説明

電動圧縮機

【課題】保護すべき部品の能力に応じて当該部品を熱損傷から保護することのできる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機構11と、圧縮機構11を駆動する電動モータ12と、電動モータ12の駆動を制御する制御部13とが単一の筐体に組み込まれた電動圧縮機10であり、さらに制御部13及び電動モータ12の一方又は双方を構成する一又は複数の部品の温度を検出する温度検出器14と、部品に流れる電流を検出する電流検出器15とを備え、温度検出器14が検出した温度を温度Tdとし、温度Tdを温度検出器14が検出したときに電流検出器15が検出した電流を電流Idとし、部品固有の電流に関する温度特性における、温度Tdに対応する電流を電流Ia(Td)とすると、制御部13は、Ia(Td)とIdを比較した結果に基づいて電動モータ12の駆動を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機構を駆動する電動モータ、電動モータを制御する制御装置が圧縮機構と一体となった電動圧縮機に関するもので、さらに詳しくは、前記制御装置に設けられたスイッチング素子等の高電圧部品の熱損傷を防止することのできる電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載しない電気自動車や燃料電池車等における車載空気調和装置は、冷媒を圧縮循環させる動力源として、電動モータを内蔵した圧縮機を有する。この電動モータは、空気調和装置の主制御装置からの命令に応じて所望の回転数で回転させる必要があるから、制御装置が別途必要である。この制御装置は、電気回路や電子回路で構成される。具体的には、中央演算装置やメモリ等といった電子素子をはじめ、いわゆるインバータ回路(スイッチング回路)を構成するためのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やFET(Field Effect Transistor)等のスイッチング素子(パワートランジスタ素子)を備えている。そして、省スペース化の要請から、この制御装置を圧縮機構、電動モータとともに一つの筐体内に組み込まれた電動圧縮機が存在する。以下、この電動圧縮機を、一体型電動圧縮機ということがある。
【0003】
スイッチング素子は、電動モータに大きな電力を供給し、かつ電動モータの回転数を制御する機能を有する。ところが、当該制御装置による制御は、電動モータの回転数を主制御装置からの指令に基づいて電動モータを所望の回転数に制御するものであり、この制御の過程で消費電力が大きくなり過ぎ、時として一体型電動圧縮機の制御装置に実装された高電圧部品(以下、単に部品)に損傷を与える程の過電流が流れる。そうすると、スイッチング素子、その他の部品の温度が上がり損傷(熱損傷)する。極端な場合には、これら電子部品の破裂、出火を招くことも想定される。この熱損傷は、電動モータを構成する部品についても起こり得る。
【0004】
一体型電動圧縮機の制御装置を熱損傷から保護する提案が特許文献1、特許文献2に開示されている。
特許文献1は、冷媒を吸入圧縮する圧縮機構、圧縮機構を駆動する電動モータ、及び電動モータの回転数を制御する電気回路が一体となった電動圧縮機において、電気回路の温度が所定温度を超えたとき、さらには圧縮機構の実回転数が所定回転数以下のときに、圧縮機構の回転数を上げる保護制御手段を備えることを提案している。
この提案は、以下の知見に基づいている。すなわち、圧縮機構の回転数が比較的に小さい場合には、冷媒による冷却効果が電気回路及び電動モータの発熱量を下回るため、回転数が上がるほど冷媒による冷却効果が大きくなるものの、圧縮機構の回転数が比較的に大きい場合には、逆に、電気回路及び電動モータの発熱量が冷媒による冷却効果を上回るため、圧縮機構の回転数が上がるほど電気回路及び電動モータの温度が上がる。そこで特許文献1は、電気回路の温度が所定温度を超えたときに、圧縮機構の回転数を上げることにより電動モータ及び電気回路の温度を下げることとしている。
【0005】
特許文献2は、電動圧縮機の回転数が上がると、圧縮対象である冷媒が多く循環することになり、この冷媒によるスイッチング素子への冷却効果が上がる効果と相まって、電動圧縮機の電動モータは、ある回転数領域では、他の領域に比べて電流余裕代が大きくなる、との知見に基づいている(特許文献2 段落[0025])。つまり、特許文献2は、空気調和装置の主制御装置からの電動モータ回転数指令にかかわらず、一体型電動圧縮機の制御装置を構成するスイッチング素子の保護が必要となる状態を表すインバータ出力電流又はスイッチング素子温度に関する一定条件Aを満たす場合に、予め定めた上限回転数と下限回転数との間の回転数内で電動モータの回転数を維持する回転数制限制御部を備える電動圧縮機の制御装置を提案している。
