説明

長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体

【課題】
曲げ弾性率、曲げ強さ等の機械的強度、耐薬品性、耐熱性に優れ、軽量化され、製品設計の自由度が高く、充填時の繊維配向による成形体の線膨張係数の異方性を低減した長繊維強化自動車用外装成形体を提供することにある。
【解決手段】
成形体中に分散する強化繊維の、含有率が30重量%〜90重量%であって、重量平均繊維長が1.5mm〜10mmであり、成形体の最大投影面積が20000mm2 以上であり、成形時に断面積100mm2 以下の狭流路の流路長が150mm以下であり、しかも、肉厚2mm以上の成形体部分の、最大線膨張係数が5×10-5-1以下であり、かつ、最大線膨張係数/最小線膨張係数の比が1.8以下であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性等の機械的性質や流動性に優れた長繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形体に関するものであって、さらに、射出成形時の繊維配向によって生じる成形体の異方性を低減した長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体、特に自動車用外装成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用外装部品には金属性の構造部品に金属製の外装パネルを取り付ける構造が用いられていた。しかしながら、近年は自動車の燃費向上、走行性能向上等を目的として、各種自動車部品の軽量化が求められる傾向にあり、外装パネルや、それを支える構造体においても樹脂が用いられるようになってきた。
例えば、特許文献1には、自動車用パネルをさらに軽量化する目的で、連続繊維からなる織物基材を補強繊維とするFRPからなる自動車用パネルが開示されているが、設計の自由度や生産効率の点で満足できるものではなかった。
また、特許文献2には、アウターパネルがポリフェニレンエーテル/ポリアミドアロイからなり、インナーパネルが長繊維強化ポリアミド/ポリオレフィンアロイからなるテールゲートが軽量化やモジュール化の観点から提案されているが、PAによる吸水寸法変化のため、建て付け不具合や波打ち外観不良が問題になっている。吸水寸法変化の問題を解決する目的でポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレートアロイ等も提案されているが、インナーパネルが長繊維強化ポリプロピレンのため、接着構造が必要であり、また、インナーパネルの繊維配向による線膨張の異方性がアウターパネルに影響を及ぼすが、線膨張の大きさや異方性に関する記載はない。
【0003】
特許文献3には、車両用外装部品として、射出成形時の流動方向の線膨張係数と流動方向に対して直角方向の線膨張係数との平均値が6×10-5-1の炭素繊維強化ポリアミドが開示されているが、その異方性に関しての記載はない。異方性が大きい場合、温度変化による変形具合が方向によって異なるため、外観品質に影響を与えたり、応力集中部が発生することによる部材の破断やクラックの発生が懸念されるため好ましくない。
また、特許文献4には、繊維状強化材を3〜70重量%含有する繊維強化熱可塑性樹脂材料を射出成形して得られる、(体積)/(表面積)<2mmとなるような熱可塑性樹脂成形体において、繊維強化材を含んだ溶融樹脂の流れ方向(MD)と、流れと直角方向(TD)の23℃〜100℃における線膨張係数が、0.6<(TD方向の線膨張係数)/(MD方向の線膨張係数)<2.5であることが開示されている。しかしながら、自動車用外装構造体として異方性が小さくなることは必要であるが、その絶対値が大きいままであると、建て付け性や、周辺部品への影響、さらには線膨張による塗装不良や塗装割れによる外観品質の低下を招く恐れがある。さらに、成形体内に断面積の小さい狭流路が存在すると、強化繊維の配向がきつくなり異方性が大きくなり、狭流路の流路長によっては成形体内全体に悪影響を及ぼす恐れがあるが、成形体の形状に関する記載はない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−127944公報
【特許文献2】特開2003―118379公報
【特許文献3】特開2002−226703公報
【特許文献4】特開平9−296053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、曲げ弾性率、曲げ強さ等の機械的強度、耐薬品性、耐熱性に優れ、軽量化され、製品設計の自由度が高く、充填時の繊維配向による成形体の線膨張係数の異方性を低減した長繊維強化自動車用外装成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、成形体内における樹脂流路を特定することで、長繊維強化自動車用外装成形体の繊維配向による線膨張係数の異方性が小さくなることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、(1)成形体中に分散する強化繊維の、含有率が30重量%〜90重量%であって、重量平均繊維長が1.5mm〜10mmであり、成形体の最大投影面積が20000mm2 以上であり、成形時に断面積100mm2 