説明

防眩性積層体

【課題】
優れた防眩性、高精細表示装置であっても、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止でき、高い耐候性および表面硬度を有し、かつ、防眩フィルム製造時の作業性および安全性の向上させた防眩フィルムを提供すること。
【解決手段】
本発明の防眩フィルムは、透明基材フィルムにラクトン環含有樹脂フィルムを用い、基材フィルム上に防眩層を設けた防眩フィルムにおいて、透明基材フィルム上にポリマー、硬化性樹脂前駆体および溶媒とを含む液状組成物を塗布し、溶媒を蒸発させ、スピノーダル分解により相分離構造を形成し、前記硬化性樹脂前駆体を光照射などにより硬化させ、表面凹凸構造を形成させることにより、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1〜10°であるとともに、全光線透過率が70〜100%である。また、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が70〜100%であり、ヘーズが20〜50%の範囲内に制御し、優れた防眩性に加えて、高い耐候性、高表面硬度およびフィルム製造・加工時の作業性・安全性を向上させた防眩フィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種表示装置の表示面でのギラツキや外部光源の映りこみを防止するのに適した防眩性フィルム及びその製造方法、並びにそれを用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などの表示面での外景の映り込みを防止するため、例えば、特許文献1に開示されているように、通常、微粒子とバインダー樹脂又は硬化性樹脂との混合物を基材に塗布し防眩層を形成させ、表面に微細な凹凸を形成することにより正反射を防ぎ、防眩性を発現させている。また、例えば、特許文献2および3には、防眩層上に、平均粒径0.001〜0.2μmの無機微粒子、光硬化性オルガノシランの加水分解物及び/又はその部分縮合物、並びに含フッ素ポリマーを含有し、かつ屈折率が1.35〜1.49の低屈折率層を形成した防眩性反射防止フィルムが開示されている。
【0003】
特許文献4では、透明基材フィルム上にポリマー、硬化性樹脂前駆体および溶媒とを含む液状組成物を塗布し、溶媒を蒸発させ、スピノーダル分解により相分離構造を形成し、前記硬化性樹脂前駆体を光照射などにより硬化させ、表面に微細な凹凸を形成する方法が開示されている。
さらに、近年、表示装置が屋外で使用されるケースが多くなってきており、この場合は、高い耐候性が要求されている。
また、表示装置表面で使用される場合には、高い表面硬度が要求されている。
特許文献5では、基材フィルムにラクトン環含有樹脂を使用し、防眩フィルムの耐候性と表面硬度を向上させている。しかし、防眩性については不十分であった。
さらには、フィルム取り扱いの作業性、安全性を考慮すると、防眩フィルム製造・加工の際に発生する静電気を発生しにくくするために、フィルム自身の表面電位を小さく抑え、帯電させにくくすることが要求される。
【0004】
しかし、上記のすべての特性を十分に満足するものは、従来の防眩フィルムになかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−215307号公報
【特許文献2】特開2001−264508号公報
【特許文献3】特開2001−281411号公報
【特許文献4】特開2004−126495号公報
【特許文献5】特開2007−293272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、優れた防眩性、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止でき、高い耐候性および表面硬度を有し、かつ、防眩フィルム製造時の作業性および安全性の向上を目指し、検討を行った。この検討の結果、既存の基材フィルムを用いて、優れた防眩性、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止できについては実現できるものの、高い耐候性および表面硬度を有し、かつ、防眩フィルム製造時の作業性および安全性の確保を同時に満たすことはできなかった。
本発明の目的は、優れた防眩性、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止でき、高い耐候性および表面硬度を有し、かつ、防眩フィルム製造・加工時の作業性および安全性の向上した防眩フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を違成するため鋭意検討した結果、透明基材フィルムにラクトン環含有樹脂フィルムを用い、この基材フィルム上に、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを均一に溶解した溶液から溶媒を蒸発させ、適当な条件でスピノーダル分解させ、その後前記前駆体を硬化させると、規則性を有する相分離構造及びその相構造に対応した表面凹凸構造が形成できること、このような規則性を有する相分離構造を有する防眩層を、高精細表示装置に装着すると、表示面のギラツキ、文字ボケ、高い耐候性および表面硬度を有し、かつ、防眩フィルム製造時の作業性および安全性の向上させた防眩フィルムを得ることができ、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の防眩性フィルムは、透明基材フィルムにラクトン環含有樹脂フィルムを用い、この基材フィルム上に形成される防眩層とで構成されており、前記防眩層は、表面に凹凸構造を有している。さらに前記防眩層は、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1〜10°(好ましくは1〜10°)であるとともに、全光線透過率が70〜100%(好ましくは80〜100%)である。すなわち、防眩層を透過して散乱した透過散乱光は、直進透過光から分離した散乱ピークを有する。前記防眩層は、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が70〜100%程度であり、ヘーズが20〜50%程度であってもよい。
【0009】
前記防眩層は、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とで構成された層であって、前記ポリマー及び前駆体のうち少なくとも2つの成分(例えば、複数のポリマー同士、ポリマーと硬化性樹脂前駆体、複数の硬化性樹脂前駆体同士など)が、液相からのスピノーダル分解により相分離しているとともに、前記前駆体が硬化している。前記ポリマーは、スピノーダル分解により相分離可能な複数のポリマー(例えば、セルロース誘導体と、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂などと組み合わせなど)で構成されるとともに、硬化性樹脂前駆体が、複数のポリマーのうち、少なくとも一種のポリマーと相溶性を有していてもよい。複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが、硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与する官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基などの重合性基)を有していてもよい。前記硬化性樹脂前駆体は、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体などで構成されていてもよい。尚、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂前駆体とは、通常、互いに非相溶である。さらに、防眩層には、硬化性樹脂前駆体の硬化により、ハードコート性(又は耐擦傷性)を付与してもよく、規則的又は周期的な相分離構造を固定化してもよい。前記防眩層は、例えば、活性エネルギー線(紫外線、電子線など)、熱などにより硬化されてもよい。また、前記防眩層は、通常、ポリマーと硬化樹脂とを前者/後者=5/95〜60/40(重量比)程度の割合で含んでいてもよい。
【0010】
本発明では、光学要素の少なくとも一方の光路面(又は一方の面)に前記防眩性フィルム(すなわち、防眩層単独の防眩性フィルム、又は透明基材フィルムと防眩層との積層フィルム)が積層された光学部材(又は積層光学部材)が得られる。この光学部材では、光学要素の保護フィルムに代えて前記防眩性フィルムを用いることにより、表示面でのギラツキを防止できるとともに、光学要素に高い耐擦傷性を付与できる。このため、本発明のフィルムは、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、タッチパネル式入力装置などの表示装置にも好ましく用いられる。
【0011】
本発明には、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とで構成された組成物であって、前記ポリマー及び前駆体のうち少なくとも2つの成分が、液相からのスピノーダル分解により相分離可能である防眩性フィルム用組成物も含まれる。前記組成物は、スピノーダル分解により相分離可能な複数のポリマーで構成されるとともに、硬化性樹脂前駆体が、複数のポリマーのうち、少なくとも一種のポリマーと相溶性を有していてもよい。前記複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが、硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与する官能基を有していてもよい。
【0012】
防眩性フィルムは、例えば、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相からのスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記硬化性樹脂前駆体を硬化させ、少なくとも防眩層を形成することにより製造できる。液相からのスピノーダル分解は、前記溶媒を蒸発させることにより行うことができる。相分離構造を形成する組み合わせは、例えば、複数のポリマー同士、ポリマーと硬化性樹脂前駆体、複数の硬化性樹脂前駆体同士などであってもよい。この方法において、熱可塑性樹脂と、光硬化性化合物(光重合性モノマーやオリゴマーなど)と、光重合開始剤と、前記熱可塑性樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒(共通溶媒)とを含む組成物からのスピノーダル分解により相分離構造を形成し、光照射することにより防眩層を形成してもよい。また、熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂に非相溶で且つ光硬化性基を有する樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物からのスピノーダル分解により相分離構造を形成し、光照射することにより防眩層を形成してもよい。これらの方法において、透明透明基材フィルム上に少なくとも一層の防眩層を形成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0014】
[防眩性フィルム]
防眩性フィルムは、透明基材フィルムにラクトン環含有樹脂フィルムを用い、この基材フィルム上に防眩層を形成させ構成されており、この防眩層の相分離構造は、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成されている。すなわち、ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とで構成された本発明の樹脂組成物を用い、この樹脂組成物の液相(又は均一溶液やその塗布層)から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃度の濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じ、相間距離が比較的規則的な相分離構造を形成できる。より具体的には、前記湿式スピノーダル分解は、通常、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液又は樹脂組成物(均一溶液)を透明基材フィルムにコーティングし、塗布層から溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
【0015】
(ラクトン環含有樹脂フィルム)
前記ラクトン環含有樹脂フィルムは、ラクトン環含有重合体を主成分として含む。
【0016】
ラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい。)
ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。一方、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0019】
ラクトン環含有重合体は、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(2)で表される単量体とからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、または−CO−O−R基を表し、Acはアセチル基を表し、RおよびRは水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
ラクトン環含有重合体構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、ヒドロキシ基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、一般式(2)で表される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0022】
ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重合工程によって分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0023】
重合工程においては、下記一般式(3)で表される単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体が得られる。
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
