説明

金属膜積層体、及びその製造方法、並びにそれを用いた金属配線基板

【課題】本発明の目的は、金属微粒子分散体の基板への塗布と加熱処理による焼結により基板上に形成される金属膜の基板との密着性の向上を図り、耐環境性を向上させると共にメッキ下地膜などにも利用出来る金属膜積層体、及びその製造方法、並びにそれを用いた金属配線基板を提供する。
【解決手段】本発明の金属膜積層体は、有機金属化合物から形成される金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層し、基板上に形成される最初の膜は金属酸化物膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体から形成される金属膜積層体、及びその製造方法、並びにそれを用いた金属配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属や半導体、或いは酸化物などの材料を微細化した微粒子を、有機溶媒や水などの溶媒に分散させてなる金属インク、若しくは金属ペーストなどの微粒子分散体を用いて、インクジェット方式や、グラビア印刷、スクリーン印刷などの印刷技術を利用した電子機器製造の試みが検討されている。特に、プラズマディスプレイなどに代表される大型の電子機器を製造する場合、従来の一般的な製造方法である成膜用の真空装置とマスクやレジストおよび露光装置などを利用するフォトリソグラフィー技術を用いた方式では、その製造装置は対象とする電子機器の大きさに応じた巨大化したものとなり、それに伴い設備経費の増大が懸念されるようになってきている。このような背景の元、微粒子分散体をインクとして利用した印刷技術による大型の電子機器製造への展開は特に大きな注目を浴びている。
【0003】
これら金属微粒子を強固に基板に固定する方法として、例えば(特許文献1)に示されるように、シランカップリング剤で処理されたガラス基板表面に、有機溶剤に金属微粒子が分散された金属微粒子分散液からなるペーストを塗布し250℃以上、300℃以下の温度で焼成することで、ガラス基板上に金属薄膜を形成するというものである。
【0004】
また、(特許文献2)によれば、ガラス基板のメッキパターン以外の領域をレジストで保護した後に、メルカプト基、アミノ基、シアノ基などから選ばれた少なくとも一種の官能基を有するシランカップリング剤で表面処理し、固着されたシランカップリング剤を介して金属微粒子を固定し、無電解メッキを施してガラス基板表面のパターンメッキをするというものである。上術した(特許文献1、2)によれば、ガラス基板と金属薄膜とを強固に基板に固定する、即ち、ガラス基板と金属薄膜との付着力を強固にするために、シランカップリング剤でガラス基板の表面処理を行うというものである。
【特許文献1】特開2004−175646号公報
【特許文献2】特開2002−68782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際にガラス基板の表面をシランカップリング剤で表面処理した後に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布、加熱後に金属膜を形成したが、その付着力の向上は充分ではなかった。また、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布、加熱により金属膜を得る方法は、真空プロセスによらず、大気の条件下で成膜が可能であるために、種々の目的の金属膜を形成するのには、非常に容易で有効であるのであるが、このようにして作製した金属膜は、耐環境性に対して、脆弱、即ち金属膜が基板から剥離するなどの問題があった。このため、例えば、メッキの下地膜としてこれら金属微粒子分散体から形成する金属膜を適用することは容易ではなかった。
【0006】
本発明の目的は、金属微粒子分散体の基板への塗布と加熱処理による焼結により基板上に形成される金属膜の基板との密着性の向上を図り、耐環境性を向上させると共にメッキ下地膜などにも利用出来るようになるなど、金属微粒子分散体から形成される金属膜の応用範囲の展開を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層し、前記基板上に形成される最初の膜は前記金属酸化物膜である金属膜積層体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属膜積層体によれば、金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層してなる金属膜積層体である。
【0009】
これによれば、基板上に形成した金属膜積層体は、基板を隙間無く被覆する事が出来るようになり、即ち金属膜積層体による基板の被覆性が向上するために、基板と金属積層膜体との界面への金属膜積層体を取り巻く環境の影響を抑制できるようになり、金属膜積層体の耐環境性を向上できる。このため、金属膜積層体を環境に放置したとしても金属膜積層体の基板からの剥離を無くすことが出来る。
【0010】
また、金属膜は、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を基板表面に塗布して金属膜前駆体を形成後に、前記金属膜前駆体を加熱することで形成されてなる金属膜積層体であるから、大掛かりな真空プロセスを用いる事なく、塗布と加熱の容易な方法で形成できる金属膜積層体をメッキ膜形成の下地膜として利用できるようなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
請求項1に記載の発明は、金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層し、基板上に形成される最初の膜は金属酸化物膜である金属膜積層体である。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜としての利用も可能になり、さらに金属膜積層体と基板との付着力を向上できるという作用を有する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、基板上に金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを積層し、基板上に形成される最初の膜は金属酸化物膜であり、金属膜の膜厚が300nm程度以上である金属膜積層体である。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜としての利用も可能になり、さらに金属膜積層体と基板との付着力を向上できるという作用を有する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体であって、金属膜積層体にさらにメッキ膜を形成してなることを特徴とする。これにより、金属膜の電気抵抗を小さく出来て金属配線基板などへ応用できるという作用を有する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の金属膜積層体であって、メッキ膜は、銅を主成分としてなることを特徴とする。これにより、金属膜の電気抵抗を小さく出来て金属配線基板などへ応用できるという作用を有する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体であって、金属酸化物膜と金属膜との積層数は4層以上からなることを特徴とする。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜としての利用もできるという作用を有する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体であって、金属微粒子分散体の金属微粒子は、平均粒径が50nm以下の金属微粒子からなることを特徴とする。これにより、金属膜を得るための金属微粒子の焼結を比較的低い温度でできるので、金属膜積層体を製造しやすいという作用を有する。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体であって、銀を主成分としてなることを特徴とする。これにより、金属膜積層体の電気抵抗を下げることができ金属配線基板などへ応用できるという作用を有する。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体であって、金属酸化物は、チタンもしくはジルコニウムのいずれかを含有してなることを特徴とする。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜としての利用も可能になるという作用を有する。
【0019】
請求項9に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属膜積層体に配線パターンを形成したことを特徴とする金属配線基板である。これにより、金属配線基板の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜として利用できるという作用を有する。
【0020】
請求項10に記載の発明は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、金属膜前駆体を加熱して金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程と第2の工程とを順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成する金属膜積層体の製造方法である。これにより、耐環境性に優れた金属膜積層体を容易に製造できるという作用を有する。
【0021】
請求項11に記載の発明は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成する第1の工程と、金属酸化物膜前駆体の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成する第2の工程と、金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体との積層体を加熱して金属酸化物膜と金属膜との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に複数回繰り返すことによりで金属膜積層体を形成する金属膜積層体の製造方法である。これにより、耐環境性に優れた金属膜積層体をさらに容易に製造できるという作用を有する。
【0022】
請求項12に記載の発明は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、金属膜前駆体を加熱して金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程の後で、第2の工程を3回以上繰り返すことにより金属膜積層体を形成する金属膜積層体の製造方法である。これにより、耐環境性に優れた金属膜積層体を容易に製造できるという作用を有する。
【0023】
請求項13に記載の発明は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、金属膜前駆体にエネルギー線を走査照射して、エネルギー線の照射領域の金属前駆体被膜を金属化して金属膜を形成する第2の工程と、エネルギー線の未照射領域の金属膜前駆体を除去する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程を順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成する金属膜積層体の製造方法である。これにより、エネルギー線の走査照射に対応したパターン形状を有し、耐環境性に優れた金属膜積層体を容易に製造できるという作用を有する。
【0024】
