説明

電動モータ

【課題】ウォームギヤ機構に加えてプラネタリギヤ機構と逆入力遮断クラッチとを備える電動モータを小型化することである。
【解決手段】アーマチュア軸12bを備えたモータ本体12と、アーマチュア軸12bの回転を減速して出力するウォームギヤ機構21と、ウォームギヤ機構21の回転を減速して出力軸14から出力するプラネタリギヤ機構22と、アーマチュア軸12bの回転を出力軸14に伝達し、出力軸14の回転はアーマチュア軸12bに伝達しない逆入力遮断クラッチ24とを備えるシートモータ11において、プラネタリギヤ機構22をウォームギヤ機構21に対して軸方向の一方側に配置し、逆入力遮断クラッチ24をウォームギヤ機構21に対して軸方向の他方側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力軸側からの入力によるアーマチュア軸の回転を防止する逆入力遮断クラッチを備えた電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられる電装品の駆動源としては、小型で大きな出力を得ることができる減速機付きの電動モータが多く用いられている。例えば、自動車の運転席等のシートを上下方向に駆動するためのシートモータ(リフターモータ)としては2段減速式の電動モータが用いられており、この場合、モータ本体の出力つまりアーマチュア軸の回転はウォームギヤ機構とプラネタリギヤ機構とにより2段階に減速して出力軸から出力されるようになっている。
【0003】
このような電動モータでは、モータの作動中またはモータが停止している状態において、乗員の体重等の外部荷重によりシート等の被駆動体が不意に作動することを防止するために、出力軸側からの入力によってモータが回転することを防止する必要がある。
【0004】
そのため、アーマチュア軸とウォーム軸との間に、アーマチュア軸の回転をウォーム軸に伝達し、ウォーム軸の回転をアーマチュア軸に伝達しない逆入力遮断クラッチを設けて、出力軸側からの入力によるモータの回転を防止するようにした電動モータが開発されている。
【0005】
このように、ウォームギヤ機構を備えた電動モータにプラネタリギヤ機構とクラッチとをさらに設ける場合には、例えば特許文献1に記載されるように、プラネタリギヤ機構とクラッチはウォームギヤ機構に対してその軸方向の同一方向側に重ねて配置されるのが一般的である。
【特許文献1】特開平3−72184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される電動モータのように、プラネタリギヤ機構とクラッチとをウォームギヤ機構に対してその軸方向の同一方向側に重ねて配置すると、電動モータの出力軸の軸方向の厚み寸法が増加して、電動モータが大型化するという問題があった。特に、シートモータやパワーウインドモータ等では、その配置スペースが狭いため、小型・薄型化の必要性が高く、そのレイアウト性を低減することになっていた。
【0007】
本発明の目的は、ウォームギヤ機構に加えてプラネタリギヤ機構と逆入力遮断クラッチとを備える電動モータを小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動モータは、ウォームを有するアーマチュア軸を備えたモータ本体と、前記ウォームと噛合し、前記アーマチュア軸の回転を減速して出力するウォームホイルと、前記モータ本体と連結され、前記ウォームホイルを収容する収容部が形成されたギヤケースと、前記ウォームホイルに対して前記ウォームホイルの回転軸の軸方向の一方側に配置され、前記ウォームホイルの回転を減速して出力軸から出力するプラネタリギヤ機構と、前記ウォームホイルに対して前記ウォームホイルの回転軸の軸方向の他方側に配置され、前記アーマチュア軸の回転を前記出力軸に伝達し、前記出力軸の回転は前記アーマチュア軸に伝達しない逆入力遮断クラッチとを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の電動モータは、前記ウォームギヤ機構と前記プラネタリギヤ機構との間の動力伝達経路に前記逆入力遮断クラッチを設けることを特徴とする。
【0010】
