説明

電動パワーステアリング装置

【課題】システムを大型化することなく、すえ切り時において操舵補助力が不足しないコンパクトな構造の電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵系に連結され、前記操舵系に減速機を介して操舵補助トルクを発生するモータ18を備え、操舵系の操舵トルクや車速に基づき前記モータを制御し、操舵アシストトルクを発生する電動パワーステアリング装置において、前記減速機を減速比の異なる第1減速機18b、20と第2変速機18c、21で構成し、この第1、第2減速機18b、20、18c、21を切替える切替手段13を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の電動パワーステアリング装置において、自動車の操舵のすえ切り時に必要な操舵力は一般的に通常走行中よりも大きくなる。従って、一般的な電動パワーステアリングでは、操舵力補助の電動モータの要求スペックをすえ切り時において操舵補助力が不足しないように設計している。特に、大型車では大型の高出力の電動モータが必要となり電動パワーステアリング装置の大型化が避けられない。このような電動モータの大型化を避けるために、特許文献1に示すような小型の電動モータを2個用いて操舵補助力が不足しないようにした電動パワーステアリング装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−155343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電動モータを2個用いた場合、個々の電動モータは小型化できるが、この電動パワーステアリング装置を車両に搭載する際、これら2個の電動モータと他の部品とが干渉しないようにする必要があり、車両搭載の自由度が低いという問題があった。そこで、システムを大型化することなく、すえ切り時において操舵補助力が不足しない電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、前記操舵系に減速機を介して操舵補助トルクを発生するモータを備え、操舵系の操舵トルクや車速に基づき前記モータを制御し、操舵補助トルクを発生する電動パワーステアリング装置において、前記減速機を減速比の異なる第1減速機と第2減速機で構成し、この第1、第2減速機を切替える切替手段を備えたことを要旨としている。
【0006】
本発明によれば、減速機の切替えにより操舵補助力の大きさの切替えをすることで、実用上、十分な操舵力を得ることができる。即ち、車両の道路走行時には、減速比の小さい第1減速機にして、操舵補助力を小さく、すえ切り時は減速比の大きい第2減速機にして、操舵補助力を大きくする。したがって、操舵補助力を増大するための大型モータが不要であり、すえ切り時において操舵補助力が不足しない電動パワーステアリング装置ができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記第1減速機は第1駆動歯車と第1従動歯車で構成し、前記第2減速機は第2駆動歯車と第2従動歯車で構成し、前記切替手段は、前記第1駆動歯車と前記第1従動歯車又は、前記第2駆動歯車と前記第2従動歯車を噛合させ減速比を変更することを要旨としている。即ち、本発明において、前記操舵補助の減速比は、第1、第2の操舵補助減速比を実現するために、第1、第2の駆動歯車と従動歯車とを直結させるという簡易な構成で達成できる。また。したがって、部品点数も少なくてよくシステムを小型化した電動パワーステアリング装置ができる。
【0008】
さらに請求項3に記載の発明は、前記第1駆動歯車と前記第2駆動歯車は前記モータのモータ軸に直列に設けられ、前記第1従動歯車と前記第2従動歯車は前記操舵系に係合させたことを要旨としている。即ち、駆動歯車が1つのモータ軸に直列に構成されており、同軸になるため、1つのモータで駆動できる。一方従動歯車は操舵系に直接もうけられているため、簡単な構造で確実に操舵力の補助ができる。また、簡単な構造の減速機となり、軸方向の長さの増大を最小限に留めて、システムを小型化できる。
【0009】