請求項14に記載の発明は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成する第1の工程と、金属酸化物膜前駆体の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成する第2の工程と、金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体とからなる積層体にエネルギー線を走査照射して、エネルギー線の照射領域の金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体の積層体を金属酸化物膜と金属膜との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成した後に、エネルギー線の未照射領域の金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体とを除去する第4の工程とからなる金属膜積層体の製造方法である。これにより、エネルギー線の走査照射に対応したパターン形状を有し、耐環境性に優れた金属膜積層体を容易に製造できるという作用を有する。
【0025】
請求項15に記載の発明は、請求項13または14に記載の金属膜積層体の製造方法であって、エネルギー線はレーザー光線であることを特徴とする。これにより、エネルギー線の走査照射に対応したパターン形状の金属膜積層体を容易に製造できるという作用を有する。
【0026】
請求項16に記載の発明は、請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法であって、金属微粒子分散体の金属微粒子は、平均粒径が50nm以下の金属微粒子からなることを特徴とする。これにより、金属膜を得るための金属微粒子の焼結を比較的低い温度でできるので、金属膜積層体を製造しやすいという作用を有する。
【0027】
請求項17に記載の発明は、請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法であって、金属微粒子分散体の金属微粒子は、銀を主成分としてなることを特徴とする。これにより、金属膜積層体の電気抵抗を下げることができ金属配線基板などへ応用できるという作用を有する。これにより、金属配線パターンの電気抵抗を小さくできるので、金属配線基板の特性を向上できるという作用を有する。
【0028】
請求項18に記載の発明は、請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法であって、金属酸化物は、チタンもしくはジルコニウムのいずれかを含有してなることを特徴とする。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜として利用できるという作用を有する。これにより、金属膜積層体の耐環境特性が向上すると共に、メッキの下地膜としての利用も可能になるという作用を有する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の具体的な内容について実施例を用いて説明する。
【0030】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の金属膜積層体形成の工程図である。本発明の金属膜積層体の製造方法は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、さらに加熱反応させて金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成し、さらに加熱焼結させて金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程と第2の工程とを順番に少なくとも2回繰り返すことにより金属膜積層体を形成するものである。
【0031】
以下、各工程について、さらに詳細な説明を付け加える。
【0032】
第1の工程は、基板の表面に金属酸化物膜を形成する工程である。まず基板の表面にスピンコーティング法やディッピング法、ディスペンサ法、スプレー法など、液体を基板に均一に塗布する塗布方法を用いて、例えば、液体状の有機金属化合物の塗布を行う。この際、有機金属化合物は、適当な溶媒で希釈されるなどして、塗布方法に最適な濃度、若しくは粘度を有するように調整されていなければならない。塗布方法の中で、例えばスピンコーティング法では、粘度を調整された有機金属化合物液体を基板上に滴下した後に、基板を適当な回転数で適当な時間回転させることで基板表面に有機金属化合物の均一な膜を形成するものである。ここで、有機金属化合物液体の粘度や、スピンコーティング時の基板の回転数や回転時間を適当に決める事で、基板表面に残留する、即ち塗布される膜の厚さを制御する事が出来る。スピンコーティング法により塗布された膜は、金属酸化物膜前駆体と呼び、基板の表面上に有機金属化合物が塗布された状態である。スピンコーティング法により塗布されたままの状態では、有機金属酸化物液体の溶媒によっては、塗布後に溶媒が残留していたり、ほぼ溶媒は蒸発してしまっていたりする。塗布後に溶媒が多く残留している場合は、溶媒の乾燥のために、溶媒が蒸発する程度の温度で適当な時間加熱処理することが、基板に金属酸化物前駆体を定着させるためには有効である。基板表面に形成された金属酸化物膜前駆体は、有機金属化合物として存在するので、これに熱を加えるなどの処理を施す事で、金属酸化物膜を得る。このときの加熱方法には、ホットプレートを用いる加熱や、オーブンによる加熱方法などがあり、基板形状などに応じて適当な加熱方法を選択すれば良い。この加熱処理により、基板表面に形成された金属酸化物膜前駆体は、反応して金属酸化物膜となる。なお、有機金属化合物液体は、金属化合物の周りに有機化合物基が化学結合した状態からなり、その結合基の分子量の大小により有機金属化合物から金属酸化物を形成する際の反応温度や反応時間が異なってくるために、選択する有機金属化合物の種類に応じて、加熱温度と時間を決めれば良い。なお、金属酸化物膜の金属膜積層体への効果である、金属膜積層体の付着力の向上や金属膜積層体に発生する膜表面から基板への貫通孔を消失させるなどの特性は、場合によっては、有機化合物基が残らない金属酸化物膜が良い場合もあれば、多少有機化合物基が残った状態の金属酸化物の方が良い場合もあり、有機金属化合物から金属酸化物へ反応させる、その反応の程度をどの程度にするかは、基板やこの膜の上に形成する金属膜の種類などにより適当に選択すれば良い。また、乾燥と金属酸化物前駆体を反応させて金属酸化物膜を得る加熱を分けて説明したが、加熱を分ける必要はない。乾燥に要する温度と時間は、反応に要する温度と時間と異なるために、基板の種類や、有機金属酸化物液体の溶媒などを考慮して適当に選択すれば、乾燥と反応とを同時にやっても構わない。ただ、溶媒が残留した状態で急速に加熱すると、溶媒が突沸するなどして、金属酸化物膜に空孔ができることなどがあるので注意を要する。このようにして、第1の工程では、基板の表面に金属酸化物膜が形成される。
【0033】
第2の工程は、第1の工程で形成した金属酸化物膜の表面に、金属膜を形成する工程である。金属膜は、金属微粒子が溶媒に均一に分散されてなる金属微粒子分散体を基板に塗布し、加熱により金属微粒子を反応焼結させることにより形成した。金属微粒子分散体は、粒径が、50nm程度よりも小さな粒径からなるのが好ましいが、これは、金属微粒子の粒径が小さくなると、金属微粒子表面の反応性が高くなり、金属本来の融点よりも大幅に低い温度で活性な金属微粒子が互いに融着する焼結反応が進行し金属微粒子から金属膜を得る事ができるからである。なお、粒径が、50nmよりも大きくなってくると、基板表面に形成する金属膜の被覆性が小さくなったり、即ち微粒子間に生じる空孔が大きくなるなどの問題が発生すると共に、粒径が大きくなると金属微粒子分散体内で微粒子の沈殿が発生するなどで、取り扱い上の問題も出てくる。
【0034】
金属微粒子分散体の塗布は、有機金属液体を塗布するのとなんら変わりは無く、第1の工程で形成した金属酸化物膜の表面に、まず基板の表面にスピンコーティング法やディッピング法、ディスペンサ法、スプレー法など、液体を基板に均一に塗布する塗布方法を用いて、塗布を行う。金属微粒子分散体の塗布は、有機金属液体を塗布したのと同じくスピンコーティング法により行った。この際、金属微粒子分散体は、適当な溶媒で希釈されるなどして、塗布方法に最適な濃度、若しくは粘度を有するように調整されていなければならない。塗布方法の中で、例えばスピンコーティング法では、粘度を調整された金属微粒子分散体を基板上に滴下した後に、基板を適当な回転数で適当な時間回転させることで基板表面に金属微粒子分散体の膜を形成するものである。ここで、金属微粒子分散体の粘度や、スピンコーティング時の基板の回転数や回転時間を適当に決める事で、基板表面に残留する、即ち塗布される膜の厚さを制御する事が出来る。スピンコーティング法により塗布された膜は、金属膜前駆体と呼び、基板の表面上に金属微粒子分散体が塗布された状態である。スピンコーティング法により塗布されたままの状態では、金属微粒子分散体の溶媒によっては、塗布後に溶媒が残留していたり、ほぼ溶媒は蒸発してしまっていたりする。塗布後に溶媒が多く残留している場合は、溶媒の乾燥のために、溶媒が蒸発する程度の温度で適当な時間加熱処理することが、基板に金属膜前駆体を定着させるためには有効である。基板表面に形成された金属膜前駆体は、金属微粒子の集合体として存在するので、これに熱を加えるなどの処理を施す事で、金属膜を得る。このときの加熱方法には、ホットプレートを用いる加熱や、オーブンによる加熱方法などがあり、基板形状などに応じて適当な加熱方法を選択すれば良い。この加熱処理により、基板表面に形成された金属膜前駆体は、反応して金属膜となる。なお、加熱温度と時間は、金属微粒子の粒径や金属微粒子に被覆されている分散体の分解温度などにより決定されるものであるが、最終的に金属微粒子の焼結が進行して金属膜となるような温度と加熱時間を選択すれば良い。また、乾燥と金属酸化物前駆体を反応させて金属酸化物膜を得る加熱を分けて説明したが、加熱を分ける必要はない。乾燥に要する温度と時間は、反応に要する温度と時間と異なるために、基板の種類や、有機金属酸化物液体の溶媒などを考慮して適当に選択すれば、乾燥と反応とを同時にやっても構わない。ただ、溶媒が残留した状態で急速に加熱すると、溶媒が突沸するなどして、金属酸化物膜に空孔ができることなどがあるので注意を要する。このようにして、第2の工程では、基板の表面に形成された金属酸化物膜の表面に金属膜が形成されることになる。
【0035】
本発明の実施例1の金属膜積層体は、上記の第1の工程と第2の工程からなる基板表面に金属酸化物膜を形成する工程と金属膜を形成する工程とを少なくとも2回繰り返すことで、金属膜積層体を形成するものである。従って、例えば、第1の工程と第2の工程とを2回繰り返して形成される金属膜積層体の構成は、基板/金属酸化物膜/金属膜/金属酸化物膜/金属膜の構成となる。
【0036】
さて、本発明の実施例1の金属膜積層体は、具体的には次のようにして作製した。
【0037】
図2に、本発明の実施例1の金属膜積層体形成の概略説明図を示した。なお、図2において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0038】
ガラス基板1には、耐熱性があり、表面の平滑性に優れたガラス基板1を選択した。また、有機金属化合物は、チタンキレート系のチタンテトラアセチルアセトネート(商品名マツモト交商・オルガチックスTC−401)を2−ブタノールに1重量%の濃度で希釈したものを用いた。この希釈液は、以降、チタン系の有機金属希釈液2と呼ぶ。チタン系の有機金属希釈液2のガラス基板1への塗布は、スピンコーティングにより行った。洗浄したガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて、チタン系の有機金属希釈液2をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、3000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ガラス基板1の表面に、チタン系の有機金属希釈液2からなる膜を形成した。チタン系の有機金属希釈液2をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分なチタン系の有機金属希釈液2は飛散すると共に、基板表面に残留したチタン系の有機金属希釈液2の溶媒である2−ブタノールの多くは蒸発し、図2に示したように、ガラス基板1の表面には膜即ち、金属酸化物膜前駆体4が形成されることになる。