本発明の電動モータは、前記逆入力遮断クラッチは、前記ギヤケースに固定される外輪と、前記プラネタリギヤ機構と一体回転可能に配置され、周方向に複数の装着溝が形成された内輪と、前記ウォームホイルと一体回転可能に配置され、前記内輪および前記外輪と同軸の円環状に形成され、周方向に複数の保持溝が形成された保持器と、前記外輪と前記内輪の間に配置され、前記保持溝および前記装着溝に配置される保持スプリングと、前記外輪、前記内輪、前記保持器および前記保持スプリングに周囲を囲まれるローラとを有し、前記保持器は、前記保持溝側端部に前記ローラを内周側へ案内するための制御面を有し、前記内輪は、前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との間隔が前記装着溝に近づくにつれ徐々に広くなるように形成された内側ロック面を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の電動モータは、車両のシートを上下方向に駆動するシートモータとして用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータ本体の厚みの中心に配置されるウォームギヤ機構に対してその軸方向の一方側にプラネタリギヤ機構を配置し、他方側に逆入力遮断クラッチを配置するようにしたので、この電動モータの厚み寸法を低減して、当該電動モータを小型化することができる。
【0013】
また、本発明によれば、逆入力遮断クラッチをウォームギヤ機構とプラネタリギヤ機構との間の動力伝達経路に設けるようにしたので、出力軸側からの逆入力は逆入力遮断クラッチによりウォームギヤ機構の手前で遮断され、ウォームギヤ機構が回転することがない。これにより、出力軸側から大きな逆入力によりウォームホイルがウォームに強く噛み合うことを防止して、この電動モータの耐久性を高めることができる。また、出力軸側からの逆入力はプラネタリギヤ機構により増速されて逆入力遮断クラッチに入力されることになるので、逆入力遮断クラッチに入力される荷重を小さくすることができる。これにより、逆入力遮断クラッチの容量を小さくして、この電動モータをさらに小型化することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、電動モータを小型化することができるので、狭いスペースへの配置が可能となり、この電動モータをシートモータとして用いる場合には、当該モータのシート内へのレイアウト性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施の形態であるシートモータを示す斜視図であり、図2は図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【0017】
図1に示す電動モータとしてのシートモータ11はリフターモータとも呼ばれるものであり、自動車等の車両(不図示)のパワーシート装置に設けられてこの車両の運転席等のシートの座面を上下方向に駆動するものである。
【0018】
このシートモータ11はモータ本体12と減速機13とが1つのユニットとされた減速機付きモータとなっており、モータ本体12の出力は減速機13により減速されて出力軸14から出力されるようになっている。出力軸14には出力ギヤ15が固定されており、この出力ギヤ15はパワーシート装置の図示しない上下動機構に接続されている。これにより、モータ本体12を作動させ、出力軸14を正逆回転させることにより、シートを上下方向に作動させることができるようになっている。
【0019】
このシートモータ11に用いられるモータ本体12はブラシ付き直流モータとなっており、そのヨーク12aは鋼材をプレス加工することにより断面略小判形の底付き筒状に形成されている。ヨーク12aの内部には図示しないアーマチュアが回転自在に収容されている。このアーマチュアを構成するアーマチュア軸12bは鋼材により形成されており、その一端においてヨーク12aに回転自在に支持され、他端側つまり先端側の所定範囲の部分はヨーク12aの開口端から突出している。また、図示はしないが、アーマチュア軸12bにはアーマチュアコイルが巻装されたアーマチュアコアとコンミテータとが固定され、ヨーク12aの開口端にはコンミテータに摺接する一対のブラシを備えたブラシホルダユニットが取り付けられている。そして、各ブラシとコンミテータとを介してアーマチュアコイルに給電されると、モータ本体12が作動して、アーマチュア軸12bは正逆両方向に回転するようになっている。
【0020】
