説明

重水の貯蔵方法及び回収方法

【課題】高純度の重水を貯蔵することができる重水の貯蔵方法を提供する。
【解決手段】半導体デバイスの製造工程に用いる重水を貯蔵容器1内で貯蔵する方法において、重水中の全有機炭素及び金属を重水精製ユニット4によって除去することにより、重水中の全有機炭素を20μg/L以下、金属を1μg/L以下に維持する。重水精製ユニット4は、UV照射装置5、脱炭酸装置6、混床式イオン交換塔7、脱気装置8及びUF装置9を備えている。補充用精製重水タンク11からの補充用重水がUV照射装置5に補充される。貯蔵容器1の内面がフッ素樹脂コーティングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶パネル、太陽電池などの半導体デバイスの製造工程に用いられる重水の貯蔵方法と、この製造工程から重水を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、SiO酸化膜形成は1000℃程度の高温でOガスを用いるドライ酸化を一般に用いていたが、集積度向上に伴う微細化が進んできたことでシリコンとは異なる元素を用いたゲート酸化膜が必要となっている。酸化膜を形成するための酸素源としてオゾン、プラズマ、O、水が用いられているが、シリコン基板とゲート絶縁膜の間の界面層を増加させないところから、水が好適である。
【0003】
また、ゲート絶縁膜中には欠陥部分となる不対電子が存在しており、これらは未結合手(ダングリングボンド)が原因となっている。ダングリングボンドは熱処理工程により安定化させることが可能であり、特に水素や酸素存在下の熱処理が有効である。特許文献1に示すように水蒸気下の熱処理を行うことでより有効であるとも報告されている。特許文献2には、重水(DO)を使用すると、重水素が水素よりもダングリングボンドとの結合が強いためにより欠陥修復能があることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、レジスト膜の除去に水を用いることが記載されているが、その水質については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−097438
【特許文献2】特開2006−66706
【特許文献3】特開2003−71332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
重水は少量しか生産することができないので、超純水のように大量に循環して使用することが困難である。また、市販されている重水の不純物濃度は数十μg/L以上と高い。容器に詰める前に重水を清浄化したとしても、時間が経つに従って容器からの不純物溶出が生じる。
【0007】
本発明は、高純度の重水を貯蔵することができる重水の貯蔵方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は重水を回収して再利用することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)の重水の貯蔵方法は、半導体デバイスの製造工程に用いる重水を貯蔵容器内で貯蔵する方法において、重水中の全有機炭素及び金属を除去手段によって除去することにより、重水中の全有機炭素を20μg/L以下、金属を1μg/L以下に維持することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の重水の貯蔵方法は、請求項1において、前記貯蔵容器の内面がフッ素樹脂コーティングされていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の重水の貯蔵方法は、半導体デバイスの製造工程に用いる重水を貯蔵容器内で貯蔵する方法において、該貯蔵容器内の重水中の溶存気体成分を除去手段で除去することを特徴とするものである。
【0012】
本発明(請求項4)の重水回収方法は、半導体デバイスの製造工程から排出される重水含有蒸気から重水を凝縮させて回収することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の重水回収方法は、請求項4において、重水含有蒸気から重水蒸気を分離し、凝縮させて重水を回収することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の重水の貯蔵方法によれば、半導体、液晶、太陽電池などの半導体デバイスの酸化膜製造や熱処理工程で用いる重水の貯蔵容器内において、重水中の全有機炭素を20μg/L以下、金属を1μg/L以下に保つことができる。このように純度の高い重水を用いて半導体デバイスを製造することにより半導体デバイスの特性が向上する。
【0015】
請求項2の重水の貯蔵方法によれば、容器内面からの不純物の溶出が防止される。
【0016】
請求項3のように、重水から溶存気体を除去することにより、酸素やオゾンなど重水以外の酸化性気体によって酸化膜が生成することが防止される。また、重水の蒸気圧を下げる原因となる不活性ガスも除去される。
【0017】
本発明の重水回収方法は、半導体デバイスからの重水含有蒸気から重水を凝縮させて回収する。重水含有蒸気から重水蒸気を分離して凝縮させることにより、重水を選択的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係る重水貯蔵方法を示す系統図である。
【図2】別の実施の形態に係る重水貯蔵及び回収方法を示す系統図である。
【図3】さらに別の実施の形態に係る重水貯蔵及び回収方法を示す系統図である。