以下の狭流路の流路長が150mm以下であり、しかも、肉厚2mm以上の成形体部分の、最大線膨張係数が5×10-5-1以下であり、かつ、最大線膨張係数/最小線膨張係数の比が1.8以下である長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体、(2)上記熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びこれらの樹脂のアロイから選ばれたものである成形体であり、特に上記熱可塑性樹脂が、30℃フェノールとテトラクロロエタンとの1対1(重量比)混合液中で測定した極限粘度が0.30dl/g〜1.20dl/gのポリブチレンテレフタレートで、かつ、チタン含有量が33ppm以下である長繊維強化熱可塑性樹脂製成形体、(3)上記成形材料として、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)にリサイクル樹脂(B)を配合した混合物を使用し、その組成比が、該混合物の重量基準で
(A):30重量%〜100重量%、
(B):0重量%〜70重量%
の範囲内である長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体、(4)上記リサイクル樹脂(B)が、粘度平均分子量10000〜17000の芳香族ポリカーボネート樹脂のリサイクル品である長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体、(5)上記強化繊維が特定径のガラス繊維である、又は、(6)上記長繊維強化成形体が射出成形されたものである、長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体を提供するものであり、(7)上記長繊維強化成形体が自動車用外装パネル又はその構造体である自動車用外装成形体を提供するものである。
【0008】
また、本発明の別の要旨は、(8)上記長繊維強化外装成形体の表面に積層された、少なくとも1層の非強化樹脂層を有し、断面が2層以上の多層構造を取る、(9)上記非強化樹脂層が、該長繊維強化熱可塑性樹脂と同種の樹脂、又は該樹脂を主成分とするアロイである、又は、(10)積層に際し、文字、エンブレムやマーク等の加飾部が、該長繊維強化外装成形体と、該非強化樹脂層との間に封入され意匠部一体型の、長繊維強化自動車用外装成形体を提供することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体には、強化繊維の含有率が30重量%〜90重量%で、かつ、強化繊維が1.5mm〜15mmの重量平均繊維長で分散している長繊維強化樹脂が使用されており、成形時の金型キャビティにおける断面積100mm2以下の狭流路の流路長が150mm以下の形状となっているので、線膨張係数及びその異方性の低減による寸法安定性に優れ、曲げ弾性率、曲げ強さ等の機械的強度、耐薬品性、耐熱性に優れ、軽量化され、製品設計の自由度が高い自動車用外装成形体に適した大型成形体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体(以下、「本発明成形体」と略称する。)は、線膨張係数の異方性の影響が顕著になる大型成形体に適しており、その成形体の最大投影面積は20000mm2より大きい成形体である。繊維強化樹脂を用い成形した場合、一般に肉厚の表面層は樹脂の流動方向に繊維が配向し、中心層は流動方向と直角方向に配向すると言われている。強化繊維が短繊維の場合、成形時における繊維の運動(回転)自由度が上がるため、表面層は壁面からの剪断力を受け流動方向に配向するものの、中心層付近はランダム方向に配向している場合が多い。強化繊維が長繊維の場合、その繊維長の影響により強化繊維の運動(回転)自由度は少なくなり、表面層は流動方向に、中心層はその直角方向にと明確な配向を持ちやすいと言える。
本発明成形体の他の一つの特徴は、成形時における狭流路の断面積とその流路長さの関係にあり、100mm2以下の断面積をもつ狭流路の流路長が150mm以下であり、より好ましくは80mm2以下の断面積を持つ狭流路の流路長が100mm以下であることが望ましい。もし、成形時に100mm2以下の断面積をもつ狭流路の流路長が150mmを超える場合は、強化繊維の配向方向が溶融樹脂の充填方向に配向するものが多くなり、充填方向への線膨張係数を低減させる効果は大きくなるが、その直角方向への効果が少なくなり、よって異方性が大きくなってしまう。異方性が大きいと、外装部品として求められている建て付け性や、周辺部品との勘合やギャップ量への影響、さらには線膨張による塗装不良や塗装割れによる外観品質の低下を招く恐れがある。
【0011】
さらに、本発明成形体の他の特徴は、成形体中に分散する強化繊維について、強化繊維の含有率が30重量%〜90重量%であり、かつ、強化繊維の長さが1.5mm〜10mmの重量平均繊維長で分散していることにあり、しかも、肉厚2mm以上の成形体部分の任意の位置(多数箇所)において、23℃〜80℃における線膨張係数を測定し、それらの測定値の最大値(最大線膨張係数)が5×10-5-1以下であり、かつ、それらの測定値の最小値(最小線膨張係数)との比を算出し、最大線膨張係数/最小線膨張係数の比が1.8以下であることにある。
しかして、上記強化繊維の含有率が30重量%未満の場合、又は、重量平均繊維長が1.5mm未満の場合、曲げ弾性率・曲げ強度をはじめとした機械的強度や寸法安定性が低下するので好ましくない。また、上記強化繊維の含有率が90重量%を超える場合、又は、重量平均繊維長が10mmを超える場合は、成形性が低下するので好ましくない。
