説明

防振装置

【課題】第1又は第2連結部材側とストッパとが当接して、第1及び第2連結部材の相対変位を規制している状態で、第1方向とは異なる第2方向の荷重が入力されたときに、その第2方向の動ばね定数が大きくなることを防止する。
【解決手段】防振装置1は、第1連結部材としての内筒体101と、第2連結部材としての外筒体102と、弾性体103と、ストッパ本体104とを備える。そうして、内筒体101(その周囲の弾性体の部分)とストッパ本体104とが互いに当接している状態で内筒体101が外筒体102に対して第2方向としての車体前後方向に移動したときに、ストッパ本体104も車体前後方向にスライド移動するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンやトランスミッション等の被支持体を車体に対して弾性支持するための車両の防振装置に関し、特に被支持体と車体との大きな相対変位を規制するためのストッパを備えた防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置として、被支持体と車体との相対変位を規制するストッパを備えたものが知られている。この防振装置の一例として、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1に開示された防振装置は、例えばエンジンに連結される第1連結部材としての円筒状の内筒体と、該内筒体の外周囲に配設された、例えば車体に連結される第2の連結部材としての楕円筒状の外筒体と、内筒体と外筒体との間に配設されると共に、内筒体と外筒体とを弾性連結する弾性体とを備えている。弾性体には、内筒体を挟んで車体上下方向(径方向)の両側それぞれに、当該弾性体を内筒体の筒軸方向(車体前後方向)に貫通する貫通孔が形成されている。これによって、内筒体から外筒体に向かって略径方向に延びる2つの主ばね部が形成されている。ストッパは、2つの貫通孔のうち車体下側の貫通孔内に、外筒体の内周面から車体上方に向かって突出するように弾性体と一体形成することにより設けられている。ここで、ストッパは、主ばね部に対して、車体下側で隙間を空けて対向しているため、内筒体と外筒体とが、主荷重入力方向である車体上下方向に大きく相対変位したときには、内筒体(正確にはそれを囲む弾性体の部分であり、以下においては、内筒体とそれを囲む弾性体部分とを含めて、内筒体側と呼ぶ場合がある)が、当該ストッパに当接することになり、そのことにより、内筒体と外筒体との車体上下方向に対する相対変位を所定量に規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−295886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうした防振装置では、例えば、自動車が急加減速したとき等には、内筒体側とストッパとが当接している状態で、主荷重入力方向とは異なる方向(例えば直交する方向であり、例えば筒軸方向の場合がある)の荷重が防振装置に入力されて、内筒体と外筒体とが筒軸方向に相対変位する場合がある。この場合、内筒体側とストッパとが互いに当接しているため、内筒体側の当接部位とストッパとが筒軸方向に擦れ合う。このとき、主ばね部には、摩擦によって、大きい摩擦力が作用するため、筒軸方向の動ばね定数が予め設定していた動ばね定数よりも大きくなる。その結果、自動車の、いわゆるNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)性能が悪化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1方向に対する第1及び第2連結部材の変位を規制するストッパを備えた防振装置において、第1又は第2連結部材側とストッパとが当接して相対変位を規制している状態で、第1方向とは異なる第2方向の荷重が入力されたときにおける、その第2方向の動ばね定数を小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、第1方向の変位を規制するストッパを、第2方向にスライド移動可能に構成することによって、第1又は第2連結部材がストッパの上を第2方向に摺動したときに、そのストッパも第2方向にスライド移動させるようにして、弾性体に作用する摩擦力を低減させた。
【0008】