特許文献2は、例えば、1秒中のインバータ出力電流絶対値の最大値が、予めわかっているスイッチング素子の定格電流×0.9よりも大きくなったとき、電動圧縮機の実運転回転数が、所定の回転数N1よりも小さいかどうかを判断する。回転数N1よりも小さい場合は、電流余裕代が小さいので、敢えて回転数を所定回転数N3だけ上げる。N1よりも大きく、かつN2よりも大きいときは、これも電流余裕代が小さくなることから、回転数を所定回転数N4だけ下げる。その後に、まだ回転数制御運転を続行する必要があるかを判定する。
【0006】
【特許文献1】特開2004−68807号公報
【特許文献2】特開2007−92636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、実際には、電気回路の温度Tiが温度領域A,E,D(特許文献1 図4(a))の3つの領域の中でいずれの温度領域に属するかが判定され、各温度領域に応じて圧縮機構(電動モータ)の制御内容が決定される。したがって、例えば、電気回路の温度特性からいって、温度Tiでは必要がない場合であっても電動モータを停止させる等の保護制御をする可能性を含んでいる。つまり、熱損傷から保護すべき部品の能力に応じた保護制御を行うことができない。保護制御は、乗員の空調感を損なうことがあるので、最小限に抑えられるべきである。
引用文献2は、スイッチング素子の定格電流×0.9という基準を用いているが、やはり温度に関する配慮がなされていない。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、保護すべき部品の能力に応じて当該部品を熱損傷から保護することのできる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図3は、部品における、電流(図3(a))、電力(図3(b))の温度特性を示している。図3に示すように、部品は、一般的には室温以下では最大絶対定格電流、最大絶対定格電力まで使用可能であるが、温度が高くなるにつれて使用可能な電流、電力が下がる。部品には高電流、高電圧が通電されているが、図3に示されるように、温度毎に特定される電流(許容電流)、電力(許容電力)を超えて使用すると、温度が上がり熱損傷を招く。
そこでなされた本発明の電動圧縮機は、冷媒を吸入し、かつ圧縮して吐出する圧縮機構と、圧縮機構を駆動する電動モータと、圧縮機構及び電動モータを収容する筐体と、筐体に収容される、電動モータの駆動を制御する制御部と、制御部及び電動モータの一方又は双方を構成する一又は複数の部品の温度を検出する温度検出器と、部品に流れる電流を検出する電流検出器と、を備えた電動圧縮機であって、以下のようにして熱損傷から部品を保護する。すなわち、温度検出器が検出した温度を温度Tdとし、温度Tdを温度検出器が検出したときに電流検出器が検出した電流を電流Idとし、部品固有の電流に関する温度特性における、温度Tdに対応する電流を電流Ia(Td)とすると、制御部は、Ia(Td)とIdを比較した結果に基づいて電動モータの駆動を停止させることを特徴とする。
本発明の電動圧縮機は、部品の温度特性と、検出された温度Td、電流Idとを比較して、電動モータの駆動を停止させるので、部品の能力に応じて当該部品を熱損傷から保護することができる。
【0009】
本発明の電動圧縮機において、部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、温度Tdに対応する電流を電流Ib(Td)とすると、制御部は、Ia(Td)≦Idの場合には、電動モータの駆動を停止するように制御する。部品に熱損傷が生ずる可能性が大きいことから、電動モータを停止して、部品の温度を降下させる。
また、Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合には、制御部は、電動モータの負荷を低減するように制御する。電動モータの負荷を低減することにより、電動モータの部品は勿論、流れる電流が下がるため、制御部を構成する部品の温度も下がる。かくして、部品は熱損傷から保護される。Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合の制御を保護制御という。
【0010】
保護制御は、電動モータの負荷を低減するのみならず、電動モータの回転数が所定の回転数x以下のときは、電動モータの回転数を上げるように制御することによっても、電動モータの部品、制御部を構成する部品の温度を下げることができる。また、電動モータの回転数が所定の回転数yを超えるときは、電動モータの回転数を下げるように制御することによっても電動モータの部品、制御部を構成する部品の温度を下げることができる。これは、上記知見に基づくものである。