さらに、上記最大線膨張係数が5×10-5-1より大きい場合及び最大線膨張係数/最小線膨張係数の比が1.8より大きい場合は、温度変化に対する成形体全体の変形量が大きくなり、外装部品として求められている建て付け性や、周辺部品との勘合やギャップ量への影響、変形による割れの発生、外観のゆがみ、塗装割れ、さらには成形体塗装時の線膨張による塗装不良や塗装割れによる外観品質の低下を招く恐れがあるので好ましくない。
【0012】
本発明成形体を構成する強化繊維は、重量平均繊維長が1.5mm〜10mm、より優れた機械的強度と寸法安定性の前部構造体とするには、好ましくは2mm〜7mmの長繊維で、該成形体中に分散させ得るものであれば特に制限はない。通常、樹脂の補強用に使用される、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、合成繊維等を使用することが可能であるが、ガラス繊維や炭素繊維が実用的である。炭素繊維の直径は5μm〜15μmが好ましい。また、強化繊維は、ポリアミド樹脂との界面密着性を向上させるために、収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物)で表面処理したものを用いるのが好ましい。
【0013】
本発明成形体を構成する強化繊維がガラス繊維の場合は、直径10μm〜20μmであることが、ガラス繊維の折損や物性バランスをより一層高める点から好ましい。
実際に使用するガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等のガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)がポリアミド樹脂の熱安定性に悪影響を及ぼさない点で好ましい。ガラス繊維の製造法は、例えば次のような方法による。先ず、溶解したガラスをマーブルと称する所定の大きさのガラス玉に成形し、それをプッシングと称する採糸炉にて加熱軟化せしめ、該炉テーブルの多数のノズルから流下させ、この素地を高速度で延伸しながら、その途中に設けた集束剤塗布装置にて浸漬で集束剤を付着させて集束し、乾燥して回転ドラムで巻き取る。この時のノズル径寸法と引き取り速度及び引き取り雰囲気温度等を調節してガラス繊維の平均直径を所定の寸法にする。
【0014】
本発明成形体を構成する強化繊維が炭素繊維の場合は、直径5μm〜15μmであることが、炭素繊維の折損や物性バランスをより一層高める点から好ましい。
実際に使用する炭素繊維は、一般にアクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであり、耐炎質、炭素質、黒鉛質等の種々のタイプのものがあるが、特定のものに制限されるものではない。
【0015】
本発明成形体を構成する熱可塑性樹脂としては、成形可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等のビニル系樹脂;ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−6、ナイロン6−9、ナイロン6−10、ナイロン6−11、ナイロン6−12、ナイロン6T、共重合ナイロン6/6−6、共重合ナイロン6/12、共重合ナイロン6/6T、共重合ナイロン6I/6T、芳香族ポリアミド、パラキシリレンジアミンを10〜50モル%とメタキシリレンジアミン50〜90モル%とを含む混合ジアミンと脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応より得られるポリアミドを主成分とするMXDナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルアクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等が挙げられ、これらは単独、又は2種類以上組み合わせて用いることも可能である。
【0016】
本発明成形体を構成する熱可塑性樹脂として特に好ましいのは、機械的強度、耐油性、耐薬品性、耐熱性、耐久性、成形性、吸水による寸法変化、高温時の衝撃強度、疲労特性、クリープ特性に優れている点から、ポリエステル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びこれらの樹脂のアロイ、例えば、ポリエステル樹脂/芳香族ポリカーボネート樹脂のアロイから選ばれたものである。さらに、ポリエステル樹脂としては、強化繊維の折損による機械的性質の低下、及び耐加水分解性の観点から、ポリエステル樹脂が、30℃、フェノールとテトラクロロエタンとの1対1(重量比)混合液中で測定した極限粘度が0.30dl/g〜1.20dl/gのポリブチレンテレフタレートで、かつチタン含有量が、樹脂中のチタン金属の重量基準で、33ppm以下であることが好ましい。ポリブチレンテレフタレートの極限粘度が0.30dl/g未満であると、長繊維強化樹脂のマトリックスを成すベースレジンの機械的性能が低下し、長繊維強化外装成形体として所要される機械的性質が満足できなくなる。また、成形体を成すポリブチレンテレフタレートの極限粘度が1.20dl/gを超えると、長繊維強化樹脂のマトリックスを成すベースレジンが高粘度となり、成形性が低下する、成形過程における長繊維の折損が大きくなり機械的強度の低下が発生するので好ましくない。また、長繊維材料のマトリックスを成すポリブチレンテレフタレートの加水分解による強度低下を抑制するために、チタン含有量が33ppm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明成形体は、成形材料として長繊維強化熱可塑性樹脂(A)、又は必要に応じ(A)に後記のリサイクル樹脂(B)を配合した混合物を用いて成形される。