【図4】重水生成システムの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
第1図は第1の実施の形態に係る重水貯蔵方法を示す系統図であり、重水は貯蔵容器1に貯蔵されている。この貯蔵容器1は、金属、合成樹脂、繊維強化合成樹脂等よりなり、その内面にはPTFE、PVDFなどのフッ素樹脂コーティングが施されている。なお、貯蔵容器全体をフッ素樹脂製としてもよい。容器1以外の接液面もフッ素樹脂コーティングしてもよい。
【0021】
この貯蔵容器1には、重水を加温して気化量を増加させるための加温ジャケット2が装着されている。
【0022】
貯蔵容器1内の重水を取出ライン3にて重水精製ユニット4に導入し、全有機炭素及び金属並びに溶存気体を除去した後、返送ライン10によって貯蔵容器1に戻すよう構成されている。
【0023】
重水精製ユニット4には、重水に紫外線(UV)を照射し、有機物を分解するUV照射装置5、UV照射装置5からの重水を脱炭酸するための脱炭酸塔などの脱炭酸装置6、脱炭酸装置6からの重水を脱イオン処理するイオン交換塔(この実施の形態では混床式イオン交換塔)7、この混床式イオン交換塔7からの重水を脱気処理する膜式脱気装置等の脱気装置8及びこの脱気装置8からの重水から残存微粒子(主に、イオン交換樹脂の微粒子)を除去する限外濾過膜装置(UF装置)9などを備えている。なお、UV照射装置5には、貯蔵容器1からの重水だけでなく、補充用精製重水タンク10からの重水も導入可能とされている。なお、塩類を除去するために逆浸透膜装置(RO装置)を併設してもよい。ただし、RO装置は濃縮排水を生じさせるので、RO装置を用いずに重水利用効率を高くするのが好ましい。
【0024】
この重水精製ユニット4によって全有機炭素及び金属を除去することにより、貯蔵容器1内の全有機炭素濃度を20μg/L以下、好ましくは10μg/L以下に維持し、金属濃度を1μg/L以下、好ましくは0.1μg/Lに維持する。なお、金属不純物としてはLi,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znが例示されるが、これに限定されない。
【0025】
このように高純度に維持された貯蔵容器1内の重水の蒸気がライン12、パルシングバルブ13を経て反応チャンバ14へ供給される。なお、貯蔵容器1内の重水を気化器(図示略)によって気化させてから反応チャンバへ導入するようにしてもよい。
【0026】
重水の蒸気は、反応チャンバ14に対しキャリアガスにキャリアされて供給される。このキャリアガスとしてはN,Ar,O,Kr,Xeなどが用いられる。
【0027】
反応チャンバにおいてゲート絶縁膜をALD法によって成膜する場合、半導体基板(シリコン基板)上に有機金属化合物を吸着等によって付着させる。
【0028】
Al膜を成膜する場合、有機金属化合物としては、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアルミニウム(TEA)などを用いることができる。
【0029】
Hf膜を成膜する場合は、テトラキス−ジメチルアミドハフニウムなどを用いることができる。
【0030】
Hfシリケート膜を成膜する場合は、テトラキス−ジメチルアミドハフニウムとシランガスなどを用いることができる。
【0031】
Hfアルミネート膜を成膜する場合は、テトラキス−ジメチルアミドハフニウムとトリメチルアルミニウムなどを用いることができる。
【0032】
有機金属化合物の付着を行うときの基板温度は200〜400℃程度が好適であり、チャンバ内の圧力は5〜15hPa程度が好適である。
【0033】
有機金属化合物のガスを0.1〜0.5sec程度チャンバへ供給し、有機金属化合物が半導体基板1上に飽和吸着させた後、チャンバ内に重水を含む酸化剤ガスを供給し、有機金属化合物の酸化を行う。この際の基板温度は200〜400℃程度が好適であり、チャンバ10内の圧力は5〜15hPa程度が好適であり、1サイクルの処理時間は5〜15sec程度が好適である。
【0034】
この有機金属化合物の吸着と酸化よりなる工程を1サイクルとし、これを50〜100回程度繰り返すことにより、厚さ5〜10nm程度の金属酸化物薄膜を成膜することができる。
【0035】
[第2の実施の形態]
第2図は、反応チャンバ14から排出される余剰の重水蒸気を回収して再利用するようにした重水の貯蔵及び回収方法を示している。
【0036】
この実施の形態では、反応チャンバ14から排出される重水蒸気含有ガスは、重水蒸気回収装置15にて重水蒸気が他のガスから分離され、凝縮器16にて凝縮される。重水蒸気回収装置15としては、分子ふるい膜や除湿膜などが用いられる。分子ふるい膜を用いる場合は、透過側を真空ポンプで減圧して透過の駆動力を得るようにしてもよい。
【0037】
なお、ALD(原子層堆積装置)では、数秒間隔で有機金属原料と酸化剤としての水や重水がパルスで打ち込まれて排出されるので、バルブの切り替えで排出ガスから重水蒸気と他のガスとを分離し、重水蒸気のみを凝縮器へ送るように構成してもよい。
【0038】
凝縮器16にて凝縮した重水は、ライン17を経てUV照射装置5へ送られる。
【0039】
この実施の形態では、補充用精製重水タンク11が省略されているが、第1図と同様に、補充用精製重水タンク11をUV照射装置5に接続してもよい。
【0040】
第2図の重水の貯蔵方法のその他の構成は第1図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0041】
[第3の実施の形態]
上記実施の形態では、貯蔵容器1内に重水のみを貯蔵するようにしているが、重水と超純水とを所定比率で混合した混合水を貯蔵するようにしてもよい。第3図はかかる実施の形態を示している。