【0039】
次に、ガラス基板1の表面に形成した金属酸化物膜前駆体4の加熱処理を行う。本実施例1では、金属酸化物膜前駆体4を形成したガラス基板1を、加熱したホットプレート上に載せることで行った。ガラス基板1の表面の温度が、300℃となるように温度設定したホットプレートに30分間載せる加熱処理を行った。こうしてガラス基板1の表面に金属酸化物膜5を形成するのが第1の工程である。なお、ここで形成した金属酸化物膜5の膜厚は、数十nm程度の非常に薄い膜である。金属酸化物膜はガラス基板と金属膜との膜の付着力を向上するためにも用いるが、膜厚は、数十nm程度の膜厚でも十分である。
【0040】
次に、金属膜6を形成する。金属膜6の形成は、金属微粒子分散体7の塗布により行った。
【0041】
ここで、金属微粒子分散体7は、直径が50nm以下程度の金属微粒子の表面を有機化合物等からなる分散材で被覆したものを有機溶媒や水などの液体に分散させたものをいう。このような金属微粒子分散体7は、ハリマ化成やアルバックマテリアルなどの企業から、銀、金、銅などの金属について市販さている。
【0042】
さて、金属膜6の形成は金属微粒子を液体に分散した金属微粒子分散体7はアルバックマテリアル製の銀の微粒子を有機溶媒に分散してなる金属微粒子分散体7(商品名・Ag1T)を用いて行った。第1の工程で形成したチタン系の金属酸化物膜5を表面に有するガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板の表面にピペット3を用いて金属微粒子分散体7をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、1000回転/分の回転数で30秒間保持することで、チタン系の金属酸化物膜5の表面に、銀の微粒子の集合体からなる膜を形成した。銀からなる金属微粒子分散体7をチタン系の金属酸化物膜5の表面に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分な金属微粒子分散体7は飛散すると共に、チタン系の金属酸化物膜5の表面に残留した金属微粒子分散体7の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には色がついた膜が形成されることになる。図2に示したように、チタン系の金属酸化物膜5の表面に滴下した金属微粒子分散体7をスピンコーティングし、チタン系の金属酸化物膜5の表面に残留した膜を金属膜前駆体8と呼ぶ。
【0043】
次に、チタン系の金属酸化物膜5の基板表面に形成した金属膜前駆体8の加熱処理を行う。本実施例1では、金属膜前駆体8を形成したガラス基板1を、加熱したホットプレート上に載せることで行った。基板表面の温度が、300℃となるように温度設定したホットプレートに10分間載せる加熱処理を行った。こうして、金属膜積層体9を形成するのが第2の工程である。なお、ここで得られた銀膜は、100nm程度の厚さの膜であった。
【0044】
上記説明した、第1の工程と第2の工程をさらに繰り返す事で、ガラス基板1の上にチタン系酸化物膜、銀膜、チタン系酸化物膜、銀膜とからなる実施例1の4層構造の積層体が形成されることになる。
【0045】
このようにして形成した実施例1の積層体にメッキ膜10を形成した。金属微粒子分散体9から形成した金属膜6にさらにメッキ膜10を形成すると、例えば、これらの金属膜6を金属配線基板として使用する際に、配線の電気抵抗を小さく出来るなど金属膜6の電気的特性の向上が図れる。
【0046】
さて、メッキ膜10は次のようにして形成した。なお、メッキ膜10は、電気抵抗を下げるという目的では、銅メッキが一般的であるのでそれに倣った。
【0047】
なお、メッキ膜形成の工程は、次の各工程からなる。まずメッキ膜を形成する基板表面付着の油分を除去するためにアルカリを用いた脱脂を行う。次に基板表面の活性化処理を行う。これらの前処理の後で、メッキ基板をメッキ液に浸漬し、所定の電流を流す事で、メッキ基板の表面への銅の析出、即ちメッキ膜の形成を行う。
【0048】
メッキ膜の形成は、具体的には、アルカリ脱脂は奥野製薬工業社製のエースクリーンの浸漬により、酸活性は硫酸水溶液の浸漬により行った。また、メッキは、アノードバックに入れた銅インゴットの可溶性アノードを用い、硫酸銅、硫酸、塩素イオン、奥野製薬製の添加剤トップルチナMKN−Mからなる銅メッキ浴で、室温、スターラー攪拌の元、電流密度を所定の値として、メッキ膜形成の処理を行い、ほぼ1μmの厚さの銅のメッキ膜を得た。
【0049】
実施例1の金属膜積層体9に、このようなメッキ膜形成処理を行い、図3のメッキ膜を形成した本発明の実施例1の金属膜積層体9の概略断面図に示したような銅のメッキ膜10を形成した実施例1の金属膜積層体9を作製した。
【0050】
次に比較例1の金属膜積層体9を作製した。
【0051】
実施例1と同様にして、ガラス基板に対して第1の工程と第2の工程とを繰り返し、ガラス基板の表面に、チタン系酸化物と銀膜の2層からなる積層膜を形成して、さらに、実施例1と同様のメッキ処理を行いメッキ膜10を形成して、図4(a)の比較例の金属膜積層体9の概略断面図に示したような比較例1の金属膜積層体9を作製した。
【0052】
また、比較例2の金属膜積層体9を形成した。実施例と同様ではあるが、成膜の順番を変えたものである。即ち、図4(b)の比較例の金属膜積層体9の概略断面図に示したようなガラス基板に対して、第2の工程と第1の工程と第2の工程とを繰り返して、ガラス基板の表面に、銀膜とチタン系酸化物と銀膜の3層からなる金属膜積層体9を形成した。さらに実施例1と同様のメッキ処理を行いメッキ膜10を形成しようと試みたが、メッキの前処理の段階で、基板と金属膜積層体9との膜剥離が発生し、比較例2ではメッキ膜10を有する金属膜積層体9を得る事はできなかった。
【0053】
このようにして作製した実施例1と比較例1、2の金属膜積層体について、ガラス基板と金属膜積層体との付着強度について調べた。なお、付着強度の評価は、テープ剥離試験により行った。テープ剥離試験の結果を(表1)に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(表1)に示したように、実施例1では、ガラス基板1と金属膜積層体9との剥離は無く、良好な付着強度を示した。一方、比較例1と比較例2とでは、ガラス基板1と金属膜積層体9との間での剥離が認められた。この結果から、本発明の実施例1で示したような、ガラス基板1にチタン系酸化物膜、銀膜、チタン系酸化物膜、銀膜の順に4層の膜が積層されてなる金属膜積層体9は、ガラス基板1と良好な付着性を示し、さらにその上にメッキ膜10を形成してもなんらの問題ない程度の膜と基板との付着強度を有していると言える。
【0056】
一方、比較例1で示した金属膜積層9体は、ガラス基板1の表面に、チタン系酸化物膜と銀膜とからなる2層の積層膜、及び比較例2で示したようなガラス基板の表面上に銀膜を成膜し、その上にチタン系酸化物膜と銀膜とを積層してなる3層の積層膜では、ガラス基板1と金属膜積層体9との間での膜の剥離が発生するという問題がある。
【0057】
これら、実施例1と比較例1、比較例2とでこのような差が出た原因についてさらに詳細に調べてみた。具体的には、実施例1と比較例1、比較例2とでメッキ膜10を形成しない状態、即ちチタン系の酸化物膜と銀膜との金属膜積層体9からなる試料を、メッキ膜10を形成する工程で使用するアルカリ性溶液と酸性溶液とメッキ液への所定時間の浸漬を行った後にテープ剥離試験を行ってみた。なお、メッキ液への浸漬時には、電流を流さずにメッキ膜の形成は行っていない。このような処理を行った試料に対して、上述と同様のテープ剥離試験を行った。その試験結果を(表2)に示す。試験結果は、メッキ膜を施した場合の試験結果と同じであった。また、金属膜積層体9の溶液浸漬の処理をしていない場合の剥離試験の結果は、実施例1と比較例1、比較例2とで金属膜積層体9の剥離は無くガラス基板1と金属膜積層体9とは良好な付着性を有している。
【0058】
【表2】

【0059】
以上の結果から、アルカリ性溶液と酸性溶液とメッキ液への所定時間の浸漬を要するメッキ膜形成の処理によりガラス基板1と積層膜との付着強度の劣化が発生した事が分かる。さらに詳細に調べたところ、比較例1、比較例2では、メッキ膜形成の前処理の酸性溶液やメッキ液への浸漬により、これらの溶液が金属膜積層体9の中を通って浸入し、ガラス基板1と金属膜積層体9との間で何らかの影響を及ぼしていることが予想できた。これは、即ち金属膜積層体9に例えば酸性溶液などの外部からの物質が、比較例1や比較例2の金属膜積層体9と触れた場合、酸性溶液が金属膜積層体9とガラス基板1との界面まで到達する事を意味しており、これらの金属膜積層体9は環境性に対して脆弱な金属膜積層体9であると言える。一方で、ガラス基板1の上にチタン系酸化物膜、銀膜、チタン系酸化物膜、銀膜の順に形成してなる実施例1の試料では、上記のような溶液への浸漬に対しても膜の剥離など発生していない。これは、このような膜構造とすることで、酸性溶液などの外部からの物質が、金属膜積層体9とガラス基板1への到達を阻止できたものと考えている。
【0060】
上記に述べたように、金属微粒子分散体を用いると、基板への金属微粒子分散体の塗布と比較的低温での加熱により、金属微粒子が焼結し金属薄膜を形成できるのであるが、比較例1や比較例2で示したような膜では、金属膜積層体9に例えば酸性溶液などの外部からの物質が、膜と基板との界面まで到達する事を意味しており、金属微粒子の焼結による膜では、基板全体を被覆できずに、金属膜積層体9と基板との間に酸性溶液などが侵入できる貫通孔が残っているものと予測できる。従ってこれらの膜では耐環境性に対して剥離などの問題が発生するために工業的な使用が限定されるのである。しかしながら、本実施例1で示したような構成の金属膜積層体9とすれば、従来の真空系を用いて形成するような膜と比べて、金属微粒子分散体7の塗布と比較的低温での加熱という工業的にも簡単な工程で形成できる金属膜積層体9に、例えば外部からの酸性溶液などの浸入を阻止できるという耐環境特性を付与した金属膜積層体9を容易に製造できるということであり、金属微粒子の分散体から形成する金属膜6の工業的な利用範囲を広げる事ができるということである。例えばその一つとして、金属微粒子分散体7を用いて、塗布と比較的低温での加熱という簡単な工程で形成できる金属膜積層体9をメッキの下地膜として利用可能になり、しかも、基板と膜との付着強度も劣化のないメッキ膜10の形成が可能となり、この特性は、金属配線基板へも応用できる。
【0061】
なお、金属粒子径は、5nm程度の粒径からなる金微粒子分散体を用いたが、金属微粒子分散体に分散された金属微粒子の粒子系は50nm程度であれば、金属微粒子の加熱焼結温度も比較的に低温に保つ事が出来るので、問題は無い。ただし、粒径が、大きくなれば、たとえ微粒子の溶媒内での分散状態を良好に保っていたとしても、重力による沈殿の問題などが出てくるので、金属微粒子の粒子径が大きな分散体では、基板への塗布などの際に分散体の濃度ムラが発生するなどの問題が出てきて工程の管理に注意を要するようになる。
【0062】
なお、基板には、ガラス基板を用いたが、基板は金属膜積層膜の用途により変えれば良く、ガラス基板にこだわるものではない。
【0063】
