説明

酸化膜形成方法

【課題】膜中欠損を生じさせることなくGe基板の表面にGe酸化膜を形成する。
【解決手段】Ge基板2の表面にGe酸化膜を形成するプロセスシステム1の酸化炉13において、1000Pa以下の圧力及び300℃以下の基板温度のもとでGe基板2にオゾン供給装置11からオゾンガスを供して当該基板の表面にGe酸化膜を形成する。室温よりも低温の基板温度のもとで前記基板に前記オゾンガスを供給してGe基板2上にオゾン分子層を形成させる。次いで、前記オゾンガスの供給を遮断させた後、Ge基板2を室温まで加熱することにより前記オゾン分子層によって当該基板の表面を酸化させてGe酸化膜を形成させる。Ge基板2が室温まで達した後に前記加熱を遮断して当該基板の温度を室温よりも低温に降下させるとよい。Ge基板2を加熱するための加熱源として赤外光光源を用いるとよい。前記オゾンガスはオゾン濃度が100%であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子基板の酸化膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
Ge基板を構成するGe中の電子移動度、正孔移動度はいずれもSiよりも高く、特にGeの正孔移動度は現在研究されている半導体材料の中で最も高い。また、Geを酸化することで得られるGeO2とGeとの界面はSiを酸化して得られるSiO2とSiとの界面よりも優れた特性を有していることが明らかになっている。このような理由からGeO2をゲート酸化膜に用いたGe−MOSが従来のSi−MOSに代わる高正孔移動度半導体素子として注目されている(非特許文献1)。
【0003】
Ge単結晶はSi単結晶よりも融点がはるかに低いことから必然的にGe−MOS作製のプロセスよりも低温となる。Si−MOSで最も高いプロセス温度を要するゲート酸化膜作製温度はSi−MOSでは1000〜1100℃であったが、Ge−MOSでは上限550℃程度となる。また、Geは金属材料と界面を形成すると、Ge表面のフェルミ準位が金属材料の仕事関数のほとんど影響を受けないが、Geと金属との間に薄い絶縁膜を挿入することでデピニングされることを利用したメタルソースドレイン・トランジスタが提唱されている(非特許文献2)。
【0004】
図9はメタルソースドレイン・トランジスタの構成を示した概略構成図である。このトランジスタはGe基板21上へ試料全面に薄いGeOx絶縁膜22を形成し、この絶縁膜22上にソース金属電極23及びドレイン金属電極26を形成し、さらにこの電極26を被覆したゲート絶縁膜24にゲート電極25を形成したものである。このトランジスタの特徴は局所的なドープ処理が不必要なことである。移動度を決めるのに重要な役割を果たす絶縁膜22の膜厚は2nm以下である。ゆえに、高品質な絶縁膜22の作製技術が求められている。
【0005】
一方、オゾンガスの高濃度化技術が近年著しい進歩を遂げたことにより、高濃度オゾンガスを用いた半導体素子の作製プロセスが徐々に浸透してきている。オゾンは酸素に比べて強い酸化力を有するので、酸素ガスを用いるプロセス温度を低温にできることが期待される。また、オゾン濃度を高めることでオゾンを効果的に利用できることも期待できる。最近では、ほぼ100%のオゾンガスを供給できる技術が確立した。100℃近い濃度のオゾンガスを半導体素子の作製プロセスに用いた成果として、例えばSi熱酸化では酸素を用いると1000℃以上要したプロセス温度が400℃まで低減することができたことが報告されている(特許文献1)。このように高濃度オゾンプロセス技術をGe−MOS作製技術に導入することで、低温で効果的な作製プロセスが実現することが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高木信一、“IEDM続報,半導体製造,GeチャネルMOS FET,キャリヤ移動度向上策が続々と”、[online]、2007年12月14日、日経BP社、Tech-on、[2009年11月24日検索]、インターネット〈http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071214/144282/〉
