説明

金属製摩擦板

【課題】多板クラッチの摩擦板や車輌等のディスクブレーキ等の摩擦・摺動部品において、摩擦熱によるヒートスポット(局部的な変質層)の発生や熱歪み(変形)、摩耗量増大を解決する。
【解決手段】厚さ10mm以下の金属製摩擦体の内部は、金属部分(総体積E1)と冷却用熱媒体の流路となる空隙部分(総体積E2)とから構成され、それらの体積比は1≦E1/E2≦15とする。摩擦体は複数枚の鋼板を積層し互いに接合した構造を有し、摩擦体の内部を構成する鋼板は、冷媒流路として作用するようにあらかじめ設計された形状の板厚方向に貫通した空隙またはスリットを有した1枚または複数枚の鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式多板クラッチの摩擦板や、車輌等のディスクブレーキをはじめとする摩擦・摺動部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オートマチックトランスミッションの湿式多板クラッチは、摩擦材(例えば特殊な紙)を表面に貼り付けた複数の「フリクションプレート」と、その接触相手である「セパレートプレート」が交互に配置され、フリクションプレートとセパレートプレートの解放/締結を切り替える動作によって動力の伝達を制御する機構である。フリクションプレートとセパレートプレートは、いずれもリング状の鋼板部材である。湿式多板クラッチを構成するこれらのプレートは一般に「ATプレート」と呼ばれる。本明細書でいう「ATセパレートプレート」は、フリクションプレートの摩擦相手である上記「セパレートプレート」を意味する。
【0003】
ATセパレートプレートは、フリクションプレートと接触するとともに、周囲のドラム(構造によっては内側のハブ)やケースに刻まれた溝と噛み合うようになっている。そのために、セパレートプレートのリング外周部(あるいは内周部)には溝と噛み合う「歯」が設けられている。歯の部分は、接触面圧によって塑性変形(座屈)しない強度と、耐摩耗性に優れることが要求される。
【0004】
特許文献1、2、3にはATセパレートプレートに好適な比較的低コストの鋼材が開示されている。
自動車の運転中には、フリクションプレートとセパレートプレートの解放/締結状態を切り替える動作が頻繁に行われ、そのたびにセパレートプレートの表面はフリクションプレートの摩擦材と摩擦し、摩擦熱によって高温に曝される。過度な高温に曝されると、セパレートプレートの表面には「ヒートスポット」と呼ばれる変質層が局部的に形成されることがある。ヒートスポットは本来の表面に対し相対的に凸部となっており、摩擦材の摩耗を早めるなど、不具合の原因となる。また、摩擦熱によるプレートの温度上昇により、プレートがゆがみを生ずる場合がある。これも摩擦材の摩耗を助長するほか、摩擦状態が不安定になり、クラッチとしての機能が損なわれる。
【0005】
自動車のエネルギー効率の改善を検討するとき、小型軽量化と摩擦損失の低減が非常に重要なポイントである。変速機においては、多板クラッチ機構の小型軽量化と摩擦損失軽減のためには、プレートの枚数減や面積低減、潤滑油の減量が必要である。しかし、これらは全て、摩擦熱の発生量を増大させる方向にある。つまり、今後自動車の高効率化を図る上で、クラッチプレートには益々過酷な摩擦条件に耐えることが求められるようになってくることが予想される。
【0006】
ヒートスポットのような、プレートの摩擦熱に由来する不具合を抑制する技術として、特許文献4には低炭素鋼でフェライト→オーステナイト変態点を高温側へ移行させ、変態時の変形を軽減する手法が開示されている。特許文献5には熱伝導率の高い鋼を使用して熱拡散を促進させることにより変形を抑制する手法が開示されている。特許文献6にはオーステナイト単相鋼(SUS)を使用することにより変態に伴う変形を回避する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−277883号公報
【特許文献2】特開2007−211260号公報
【特許文献3】特開2011−1604号公報
【特許文献4】特開2005−249050号公報
【特許文献5】特開2005−249051号公報