また、保護制御は、熱損傷から保護すべき部品が、制御部に設けられた、電動モータに対するスイッチング素子の場合には、スイッチング素子のオン・オフを制御するキャリア周波数を下げるように制御する。キャリア周波数を下げることにより、スイッチング素子の発熱量を下げることができる。
本発明の電動圧縮機は、部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ic(Td)(ただし、Ic(Td)<Ib(Td))とすると、制御部は、Id≦Ic(Td)となった場合に、保護制御を解除することができる。
【0011】
本発明は、電流検出器に替えて電力検出器を備え、制御部は、温度検出器が検出した温度を温度Tdとし、温度Tdを温度検出器が検出したときに電力検出器が検出した電力を電力Pdとし、部品固有の電力に関する温度特性における、温度Tdに対応する電力を電力Pa(Td)とすると、Pa(Td)とPdを比較した結果に基づいて電動モータの駆動を停止させることもできる。
この電動圧縮機においても、上述した保護制御を実行できるし、保護制御の解除を行うことができる。この場合、Id、Ia(Td)、Ib(Td)及びIc(Td)を、Pd、Pa(Td)、Pb(Td)及びPc(Td)と読み替えたものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、部品の温度特性と、検出された温度Td、電流Id(電力Pd)とを比較して、電動モータの駆動を停止させるので、部品の能力に応じて当該部品を熱損傷から保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態は、車両用蒸気圧縮式冷凍機(車両用空調装置)の電動圧縮機に適用したものであって、図1は本実施形態に係る電動圧縮機10を用いた車両用の蒸気圧縮式冷凍機1の構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、蒸気圧縮式冷凍機1は、冷媒を高温・高圧に圧縮する電動圧縮機10と、高温・高圧冷媒を冷却、凝縮する凝縮器20と、凝縮器20からの冷媒を気液分離する受液器30と、冷却された高圧冷媒を減圧する膨張弁40と、減圧された低圧冷媒を蒸発させて冷凍能力を発揮させる蒸発器50と、を備えている。これらの要素は、管路Pにより直列に接続されている。また、蒸気圧縮式冷凍機1は、電動圧縮機10、凝縮器20等の運転を、空調負荷に基づいて制御する主制御ユニット60を備えている。
【0014】
電動圧縮機10は、冷媒を吸入し、かつ圧縮して吐出する圧縮機構11と、圧縮機構11を駆動する電動モータ12と、電動モータ12の駆動を制御するインバータ回路を含む制御部13により構成される。圧縮機構11としては例えばスクロール式の圧縮機を、電動モータ12としてはDCブラシレス式の電動モータを用いることができ、圧縮機構11と電動モータ12とは、同軸上、かつ、直列に並んで一体化されている。
電動圧縮機10は、圧縮機構11、電動モータ12及び制御部13を収容する筐体(図示せず)を備えている。電動圧縮機10は、蒸発器50から吐出されて電動圧縮機10の筐体に吸引された冷媒が、制御部13を冷却した後、圧縮機構11に吸入圧縮され、その後、電動モータ12を冷却してから凝縮器20に向けて吐出するように構成されている。
【0015】
制御部13は、図2に示すように、第1制御部13a及び第2制御部13bを備えている。第1制御部13aは、主制御ユニット60からの指令に基づいて電動モータ12に供給する所定電流(電圧)を制御する。また、第2制御部13bは保護判定とそれに基づく指令を第1制御部13aに与える。図2には示していないが、制御部13はスイッチング素子、コンデンサ、インダクタ等のインバータ回路を構成する要素を含んでおり、第1制御部13a及び第2制御部13bがスイッチング素子の動作を制御する。なお、この例では、第1制御部13aと第2制御部13bを分けたが、例えば物理的に1つのマイクロコンピュータが以上の2つの制御部の機能を持つこともできる。
電動圧縮機10は、制御部13に実装されているスイッチング素子(例えば、IGBT)の温度Tdを検出する温度検出器14を備えている。また、電動圧縮機10は、スイッチング素子を流れる電流Idを検出する電流検出器15を備えている。温度検出器14で検出された温度Tdは、第2制御部13bに与えられる。また、電流検出器15で検出された電流Idもまた、第2制御部13bに与えられる。第2制御部13bは、温度Td、電流Idに基づいて、スイッチング素子を熱損傷から保護する保護制御を実行する。保護制御は、主制御ユニット60からの指令に拘わらず行われる。ただし、保護制御を実行するために、主制御ユニット60が作動することがある。この制御の内容は、後述する。
【0016】