さらに、車速を検出する速度検出手段を備え、前記切替手段は前記車速に基づき切替えることを要旨としている。即ち、本発明は、前記車速からすえ切り状態の検出装置を有し、前記減速比切替機構を操作するための操作部をさらに備えており、すえ切り状態を判断したときに運転者が動力補助伝達経路を簡単な構造で容易に2段階に変更できるため、すえ切りの操舵補助を確実に操作ができ、操舵補助力を確保できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2段階の減速機の切替えにより操舵補助力の大きさの切替えができるため、大型車においても、システムを大型化することなく、すえ切り時において操舵補助力が不足しないコンパクトな構造の電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】動力補助伝達機構の概略構成を示す一部断面図であり、第1減速機位置にある状態を示している。
【図3】動力補助伝達機構の概略構成を示す一部断面図であり、第2減速機位置にある状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有する転舵軸としてのラック軸8と、を備えている。ラック軸8は、自動車等の車両の左右方向に延びている。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構9が構成されている。
【0013】
ラック軸8は、車体に固定されるハウジング(図示せず)内に、複数の軸受(図示せず)を介して、ラック軸8の軸方向に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の各端部には、それぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0014】
電動パワーステアリング装置1は、転舵機構9に操舵補助力を付与するための操舵補助機構12と、操舵部材2の前記操舵補助力を変更することのできる減速比切替機構13と、を備えている。ステアリングシャフト3は、操舵部材2と減速比切替機構13との間に配置され操舵部材2の操舵に応じて回転する入力軸14と、減速比切替機構13と中間軸5との間に配置され転舵機構9の動作に連動して回転する出力軸15とを含む。
【0015】
操舵補助機構12は、ブラシレスモータ等の電動モータ18と、電動モータ18の出力回転が入力される減速機構19と、を含む。減速機構19は、例えば、ハイポイドギヤ減速機構であり、電動モータ18のモータ軸18aに一体回転可能に連結された第1従動歯車20と、出力軸15に一体回転可能に連結された第1従動歯車20に噛み合うハイポイドギヤからなる第2従動歯車21とモータ軸18aに設けられた第1、2駆動歯車18b、18cを含む。このように減速機構19は第1減速機としての第1駆動歯車18bと第1従動歯車20、第2減速機としての第2駆動歯車18cと第2従動歯車21で構成される。第1、第2従動歯車20および21は一体回転可能に入力軸14及び出力軸15にスプライン嵌合で取り付けられ、減速比切替機構13により、軸方向X10に移動可能になっている。
【0016】
電動モータ18は、減速機構19、出力軸15および中間軸5を介して転舵機構9に動力伝達可能に連結されている。電動モータ18の出力(操舵補助力)は、減速機構19を介して出力軸15に伝達され、運転者の操舵を補助するようになっている。
また、電動パワーステアリング装置1は、電動モータ18を制御するためのトルクセンサ22および車速センサ23を備えている。トルクセンサ22は、入力軸14の周囲に設けられている。トルクセンサ22は、例えば、入力軸14に作用するトルクに応じた出力軸15のねじれを検出するセンサである。出力軸15のねじれを検出することにより、出力軸15に作用しているトルクを検出するようになっている。車速センサ23は、車両の転舵輪11等の車輪に設けられており、車速を検出するようになっている。
【0017】
電動パワーステアリング装置1は、CPU,RAMおよびROMを含む制御部24を備えている。制御部24は、電動モータ18の動作を制御するために設けられている。制御部24には、トルクセンサ22および車速センサ23がそれぞれ接続されている。これらのセンサ22,23からの検出信号が、制御部24に入力されるようになっている。制御部24は、ドライバ25を介して電動モータ18に接続されている。
【0018】
制御部24は、トルクセンサ22および車速センサ23からの入力信号等に基づいて、電動モータ18の目標駆動量を設定し、電動モータ18の実駆動量と目標駆動量との偏差がゼロとなるように、電動モータ18を制御する。これにより、電動モータ18に所定の力を発生させる。この力は、減速機構19を介して出力軸15に伝達され、さらに、転舵機構9に付与される。その結果、運転者による操舵部材2の操舵が補助され、運転者は、少ない力で容易に操舵部材2を回転操作することができる。
