説明

電動制動装置

【課題】正常作動時のペダルシミュレート機能を有しつつブレーキ液圧を運転者の操作入力にかかわらず自動制御でき、かつ回生協調制御し得ると共に、構造を簡素化する。
【解決手段】マスターシリンダ5に、ストロークに応じて反力付与されたブレーキペダル1の空走後に変位し得る第1ピストン6と第1ピストンに向けてばね付勢される第2ピストンを設け、ブレーキペダルの変位検出値に応じてスレーブシリンダ15を電動モータ17で駆動してブレーキ液圧を発生し、マスターシリンダの両ピストン間の第1液室13を介し、また第2ピストンにより第2液室の液圧を増大して各ホイールシリンダにブレーキ液圧を供給する。適切な反力を設定でき、システム異常時には、ブレーキペダルにより両ピストンを機械的に変位させて、ブレーキ液圧を発生させることができ、従来のシミュレータ遮断弁を用いた構成のように電気的な制御を必要とせず、構成を簡素化し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の制動操作にかかわらず制動力を制御し得る電動制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の制動操作を電気信号に変換して、電動モータにより駆動されるスレーブシリンダを作動させ、スレーブシリンダが発生するブレーキ液圧で各輪のホイールシリンダを作動させるようにした電動制動装置(ブレーキ・バイ・ワイヤ式ブレーキ装置)がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−137377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電動制動装置によれば、スレーブシリンダを電動モータにより駆動して自動制御することから、VSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)・ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)・回生協調制御(ハイブリッド車の回生ブレーキ協調制御)が可能である。上記特許文献1では、運転者が操作するマスターシリンダと、マスターシリンダの液室と連通してブレーキペダルのストロークに応じてブレーキペダルに反力を発生させるペダルシミュレータと、マスターシリンダにマスターシリンダ遮断バルブを介して接続されたスレーブシリンダと、スレーブシリンダと各ホイールシリンダとの間に設けられたVSA制御ユニットとにより構成したものが開示されている。
【0005】
その制御では、正常作動時には、運転者の操作入力(ブレーキペダル踏み込み量)に依存せずにブレーキ圧力源(スレーブシリンダ)の発生圧力を任意の圧力に制御することで、通常制動と回生制動とを可能にすると共にABSとVSAとの制御も可能とし、異常作動時には、ペダルシミュレータへの連通を遮断して、マスターシリンダにより通常制動を行うこと(液圧バックアップ)ができるようにしている。
【0006】
上記電動制動装置においては、マスターシリンダの液圧昇圧とは別個にブレーキ液圧を昇圧させるスレーブシリンダを設けて、運転者のペダル踏み込み動作(マスターシリンダのピストン変位)に対するペダル反力を発生させるためのペダルシミュレータを設けている。そのペダルシミュレータは、マスターシリンダからのブレーキ液が導入可能にされ、その導入量の増減に応じて反力を増減させる。したがって、回生協調制御を行う場合には、運転者のペダル踏み込み動作で発生するマスターシリンダの液圧を封止してホイールシリンダへ液圧を伝達させないようにするマスターシリンダ遮断弁が必要である。また、マスターシリンダにより液圧を発生させる場合、スレーブシリンダにより液圧を発生させる場合のいずれにおいても、複数系統のうち1つの系統に液圧失陥が発生した状況において他の系統の液圧を確保するため、モータ駆動のスレーブシリンダをタンデム型にする必要がある。さらに、システムの停止時や異常時の液圧バックアップを可能にするためにマスターシリンダとペダルシミュレータとの間を遮断するシミュレータ遮断弁が必要である。