【特許文献6】特開2005−249106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載の技術は、比較的低コストで耐摩耗性および平坦性の高い部品の製造を可能にするものであり、ATセパレートプレートを製造するうえで有用である。しかし、ヒートスポットの問題については特に考慮されていない。
【0009】
特許文献4、5、6に記載の技術は、ヒートスポットの軽減を狙ったものである。しかし、歯の部分における耐摩耗性に関しては更なる向上が望まれる場合がある。
特許文献6に開示の鋼材はオーステナイト鋼であるので、熱伝導性に劣り、摩擦熱が拡散しにくいために局部的な温度上昇を起こす危険性が高い。
特許文献3は、比較的安価で、耐摩耗性と耐ヒートスポット性の両立を図った技術であるが、摩擦熱を放熱させる手段を講じていないので、過酷な摩擦環境の中ではプレートの温度上昇は避けがたい。
【0010】
本発明は、摩擦熱による様々な問題点を解決し、ヒートスポットの発生に対する抵抗力(耐ヒートスポット性)、および歯の部分の耐摩耗性を同時に改善することができる比較的安価なATセパレートプレート用鋼板を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するものとして本明細書で提示する発明は、円環状の摩擦帯Aと、Aの外径側に付帯する構造体B、または、Aの内径側に付帯する構造体Cからなる金属製摩擦板で、摩擦帯Aの厚さが10mm以下であり、摩擦帯Aの構造が金属部分と空隙部分から構成され、摩擦帯Aを構成する金属部分の総体積E1と空隙部分の総容積E2の比が1≦E1/E2≦20となるよう配置された空隙部分が、摩擦帯における冷却用熱媒体の流路として作用することを特徴とする金属製摩擦板によって達成される。
【0012】
また、摩擦帯Aの構造が、複数枚の鋼板を積層し互いに接合した積層構造であり、摩擦帯Aの表裏両面の表層部を構成する鋼板(F1、F2)は空隙を持たない平滑な鋼板であるか、または、鋼板(F1、F2)は面積10mm以下の板厚を貫通した複数の開口部を有する鋼板であり、摩擦帯Aの内部を構成する鋼板(G)は、冷媒流路として作用するようあらかじめ設計された形状の板厚方向に貫通した空隙またはスリットを有した1枚または複数枚の鋼板であり、表層部を構成する鋼板の開口部の配置は内部を構成する鋼板に設計された冷媒流路の配置に関連つけて設計されたものであることを特徴とする金属製摩擦板によって達成される。ここで、前記の金属製摩擦板における摩擦帯Aを構成する鋼板(F1,F2,G)の一部または全数が、めっき厚1μm以上の電気銅めっきを片面または両面に施された鋼板であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のAT(自動変速機)において重大な問題を発生させる原因であった、摩擦熱によるプレートの温度上昇を劇的に抑制し、かつ、優れた耐摩耗性を同時に実現することのできる画期的なプレートが提供可能となる。本発明において最も重要な要素は、プレートへの摩擦熱の入熱を効果的に抜熱するために、プレート内部に冷媒流路を設けたことと、その冷媒流路を形成するために、複数の鋼板を積層する方法を用いていることである。
【0014】
ATセパレートプレートに熱的損傷を与えないためには、摩擦熱の入熱を迅速に拡散または放熱することで、摩擦部位に過剰な温度上昇が起こらないようにする必要がある。しかし、従来のATセパレートプレートの場合、摩擦熱は、摩擦部分から板厚の中心方向に向けて熱伝導によって拡散する他は、潤滑油による抜熱と、スプライン部を経由してハブやドラムに熱伝達することによって抜熱されるのみであった。つまり、従来は摩擦熱を拡散・放熱させるためには、プレート自体の熱伝導と、プレート表面または端面から潤滑油や他の構成部品への熱伝導に期待するしかなかった訳であり、積極的に冷却を行う方法は採用されていなかった。摩擦板の熱を効果的に放散させる方法の例としては、車両のディスクブレーキに見られる、内部に放熱のための空洞(空気の通り道)を設けた構造、一般に「ベンチレーティッド・ディスク」と呼ばれる方式がある。しかしながら、車両のディスクブレーキは摩擦板の部分の厚さが非常に大きく、その製造方法は鋳造によってなされていることから、内部の空洞を設けることは可能であった。しかしながら、ATセパレートプレートは多板クラッチを構成する部品であり、前述のブレーキディスクのように厚い板厚では多板クラッチは成立しない。
【0015】