電動圧縮機10(圧縮機構11)で高温・高圧に圧縮された冷媒は、凝縮器20に導入される。凝縮器20は、外気を凝縮器20に供給する冷却ファン21を備えている。凝縮器20に導入された高温・高圧冷媒は、冷却ファン21で供給された外気により冷却され、凝縮、液化し、受液器30に向かう。冷却ファン21の動作は、通常は空調負荷に応じて主制御ユニット60により制御されるが、後述するように、保護制御時にも動作することがある。
【0017】
受液器30は、凝縮器20から受けた冷媒を気液分離する。分離された液冷媒は、膨張弁40に向かう。受液器30には、車両用蒸気圧縮式冷凍機1で余剰となった液冷媒も蓄えられる。
【0018】
受液器30から受けた高圧液冷媒は、膨張弁40で減圧されて低温2相状態となって蒸発器50に向かう。
蒸発器50は、ブロワ51と、内外気切換えダンパ52とを備えている。主制御ユニット60により駆動制御されるブロワ51は、内外気切換えダンパ52の位置に応じて、外気又は車内循環気(内気)を蒸発器50に与える。蒸発器50に導入された低温2相状態の冷媒は、外気又は内気と熱交換(吸熱)されて再びガス冷媒となって、電動圧縮機10(圧縮機構11)に吸入される。このガス冷媒は、比較的低温であり、前述したように電動圧縮機10の制御部13、電動モータ12を冷却する。
【0019】
次に、制御部13及び主制御ユニット60が行う、保護制御について説明する。保護制御は、制御部13に備えられたスイッチング素子を熱損傷から保護することを目的として行われる。ただし、ここでは熱損傷から保護する部品をスイッチング素子に限定して説明するが、本発明が制御部13に含まれるいずれかの部品、電動モータ12に含まれる部品に適用できることは言うまでもない。
【0020】
図4(a)は、第2制御部13bが保持する、スイッチング素子に関するデータを、温度Tc(℃)を横軸とし、許容電流(A)を縦軸とする座標上に展開したグラフを示している。図4(a)に示すように、第2制御部13bは、3種類のデータを保持する。一つは、スイッチング素子の温度特性データaである。この温度特性データaは、実際に使用されているスイッチング素子固有のものである。温度特性データaの他に、低減温度特性データb及び低減温度特性データcを、第2制御部13bは保持している。なお、図4(b)に示すように、温度特性に関するデータを、温度Tcと許容電力(W)の関係に関するものとすることもできる。
【0021】
同一の温度において、スイッチング素子の温度特性データaの許容電流Ia(Td)、低減温度特性データbの許容電流Ib(Td)、低減温度特性データcの許容電流Ic(Td)は、Ic(Td)<Ib(Td)<Ia(Td)の関係を有している。
また、低減温度特性データbの常温(20℃)以下の許容電流Ib(Td)はスイッチング素子の温度特性データaの許容電流Ia(Td)の例えば90%程度に設定する。また、低減温度特性データcの常温(20℃)以下の許容電流Ic(Td)はスイッチング素子の温度特性データaの許容電流Ia(Td)の例えば85%程度に設定する。スイッチング素子の温度特性データaの許容電流Ia(Td)がゼロとなる温度においては、低減温度特性データbの許容電流Ib(Td)、及び低減温度特性データcの許容電流Ic(Td)は、ともにゼロに設定される。
【0022】
図5は、第2制御部13bによる、保護制御の手順を示すフローチャートである。なお、蒸気圧縮式冷凍機1は、空調負荷に応じて主制御ユニット60の制御により運転されているものとする。この制御を、以下では、通常制御という。
第2制御部13bは、電流検出器15で検出されたスイッチング素子に流れる電流Idに関するデータ、及び温度検出器14で検出されたスイッチング素子の温度Tdに関するデータを取得する(図5 S100)。なお、図5には、電力Pdの記載があるが、電流Idに替えてスイッチング素子に供給される電力Pdを用いることができるし、電流Idとともに電力Pdを用いることができることを意味する。ただし、以下の説明では、電流Idについてのみ言及する。
【0023】
第2制御部13bは、検出された電流Id及び温度Tdに関するデータを取得すると、スイッチング素子の温度特性データa、低減温度特性データb及び低減温度特性データcと比較する(図5 S110)。具体的には、温度特性データaにおける温度Tdに対応する電流Ia(Td)、低減温度特性データbにおける温度Tdに対応する電流Ib(Td)、及び低減温度特性データcにおける温度Tdに対応する電流Ic(Td)と、Idとを比較する。この比較結果は、以下の3つに区分される。
Id≧Ia(Td)
Id<Ib(Td)
Ib(Td)≦Id<Ia(Td)
【0024】