【0019】
また、図2は、減速比切替機構13の概略構成を示す一部断面図である。図2に示すように、入力軸14および出力軸15は、互いの先端を相対向させて同軸上に配置されている。減速比切替機構13は、入力軸14に一体回転可能に連結された第1従動歯車20と、出力軸15に一体回転可能に連結された第2従動歯車21とを含んでいる。
【0020】
第1従動歯車20の直径は、第2従動歯車21の直径よりも小さく減速比を小さく構成している。第1、第2従動歯車20,21には、ステアリングシャフト3の軸方向に歯部20a、21aが各々形成されている。
【0021】
減速比切替機構13は、入力軸14を挿通する形成された円盤部31aを備えるハウジング31、第1、第2従動歯車を付勢する付勢部材32、ソレノイド33で構成されている。なお、このハウジング31は、図略のコラムブラケット側に固定され、前記入力軸14とは一体的に回転しないように取付けられている。
【0022】
前記円盤部31aの一端面31bと第1従動歯車20の間には、前記付勢部材32が設けられている。付勢部材32は、例えば、コイルばね等のばねである。付勢部材32は、円盤部31aの周方向に等間隔に複数(本実施形態において2つ)配置されている。各付勢部材32の一端は前記一端面31bを付勢し、他端は第1従動歯車20の一端面20cを出力軸15側に付勢するようになっている。
【0023】
円盤部31aには、前記ソレノイド33が設けられている。ソレノイド33は、第1、第2従動歯車20,21を軸方向X10に変位するために設けられている。ソレノイド33は、円盤部31aの外周に固定されたソレノイドハウジング33aと、ソレノイドハウジング33aに軸方向X10に進退可能に支持されたロッド33bと、を含んでいる。
ロッド33bの先端部には引っ掛け部33cが形成され、第1従動歯車20に形成された凹部20dと係合している。これにより、ソレノイド33によりロッド33bを進退させることにより、第1、第2従動歯車20,21をステアリングシャフト3の軸方向X10に移動させることが可能となる。
【0024】
ソレノイド33に電力を供給されることにより、ロッド33bは、軸方向X10の一方X11側に変位するようになっている。これにより、第1第2従動歯車20および21は、付勢部材32の付勢力に抗してステアリングシャフト3の軸方向X10の一方X11側に変位し、第2位置P2に位置するようになる。一方、ソレノイド33に電力が供給されていないときには、第1、第2従動歯車20および21は、付勢部材32の付勢力によって、軸方向X10の他方X12側に変位し、第1位置P1に位置するようになっている。したがって、付勢部材32により、第1、第2従動歯車に常に付勢されており、第1、第2駆動歯車とのバックラッシがない状態になっている。
【0025】
ソレノイド33には、操作部材34が接続されている。操作部材34は、例えば、ボタン34aを含んでおり、運転者がこのボタン34aを操作することで、ソレノイド33に図示しない電源から電力が供給されている状態と、電源からの電力供給が遮断されている状態とを切替えることが可能となっている。また、この電力供給は制御部24に、それぞれ接続されているトルクセンサ22および車速センサ23からの検出信号が、車両が停車中及び走行していないと判断したときに電力供給される。
【0026】
図2において、第1従動歯車20は、第1位置P1に位置している。第1従動歯車20が第1位置P1に位置しているとき、駆動歯車18の歯部18bは、第1従動歯車20の歯部20aに噛み合っている。このとき、駆動歯車18の歯部18bと第1従動歯車とは直結(一体回転可能に連結)されており、第1の減速機の減速比で操舵補助力が作用する。
【0027】
例えば、車両が道路を走行しているときに、入力部材26が第1位置P1に位置されている。このとき、入力軸14の操舵力に対して停車中に比較して操舵補助力が小さくなっている。その結果、車両が道路を車線変更するとき等に、自然な操舵感を得ることができる。
【0028】
図3において、第2従動歯車21は、第2位置P2に位置している。第2従動歯車21が第2位置P2に位置しているとき、駆動歯車18の歯部18bは、第1従動歯車21の歯部21aに噛み合っている。このとき、駆動歯車18の歯部18bと第2従動歯車とは直結(一体回転可能に連結)されており、第2の減速機の減速比で操舵補助力が作用する。
【0029】