具体的に、第1の発明では、被支持体と車体との間に配設されると共に、前記被支持体を前記車体に対して弾性支持する、車両の防振装置を対象とする。そうして、前記被支持体と連結される第1連結部材と、前記車体と連結される第2連結部材と、前記第1連結部材と前記第2連結部材とを連結する弾性体と、前記第1連結部材側又は第2連結部材側である取付部に設けられると共に、前記第1及び第2連結部材が所定の第1方向に相対移動したときに、前記第2連結部材側又は第1連結部材側である被当接部に当接することで、前記相対移動を所定量に規制するストッパと、を備え、前記ストッパは、前記被当接部に対して当接するストッパ本体と、当該ストッパ本体を前記第1方向とは異なる第2方向にスライド移動可能にするガイド機構とを有しており、前記ストッパ本体は、前記被当接部と当該ストッパ本体とが互いに当接している状態で前記第1及び第2連結部材が前記第2方向に相対移動をしたときに、前記被当接部と共に前記第2方向にスライド移動する。
【0009】
ここで、「第1連結部材側」及び「第2連結部材側」とは、第1及び第2連結部材そのもののみならず、第1及び第2連結部材の表面に弾性体が一体に設けられている場合には、その弾性体をも含む意味である。従って、第2又は第1連結部材側である「被当接部と当該ストッパ本体とが互いに当接している」とは、第1又は第2連結部材がストッパ本体に対して直接的に当接している場合、及び、第1又は第2連結部材が弾性体を介して間接的に当接している場合が含まれ得る。また、ストッパ本体が「被当接部と共に前記第2方向にスライド移動する」とは、ストッパ本体と被当接部とが、相対的な変位をしないで(互いにずれないで)移動することに限定されず、ストッパ本体と被当接部とが相対的に変位しつつも、その被当接部の移動に伴うように、ストッパ本体もスライド移動をすることを含み得る。
【0010】
この構成によると、例えば、防振装置に第1方向の荷重が入力されたときには、弾性体の変形を伴いながら、第1連結部材と第2連結部材とが相対変位をして、第1連結部材側又は第2連結部材側(つまり、ストッパが設けられていない被当接部)とストッパとが互いに当接する。これにより、第1連結部材及び第2連結部材の、第1方向に対する相対変位が所定量に規制される。ここで、被当接部とストッパとが当接している状態で、防振装置に第1方向とは異なる第2方向の荷重が入力されると、第1及び第2連結部材の第2方向への相対変位によって、ストッパに当接している被当接部がそのストッパの上を摺動しようとする。このとき、ストッパは、ガイド機構によって、被当接部に当接しているストッパ本体が第2方向に移動するため、被当接部とストッパとが互いに擦れ合わず、弾性体に作用する摩擦力が低減する。その結果、被当接部とストッパとが互いに当接していない通常の状態において所望の特性となるように設定された、第2方向の動ばね定数が大きくなってしまうことを抑制することができる。また、被当接部とストッパとが互いに擦れ合わないことから、両者の摩耗を低減することができる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、前記第1連結部材は、パワープラントに連結されると共に、その筒軸方向が略水平方向となるように配置される筒状の内筒体であり、前記第2連結部材は、前記内筒体の外周囲に配設される筒状の外筒体であり、前記弾性体は、前記内筒体を挟んだ前記第1方向に直交する方向の両側それぞれで、前記内筒体から前記外筒体に向かって径方向に延びる一対の主ばね部を有し、前記ガイド機構は、前記ストッパ本体を前記筒軸方向にスライド移動させる。
【0012】
この構成によると、内筒体と、それを囲むように配設された外筒体と、内筒体と外筒体とを連結すると共に、径方向に延びる一対の主ばね部を有する弾性体と、によって、いわゆるブッシュマウントが構成され、筒軸が略水平方向となるように組み付けられることによって、第1方向は上下方向に対応し得る。従って、筒軸方向にスライド移動可能なストッパは、車体前後方向又は車幅方向にスライド移動する。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、前記ガイド機構は、前記ストッパ本体又は前記取付部に設けられかつ、前記筒軸方向に延びるガイド溝と、前記取付部又は前記ストッパ本体に設けられかつ、前記ガイド溝に係合することによって、前記ストッパ本体の前記筒軸方向の移動を案内するガイド突起とを有する。
【0014】
この構成によると、取付部又はストッパ本体に設けられたガイド突起に対し、ストッパ本体又は取付部に設けられたガイド溝を嵌め込むことによって、ストッパ本体を、第1方向に対しては変位しないように保持しつつ、筒軸方向に移動させることができる。