また、金属酸化物は、チタン系の有機金属化合物を用いて金属酸化物膜の形成を行ったが、金属酸化物膜の形成には、チタン系の有機金属化合物にこだわるものではなく、ジルコニウム系の有機金属化合物や、アルミニウム系の有機金属化合物などでも構わない。ただしこれらの有機金属化合物を用いた場合は、金属酸化物膜は、ジルコニウム酸化物膜、アルミニウム酸化物膜となる。金属膜の形成を、金属微粒子分散体の塗布で行うために、金属酸化物膜の形成も塗布でできるような材料が金属膜積層体の製造上望ましい。
【0064】
また、金属膜は銀に限るものではなく、パラジウム、銅、金あるいはこれらを主成分とする合金からなる金属膜でもなんら構わない。要は、金属微粒子の分散体を用いて金属膜を得ようとした場合、耐環境性を有する膜とするためには実施例1で示したような構成の金属膜積層体とすることは効果的であるということである。
【0065】
(実施例2)
実施例1では、ガラス基板1に有機金属化合物を塗布乾燥して、金属酸化物膜前駆体4とし、それを加熱して金属酸化物膜5を形成後に、金属微粒子分散体7を塗布して金属膜前駆体8を形成してさらに加熱して金属膜6を形成し、これら2つの工程を繰り返して金属膜積層体9を形成したが、金属膜積層体9は、液体の塗布乾燥後に都度加熱するのではなく、液体の塗布乾燥を繰り返して前駆体膜の積層体を形成後に加熱焼結を行っても耐環境性に優れた金属膜積層体9を形成できる。実施例2にその例を示す。
【0066】
図5は、本発明の実施例2の金属膜積層体形成の工程図である。本発明の金属膜積層体の製造方法は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成する第1の工程と、金属酸化物膜前駆体の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成する第2の工程と、金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体との積層体を加熱して金属酸化物膜と金属膜との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に少なくとも2回繰り返すことにより金属膜積層体を形成するものである。
【0067】
本発明の実施例2の金属膜積層体は、実施例1で示したのと同様に次のようにして作製した。図6に、本発明の実施例2の金属膜積層体形成の概略説明図を示した。なお、図6において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0068】
まず、ガラス基板1に金属酸化物膜5を形成するために有機金属化合物を塗布する。
有機金属化合物は、ジルコニウムキレート系のジルコニウムテトラアセチルアセトネート(商品名マツモト交商・オルガチックスZC−700)を2−ブタノールに1重量%の濃度で希釈したものを用いた。この希釈液は、以降、ジルコニウム系の有機金属希釈液2と呼ぶ。基板としてガラス基板1を選定し、ジルコニウム系の有機金属希釈液2の塗布は、スピンコーティング法により行った。洗浄したガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペットを用いてジルコニウム系の有機金属希釈液2を基板全面の滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、3000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ガラス基板1の表面に、ジルコニウム系の有機金属希釈液2からなる膜を形成した。ジルコニウム系の有機金属希釈液2をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分なジルコニウム系の有機金属希釈液2は飛散すると共に、基板表面に残留したジルコニウム系の有機金属希釈液2の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には膜が形成されることになる。図6に示したように、ガラス基板1の表面には膜即ち、金属酸化物膜前駆体4が形成されることになる。基板上に金属酸化物膜前駆体4を形成する工程を第1の工程とする。
【0069】
実施例1では、この後に金属酸化物膜前駆体4を加熱処理して金属酸化物膜5を得た後に金属微粒子分散体7を塗布したが、実施例2では、金属酸化物膜前駆体4に加熱処理を施すことなく金属微粒子分散体7を塗布するものである。
【0070】
即ち、第1の工程で形成したガラス基板1の上の金属酸化物膜前駆体4の上に、金属膜前駆体8を形成することになる。
【0071】
金属膜前駆体8の形成は実施例1と同様に、金属微粒子分散体7の塗布により行った。
【0072】
さて、金属膜6の形成は、金属微粒子を液体に分散した金属微粒子分散体7にハリマ化成製の銀の微粒子を有機溶媒に分散してなる金属微粒子分散体7(商品名NPS−J)を用いて行った。第1の工程で形成したジルコニウム系の金属酸化物膜前駆体4を表面に有するガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて金属微粒子分散体7をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、1000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ジルコニウム系の金属酸化物膜前駆体4の表面に、銀の微粒子の集合体からなる膜を形成した。銀からなる金属微粒子分散体7をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分な金属微粒子分散体7は飛散すると共に、基板表面に残留した金属微粒子分散体7の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には色がついた膜が形成されることになる。図2に示したように、ガラス基板1に滴下した金属微粒子分散体7をスピンコーティングし、ガラス基板1の表面に残留した膜を金属膜前駆体8と呼ぶ。このように金属膜前駆体8を形成する工程を第2の工程とする。
【0073】
次に、第1の工程と第2の工程とでガラス基板1の上に形成した、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8の積層体を加熱し、分解及び焼結により、金属酸化物膜5と金属膜6との積層体を形成する工程を第3の工程とする。第3の工程は、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8の積層体が形成されたガラス基板1をホットプレートを用いて300℃10分間の加熱処理により行った。こうして第3の工程によりガラス基板1の上に金属酸化物膜5と金属膜6との金属膜積層体9、即ちガラス基板1の上に、ジルコニウム酸化物膜と銀膜との2層の積層体が形成されることになる。ジルコニウム酸化物の厚さは数十nm程度であり、銀膜の厚さは、100nm程度であった。実施例2の金属膜積層体9は、この2層の積層体上にさらに、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを繰り返すことで、ガラス基板1の上にジルコニウム酸化物膜/銀膜/ジルコニウム酸化物膜/銀膜の4層構成の金属膜積層体9である。
【0074】
このようにして形成した実施例2の金属膜積層体9に実施例1と同様にして銅のメッキ膜10を形成した。
【0075】
膜厚が約1μmの銅のメッキ膜10を形成した実施例2の試料について、ガラス基板1と金属膜積層体9との付着強度を、実施例1と同様にして、テープ剥離試験により行った。銅のメッキ膜10を形成した実施例2では、ガラス基板1と金属膜積層体9との剥離の発生は無く、良好な付着性を示した。この結果から、本発明の実施例2で示したような、基板1の表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体4を形成する第1の工程と、金属酸化物膜前駆体4の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体7を塗布乾燥して金属膜前駆体8を形成する第2の工程と、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8との積層体を加熱して金属酸化物膜5と金属膜6との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを少なくとも2回繰り返すことによりで金属膜積層体9を形成する金属膜積層体9の製造方法で形成した金属膜積層体9であっても、ガラス基板1にジルコニウム系酸化物膜、銀膜、ジルコニウム系酸化物膜、銀膜の順に4層の膜で積層されてなる金属膜積層体9は、ガラス基板1と良好な付着性を示し、さらにその上にメッキ膜10を形成しても膜と基板との良好な付着強度を確認できた。
【0076】
なお、金属酸化物膜前駆体4は、実施例2では、加熱による反応の時間が短いためにジルコニウム酸化物になってしまうものではなく、一部有機物が残存した状態のジルコニウム酸化物であると考えられるが、膜の付着強度などにはなんらの問題は無い。
【0077】
実施例2で示したように、金属酸化物膜前駆体4に加熱処理を施すことなく金属微粒子分散体7を塗布乾燥して、金属膜前駆体8を形成した後に加熱処理して金属酸化物膜5と金属膜6の積層体を形成しそれを繰り返して形成した実施例2の金属膜積層体9でも、実施例1で形成した金属膜積層体9となんらかわらない耐環境性に優れた金属膜積層体9を形成できる。実施例2では、実施例1と比べて、加熱処理の回数が減少するため、生産性が向上する。
【0078】
なお、実施例2では、金属酸化物膜5にジルコニウム酸化物を用いたが、実施例1と同様、チタン酸化物でもなんら問題は無い。実施例2にチタン酸化物を用いた場合も加熱に依る反応の時間が短いためにチタン酸化物になってしまうものではなく、一部有機物が残存した状態のチタン酸化物であると考えられるが、膜の付着強度などにはなんらの問題は無い。
【0079】
また、金属膜は銀に限るものではなく、パラジウム、銅、金あるいはこれらを主成分とする合金からなる金属膜でもなんら構わない。要は、金属微粒子の分散体を用いて金属膜を得ようとした場合、耐環境性を有する膜とするためには実施例1で示したような構成の金属膜積層体とすることは効果的であるということである。
【0080】
(実施例3)
さて、ここまでは、ガラス基板に形成した。パターンを有しない金属膜積層体としての検討を述べたが、金属配線基板への応用は容易である。その例について図7を用いて示す。図7は、本発明の実施例3の金属配線基板形成の概略説明図である。なお、図7において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0081】
実施例1で示したような金属膜積層体9をガラス基板1に積層形成する。即ち、チタン系の有機金属化合物と銀を主成分とする金属微粒子分散体とをガラス基板上塗布及び加熱を繰り返す事で、にチタン酸化物膜と銀膜との積層体を形成する。積層数を4層として耐環境性に優れた積層体を形成した。
【0082】
このようにして形成した積層体にフォトリソグラフィーにより配線パターンを形成する。それには、金属膜積層体9の表面に、フォトレジスト11を塗布して、露光機により、配線パターンが形成されたマスクパターンをフォトレジスト11上に転写、現像処理により、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターンが形成される。実施例3では、金属膜に銀膜を利用しているので、硝酸系のエッチング液に、配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成されたフォトレジスト膜を有する金属膜積層体9を浸漬、フォトレジスト11の被覆が無い箇所をエッチング除去後にリンスし、さらにフォトレジスト11を除去することで、配線パターン13を有する金属膜積層体の実施例3の金属配線基板を形成した。ここで、チタンアセチルアセトネートなどの有機金属化合物液体の加熱反応により得た金属酸化物膜は、一部有機物基が残存したようなチタン酸化物膜となっており、適当な酸処理によりエッチングできる。なお、エッチング処理の際にも金属積層体膜の剥離の発生は無かった。