このように、電動制動装置に求められる各機能を達成しつつ構造を簡素化することは困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、正常作動時のペダルシミュレート機能を有しつつブレーキ液圧を運転者の操作入力にかかわらず自動制御でき、かつ回生協調制御が可能であると共に、構造を簡素化し得るために、本発明に於いては、車両の制動時に運転者により操作される制動操作部材(1)と、前記制動操作部材の操作量を検出する操作量センサ(2)と、前記操作量センサにより検出された操作量検出値に応じて電動モータ(17)を駆動してブレーキ液圧を発生する液圧発生手段(15)と、前記液圧発生手段と2系統に分けられた複数のホイールシリンダ(20a・20b・20c・20d)との間に配管されたマスターシリンダ(5)と、前記制動操作部材の前記操作に対して反力を与える反力付与手段(4・8)とを有し、前記マスターシリンダが、非操作状態の前記制動操作部材に対して離間して位置すると共に前記制動操作部材に押されることにより当該離間した位置から一体的に変位する第1ピストン(6)と、前記第1ピストンの前記制動操作部材側とは相反する側に直列かつ変位可能に設けられると共に前記第1ピストンに当接する向きにばね付勢された第2ピストン(7)と、前記第1ピストンと前記第2ピストンとにより区画されかつ前記液圧発生手段のブレーキ液圧が発生するブレーキ液圧発生室(16)と連通する第1液室(13)と、前記第2ピストンの前記第1液室とは相反する側に区画された第2液室(14)とを有し、前記第1液室と前記第2液室とが、前記複数のホイールシリンダの系統別に配管されているものとした。
【0008】
これによれば、運転者による制動操作部材の操作において、制動操作部材と第1ピストンとが離間して設けられていることから、制動操作部材は第1ピストンを押すまでの間に空走区間があり、その空走区間においても、制動操作部材には反力付与手段により反力が与えられるため運転者は制動操作をしていることを認識できると共に、操作量検出値に応じて液圧発生手段によりブレーキ液圧を発生して、ホイールシリンダにブレーキ液圧を伝えることができ、また、ハイブリッド車の回生ブレーキ協調制御において液圧発生手段によりブレーキ液圧を発生せずに回生ブレーキをかけることができる。この場合、第1ピストンを押すことなくブレーキ制御を行うことから、制動操作部材の反力を弱く設定しても何等問題が無く、適切な反力設定を行うことができる。さらに、液圧発生手段が何等かの原因により作動しなくなった場合には、制動操作部材の操作力を機械的に第1ピストンを介して第2ピストンに伝達させて、制動操作部材の操作により第2ピストンを変位させて、第2液室にブレーキ液圧を発生させることができ、それにより液圧発生手段が作動しなくても、ブレーキ液圧を発生させることができ、従来のシミュレータ遮断弁を用いた構成のように電気的な制御を必要とせず、油圧回路の部品点数を減少して構成を簡素化し得る。
【0009】
特に、前記反力付与手段が、前記制動操作部材が前記第1ピストンを押すまでは弱い力で弾性変形する第1反力付与手段(4)と、前記制動操作部材が前記第1ピストンに当接しかつ前記一体的に変位し始めるまでは前記第1反力付与手段よりも強い力で弾性変形する第2反力付与手段(8)とを有すると良い。これによれば、例えば第1反力発生手段として小さなばね定数のばねを用い、第2反力発生手段として大きなばね定数のばねを用いることにより、従来のようなペダルシミュレータのような装置を用いることなく、簡単な構成で制動操作部材に対する反力を与えることができる。この場合、制動操作部材の操作量検出値に応じて液圧発生手段で発生するブレーキ液圧が第1液室に供給されると、そのブレーキ圧により第1ピストンが制動操作部材側に付勢されるため、第1ピストンは制動操作部材からの押圧力に抗することができ、第2反力付与手段が弾性変形し得る。
【0010】
また、前記第1ピストンを前記離間した位置となる基準位置から前記制動操作部材側への変位を規制する規制手段(5a)が設けられていると良い。規制手段として、例えばマスターシリンダの端壁にすることができ、そのような簡単な構造で、基準位置が第1ピストンが制動操作部材により押されて変位を開始する位置を規制することができ、かつ制動操作部材が変位して第1ピストンを押すことになるまでの空走距離を高精度に設定することができるため、制動操作部材の変位の小さな区間である制動力の弱い場合のブレーキ液圧制御を高精度化でき、品質の高い制動制御を行うことができる。