上記比較結果が、Id≧Ia(Td)となったときは、第2制御部13bは、スイッチング素子が熱損傷するものと判断する。したがって、第2制御部13bは、主制御ユニット60の指令に拘わらず、電動モータ12への電流の供給を止めて電動モータ12の運転を停止させる(図5 S150)。その後、制御部13が備える通信系統が、主制御ユニット60へ電動モータ12への電流の供給を止めたことを送信し(図5 S152)、次いで、主制御ユニット60からの指令を待機する(図5 S154)。
このとき、凝縮器20に付随する冷却ファン21、蒸発器50に付随するブロア51の運転は継続することが好ましい。電動モータ12の停止による、空調感の悪化を少しでも食い止めるためである。
上記比較結果が、Id<Ib(Td)となったときは、保護制御を行うことなく、通常制御を継続する(図5 S160)。Id<Ib(Td)となったときは、許容電流までに余裕があり、スイッチング素子が熱損傷するおそれがないと判断するのである。
【0025】
上記比較結果が、Ib(Td)≦Id<Ia(Td)となったときは、第2制御部13bは保護制御を実行する(図5 S120)。Ib(Td)≦Id<Ia(Td)は、図4(a)において、温度特性データaについての曲線と低減温度特性データbについての曲線の間に検出された電流Idが属していることを示している。この場合、スイッチング素子が熱損傷するおそれがあるとして、保護制御を実行するものである。
保護制御は、以下の(I)〜(IV)のいずれか一又は二以上の組み合せから選択される。
(I)電動モータトルクの低減
電動モータ12にかかるトルクを下げることにより、制御部13のスイッチング素子を流れ電動モータ12に供給する電流を下げる。ここで、圧縮機構11における冷媒の吐出圧力/吸入圧力(吐出・吸入圧力比)を下げることにより、電動モータ12に印加されるトルクを下げることができる。吐出・吸入圧力比を下げるためには、以下のようにして吐出圧力を下げるか、又は吸入圧力を上げればよい。
・吐出圧力低減
凝縮器20の能力(放熱量)が向上すれば、圧縮機構11の吐出圧力を低減できる。具体的には冷却ファン21の回転数を上げることにより凝縮器20を通過する風量を増加させて、凝縮器20の能力を向上させる。冷却ファン21の回転数を上げる指示は、第2制御部13bからの指示に基づいて、主制御ユニット60が冷却ファン21に対して行う。
【0026】
・吸入圧力上昇
蒸発器50への空気が外気から導入されていたのであれば、内外気切換えダンパ52を作動させて、車両内の空気(内気)を循環させる。熱交換を促進して、圧縮機構11の吸入圧力を上げることができる。
また、蒸発器50の能力(吸熱量)が低減すれば、圧縮機構11の吸入圧力を上げることができる。具体的には、ブロア51の回転数を下げることにより蒸発器50を通過する風量を減少させて、蒸発器50の能力を低減させる。ただし、この蒸発器50への風量を減少させると、空調感を悪化させるおそれがあるので、減少量にはある程度制限が必要である。
さらに、車内に蒸発器50が2台設置され、冷凍サイクル回路上ではそれらが並列に配置されたシステム(デュアルシステム)がある。このデュアルシステムは、一般的に、2台の蒸発器50が、相対的に大能力の大蒸発器と、相対的に小能力の小蒸発器から構成される。大蒸発器は車両前部座席に対応し、小蒸発器は車両後部に対応している。このデュアルシステムの場合、車両後部に設置される小蒸発器に付随するブロワの回転数を落とし、大蒸発器に付随するブロワについては、その後必要に応じて回転数を落としてもよい。
【0027】
(II)圧縮機構11の回転数を上げる
圧縮機構11の回転数が所定の回転数x以下の場合には、圧縮機構11の回転数を上げる。
回転数が比較的に小さい場合には、冷媒による冷却効果がスイッチング素子を含めた制御部13の発熱量を下回るため、回転数が上がるほど冷媒による冷却効果が大きくなる。一方、回転数が比較的に大きい場合には、逆に、制御部13の発熱量が冷媒による冷却効果を上回るため、回転数が上がるほど制御部13の温度が上がる。
そこで、圧縮機構11の回転数が所定の回転数x以下の場合には、回転数を上げることにより電動モータ12及び制御部13の温度を下げ、スイッチング素子を熱損傷から有効に保護することができる。なお、ここでいう所定の回転数以下の場合とは、回転数が比較的に小さい場合と同義である。また、所定の回転数xは、冷媒による冷却効果がスイッチング素子を含めた制御部13の発熱量を下回る条件を予め確認することにより、特定することができる。
(III)圧縮機構11の回転数を下げる
圧縮機構11の回転数が所定の回転数y以上の場合には、圧縮機構11の回転数を下げる。
前述したように、圧縮機の回転数が比較的に大きい場合には、制御部13の発熱量が冷媒による冷却効果を上回るため、回転数が上がるほど制御部13の温度が上がる。