【0083】
金属膜の厚みは200nm程度であり、用途によっては、このまま金属配線基板として使用することも可能である。この実施例3の金属配線基板の配線パターン膜の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性の金属膜積層体であることを確認できた。
【0084】
(実施例4)
実施例3では、金属膜は、金属微粒子の塗布と焼結からなる金属膜積層体であり、その膜厚は、200nm程度であるが、用途によっては、さらに金属膜、即ち導電体の膜厚を厚くする必要がある。本実施例4では、金属膜は、金属微粒子分散体の塗布と焼結からなる金属膜積層体にさらにメッキ膜を形成した例について図8を用いて示す。図8は、本発明の実施例4の金属配線基板形成の概略説明図である。なお、図8において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0085】
実施例1で示したような金属膜積層体9をガラス基板1に積層形成する。即ち、チタン系の有機金属化合物と銀を主成分とする金属微粒子分散体とをガラス基板上塗布及び加熱を繰り返す事で、チタン酸化物膜と銀膜との積層体を形成する。積層数を4層として耐環境性に優れた積層体を形成した。
【0086】
このようにして形成した積層体にフォトリソグラフィーにより配線パターンを形成する。それには、金属膜積層体9の表面に、フォトレジスト11を塗布して、露光機により、配線パターンが形成されたマスクパターンをフォトレジスト11上に転写、現像処理により、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成される。即ち、金属膜積層体9の上にフォトレジスト11で被覆された領域とフォトレジスト11で被覆されない、露出した領域が、配線パターン状に形成されることになる。次にメッキ膜10を形成する。メッキ膜10は実施例1で示したものと同様に銅を電解メッキにより形成した。実施例1との違いは、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成されているかどうかの違いのみである。実施例4の基板を実施例1で示したものと同様のメッキ液に浸漬して、電流を流す事で、フォトレジスト11の被覆が無い露出部に銅のメッキ膜10を形成した。メッキ膜10を形成後にフォトレジスト11を除去し、さらにフォトレジスト11で被覆されていてメッキ膜10が形成されなかった部分、この領域は、電解メッキの際の導体層として使用したが、金属配線基板では不要であるので、エッチング液で除去する。こうして金属膜積層体9をメッキの下地層に用いて、メッキ膜10が形成された配線パターン13を有する実施例4の金属配線基板を形成した。この実施例4の金属配線基板の配線パターン膜の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性を有する金属膜積層体9からなる配線パターンであることを確認できた。
【0087】
このように、金属微粒子分散体からなる金属膜積層体を電解メッキの下地層として利用しても金属膜積層体の剥離が発生しない膜を形成できるので、従来のスパッタリングや蒸着などの真空プロセスで金属膜を形成し、それをメッキの下地層に利用する場合よりも極めて簡単に、即ち、真空装置などの高価な設備を用いることなく、金属微粒子分散体の塗布と加熱とだけで、メッキの下地層を形成できる。
【0088】
(実施例5)
上記に述べたように金属微粒子の分散体からなる液体を塗布して金属膜前駆体を形成しそれを加熱焼結することで得られる金属膜は、外観は、スパッタや蒸着などの真空プロセスで形成した膜と変わらないのであるが、環境放置試験などを行うと、膜の剥離が発生するなどの耐環境性に問題があり、実用上の使用が困難であった。これらの原因は、微視的に見た場合、金属膜に多くの金属膜表面と金属膜とそれを形成している基板表面との間での貫通孔があるためではないかと予測される。このために、複数層に積層することで貫通孔がふさがり、耐環境性の良好な金属膜が得られるものだと考えられる。実施例1から4で示した金属膜積層体は、金属酸化物膜と金属膜の積層で構成したが、金属酸化物膜は、基板と金属膜、また金属膜と金属膜の間での膜の付着強度を良好なものにしているものと予想している。しかしながら、いずれも塗布という同一の工程を取るにもかかわらず、材料が異なると生産性上の取り扱いが手間になるなどの問題もある。そこで、基板と金属膜との間には金属酸化物膜を形成し、その後の金属膜を、金属膜のみの積層で、耐環境性を有する金属膜積層体が形成できないかについて試みた結果、金属膜の膜厚をある一定以上とすることで効果を得たので実施例5に示す。
【0089】
図9は、本発明の実施例5の金属膜積層体形成の工程図である。本発明の金属膜積層体の製造方法は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、さらに加熱反応させて金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成し、さらに加熱焼結させて金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程で金属酸化物膜を形成した後に、第2の工程を3回以上繰り返すことにより金属膜積層体を形成するものである。
【0090】
本発明の実施例5の金属膜積層体は、実施例1で示したのと同様に次のようにして作製した。図10に、本発明の実施例5の金属膜積層体形成の概略説明図を示した。なお、図10において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0091】
基板には、耐熱性があり、表面の平滑性に優れたガラス基板1を選択した。また、有機金属化合物は、チタンキレート系のチタンテトラアセチルアセトネート(商品名マツモト交商・オルガチックスTC−401)を2−ブタノールに1重量%の濃度で希釈したものを用いた。この希釈液は、以降、チタン系の有機金属希釈液2と呼ぶ。チタン系の有機金属希釈液2のガラス基板1への塗布は、スピンコーティング法により行った。洗浄したガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて、チタン系の有機金属希釈液2を基板の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、3000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ガラス基板1の表面に、チタン系有機溶液からなる膜を形成した。チタン系の有機金属希釈液2をガラス基板に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分なチタン系の有機金属希釈液2は飛散すると共に、基板表面に残留したチタン系の有機金属希釈液2の溶媒である2−ブタノールの多くは蒸発し、基板表面には膜即ち、金属酸化物膜前駆体4が形成されることになる。
【0092】
次に、基板表面に形成した金属酸化物膜前駆体4の加熱処理を行う。本実施例5では、金属酸化物膜前駆体4を形成したガラス基板1を、加熱したホットプレート上に載せることで行った。基板表面の温度が、300℃となるように温度設定したホットプレートに30分間載せる加熱処理を行った。こうして基板表面に金属酸化物膜5を形成するのが第1の工程である。なお、ここで形成した金属酸化物膜5の膜厚は、数十nm程度であった。金属酸化物膜はガラス基板と金属膜との膜の付着力を向上するために用いるが、膜厚は、数十nm程度の膜厚でも十分である。
【0093】
次に、金属膜6を形成する。金属膜6の形成も実施例1と同様に、金属微粒子分散体7の塗布により行った。
【0094】
ここで、金属微粒子分散体7は、直径が50nm以下程度の金属微粒子の表面を有機化合物等からなる分散材で被覆したものを有機溶媒や水などの液体に分散させたものをいう。このような金属微粒子分散体は、ハリマ化成やアルバックマテリアルなどの企業から、銀、金、銅などの金属について市販さている。
【0095】
さて、金属膜6の形成は金属微粒子を液体に分散した金属微粒子分散体7はアルバックマテリアル製の銀の微粒子を有機溶媒に分散してなる金属微粒子分散体7(商品名・Ag1T)を用いて行った。第1の工程で形成したチタン系の金属酸化物膜5を表面に有するガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペットを用いて金属微粒子分散体を基板全面に滴下後、ガラス基板を所定の回転数で所定の時間、例えば、1000回転/分の回転数で30秒間保持することで、チタン系金属酸化物膜の表面に、銀の微粒子の集合体からなる膜を形成した。銀からなる金属微粒子分散体7をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分な金属微粒子分散体7は飛散すると共に、基板表面に残留した金属微粒子分散体7の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には色がついた膜が形成されることになる。ガラス基板1に滴下した金属微粒子分散体7をスピンコーティングし、基板表面に残留した膜を金属膜前駆体8と呼ぶ。
【0096】
次に、基板表面に形成した金属膜前駆体8の加熱処理を行う。本実施例5では、金属膜前駆体8を形成したガラス基板1を、加熱したホットプレート上に載せることで行った。基板表面の温度が、300℃となるように温度設定したホットプレートに10分間載せる加熱処理を行った。こうして、金属膜6を形成するのが第2の工程である。
【0097】
上記に説明した、第1の工程で、ガラス基板上に金属酸化物膜4を形成した後に、第2の工程により金属膜6を形成した。実施例5では、第1の工程の後で、第2の工程を繰り返すことで、金属膜6の積層体を形成した。第2の工程の繰り返し回数を変えた試料を作製して、実施例1と同様に銅メッキを施して、その後の膜の付着強度をテープ剥離試験で調べた。その結果を(表3)に示す。例えば積層数1の試料は、基板/チタン酸化物膜/銀膜/銅のメッキ膜の層構成であり、積層数3の試料は、基板/チタン酸化物膜/銀膜/銀膜/銀膜/銅のメッキ膜の層構成であることを示す。
【0098】
なお、塗布したチタン酸化物膜の膜厚は、数nm程度であり、銀膜の1層の膜厚は、100nm程度、銅のメッキ膜の厚さは、1μm程度である。
【0099】
【表3】

【0100】
(表3)から分かるように、メッキ膜10を形成していない試料では、銀膜の積層数にかかわらずテープ剥離試験による金属膜積層体9とガラス基板1との剥離は発生せずに良好な付着強度を示した。一方で、メッキ膜10を形成した試料では、積層数が1層、2層の金属膜積層体9では、金属膜積層体9の剥離が発生し、積層数が3層、4層の金属膜積層体9では、金属膜積層体9の剥離の発生は無いことが分かる。
【0101】
このように、金属微粒子分散体7の塗布と比較的低温での金属微粒子の焼結により形成した金属膜積層体9は、金属膜の積層数を3層とすることで、メッキ膜10を形成した後も膜の付着強度が劣化しない金属膜積層体9とすることができる。
【0102】
なお金属膜6の厚さが、3層程度の厚さである300nm程度になるように、金属微粒子分散体を一度に厚く塗っても構わない。ただし、厚く塗ることによる、塗布膜の広がりや、乾燥の際の塗布膜への亀裂の発生などの問題が出てくるので、製造工程上の注意が必要となる。これら製造工程上の注意点を考えると、本実施例5で示したような金属膜積層体9の製造方法が、金属微粒子分散体7を一度に厚く塗る製造方法よりも製造工程は増えるが製造し易いといえる。
【0103】
また、金属膜は銀に限るものではなく、パラジウム、銅、金あるいはこれらを主成分とする合金からなる金属膜でもなんら構わない。要は、金属微粒子の分散体を用いて金属膜を得ようとした場合、耐環境性を有する膜とするためには実施例5で示したような構成の金属膜積層体とすることは効果的であるということである。