その方法は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、プレス成形等の各種成形法をあげることができるが、成形品外観や設計の自由度、製造工程削減の点から射出成形法で成形することが特に好ましい。長繊維強化熱可塑性樹脂(A)を成形する際、通常、成形機のシリンダー中での溶融・混練時、金型充填時に強化繊維が破砕され、繊維の長さが短くなる危険性があるが、本発明成形体中に分散する強化繊維の重量平均繊維長を1.5mm〜10mmの範囲内に保持するには、ペレットの長さ、成形機のシリンダー内壁の形状やスクリュー形状、成形条件(例えば、成形時の樹脂温度、射出速度)、前記狭流路の点を含め金型形状等の調整が有効である。また、ボスやリブ構造等を設けて、高剛性、高強度な車体前部構造体を得ることもできる。さらに、リブやボスに加圧ガスを注入することもできる。また、剛性強度をさらに向上させるため金型内に可動部分を設け、可動部の移動による容量拡大部分に加圧ガスを注入することで中空とし、断面剛性の高い断面形状とすることも可能であるし、形成された中空部に発泡体や低融点金属等を充填、補強し、さらに剛性強度を向上させることも可能である。
また、本発明成形体の成形材料である、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)等には、必要に応じて、他の成分を添加できる。他の成分としては、例えば、相溶性改良剤、安定剤、難燃剤、耐侯性改良剤、発泡剤、滑剤、流動性改良剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、染料、顔料、分散剤、無機強化剤、離型剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、アルカリ石鹸、金属石鹸、ハイドロタルサイト、可塑剤、造核剤、ドリッピング防止剤等が挙げられる。耐衝撃改良材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、α−オレフィン系ラバー、スチレン系ラバー、アクリル系ラバー、シリコン系ラバー、MBSやコアーシェルポリマー等が挙げられる。無機強化剤の具体例としては、長繊維以外のガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、マイカ、タルク、ワラストナイト、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、シリカ等が挙げられる。
【0018】
本発明成形体の成形材料である長繊維強化熱可塑性樹脂(A)の製法は、引き抜き法が好ましい。引き抜き法は、基本的には連続した強化用繊維束を引きながら樹脂を含浸するものであり、樹脂のエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸浴の中を繊維を通し含浸する方法、樹脂の粉末を繊維に吹きつけるか粉末を入れた槽の中を繊維を通し繊維に樹脂粉末を付着させたのち樹脂を溶融し含浸する方法、クロスヘッドの中を繊維を通しながら押出機等からクロスヘッドに溶融樹脂を供給し含浸する方法等が知られており、いずれも利用できる。成形材料として特に好ましいのは、クロスヘッドの中を繊維を通しながら、押出機等からクロスヘッドに溶融熱可塑性樹脂を供給し、含浸、冷却後、長さ3.0〜50mm、好ましくは長さ4.0〜30mmのペレット状にカットしたものである。このようにして得られた、ペレット中の強化繊維は、ペレットとほぼ平行になっているので、強化繊維の長さ≒ペレットの長さになっている。ペレットの長さが3.0mm未満では強化繊維の長さも短くなり、補強効果が小さく、逆に、ペレットの長さが50mmを超えると嵩密度が大きくなり、成形加工時にホッパー内でブリッジが発生したり、スクリューへの食い込みが悪くなり、安定した成形ができないことがある。
【0019】
本発明成形体の成形材料として長繊維強化熱可塑性樹脂(A)にリサイクル樹脂(B)を配合した混合物を使用する場合、その組成比が、該混合物の重量基準で
(A): 30重量%〜100重量%、
(B): 0重量%〜70重量%
の範囲内であるのが好ましい。長繊維強化熱可塑性樹脂(A)が30重量%未満では機械的強度、寸法安定性、外観等の低下が大きくなるので好ましくない。また、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)とリサイクル樹脂(B)の形状と大きさは、成形工程における分級防止のため、できるだけ近似していることが好ましい。
【0020】
本発明成形体の成形材料として、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)に配合される、リサイクル樹脂(B)は、特に制限はなく、相溶性の点では熱可塑性樹脂(A)のリサイクル品でもよいが、粘度平均分子量10000〜17000の芳香族ポリカーボネート樹脂のリサイクル品であると、流動性に優れ、成形過程における長繊維の折損が少なく、かつ、結晶性樹脂とのアロイ化により成形収縮率や線膨張係数の低減効果をなし、大型成形体の成形材料として好適に使用できる。
【0021】
このリサイクル樹脂(B)としては、成形時のパージ樹脂、スプルー、ランナー、成形時、二次加工時、組立て工程時等の工程内で発生した不良品、目的の用途に使用後回収された成形品等、種々の段階からのリサイクル品が挙げられる。もちろん、成形品の形状には制限はなく、具体的には、自動車、電気・電子・OA機器等の外板や機構部品その他の成形品を粉砕したリサイクル品も使用できる。しかし、溶剤、油脂類等の付着物の多い成形品は、機械的強度、熱安定性、外観低下の原因となるので好ましくない。
