説明

集合住宅の開口部に設けた耐火壁構造及び間取り変更方法

【課題】火災時に隣室からの延焼の危険性を低減できるとともに、隣合う部屋間の遮音性を高めることのできる耐火壁構造を提供する。
【解決手段】躯体開口部に固定された外枠3に、第1の壁パネル5を保持する内枠4が取り付けられ、第1の壁パネル5の内側に、耐火性及び遮音性を有する第2の壁パネル8が、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物7、7Aによって、第1の壁パネル5とは独立して保持されている。また、第2の壁パネル8は、戸境壁14が交差する位置で、戸境壁14の両側に分割され、且つ、分割されて対向する端面間に微小な隙間Sが形成され、前記戸境壁14は、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物7Aに保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅において住戸の間取を変更できるようにした建物構造に関し、更に詳しくは開口部に設けた耐火壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
間取の変更を想定して建設した集合住宅はSI(SKELTON & INFILL)住宅として知られており、特許文献1に記載されているように、集合住宅の躯体開口部に固定した外枠に、壁面パネルや窓、玄関ドア等を保持させたサッシ枠を組み込む構造とすることによって、レイアウトを個人の好みやライフスタイルの変化に応じて変更できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−41859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の間取変更は、単独の住戸において変更するものであり、隣接する住戸を含めて間取の変更をすることは考えられていない。
従来のSI住宅の躯体開口部に設けた壁は、通常、ケイ酸カルシウム板の壁パネルをサッシ枠に保持させ、これを躯体開口部の外枠に取り付けた耐火壁構造としてある。
開口部に設けた耐火壁は、基準に適合した耐火構造である必要があるが、壁パネルを保持しているサッシ枠やこれを取り付けている躯体開口部の外枠は、軽量化のためにアルミニウム製であるため耐火性能が十分でなく、火災発生時には、これらが短時間のうちに熱で変形して壁パネルが脱落し、壁パネルと戸境壁が分離して延焼する危険性が大きかった。
また、戸境壁の両側で壁パネルが連続しており、壁パネルを伝わって隣戸に音が漏れることがあり、遮音性に問題があった。
そこで、本発明は、開口部に設けた耐火壁の耐火性を十分なものとすると共に、遮音性を有するものとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の耐火壁構造は、躯体開口部に固定された外枠に、第1の壁パネルを保持する内枠が取り付けられ、第1の壁パネルの内側に、耐火性及び遮音性を有する第2の壁パネルが、前記躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物によって第1の壁パネルとは独立して保持され、第2の壁パネルは、戸境壁が交差する位置で当該戸境壁の両側に分割され、且つ、対向する端面間に耐火性能を落とすことなく振動を遮断する微小な隙間が形成され、前記戸境壁は、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物に保持されていることを特徴としている。
【0006】
本発明の耐火壁構造においては、第1の壁パネルと第2の壁パネルの間にロックウールが充填されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐火壁構造によれば、躯体開口部に固定されている外枠や、これに取り付けられて第1の壁パネルを保持している内枠が耐火性に乏しいアルミニウム等の材料で製作されている場合や、第1の壁パネルの耐火性が乏しい場合でも、第1の壁パネルの内側に、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物に保持された耐火性及び遮音性を有する第2の壁パネルを配置しているため、火災発生時に、外枠や内枠が熱によって短時間で軟化・変形して第1の壁パネルが脱落したり、第1の壁パネル自体が焼損した場合に、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物によって保持されている第2の壁パネルによって、火炎や煙の侵入を長時間阻止することができ、延焼の危険性を低減することができる。