そこで、圧縮機構11の回転数が所定の回転数以上の場合には、回転数を下げることにより電動モータ12及び制御部13の温度を下げて、スイッチング素子を熱損傷から有効に保護することができる。なお、ここでいう所定の回転数以上の場合とは、回転数が比較的に大きい場合と同義である。また、所定の回転数yは、制御部13の発熱量が冷媒による冷却効果を上回る条件を予め確認しておくことにより、特定することができる。
【0028】
(IV)キャリア周波数を下げる
スイッチング素子が例えばIGBTの場合、IGBTのオン、オフの周期は、キャリア周波数により制御されている。このキャリア周波数を下げることによりIGBTの発熱量を下げることができる。したがって、キャリア周波数を下げることにより、IGBT(スイッチング素子)を熱損傷から有効に保護することができる。キャリア周波数の制御は、通常制御においては第1制御部13aが行っているが、保護制御においては第2制御部13bの指示に基づいて第1制御部13aが行う。
【0029】
保護制御を実行した後に、スイッチング素子を流れる電流Idを継続して検出しながら、第2制御部13bは電流Idの時間微分を行う(dI/dt)。第2制御部13bは、電流Idの時間微分の値が正の値(dI/dt≧0)か否か(dI/dt<0)を判定する(図5 S130)。電動モータ12へ供給される電流Idが経時的に増加し又は変化がなければ、dI/dt≧0となる。また、電動モータ12へ供給される電流Idが経時的に減少すれば、dI/dt<0となる。
【0030】
dI/dt≧0の場合には、第2制御部13bは、継続して検出している温度Td、電流Idと、スイッチング素子の温度特性データaにおける温度Tdに対応する電流Ia(Td)を用いて、Id≧Ia(Td)であるかの判定を行う(図5 S140)。
Id≧Ia(Td)の場合には、第2制御部13bは、電動モータ12への電力供給を止めることにより、圧縮機構11の運転を停止させる(図5 S150)。その後、第2制御部13bは、主制御ユニット60へ電動モータ12への電流の供給を止めたことを送信し(図5 S152)、次いで、主制御ユニット60からの指令を待機する(図5 S154)。
Id<Ia(Td)の場合には、保護制御(S120)を継続し、S130にて第2制御部13bは、電流Idの時間微分の値が正の値(dI/dt≧0)か否か(dI/dt<0)を判定し、その結果に基づいて、前述した手順が実行される。
【0031】
第2制御部13bの判定が、dI/dt<0の場合には、継続して検出している温度Td、電流Idと、低減温度特性データcにおける温度Tdに対応する電流Ic(Td)を用いて、Id≦Ic(Td)であるか判定する(図5 S170)。Id≦Ic(Td)の場合には、第2制御部13bによる制御を解除して、通常制御に復帰させる(図5 S180)。Id>Ic(Td)の場合には、保護制御(S120)を継続し、S130にて第2制御部13bは、電流Idの時間微分の値が正の値(dI/dt≧0)か否か(dI/dt<0)を判定し、その結果に基づいて、前述した手順が実行される。
【0032】
以上説明した制御手順を要約すると以下の通りである。
(1)S110において、圧縮機構11を停止するか(図5 S150)、保護制御を実行することなく通常制御を継続するか(図5 S160)、又は保護制御を実行するか(図5 S120)を判断する。
(2)保護制御を実行する場合(図5 S120)、スイッチング素子を流れる電流Idが増加傾向(変化なしも含む)にあるか、それとも減少傾向にあるかを判断する(図5 S130)。
電流Idが増加傾向にある場合には、S140において、圧縮機構11を停止するか(図5 S150)、又は保護制御を再度実行するか(図5 S120)を判断する。電流Idが減少傾向にある場合は、保護制御を止めて通常制御に復帰させていいか否かを判断する(図5 S170)。
このようにして、保護制御を実行した場合に、通常制御に復帰させるか、又は、圧縮機構11を停止させるように制御手順が進められる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態は、スイッチング素子の許容電流に関する温度特性データaと、スイッチング素子の温度Td及びスイッチング素子を流れる電流Idを比較することにより、以後の制御手順を定める。このように、温度特性データaと比較するものであるから、圧縮機構11の運転を停止させる場合において、当該温度においてスイッチング素子が現実に熱損傷が起こる又は起こる可能性が大きい場合に限り、圧縮機構11の運転を停止させることができる。つまり、スイッチング素子が有する能力を十分に利用しつつ、スイッチング素子を熱損傷から有効に保護することができる。これに対して、特許文献1のように、温度領域を定め、この温度領域にスイッチング素子の温度Tdが含まれるときに圧縮機構11の運転を停止させる制御では、例えばスイッチング素子が熱損傷するおそれがほとんどないときでも、圧縮機構11の運転を停止させてしまう。このことは、図3(a)のグラフ上に当該「温度領域」を重ねて描けば容易に理解できる。