本発明では、多板クラッチのセパレートプレートとして機能し、コンパクトなクラッチ機構を成立させるための、板厚10mm以下の、最適形態としては5mm以下の、内部に冷媒流路を有した鋼板またはプレートを提供するものである。まず、薄い板厚で、内部に冷媒流路を構成する方法の概略を示す。
鋼板の内部に冷媒流路を形成する方法としては、ドリルなどの機械加工による穿孔が考えられる。しかし、薄い鋼板の表面下に、細径の穴を穿孔することは困難かつ経済的に極めて不利である。そこで、本発明者らは、複数の鋼板の貼り合わせを利用する方法で、内部に冷媒流路を有する構造体を作製することを検討した。すなわち、冷媒流路となる溝を鋼板表面から機械加工などで加工し、平滑な鋼板をその上に貼り付ける方法である。この方法であれば内部構造を有するプレートを作製することは可能であるが、その接合方法によっては熱的、強度的にクラッチ機構への適用が困難となる。接合に接着剤を使用する場合には、摩擦熱によって高温に加熱された場合の強度に問題がある。よって、接着剤を介することなく、金属同士の直接的な接合によって積層構造体を作製することを検討した。その結果として、本発明の積層構造体が得られたものである。以下にその内容を説明する。
【0016】
まず、平坦な鋼板に、レーザー加工や打抜き加工によって、板厚を貫通した溝を成形する。この溝は、積層化した後に冷媒流路として機能する部分である。次に、溝加工を行わない鋼板を、溝加工した鋼板の上下に配して3枚重ねとし、これをホットプレス炉にて拡散接合して一体化し、3層の積層板とする。次に、これをレーザー加工または打抜きなどでATセパレートプレートの形状に加工する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】拡散接合により成形した摩擦帯Aの、内部に冷媒流路を有した3層積層材の構造を模式的に例示した図。
【図2】摩擦帯A積層構造を模式的に例示した図。
【図3】リング状の摩擦帯Aの内側に構造体B(ここではスプライン)を設けた金属製摩擦板を模式的に例示した図。
【図4】リング状の摩擦帯Aの外側に構造体C(ここではスプライン)を設けた金属製摩擦板を模式的に例示した図。
【図5】リング状の摩擦板部分の内側に、シャフトなどと噛合するための構造体B(ここでは支持構造)を合わせた金属製摩擦板を模式的に例示した図。
【図6】摩擦帯Aにおける、表面層を構成する鋼板F1、F2と、中間層を構成し、冷媒流路を溝加工した鋼板Gの形状を模式的に例示した図。
【図7】摩擦帯Aにおける、表面層を構成する鋼板F1、F2と、中間層を構成し、冷媒流路を溝加工した鋼板Gの形状を模式的に例示した図。
【図8】銅めっき鋼板を積み重ねて拡散接合した場合の接合界面の金属組織を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に本発明で提供される金属製摩擦板の摩擦帯Aの外観を示す。摩擦帯Aはリング状の形態であり、摩擦帯の中間層には冷媒流路としての空隙がある。図2には摩擦帯を部分的に拡大した模式図を示す。表面を構成するF1、F2の鋼板は平滑であり、中間層を構成する鋼板Gには空隙が形成されている。図2は3層構造の摩擦帯の模式図である。F1、F2とGは拡散接合またはろう付で接合され、3層の積層構造が形成されている。図3には、摩擦帯Aの内周に構造体Bが付加された例を示す。この模式図の場合、構造体Bはスプラインである。図4には、摩擦帯Aの外周に構造体Cが付加された例を示す。この模式図の場合、構造体Cはスプラインである。図5には、摩擦帯Aの内周に構造体Bが付加された例を示す。この模式図の場合、構造体Bはシャフトなどと摩擦帯Aを噛合させ保持するための保持部である。
このような構造を有する摩擦帯Aや、これに構造体を付加した金属製摩擦板は、摩擦帯内部の冷媒流路を通って潤滑油、水、空気などが流れることで、摩擦帯の表面で発生した摩擦熱を、効果的に摩擦板の外部に放熱させることができる。空隙(流路)の中を冷媒が流れるようにする構造は、AT(自動変速機)においては、クラッチ機構を作動させるための油圧経路を利用して強制的に供給してもよいし、摩擦板が高速回転する際の遠心力による潤滑油や空気の流れを利用してもよい。
【0019】