【非特許文献2】Tomonori Nishimura, Koji Kita and Akira Toriumi、“A Significant Shift of Schottky Barrier Heights at Strongly Pinned Metal/Germanium Interface by Inserting an Ultra-Thin Insulating Film”、Appl. Phys. Express 1、2008、051406
【非特許文献3】Choong Hyun Lee, Toshiyuki Tabata, Tomonori Nishimura, Kosuke Nagashio, Koji Kita and Akira Toriumi、“Ge/GeO2 Interface Control with High-Pressure Oxidation for Improving Electrical Characteristics”、Appl. Phys. Express 2、2009、071404
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−209108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GeO2とGeの界面はとりわけ良い界面特性を有することから、GeO2はGeデバイスのゲート酸化膜として有用であると期待される。しかしながら、Geの酸化条件によりGeO2の膜質が大きく変化することが知られており、GeO2の作製技術の確立はGe−MOSデバイスの実用に向けた技術課題の一つとなっている(非特許文献3)。ここでGe単結晶の融点はSi単結晶に比べて低いことから、Ge−MOS作製プロセス温度はSiの場合よりも低くなければならない。一方、GeO2内の酸素欠損欠陥はGeO2の膜特性を劣化させる。具体的にはGeは400℃以上の酸化プロセス中にGeO2内の酸素欠陥部分からGeO粒子が生成され、気相に飛散する。Ge飛散はさらに膜中の欠陥生成を誘発することから、Geの酸化プロセス温度は400℃よりも低温にすることが望まれる。以上のことから酸素欠陥の少ないGeO2膜の作製には低温酸化が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、前記課題を解決するための本発明に係る酸化膜形成方法は、Ge基板の表面にGe酸化膜を形成する酸化膜形成方法であって、1000Pa以下の圧力及び300℃以下の基板温度のもとでGe基板にオゾンガスを供して当該基板の表面にGe酸化膜を形成する。
【0010】
前記酸化膜形成方法においては、室温よりも低温の基板温度のもとで前記基板に前記オゾンガスを供給すると、当該基板上にオゾン分子層を形成できる。また、Ge基板の表面でのオゾン酸化を抑制できる。さらに、GeOの脱離をさらに抑制できる。そして、Ge基板の表面へのオゾン分子の吸着率を上げることができる。
【0011】
また、前記酸化膜形成方法においては、前記オゾン分子層を形成させた後に前記オゾンガスの供給を遮断させ、その後、前記基板を室温まで加熱することにより前記オゾン分子層によって前記基板の表面を酸化させてGe酸化膜を形成させるとよい。さらに、前記基板の温度が室温まで達した後に前記加熱を遮断して当該基板の温度を室温よりも低温に降下させるとよい。そして、前記基板の温度を室温よりも低温に降下させた後に当該基板にオゾンガスを再度供給することにより前記Ge酸化膜が形成された基板上にオゾン分子層を形成させてから前記オゾンガスの供給を遮断し、その後、前記基板を室温まで加熱することにより前記基板上にさらにGe酸化膜を形成させる工程を繰り返すことにより、当該基板上にGe酸化膜を積層させることができる。
【0012】
前記Ge基板を加熱するための加熱源として赤外光光源を用いるとよい。Ge基板の瞬時的な加熱により当該基板へのダメージを軽減できることに加えて、当該基板の表面に吸着したオゾン分子のみをその表面酸化に寄与させることができる。
【0013】
また、前記オゾンガスにオゾン濃度100%のオゾンガスを用いると、Ge基板に対する酸素による酸化の影響を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