【0015】
第4の発明では、第3の発明において、前記ガイド突起は、前記弾性体と一体に形成されている。
【0016】
こうすることで、ガイド突起は、例えばゴムの加硫成形時に、主ばね部と同時に形成することができるため、その製造コストを低くすることができると共に、そうして形成したガイド突起に、ストッパ本体を取り付ければ、ストッパが構成されるため、その製造の容易化も図り得る。
【0017】
第5の発明では、第3又は第4の発明において、前記ガイド溝は、前記ストッパ本体に対して凹陥して形成されていると共に、その前記筒軸方向の両端が閉塞されており、前記取付部に設けられているガイド突起は、前記ガイド溝内に係合して配置されている。
【0018】
この構成によると、ストッパ本体に形成したガイド溝の両端が閉塞されているため、そのストッパ本体が大きくスライド移動したときに、閉塞部分とガイド突起とが互いに干渉して、ストッパ本体がガイド突起から脱落してしまうことが防止される。これによって、前述した動ばね定数の低減効果が安定して得られる。
【0019】
第6の発明では、第3ないし第5の何れかの発明において、前記ガイド溝には、潤滑剤が塗布されている。
【0020】
この構成によると、ガイド溝に潤滑剤が塗布されているため、ガイド突起とガイド溝との摩擦が軽減される。これにより、ストッパ本体がよりスライドし易くなるから、摩擦力がより低減し、その結果、動ばね定数をより小さくすることができる。また、摩擦軽減により、被当接部及びストッパの摩耗をより低減することができる。ここで、前述したように、ガイド溝の両端を閉塞している構成においては、ガイド溝にガイド突起が嵌り込むと、ガイド溝がほとんど露出しないようになるため、潤滑剤の蒸発による消失を抑制することができる。そのため、潤滑剤をガイド溝内に長期間保持することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の防振装置では、第1方向に対する相対変位を規制するストッパ(ストッパ本体)を、第1方向とは異なる第2方向にスライド移動可能に構成することにより、被当接部とストッパとが当接している状態で第2方向の荷重が当該防振装置に入力されたときに、弾性体に作用する摩擦力を低減することができる。これにより、本発明の防振装置では、第2方向の動ばね定数が大きくなってしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動車のエンジンマウントに適用された実施形態1に係る防振装置の斜視図である。
【図2】実施形態1に係る防振装置の正面図である。
【図3】実施形態1に係る防振装置の縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV線における、実施形態1に係る防振装置の横断面図である。
【図5】実施形態1に係るストッパ本体の斜視図である。
【図6】実施形態2に係る防振装置の正面図である。
【図7】実施形態2に係る防振装置の縦断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線における、実施形態2に係る防振装置の横断面図である。
【図9】実施形態2に係るストッパ本体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
《実施形態1》
図1は、自動車の円筒ブッシュ型エンジンマウントに適用された本発明の実施形態1に係る防振装置1を示している。この防振装置1は、自動車のエンジン(図示省略)及び変速機2が直列に連結されると共に、その長手方向が車幅方向となるようにエンジンルーム(図示省略)に対して横置きに配設されたパワープラントPを車体左側のサイドフレーム3に対して弾性的に支持するものである。このパワープラントP(又はエンジン)が被支持体を、サイドフレーム3が車体をそれぞれ構成している。
【0024】
防振装置1は、図1ないし4に示すように、防振装置本体部10と、ボディフレームブラケット11と、を備えている。
【0025】
防振装置本体部10は、第1連結部材としての内筒体101と、第2連結部材としての外筒体102と、弾性体103と、を有している。
【0026】
内筒体101は、金属等の剛性部材から成る円筒状の部材であり、その筒軸方向が車体前後方向となるように配置され、その車体前後方向の両端部それぞれに、二股状のエンジンブラケット4が取り付けられることにより、このエンジンブラケット4を介してパワープラントPの変速機2と連結されている。