【0008】
また、躯体開口部に第1の壁パネルと第2の壁パネルを取り付けて2重壁構造としているため、断熱性や遮音性を高めることができる。さらに、第2の壁パネルは、戸境壁が交差する位置で、戸境壁の両側に分割され、且つ、分割されて対向する端面間に微小な隙間が形成されているため、戸境壁を越えて音や振動が壁パネルを伝わって伝達されることを防止することができる。
また、第1の壁パネルと第2の壁パネルの間にロックウールを充填したことにより、耐火性や断熱性、遮音性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る耐火壁構造の実施例1の縦断面図。
【図2】本発明に係る耐火壁構造の実施例1の水平断面図。
【図3】本発明の耐火壁構造の工程説明図。
【図4】本発明の耐火壁構造の工程説明図。
【図5】本発明の耐火壁構造の工程説明図。
【図6】本発明の耐火壁構造の工程説明図。
【図7】本発明の耐火壁構造の実施例2の水平部分断面図。
【図8】本発明の耐火壁構造の実施例3の水平部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例1の図面に基づいて本発明を説明する。図1は、本発明に係る耐火壁構造の実施例1の縦断面図、図2は、その水平断面図であり、SI集合住宅建物躯体の開口部に適用された耐火壁構造について説明する。
これらの図に示す本発明の耐火壁構造1は、建物の躯体2の側面に形成されている開口部に適用されるものである。なお、これらの図の各部の寸法比率は、概念を説明するためのものであって正確な比率で描かれていない。
【0011】
図1に示すように、開口部の上辺は、躯体2の梁2Aの下面によって構成され、下辺は、躯体床面2Bから立ち上がっている凸壁2Cの上面で構成され、さらに、開口部の左右両側の2辺は、図2に示すように、躯体2の隣合う2つの支柱2Dで構成される。
【0012】
これら上下左右の4辺からなる矩形状の開口部には、アルミニウム製の外枠3がアンカーA、及びモルタルMで固定されている。外枠3の内側には、内枠のアルミニウム製のサッシ枠4が組み込まれ、サッシ枠4は、外枠3に対して躯体2の開口部外側から、ネジ等の固定手段によって着脱可能に固定される。
【0013】
サッシ枠4には、第1の壁パネルとしての耐火パネル5が保持されている。この耐火パネル5はケイ酸カルシウム板である。また、このサッシ枠4には、耐火パネル5の外側に、防雨のための外装パネル6が取り付けられている。
【0014】
一方、躯体2の開口部の内側周縁部には鋼鉄製の取付金物7が固定されている。この取付金物7は躯体2に直接固定されており、前述の耐火パネル5の内側で、第2の壁パネルである耐火パネル8を保持している。
【0015】
本実施例では、耐火パネル8は、前述の耐火パネル5と同様なケイ酸カルシウム板である。また、耐火パネル5と耐火パネル8の間には空間が形成されていて、この空間には、耐火性や断熱性、ならびに遮音性を高めるために、ロックウール9が充填されている。
【0016】
耐火パネル8の内面と躯体2の内側の壁面には、硬質ウレタン樹脂層10が吹き付けてある。また、躯体床面2Bと躯体天井面2E間には、複数の内装下地材11が縦向き姿勢で、前記硬質ウレタン樹脂層10の内面に沿って水平方向に等間隔で設けられている。
これらの内装下地材11には内装ボード12が取り付けられている。前記内装ボード12は、躯体天井面2Eの下方に設けられている室内天井13と、躯体床面2Bの上方に設けられている室内床Fとの間で室内の壁面を構成している。
なお、本実施例では、内装ボード12を石膏ボードとすることによって耐火性や断熱性、遮音性を高めている。
【0017】
図2に示すように、躯体2の内部に形成されている室内空間は、耐火パネル8とT字状に交差して配置される戸境壁14によって区画されている。戸境壁14は、一対の耐火ボード14Aどうしを間柱14Bを間に挟んで一体化した二重壁構造であり、耐火パネル8を保持している前述した取付金物7とは別部材の一対の鋼鉄製の角パイプ材からなる取付金物7Aのそれぞれの側面に個別に取り付けられている。