一般式(3)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル、メタリルアルコールなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高い点において、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0027】
重合工程において供する単量体成分中における一般式(3)で表される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。一般式(3)で表される単量体の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。一方、一般式(3)で示される単量体の含有割合が90質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0028】
重合工程において供する単量体成分には、一般式(3)で示される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、および、下記一般式(2)で表される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、または−CO−O−R基を表し、Acはアセチル基を表し、RおよびRは水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
(メタ)アクリル酸エステルとしては、一般式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0031】
一般式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
【0032】
ヒドロキシ基含有単量体としては、一般式(3)で表される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシ基含有単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
一般式(3)で表される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0034】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
【0035】
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0036】
一般式(2)で表される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、本発明の効果を充分に発揮することから、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0037】
一般式(2)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0038】
単量体成分を重合して分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0039】
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて異なるが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0040】
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0041】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0042】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0043】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑止することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0044】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0045】
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
【0046】
重合体(a)へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0047】
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい。)
重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
【0050】
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類;有機リン化合物を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0051】
これらの環化縮合反応の触媒の中でも、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減できることから、有機リン化合物が好ましい。さらに、有機リン化合物を環化縮合反応の触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0052】
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオロメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
【0053】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。一方、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
【0054】
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
【0055】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0056】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
【0057】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0058】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。一方、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0059】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。一方、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0060】
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0061】
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。一方、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0062】
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。一方、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0063】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が低下することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
【0064】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
【0065】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0066】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の低下を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0067】
前述のように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナッミクTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0068】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0069】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
【0070】
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、一旦溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
【0071】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。好ましくは、重合工程に用いた溶剤と同じ種類の溶剤である。
【0072】
前記方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。一方、加熱温度180℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0073】
前記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法などが挙げられる。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは150〜180℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0074】
前記方法(i)、(ii)のいずれにおいても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
【0075】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0076】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0077】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0078】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0079】
ラクトン環含有重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
【0080】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0081】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
【0082】
ラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0083】
ラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
【0084】
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。
【0085】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
【0086】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0087】
ラクトン環含有樹脂フィルムに含まれるラクトン環含有重合体の含有割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。ラクトン環含有樹脂フィルムに含まれるラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できないことがある。
【0088】
ラクトン環含有樹脂フィルムには、その他の成分として、ラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂等のハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。
【0089】
ラクトン環含有樹脂フィルムにおけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
【0090】
ラクトン環含有樹脂フィルムには、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0091】
ラクトン環含有樹脂フィルムに添加される紫外線吸収剤の構造は、特に限定されるものではないが、発色団としてヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤が好ましく、その中でも、ガラス転移温度が110℃以上の熱可塑性アクリル系樹脂と相溶性が高く吸収特性が優れている点から、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤がより好ましく、下記式(4)で表される構造を有する紫外線吸収剤を主成分として含む紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0092】
【化7】

【0093】
その他の紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾオキサジノン誘導体、トリアジン誘導体等が挙げられる。
【0094】
ベンゾトリアゾール誘導体としては、具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル]、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、3−[3−メチル−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5―tert―ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応性生物、2−(2H―ベンゾトリアゾール―2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール等が挙げられる。