減速機13は樹脂製のギヤケース13aを備えており、このギヤケース13aはボルト16aとナット16bとによりヨーク12aの開口端に固定されている。図2に示すように、ギヤケース13aにはバスタブ状の収容部13bが形成されており、アーマチュア軸12bの先端側の部分はこの収容部13bの内部に突出している。また、収容部13bにはウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22とが収容されており、アーマチュア軸12bの回転はこのウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22とにより2段階に減速されて出力軸14から出力されるようになっている。
【0021】
なお、符号13cは、ギヤケース13aの開口部分に3つの締結部材13dにより固定されて当該開口部分を閉塞するカバーである。
【0022】
図2に示すように、ウォームギヤ機構21はウォーム21aとウォームホイル21bとを備えており、ウォーム21aはアーマチュア軸12bの収容部13bの内部に突出した部分の外周面に一体に形成されている。つまり、ウォーム21aはアーマチュア軸12bと一体に鋼材により形成されている。一方、ウォームホイル21bは樹脂製となっており、その軸心において収容部13bに配置され、後述する逆入力遮断クラッチ24の内輪26と一体に設けられた中間軸23に当該中間軸23に対して相対回転自在となるように装着されている。なお、中間軸23は収容部13bの内部に出力軸14と同軸に配置されており、一端がカバー13cに支持されることにより収容部13bの内部で回転自在となっている。ウォームホイル21bの外周部にはギヤ部21cが設けられており、ウォームホイル21bはこのギヤ部21cにおいてウォーム21aに噛み合わされている。これにより、アーマチュア軸12bが回転すると、その回転はウォームギヤ機構21により減速され、ウォームホイル21bの回転として出力されるようになっている。
【0023】
図2に示すように、収容部13bには逆入力遮断クラッチ24が設けられており、ウォームギヤ機構21の回転つまりウォームホイル21bの回転はこの逆入力遮断クラッチ24を介して中間軸23に伝達されるようになっている。なお、逆入力遮断クラッチ24の詳細については後述する。
【0024】
プラネタリギヤ機構22はシングルピニオン式となっており、サンギヤ(太陽ギヤ)22aと、インターナルギヤ(内歯ギヤ)22bと、4つ(図2には2つのみを示す)のプラネタリギヤ(遊星歯車)22cとを備えている。
【0025】
サンギヤ22aはウォームホイル21bと同軸に当該ウォームホイル21bに対して出力ギヤ15の側の軸方向に隣接して配置されており、その軸心において中間軸23の先端に嵌合固定されて中間軸23とともに回転するようになっている。なお、図示する場合ではサンギヤ22aを中間軸23に固定するようにしているが、サンギヤ22aを中間軸23と一体に形成するようにしてもよい。インターナルギヤ22bはリング状に形成され、サンギヤ22aと同軸かつ径方向に並んで配置されており、その外周部においてギヤケース13aの収容部13bの内周面に嵌合固定されている。プラネタリギヤ22cは、それぞれサンギヤ22aとインターナルギヤ22bとの間に配置されるとともに互いに周方向に等間隔に並べて配置されており、それぞれサンギヤ22aとインターナルギヤ22bとに噛み合わされている。また、各プラネタリギヤ22cは円板状に形成されたキャリア22dにピン部材22eにより回転自在に支持されており、このキャリア22dはその軸心において出力軸14に固定されている。
【0026】
このように、このプラネタリギヤ機構22は、サンギヤ22aを入力要素、プラネタリギヤ22c(キャリア22d)を出力要素とした減速機構として構成され、中間軸23の回転つまりウォームギヤ機構21の回転を減速して出力軸14から出力するようになっている。
【0027】
図3は図2に示す逆入力遮断クラッチの正面図であり、図4は図3に示す逆入力遮断クラッチの要部を拡大して示す拡大正面図である。
【0028】
次に、図3、図4に基づいて、逆入力遮断クラッチ24の詳細について説明する。
【0029】
まず、逆入力遮断クラッチとは、入力側と出力側の間の動力伝達経路に設けられて、入力側から入力される回転については正逆いずれの方向の回転についてもこれを出力側に伝達し、出力側から入力される回転については正逆いずれの方向の回転についてもこれを入力側には伝達しない機能を有するクラッチのことである。
【0030】