【0042】
貯蔵容器1内から水を定期的にサンプリングし、安定同位体比質量分析計20で重水(DO)と水(HO)との混合比を測定する。この測定値が目標値になるように補充用精製重水タンク11および超純水ライン21からの小型精製ユニット22への重水又は超純水の供給量をポンプ11a,21aもしくはバルブ(図示略)を制御する。小型精製ユニット22で精製された水が貯蔵容器1に供給される。
【0043】
第3図のその他の構成は第1図と同じである。なお、第3図においても、第2図のように重水を回収してもよい。
【0044】
第4図は水電解装置31で副生する重水を小型重水精製ユニット32に通して、重水を有効利用する装置の一例である。重水の不純物濃度を除去するためにRO装置33を設置して、そのブラインを水電解装置31に戻すようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0046】
[実施例1]
市販の重水(和光純葉試薬1級)をUV照射装置、混床式イオン交換装置及びUF装置を用いて処理し、内面がPTFEコーティングされたSUS316製の貯蔵容器内に貯蔵した。この重水の貯蔵直後のTOC濃度及び金属濃度を表1に示す。
【0047】
この貯蔵直後の重水を用いてシリコン基板上に酸化アルミニウム(Al)薄膜を次のようにして形成した。
【0048】
まず、シリコン基板上の金属不純物、付着した有機物などを除去するため、加温した王水、硫酸過水、塩酸過水などによる酸洗浄を十分に実施した後、希薄フッ酸溶液でシリコン基板上の化学酸化膜を除去した。その後十分に表面を超純水で洗浄した後、原子層堆積装置にセットした。
【0049】
次に、Si基板に気化した重水を反応させることで、厚さ1nmの界面層を形成した。
【0050】
次いで、基板温度を300℃とし、チャンバ内を10kPaとし、窒素ガスをキャリアガスとし、トリメチルアルミニウム(TMA)を0.1秒供給し、TMAを半導体基板上に飽和吸着させた。
【0051】
その後、窒素ガスによってチャンバ内を4秒間パージした。次いで、300℃にて、金属不純物の濃度10ppt、TOC20ppbの重水の気化物(キャリアガスN,200sccm(DOの供給圧力:約6.0hPa))をチャンバ内に0.1秒供給し、TMAを酸化させた。その後、窒素ガスによってチャンバ内をパージした。
【0052】
このTMAと重水の供給反応工程を1サイクルとして、250サイクル繰り返して25nm厚みのAl薄膜を形成した。その後、ゲート電極としてAlを厚さ100nmに蒸着させて、MOS(金属−酸化物−半導体)を形成した。
【0053】
MOSを作成した状態のままのもの(as−Depo)は不完全な結合となっているところが多いため、熱処理を実施した。熱処理の条件は400℃、30分、ガス雰囲気N:100%にて行った。また、H:100%でも、30分熱処理した。
【0054】
ESR(電子スピン共鳴法)による界面欠陥密度の測定結果と、コンダクタンス法による界面準位密度の測定結果について、表1に示す。
【0055】
[比較例1]
重水の代わりに、表1に示す水質の超純水(HO)を用いた他は実施例1と同様にして成膜を行い、同様の測定を行い、結果を表1に示した。
【0056】
[比較例2]
上記の市販の重水を精製することなくそのまま用いた他は実施例1と同様にして成膜を行い、同様の測定を行い、結果を表1に示した。
【0057】
[比較例3]
比較例1において、超純水を貯蔵容器内に2ヶ月貯蔵した。このときの水質を表1に示す。この超純水を用いた他は実施例1と同様にして成膜を行い、同様の測定を行い、結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
[考察]
表1の通り、実施例1及び比較例1では、比較例2,3に比べて界面欠陥個数が少ない。ただし、実施例1では、半導体の界面欠陥を示す界面準位密度も10^9台と良好であるが、比較例1では重水を用いていないので界面準位密度が高い。
【0060】
比較例2,3では、水中のTOC濃度及び金属濃度が高いために、界面欠陥個数も多い。
【符号の説明】
【0061】
1 貯蔵容器
2 加温ジャケット
4 重水精製ユニット
14 反応チャンバ
33 RO装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスの製造工程に用いる重水を貯蔵容器内で貯蔵する方法において、
重水中の全有機炭素及び金属を除去手段によって除去することにより、重水中の全有機炭素を20μg/L以下、金属を1μg/L以下に維持することを特徴とする重水の貯蔵方法。
【請求項2】
請求項1において、前記貯蔵容器の内面がフッ素樹脂コーティングされていることを特徴とする重水の貯蔵方法。
【請求項3】
半導体デバイスの製造工程に用いる重水を貯蔵容器内で貯蔵する方法において、
該貯蔵容器内の重水中の溶存気体成分を除去手段で除去することを特徴とする重水の貯蔵方法。
【請求項4】
半導体デバイスの製造工程から排出される重水含有蒸気から重水を凝縮させて回収することを特徴とする重水回収方法。
【請求項5】
請求項4において、重水含有蒸気から重水蒸気を分離し、凝縮させて重水を回収することを特徴とする重水回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−146642(P2011−146642A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8263(P2010−8263)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】