【0095】
ベンゾフェノン誘導体としては、具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジキロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’, 4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ジヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0096】
ベンゾオキサジノン誘導体としては、具体的には、2−p−メトキシフェニル(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−α−ナフチル(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−β−ナフチル(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−p−フタルイミドフェニル(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,4−ジフェニレン)ビス(4H−3,1−ベンゾオキサジノン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6又は1,5−ジナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が挙げられ、その中でも特に融点が高いことと吸収特性の点から、2,2’−(1,4−ジフェニレン)ビス(4H−3,1−ベンゾオキサジノン−4−オン)(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:サイアソーブUV−3638)が好ましい。
トリアジン誘導体としては、具体的には、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−iso−オクチルフェニル)−s−トリアジン等が挙げられる。また、イソオクチル置換トリスレゾルシノールトリアジン(例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカル社製の商品名「CGL777MPAD」)、tert−ブチル置換トリスレゾルシノールトリアジン、クミル置換トリスレゾルシノールトリアジン等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
ラクトン環含有樹脂フィルム中における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
【0098】
ラクトン環含有樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、従来公知の混合方法で充分に混合することにより樹脂組成物を調製し、これをフィルム成形することができる。また、延伸することによって、延伸フィルムとしてもよい。
【0099】
まず、熱可塑性樹脂組成物を製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記のフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0100】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
【0101】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0102】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0103】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0104】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
【0105】
ラクトン環含有樹脂フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持することができる。
【0106】
延伸を行う方法としては、例えば、一軸延伸法、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法など、従来公知のフィルム延伸方法が挙げられる。
【0107】
延伸温度は、フィルム原料であるラクトン環含有重合体を主成分とする樹脂組成物のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。一方、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、樹脂組成物の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0108】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。一方、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0109】
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/分、より好ましくは100〜10,000%/分の範囲である。延伸速度が10%/分未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。一方、延伸速度が20,000%/分を超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
【0110】
また、得られたフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0111】
ラクトン環含有樹脂フィルムは、その厚さが好ましくは5μm〜250μm、より好ましくは10〜150μmである。この範囲外であると、加工工程における工程張力の変化や曲げ等の変形によって割れる問題が特に起こりにくくなり、また、適度な曲げ強さを有するため毎葉シートの状態での手や機械によるハンドリング時に折れ曲がりなどの問題が生じて好ましくない。
【0112】
本発明にかかるラクトン環含有樹脂フィルムは、高透明性を有しており、可視光透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0113】
本発明にかかるラクトン環含有樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tに基づいて測定した引張強度が、好ましくは10MPa以上100MPa未満、より好ましくは30MPa以上100MPa未満である。引張強度が10MPa未満であると、充分な機械的強度を発現できなくなることがある。一方、引張強度が100MPaを越えると、加工性が低下することがある。
【0114】
本発明にかかるラクトン環含有樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tに基づいて測定した伸び率が、好ましくは1%以上である。上限は特に限定されないが、通常は100%以下が好ましい。伸び率が1%未満であると、靭性に欠けるため好ましくない。
【0115】
本発明にかかるラクトン環含有樹脂フィルムは、ASTM−D−882−61Tに基づいて測定した引張弾性率が、好ましくは0.5GPa以上、より好ましくは1GPa以上、さらに好ましくは2GPa以上である。上限は特に限定されないが、通常は20GPa以下が好ましい。0.5GPa未満の場合には、充分な機械的強度を得られなくなることがある。
【0116】
ラクトン環含有樹脂フィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、ラクトン環含有樹脂フィルムと防眩層との密着性がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
【0117】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、通常、熱可塑性樹脂が使用される。熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂(脂環式オレフィン系樹脂を含む)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴム又はエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが例示できる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0118】
スチレン系樹脂には、スチレン系単量体の単独又は共重合体(ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体など)、スチレン系単量体と他の重合性単量体[(メタ)アクリル系単量体、無水マレイン酸、マレイミド系単量体、ジエン類など]との共重合体などが含まれる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体[スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体など]、スチレン−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。好ましいスチレン系樹脂には、ポリスチレン、スチレンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体[スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレンとメタクリル酸メチルを主成分とする共重合体]、AS樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体などが含まれる。
【0119】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、(メタ)アクリル系単量体と共重合性単量体との共重合体などが使用できる。(メタ)アクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C1−10アルキル;(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;トリシクロデカンなどの脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが例示できる。共重合性単量体には、前記スチレン系単量体、ビニルエステル系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などが例示できる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0120】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。好ましい(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキル、特にメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%程度)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0121】
有機酸ビニルエステル系樹脂としては、ビニルエステル系単量体の単独又は共重合体(ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニルなど)、ビニルエステル系単量体と共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)又はそれらの誘導体が挙げられる。ビニルエステル系樹脂の誘導体には、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール樹脂などが含まれる。
【0122】
ビニルエーテル系樹脂としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルt−ブチルエーテルなどのビニルC1−10アルキルエーテルの単独又は共重合体、ビニルC1−10アルキルエーテルと共重合性単量体との共重合体(ビニルアルキルエーテル−無水マレイン酸共重合体など)が挙げられる。
【0123】
ハロゲン含有樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0124】
オレフィン系樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィンの単独重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの共重合体が挙げられる。脂環式オレフィン系樹脂としては、環状オレフィン(ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなど)の単独又は共重合体(例えば、立体的に剛直なトリシクロデカンなどの脂環式炭化水素基を有する重合体など)、前記環状オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−ノルボルネン共重合体、プロピレン−ノルボルネン共重合体など)などが例示できる。脂環式オレフィン系樹脂は、例えば、商品名「アートン(ARTON)」、商品名「ゼオネックス(ZEONEX)」などとして入手できる。
【0125】
ポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)をベースとする芳香族ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートなどが含まれる。
【0126】