【0022】
また、リサイクル樹脂(B)の、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)との配合方法は、特に限定するものではなく、公知の各種混合機器、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、押出機、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)、ニーダー等を用いることができる。
【0023】
本発明成形体を自動車用外装成形体とするには、ボンネット、ルーフ、フード、フロントパネル、キャノピー、トランクリッド、ドアパネル、ピラー及びそれらに類似の自動車用外装パネル又はその構造体であることが要求される寸法精度の点で好ましい。
本発明において、長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体は、その外表面に積層された、少なくとも1層の非強化樹脂の層を有し、かつ、該積層面に垂直な断面における、長繊維強化層/非強化樹脂層の層厚比が1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。長繊維強化層/非強化樹脂層の層厚比が1.0未満では、長繊維強化成形体の成形時、及び/又は温度環境変化によって、長繊維強化層と非強化樹脂層の線膨張差による反りが発生する恐れがあるので好ましくない。また、上記積層に使用する非強化樹脂は、特に制限はないが、該長繊維強化熱可塑性樹脂と同種の樹脂、又は該樹脂を主成分とするアロイであることが密着性の点で好ましい。また、上記積層に際し、文字、エンブレム及び/又はマークを含む加飾部を、該長繊維強化成形体と、該非強化樹脂層との間に封入することもできる。そのような成形体は、外観特性及び意匠性、意匠の耐久性に優れた自動車用外装成形体として有用である。
【0024】
本発明において、長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体の外表面に積層された、少なくとも1層の非強化樹脂の層を形成する方法としては、熱可塑性樹脂について一般に用いられている加工方法、すなわち射出成形と同時に少なくとも1層の非強化樹脂の層、例えば非強化樹脂フィルムやシートを積層する方法、転写成形、2色成形、2重成形や、熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着等の溶着法をあげることができるが、成形品外観や設計の自由度、製造工程削減の点から射出成形と同時に該フィルムやシートを積層する方法が特に好ましい。
【0025】
本発明において、射出成形と同時に該フィルムやシートを積層する場合、溶融射出充填時の樹脂組成物との熱融着を促進し、積層一体化をより確実にする目的で、該フィルム又はシートに、プライマーコートを施すこともできる。プライマーコートに使用する樹脂としては、成形体を構成する熱可塑性樹脂より溶融粘度が高く、該フィルム又はシートとよく接着するものが選ばれる。例えば、該熱可塑性樹脂と同種でより高分子量の樹脂又はこれを主体とするもの、熱や紫外線により硬化する樹脂等がある。
【0026】
本発明成形体は、所望により、片面にハードコート、防曇、帯電防止、反射防止及び熱線遮断からなる群から選ばれた少なくとも一種の機能性層を施すことや、塗装や転写等による表面加飾を施すことができる。機能性層を形成するには、従来公知の種々の方法が用いられる。ハードコート層の形成には、所望によりプライマー層を設けた上に、エポキシ系、アクリル系、アミノ樹脂系、ポリシロキサン系、コロイダルシリカ系等のハードコート剤を塗布し、熱又は紫外線等の手段により硬化する方法を用いることができる。防曇層の形成には、通常水溶性又は親水性樹脂と界面活性剤を必須成分として含有する防曇塗料を塗布し、硬化する方法を用いることができる。そのほか、帯電防止層、反射防止層、熱線遮断層等も、これらの機能を与える塗料を塗布し、硬化するか、又はこれらの機能を有する薄膜層を真空蒸着法等の方法により、形成することにができる。また、これらの機能性層を複合層として、二種以上の機能を同時に備えたものとしてもよい。さらに、これらの機能性層の他に又は該機能性層に、予め美装用塗装処理を施して意匠性を持たせる等の方法により、意匠性付与層を形成することも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、図面を参照し好ましい実施例によって、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの範囲内に限定されるものではない。以下の例中、%は、別途指定のない限り、重量%である。
【0028】
[評価]
評価1.繊維含有率、重量平均繊維長
成形された長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体の任意の位置から無作為に試験片を切り出し、500℃の電気炉内で熱可塑性樹脂成分のみ燃焼させた後、残存する繊維の重量と長さを測定し、燃焼前の試験片の重量に対する比率を含有率とし、繊維長の重量平均値を重量平均繊維長とした。
評価2.極限粘度、粘度平均分子量