【0027】
外筒体102は、金属等の剛性部材から成る円筒状の部材であり、内筒体101の外周囲に内筒体101と同軸に配設されている。外筒体102の筒軸方向の長さは、内筒体101の筒軸方向の長さよりも短くなっており、外筒体102の筒軸方向の両端からは、内筒体101が突出している。外筒体102の筒軸方向の一端部(車体前側の端部)には、外筒体102の径方向外方(車体右側)に延びると共に、外筒体102の周方向の略右側半分に亘って拡がる略扇形状のフランジ部1021が形成されている。以下、内筒体101及び外筒体102の径方向を単に径方向と、内筒体101及び外筒体102の筒軸方向を単に筒軸方向と、内筒体101及び外筒体102の周方向を単に周方向という。
【0028】
弾性体103は、天然ゴム等のゴム弾性体から成り、内筒体101と外筒体102との間に配設されて、内筒体101と外筒体102とを弾性連結している。弾性体102の車体前側の端部には、そこから外筒体102のフランジ部1021よりも車体前方に突出すると共に、フランジ部1021と同様に、径方向外方(車体右側)に延びかつ、周方向に拡がるサイド規制部1031が形成されている。このサイド規制部1031は、内筒体101と外筒体102との筒軸方向の相対移動を規制するためのものである。また、弾性体103には、当該弾性体103を筒軸方向に貫通する、それぞれ所定形状を有する2つの貫通孔1032,1033が形成されている。2つの貫通孔1032,1033は、内筒体101を挟んだ径方向(車体上下方向)に並んで設けられており、これら2つの貫通孔1032,1033によって内筒体101の車幅方向の両側から外筒体102に向かって径方向外方の斜め下方に延びる一対の主ばね部1034,1034が構成されている。また、2つの貫通孔1032,1033のうち、車体下側の貫通孔1033には、外筒体102の内周面から径方向内方(車体上方)に突出するガイド突起1035が、筒軸方向に延びて形成されている。ガイド突起1035は、外筒体102の内周面から鉛直上方(車体上方)に突出する起立壁部と、この起立壁部の先端部において車幅方向に拡がる係合壁部とを備えていて、筒軸方向視で、略T字状に形成されていると共に、筒軸方向に対しては、外筒体102の筒軸方向の長さと略同じ長さとなるようにされている。
【0029】
このガイド突起1035は、弾性体103とは別体に形成されたストッパ本体104を筒軸方向にスライド移動可能に支持するための突起である。
【0030】
ストッパ本体104は、ガイド突起1035に係合して配置されることにより、貫通孔1033内において、内筒体101の鉛直下側(車体下側)に、内筒体101に対し所定の隙間を空けて配置されるものであり、内筒体101と外筒体102とが上下方向に相対変位したときに、内筒体101の下側(内筒体101の周囲を覆う弾性体の部分を含み、以下においては、説明の便宜上、単に内筒体101と呼ぶ場合がある)と当接することで、内筒体101及び外筒体102の、それ以上の相対変位を規制するためのものである。このストッパ本体104は、図2ないし5に示すように、筒軸方向(車体前後方向)に延びると共に、上面1041と、該上面1041と車体上下方向に対向する下面1042と、上面1041と下面1042との間の左側面1043、右側面1044、前側面1045、及び後側面1046を有するブロック状のゴム弾性体であり、後述するように、摩擦力の低減を目的として、例えば不飽和脂肪酸アミドを含有した自己潤滑ゴムによって構成してもよい。ストッパ本体104は、その筒軸方向の長さは、外筒体102及びガイド突起1035の筒軸方向の長さと略同じになっており、上面1041は、車幅方向に略平坦で、前記内筒体側と当接する当接面を含むと共に、左側面1043及び右側面1044となだらかにつながっている。左側面1043は、車体上下方向の下側から上側に向かって、車体左側から車体右側に延びる曲面になっている。右側面1044は、左側面1043とは逆に、車体上下方向の下側から上側に向かって、車体右側から車体左側に延びる曲面になっている。下面1042は、外筒体102の内周面付近の弾性体103に沿うように略円弧状に湾曲した曲面になっている。また、ストッパ本体104には、その内部にガイド溝1042aが形成されている。ガイド溝1042aは、前側面1045から後側面1046まで車体前後方向に延びて、前側面1045及び後側面1046で開口している。