ポリエステル系樹脂には、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を用いた芳香族ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレートやポリC2−4アルキレンナフタレートなどのホモポリエステル、C2−4アルキレンアリレート単位(C2−4アルキレンテレフタレート及び/又はC2−4アルキレンナフタレート単位)を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステルなど]が例示できる。コポリエステルとしては、ポリC2−4アルキレンアリレートの構成単位のうち、C2−4アルキレングリコールの一部を、ポリオキシC2−4アルキレングリコール、C6−10アルキレングリコール、脂環式ジオール(シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなど)、芳香環を有するジオール(フルオレノン側鎖を有する9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、ビスフェノールA、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体など)などで置換したコポリエステル、芳香族ジカルボン酸の一部を、フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸、アジピン酸などの脂肪族C6−12ジカルボン酸などで置換したコポリエステルが含まれる。ポリエステル系樹脂には、ポリアリレート系樹脂、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリエステル、ε−カプロラクトンなどのラクトンの単独又は共重合体も含まれる。好ましいポリエステル系樹脂は、通常、非結晶性コポリエステル(例えば、C2−4アルキレンアリレート系コポリエステルなど)などのように非結晶性である。
【0127】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸など)とジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミドなどが挙げられる。ポリアミド系樹脂には、ε−カプロラクタムなどのラクタムの単独又は共重合体であってもよく、ホモポリアミドに限らずコポリアミドであってもよい。
【0128】
セルロース誘導体のうちセルロースエステル類としては、例えば、脂肪族有機酸エステル(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのC1−6有機酸エステルなど)、芳香族有機酸エステル(セルロースフタレート、セルロースベンゾエートなどのC7−12芳香族カルボン酸エステル)、無機酸エステル類(例えば、リン酸セルロース、硫酸セルロースなど)が例示でき、酢酸・硝酸セルロースエステルなどの混合酸エステルであってもよい。セルロース誘導体には、セルロースカーバメート類(例えば、セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテル類(例えば、シアノエチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1−6アルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース又はその塩、ベンジルセルロース、アセチルアルキルセルロースなど)も含まれる。
【0129】
好ましい熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂、及びゴム又はエラストマーなどが挙げられる。樹脂としては、通常、非結晶性であり、かつ有機溶媒(特に複数のポリマーや硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶な樹脂が使用される。特に、成形性又は製膜性、透明性や耐候性の高い樹脂、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類など)などが好ましい。
【0130】
ポリマー成分としては、硬化反応に関与する官能基(又は硬化性化合物と反応可能な官能基)を有するポリマーを用いることもできる。前記ポリマーは、官能基を主鎖に有していてもよく、側鎖に有していてもよい。前記官能基は、共重合や共縮合などにより主鎖に導入されてもよいが、通常、側鎖に導入される。このような官能基としては、縮合性基や反応性基(例えば、ヒドロキシル基、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基又はイミノ基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基など)、重合性基(例えば、ビニル、プロペニル、イソプロペニル基、ブテニル、アリルなどのC2−6アルケニル基、エチニル、プロピニル、ブチニルなどのC2−6アルキニル基、ビニリデンなどのC2−6アルケニリデン基、又はこれらの重合性基を有する基((メタ)アクリロイル基など)など)などが挙げられる。これらの官能基のうち、重合性基が好ましい。
【0131】
重合性基を側鎖に導入する方法としては、例えば、反応性基や縮合性基などの官能基を有する熱可塑性樹脂と、前記官能基との反応性基を有する重合性化合物とを反応させる方法を用いることができる。
【0132】
官能基を有する熱可塑性樹脂としては、カルボキシル基又はその酸無水物基を有する熱可塑性樹脂(例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂など)、ヒドロキシル基を有する熱可塑性樹脂(例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース誘導体、ポリアミド系樹脂など)、アミノ基を有する熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド系樹脂など)、エポキシ基を有する熱可塑性樹脂(例えば、エ
ポキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂やポリエステル系樹脂など)などが例示できる。また、スチレン系樹脂やオレフィン系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂に、前記官能基を共重合やグラフト重合で導入した樹脂であってもよい。
【0133】
重合性化合物としては、カルボキシル基又はその酸無水物基を有する熱可塑性樹脂の場合は、エポキシ基やヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基などを有する重合性化合物などを用いることができる。ヒドロキシル基を有する熱可塑性樹脂の場合は、カルボキシル基又はその酸無水物基やイソシアネート基などを有する重合性化合物などが挙げられる。アミノ基を有する熱可塑性樹脂の場合は、カルボキシル又はその酸無水物基やエポキシ基、イソシアネート基などを有する重合性化合物などが挙げられる。エポキシ基を有する熱可塑性樹脂の場合は、カルボキシル基又はその酸無水物基やアミノ基などを有する重合性化合物などが挙げられる。
【0134】
前記重合性化合物のうち、エポキシ基を有する重合性化合物としては、例えば、エポキシシクロヘキセニル(メタ)アクリレートなどのエポキシシクロC5−8アルケニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどが例示できる。ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC1−4アルキル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのC2−6アルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが例示できる。アミノ基を有する重合性化合物としては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノC1−4アルキル(メタ)アクリレート、アリルアミンなどのC3−6アルケニルアミン、4−アミノスチレン、ジアミノスチレンなどのアミノスチレン類などが例示できる。イソシアネート基を有する重合性化合物としては、例えば、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレートやビニルイソシアネートなどが例示できる。カルボキシル基又はその酸無水物基を有する重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸や無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物などが例示できる。
【0135】
代表的な例としては、カルボキシル基又はその酸無水物基を有する熱可塑性樹脂とエポキシ基含有化合物、特に(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)とエポキシ基含有(メタ)アクリレート(エポキシシクロアルケニル(メタ)アクリレートやグリシジル(メタ)アクリレートなど)の組み合わせが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル系樹脂のカルボキシル基の一部に重合性不飽和基を導入したポリマー、例えば、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートのエポキシ基を反応させて、側鎖に光重合性不飽和基を導入した(メタ)アクリル系ポリマー(サイクロマーP、ダイセル化学工業(株)製)などが使用できる。
【0136】
熱可塑性樹脂に対する硬化反応に関与する官能基(特に重合性基)の導入量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、0.001〜10モル、好ましくは0.01〜5モル、さらに好ましくは0.02〜3モル程度である。
【0137】
これらのポリマーは適当に組み合わせて使用できる。すなわち、ポリマーは複数のポリマーで構成されていてもよい。複数のポリマーは、液相スピノーダル分解により、相分離可能であってもよい。また、複数のポリマーは、互いに非相溶であってもよい。複数のポリマーを組み合わせる場合、第1の樹脂と第2の樹脂との組み合わせは特に制限されないが、加工温度付近で互いに非相溶な複数のポリマー、例えば、互いに非相溶な2つのポリマーとして適当に組み合わせて使用できる。例えば、第1の樹脂がスチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)である場合、第2の樹脂は、セルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル類)、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、脂環式オレフィン系樹脂
(ノルボルネンを単量体とする重合体など)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(前記ポリC2−4アルキレンアリレート系コポリエステルなど)などであってもよい。また、例えば、第1のポリマーがセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル類)である場合、第2のポリマーは、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂(ノルボルネンを単量体とする重合体など)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(前記ポリC2−4アルキレンアリレート系コポリエステルなど)などであってもよい。複数の樹脂の組合せにおいて、少なくともセルロースエステル類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−4アルキルカルボン酸エステル類)を用いてもよい。
【0138】
なお、スピノーダル分解により生成された相分離構造は、活性光線(紫外線、電子線など)や熱などにより最終的に硬化し、硬化樹脂を形成する。そのため、防眩層に耐擦傷性を付与でき、耐久性を向上できる。
【0139】
硬化後の耐擦傷性の観点から、複数のポリマーのうち、少なくとも一つのポリマー、例えば、互いに非相溶なポリマーのうち一方のポリマー(第1の樹脂と第2の樹脂とを組み合わせる場合、特に両方のポリマー)が硬化性樹脂前駆体と反応可能な官能基を側鎖に有するポリマーであるのが好ましい。
【0140】
第1のポリマーと第2のポリマーとの割合(重量比)は、例えば、前者/後者=1/99〜99/1、好ましくは5/95〜95/5、さらに好ましくは10/90〜90/10程度の範囲から選択でき、通常、20/80〜80/20程度、特に30/70〜70/30程度である。
【0141】
なお、相分離構造を形成するためのポリマーとしては、前記非相溶な2つのポリマー以外にも、前記熱可塑性樹脂や他のポリマーが含まれていてもよい。
【0142】
ポリマーのガラス転移温度は、例えば、−100℃〜250℃、好ましくは−50℃〜230℃、さらに好ましくは0〜200℃程度(例えば、50〜180℃程度)の範囲から選択できる。なお、表面硬度の観点から、ガラス転移温度は、50℃以上(例えば、70〜200℃程度)、好ましくは100℃以上(例えば、100〜170℃程度)であるのが有利である。ポリマーの重量平均分子量は、例えば、1,000,000以下、好ましくは1,000〜500,000程度の範囲から選択できる。
【0143】
(硬化性樹脂前駆体)
硬化性樹脂前駆体としては、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。前記樹脂前駆体としては、例えば、熱硬化性化合物又は樹脂[エポキシ基、重合性基、イソシアネート基、アルコキシシリル基、シラノール基などを有する低分子量化合物(例えば、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂など)]、活性光線(紫外線など)により硬化可能な光硬化性化合物(光硬化性モノマー、オリゴマーなどの紫外線硬化性化合物など)などが例示でき、光硬化性化合物は、EB(電子線)硬化性化合物などであってもよい。なお、光硬化性モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい光硬化性樹脂などの光硬化性化合物を、単に「光硬化性樹脂」という場合がある。
【0144】
光硬化性化合物には、例えば、単量体、オリゴマー(又は樹脂、特に低分子量樹脂)が含まれ、単量体としては、例えば、単官能性単量体[(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体、ビニルピロリドンなどのビニル系単量体、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの橋架環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなど]、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの橋架環式炭化水素基を有するジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの3〜6程度の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体]が例示できる。