次に、図6には摩擦帯Aにおける、表面層を構成する鋼板F1、F2と、中間層で冷媒流路を含む鋼板Gの形状の一例を示す。鋼板F1、F2は平滑な鋼板であり、最終的に摩擦板を加工する際に必要な穴H1と、積層して拡散接合する際の位置合わせに使用する穴H2が穿孔されている。中間層となる鋼板Gには、穴H1、H2に加えて、冷媒流路を構成することになる溝Sが板厚を貫通して配置されている。溝Sの形状は、摩擦板における冷媒の流れを考慮して設計する。溝Sの加工方法は任意であるが、工業的な生産性を考慮すると、レーザー加工か、プレス打抜きが適している。
【0020】
図7は、最終的に摩擦帯Aを形成する部位である鋼板F1と鋼板F2に小径の穴を付加したものである。鋼板F1と鋼板F2の穴は、鋼板Gの溝に合わせて配置されたものであり、摩擦帯Aを形成した際、鋼板Gの溝が形成する冷媒流路から潤滑油などの冷媒を摩擦帯Aの表面に噴出させるための構造である。この小径穴の効果は、摩擦帯Aと接触する相手の摩擦材との接触面に潤滑油を注入することで、クラッチ空転時の摩擦抵抗を低減することである。
【0021】
図1〜7では3層の積層構造を示したが、求められる摩擦板の特性に応じて様々にレイアウトを設計することができる。例えば、摩擦帯の表層部に高い耐摩耗性が求められる場合には、F1、F2のさらに表層側に高硬度鋼をさらに積層してもよいし、冷媒流路の設計によては、中間層の鋼板Gを複数枚の鋼板で構成してもかまわない。
【0022】
本発明の意図する摩擦板は、AT(自動変速機)の中の多板クラッチを構成するプレートへの利用を想定したものであり、その板厚は概ね10mm以下、特に5mm以下の摩擦板を想定している。このような薄い摩擦板で内部に冷媒流路を持ったものは、工業的に比較的安価に大量生産する手立ては存在していない。
【0023】
摩擦帯を構成する積層構造の作製方法については、拡散接合またはろう付が適している。拡散接合を行う場合には、減圧したホットプレス炉で接合面に負荷しながら高温加熱保持することで積層界面を接合させる。この際、表面に銅めっきを施した鋼板を用いると、拡散接合の際の面圧や加熱温度が低減できるので、工業的に非常に有利である。また、銅めっき鋼板を用いれば、銅めっき層同士の自己ろう付性を利用して、ろう付加工によって積層化することが可能である。
【実施例】
【0024】
積層構造体を作製するための素材として、以下のものを用意した。
〔鋼板〕
・鋼種:JIS規格S55C、普通鋼(SPCC)
板厚:S55C/0.25mm、普通鋼/1.0mm
寸法:200×200mm
〔電気銅めっき鋼板〕
・めっき原板:鋼種:JIS規格S55C、普通鋼(SPCC)
板厚:S55C/0.25mm、普通鋼/1.0mm
寸法:200×200mm
・銅めっき層;
組成:純銅
厚さ:片面当たり5μm、各両面均等厚さ
JIS規格S55Cと普通鋼(SPCC)について、鋼成分は表1のとおりである。
【0025】
鋼板F1、F2および鋼板Gは、図6または図7の形状にワイヤーカット加工で板厚を貫通した溝加工を行った。溝の幅は2mmで、10°間隔で36本の溝を作製した。溝加工後の鋼板は、表面を脱脂洗浄したのち、位置決め用の穴を揃えてホットプレス炉に挿入して、F1/G/F2の順で積み重ねた後、上下を20mm厚の黒鉛板で挟んだ。拡散接合の処理サイクルは、まず10Pa以下の減圧雰囲気としたのち、面圧15MPaに相当する荷重を負荷しながら、最高加熱温度1100℃まで加熱して、同温度に60min保持し、荷重を負荷したまま500℃以下まで炉冷した。素材鋼板に銅めっき鋼板を用いた場合には、面圧を5MPa、最高加熱温度を900℃に設定した。また、ろう付の処理サイクルは、101.3PaのAr雰囲気下で、面圧0.05MPa、最高加熱温度1150℃とした。
【0026】
各種接合方法で一体化した積層材は、レーザー加工機で内周側にスプラインを付加して、セパレートプレートに加工した。一部のプレートは焼入焼戻し処理を施して硬さを調整した。
【0027】
〔熱損傷評価試験〕
作製したセパレートプレートは、SAE−No.2試験機を用いてクラッチ機構の締結−開放動作を繰返し、高い摩擦熱負荷のもとでの耐熱性を調査した。摩擦相手材となるフリクションプレートは、板厚0.8mmのS35C鋼板を用い、レーザー加工機にて外周側にスプラインを設けた形状に加工し、表面に摩擦紙を貼付した。耐熱性の評価は、従来材であるS55CとSPCC製のセパレートプレートを比較材とし、ヒートスポット発生の有無、熱変形の量を基準に評価した。ヒートスポットが発生しなかったものを合格とし、熱変形の量は、比較材の変形量を下回ったものを合格(○)、同レベルであったものを標準(△)評価とした。さらに、ほとんど熱変形が認められなかったものを優秀(◎)評価とした。