【0034】
以上では、熱損傷から保護する高電圧部品をスイッチング素子として説明したが、本発明の高電圧部品はこれに限定されない。制御部13には、スイッチング素子の他、インダクタ、コンデンサ等の部品が実装されており、これらの部品について本発明は広く適用することができる。また、圧縮機構11を回転駆動する電動モータ12に含まれる部品について本発明を適用することもできる。
また、以上では、温度特性データa、低減温度特性データb、低減温度特性データcを電流に関するものとして説明したが、本発明は電流に限らず電力について同様に適用することができる。熱損傷から保護すべき部品の種類に応じて適宜使用することができる。この場合の制御手順は、図5のId、Ia(Td)、Ib(Td)、Ic(Td)及びdI/dtを、各々、Pd、Pa(Td)、Pb(Td)、Pc(Td)及びdP/dtと読み替えたものとすればよい。また、電流と電圧の両者を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る電動圧縮機を用いた蒸気圧縮式冷凍機の構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態に係る電動圧縮機の制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】熱損傷から保護すべき部品の、電流(図3(a))、電力(図3(b))の温度特性を示すグラフである。
【図4】第2制御部が保持する、電流(図4(a))、電力(図4(b))の温度特性データを示すグラフである。
【図5】本実施形態に係る電動圧縮機の保護制御の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1…車両用蒸気圧縮式冷凍機、10…電動圧縮機、11…圧縮機構、12…電動モータ、13…制御部、13a…第1制御部、13b…第2制御部、14…温度検出器、15…電流検出器、20…凝縮器、21…冷却ファン、30…受液器、40…膨張弁、50…蒸発器、51…ブロワ、52…内外気切換えダンパ、60…主制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入し、かつ圧縮して吐出する圧縮機構と、
前記圧縮機構を駆動する電動モータと、
前記圧縮機構及び前記電動モータを収容する筐体と、
前記筐体に収容される、前記電動モータの駆動を制御する制御部と、
前記制御部及び前記電動モータの一方又は双方を構成する一又は複数の部品の温度を検出する温度検出器と、
前記部品に流れる電流を検出する電流検出器と、を備えた電動圧縮機であって、
前記温度検出器が検出した温度を温度Tdとし、
前記温度Tdを前記温度検出器が検出したときに前記電流検出器が検出した電流を電流Idとし、
前記部品固有の電流に関する温度特性における、前記温度Tdに対応する電流を電流Ia(Td)とすると、
前記制御部は、
Ia(Td)とIdを比較した結果に基づいて前記電動モータの駆動を停止させることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ib(Td)とすると、
前記制御部は、
Ia(Td)≦Idの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合には、前記電動モータの負荷を低減するように保護制御することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ib(Td)とすると、
前記制御部は、
Ia(Td)≦Idの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合には、前記電動モータの回転数が所定の回転数x以下のときは、前記電動モータの回転数を上げるように保護制御することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ib(Td)とすると、
前記制御部は、
Ia(Td)≦Idの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合には、前記電動モータの回転数が所定の回転数yを超えるときは、前記電動モータの回転数を下げるように保護制御することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記部品が、前記制御部に設けられた、前記電動モータに対するスイッチング素子であり、
前記部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ib(Td)とすると、
前記制御部は、