例えば、車両を駐車場に入れるときに、運転者が減速比切替機構13のボタン34aを押操作することにより、変位部材29が第2位置P2に変位される。このとき、第2減速比は、第1減速比より大きいので、操舵部材2の回転操作力が小さくてすむ。その結果、車両を駐車場に入れるとき等に、運転者が操舵部材2を回す力を少なくできる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1減速機で入力軸14と出力軸15との間で動力を補助する場合と、第2減速機で入力軸14と出力軸15との間で動力を補助する場合の2段階で、減速比を変更することができる。例えば、車両の道路走行時と比べて、車両を駐車するときの減速比を大きくすることで、少ない労力で車両を駐車場の駐車枠に停めることができ、且つ、車両の道路走行時には、操舵部材2の減速比が小さくすることで慣性感が軽減されるため、また、操舵補助力が大きくなりすぎず、自然な操舵フィーリングを実現できる。このように、簡易で安価な構成である、2段階の減速比切り替えを達成することで、実用上、十分な操舵捕助力可変効果を得ることができる。
【0031】
さらに、運転者が減速比切替機構13を操作するという簡易な構成で、操舵補助減速比を容易に2段階に変更できる。また、第1減速比を実現するために、第1駆動歯車、第2減速比は、第2駆動歯車を直結させるという簡易な構成でよい。したがって、電動パワーステアリング装置1を、よりコスト安価にできる。
【0032】
また、第1、第2駆動歯車18b、18cと第1、第2従動歯車20,21を係合させるという簡易な構成で、しかもバックラッシのない歯車で第1および第2減速比を実現できる。そのため、組み付けや、寸法誤差および、使用時の摩耗で起こる歯車のバックラッシによる歯打ち音の発生がない静粛性に優れた減速機構となっている。また、減速比切替機構としては、各上記実施形態で説明したのとは異なる歯車機構を用いてもよい。すなわち、運転者の操作に応じて第1位置P1と第2位置P2とに変位する変位部材を備え、この変位部材の変位に応じて操舵補助伝達経路が変わるようにされた電動パワーステアリング装置に本発明を適用することができる。
【0033】
さらに、各上記実施形態では、ステアリングシャフト3の出力軸15から転舵機構9に操舵補助力を負荷するコラムアシストタイプの操舵補助機構12を説明したが、これに限定されない。例えば、ピニオン軸7やラック軸8から転舵機構9に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵部材、9…転舵機構、13…減速比切替機構、14…入力軸、15…出力軸、18…電動モータ、18a…モータ軸、18b…第1駆動歯車、18c…第2駆動歯車、19…減速機構、20…第1従動歯車、21…第2従動歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系に連結され、前記操舵系に減速機を介して操舵補助トルクを発生するモータを備え、操舵系の操舵トルクや車速に基づき前記モータを制御し、操舵補助トルクを発生する電動パワーステアリング装置において、前記減速機を減速比の異なる第1減速機と第2減速機で構成し、この第1、第2減速機を切替える切替手段を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1減速機は第1駆動歯車と第1従動歯車で構成し、前記第2減速機は第2駆動歯車と第2従動歯車で構成し、前記切替手段は、前記第1駆動歯車と前記第1従動歯車又は、前記第2駆動歯車と前記第2従動歯車を噛合させ減速比を変更することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1および2において、前記第1駆動歯車と前記第2駆動歯車は前記モータのモータ軸に直列に設けられ、前記第1従動歯車と前記第2従動歯車は前記操舵系に係合させたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1から3において、車速を検出する速度検出手段を備え、前記切替手段は前記車速に基づき切替えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−183987(P2012−183987A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64183(P2011−64183)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】