このガイド溝1042aは、ストッパ本体104の横断面における中央部分で左右方向(車幅方向)に延びる係合溝と、この係合溝における左右方向の中央に連続すると共に、ストッパ本体104の下面1042に開口する連通溝とを含んで、筒軸方向視で略T字状となっており、これによってガイド溝1042aは、ガイド突起1035と同様の形状を有している。すなわち、ストッパ本体104は、このT字状のガイド溝1042aを取り囲むような鉤状に形成されている。このように構成されたストッパ本体104は、ガイド溝1042aの前側面1045又は後側面1046の前記開口からガイド突起1035に挿通されることにより、ガイド突起1035に対して、係合壁部と係合溝とが互いに係合することによって、上下方向には相対移動しない(つまり、ストッパ本体104がガイド突起から外れない)ようにしつつ、車体前後方向(筒軸方向)にはスライド移動可能に取り付けられる。このガイド突起1035とガイド溝1042aとがガイド機構を構成する。ここでガイド溝1042aは、ストッパ本体104の前及び後側面1045,1046に開口しているため、ストッパ本体104が車体前後方向に大きくスライド移動すると、ガイド突起1035から脱落し得るが、後述するように、防振装置1を車体に組み付けた状態では、ガイド突起1035の車体前側には、エンジンブラケット4の車体前側の二股部41が、車体後側には、サイド規制体12が、それぞれ配置される。そのため、ストッパ本体104は、これらエンジンブラケット4又はサイド規制体12に当接することによって、ガイド突起1035から脱落することはない。
【0031】
ボディフレームブラケット11は、金属等の剛性部材から成る筒状の部材であり、サイドフレーム3に固定するための2つの連結部111,112を有している。
【0032】
防振装置本体部10は、ボディフレームブラケット11の筒孔に圧入固定されている。ここで、内筒体101の筒軸方向の両端部は、ボディフレームブラケット11から突出しており、これら2つの突出部のうち車体後側の突出部には、サイド規制体12が外嵌されている。
【0033】
サイド規制体12は、サイド規制部1031と同様に、略扇形状の板状の部材であり、外筒体102の周方向の略右側半分に亘って拡がるように、前記突出部に取り付けられている。このサイド規制体12は、内筒体101と外筒体102との筒軸方向の相対移動を規制する。
【0034】
このように構成された防振装置1は、ボディフレームブラケット11の連結部111,112とサイドフレーム3とをボルト(図示省略)で締結することにより、サイドフレーム3に連結されている一方、エンジンブラケット4の二股部41,41の挿通孔及び内筒体101の筒孔にボルト(図示省略)を挿通すると共に、内筒体101とエンジンブラケット4とを締結することにより、エンジンブラケット4を介してパワープラントPの変速機2と連結される。ここで、防振装置1は、内筒体101の筒軸方向が車体前後方向になるようにかつ、内筒体101とストッパ本体104とが車体上下方向に対向するように、サイドフレーム3及びパワープラントPの変速機2と連結される。
【0035】
次に、本防振装置1の作用効果について説明する。
【0036】
停車時や平坦路の通常の走行時等において、内筒体101とストッパ本体104とは所定の隙間を空けた状態で、互い非接触である一方、例えば悪路走行時等において、防振装置1に車体上下方向の大きな荷重が入力されると(例えばバンプ時)、内筒体101と外筒体102とが、上下方向に大きく相対変位することになり、内筒体101とストッパ本体104とが当接する。このことにより、内筒体101と外筒体102との相対変位が、所定量に規制される。
【0037】
ここで、内筒体101とストッパ本体104とが当接している状態で、例えば、自動車が急加速や急減速したときのように、防振装置1に車体前後方向(すなわち、車体上下方向と直交する方向)の荷重が入力されたときには、内筒体101が、ストッパ本体104の上を摺動する。ここで、従来の防振装置であれば、ストッパは外筒体に対して一体に形成されて、車体前後方向に動くことがないため、前記の摺動に伴う摩擦によって、車体前後方向の動ばね定数が、通常時の動ばね定数よりも大きくなってしまう。特に、内筒体とストッパとが強く当接し合っているほど(バンプ荷重が大きいほど)摩擦力が大きくなるから、動ばね定数がより大きくなり、自動車のNVH性能の悪化に対する影響が大きくなる。これに対し、本防振装置1では、ストッパ本体104は、車体前後方向にスライド移動可能に構成されている。そのため、内筒体101がストッパ本体104の上を車体前後方向に摺動すると、ストッパ本体104も車体前後方向にスライドするため、内筒体101とストッパ本体104との間の摩擦が軽減され、これによって、主ばね部1034に作用する摩擦力が低減するから、車体前後方向の動ばね定数は大きくならない又は、大きくなることが抑制される。そのため、内筒体101とストッパ本体104とが当接している状態で防振装置1に車体前後方向の荷重が入力されたとしても、自動車のNVH性能が悪化することはない。