Ia(Td)≦Idの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Ib(Td)≦Id<Ia(Td)の場合には、前記スイッチング素子のオン・オフを制御するキャリア周波数を下げるように保護制御することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記部品固有の電流に関する温度特性よりも各温度における電流が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電流を電流Ic(Td)(ただし、Ic(Td)<Ib(Td))とすると、前記制御部は、
Id≦Ic(Td)となった場合に、
前記保護制御を解除することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の電動圧縮機。
【請求項7】
前記請求項1の前記電流検出器に替えて電力検出器を備え、
前記制御部は、
前記温度検出器が検出した温度を温度Tdとし、
前記温度Tdを前記温度検出器が検出したときに前記電力検出器が検出した電力を電力Pdとし、
前記部品固有の電力に関する温度特性における、前記温度Tdに対応する電力を電力Pa(Td)とすると、
Pa(Td)とPdを比較した結果に基づいて前記電動モータの駆動を停止させることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項8】
前記部品固有の電力に関する温度特性よりも各温度における電力が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電力を電力Pb(Td)とすると、
前記制御部は、
Pa(Td)≦Pdの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Pb(Td)≦Pd<Pa(Td)の場合には、前記電動モータの負荷を低減するように保護制御することを特徴とする請求項7に記載の電動圧縮機。
【請求項9】
前記部品固有の電力に関する温度特性よりも各温度における電力が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電力を電力Pb(Td)とすると、
前記制御部は、
Pa(Td)≦Pdの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Pb(Td)≦Pd<Pa(Td)の場合には、前記電動モータの回転数が所定の回転数x以下のときは、前記電動モータの回転数を上げるように保護制御することを特徴とする請求項7に記載の電動圧縮機。
【請求項10】
前記部品固有の電力に関する温度特性よりも各温度における電力が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電力を電力Pb(Td)とすると、
前記制御部は、
Pa(Td)≦Pdの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Pb(Td)≦Pd<Pa(Td)の場合には、前記電動モータの回転数が所定の回転数yを超えるときは、前記電動モータの回転数を下げるように保護制御することを特徴とする請求項7に記載の電動圧縮機。
【請求項11】
前記部品が、前記制御部に設けられた、前記電動モータに対するスイッチング素子であり、
前記部品固有の電力に関する温度特性よりも各温度における電力が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電力を電力Pb(Td)とすると、
前記制御部は、
Pa(Td)≦Pdの場合には、前記電動モータの駆動を停止するように制御し、
Pb(Td)≦Pd<Pa(Td)の場合には、前記スイッチング素子のオン・オフを制御するキャリア周波数を下げるように保護制御することを特徴とする請求項7に記載の電動圧縮機。
【請求項12】
前記部品固有の電力に関する温度特性よりも各温度における電力が低減された低減温度特性において、前記温度Tdに対応する電力を電力Pc(Td)(ただし、Pc(Td)<Pb(Td))とすると、前記制御部は、
Pd≦Pc(Td)となった場合に、
前記保護制御を解除することを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の電動圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−127502(P2009−127502A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302605(P2007−302605)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】