【0145】
オリゴマー又は樹脂としては、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなど)、ポリエステル(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型(メタ)アクリレートなど)、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタン(メタ)アクリレートなど)、シリコーン(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらの光硬化性化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0146】
好ましい硬化性樹脂前駆体は、短時間で硬化できる光硬化性化合物、例えば、紫外線硬化性化合物(モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい樹脂など)、EB硬化性化合物である。特に、実用的に有利な樹脂前駆体は、紫外線硬化性樹脂である。さらに、耐擦傷性などの耐性を向上させるため、光硬化性樹脂は、分子中に2以上(好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4程度)の重合性不飽和結合を有する化合物であるのが好ましい。
【0147】
硬化性樹脂前駆体の分子量としては、ポリマーとの相溶性を考慮して5000以下、好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下程度である。
【0148】
硬化性樹脂前駆体は、その種類に応じて、硬化剤を含んでいてもよい。例えば、熱硬化性樹脂では、アミン類、多価カルボン酸類などの硬化剤を含んでいてもよく、光硬化性樹脂では光重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤としては、慣用の成分、例えば、アセトフェノン類又はプロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキシド類などが例示できる。光硬化剤などの硬化剤の含有量は、硬化性樹脂前駆体100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜8重量部(特に1〜5重量部)程度であり、3〜8重量部程度であってもよい。
【0149】
さらに、硬化性樹脂前駆体は硬化促進剤を含んでいてもよい。例えば、光硬化性樹脂は、光硬化促進剤、例えば、第三級アミン類(ジアルキルアミノ安息香酸エステルなど)、ホスフィン系光重合促進剤などを含んでいてもよい。
【0150】
少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体のうち、少なくとも2つの成分が、加工温度付近で互いに相分離する組み合わせで使用される。相分離する組み合わせとしては、例えば、(a)複数のポリマー同士が互いに非相溶で相分離する組み合わせ、(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体とが非相溶で相分離する組み合わせや、(c)複数の硬化性樹脂前駆体同士が互いに非相溶で相分離する組み合わせなどが挙げられる。これらの組み合わせのうち、通常、(a)複数のポリマー同士の組み合わせや、(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体との組み合わせであり、特に(a)複数のポリマー同士の組み合わせが好ましい。相分離させる両者の相溶性が高い場合、溶媒を蒸発させるための乾燥過程で両者が有効に相分離せず、防眩層としての機能が低下する。
【0151】
なお、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂前駆体(又は硬化樹脂)とは、通常、互いに非相溶である。ポリマーと硬化性樹脂前駆体とが非相溶で相分離する場合に、ポリマーとして複数のポリマーを用いてもよい。複数のポリマーを用いる場合、少なくとも1つのポリマーが樹脂前駆体(又は硬化樹脂)に対して非相溶であればよく、他のポリマーは前記樹脂前駆体と相溶してもよい。
【0152】
また、互いに非相溶な2つの熱可塑性樹脂と、硬化性化合物(特に複数の硬化性官能基を有するモノマー又はオリゴマー)との組み合わせであってもよい。さらに、硬化後の耐擦傷性の観点から、前記非相溶な熱可塑性樹脂のうち一方のポリマー(特に両方のポリマー)が硬化反応に関与する官能基(前記硬化性樹脂前駆体の硬化に関与する官能基)を有する熱可塑性樹脂であってもよい。
【0153】
ポリマーを互いに非相溶な複数のポリマーで構成して相分離する場合、硬化性樹脂前駆体は、非相溶な複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーと加工温度付近で互いに相溶する組合せで使用される。すなわち、互いに非相溶な複数のポリマーを、例えば、第1の樹脂と第2の樹脂とで構成する場合、硬化性樹脂前駆体は少なくとも第1の樹脂又は第2の樹脂のどちらかと相溶すればよく、好ましくは両方のポリマー成分と相溶してもよい。両方のポリマー成分に相溶する場合、第1の樹脂及び硬化性樹脂前駆体を主成分とした混合物と、第2の樹脂及び硬化性樹脂前駆体を主成分とした混合物との少なくとも二相に相分離する。
【0154】
選択した複数のポリマーの相溶性が高い場合、溶媒を蒸発させるための乾燥過程でポリマー同士が有効に相分離せず、防眩層としての機能が低下する。複数のポリマー相分離性は、双方の成分に対する良溶媒を用いて均一溶液を調製し、溶媒を徐々に蒸発させる過程で、残存固形分が白濁するか否かを目視にて確認することにより簡便に判定できる。
【0155】
さらに、通常、ポリマーと、樹脂前駆体の硬化により生成した硬化又は架橋樹脂とは互いに屈折率が異なる。また、複数のポリマー(第1の樹脂と第2の樹脂)の屈折率も互いに異なる。ポリマーと硬化又は架橋樹脂との屈折率の差、複数のポリマー(第1の樹脂と第2の樹脂)との屈折率の差は、例えば、0.001〜0.2、好ましくは0.05〜0.15程度であってもよい。
【0156】
スピノーダル分解において、相分離の進行に伴って共連続相構造を形成し、さらに相分離が進行すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状などの独立相の海島構造)となる。従って、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(上記共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。本発明の防眩層の相分離構造は、海島構造(液滴相構造、又は一方の相が独立または孤立した相構造)、共連続相構造(又は網目構造)であってもよく、共連続相構造と液滴相構造とが混在した中間的構造であってもよい。これらの相分離構造により溶媒乾燥後には防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。
【0157】
前記相分離構造において、表面凹凸構造を形成し、かつ表面硬度を高める点からは、少なくとも島状ドメインを有する液滴相構造であるのが有利である。なお、ポリマーと前記前駆体(又は硬化樹脂)とで構成された相分離構造が海島構造である場合、ポリマー成分が海相を形成してもよいが、表面硬度の観点から、ポリマー成分が島状ドメインを形成するのが好ましい。なお、島状ドメインの形成により、乾燥後には防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。
【0158】
さらに、前記相分離構造のドメイン間の平均距離は、通常、実質的に規則性又は周期性を有している。例えば、ドメインの平均相間距離は、例えば、1〜70μm(例えば、1〜40μm)、好ましくは2〜50μm(例えば、3〜30μm)、さらに好ましくは5〜20μm(例えば、10〜20μm)程度であってもよい。
【0159】
ポリマーと硬化性樹脂前駆体との割合(重量比)は、特に制限されず、例えば、前者/後者=5/95〜95/5程度の範囲から選択でき、表面硬度の観点から、好ましくは5/95〜60/40程度であり、さらに好ましくは10/90〜50/50、特に10/90〜40/60程度である。
【0160】
(低屈折率層)
低屈折率層は、低屈折率樹脂で構成されている。低屈折率層を前記防眩層の少なくとも一方の面に積層することにより、光学部材などにおいて、低屈折率層を最表面となるように配設した場合などに、外部からの光(外部光源など)が、防眩性フィルムの表面で反射するのを有効に防止できる。
【0161】
低屈折率樹脂の屈折率は、例えば、1.30〜1.49、好ましくは1.36〜1.49、さらに好ましくは1.38〜1.48程度である。
【0162】
低屈折率樹脂としては、例えば、メチルペンテン樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。また、低屈折率層は、通常、フッ素含有化合物を含有するのが好ましく、フッ素含有化合物を用いると、低屈折率層の屈折率を所望に応じて低減できる。
【0163】
前記フッ素含有化合物としては、フッ素原子と、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基(架橋性基又は重合性基などの硬化性基など)とを有し、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋してフッ素含有樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能なフッ素含有樹脂前駆体が挙げられる。
【0164】
このようなフッ素含有樹脂前駆体としては、例えば、フッ素原子含有熱硬化性化合物又は樹脂[フッ素原子とともに、反応性基(エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシル基など)、重合性基(ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基など)などを有する低分子量化合物]、活性光線(紫外線など)により硬化可能なフッ素原子含有光硬化性化合物又は樹脂(光硬化性フッ素含有モノマー又はオリゴマーなどの紫外線硬化性化合物など)などが例示できる。
【0165】
前記熱硬化性化合物又は樹脂としては、例えば、少なくともフッ素含有モノマーを用いて得られる低分子量樹脂、例えば、構成モノマーとしてのポリオール成分の一部又は全部に代えてフッ素含有ポリオール(特にジオール)を用いて得られるエポキシ系フッ素含有樹脂;同様に、ポリオール及び/又はポリカルボン酸成分の一部又は全部に代えて、フッ素原子含有ポリオール及び/又はフッ素原子含有ポリカルボン酸成分を用いて得られる不飽和ポリエステル系フッ素含有樹脂;ポリオール及び/又はポリイソシアネート成分の一部又は全部に代えて、フッ素原子含有ポリオール及び/又はポリイソシアネート成分を用いて得られるウレタン系フッ素含有樹脂などが例示できる。これらの熱硬化性化合物又は樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0166】
前記光硬化性化合物には、例えば、単量体、オリゴマー(又は樹脂、特に低分子量樹脂)が含まれ、単量体としては、例えば、前記防眩層の項で例示の単官能性単量体及び多官能性単量体に対応するフッ素原子含有単量体[(メタ)アクリル酸のフッ化アルキルエステルなどのフッ素原子含有(メタ)アクリル系単量体、フルオロオレフィン類などのビニル系単量体などの単官能性単量体;1−フルオロ−1,2−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチレンなどのフッ化アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートなど]が例示できる。また、オリゴマー又は樹脂としては、前記防眩層の項で例示のオリゴマー又は樹脂
に対応するフッ素原子含有オリゴマー又は樹脂などが使用できる。これらの光硬化性化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0167】
フッ素含有樹脂の硬化性前駆体は、例えば、溶液(コート液)状の形態で入手でき、このようなコート液は、例えば、JSR(株)製「TT1006A」及び「JN7215」や、大日本インキ化学工業(株)製「ディフェンサTR−330」などとして入手できる。
【0168】
低屈折率層の厚みは、例えば、0.05〜2μm、好ましくは0.05〜0.5μm、さらに好ましくは0.05〜0.2μm程度である。
【0169】
前記のように、防眩性フィルムは、防眩層及び低屈折率層で構成してもよく、透明基材フィルムと、この透明基材フィルム上に順次形成された防眩層及び低屈折率層とで構成してもよい。
【0170】
一般に、低屈折率層を防眩層の表面にコートすると、コート前の防眩層単独に比べ、ヘイズは1〜10%程度下がり、透過鮮明度は1〜10%程度上がる傾向がある。このため、最終的な低反射防眩層のヘイズおよび透過鮮明度を、本発明の範囲に調整するためには、予め防眩層単独のヘイズは高めになるように調製し、防眩層単独の透過鮮明度は、低めになるように調製する必要がある。
【0171】
(光学部材)
前記防眩層は、防眩性が高いだけでなく光散乱性も高い。特に、透過光を等方的に透過して散乱させながら、特定の角度範囲での散乱強度を大きくできる。さらに、透過像の鮮明性も高い。光学要素の少なくとも一方の光路面に前記防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。例えば、前記位相差板の少なくとも一方の面に防眩性フィルムを積層してもよく、導光板の出射面に防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。
【0172】
防眩層に表面硬度が高く、耐擦傷性が付与されている防眩性フィルムは、保護フィルムとしても機能させることができる。
【0173】
防眩層の厚みは、例えば、0.3〜20μm程度、好ましくは1〜15μm(例えば、1〜10μm)程度であってもよく、通常、2〜10μm(特に3〜7μm)程度である。なお、防眩層単独で防眩性フィルムを構成する場合、防眩層の厚みは、例えば、1〜100μm、好ましくは3〜50μm程度の範囲から選択してもよい。