【0038】
また、内筒体101とストッパ本体104との摩擦が軽減されるから、内筒体101(それを囲む弾性体部分)及びストッパ本体104の摩耗を低減することができる。これにより、仮に、ストッパ本体104が摩耗したときには、ストッパ本体104と内筒体101とが摺動したときに異音が発生するという問題があるところ、異音の発生を抑制することができる。
【0039】
さらに、ストッパ本体104を摩擦係数が低い自己潤滑ゴムで構成することによって、主ばね部1034に作用する摩擦力をさらに低減することができるから車体前後方向の動ばね定数を、さらに小さくすることができる。このことは、NVH性能の悪化を抑制する上で、より有利であると共に、内筒体101及びストッパ本体104の摩耗を、より一層低減することができる。
【0040】
尚、ストッパ本体104は、前述したように、車体前方向に大きくスライドすると、エンジンブラケット4の車体前側の二股部41に当接する一方、車体後方向に大きくスライドすると、サイド規制体12に当接する。そのため、ストッパ本体104は、車体前後方向へのスライド移動では、ガイド突起1035から脱落することはない。
【0041】
また、ストッパ本体104を、防振装置1の弾性体103とは別体に構成しているため、ストッパ本体104を、弾性体103とは異なる材料によって構成することが可能になる。このことは、前述したように、ストッパ本体104を、自己潤滑ゴム等によって形成することによる摩耗抑制等の、新たな作用効果を得ることができるという利点もある。
《実施形態2》
次に、本発明の実施形態2に係る防振装置5について説明する。
【0042】
この実施形態2に係る防振装置5は、ガイド突起とストッパ本体の構成が実施形態1と異なる。そこで、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付して適宜説明を省略し、実施形態1と異なる構成について中心に説明する。
【0043】
防振装置5は、図6ないし8に示すように、ガイド突起51の形状と、ストッパ本体52のガイド溝522aの形状とが防振装置1と異なる。
【0044】
ガイド突起51は、車体下側の貫通孔1033で、弾性体103が、外筒体102の内周面から径方向内方(車体上方)に突出したものである。このガイド突起51は、その車幅方向の両側面が車体下側から車体上側に向かって互いに離れるように傾斜しおり、これによって、筒軸方向視で略逆台形状になっている。また、ガイド突起51は、筒軸方向に延びると共に、その筒軸方向の長さが外筒体102の筒軸方向の長さよりも短くなっており、これにより、ガイド突起51は、図7に示すように、外筒体102の筒軸方向の中央部にのみ形成され、筒軸方向の両端部に相当する箇所には形成されていない。
【0045】
ストッパ本体52は、実施形態1と同様のブロック形状を有しており、図9に示すように、上面521と、該上面521と車体上下方向に対向する下面522と、上面521と下面522との間の左側面523、右側面524、前側面525、及び後側面526を有する。このストッパ本体52もまた、不飽和脂肪酸アミドを含有した自己潤滑ゴムによって構成してもよい。このストッパ本体52には、下面522に開口すると共に、内方に凹陥するガイド溝522aが形成されている。ガイド溝522aは、前記略逆台形状のガイド突起51と同様の断面形状を有しており、その車幅方向の溝幅が車体下側から車体上側に向かって次第に大きくなっており、筒軸方向視で略逆台形状となっている。ガイド溝522aは、前記実施形態1に係るガイド溝とは異なり、筒軸方向の両端を閉塞する壁部を備えており、前側面525及び後側面526では開口しておらず、下面522においてのみ開口している。また、ガイド溝522aの筒軸方向の長さは、ガイド突起51の筒軸方向の長さよりも長くかつ、外筒体102の筒軸方向の長さよりも短くなっている。
【0046】