【0104】
(実施例6)
さて、実施例5では、ガラス基板に形成した。パターンを有しない金属膜積層体について示したが、金属配線基板への応用は容易である。その実施例について図11を用いて示す。図11は、本発明の実施例6の金属配線基板形成の概略説明図である。なお、図11において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0105】
まず、実施例5で示したような金属膜積層体9をガラス基板1に積層形成する。ここで、金属膜の積層数は3層として、金属膜積層体9の耐環境特性、或いは耐メッキ液特性に問題の無い金属膜積層体を形成した。
【0106】
このようにして形成した積層体にフォトリソグラフィーにより配線パターンを形成する。それには、金属膜積層体9の表面に、フォトレジスト11を塗布して、露光機により、配線パターンが形成されたマスクパターンをフォトレジスト11上に転写、現像処理により、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成される。実施例3では、金属膜6に銀膜を利用しているので、硝酸系のエッチング液に、配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成されたフォトレジスト膜を有する金属膜積層体9を浸漬、フォトレジスト11の被覆が無い箇所をエッチング除去後にリンスし、さらにフォトレジスト11を除去することで、配線パターン13を有する金属膜積層体の実施例3の金属配線基板を形成した。なお、エッチング処理の際にも金属積層体膜の剥離の発生は無かった。
【0107】
金属膜の厚みは300nm程度であり、用途によっては、このまま金属配線基板として使用することも可能である。この実施例3の金属配線基板の配線パターン膜の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性の金属膜積層体であることを確認した。
【0108】
(実施例7)
実施例3では、金属膜は、金属微粒子の塗布と焼結からなる金属膜積層体であり、その膜厚は、300nm程度であるが、用途によっては、さらに金属膜、即ち導電体の膜厚を厚くする必要がある。本実施例7では、金属膜は、金属微粒子の塗布と焼結からなる金属膜積層体にさらにメッキ膜を形成した例について図12を用いて示す。図12は、本発明の実施例7の金属配線基板形成の概略説明図である。なお、図12において(a)から順に行い、以下詳細に実施例5で示したような金属膜積層体をガラス基板に積層形成する。ここで、金属膜の積層数は3層として、金属膜積層体の耐環境特性、或いは耐メッキ液特性に問題の無い積層体を形成した。
【0109】
このようにして形成した積層体にフォトリソグラフィーにより配線パターンを形成する。それには、金属膜積層体9の表面に、フォトレジスト11を塗布して、露光機により、配線パターンが形成されたマスクパターンをフォトレジスト11上に転写、現像処理により、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成される。即ち、金属膜積層体9の上にフォトレジスト11で被覆された領域とフォトレジスト11で被覆されない、露出した領域が、配線パターン状に形成されることになる。次にメッキ膜10を形成する。メッキ膜10は実施例1で示したものと同様に銅を電解メッキにより形成した。実施例1との違いは、金属膜積層体9の表面上に配線パターン形状のフォトレジストパターン12が形成されているかどうかの違いのみである。実施例4の基板を実施例1で示したものと同様のメッキ液に浸漬して、電流を流す事で、フォトレジスト11の被覆が無い露出部に銅のメッキ膜10を形成した。メッキ膜10を形成後にフォトレジスト11を除去し、さらにフォトレジスト11で被覆されていてメッキ膜10が形成されなかった部分、この領域は、電解メッキの際の導体層として使用したが、金属配線基板では不要であるので、エッチング液で除去する。こうして金属膜積層体9をメッキの下地層に用いて、メッキ膜10が形成された配線パターン13を有する実施例4の金属配線基板を形成した。この実施例4の金属配線基板の配線パターン膜の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性を有する金属膜積層体9からなる配線パターン13であることを確認できた。
【0110】
このように、金属微粒子分散体からなる金属膜積層体を電解メッキの下地層として利用しても金属膜積層体の剥離が発生しない膜を形成できるので、従来のスパッタリングや蒸着などの真空プロセスで金属膜を形成し、それをメッキの下地層に利用する場合よりも極めて簡単に、即ち、真空装置などの高価な設備を用いることなく、金属微粒子分散体の塗布と加熱とだけで、メッキの下地層を形成できる。
【0111】
(実施例8)
実施例1から7では、金属酸化物膜前駆体と金属膜前駆体の熱処理による反応及び金属微粒子の焼結による、金属酸化物膜の形成と金属膜との形成の加熱方法は、いずれの場合もホットプレートを用いた基板全面の加熱により行ったが、これらの加熱はレーザー光線などのエネルギー線を用いて局所的な加熱を行っても何ら構わない。実施例8では、エネルギー線にレーザー光線を用いて、金属膜前駆体に走査照射することで、局所的に加熱することで、金属膜前駆体全面を金属化ずるのではなく、レーザー光線の照射領域だけを局所的に金属化することで、パターン形状を有した金属膜積層体を形成した。図13に実施例8の工程図を示す。図13は、本発明の実施例8の金属膜積層体形成の工程図である。なお、図13において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0112】
工程図に示したように、実施例8の金属膜積層体は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、金属膜前駆体にエネルギー線を走査照射して、エネルギー線の照射領域の金属前駆体被膜を金属化して金属膜を形成する第2の工程と、エネルギー線の未照射領域の金属膜前駆体を除去する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程を順番に少なくとも2回繰り返すことにより金属膜積層体を形成するものである。
【0113】
本発明の実施例8の金属膜積層体は、図14に本発明の実施例8の金属配線基板形成の概略説明図に示したように(a)から順に作製した。
【0114】
ガラス基板1には、耐熱性があり、表面の平滑性に優れたガラス基板1を選択した。また、有機金属化合物は、チタンキレート系のチタンテトラアセチルアセトネート(商品名マツモト交商・オルガチックスTC−401)を2−ブタノールに1重量%の濃度で希釈したものを用いた。この希釈液は、以降、チタン系の有機金属希釈液2と呼ぶ。チタン系の有機金属希釈液2のガラス基板1への塗布は、スピンコーティングにより行った。洗浄したガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて、チタン系の有機金属希釈液2をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、3000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ガラス基板1の表面に、チタン系の有機金属希釈液2からなる膜を形成した。チタン系の有機金属希釈液2をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分なチタン系の有機金属希釈液2は飛散すると共に、基板表面に残留したチタン系の有機金属希釈液2の溶媒である2−ブタノールの多くは蒸発し、ガラス基板1の表面には膜即ち、金属酸化物膜前駆体4が形成されることになる。
【0115】
次に、ガラス基板1の表面に形成した金属酸化物膜前駆体4の加熱処理を行う。本実施例1では、金属酸化物膜前駆体4を形成したガラス基板1を、加熱したホットプレート上に載せることで行った。ガラス基板1の表面の温度が、300℃となるように温度設定したホットプレートに30分間載せる加熱処理を行った。こうしてガラス基板1の表面に金属酸化物膜5を形成するのが第1の工程である。なお、ここで形成した金属酸化物膜5の膜厚は、数十nm程度の非常に薄い膜である。金属酸化物膜5はガラス基板1と金属膜6との膜の付着力を向上するためにも用いるが、膜厚は、数十nm程度の膜厚でも十分である。ここまでが、第1の工程である。
【0116】
次に、金属膜6を形成する。金属膜6の形成は、金属微粒子分散体7の塗布により行った。
【0117】
ここで、金属微粒子分散体7は、直径が50nm以下程度の金属微粒子の表面を有機化合物等からなる分散材で被覆したものを有機溶媒や水などの液体に分散させたものをいう。このような金属微粒子分散体7は、ハリマ化成やアルバックマテリアルなどの企業から、銀、金、銅などの金属について市販さている。
【0118】
さて、金属膜6の形成は金属微粒子を液体に分散した金属微粒子分散体7はアルバックマテリアル製の銀の微粒子を有機溶媒に分散してなる金属微粒子分散体7(商品名・Ag1T)を用いて行った。第1の工程で形成したチタン系の金属酸化物膜5を表面に有するガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて金属微粒子分散体7をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、1000回転/分の回転数で30秒間保持することで、チタン系の金属酸化物膜5の表面に、銀の微粒子の集合体からなる膜を形成した。銀からなる金属微粒子分散体7をチタン系の金属酸化物膜5の表面に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分な金属微粒子分散体7は飛散すると共に、チタン系の金属酸化物膜5の表面に残留した金属微粒子分散体7の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には色がついた膜が形成されることになる。図2に示したように、チタン系の金属酸化物膜5の表面に滴下した金属微粒子分散体7をスピンコーティングし、チタン系の金属酸化物膜5の表面に残留した膜を金属膜前駆体8と呼ぶ。
【0119】
このようにして形成した金属膜前駆体8の加熱焼結、即ち金属化は、レーザー光源14から出射されたレーザー光線15を走査照射することにより行った。チタン系の金属酸化物膜5の表面に形成した金属膜前駆体8を有するガラス基板1をレーザー光線照射装置にセットし、チタン系の金属酸化物膜5の表面に形成した金属膜前駆体8を有するガラス基板1とレーザー光線15との相対移動により、金属膜前駆体表面を走査照射する事になる。例えば図14の矢印方向が相対移動方向になる。図14ではレーザー光源が移動するような図となっているが、これは相対移動を示すための模式図であり、レーザー光源を移動するよりも基板側を移動させたほうが、レーザー光線照射装置の製造と管理が容易であることは言うまでも無い。レーザー光線15の走査照射は、波長532nmの光線を光学系により絞込み、照射幅が20μmとなるようにして行った。金属膜前駆体8はレーザー光線15の照射により、レーザー光線15の一部を吸収し、それに因る熱で加熱されることになる。金属膜前駆体8の温度が300℃程度になると、金属膜前駆体8に存在する金属微粒子、ここでは銀の微粒子となるが、これらの金属微粒子が、相互に融着し焼結されて金属膜6へと変化する。このように、レーザー光線15が走査照射されて、加熱されたところだけが、金属膜前駆体8から金属膜6へと変化する。ここで、レーザー光線15が照射されていない領域は、即ち加熱されない領域であり、金属膜6へと変化することなく金属膜前駆体8の状態を保っている。ここまでが第2の工程である。
【0120】