本実施の形態においては、逆入力遮断クラッチ24は、ウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22との間の動力伝達経路つまりウォームホイル21bとサンギヤ22aとの間の動力伝達経路に設けられており、アーマチュア軸12bつまりウォームホイル21bの側が入力側、出力軸14つまりサンギヤ22aの側が出力側とされている。これにより、モータ本体12が作動してウォームギヤ機構21つまりウォームホイル21bが回転すると、その回転は逆入力遮断クラッチ24を介してサンギヤ22aつまりプラネタリギヤ機構22に伝達される。これに対して、シートに加わる乗員の体重等による逆入力が出力ギヤ15を介して出力軸14に加えられ、当該出力軸14とともにプラネタリギヤ機構22つまりサンギヤ22aが回転したときには、その回転は逆入力遮断クラッチ24により遮断されてウォームホイル21bつまりウォームギヤ機構21には伝達されず、ウォームホイル21bつまりウォームギヤ機構21は回転しない。
【0031】
次に、この逆入力遮断クラッチ24の構造について説明する。
【0032】
図2、図3に示すように、逆入力遮断クラッチ24は外輪25と内輪26とを有している。
【0033】
外輪25は鋼材により円筒状に形成され、中間軸23と同軸に配置されており、その内周面は外側ロック面25aとなっている。また、図1、図2に示すように、外輪25における中間軸23の軸方向端部には外輪25の径方向外側に延びるフランジ部25bが一体に設けられており、このフランジ部25bがギヤケース13aとカバー13cとの間に挟み込まれてカバー13cとともに締結部材13dによりギヤケース13aに固定されることにより、外輪25はギヤケース13aに固定されている。
【0034】
一方、内輪26は鋼材により略円筒状に形成されており、外輪25の内側に当該外輪25に対して所定の隙間を空けるとともに同軸に配置されている。この内輪26にはボス部26aが一体に設けられており、このボス部26aは中間軸23に固定されている。これにより、内輪26は中間軸23とともに回転するようになっている。
【0035】
図3に示すように、外輪25と内輪26との間には保持器27が設けられている。この保持器27は鋼材により外輪25および内輪26と同軸の円筒状に形成されている。また、図2に示すように、保持器27の中間軸23の軸方向端部には円板部27aが一体に設けられており、この円板部27aはウォームホイル21bの軸方向端面に対向して配置されている。円板部27aにはウォームホイル21bに向けて軸方向に突出する係合凸部27bが一体に形成され、ウォームホイル21bには係合凸部27bに対応した係合凹部21dが設けられており、この係合凸部27bが係合凹部21dに係合することにより、円板部27aつまり保持器27はウォームホイル21bとともに回転するようになっている。また、図3、図4に示すように、保持器27には周方向に等間隔に並べて4つの保持溝27cが形成されており、これらの保持溝27cにはそれぞれ一対の円柱形状のローラ28が配置されている。
【0036】
内輪26には保持器27の保持溝27cに対応した4つの装着溝26bが周方向に等間隔に並べて形成されており、これらの装着溝26bにはそれぞれ保持スプリング31が装着されている。これらの保持スプリング31はそれぞれU字形状に形成され、U字形状の曲げ部分において装着溝26bに装着されており、内輪26が回転すると当該内輪26とともに装着溝26bに装着された状態で回転するようになっている。また、各保持スプリング31の両先端部分はそれぞれ装着溝26bから径方向外側に突出しており、それぞれ対応する保持器27の保持溝27cに配置された一対のローラ28の間に配置されている。
【0037】
図3、図4に示すように、保持器27のローラ28に対向する端面つまり保持溝27cのローラ28に対向する内面はそれぞれ制御面27dとなっており、これらの制御面27dはそれぞれ保持器27の径方向に対して内側を向く方向(保持器27の軸心に近づくにつれてローラ28から離れる方向)に傾斜している。これにより、保持器27が回転すると、制御面27dに対して回転方向前方側に位置するローラ28は当該制御面27dにより押されて回転方向に移動するとともに、当該制御面27dにより押されて径方向内側(内周側)に移動して外側ロック面25aから離れるようになっている。
【0038】