【0174】
このような防眩性フィルム(すなわち、防眩層、又は透明透明基材フィルムと防眩層との積層体)において、防眩層の表面には、前記相分離構造に対応した微細な凹凸構造が大量に形成されている。そのため、表面反射による外景の映り込みを抑制でき、防眩性を高めることができる。
【0175】
さらに、前記のように、相分離構造において、相分離したポリマー領域間の平均相間距離は実質的に規則性又は周期性を有している。そのため、防眩性フィルムに入射して透過する光は、相間平均距離(又は表面凹凸構造の周期性)に対応したブラッグ反射により、直進透過光とは離れた特定角度に散乱光極大を示す。すなわち、本発明の防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱又は拡散するものの、散乱光(透過散乱光)は、散乱中心からシフトした散乱角〔例えば、0.1〜10°、好ましくは1〜10°(例えば、1〜8°)、さらに好ましくは1.5〜8°、特に1.5〜5°(例えば、2〜5°)程度〕で光強度の極大値を示す。従って、直進透過光のプロファイルに対して表面凹凸による散乱光が悪影響を及ぼすことがなく、従来の微粒子分散型の防眩シートでは解決できなかったギラツキの問題を回避できる。
【0176】
前記散乱光強度の極大値は、散乱光強度の角度分布プロファイルにおいてピーク状に分離していてもよく、ショルダー状ピークであったり、平坦状ピークである場合も極大値を有するとみなすことができる。
【0177】
本発明の防眩性フィルムの全光線透過率は、例えば、70〜100%、好ましくは80〜100%、さらに好ましくは85〜100%(例えば、85〜95%)、特に90〜100%(例えば、90〜99%)程度である。
【0178】
本発明の防眩性フィルムのヘーズは、1〜60%、好ましくは10〜50%、さらに好ましくは20〜40%程度である。
【0179】
本発明の防眩性フィルムの透過像鮮明度は、0.5mm幅の光学櫛を使用した場合、10〜l00%、好ましくは30〜100%、更に好ましくは70〜100%である。透過像鮮明度が前記範囲にあると、透過光のボケが少ないため、高精細表示装置であっても画素の輪郭がボケるのを防止でき、その結果文字ボケを防止できる。
【0180】
湿式スピノーダル分解において、溶媒は、前記ポリマー及び硬化性樹脂前駆体の種類及び溶解性に応じて選択でき、少なくとも固形分(複数のポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。また、溶媒は混合溶媒であってもよい。
【0181】
本発明の防眩性フィルムは、透明基材フィルムである前記ラクトン環含有樹脂フィルム上において、前記ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相(又は液状組成物)から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成する工程と、前記硬化性樹脂前駆体を硬化させ、防眩層を形成する工程とを経ることによりを得ることができる。前記相分離工程は、通常、前記ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液(特に均一溶液などの液状組成物)を前記透明基材フィルムに塗布又は流延する工程と、塗布層又は流延層から溶媒を蒸発させて規則的又は周期的な平均相間距離を有する相分離構造を形成する工程とで構成されており、前記前駆体を硬化させることにより防眩性フィルムを得ることができる。好ましい態様では、前記混合液として、前記熱可塑性樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記熱可塑性樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物が使用でき、スピノーダル分解により形成された相分離構造の光硬化成分を光照射により硬化することにより防眩層が形成される。また、他の好ましい態様では、前記混合液として、前記互いに非相溶な複数のポリマーと、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、溶媒とを含む組成物が使用でき、スピノーダル分解により形成された相分離構造の光硬化成分を光照射により硬化することにより防眩層が形成される。
【0182】
混合液中の溶質(ポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)の濃度は、相分離が生じる範囲及び流延性やコーティング性などを損なわない範囲で選択でき、例えば、1〜80重量%、好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは15〜40重量%(特に20〜40重量%)程度である。
【0183】
前記混合液を流延又は塗布した後、溶媒の沸点よりも低い温度(例えば、溶媒の沸点よりも1〜120℃、好ましくは5〜50℃、特に10〜50℃程度低い温度)で溶媒を蒸発させることにより、スピノーダル分解による相分離を誘起することができる。溶媒の蒸発は、通常、乾燥、例えば、溶媒の沸点に応じて、30〜200℃、(例えば、30〜100℃)、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度の温度で乾燥させることによリ行うことができる。
【0184】
このような溶媒の蒸発を伴うスピノーダル分解により、相分離構造の領域間の平均距離に規則性又は周期性を付与できる。そして、スピノーダル分解により形成された相分離構造は、前駆体を硬化させることにより直ちに固定化できる。前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱、光照射など、あるいはこれらの方法の組合せにより行うことができる。加熱温度は、前記相分離構造を有する限り、適当な範囲、例えば、50〜150℃程度から選択でき、前記層分離工程と同様の温度範囲から選択してもよい。
【0185】
光照射は、光硬化成分などの種類に応じて選択でき、通常、紫外線、電子線などが利用できる。汎用的な露光源は、通常、紫外線照射装置である。なお、光照射は、必要であれば、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0186】
(表示装置)
本発明の防眩性フィルムは、ハードコート性を有し、防眩性が高い。また、透過光を等方的に透過して散乱させながら、特定の角度範囲での光散乱強度を向上できる。さらに、透過像の鮮明性に優れており、表示面での文字ボケが少ない。そのため、本発明の防眩性フィルムや光学部材は、種々の表示装置、例えば、液晶表示(LCD)装置、プラズマディスプレイ、タッチパネル付き表示装置などの表示装置に使用できる。これらの表示装置は、前記防眩性フィルムや光学部材を光学要素として備えている。
【0187】
なお、液晶表示装置は、外部光を利用して、液晶セルを備えた表示ユニットを照明する反射型液晶表示装置であってもよく、表示ユニットを照明するためのバックライトユニットを備えた透過型液晶表示装置であってもよい。前記反射型液晶表示装置では、外部からの入射光を、表示ユニットを介して取り込み、表示ユニットを透過した透過光を反射部材により反射して表示ユニットを照明できる。反射型液晶表示装置では、前記反射部材から前方の光路内に前記防眩性フィルムや光学部材を配設できる。例えば、反射部材と表示ユニットとの間、表示ユニットの前面などに前記防眩性フィルムや光学部材を配設又は積層できる。
【0188】
透過型液晶表示装置において、バックライトユニットは、光源(冷陰極管などの管状光源,発光ダイオードなどの点状光源など)からの光を一方の側部から入射させて前面の出射面から出射させるための導光板(例えば、断面楔形状の導光板)を備えていてもよい。また、必要であれば、導光板の前面側にはプリズムシートを配設してもよい。なお、通常、導光板の裏面には、光源からの光を出射面側へ反射させるための反射部材が配設されている。このような透過型液晶表示装置では、通常、光源から前方の光路内に前記防眩性フィルムや光学部材を配設できる。例えば、導光板と表示ユニットとの間、表示ユニットの前面などに前記防眩性フィルムや光学部材を配設又は積層できる。
【0189】
本発明は、防眩性と光散乱性が必要とされる種々の用途、例えば、前記光学部材や、液晶表示装置(特に高精細又は高精彩表示装置)などの表示装置の光学要素として有用である。
【実施例】
【0190】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
≪評価方法≫
<ヘイズ>
JIS K7105に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて測定した。
【0191】
<全光線透過率>
JIS K7361−1に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて測定した。
【0192】
<散乱光強度>
防眩性フィルムを透過した光の角度分布は、He−Neレーザなどのレーザ光源と、ゴニオメーターに設置した光受光器を備えた測定装置を用いて測定できる。レーザ光源からのレーザ光をNDフィルタを介して試料に照射し、試料からの散乱光を、レーザ光の光路に対して散乱角度θで変角可能であり、かつ光電子増幅管を備えた検出器(光受光器)により検出し、散乱強度と散乱角度θとの関係を測定している。このような装置として、レーザ光散乱自動測定装置(日本科学エンジニアリング(株)製)を利用できる。
【0193】
<60°光沢度>
JIS K7105に準拠して、光沢計(VG2000、日本電色工業(株)製)を用いて、60度での鏡面光沢度を測定した。
【0194】
<透過像鮮明度>
JIS K7105に準拠して、スガ試験機(株)製「写像性試験器ICM−1T」により、2mm、1mm、0.5mm及び0.125mmの巾をもつ光学くしを通して、各光学くしに対応する透過鮮明度を測定し、0.5mm幅の値を透過像鮮明度として求めた。
【0195】
<ギラツキの評価>
表示面におけるギラツキの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用カラーフィルター上に、得られた防眩性フィルムを配置し、後方よりバックライトを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
評価基準
○:ギラツキが感じられない
△:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
【0196】
<文字ボケの評価>
表示面における文字ボケの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用カラーフィルター上に、得られた防眩性フィルムを配設し、後方よりバックライトを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
評価基準
○:文字ボケが感じられない
△:文字ボケが僅かに感じられる
×:文字ボケが感じられる
<防眩性の評価>
防眩性は防眩フィルムの裏面に黒フィルムを貼り合わせ、2mの距離より、むき出し蛍光灯(10000cd/m2)を映し、その反射像のボケの程度により評価した。
評価基準
○:蛍光灯の輪郭がわからない
△:蛍光灯の輪郭が若干ぼける
×:蛍光灯がほとんどボケず、輪郭が非常に明確に見える
<耐候性>
岩崎電気(株)製超促進耐候性試験装置を用いて試験を行い、100mW/cm2の条件にて、100時間後に△b*値の初期値からの変化量により評価した。
評価基準
◎:変化量が3.0%未満
○:変化量が3.0%以上5.0%未満
△:変化量が5.0%以上10.0%未満
×:変化量が10.0%以上
<鉛筆硬度>
JIS K5600−5−4に準拠して鉛筆引っかき試験を行い、傷付きにより評価した。
【0197】
<フィルム表面電位>
23℃、50%RHの環境の元、防眩フィルム同士を10回こすり擦り合わせ、表面電位計(FMX−003、SIMCO社製)を用い測定した。
評価基準
○:3 kVより小さい
△:3kV以上、5kV以下
×:5kVより大きい
≪ラクトン環含有樹脂フィルムの調製≫
次に、ラクトン環含有樹脂フィルムの製造例について説明する。
【0198】
まず、ラクトン環含有樹脂(以下「ラクトン環含有重合体」ということがある。)の評価方法について説明する。
【0199】
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフ(GC17A、(株)島津製作所製)を用いて測定して求めた。
【0200】
<ダイナミックTG>
重合体(もしくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 100mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲における質量減少速度値0.005%/sec以下に制御)
<ラクトン環構造の含有割合>
まず、得られた重合体組成からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0201】
すなわち、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中における脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
【0202】
一例として、後述の製造例1で得られたペレットにおいてラクトン環構造の含有割合を計算する。この重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、重合体中における2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(質量比)は組成上20.0質量%であるから、(32/116)×20.0≒5.52質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.34質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.34/5.52)≒0.938となるので、脱アルコール反応率は93.8%である。
【0203】