成形された長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体の任意の位置から無作為に切り出した試料を用い、ポリブチレンテレフタレート樹脂については、30℃、フェノールとテトラクロロエタンの重量比1:1混合物溶媒中で測定した極限粘度で表示した。ポリカーボネート樹脂については、25℃、ジクロロメタン中で測定した極限粘度([η])の値(単位dl/g)に基づき粘度平均分子量(Mv)を求めた。
評価3.機械的性質
成形された長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体の肉厚2mm以上の任意の位置から無作為に80mm×10mmの短冊状試験片を切り出し、曲げ弾性率、曲げ強度はISO 178に従って、ノッチ付きシャルピー衝撃強度はISO 179に従って測定した。なお、測定は試験片の数n=10にて実施した。
評価4.線膨張係数
成形された長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体の肉厚2mm以上の任意の位置から無作為に30mm×10mmの短冊状試験片を切り出し、23℃〜80℃の温度域における線膨張係数を測定した。なお、測定は試験片の数n=10にて実施し、且つ各試験片ごとに直交する2方向について実施し、最大線膨張係数を最小線膨張係数で除して比を算出した。この比が小さいほど、異方性が低減されたと評価する。
【0029】
[実施例1]
ガラス長繊維強化ポリエステル樹脂ペレットの調製
連続したガラス繊維束(ロービング)を開繊して引き取りながら含浸ダイの中を通し、含浸ダイに供給される溶融樹脂を含浸させた後、賦形、冷却、切断する引き抜き成形法を用いて、繊維含有率30%、長さ10mmのガラス長繊維強化ポリエステル樹脂ペレットを製造した。樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名ノバデュラン5008、極限粘度0.85dl/g、チタン含有量30ppm)を溶融して使用した。得られたペレット中の、ガラス繊維は、直径16μmで、ペレットと同一長さを有し、ペレットの長さ方向に実質的に平行配列しているものであった。
【0030】
外装成形体の射出成形
添付の図1に示す、厚み3mm、150mm×150mm、最大投影面積22500mm2 の平板状外装成形体を、東芝機械製IS−150射出成形機を用いて成形した。すなわち、上記のように調製した長繊維強化ポリエステル樹脂ペレットを、270℃に加熱した射出成形機の加熱シリンダーに供給し、可塑化、溶融、計量した。なお、可塑化、計量は射出成形機のゲージ圧で5MPaの背圧をかけながら実施した。計量後、金型のキャビティに図示の樹脂ゲートを介し射出充填した。射出時間を2秒とし、射出成形機のゲージ圧力で100MPaの保圧力を20秒かけ、冷却時間25秒経過後に金型を開き長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体を取り出し、成形を終了した。なお、このときの金型温度は70℃とした。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い構造体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−1に示す。評価結果における機械的性質がいずれも非常に高く、さらに、線膨張係数、線膨張の異方性がすべて小さく、自動車用外装成形体としての機能を満たすものであった。
【0031】
[実施例2]
実施例1において、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット調製の際に、繊維含有率30%を50%に代えた以外は、実施例1と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い構造体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−1に示す。評価結果における機械的性質がいずれも非常に高く、さらに、線膨張係数、線膨張の異方性がすべて小さく、自動車用外装成形体としての機能を満たすものであった。
【0032】
[実施例3]
実施例2において、外装成形体の射出成形の際に、添付の図1に示す平板状成形体に代えて、図2に示す、厚み3mm、150mm×200mmで、一部切り欠き部を有し最大投影面積27300mm2 であり、断面積90mm2 、流路長45mmの狭流路をもつ外装成形体とした以外は、実施例2と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い構造体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−1に示す。評価結果における機械的性質がいずれも非常に高く、さらに、線膨張係数、線膨張の異方性がすべて小さく、自動車用外装成形体としての機能を満たすものであった。
【0033】
[実施例4]
実施例2において、外装成形体の射出成形の際に、成形材料として、長繊維強化ポリエステル樹脂ペレットに代えて、同じ長繊維強化ポリエステル樹脂(A)ペレット80重量%に対し、記録用メディア(CD)から化学処理剤添加温水浴中で意匠膜及び機能性膜を剥離し、粉砕して得たリサイクル品である、粘度平均分子量14,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)20重量%を配合した混合物(繊維含有率40%)を使用した以外は、実施例2と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い構造体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度、粘度平均分子量を評価した結果を後記表−1に示す。評価結果における機械的性質がいずれも非常に高く、さらに、線膨張係数、線膨張の異方性がすべて小さく、自動車用外装成形体としての機能を満たすものであった。