内輪26の装着溝26bを挟んだ両外周面には、それぞれ内側ロック面26cが形成されている。これらの内側ロック面26cは、それぞれ対応するローラ28を挟んで外輪25の外側ロック面25aと対向するとともに内輪26の外周面から装着溝26bに向けて徐々に内輪26の軸心に近づく方向に傾斜して形成されている。また、内側ロック面26cと外側ロック面25aとの径方向の間隔は、内側ロック面26cにおける装着溝26bの側の端部においてはローラ28の外径寸法よりも広く設定され、内側ロック面26cにおける内輪26の外周面の側の端部においてはローラ28の外径寸法よりも小さく設定されている。これにより、保持器27が停止した状態のもとで内輪26が回転すると、装着溝26bに対して回転方向後方側にあるローラ28が内側ロック面26cと外側ロック面25aとの間に楔状に挟み込まれ、内輪26がローラ28を介して外輪25にロックされてその回転が阻止されるようになっている。
【0039】
次に、このような逆入力遮断クラッチ24の作動について説明する。
【0040】
図5(a)、(b)はそれぞれモータ本体が作動したときの逆入力遮断クラッチの作動状態を示す説明図であり、図6(a)、(b)はそれぞれ出力軸から逆入力が加えられたときの逆入力遮断クラッチの作動状態を示す説明図である。
【0041】
モータ本体12つまりアーマチュア軸12bが回転すると、その回転がウォームギヤ機構21により減速されて保持器27に伝達され、図5(a)に示すように、当該保持器27が図中時計回り方向に回転する。保持器27が回転すると、各保持溝27cの回転方向前方側を向く一方の制御面27dにより対応する一方(図中左側)のローラ28が回転方向に押されるとともに制御面27dの傾斜により外側ロック面25aから離れる方向に移動し、ローラ28は保持器27とともに回転する。ローラ28が保持器27とともに回転すると、その回転は保持スプリング31を介して内輪26に伝達され、保持器27とともに内輪26が回転する。このとき、保持スプリング31は所定の範囲内で弾性変形している。保持器27とともに内輪26が回転すると、内輪26の回転が中間軸23を介してプラネタリギヤ機構22に伝達され、当該回転はプラネタリギヤ機構22により減速されて出力軸14つまり出力ギヤ15から出力される。同様に、モータ本体12が図5(a)に示す場合とは逆方向に回転したときには、図5(b)に示すように、保持器27は逆方向つまり図中反時計回り方向に回転し、他方(図中右側)のローラ28と保持スプリング31とを介して内輪26も保持器27とともに逆回転する。そして、その回転が中間軸23を介してプラネタリギヤ機構22に伝達され、当該プラネタリギヤ機構22により減速されて出力軸14つまり出力ギヤ15から出力される。
【0042】
つまり、このシートモータ11では、モータ本体12が作動して、ウォームギヤ機構21の側から回転が入力されたときには、逆入力遮断クラッチ24はその回転をプラネタリギヤ機構22に伝達するようになっている。
【0043】
一方、モータ本体12が停止した状態のもとで、シートに加わる乗員の体重等による逆入力が出力ギヤ15を介して出力軸14に加えられ、当該出力軸14とともにプラネタリギヤ機構22つまりサンギヤ22aが回転すると、図6(a)に示すように、その回転が中間軸23を介して伝達されて内輪26が図中反時計回り方向に回転する。このとき、モータ本体12は停止しているので、保持器27も停止している。保持器27が停止した状態のもとで内輪26が回転すると、装着溝26bに対して回転方向後方側にある一方(図中右側)のローラ28が内側ロック面26cと外側ロック面25aとの間に楔状に挟み込まれ、内輪26がローラ28を介して外輪25にロックされる。これにより、内輪26の回転がローラ28を介して外輪25により阻止され、その回転は保持器27つまりウォームホイル21b(ウォームギヤ機構21)に伝達されることがない。同様に、出力軸14からの入力が図6(a)に示す場合とは逆方向のときには、図6(b)に示すように、装着溝26bに対して回転方向後方側にある他方(図中左側)のローラ28が内側ロック面26cと外側ロック面25aとの間に楔状に挟み込まれ、内輪26がローラ28を介して外輪25にロックされる。
【0044】
つまり、シートに加わる乗員の体重等による逆入力によりプラネタリギヤ機構22が回転したときつまりプラネタリギヤ機構22の側から回転が入力されたときには、逆入力遮断クラッチ24はその回転を遮断してウォームホイル21bつまりウォームギヤ機構21に伝達しないようになっている。したがって、出力軸14の側から逆入力が加えられても、ウォームホイル21bが回転することがなく、逆入力が過大になって当該ウォームホイル21bのギヤ部21cがウォーム21aに強く噛み合って破損することを防止することができる。