そして、この脱アルコール反応率分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の当該共重合体組成における含有量(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の含有率(質量比)に換算することにより、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合を算出することができる。後述の製造例の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が20.0質量%、算出した脱アルコール反応率が93.8%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造の式量が170であることから、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合は27.5(20.0×0.938×170/116)質量%となる。
【0204】
<重量平均分子量、数平均分子量>
重合体の重量平均分子量や数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0205】
<重合体の熱分析>
重合体の熱分析は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50mL/minの条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
【0206】
<製造例1>
(ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)の製造例)
まず、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量30Lの反応容器に、メタクリル酸メチル8kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2kg、メチルイソブチルケトン10kg、n−ドデシルメルカプタン5gを仕込んだ。
【0207】
この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)5gを添加すると同時に、メチルイソブチルケトン230gにt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)10gを溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜120℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0208】
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)30gを添加し、還流下、約90〜120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出機内で、さらに環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
【0209】
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.34質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量は144,000であり、ガラス転移温度が131℃であった。
【0210】
このラクトン環含有重合体のペレットを、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出して、厚さ約100μmのラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)を調製した。
【0211】
<製造例2>
(紫外線吸収能を付与したラクトン環含有樹脂フィルム(F−2)の製造例)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、41.5部のメタクリル酸メチル(MMA)、6部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、2.5部の2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、商品名:RUVA−93)、50部のトルエン、0.025部のアデカスタブ2112(旭電化工業(株)製)、0.025部のn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤として0.05部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富(株)製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、0.10部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0212】
得られた重合体溶液に、0.05部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業(株)製、商品名:Phoslex A−8)を加え、還流下(約90〜110℃)で2時間、環化縮合反応を行った。引き続きオートクレーブにより240℃で30分間加熱処理を行い、環化縮合反応を完全に行った。
【0213】
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度240℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.03kg/時間の投入速度で注入した。また、第2ベントの後より別途準備しておいた紫外線吸収剤溶液0.05kg/時間の投入速度で注入した。更に第3ベントの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.01kg/時間の投入速度で注入した。酸化防止剤・失活剤混合溶液はスミライザーGS(住友化学(株)製)50部、オクチル酸亜鉛(ニッカオクチクス亜鉛3.6% 日本化学産業(株)製)35部をトルエン200部に溶解したものである。紫外線吸収剤溶液は、分子量が954の紫外線吸収剤が主成分(分子量771、954、および、1138の紫外線吸収剤の混合物)でヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するCGL777MPA(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製 有効成分80%)19部をトルエン31部に溶解したものである。
【0214】
上記脱揮操作により、透明で紫外線吸収性単量体単位を有する熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。GPCによる樹脂部の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量は145000、ガラス転移温度は122℃であった。
【0215】
上記樹脂を用い、270℃の押出温度でシリンダー径が20mmの単軸押出機を用い下記条件で押出成形し、100μmの厚みのラクトン環含有樹脂フィルム(F−2)を得た。(T−ダイ:温度270℃、幅120mm、成膜:つや付き2本ロール、ロール温度110℃、引き取り速度:2.5m/分)。
【0216】
≪アクリル樹脂の合成≫
<UV硬化性アクリル樹脂(P−1)>
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えた1リットルのフラスコに、有機溶剤として酢酸ブチル260gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を95℃まで加熱した。ついで、ブチルアクリレート134g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート187g、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)2.5gを混合した溶液を滴下口より3時間かけて滴下した。滴下後も同温度で1時間攪拌を続けた後、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)0.2gを30分おきに2回添加し、さらに2時間加熱して共重合を行い、数平均分子量が12,000重量平均分子量が27,000のアクリル樹脂溶液(不揮発分48.2%)を得た。
【0217】
得られたアクリル樹脂溶液400gを攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えた1リットルのフラスコに入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を70℃まで加熱した。ついでジブチル錫ジラウレート55mgをフラスコに添加した後、アクリロキシエチルイソシアネート(カレンズAOI、昭和電工社製)142gの酢酸ブチル溶液を、撹拌しながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間攪拌を続け反応を進行させた。反応後、系にイソプロパノールを加えて固形分が45%となるように調整し、UV硬化性アクリル樹脂(P−1)が酢酸ブチルに溶解した溶液を得た。
【0218】
<シリコーン含有UV硬化性アクリル樹脂(P−2)>
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えた1リットルのフラスコに、有機溶剤として酢酸ブチル260gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を95℃まで加熱した。ついで、ブチルアクリレート134g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート187g、ジメチルシロキサンモノメタクリレート(FM0721(チッソ(株)製)、数平均分子量5000)5g、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)2.5gを混合した溶液を滴下口より3時間かけて滴下した。滴下後も同温度で1時間攪拌を続けた後、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)0.2gを30分おきに2回添加し、さらに2時間加熱して共重合を行い、数平均分子量が18,000、重量平均分子量が39,000のアクリル樹脂溶液(不揮発分46.2%)を得た。
【0219】
得られたアクリル樹脂溶液400gを攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えた1リットルのフラスコに入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を70℃まで加熱した。ついでジブチル錫ジラウレート55mgをフラスコに添加した後、アクリロキシエチルイソシアネート(カレンズAOI、昭和電工社製)142gの酢酸ブチル溶液を、撹拌しながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間攪拌を続け反応を進行させた。反応後、系にイソプロパノールを加えて固形分が45%となるように調整し、シリコーン含有UV硬化性アクリル樹脂(P−2)が酢酸ブチルに溶解した溶液を得た。
【0220】
≪コーティング組成物の調製≫
<コーティング組成物(C−1)>
スチレン−アクリロニトリル共重合体(アクリロニトリル含量30重量%,数平均分子量29000)4重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(置換度=1.9[セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基で置換された水酸基の平均個数]、置換モル数=0.25[セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシル基の平均モル数]、信越化学工業(株)製、メトローズ60SH)2重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)社製)14重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.7重量部をメチルエチルケトン/イソプロパノール=7/3(重量比)の混合溶媒80重量部に溶解し、コーティング組成物(C−1)を得た。
【0221】
<コーティング組成物(C−2)>
スチレン−アクリロニトリル共重合体(アクリロニトリル含量10重量%、数平均分子量35000)4重量部、メタクリル樹脂(住友化学工業(株)製、スミペックスMM、数平均分子量59200)2重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET−30、日本化薬(株)製)14重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.7重量部をメチルエチルケトン/イソプロパノール=7/3(重量比)の混合溶媒80重量部に溶解し、コーティング組成物(C−2)を得た。
【0222】
<コーティング組成物(C−3)>
UV硬化性アクリル樹脂(P−1)5.65重量部、ヒドロキシエチルメチルセルロース(置換度=1.5[セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基で置換された水酸基の平均個数]、置換モル数=0.20[セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシエトキシル基の平均モル数]、信越化学工業(株)製、メトローズSEB)1.2重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)社製)6重量部、シリコーン含有UV硬化性アクリル樹脂(P−2)0.77重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.53重量部をテトラヒドロフラン37.15重量部に溶解し、コーティング組成物(C−3)を得た。
【0223】
<コーティング組成物(C−4)>
UV硬化性アクリル樹脂(P−1)5.24重量部、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマン社製、CAP−482−20)1.1重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)社製)6.3重量部、シリコーン含有UV硬化性アクリル樹脂(P−2)0.76重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.62重量部を、テトラヒドロフラン37.36重量部に溶解し、コーティング組成物(C−4)を得た。
【0224】