以上の発明によれば膜中欠損を生じさせることなくGe基板の表面にGe酸化膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の第一の実施形態に係るプロセスシステムを示した構成図。
【図2】発明の第一の実施形態に係る酸化炉の具体的な構成を示した構成図。
【図3】発明の第一の実施形態に係る酸化プロセスの手順を説明したフローチャート図。
【図4】条件1〜3のもとでGe基板を酸化処理して形成したGeO2膜のXPS測定により検出したGe3dスペクトルの特性図。
【図5】発明の第二の実施形態に係る酸化炉の具体的な構成を示した構成図。
【図6】酸化試料へのオゾンガス供給の一態様を示した斜視図。
【図7】発明の第二の実施形態に係る酸化プロセスのタイムチャート図。
【図8】Ge基板にGeOxからなる酸化膜層が形成される過程を説明した説明図。
【図9】メタルソースドレイン・トランジスタの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1に示された発明の実施形態1に係るプロセスシステム1はオゾンガスを用いることにより熱的安定性及び界面特性の良好なGeO2膜をGe基板2上に形成させる。プロセスシステム1はオゾン供給装置11とリーク用ガス供給装置12と酸化炉13とを備える。
【0018】
オゾン供給装置11はGe基板2を格納した酸化炉13にオゾンガスを供給する。オゾン供給装置11としてはオゾンガスボンベまたはオゾン発生装置が挙げられる。オゾンガスのオゾン濃度は100%に近いほどよい。オゾン濃度が低濃度のオゾンガスは酸素ガスとの混合ガスとなるのでGe酸化に酸素ガスの影響が無視できなくなる。すなわち、オゾンは酸素に比べて酸化力が強いために低温で酸化が行われるが、低温で酸素が存在すると製膜されたGeO2膜中に欠陥が形成されやすい酸化過程が生じる。このようにオゾン濃度が少なくなるにつれて得られる酸化膜の膜質が劣化する傾向となる。そこで、オゾン濃度が100%に近いオゾンガスを用いることで酸素による酸化の影響を抑制することができる。オゾン濃度100%のオゾンガスを供給するオゾン発生装置としては例えば明電舎製のピュアオゾンジェネレーター(MPOG−SM1C1)が挙げられる。
【0019】
また、オゾン分子は酸素分子に熱分解するので高温で酸化する場合は、酸化炉13の雰囲気を1000Pa以下(例えば10-2Pa〜1000Pa)の減圧雰囲気とすることで、オゾンのガス流量が十分早くなるので、酸化炉13内での熱分解による酸素分子の発生量を抑えることができる。さらに、オゾン分子の熱分解がほとんど起こらない温度域でも、試料表面での表面反応により発生した酸素は前記真空雰囲気によるガス流によって酸化炉13から除外されるので、酸化炉13内のGe基板2に対して常にフレッシュなオゾンガスを供給できる。
【0020】
リーク用ガス供給装置12はGe基板2の酸化プロセスを経た酸化炉13に残存するオゾンガスをリーク用ガスによって炉13外に排出するための排気手段である。リーク用ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等に例示される不活性ガスが挙げられる。リーク用ガス供給装置12の態様としては、例えば、リーク用ガスを充填したガスボンベや、リーク用ガスを発生させる既知の発生機が挙げられる。
【0021】
供給装置11,12から供されたガスはそれぞれ真空対応(<0.1Pa)の配管15,16を介して酸化炉13へ供給するようにする。配管15,16にはガスの流量を調節するバルブV01,V02が設置されている。尚、配管15はオゾンが通過するときにオゾン分解を抑えるため、内面研磨などでオゾン分解を防止する処理が適宜に施される。
【0022】
酸化炉13は酸化処理に供されるGe基板2を格納する。酸化炉13内の処理済みのオゾンガス及びリーク用ガスは配管17から排気ポンプ18によって吸引排気される。配管17にも流量可変バルブまたは開閉バルブ等に例示されるバルブV03が設置される。酸化炉13から排出されたオゾンガスとリークガスとを含んだガスはオゾン分解装置14にて無害化処理された後に大気中に放出される。オゾン分解装置14は酸化炉13から排出されたオゾンガスを酸素に分解する。オゾン分解装置14は半導体製造技術に採用されている既知のオゾン分解装置を適用すればよい。