【0028】
〔歯先の耐摩耗性試験〕
熱耐久性試験において、試験前後の歯先部の摩耗損傷を観察し、その損傷の大きさを評価した。比較材と比較して摩耗損傷が明らかに小さかったものを合格(○)、同レベルであったものを標準(△)評価とし、特に、摩耗損傷がほとんど認められなかったものを優秀(◎)評価とした。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表3から分かるように、本発明による積層型摩擦板(No.1〜4)はいずれも、摩擦熱による熱損傷が従来のセパレートプレートより小さい。ここで用いた耐久評価試験では冷媒流路に強制的に潤滑油を供給することができなかったため、潤滑油は主として回転時の遠心力による潤滑油の流れで抜熱が行われたのみである。しかし、その結果はいずれも従来のプレートより摩擦による熱損傷が軽微であったことから、強制的に潤滑油を循環させた場合には、さらに優れた耐熱性を発揮できたものと考えられる。また、摩擦帯表面に小径穴を付加した実施例No.4では、さらに熱損傷が軽減されていることから、摩擦面への潤滑油の直接供給が有効に働いた結果と考えられる。また、歯先の摩耗については、No.1とNo.2−1については従来品No.5と同等レベルであるが、No.2−2、No.2−3は熱処理により硬さを高めた効果により優れた耐摩耗性を示している。
No.5とNo.6は従来品であり、内部の冷却を行っていないので、発明例と比較して熱損傷に劣っていることは明らかである。No.7は積層型の構成であるが、鋼板Gの溝加工において溝数を1/4に減らしたもの(溝数は9本)であり、E1/E2が約20であった。このため、冷却効果が薄く、熱損傷は比較例を同等であった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の摩擦帯Aと、Aの外径側に付帯する構造体B、かつ/または、Aの内径側に付帯する構造体Cからなる金属製摩擦板で、摩擦帯Aの厚さが10mm以下であり、摩擦帯Aの構造が金属部分と空隙部分から構成され、摩擦帯Aを構成する金属部分の総体積E1と空隙部分の総容積E2の比が1≦E1/E2≦15となるよう配置された空隙部分が、摩擦帯における冷却用熱媒体の流路として作用することを特徴とする金属製摩擦板。
【請求項2】
摩擦帯Aの構造が、複数枚の鋼板を積層し互いに接合した積層構造であり、
摩擦帯Aの表裏両面の表層部を構成する鋼板(F1、F2)は空隙を持たない平滑な鋼板であり、
摩擦帯Aの内部を構成する鋼板(G)は、冷媒流路として作用するようあらかじめ設計された形状の板厚方向に貫通した空隙またはスリットを有した1枚または複数枚の鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の金属製摩擦板。
【請求項3】
摩擦帯Aの構造が、複数枚の鋼板を積層し互いに接合した積層構造であり、
摩擦帯Aの内部を構成する鋼板(G)は、冷媒流路として作用するようあらかじめ設計された形状の板厚方向に貫通した空隙またはスリットを有した1枚または複数枚の鋼板であり、
摩擦帯Aの表裏両面の表層部を構成する鋼板(F1、F2)は、板厚を貫通した1個あたり面積10mm以下(開口部1個あたり)の開口部を複数個有する鋼板であり、その開口部の配置は内部を構成する鋼板(G)に設計された冷媒流路と連通するように配置されたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属製摩擦板。
【請求項4】
摩擦帯Aを構成する鋼板(F1,F2,G)の一部または全数が、めっき厚1μm以上の電気銅めっきを片面または両面に施された鋼板であることを特徴とする請求項2または3に記載の金属製摩擦板。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−215225(P2012−215225A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80419(P2011−80419)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】