このように構成されたストッパ52は、ガイド溝522aにガイド突起51が嵌り込むように、車体上側からガイド突起51に取り付けられる。ここで、ガイド溝522aの筒軸方向の長さがガイド突起51の筒軸方向の長さよりも長くなっているので、ストッパ52は、ガイド突起51に対して、筒軸方向(車体前後方向)にスライド移動可能である。従って、前記実施形態1と同様に、内筒体101がストッパ本体52に当接している状態で防振装置5に対して車体前後方向の荷重が入力されたときには、ストッパ本体52が車体前後方向にスライド移動するので、車体前後方向の動ばね定数が大きくなってしまうことが回避される。また、内筒体101とストッパ本体52との間の摩擦の軽減により、異音の発生も抑制される。
【0047】
ここで、ガイド溝522aには、グリース等の潤滑剤を塗布してもよい。これにより、ストッパ本体52が車体前後方向にスライドするときのガイド突起51とストッパ本体52との摩擦が軽減される。このことは、車体前後方向の動ばね定数が大きくなることを防止する上で有利であり、その結果、自動車のNVH性能の悪化をより抑制することができる。また、ストッパ本体52と内筒体101との摩擦がより軽減されるから、ストッパ本体52及び内筒体101の摩耗がより低減され、その結果、異音の発生をより抑制することができる。
【0048】
ここで、前述したように、ストッパ本体52は、ガイド溝522aが下面522のみで開口するような袋状に形成されているため、ストッパ本体52をガイド突起51に取り付けた状態では、ガイド溝522内がほとんど露出しないため、潤滑剤の蒸発による消失を抑制することができる。そのため、潤滑剤をガイド溝内に長期間保持することができる。尚、前記実施形態1においても、ガイド溝に潤滑剤を塗布してもよい。
【0049】
また、ストッパ本体52は、ガイド溝522aが前側面525及び後側面526で開口していないため、前記実施形態1とは異なり、車体前後方向へのスライド移動したときに、ガイド突起51から脱落することはない。
【0050】
また、ガイド突起51及びガイド溝522aは、その車幅方向の幅が車体下側から車体上側に向かって次第に広くなった、筒軸方向視で略逆台形状になっているため、ガイド溝522aの車幅方向の幅が狭い部分とガイド突起51の車幅方向の幅が広い部分とが引っ掛かることで、ストッパ本体52が、ガイド突起51から外れてしまうことが防止され、相対変位を規制するストッパとしての機能を安定して維持しつつ、車体前後方向へのスライド移動による動ばね定数の低減効果を確実に得ることができる。
【0051】
以上説明したように、実施形態に係る防振装置では、ストッパ本体を車体前後方向にスライド移動可能に構成することによって、内筒体(その周囲を覆う弾性体の部分)とストッパ本体とが当接している状態で車体前後方向の荷重が防振装置に入力されると、ストッパ本体が車体前後方向にスライドするから、主ばね部に作用する摩擦力を小さくすることができる。これにより、車体前後方向の動ばね定数が大きくなってしまうことを回避することができる。
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0052】
すなわち、ガイド突起は、弾性体と一体形成しなくともよい。例えば、別体で形成したガイド突起を、外筒体に対して後付けで取り付けてもよい。実施形態1に示すような筒軸方向視で略T字状のガイド突起は、例えば2つの略L字状の板金を背中合わせに配設して、外筒体に固定することによって形成することが可能である。但し、ガイド突起を弾性体と一体形成することは、加硫成形によって、主ばね部の成形と同時に、ガイド突起を形成することができるため、製造コストを低くする点で有利である。
【0053】
また、ガイド突起の形状も上記に限られず、適宜の形状にすることができる。但し、このときには、ガイド溝の形状もガイド突起の形状に合わせて適宜変更しなければならない。
【0054】
さらに、ストッパの材質や形状も上記に限られず、適宜の材質や形状にすることができる。
【0055】
さらにまた、ストッパ本体及びガイド突起を、外筒体側ではなく、内筒体側に設けるようにしてもよい。また、ガイド突起をストッパ本体に設け、ガイド溝を取付部(外筒体側又は内筒体側)に設けてもよい。
【0056】