【0023】
図2を参照しながら酸化炉13の具体的な実施の態様について説明する。
【0024】
酸化炉13は天井部に配管15,16が接続されている。もしオゾンガスとリーク用ガスとを酸化炉13よりも上流側で合流させる場合はオゾンガスと原料ガスの混合ガスを導入するための配管が一つのみ接続される。また、酸化炉13の端部には処理基板であるGe基板2を搬出入するための搬出入口130に一つ以上設けられる。搬出入口130はGe基板2が酸化炉13内に格納された状態で扉部131によって密閉できるようになっている。
【0025】
酸化炉13は真空対応の炉となるように形成される。酸化炉13の到達圧力は0.01Pa程度である。酸化炉13には圧力計132を設けるのが望ましい。圧力計132の仕様は測定範囲圧力が0.01Pa〜10000Paに対応しているものを採用するとよい。酸化炉13の炉壁を構成する材料としてはアルミ、SUS、石英ガラスに例示される0.1Paまでの真空状態での使用が可能で酸化しにくい材料が採用される。
【0026】
酸化炉13においてGe基板2はサセプタ133上に保持されている。サセプタ133は回転機構や搬送機構によって酸化炉13内を移動可能なるように具備される。サセプタ133は加熱手段によって必要に応じて所定の温度に加熱が可能となっている。そのためにサセプタ133には温度を検知するための熱電対が付帯されている。
【0027】
前記加熱手段としてはサセプタ133に赤外光を照射するための赤外光源134が挙げられる。赤外光源134は酸化炉13外部の下方に配置されている。赤外光源134の赤外光がGe基板2に供されるように酸化炉13の底部には照射窓135が設けられている。照射窓135の材質には石英ガラス、MgF2などに例示される赤外光、可視光を透過するものが適用される。赤外光源134はサセプタ133の熱電対によって検出された温度に基づき照射光量の制御が可能となっている。Ge基板2の加熱温度は高々400℃または300℃を超えないように制御される。例えば、300℃から室温の範囲で制御される。尚、赤外光源134には少なくとも赤外光、可視光の領域の光を含む光を照射する周知の光源を適用すればよい。
【0028】
酸化炉13ではGe基板2上のGeO2膜の製膜プロセス条件(オゾン供給量、プロセス圧力、赤外光光源134の光照射量、プロセス温度(サセプタ133の温度)、排気速度(排気ポンプ18の排気速度))が適宜制御される。
【0029】
図3を参照しながらプロセスシステム1におけるGeO2膜の製膜プロセスの手順にS1〜S8について説明する。
【0030】
S1:被処理試料としてGe基板2が載置されたサセプタ133が搬出入口131から酸化炉13内に搬入される。
【0031】
S2:排気ポンプ18によって酸化炉13内が真空引きされる。真空到達度は例えば10-2Pa以下に制御される。空気中の酸素の影響を抑制することができるためである。
【0032】
S3:赤外光光源134によってサセプタ133を加熱してGe基板2の温度を所定の酸化プロセス温度(300℃以下)に制御する。S3の加熱処理の前にGe基板2の表面のクリーニング処理を行ってもよい(S101)。クリーニング処理用のガスにはリーク用ガス供給装置12から供されたリーク用ガスが利用される。
【0033】
S4:Ge基板2の温度が所定のプロセス温度(300℃以下〜室温)に安定したらオゾン供給装置11からオゾンガスを酸化炉13に供給して酸化プロセスを開始する。酸化炉13の圧力はバルブV1,V3によって制御される。
【0034】
S5:所定のプロセス時間を経過した時点でオゾン供給装置11からのオゾンガスの供給を停止する。
【0035】
S6:Ge基板2をその温度が室温に近くなるまで冷却する。
【0036】
S7:Ge基板2の温度が室温までに低下したらリーク用ガス供給装置12からリーク用ガスを酸化炉13に供給することで炉13内に残存するオゾンガスを排出すると共に炉13の内圧を大気圧に戻す。
【0037】
S8:酸化炉13の内圧が大気圧と同じなった後にGe基板2を搬出入口131から酸化炉13外に搬出する。
【0038】