【0011】
また、前記第2ピストンは、前記第1液室に前記液圧発生手段で発生したブレーキ液圧が入り込むことにより前記第1ピストンから離間する向きに変位して、前記第2液室にブレーキ液圧を発生させると良い。これによれば、第1液室にブレーキ液圧が供給された場合には、そのブレーキ液圧で第2ピストンを押すことができ、それにより第2液室にブレーキ液圧を発生させることができるため、第1液室と第2液室とからの2系統で複数のホイールシリンダにブレーキ液圧を供給することができる。したがって、液圧発生手段とマスターシリンダとの間では、液圧発生手段から第1液室に連通する1系統の配管で良く、従来のようにスレーブシリンダをタンデム型にする必要が無く、構成を簡素化し得る。
【0012】
また、前記第1ピストンの前記第1液室に臨む先端部(6b)の外形が小さく形成されていると良い。本発明では、液圧発生手段からのブレーキ液をマスターシリンダの第1液室を通過させてホイールシリンダに供給するが、第1ピストンの先端部に、例えば第1ピストンの外形幅(円筒形の場合には外径)よりも幅狭の半球状やボス状の突部を形成することにより、先端部まで同じ外形の場合よりも先端部側の流路を広くすることができ、第2ピストンの後方から前方に向けて第2ピストンを押す液圧の作用面積を拡大でき、これにより、ホイールシリンダのブレーキ液圧発生の立ち上がりの遅れを防止し得る。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、従来のシミュレータ遮断弁を用いた構成のように電気的な制御を必要とせず、油圧回路の部品点数を減少し得ることから、電動制動装置の構成を簡素化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された自動車の電動制動装置を模式的に示す油圧回路図である。
【図2】通常時の動作を示す図1に対応する図である。
【図3】回生制御における動作を示す図1に対応する図である。
【図4】システム異常状態における動作を示す図1に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明が適用されたハイブリッド型自動車の電動制動装置を模式的に示す油圧回路図である。本実施形態の制動システムは、制動操作部材としてのブレーキペダル1の操作を機械的にブレーキ液圧発生シリンダに伝達してブレーキ液圧を発生させるのではなく、ブレーキペダル1の操作量(ペダル変位量)を操作量センサとしてのストロークセンサ2により検出し、その操作量検出値に基づいて電動サーボモータを制御してブレーキ液圧発生シリンダを駆動することによりブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤにより構成されている。
【0016】
図1に示されるように、車体に回動自在に支持されたブレーキペダル1にはその円弧運動を略直線運動に変換するロッド3の一端が連結されており、ロッド3の他端には直列的に連続するように第1反力付与手段としての圧縮コイルばね4と、マスターシリンダ5とが同軸的に配設されている。なお、圧縮コイルばね4が、ロッド3の他端に形成されたフランジとマスターシリンダ5の対向する外端面との間に所定の初期荷重で圧縮された状態で介装されており、これによりブレーキペダル1は、ばね付勢され、図示されないストッパにより止められて図1の状態である待機位置に位置している。
【0017】
マスターシリンダ5の筒内には、ブレーキペダル1側から円柱状の第1ピストン6と有底円筒状の第2ピストン7とが同軸的かつ軸線方向変位可能に設けられている。第1ピストン6には、マスターシリンダ5の外方に突出しかつ圧縮コイルばね4内に受容される外向きロッド6aが同軸かつ一体的に設けられており、外向きロッド6aの突出端には、第2反力付与手段としての例えばゴム製の弾性体8が設けられている。なお、図1のシステム停止状態では、弾性体8のブレーキペダル1に対向する先端とロッド3との間には隙間があけられている。その隙間はブレーキペダル1の踏み込み開始からの空走距離L1として設定されており、ブレーキペダル1を空走距離L1以下の変位だけ踏み込んだ場合には、第1ピストン6にブレーキペダル1からの外力が伝達されない。