【0034】
[実施例5]
実施例2において、外装成形体の射出成形の際に、金型のキャビティの大きさを、厚み4mm、150mm×150mmに変え、両キャビティ面に、予め成形された0.5mm厚みの表面にハードコート機能層を持つポリカーボネート製シート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名ユーピロンシートCFI−5)を装着した以外は、実施例2と同様にして、長繊維強化樹脂層の両面に非強化樹脂層が積層された、外装成形体(最大投影面積:22500mm2 )を成形した。この積層された平板状外装成形体における、長繊維強化樹脂層/非強化樹脂層の厚み比は3であった。ポリカーボネート製シートは、片面がハードコート、片面に十字マークを印刷してあり、ハードコート面を金型面に接するように(マークを封入)装着し、成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、表面の平滑性に優れ、剛性感の高い成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−1に示す。評価結果における機械的性質がいずれも非常に高く、さらに、線膨張係数、線膨張の異方性がすべて小さく、自動車用外装成形体としての機能を満たすものであった。
【0035】
【表1】

【0036】
[比較例1]
実施例1において、ガラス長繊維強化ポリエステル樹脂ペレット調製の際に、繊維含有率30%に代えて15%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の低い成形体となった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−2に示す。成形体の重量平均繊維長は2.6mmと長い結果であったが、評価結果における機械的性質がいずれも低く、さらに、線膨張係数の異方性(最大線膨張係数/最小線膨張係数比)は1.5と低いものの、最大線膨張係数が7.1×10-5-1と大きく、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0037】
[比較例2]
実施例1において、ガラス長繊維強化ポリエステル樹脂ペレット調製に代えて、繊維含有率30%のポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名ノバデュラン5010G45、極限粘度0.10dl/g)を用いた以外は、実施例1と同様に長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−2に示すが、成形体の重量平均繊維長は0.35mmと短いため、評価結果における衝撃強度は低く、かつ最大線膨張係数が6.2×10-5-1、異方性が1.9とすべて大きく、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0038】
[比較例3]
実施例2において、外装成形体の射出成形の際に、添付の図1に示す平板状成形体に代えて、図3に示す、厚み3mm(一部4mm)、150mm×200mmで、一部切り欠き部を有し最大投影面積20400mm2 であり、断面積40mm2 、流路長160mmの狭流路をもつ外装成形体とした以外は、実施例2と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−2に示す。評価結果における最大線膨張係数が5.6×10-5-1、異方性が2.7とすべて大きく、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0039】
[比較例4]
実施例2において、外装成形体の射出成形の際に、添付の図1に示す平板状成形体に代えて、図4に示す、厚み3mm、150mm×200mmで、一部切り欠き部を有し最大投影面積20400mm2 であり、断面積90mm2 、流路長160mmの狭流路をもつ外装成形体とした以外は、実施例2と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、剛性感の高い成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、吸湿寸法変化率、相対粘度を評価した結果を後記表−2に示す。評価結果における最大線膨張係数が6.4×10-5-1、異方性が3.4とすべて大きく、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0040】
[比較例5]
実施例2において、ガラス長繊維強化ポリエステル樹脂ペレット調製の際に、ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名ノバデュラン5008、極限粘度0.85dl/g、チタン含有量30ppm)に代えて、ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名ノバデュラン5020、極限粘度1.20dl/g)を用いた以外は、実施例2と同様にして長繊維強化外装成形体を成形した。