尚、酸化炉13で後工程(電極蒸着など)を行う場合、S7のリークのステップを実行する前に当該後工程のプロセスを行ってもよい(S102)。但し、オゾンガスを十分に排気してある状態で行わなければならない。オゾンガスは酸化力が強いので残留オゾンガスが電極材質と酸化反応を起こすためである。
【0039】
本実施形態の実施例を以下に示す。
【0040】
図4にノンドープGe(100)に対して表1に示した条件で酸化を行うことで得られたGeO2膜に対するXPS測定によって得られたGe3dスペクトルの特定図を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
図4(a)の条件1と条件2の比較を示した特性図によると、30eV付近のピークはGe0+によるもので、Ge(100)基板中のGeからの寄与である、33.5eV付近のピークはGe4+による寄与である。Ge0+ピーク及びGe2+ピークの強度比は、GeO2の膜厚に大きく影響を受ける。図4(a)の特性図では、条件2のGeO2膜厚より条件1のGeO2膜厚が大きいこと示している。つまり、オゾンガスは酸素ガスよりもはるかに酸化速度が速いことを意味している。
【0043】
また、図4(b)の特性図によると、条件1のGeO2膜厚より条件3のGeO2の膜厚が大きいことを示しているから、オゾンガスは室温でもGe酸化によってGeO2膜が作製可能で400℃より室温で酸化することで大きい製膜速度が得られることを意味している。また、オゾンガスの圧力は酸素ガスに対して1/100の圧力で用いても、オゾンガスの酸化力が高いことからオゾンガスは酸素ガスに比べてかなり強いGe酸化力を有することがわかる。
【0044】
以上のように実施形態1に係るプロセスシステムによれば300℃以下の低温でGe酸化が行える。特に、GeOの蒸発が活発にならない温度域(300℃〜室温)で製膜できることが実験的に確認されている。また、従来の酸素ガス酸化では100気圧(10MPa)必要な場合があったが、1000Pa以下の低圧力でGe酸化膜の作製が行える。そして、この圧力域で製膜が可能であることより、酸化時間の制御が秒精度で行うことができる。また、オゾン濃度100%の高純度オゾンガスを用いることで酸素ガスによる酸化の影響を排除できる。
【0045】
(実施形態2)
実施形態2ではGe基板に形成されるGeO2膜の膜厚を1nm以下の精度で制御する。
【0046】
オゾンガスによるGe酸化は室温でも高い製膜速度で酸化が進行する(実施形態1)。特に酸化プロセスの初期ではオゾン分子がGeO2膜中を拡散することなく界面に到達できるために膜成長が著しく早い。したがって、膜厚1nm以下の膜を高い膜厚精度で製膜するのが困難になる。そこで、本実施形態に係るプロセスシステムはGe基板の界面に到達しGeO2膜を成長させるオゾン分子数の数を制限することにより膜成長を制御する。
【0047】
図5を参照しながら実施形態2に係る酸化炉13の装置構成について説明する
酸化炉13はサセプタ133を室温よりも低温に冷却可能に保持するコールドヘッド51を備えている。本実施形態に係る赤外光光源134は酸化炉13の外部の上方に配置されている。酸化炉13の天井部には赤外光光源134の照射光を炉13内に導入するための照射窓52が設けられている。照射窓52を構成する材料には照射窓135と同仕様のものを適用すればよい。酸化炉13は真空対応圧力の範囲が10-6Paまでとなるように構成される。酸化炉13は実施形態1に係る圧力計132の代わりに前記圧力の高真空の圧力値まで測定できる真空計54を具備する。
【0048】
Ge基板2の加熱時間は数秒の時間スケールで行うようにしている。また、室温以下の低温の到達温度は低いほどよい。Ge基板2の温度が室温以下の低温にすることでオゾン分子が吸着中に起きる酸化反応を抑えることができる。また、オゾン分子に対するGe基板2の表面の吸着率が上昇し、より表面をオゾンにより覆うことができるようにする。つまり、Ge基板2の温度を室温以下の低温にすることで、オゾン酸化反応性の抑制と、Ge基板2の表面への吸着面積を増やすことできる。
【0049】
また、図6に例示したようにオゾンガスの供給ライン(配管15)をGe基板2の表面近傍まで延長させると、配管15から排出されたオゾガス70を酸化炉13の壁面にあたることなく直接的にGe基板2の表面に到達させることができる。これにより、Ge基板2に対してオゾン分子を確実に吸着させることができる。