【0018】
第2ピストン7の有底円筒状の底となる端面が第1ピストン6に対向し、有底円筒の開口側はマスターシリンダ5のブレーキペダル1とは相反する側の端壁に対向し、その端壁と筒内の底面との間に圧縮コイルばねからなる戻しばね9が介装されている。これにより、図1の状態では、第2ピストン7は第1ピストン6に当接するまでばね付勢されている。なお、第1ピストン6の先端部(第2ピストン7と当接する側)には、第1ピストン6の本体となる外径よりも小径の半球状突部6bが形成されており、その半球状突部6bの突出端が第2ピストン7と当接する。
【0019】
また、マスターシリンダ5には、第1ピストン6と第2ピストン7とのそれぞれに対応して、リザーバタンク11と連通する各油路12a・12bが接続されている。各油路12a・12bと各ピストン6・7との間にははそれぞれ公知構造のシール部材が設けられている。そしてマスターシリンダ5の筒内には、第1ピストン6と第2ピストン7とそれぞれ対応する上記各シール部材とにより区画された空間が第1液室13として設けられ、第2ピストン12の第1液室13とは相反する側に、第2ピストン12とそれに対応する上記シール部材とにより区画された空間が第2液室14として設けられている。
【0020】
第1液室13は、液圧発生手段としてのスレーブシリンダ15のブレーキ液圧発生室16と油路21を介して連通している。スレーブシリンダ15は電動サーボモータ17により駆動され、電動サーボモータ17は液圧制御ユニット18により制御されるようになっている。
【0021】
液圧制御ユニット18には、上記したストロークセンサ2の検出信号が入力し、また車両の挙動を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号も入力している。液圧制御ユニット17では、ストロークセンサ2からの検出信号に基づくと共に各種センサからの検出信号から判断した走行状況に応じて、スレーブシリンダ15により発生するブレーキ液圧を制御する。本実施形態の対象車両となるハイブリッド車の場合には、電動モータによる回生制御を行うようにしており、液圧制御ユニット18では、回生制御を行う場合の回生の大きさに対するスレーブシリンダ15によるブレーキ液圧の大きさの配分制御も行う。
【0022】
スレーブシリンダ15には、電動サーボモータ17にギア結合されたボールネジ機構の軸線方向変位ロッド15aと、軸線方向変位ロッド15aと同軸かつ直列的に設けられたピストン15bと、ピストン15bにより区画された上記ブレーキ液圧発生室16と、ブレーキ液圧発生室16に受容されてピストン15bを軸線方向変位ロッド15aに押し当てる向きに付勢する戻しばね15cとが設けられている。なお、スレーブシリンダ15も油路12cを介してリザーバタンク11と連通している。
【0023】
また、マスターシリンダ5の第1液室13と第2液室14とは、それぞれ本実施形態における例えばABS装置19を介して複数(図示例では4つ)の各ホイールシリンダ20a・20b・20c・20dに連通するように配管されている。なお、ABS装置19は、公知のものであって良く、前輪の各ホイールシリンダ20a・20bに対応する第1系統と、後輪の各ホイールシリンダ20c・20dに対応する第2系統とをそれぞれ制御する各ブレーキアクチュエータが各種油圧素子を用いて構成されている。
【0024】
このようにして構成された電動制動装置の動作について以下に説明する。図1は、上記したようにシステム停止状態であり、運転者が車両を止めるためにブレーキペダル1を操作していない状態である。ストロークセンサ2の検出値は初期値(=0)であり、液圧制御ユニット18からブレーキ液圧発生信号は出力されない。この状態では、図1に示されるように、スレーブシリンダ15では、軸線方向変位ロッド15aが最も後退した位置にあり、それに伴って戻しばね15cにより付勢されているピストン15bも後退しており、ブレーキ液圧発生室16にブレーキ液圧は発生していない。
【0025】
また、マスターシリンダ5では、第1ピストン6は、戻しばね9により付勢されている第2ピストン7により押し戻されてマスターシリンダ5のブレーキペダル1側の端壁5aに当接し、その位置を基準位置として固定状態になっている。このようにして、制動操作部材側への変位を規制する規制手段として端壁5aが機能しており、別個にストッパ等を設けることなく、簡素な構成で規制手段を構成することができる。