耐火パネル8は、戸境壁14と交差する位置で両側に2つに分割され、これらの対向する端面間には0.5〜1mmの微小な隙間Sが形成されていて、これらの耐火パネル8の対向端面近傍は、前記一対の取付金物7Aのそれぞれに個別に取り付けられている。微小な隙間Sは振動の伝播を遮断するものであり、振動媒体を不連続とするものであり、可能な限り小さくするの耐火の観点からは望ましい。
【0018】
この微小な隙間Sを設けたことで、戸境壁14で隔てられた一方の部屋の音や振動が、耐火パネル8を伝わって他方に伝達されることを防いでいる。さらに、遮音性を高めるために、一対の取付金物7Aの間に、ロックウール9Aが充填されている。
耐火パネル8の外側に配置されている耐火パネル5及び外装パネル6のそれぞれについても、戸境壁14を両側でそれぞれ個別に分割して設けられている。
【0019】
<施工手順>
本発明の耐火壁構造1の施工手順を図3〜図6に基づいて説明する。
なお、以下の施工手順は本発明の耐火壁を構築するための一例であり、他の施工手順を採用することは可能である。
図3に示すように、構造物躯体の開口部Oにその外側から外枠3を組み付け、その4辺を、開口部Oの内周にアンカーAとモルタルMによって固定し、開口部Oに取付金物7と取付金物7Aをそれぞれ固定し、取付金物7は、耐火パネル8を設置する範囲の外周部に、取付金物7Aは、開口部Oの戸境壁が設置される位置に配置する。
【0020】
取付金物7は、開口部Oの上下幅に適合するL字形の枠状のものを一対用い、躯体2の開口部O上下の辺の内側の縁にそれぞれ固定する。一方、取付金物7Aは、図示しない躯体床面から躯体天井面に至る上下寸法に相当する長さの鋼製角パイプであり、開口部Oの戸境壁の設置される位置に2本並べて開口部Oの上下位置で躯体2の内壁面に固定する。
【0021】
図4及び図5に示すように、2枚の耐火パネル8を開口部Oの内側左右方向より、取付金物7Aと取付金物7の間に設置し、取付金物7Aと取付金物7の両方に、これらの耐火パネル8の対向端面間に微小な隙間Sを設けて、ねじ等の固定手段で固定し、開口部Oの耐火パネル8を設けていない左右両側の部分に、一対の窓サッシ15をそれぞれ取り付け、一対の耐火パネル8の外側に、開口部Oの外側から耐火パネル5を保持したサッシ枠4を外枠3に組み込んで固定する。
【0022】
この際、図5に示すように、内側の耐火パネル8と外側の耐火パネル5との間に形成されている空間にロックウール9を充填する。また、サッシ枠4には、耐火パネル5の外側に外装パネル6が取り付けられ、開口部Oに対して戸境壁14がT字状に交差するように設置する。戸境壁14は、一対の耐火ボード14A間の間柱14Bの一面を、一対の取付金物7Aのそれぞれの対向する面と当接させた状態で、それぞれの耐火ボード14Aの端部内面側を対向する取付金物7Aの各側面に取り付ける。これらの取付金物7Aに戸境壁14を取り付ける前に、取付金物7Aの間にロックウール9Aを充填しておく。
【0023】
次に、図6に示すように、窓サッシ15の内側にサッシ額縁16を取り付けるとともに、躯体2の内側壁面に硬質ウレタン樹脂を吹き付けて硬質ウレタン樹脂層10を形成し、硬質ウレタン樹脂層10の内側に、複数の内装下地材11を設置した後、これらの上に内装ボード12を張り付けて完成となる。
【0024】
図7は、本発明の耐火壁構造の実施例2の水平部分断面図である。同図に示す耐火壁構造1Aは、戸境壁14の端部と、一対の耐火パネル8のそれぞれを、チャンネル形鋼を取付金物7Bとして対向させて取り付けたものである。取付金物7Bは、前述の実施例の取付金物7Aと同様に、躯体床面から躯体天井面に至る上下寸法に相当する長さであり、躯体開口部の戸境壁が設置される位置で躯体内壁面に固定してある。
この実施例は、前述した一対の取付金物7Aを一つの取付金物7Bに置換して構造を簡素化したものである。
【0025】
取付金物7Bは、開口側を室内側に向けて設置してあり、その左右両側面には戸境壁14を構成する耐火ボード14Aの端部内面がそれぞれ取り付けられている。前記開口側と反対側の平坦面に一対の耐火パネル8のそれぞれの端部が固定してあり、耐火パネル8の対向する端面間には微小な隙間Sを設けてある。
さらに、耐火性や断熱性ならびに遮音性を向上するために、ロックウール9Bを取付金物7Bの開口端からその内部に一部入り込ませて一対の耐火ボード14Aの間に充填してある。なお、その他の部分は、前述の実施例と同じ構造である。
【0026】