【0050】
コールドヘッド51は少なくともマイナス10℃以下の低温まで制御できる冷却機構を備えている。前述の実施形態1の実施例(図4)でオゾンが室温でもGe酸化反応は早く進行することがわかっているのでコールドヘット51の採用で当該酸化反応の進行を「負」に制御できるようにしている。前記冷却機構としては、例えば、不凍液を用いた水冷式や液体窒素を用いた熱接触方式、コンプレッサー等が挙げられる。
【0051】
一方、本実施形態の酸化炉13ではGe基板2を比較的短時間の間、室温程度に加熱できる機構を設けられることで、基板2の表面に吸着したオゾンを酸化できる時間を制御できるようになっている。酸化炉13においては、基板2及びサセプタ133の表面の加熱機構として赤外光源134が適用されており、サセプタ133の加熱を瞬時的に行えるので、Ge基板2上のGe酸化反応の進行を「正」に制御できる。
【0052】
また、酸化炉13の照射窓52と赤外光光源134との間には赤外光光源134から照射された波長400nm以下の光をカットするフィルター53が配置されることで、前記波長以下の光によるGe基板2に対するダメージを抑制できる。
【0053】
以上のように本実施形態のプロセスシステムはGe基板2の温度を低温にすると共に瞬時的に室温程度の温度までに加熱することで酸化炉13のオゾンス圧力及びGe基板2の温度をスケジュール的に変化させることができる。
【0054】
図7に示された実施形態2に係るプロセスシステムの酸化炉13におけるGe基板2温度及びオゾンガス圧力の制御のタイムチャートについて図8を参照しながら説明する。
【0055】
図7のタイムチャートの縦軸1001は酸化炉13の圧力及びGe基板2の温度を意味する。縦軸1001の圧力及び温度の値は正の方向に増加するように定義されている。同タイムチャートの横軸1007はプロセス経過時間であり、時間の値は正の方向に増加するように定義されている。酸化炉13の圧力1008及びGe基板2の温度1006の時間的変化はそれぞれ点線及び実線で示した。尚、同図に記載の1001〜1008は用語を示す符号であって数値を示すものではない。
【0056】
先ず、オゾン圧力を10-5Pa以下の圧力にしたまま、図8(a)に示したGe基板2の温度を室温(T=t1)から室温以下の目標温度1003(例えば−10℃以下)まで下げる(T=t2)。ここで10-5Pa以下の圧力は、Ge基板2表面の分子吸着量を1層以下にするために経験式(ラングミュアー平衡吸着)から決めたものである。
【0057】
次に、オゾンガスを供給して徐々に圧力を上げ(T=t3)、到達圧力1004になったら(T=t4)、一定時間保持し真空引きし(T=t5)、再び高真空にする。このとき図8(b)に示したGe基板2の表面にオゾン分子が吸着してオゾン分子層201が形成される。Ge基板2の温度が室温以下の低温なので酸化反応は進行しない。
【0058】
次に、赤外光光源134によるGe基板2の瞬時的な加熱を開始し(T=t6)、数秒で目標温度1005に到達させ、その後、赤外光光源134からの光照射を遮断してGe基板2の冷却を待機する。瞬時的にGe基板2の温度が上昇したことで、表面吸着したオゾン分子がGe基板2と酸化反応を起こし、図8(c)に示したようにGe基板2の表面に酸化膜層202が形成される。酸化膜層202は表面吸着したオゾン分子のみが酸化に寄与するので膜厚が極めて小さい。オゾン分子の吸着量や瞬時的加熱時間、Ge基板2の温度を変えることで酸化膜層202の膜厚を制御できる。その後は、Ge基板2の温度を上げ始め(t8)、室温まで達したら(t9)、Ge基板2の酸化プロセスの完了である。
【0059】
以上の段階的な酸化膜の形成を数回行う場合、T=t8で室温への加熱を行わず、T=t3にループする。ループすることにより、Ge基板2の酸化膜層202にオゾン分子を吸着させてオゾン分子層201を形成させることが可能で、それに酸化反応を起こさせることにより、図8(d)に示したように酸化膜層202をさらに増加させることできる。ループは要望の酸化膜厚に応じて任意に複数繰り返し実行される。また、オゾン分子の吸着量や瞬間的加熱時間、Ge基板2の温度はサイクル毎に適宜に調整してもよい。このサイクル数を繰り返すことによりオゾン分子吸着層とGe基板2の表面との距離が大きくなり、酸化に必要な加熱温度や加熱時間はサイクル毎に異なるものとなる。