【0026】
次に、ブレーキペダル1を少しだけ操作した小ストローク(≦L1)時の動作について、図2を参照して説明する。なお、図2は、ブレーキペダル1が踏み込まれて、ロッド3が弾性体8に接する直前の状態である。この小ストローク時では、ストロークセンサ2で検出された操作量検出値に基づいて、液圧制御ユニット18からブレーキ液圧発生信号が電動サーボモータ17に出力され、電動サーボモータ17により駆動された軸線方向変位ロッド15aによりピストン15bが押し出されるため、ブレーキ液圧発生室16にピストン15bの変位量に応じた所定のブレーキ液圧が発生する。そのブレーキ液圧は図のP1の矢印に示されるようにマスターシリンダ5の第1液室13に供給され、後輪の各ホイールシリンダ20c・20dに供給されると共に、第1液室13の液圧が増大することにより、第2ピストン7が押し出されて、第2液室14の液圧が増大し、その液圧がブレーキ液圧として前輪の各ホイールシリンダ20a・20bに供給される。このようにして、制動力が発生し、通常の小ストローク時の制動制御が行われる。
【0027】
このような小ストローク時には、ブレーキペダル1には圧縮コイルばね4の圧縮変形量の増大に伴って反力が作用し、運転者は、それによりブレーキペダル1がマスターシリンダ5に機械的に連結されている場合の反力を感じることができる。
【0028】
さらに、ブレーキペダル1の踏み込み量を増大していった場合には、第1液室13の液圧により押さえ込まれて第1ピストン6が基準位置に固定状態であることから、ロッド3の変位量増大により弾性体8が圧縮変形していく(図2のL2)。この時のブレーキペダル1の大ストロークをストロークセンサ2により検出し、その操作量検出値に応じてピストン15bを図2よりさらに押し出してブレーキ液圧発生室16のブレーキ液圧を増大し、より大きなブレーキ液圧を各ホイールシリンダ20a〜20dに供給する。
【0029】
このような大ストローク時には、ブレーキペダル1には圧縮コイルばね4の圧縮変形量に弾性体8の圧縮変形が加わってより大きな反力が作用し、運転者は、それによりブレーキペダル1により大きな反力を感じることができる。
【0030】
上記したような通常動作時には、ブレーキペダル1に対する反力を、圧縮コイルばね4と弾性体8との圧縮変形により生じさせることから、それぞれのばね定数を自由に設定でき、従来車のブレーキペダル操作に対して違和感の無い反力を付与することができる。
【0031】
また、図3を参照して回生制動を行う場合について以下に説明する。回生制動はブレーキ液圧による場合に対して弱い制動力で制動制御する場合であり、上記した小ストロークの範囲で行う。なお、液圧制御ユニット17により、回生制動と液圧による制動とによる制動力を配分制御しても良く、その場合には、ストロークセンサ2からの操作量検出値に配分に応じた係数をかける等してブレーキ液圧の大きさを低減する。
【0032】
液圧制御ユニット18で、ストロークセンサ2からの操作量検出値が小ストローク(≦L1)の範囲であり、他の各種センサからの情報により回生制動を行うと判断した場合には、電動サーボモータ17に対してブレーキ液圧発生信号は出力されず、それによりスレーブシリンダ15の状態は図1のシステム停止状態と同じである。したがって、各ホイールシリンダ20a〜20dにはブレーキ液圧は供給されない。そして、図示されないモータ制御装置により回生制動制御を行う。
【0033】
次に、何等かの原因によりシステムに異常が生じた場合について、図4を参照して以下に説明する。異常時には液圧制御ユニット18から電動サーボモータ17に対してブレーキ液圧発生信号は出力されない。その場合に、小ストロークを越えて(>L1)ブレーキペダル1が踏み込まれた場合には、第1液室13にブレーキ液圧が供給されていないことから、第1ピストン6は、液圧の抵抗力を受けること無く第2ピストン7を押す方向に変位し得る。
【0034】