レーザー光線15の走査照射が終了し、所望の形状の金属膜6を得たら、レーザー光線15が照射されていない領域の金属膜前駆体8の除去を行うが、これは、金属微粒子分散体7で使用している溶媒への基板の浸漬及びリンス処理を行う事で容易にできる。ここでは、Ag1Tの溶媒であるトルエンを用いた。この処理が第3の工程である。
【0121】
実施例8の試料は、上記の第1の工程と第2の工程と第3の工程を順番に繰り返すことで、ガラス基板1の上に、チタン系酸化物膜、銀膜、チタン系酸化物膜、銀膜の積層構成からなる金属積層体9を形成してなるものである。ただし、第2の工程でレーザー光線15の照射により金属膜前駆体8を金属化する場合、一回目と2回目のレーザー光線15の照射では、レーザー光線15の照射領域はほぼ重なるように注意する必要があるが、これは、実施例1、2で示したように、金属微粒子の分散体から形成される金属膜6で、耐環境性を有するような膜を得るためには、基板上に形成した金属酸化物膜5と金属膜6と金属酸化物膜5と金属膜6との金属膜積層体9の構造をとる必要があるためである。
【0122】
このようにして、レーザー光線15の照射領域に対応した形状の金属膜6を有するチタン系の金属酸化物膜5と銀からなる金属膜6とからなる4層構造の金属膜積層体9を得る。
【0123】
このとき、金属膜6の厚みは200nm程度であり、用途によっては、このまま金属配線基板等として実施例8の金属膜積層体9を使用することも可能である。この実施例8の金属膜積層体9の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性の金属膜積層体9であることを確認できた。
【0124】
また、用途によっては、金属膜6の厚みをさらに厚くする必要もある。そこで、実施例8に実施例1で示したものと同様にして銅のメッキ膜10の形成を試みた。実施例8の試料をアルカリに依る脱脂、酸による活性化の前処理を行った後に、酸性の銅メッキ液に浸漬して銅のメッキ膜10を形成した。この試料についても基板と金属膜積層体との膜の付着強度をテープ剥離試験により行った結果、膜の剥離が発生しないような良好な付着特性の金属膜積層体9であることが確認できた。
【0125】
なお、金属粒子径は、5nm程度の粒径からなる金微粒子分散体を用いたが、金属微粒子分散体に分散された金属微粒子の粒子系は50nm程度であれば、金属微粒子の加熱焼結温度も比較的に低温に保つ事が出来るので、問題は無い。ただし、粒径が、大きくなれば、たとえ微粒子の溶媒内での分散状態を良好に保っていたとしても、重力による沈殿の問題などが出てくるので、金属微粒子の粒子径が大きな分散体では、基板への塗布などの際に分散体の濃度ムラが発生するなどの問題が出てきて工程の管理に注意を要するようになる。
【0126】
なお、基板には、ガラス基板を用いたが、基板は金属膜積層膜の用途により変えれば良く、ガラス基板にこだわるものではない。
【0127】
また、金属酸化物は、チタン系の有機金属化合物を用いて金属酸化物膜の形成を行ったが、金属酸化物膜の形成には、チタン系の有機金属化合物にこだわるものではなく、ジルコニウム系の有機金属化合物や、アルミニウム系の有機金属化合物などでも構わない。ただしこれらの有機金属化合物を用いた場合は、金属酸化物膜は、ジルコニウム酸化物膜、アルミニウム酸化物膜となる。金属膜の形成を、金属微粒子分散体の塗布で行うために、金属酸化物膜の形成も塗布でできるような材料が金属膜積層体の製造上望ましい。
【0128】
また、金属膜は銀に限るものではなく、パラジウム、銅、金あるいはこれらを主成分とする合金からなる金属膜でもなんら構わない。要は、金属微粒子の分散体を用いて金属膜を得ようとした場合、耐環境性を有する膜とするためには実施例8で示したような構成の金属膜積層体とすることは効果的であるということである。
【0129】
(実施例9)
実施例8では、金属膜前駆体8にエネルギー線の照射を行い金属膜6を得たが、実施例9では、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8との積層体にエネルギー線を照射して金属膜積層体9を得ようというものである。図15に実施例9の工程図を示す。図15は、本発明の実施例9の金属膜積層体形成の工程図である。なお、図15において(a)から順に行い、以下詳細に説明する。
【0130】
工程図に示したように、実施例9の金属膜積層体9は、基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体4を形成する第1の工程と、金属酸化物膜前駆体4の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体7を塗布乾燥して金属膜前駆体8を形成する第2の工程と、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8とからなる積層体にエネルギー線を走査照射して、エネルギー線の照射領域の金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8の積層体を金属酸化物膜5と金属膜6とからなる積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に少なくとも2回繰り返すことにより金属膜積層体9を形成した後に、エネルギー線の未照射領域の金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8とを除去する第4の工程とにより形成した金属膜積層体9である。
【0131】
本発明の実施例9の金属膜積層体は、図16の本発明の実施例9の金属配線基板形成の概略説明図に示したように(a)から順に作製した。
【0132】
まず、ガラス基板1に金属酸化物膜5を形成するために有機金属化合物を塗布する。
有機金属化合物は、ジルコニウムキレート系のジルコニウムテトラアセチルアセトネート(商品名マツモト交商・オルガチックスZC−700)を2−ブタノールに1重量%の濃度で希釈したものを用いた。この希釈液は、以降、ジルコニウム系の有機金属希釈液2と呼ぶ。基板としてガラス基板1を選定し、ジルコニウム系の有機金属希釈液2の塗布は、スピンコーティング法により行った。洗浄したガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペットを用いてジルコニウム系の有機金属希釈液2を基板全面の滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、3000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ガラス基板1の表面に、ジルコニウム系の有機金属希釈液2からなる膜を形成した。ジルコニウム系の有機金属希釈液2をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分なジルコニウム系の有機金属希釈液2は飛散すると共に、基板表面に残留したジルコニウム系の有機金属希釈液2の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には膜が形成されることになる。図6に示したように、ガラス基板1の表面には膜即ち、金属酸化物膜前駆体4が形成されることになる。基板上に金属酸化物膜前駆体を形成する工程を第1の工程とする。
【0133】
実施例8では、この後に金属酸化物膜前駆体4を加熱処理して金属酸化物膜5を得た後に金属微粒子分散体7を塗布したが、実施例9では、金属酸化物膜前駆体4に加熱処理を施すことなく金属微粒子分散体7を塗布するものである。即ち、第1の工程で形成したガラス基板1の上の金属酸化物膜前駆体4の上に、金属膜前駆体8を形成することになる。
【0134】
金属膜前駆体8の形成は実施例9と同様に、金属微粒子分散体7の塗布により行った。さて、金属膜6の形成は、金属微粒子を液体に分散した金属微粒子分散体7にハリマ化成製の銀の微粒子を有機溶媒に分散してなる金属微粒子分散体7(商品名NPS−J)を用いて行った。第1の工程で形成したジルコニウム系の金属酸化物膜前駆体4を表面に有するガラス基板1をスピンコーターにセットした後に、ガラス基板1の表面にピペット3を用いて金属微粒子分散体7をガラス基板1の全面に滴下後、ガラス基板1を所定の回転数で所定の時間、例えば、1000回転/分の回転数で30秒間保持することで、ジルコニウム系の金属酸化物膜前駆体4の表面に、銀の微粒子の集合体からなる膜を形成した。銀からなる金属微粒子分散体7をガラス基板1に滴下後にスピンコーティングを行うと、余分な金属微粒子分散体7は飛散すると共に、基板表面に残留した金属微粒子分散体7の溶媒の一部は蒸発し、基板表面には色がついた膜が形成されることになる。ガラス基板1に滴下した金属微粒子分散体7をスピンコーティングし、ガラス基板1の表面に残留した膜を金属膜前駆体8と呼ぶ。このように金属膜前駆体8を形成する工程を第2の工程とする。
【0135】
次に、第1の工程と第2の工程とでガラス基板1の上に形成した、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8の積層体にレーザー光線15を走査照射することで加熱し、分解及び焼結により、金属酸化物膜5と金属膜6との積層体を形成する工程を第3の工程とする。金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8との積層構造を有するガラス基板1をレーザー光線15の照射装置にセットし、金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8との積層構造を有するガラス基板1をレーザー光線15との相対移動により、金属膜前駆体8の表面を走査照射する事になる。レーザー光線15の走査照射は、波長532nmの光線を光学系により絞込み、照射幅が20μmとなるようにして行った。金属酸化物膜前駆体4と金属膜前駆体8へのレーザー光線15の照射により、レーザー光線15の一部を吸収し、それに依る熱で加熱されることになる。このように、レーザー光線15の照射により、金属酸化物膜前駆体4は反応により一部に有機基を残したような金属酸化物膜5、即ちジルコニウム系の金属酸化物膜5が形成され、また、一方で、金属膜前駆体8は、金属膜前駆体8に含まれる金属微粒子、ここでは銀の微粒子となるが、これらの金属微粒子が、相互に融着し焼結されて金属膜6へと変化する。このように、レーザー光線15が走査照射され加熱されたところだけが、金属酸化物膜5と金属膜6との積層体へと変化する。ここで、レーザー光線15が照射されていない領域は、加熱されない領域であり、金属酸化物膜5や金属膜6へと変化することなく金属酸化物膜前駆体4や金属膜前駆体8の状態を保ったままとなる。ここまでが第3の工程である。
【0136】
実施例9の試料は、上記の第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に繰り返すことで、ガラス基板1の上に、ジルコニウム系酸化物膜、銀膜、チタン系酸化物膜、銀膜の積層構成からなる金属膜積層体9を形成してなるものであるし、レーザー光線15が照射されていない領域は、ガラス基板1の上に、ジルコニウム系酸化物膜前駆体、銀膜前駆体、ジルコニウム系酸化物膜前駆体、銀膜前駆体の前駆体の積層体となっている。
【0137】
なお、第3の工程でレーザー光線15の照射により金属酸化物膜前駆体4を金属酸化物膜5に、金属膜前駆体8を金属膜6とする場合、1回目と2回目のレーザー光線15の照射の際は、レーザー光線15の照射領域は1回目と2回目とでほぼ重なるように注意する必要があるが、これは、実施例1、2で示したように、金属微粒子の分散体から形成される金属膜で、耐環境性を有するような膜を得るためには、基板上に形成した金属酸化物膜5と金属膜6と金属酸化物膜5と金属膜6との積層構造をとる必要があるためである。
【0138】
第1の工程と第2の工程と第3の工程とを2回繰り返し、所望の形状の金属酸化物膜5と金属膜6との積層体を得たら、レーザー光線15が照射されていない前駆体の積層領域の除去を行うが、これは、金属微粒子分散体7で使用している溶媒への基板の浸漬及びリンス処理を行う事で容易にできる。ここでは、使用した銀微粒子分散体であるNPS−Jの溶媒であるテトラデカンを用いた。この処理が第4の工程である。