加えて、こうした第1方向(前記の実施形態では主荷重入力方向となる車体上下方向)に対する相対変位を規制するためのストッパ部材を、その第1方向とは異なる第2方向(前記の実施形態では主荷重入力方向に直交する車体前後方向)にスライド移動可能に構成することで、その第2方向の動ばね定数が大きくなってしまうことを回避するような構成は、前述したブッシュ型の防振装置に限定されるものではない。パワープラントを弾性支持するための、各種の形態の防振装置(マウント装置)に適用することができると共に、パワープラントの支持に限定されず、被支持体を車体に対して弾性支持するための、自動車用の防振装置に対して、適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の防振装置は、動ばね定数が大きくなることを防止することができるので、例えば自動車のパワープラント用のマウントとして適用したときに、自動車のNVH性能の悪化を防ぐことができる点で有用であり、各種の自動車用の防振装置として適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 防振装置
10 防振装置本体部
101 内筒体(第1連結部材)
102 外筒体(第2連結部材)
103 弾性体
1034 主ばね部
1035 ガイド突起(ガイド機構)
104 ストッパ本体
1042a ガイド溝(ガイド機構)
11 ボディフレームブラケット
2 変速機
3 サイドフレーム(車体)
4 エンジンブラケット
5 防振装置
51 ガイド突起(ガイド機構)
52 ストッパ本体
522a ガイド溝(ガイド機構)
P パワープラント(被支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持体と車体との間に配設されると共に、前記被支持体を前記車体に対して弾性支持する、車両の防振装置であって、
前記被支持体と連結される第1連結部材と、
前記車体と連結される第2連結部材と、
前記第1連結部材と前記第2連結部材とを連結する弾性体と、
前記第1連結部材側又は第2連結部材側である取付部に設けられると共に、前記第1及び第2連結部材が所定の第1方向に相対移動したときに、前記第2連結部材側又は第1連結部材側である被当接部に当接することで、前記相対移動を所定量に規制するストッパと、を備え、
前記ストッパは、前記被当接部に対して当接するストッパ本体と、当該ストッパ本体を前記第1方向とは異なる第2方向にスライド移動可能にするガイド機構とを有しており、 前記ストッパ本体は、前記被当接部と当該ストッパ本体とが互いに当接している状態で前記第1及び第2連結部材が前記第2方向に相対移動をしたときに、前記被当接部と共に前記第2方向にスライド移動することを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防振装置において、
前記第1連結部材は、パワープラントに連結されると共に、その筒軸方向が略水平方向となるように配置される筒状の内筒体であり、
前記第2連結部材は、前記内筒体の外周囲に配設される筒状の外筒体であり、
前記弾性体は、前記内筒体を挟んだ前記第1方向に直交する方向の両側それぞれで、前記内筒体から前記外筒体に向かって径方向に延びる一対の主ばね部を有し、
前記ガイド機構は、前記ストッパ本体を前記筒軸方向にスライド移動させることを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項2に記載の防振装置において、
前記ガイド機構は、前記ストッパ本体又は前記取付部に設けられかつ、前記筒軸方向に延びるガイド溝と、前記取付部又は前記ストッパ本体に設けられかつ、前記ガイド溝に係合することによって、前記ストッパ本体の前記筒軸方向の移動を案内するガイド突起とを有することを特徴とする防振装置。
【請求項4】
請求項3に記載の防振装置において、
前記ガイド突起は、前記取付部に設けられて前記弾性体と一体に形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の防振装置において、
前記ガイド溝は、前記ストッパ本体に対して凹陥して形成されていると共に、その前記筒軸方向の両端が閉塞されており、
前記取付部に設けられているガイド突起は、前記ガイド溝内に係合して配置されていることを特徴とする防振装置。
【請求項6】
請求項3ないし5の何れか1項に記載の防振装置において、
前記ガイド溝には、潤滑剤が塗布されていることを特徴とする防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−163392(P2011−163392A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24589(P2010−24589)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】