<コーティング組成物(C−5)>
UV硬化性アクリル樹脂(P−1)5.24重量部、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマン社製、CAP−482−20)1.1重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)社製)6.3重量部、シリコーン含有UV硬化性アクリル樹脂(P−2)0.76重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.62重量部を、テトラヒドロフラン37.36重量部に溶解し、コーティング組成物(C−5)を得た。
【0225】
<コーティング組成物(C−6)>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬(株)製)20重量部、透明微粒子として平均粒径3.5μmのアクリル−スチレン共重合体ビーズ1.6重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ社製)1重量部をトルエン/シクロヘキサノン=7/3(重量比)の混合溶媒30重量部に混合した分散液を調製し、コーティング組成物(C−6)を得た。
【0226】
≪防眩フィルムの評価≫
<実施例1>
コーティング組成物(C−1)を、バーコータ#20を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を60℃で2分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約5μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0227】
<実施例2>
コーティング組成物(C−1)を、バーコータ#20を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−2)上に塗布し、塗布層を60℃で2分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約5μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0228】
<実施例3>
コーティング組成物(C−2)を、バーコータ#20を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を60℃で2分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約5μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0229】
<実施例4>
コーティング組成物(C−3)を、バーコータ#24を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を80℃で3分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約7μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0230】
<実施例5>
コーティング組成物(C−4)を、バーコータ#24を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を80℃で3分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約7μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0231】
<実施例6>
コーティング組成物(C−5)を、バーコータ#24を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を80℃で3分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約7μmの防眩層を有する防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0232】
<実施例7>
コーティング組成物(C−1)を、バーコータ#20を用いてラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に塗布し、塗布層を60℃で2分乾燥した後、相分離による凹凸層を形成させた状態で、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、約5μmの防眩層を形成させた。低屈折率コーティング剤として2液熱硬化型含フッ素化合物塗工液(JSR製TT1006)をワイヤーバー#10を用いて前記防眩層上に塗布し、乾燥後、120℃で10分間熱硬化させ、0.1μmの低屈折率層を形成させ、防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0233】
<比較例1>
コーティング組成物(C−6)をアプリケータを用いて乾燥厚みが3μmとなるように塗工し、窒素パージ下(酸素濃度1000ppm以下)、高圧水銀灯で250mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0234】
<比較例2>
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)の代わりにトリアセチルセルロースフィルム(TD−80U、富士フィルム社製)を利用した以外は、実施例1と同様にして、防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0235】
<比較例3>
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)の代わりにシクロオレフィンポリマーフィルム(ゼオノアZ14、日本ゼオン社製)を利用した以外は、実施例1と同様にして、防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、散乱極大位置、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0236】
<比較例4>
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)の代わりに耐候性PETフィルム(HBPF8W、帝人デュポン社製)を利用した以外は、実施例1と同様にして、防眩フィルムを得た。得られた防眩フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、60°光沢度、平均高さ、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、耐候性、鉛筆硬度およびフィルム帯電電位を評価した。結果を表1に示した。
【0237】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0238】
本発明の防眩フィルムは、防眩性に加えて、耐候性、表面硬度、フィルム製造・加工時の作業性および安全性がいずれも従来に比べ高く、高精細表示装置であっても、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止でき各種光学用途に応じた特性を十分に発揮することができるので、例えば、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置などのフラットパネルディスプレイなどに防眩性、光拡散性を付与する光学用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルム上に、少なくとも形成されてなる防眩層を備えてなる防眩フィルムであって、前記透明基材フィルムが、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有しているラクトン環含有樹脂フィルムであり、前記防眩層が、表面に凹凸構造を有しており、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1〜10°であるとともに、全光線透過率が70〜100%である防眩性フィルム。
【化1】

[式中、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい]
【請求項2】
0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が10〜100%であり、ヘーズが1〜60%である防眩層で構成されている請求項1記載の防眩性フィルム。
【請求項3】
入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が1〜10°であるとともに、全光線透過率が80〜100%である防眩層で構成されている請求項1記載の防眩性フィルム。
【請求項4】
防眩層が、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とで構成された層であって、前記ポリマー及び前駆体のうち少なくとも2つの成分が、液相からのスピノーダル分解により相分離しているとともに、前記前駆体が硬化する防眩性フィルム用組成物より形成される請求項1記載の防眩性フィルム。
【請求項5】
防眩性フィルム用組成物の複数のポリマー同士、ポリマーと硬化性樹脂前駆体、又は複数の硬化性樹脂前駆体同士が、スピノーダル分解により相分離している請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項6】
防眩性フィルム用組成物のポリマーが、スピノーダル分解により相分離可能な複数のポリマーで構成されるとともに、硬化性樹脂前駆体が、複数のポリマーのうち、少なくとも一種のポリマーと相溶性を有している請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項7】
防眩性フィルム用組成物の複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが、硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与する官能基を有している請求項6記載の防眩性フィルム。
【請求項8】
防眩性フィルム用組成物の複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが、(メタ)アクリロイル基を有する請求項6記載の防眩性フィルム。
【請求項9】
防眩性フィルム用組成物のうち、スピノーダル分解により相分離する複数のポリマーが、セルロース誘導体と、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂とで構成されるとともに、前記ポリマーのうち少なくとも1つのポリマーが、重合性基を有する請求項7記載の防眩性フィルム。
【請求項10】
防眩性フィルム用組成物のうち、硬化性樹脂前駆体が、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、及び少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体から選択された少なくとも一種で構成されている請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項11】
硬化性樹脂前駆体の硬化により防眩層に耐擦傷性が付与されている請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項12】
硬化性樹脂前駆体の硬化により、防眩層に規則的又は周期的な相分離構造が固定化されている請求項4記載の防眩性フィルム。
【請求項13】
防眩層を構成する防眩性フィルム用組成物が、活性エネルギー線及び熱から選択された少なくとも一種により硬化してなる請求項1記載の防眩性フィルム。
【請求項14】
防眩層を構成する防眩性フィルム用組成物が、ポリマーと硬化樹脂とを5/95〜60/40(重量比)の割合で含む請求項1記載の防眩性フィルム。
【請求項15】
透明基材フィルム上に防眩層及び低屈折率の樹脂層がこの順に形成されている請求項1から14記載の防眩性フィルム。
【請求項16】
低屈折率の樹脂層が、1.30〜1.49の屈折率を有する樹脂で構成されている請求項1から15記載の防眩性フィルム。
【請求項17】
低屈折率の樹脂層がフッ素含有化合物を含む請求項1から16記載の防眩性フィルム。
【請求項18】
低屈折率の樹脂層が、硬化性フッ素樹脂の前駆体で構成されており、この前駆体が活性エネルギー線及び熱から選択された少なくとも一種により硬化している請求項1から17記載の防眩性フィルム。
【請求項19】
請求項1記載の防眩フィルムが、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記樹脂前駆体を硬化させ、少なくとも防眩層を形成される防眩性フィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項1記載の防眩層が、複数のポリマー同士、ポリマーと硬化性樹脂前駆体、又は複数の硬化性樹脂前駆体同士が、スピノーダル分解により相分離構造を形成される請求項19記載の製造方法。
【請求項21】
請求項1記載の防眩層が、熱可塑性樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記熱可塑性樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物からのスピノーダル分解により相分離構造を形成し、光照射することにより防眩層を形成される請求項19記載の製造方法。
【請求項22】
請求項1記載の防眩層が、熱可塑性樹脂と、この熱可塑性樹脂に対して非相溶で且つ光硬化性基を有する樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物からのスピノーダル分解により相分離構造を形成し、光照射することにより防眩層を形成される請求項19記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1から18記載の防眩性フィルム、および請求項19から22記載の製造方法により製造される防眩性フィルムを備えてなる表示装置。

【公開番号】特開2009−180886(P2009−180886A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18997(P2008−18997)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】