【0139】
このようにして、レーザー光線15の照射領域に対応した形状の金属膜を有するジルコニウム系酸化物膜と銀膜とからなる4層構造の金属膜積層体を得た。
【0140】
このとき、金属膜の厚みは200nm程度であり、用途によっては、このまま金属配線基板等として実施例9の金属膜積層体9を使用することも可能である。この実施例9の金属膜積層体9の付着強度をテープ剥離試験により調べたが、膜の剥離が発生しない良好な付着特性の金属膜積層体9であることを確認できた。
【0141】
また、用途によっては、金属膜の厚みをさらに厚くする必要もある。そこで、実施例9に実施例1で示したものと同様にして銅のメッキ膜10の形成を試みた。実施例8の試料をアルカリに依る脱脂、酸による活性化の前処理を行った後に、酸性の銅メッキ液に浸漬して銅のメッキ膜10を形成した。この試料についても基板と金属膜積層体9との膜の付着強度をテープ剥離試験により行った結果、膜の剥離が発生しないような良好な付着特性の金属膜積層体9であることが確認できた。
【0142】
なお、金属粒子径は、5nm程度の粒径からなる金微粒子分散体を用いたが、金属微粒子分散体に分散された金属微粒子の粒子系は50nm程度であれば、金属微粒子の加熱焼結温度も比較的に低温に保つ事が出来るので、問題は無い。但し、粒径が、大きくなれば、たとえ微粒子の溶媒内での分散状態を良好に保っていたとしても、重力による沈殿の問題などが出てくるので、金属微粒子の粒子径が大きな分散体では、基板への塗布などの際に分散体の濃度ムラが発生するなどの問題が出てきて工程の管理に注意を要するようになる。
【0143】
なお、基板には、ガラス基板を用いたが、基板は金属膜積層膜の用途により変えれば良く、ガラス基板にこだわるものではない。
【0144】
また、金属酸化物は、ジルコニウム系の有機金属化合物を用いて金属酸化物膜の形成を行ったが、金属酸化物膜の形成には、ジルコニウム系の有機金属化合物にこだわるものではなく、チタン系の有機金属化合物や、アルミニウム系の有機金属化合物などでも構わない。但しこれらの有機金属化合物を用いた場合は、金属酸化物膜は、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物膜となる。金属膜の形成を、金属微粒子分散体の塗布で行うために、金属酸化物膜の形成も塗布でできるような材料が金属膜積層体の製造上望ましい。
【0145】
また、金属膜は銀に限るものではなく、パラジウム、銅、金あるいはこれらを主成分とする合金からなる金属膜でもなんら構わない。要は、金属微粒子の分散体を用いて金属膜を得ようとした場合、耐環境性を有する膜とするためには実施例9で示したような構成の金属膜積層体とすることは効果的であるということである。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の金属膜積層体は、金属酸化物膜と、金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層してなる金属膜積層体である。この構造とすることで、金属微粒子分散体の塗布から形成する金属膜も耐環境性に優れた膜となり、この膜をメッキ下地膜としてメッキ膜を形成しても、基板と膜との剥離などが発生しない良好な密着性を有する金属積層体膜を得ることができる。従って、スパッタリング法や蒸着法などのように大掛かりな真空装置を用いなくても、金属微粒子分散体の塗布と加熱焼結とにより形成した金属膜積層体を配線基板として利用できるし、導体の膜厚が不足する際にはメッキ膜を施した金属配線基板とすることも出来て有用である。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の実施例1の金属膜積層体形成の工程図
【図2】本発明の実施例1の金属膜積層体形成の概略説明図
【図3】メッキ膜を形成した本発明の実施例1の金属膜積層体の概略断面図
【図4】比較例の金属膜積層体の概略断面図
【図5】本発明の実施例2の金属膜積層体形成の工程図
【図6】本発明の実施例2の金属膜積層体形成の概略説明図
【図7】本発明の実施例3の金属配線基板形成の概略説明図
【図8】本発明の実施例4の金属配線基板形成の概略説明図
【図9】本発明の実施例5の金属膜積層体形成の工程図
【図10】本発明の実施例5の金属膜積層体形成の概略説明図
【図11】本発明の実施例6の金属配線基板形成の概略説明図
【図12】本発明の実施例7の金属配線基板形成の概略説明図
【図13】本発明の実施例8の金属膜積層体形成の工程図
【図14】本発明の実施例8の金属配線基板形成の概略説明図
【図15】本発明の実施例9の金属膜積層体形成の工程図
【図16】本発明の実施例9の金属配線基板形成の概略説明図
【符号の説明】
【0148】
1 ガラス基板
2 有機金属希釈液
3 ピペット
4 金属酸化物膜前駆体
5 金属酸化物膜
6 金属膜
7 金属微粒子分散体
8 金属膜前駆体
9 金属膜積層体
10 メッキ膜
11 フォトレジスト
12 フォトレジストパターン
13 配線パターン
14 レーザー光源
15 レーザー光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを基板上に複数層積層し、前記基板上に形成される最初の膜は前記金属酸化物膜であることを特徴とする金属膜積層体。
【請求項2】
基板上に金属酸化物膜と金属微粒子分散体から形成される金属膜とを積層し、前記基板上に形成される最初の膜は前記金属酸化物膜であり、前記金属膜の膜厚が300nm程度以上であることを特徴とする金属膜積層体。
【請求項3】
前記金属膜積層体にさらにメッキ膜を形成してなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜積層体。
【請求項4】
前記メッキ膜は、銅を主成分としてなることを特徴とする請求項3に記載の金属膜積層体。
【請求項5】
前記金属酸化物膜と前記金属膜との積層数は4層以上からなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜積層体
【請求項6】
前記金属微粒子分散体の金属微粒子は、平均粒径が50nm以下の金属微粒子からなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜積層体。
【請求項7】
前記金属微粒子分散体の金属微粒子は、銀を主成分としてなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜積層体。
【請求項8】
前記金属酸化物は、チタンもしくはジルコニウムのいずれかを含有してなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜積層体。
【請求項9】
請求項1または2に記載の金属膜積層体に配線パターンを形成したことを特徴とする金属配線基板。
【請求項10】
基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、前記金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、前記金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、前記金属膜前駆体を加熱して金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程と第2の工程とを順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成することを特徴とする金属膜積層体の製造方法。
【請求項11】
基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成する第1の工程と、前記金属酸化物膜前駆体の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成する第2の工程と、前記金属酸化物膜前駆体と前記金属膜前駆体との積層体を加熱して金属酸化物膜と金属膜との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に複数回繰り返すことによりで金属膜積層体を形成することを特徴とする金属膜積層体の製造方法。
【請求項12】
基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、前記金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、前記金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、前記金属膜前駆体を加熱して金属膜を形成する第2の工程とからなり、第1の工程の後で、第2の工程を3回以上繰り返すことにより金属膜積層体を形成することを特徴とする金属膜積層体の製造方法。
【請求項13】
基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成し、前記金属酸化物膜前駆体を加熱して金属酸化物膜を形成する第1の工程と、前記金属酸化物膜の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成後に、前記金属膜前駆体にエネルギー線を走査照射して、前記エネルギー線の照射領域の前記金属前駆体被膜を金属化して金属膜を形成する第2の工程と、前記エネルギー線の未照射領域の前記金属膜前駆体を除去する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程を順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成することを特徴とする金属膜積層体の製造方法。
【請求項14】
基板表面上に、有機金属化合物を含有する液体を塗布乾燥して金属酸化物膜前駆体を形成する第1の工程と、前記金属酸化物膜前駆体の表面上に、溶媒に金属微粒子を分散させてなる金属微粒子分散体を塗布乾燥して金属膜前駆体を形成する第2の工程と、前記金属酸化物膜前駆体と前記金属膜前駆体とからなる積層体にエネルギー線を走査照射して、前記エネルギー線の照射領域の前記金属酸化物膜前駆体と前記金属膜前駆体の積層体を金属酸化物膜と金属膜との積層体を形成する第3の工程とからなり、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを順番に複数回繰り返すことにより金属膜積層体を形成した後に、前記エネルギー線の未照射領域の前記金属酸化物膜前駆体と前記金属膜前駆体とを除去する第4の工程とからなることを特徴とする金属膜積層体の製造方法。
【請求項15】
前記エネルギー線はレーザー光線であることを特徴とする請求項13または14に記載の金属膜積層体の製造方法。
【請求項16】
前記金属微粒子分散体の金属微粒子は、平均粒径が50nm以下の金属微粒子からなることを特徴とする請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法。
【請求項17】
前記金属微粒子分散体の金属微粒子は、銀を主成分としてなることを特徴とする請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法。
【請求項18】
前記金属酸化物は、チタンもしくはジルコニウムのいずれかを含有してなることを特徴とする請求項10〜14いずれか1項に記載の金属膜積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−170837(P2009−170837A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10130(P2008−10130)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】