これにより、ブレーキペダル1と第2ピストン7とが、ロッド3・弾性体8・外向きロッド6a・第1ピストン6を介して機械的に結合状態になって、一体的に変位し、ブレーキペダル1の踏み込み量に応じて第2液室14の液圧が増大し、その液圧が前輪の各ホイールシリンダ20a・20bに供給される。したがって、異常によりスレーブシリンダ15でブレーキ液圧が発生しない場合であっても、少なくとも前輪に制動力を発生させることができ、システム異常時の対応が可能である。
【0035】
このように構成することにより、従来のように状態に応じて油路を開閉するためのバルブやタンデム型のスレーブシリンダを必要とせず、すなわち簡素な構成で、ブレーキペダル1に対する好適な反力の発生や、2系統のブレーキ液圧供給の実現や、異常時の機械的そうさによる制動制御が可能となり、電動制動装置の低コスト化を実現し得る。なお、図示例ではABS装置19としたが、VSA装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 ブレーキペダル(制動操作部材)
2 ストロークセンサ(操作量センサ)
4 圧縮コイルばね(反力付与手段)
5 マスターシリンダ
5a 端壁(規制手段)
6 第1ピストン
6b 半球状突部(先端部)
7 第2ピストン
8 弾性体(反力付与手段)
13 第1液室
14 第2液室
15 スレーブシリンダ(液圧発生手段)
16 ブレーキ液圧発生室
17 電動モータ
20a・20b・20c・20d ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動時に運転者により操作される制動操作部材と、
前記制動操作部材の操作量を検出する操作量センサと、
前記操作量センサにより検出された操作量検出値に応じて電動モータを駆動してブレーキ液圧を発生する液圧発生手段と、
前記液圧発生手段と2系統に分けられた複数のホイールシリンダとの間に配管されたマスターシリンダと、
前記制動操作部材の前記操作に対して反力を与える反力付与手段とを有し、
前記マスターシリンダが、非操作状態の前記制動操作部材に対して離間して位置すると共に前記制動操作部材に押されることにより当該離間した位置から一体的に変位する第1ピストンと、前記第1ピストンの前記制動操作部材側とは相反する側に直列かつ変位可能に設けられると共に前記第1ピストンに当接する向きにばね付勢された第2ピストンと、前記第1ピストンと前記第2ピストンとにより区画されかつ前記液圧発生手段のブレーキ液圧が発生するブレーキ液圧発生室と連通する第1液室と、前記第2ピストンの前記第1液室とは相反する側に区画された第2液室とを有し、
前記第1液室と前記第2液室とが、前記複数のホイールシリンダの系統別に配管されていることを特徴とする電動制動装置。
【請求項2】
前記反力付与手段が、前記制動操作部材が前記第1ピストンを押すまでは弱い力で弾性変形する第1反力付与手段と、前記制動操作部材が前記第1ピストンに当接しかつ前記一体的に変位し始めるまでは前記第1反力付与手段よりも強い力で弾性変形する第2反力付与手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項3】
前記第1ピストンを前記離間した位置となる基準位置から前記制動操作部材側への変位を規制する規制手段が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動制動装置。
【請求項4】
前記第1ピストンの前記第1液室に臨む先端部の外形が小さく形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電動制動装置。
【請求項5】
前記第2ピストンは、前記第1液室に前記液圧発生手段で発生したブレーキ液圧が入り込むことにより前記第1ピストンから離間する向きに変位して、前記第2液室にブレーキ液圧を発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電動制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35735(P2012−35735A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177280(P2010−177280)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】