【0045】
このように、このシートモータ11では、逆入力遮断クラッチ24をウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22との間の動力伝達経路に設けるようにしたので、出力軸14の側からの逆入力を逆入力遮断クラッチ24によりウォームギヤ機構21の手前で遮断して、ウォームギヤ機構21の回転を防止することができる。これにより、出力軸14の側からの大きな逆入力によりウォームホイル21bがウォーム21aに強く噛み合って破損することを防止して、このシートモータ11の耐久性を高めることができる。
【0046】
また、このシートモータ11では、逆入力遮断クラッチ24をウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22との間の動力伝達経路に設けるようにしたので、出力軸14の側からの逆入力はプラネタリギヤ機構22により増速されてから逆入力遮断クラッチ24に入力されることになる。したがって、逆入力遮断クラッチ24に入力される荷重はプラネタリギヤ機構22による増速の分だけ小さくなる。これにより、逆入力遮断クラッチ24のロック力つまりロックに必要な容量を小さくして、このシートモータ11を小型化することができる。
【0047】
図7はウォームギヤ機構に対するプラネタリギヤ機構と逆入力遮断クラッチの配置を示す説明図である。
【0048】
このシートモータ11では、その薄型化のために、モータ本体12のヨーク12aは断面略小判形状に形成されている。また、ウォーム21aはアーマチュア軸12bと一体に形成され、ウォームホイル21bの軸方向はヨーク12aの厚みが薄い方向に一致させられている。これにより、図7に示すように、ウォームギヤ機構21はモータ本体12(ヨーク12a)の薄手方向の中間位置に配置されている。
【0049】
そして、このシートモータ11では、プラネタリギヤ機構22を、ウォームギヤ機構21つまりウォームホイル21bに対して軸方向の一方側である出力ギヤ15の側に隣接して配置し、逆入力遮断クラッチ24を、ウォームギヤ機構21つまりウォームホイル21bに対して軸方向の他方側つまりプラネタリギヤ機構22とは反対側に隣接して配置するようにしている。
【0050】
これにより、プラネタリギヤ機構22と逆入力遮断クラッチ24は、それぞれウォームギヤ機構21の軸方向の一方側と他方側とに生じるヨーク12aの厚み内のデッドスペースに配置されることになり、これらプラネタリギヤ機構22と逆入力遮断クラッチ24の配置スペース、つまりシートモータ11の厚み寸法をヨーク12aの厚み寸法内に収めることができる。
【0051】
このように、このシートモータ11では、ウォームギヤ機構21に対して、その軸方向の一方側にプラネタリギヤ機構22を配置し、他方側に逆入力遮断クラッチ24を配置するようにしたので、ウォームギヤ機構21とプラネタリギヤ機構22とに加えて逆入力遮断クラッチ24を備えるシートモータ11を小型化・薄型化することができる。
【0052】
また、このシートモータ11は、小型化されることにより、シートの内部等の狭いスペースへの配置が可能となり、そのレイアウト性が高められる。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、前記実施の形態においては、本発明をシートモータに適用した場合を示しているが、これに限らず、他の用途の電動モータに適用するようにしてもよい。
【0054】
また、逆入力遮断クラッチとしては、前記実施の形態おいて示した構造のものに限らず、ウォームギヤ機構の回転をプラネタリギヤ機構に伝達するがプラネタリギヤ機構の回転はウォームギヤ機構に伝達しない機能を有するものであれば、他の構造のものであってもよい。
【0055】
さらに、前記実施の形態においては、プラネタリギヤ機構はいわゆるシングルピニオン式となっているが、これに限らず、いわゆるダブルピニオン式のプラネタリギヤ機構を用いるようにしてもよい。
【0056】
さらに、本発明によれば、逆入力遮断クラッチをウォームギヤ機構と前記プラネタリギヤ機構との間の動力伝達経路に設けるようにしているが、これに限らず、逆入力遮断クラッチをアーマチュア軸と出力軸との間の動力伝達経路のいずれかの部分に設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施の形態であるシートモータを示す斜視図である。