図8は、本発明の耐火壁構造の実施例3の水平部分断面図である。同図に示す耐火壁構造1Bは、一対のチャンネル形鋼を用いた取付金物7Cどうしを、その開口側どうしを隙間Sを空けて向かい合わせて配置し、幅広のチャンネル形鋼の取付金物7Dを、これら一対の取付金物7Cに開口側を反対側に向けて配置したものである。
【0027】
一対の取付金物7Cは、取付金物7Dと反対側の側面に一対の耐火パネル8のそれぞれが固定される。また、それぞれの取付金物7Cの開口側とは反対側の平坦な面と、取付金物7Dの両側面とは、段差無く同一面に揃えられ、これらの面には、それぞれ一対の耐火ボード14Aの端部内面が当接されて固定されている。
【0028】
また、耐火性、断熱性、ならびに遮音性を高めるために、一対の取付金物7Cの対向する開口端の間にはロックウール9Cが充填されている。
【0029】
本発明の耐火壁構造において、第2の壁パネルならびに戸境壁を保持する取付金物は、前述した実施例において用いられている各取付金物7、7A、7C、7Dの構造に限定するものではなく、躯体開口部に固定されて第2の壁パネルと戸境壁を躯体に保持でき、少なくとも1時間の耐火性能を有する鋼鉄製のものであればよい。
【0030】
また、前述した実施例1〜3においては、第2の壁パネルの耐火パネル8は、ケイ酸カルシウム板であるが、第2の壁パネル材は、ケイ酸カルシウム板に限定されるものではなく、必要とされる耐火性能や強度を備えた耐火材料を用いて製作されたものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の耐火壁構造は、SI住宅の他、SI工法により建設される様々な用途のビルの壁構造として広く利用可能であり、戸境壁を移設または撤去するとともに、第1、第2の壁パネル及び周辺の取付金物等を撤去し、間取を変更することができる。間取変更のプランによってはサッシを交換する場合もある。また、隣接する住戸を合体させてより大きな住戸とすることも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1、1A、1B 耐火壁
2 躯体
2A 梁
2B 躯体床面
2C 凸壁
2D 支柱
2E 躯体天井面
3 外枠
4 サッシ枠(内枠)
5 耐火パネル(第1の壁パネル)
6 外装パネル
7、7A、7B、7C、7D 取付金物
8 耐火パネル(第2の壁パネル)
9、9A、9B、9C、9D ロックウール
10 硬質ウレタン樹脂層
11 内装下地材
12 石膏ボード
13 屋内天井
14 戸境壁
14A 耐火ボード
14B 間柱
15 窓サッシ
16 サッシ額縁
F 室内床
M モルタル
S 微小隙間
O 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体開口部に固定された外枠に、第1の壁パネルを保持する内枠が取り付けられ、
第1の壁パネルの内側に、耐火性及び遮音性を有する第2の壁パネルが、前記躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物によって第1の壁パネルとは独立して保持され、
第2の壁パネルは、戸境壁がT字状に交差する位置で当該戸境壁の両側に分割され、且つ、分割されて対向する端面間に微小な隙間が形成され、
前記戸境壁は、躯体開口部に固定された鋼鉄製の取付金物に保持されていることを特徴とする耐火壁構造。
【請求項2】
第1の壁パネルと第2の壁パネルの間にロックウールが充填されていることを特徴とする請求項1記載の耐火壁構造。
【請求項3】
請求項1または2において、戸境壁を躯体開口部に固定する取付金物は、鋼製角パイプである耐火壁構造。
【請求項4】
請求項1または2において、戸境壁を躯体開口部に固定する取付金物はチャンネル形鋼である耐火壁構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの耐火壁構造の耐火壁に交差して設けてある戸境壁を移設または撤去することによって間取りを変更する集合住宅における間取り変更方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−219432(P2012−219432A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82531(P2011−82531)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】