このようにして得られた長繊維強化成形体は、剛性感の高い成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−2に示すが、成形体の重量平均繊維長は0.94mmと短いため、評価結果における衝撃強度は低く、かつ最大線膨張係数が5.2×10-5-1と大きく、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0041】
[比較例6]
実施例5において、外装成形体の射出成形の際に、金型の両キャビティ面に、0.5mm厚みの表面にハードコート機能層を持つポリカーボネート製シート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名ユーピロンシートCFI−5)に代えて、1.1mm厚みの表面にハードコート機能層を持つポリカーボネート製シートを装着した以外は、実施例5と同様にして、長繊維強化樹脂層の両面に非強化樹脂層が積層された外装成形体を成形した。この積層された平板状外装成形体における、長繊維強化樹脂層/非強化樹脂層の厚み比は0.82であった。
このようにして得られた長繊維強化外装成形体は、表面の平滑性に優れた成形体であった。また、該成形体から切り出した試験片について、繊維含有率、重量平均繊維長、機械的性質、線膨張係数、極限粘度を評価した結果を後記表−2に示す。評価結果における衝撃強度は高いものの、剛性、強度等の機械的性質はいずれも低く、さらに、線膨張係数は最大、最小とも5×10-5-1以上であり、自動車用外装成形体としての機能を満たさないものであった。
【0042】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1,2,4及び比較例1,2,5で得られる外装成形体の平面図及び側面図。
【図2】実施例3で得られる外装成形体の平面図及び断面図。
【図3】比較例3で得られる外装成形体の平面図及び断面図。
【図4】比較例4で得られる外装成形体の平面図及び断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体中に分散する強化繊維の、含有率が30重量%〜90重量%であって、重量平均繊維長が1.5mm〜10mmであり、成形体の最大投影面積が20000mm2 以上であり、成形時に断面積100mm2 以下の狭流路の流路長が150mm以下であり、しかも、肉厚2mm以上の成形体部分の、最大線膨張係数が5×10-5-1以下であり、かつ、最大線膨張係数/最小線膨張係数の比が1.8以下であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びこれらの樹脂のアロイから選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、30℃フェノールとテトラクロロエタンとの1対1(重量比)混合液中で測定した極限粘度が0.30dl/g〜1.20dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂で、かつ、チタン含有量が33ppm以下であることを特徴とする請求項2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製成形体。
【請求項4】
成形材料として、長繊維強化熱可塑性樹脂(A)にリサイクル樹脂(B)を配合した混合物を使用し、その組成比が、該混合物の重量基準で
(A):30重量%〜100重量%、
(B):0重量%〜70重量%
の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項5】
上記リサイクル樹脂(B)が、粘度平均分子量10000〜17000の芳香族ポリカーボネート樹脂のリサイクル品であることを特徴とする請求項4記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項6】
上記強化繊維が、直径10μm〜20μmのガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項7】
上記成形体が射出成形により得られることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体が、ボンネット、ルーフ、フード、フロントパネル、キャノピー、トランクリッド、ドアパネル、ピラー及びそれらに類似の自動車用外装パネル又はその構造体であることを特徴とする自動車用外装成形体。
【請求項9】
上記長繊維強化熱可塑性樹脂製外装成形体は、その外表面に積層された、少なくとも1層の非強化樹脂の層を有し、かつ、該積層面に垂直な断面における、長繊維強化層/非強化樹脂層の層厚比が1.0以上であることを特徴とする請求項8記載の自動車用外装成形体。
【請求項10】
上記非強化樹脂が、該長繊維強化熱可塑性樹脂と同種の樹脂、又は該樹脂を主成分とするアロイであることを特徴とする請求項9記載の自動車用外装成形体。
【請求項11】
上記積層に際し、文字、エンブレム及び/又はマークを含む加飾部を、該長繊維強化成形体と、該非強化樹脂層との間に封入することを特徴とする請求項9又は10に記載の自動車用外装成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82275(P2006−82275A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267154(P2004−267154)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】