【図2】図1に示すA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2に示す逆入力遮断クラッチの正面図である。
【図4】図3に示す逆入力遮断クラッチの要部を拡大して示す拡大正面図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれモータ本体が作動したときの逆入力遮断クラッチの作動状態を示す説明図である。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ出力軸から逆入力が加えられたときの逆入力遮断クラッチの作動状態を示す説明図である。
【図7】ウォームギヤ機構に対するプラネタリギヤ機構と逆入力遮断クラッチの配置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
11 シートモータ(電動モータ)
12 モータ本体
12a ヨーク
12b アーマチュア軸
13 減速機
13a ギヤケース
13b 収容部
13c カバー
13d 締結部材
14 出力軸
15 出力ギヤ
16a ボルト
16b ナット
21 ウォームギヤ機構
21a ウォーム
21b ウォームホイル
21c ギヤ部
21d 係合凹部
22 プラネタリギヤ機構
22a サンギヤ
22b インターナルギヤ
22c プラネタリギヤ
22d キャリア
22e ピン部材
23 中間軸
24 逆入力遮断クラッチ
25 外輪
25a 外側ロック面
25b フランジ部
26 内輪
26a ボス部
26b 装着溝
26c 内側ロック面
27 保持器
27a 円板部
27b 係合凸部
27c 保持溝
27d 制御面
28 ローラ
31 保持スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームを有するアーマチュア軸を備えたモータ本体と、
前記ウォームと噛合し、前記アーマチュア軸の回転を減速して出力するウォームホイルと、
前記モータ本体と連結され、前記ウォームホイルを収容する収容部が形成されたギヤケースと、
前記ウォームホイルに対して前記ウォームホイルの回転軸の軸方向の一方側に配置され、前記ウォームホイルの回転を減速して出力軸から出力するプラネタリギヤ機構と、
前記ウォームホイルに対して前記ウォームホイルの回転軸の軸方向の他方側に配置され、前記アーマチュア軸の回転を前記出力軸に伝達し、前記出力軸の回転は前記アーマチュア軸に伝達しない逆入力遮断クラッチとを備えることを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
請求項1記載の電動モータにおいて、前記ウォームギヤ機構と前記プラネタリギヤ機構との間の動力伝達経路に前記逆入力遮断クラッチを設けることを特徴とする電動モータ。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動モータにおいて、
前記逆入力遮断クラッチは、
前記ギヤケースに固定される外輪と、
前記プラネタリギヤ機構と一体回転可能に配置され、周方向に複数の装着溝が形成された内輪と、
前記ウォームホイルと一体回転可能に配置され、前記内輪および前記外輪と同軸の円環状に形成され、周方向に複数の保持溝が形成された保持器と、
前記外輪と前記内輪の間に配置され、前記保持溝および前記装着溝に配置される保持スプリングと、
前記外輪、前記内輪、前記保持器および前記保持スプリングに周囲を囲まれるローラとを有し、
前記保持器は、前記保持溝側端部に前記ローラを内周側へ案内するための制御面を有し、
前記内輪は、前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との間隔が前記装着溝に近づくにつれ徐々に広くなるように形成された内側ロック面を有することを特徴とする電動モータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動モータにおいて、車両のシートを上下方向に駆動するシートモータとして用いられることを特徴とする電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−96313(P2010−96313A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269031(P2008−269031)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】