【0060】
したがって、実施形態2に係るプロセスシステムによれば、Ge基板の温度を室温以下の範囲に制御するようにしているので、実施形態1に係るプロセスシステムの効果に加えて、Ge基板2の表面でのオゾン酸化を抑制できる。また、GeOの脱離をさらに抑制できる。さらに、Ge基板2の表面へのオゾン分子の吸着率を上げることができる。特にオゾンガスを供給している時間帯においてGe基板の温度を−10℃以下とすることで、Ge基板の酸化反応の負の制御をより一層確実に行える。一方、赤外光光源によるGe基板2の瞬時的な加熱によれば、当該基板へのダメージを軽減できることに加えて、当該基板の表面に吸着したオゾン分子のみをその表面酸化に寄与させることができる。そして、このことにより、第一層、第二層の成長レベルでGe酸化膜の膜厚制御が行えるようになる。また、段階的製膜の繰返し実行が可能であるので、膜質が良好な状態でGe酸化膜を製膜できる。
【符号の説明】
【0061】
1…プロセスシステム
2…Ge基板、201…オゾン分子層、202…酸化膜層
11…オゾン供給装置
12…リーク用ガス供給装置
13…酸化炉、133…サセプタ、134…赤外光光源
51…コールドヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ge基板の表面にGe酸化膜を形成する酸化膜形成方法であって、
1000Pa以下の圧力及び300℃以下の基板温度のもとでGe基板にオゾンガスを供して当該基板の表面にGe酸化膜を形成すること
を特徴とする酸化膜形成方法。
【請求項2】
室温よりも低温の基板温度のもとで前記基板に前記オゾンガスを供給して当該基板上にオゾン分子層を形成させることを特徴とする請求項1に記載の酸化膜形成方法。
【請求項3】
前記オゾン分子層を形成させた後に前記オゾンガスの供給を遮断させ、その後、前記基板を室温まで加熱することにより前記オゾン分子層によって前記基板の表面を酸化させてGe酸化膜を形成させること
を特徴とする請求項2に記載の酸化膜形成方法。
【請求項4】
前記基板の温度が室温まで達した後に前記加熱を遮断して当該基板の温度を室温よりも低温に降下させることを特徴とする請求項3に記載の酸化膜形成方法。
【請求項5】
前記基板の温度を室温よりも低温に降下させた後に当該基板にオゾンガスを再度供給することにより前記Ge酸化膜が形成された基板上にオゾン分子層を形成させてから前記オゾンガスの供給を遮断し、その後、前記基板を室温まで加熱することにより前記基板上にさらにGe酸化膜を形成させる工程を繰り返すことにより当該基板上にGe酸化膜を積層させることを特徴とする請求項4に記載の酸化膜形成方法。
【請求項6】
前記Ge基板を加熱するための加熱源として赤外光光源を用いることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の酸化膜形成方法。
【請求項7】
前記オゾンガスの供給を遮断させた後に前記基板の温度を室温まで加熱する際の雰囲気は10-5Pa以下の真空雰囲気とすることを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の酸化膜形成方法。
【請求項8】
前記基板温度は−10℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の酸化膜形成方法。
【請求項9】
前記オゾンガスはオゾン濃度が100%であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の酸化膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151228(P2011−151228A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11743(P2010−11743)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】