに基づいて運転者が平常状態か否かを判定する手法は、例えば、麻薬等を使用しての運転、薬飲み後の運転、過労状態での運転、居眠り運転、風邪や発熱等の病気中の運転等の場合についても、同様に適用することができる。
【0122】
また、本実施形態においては、普通自動車に酒気帯び検知システム1を適用する場合について説明したが、酒気帯び検知システム1を適用可能な車両はこれに限定されず、例えば、列車、電車、自転車等、各種車両にも応用して適用することができる。
【0123】
その他、本発明が上記実施の形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明に係る酒気帯び検知システムの一実施形態の概略構成を示した要部ブロック図である。
【図2】図1に示した酒気帯び検知システムの車両への搭載例を示した図である。
【図3】図3(a)は、生体データとしての瞳孔の大きさの時系列変化を示したグラフである。図3(b)は、図3(a)の刺激付加時(b)における瞳孔の時系列変化をより詳細に示した図である。
【図4】生体データとしての瞳孔の中心位置の時系列変化を示したグラフである。
【図5】解析対象データと平常時データとを用いて酒気帯び度を検出する処理を説明する概念図である。
【図6】図6(a)は、表面温度差と飲酒量/呼気アルコール濃度との相関関係を示すグラフである。図6(b)は、脈拍差と飲酒量/呼気アルコール濃度との相関関係を示すグラフである。図6(c)は、酒気帯び度の評価関数を示すグラフである。
【図7】撮影キャリブレーションに用いられるカラーチャートの設置位置を模式的に示した図である。
【図8】図8(a)は、撮影キャリブレーションに用いられるチャートの設置位置を模式的に示した図である。図8(b)は、ディストーション補正用パターン及びディストーション補正のパラメータの一例を示した図である。
【図9】図9(a)は、表面温度差と飲酒量/呼気アルコール濃度との相関関係を示すグラフである。図9(b)は、脈拍差と飲酒量/呼気アルコール濃度との相関関係を示すグラフである。図9(c)は、酒気帯び度の評価関数を示すグラフである。
【図10】酒気帯び検知システムにおける酒気帯び度の検出・判定処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0125】
1 酒気帯び検知システム
2 画像撮影部
3 照明部
4 光刺激用照明部
5 ユーザインタフェイス部
6 表示部
7 メモリ部
8 データ処理・解析部
9 パラメータ設定・管理部
10 データ蓄積部
11 I/O部
12 外部通信部
13車両制御インタフェイス部
15 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両運転者の画像を撮影する画像撮影部と、
酒気帯び状態でない平常時における車両運転者の平常時画像又は平常時の生体データを保持する平常時データ保持手段と、
前記画像撮影部により撮影された画像及び当該画像を解析することにより得られる生体データと前記平常時データ保持手段に保持されている前記平常時画像又は前記平常時の生体データとを比較対照することにより車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理部と、
を備えることを特徴とする酒気帯び検知システム。
【請求項2】
前記画像撮影部は、車両運転者の頭部及び頚部の画像を撮影するものであることを特徴とする請求項1に記載の酒気帯び検知システム。
【請求項3】
前記生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付ける評価関数又は評価テーブルを保持する関係付けデータ保持手段を備え、
前記データ処理部は、前記関係付けデータ保持手段に保持されている前記評価関数又は前記評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酒気帯び検知システム。
【請求項4】
車両運転者の酒気帯び度に基づいて、車両の動作制御に関する指示信号を出力する伝達部を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システム。
【請求項5】
前記画像撮影部の撮影特性についてキャリブレーションを行う撮影キャリブレーション手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システム。
【請求項6】
前記評価関数又は前記評価テーブルについてキャリブレーションを行う解析キャリブレーション手段を備えていることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の酒気帯び検知システム。
【請求項7】
車両運転者の画像を撮影する画像撮影工程と、
撮影された画像及び当該画像を解析することにより得られる生体データと酒気帯び状態でない平常時における車両運転者の平常時画像又は平常時の生体データとを比較対照することにより車両運転者の酒気帯び度を検出するデータ処理工程と、
を備えることを特徴とする酒気帯び検知方法。
【請求項8】
前記画像撮影工程は、車両運転者の頭部及び頚部の画像を撮影することを特徴とする請求項7に記載の酒気帯び検知方法。
【請求項9】
前記データ処理工程は、前記生体データと車両運転者の酒気帯び度とを関係付ける評価関数又は評価テーブルを参照しつつ車両運転者の酒気帯び度を検出することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の酒気帯び検知方法。
【請求項10】
車両運転者の酒気帯び度に基づいて、車両の動作制御に関する指示信号を出力する伝達工程を備えていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法。
【請求項11】
画像撮影における撮影特性についてキャリブレーションを行う撮影キャリブレーション工程を備えていることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法。
【請求項12】
前記評価関数又は前記評価テーブルについてキャリブレーションを行う解析キャリブレーション工程を備えていることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の酒気帯び検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−295946(P2007−295946A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123767(P2006−123767)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】