電動車両の制御装置
【課題】制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止する。
【解決手段】制御ブロック7hは、減算器7gの出力値、すなわち、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算した値に対してフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値Tm*2を出力する。ここで、制御ブロック7hにおける伝達特性Gz(s)は、車両同定モデル(Gp(s))の分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される減衰係数(第1の減衰係数)ζzよりも大きく、かつ、1以下に設定された減衰係数(第2の減衰係数)ζc(ζz<ζx≦1)を有する2次式を分母としている。
【解決手段】制御ブロック7hは、減算器7gの出力値、すなわち、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算した値に対してフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値Tm*2を出力する。ここで、制御ブロック7hにおける伝達特性Gz(s)は、車両同定モデル(Gp(s))の分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される減衰係数(第1の減衰係数)ζzよりも大きく、かつ、1以下に設定された減衰係数(第2の減衰係数)ζc(ζz<ζx≦1)を有する2次式を分母としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、電動モータを用いた車両の制御装置が開示されている。この制御装置は、制振制御を行うために、Gp(s)なる伝達特性を有する制御ブロックと、この制御ブロックの出力とモータ回転速度との偏差を求める減算器と、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有する制御ブロックとを有する。この際、H(s)の分母次数と分子次数との差分は、Gp(s)の分母次数と分子次数の差以上となるように設定される。これにより、停止状態、或いは減速状態からアクセルを踏み込んだ場合においても、制振効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された手法によれば、制御対象とする車両のねじり振動特性を同定モデルGp(s)とした場合、その特性を用いたH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタを用いて、モータに対するトルク指令値を決定するためのトルク目標値等を算出している。そのため、車両伝達特性が同定モデルGp(s)から乖離した場合に、1/Gp(s)の共振特性に応じて、出力トルク(フィードバックトルク)に振動が発生する可能性がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明において、第1項演算手段は、トルク指令値に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性からなる第1のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項を出力する。また、第2項演算手段は、モータ回転速度に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性と、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性のモデルとからなる第2のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項を出力する。トルク目標値演算手段は、第2のトルク目標値の第1項と、第2のトルク目標値の第2項との偏差に基づいて、トルク指令値を演算するための第2のトルク目標値を演算する。この場合、トルク目標値演算手段は、第2のトルク目標値の第1項から前記第2のトルク目標値の第2項を減算した値に対して、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性からなる第3のフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値を出力するフィルタ手段を有する。ここで、フィルタ手段の伝達特性は、車両同定モデルの分子2次式を分子とするとともに、車両同定モデルの分子から演算される第1の減衰係数よりも大きく、かつ、1以下に設定された第2の減衰係数を有する2次式を分母としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両伝達特性がその同定モデルから乖離するような場合でも、フィルタ手段のフィルタ機能により打ち消されるので、フィードバック制御による出力トルクの振動を抑制することができる。これにより、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る電動車両の制御装置の構成を模式的に示すブロック図
【図2】第1の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図3】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図4】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図5】第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図6】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図7】第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図8】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図9】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図10】第3の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図11】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図12】第4の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図13】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図14】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電動車両の制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態にかかる電動車両は、バッテリ(図示せず)からの電力で動作するモータ1が搭載されており、モータ1の出力軸は減速機(図示せず)に接続されている。モータ1からの動力は、減速機およびドライブシャフト2を介して左右の駆動輪3,4に伝達される。バッテリとモータ1との間にはインバータ(図示せず)が設けられ、バッテリの直流電力はインバータによって交流電力に変換された上でモータ1に供給される。
【0010】
電動車両には、モータ1の出力トルクを制御する制御装置5が搭載されており、この制御装置5は、トルク設定部6と、制振制御部7と、トルク制御部8とで構成されている。制御装置5としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。制御装置5には、トルク制御を行うために、各種センサによって検出される車両情報が入力されている。回転角センサ9は、モータ1の回転角を検出することにより、モータ回転速度ωmを検出するセンサである。アクセル開度センサ10は、ドライバによるアクセル操作量(例えば、アクセル開度)を検出するセンサである。これらの回転角センサ9およびアクセル開度センサ10は、車両情報を検出する検出手段として機能する。
【0011】
トルク設定部(トルク目標値設定手段)6は、車両情報、具体的には、検出されたアクセル操作量およびモータ回転速度ωmに基づいて、第1のトルク目標値Tm*を設定する。設定されたトルク目標値Tm*は、制振制御部7に出力される。制振制御部7は、検出されたモータ回転速度ωmと、トルク目標値Tm*とを入力として演算を行い、モータ1に対するトルクの指令値であるトルク指令値T*を決定する。決定されたトルク指令値T*は、トルク制御部8に出力される。トルク制御部8は、PWM制御などを用いてインバータを制御することにより、モータ1の出力トルクをモータトルク指令値T*に追従させるような制御を行う。
【0012】
図2は、第1の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。制振制御部7において、第1のトルク目標値Tm*と、後述する第2のトルク目標値Tm*2とは加算器7aに入力され、加算器7aは両値を加算する。この加算器7aは、トルク指令値Tm*を演算するトルク指令値演算手段としての機能を担っており、第1のトルク目標値Tm*と、第2のトルク目標値Tm*2とに基づいて、両値Tm*,Tm*2の和をトルク指令値Tm*として演算する。加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、制御ブロック7bに入力される。
【0013】
ここで、図1に示すように、制御装置5において、制振制御部7の一部をなす加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、トルク制御部8に入力される。そして、トルク制御部8がこのトルク指令値T*に基づいてインバータを介してモータ1を制御する。この制御に応じてモータ1が駆動することにより、そのモータ1の回転速度ωmが回転角センサ9によって検出され、検出されたモータ回転速度ωmが制御系にフィードバックされる。
【0014】
図2に示すブロック図において、制御ブロック7bは、Gp'(s)なる伝達特性を有しており、トルク制御部8によりインバータを介して制御される電動車両上のモータ1としての実プラントを代替的に表している。この制御ブロック7bは、トルク指令値T*を入力として、実プラントGp'(s)であるモータ1のモータ回転速度を出力する。なお、実プラントGp'(s)に入るトルク外乱要素を反映すべく、加算器7aから出力されたトルク指令値T*は、加算器7cによりトルク外乱要素Tdが加算された上で、制御ブロック7bに入力される。また、実プラントGp'(s)に入るモータ回転速度外乱要素を反映すべく、制御ブロック7bから出力されるモータ回転速度には、加算器7dによりモータ回転速度外乱要素ωdが加算される。加算器7dからの出力(モータ回転速度)は、回転角センサ9によって検出されるモータ回転速度ωmと対応する。加算器7dから出力されるモータ回転速度ωmは、制御ブロック7eに入力される。
【0015】
制御ブロック7eは、フィルタとしての機能を担っており、このフィルタはH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有している。ここで、H(s)は、バンドパスフィルタとして特性を有しており、Gp(s)は、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性のモデル(車両伝達特性の同定モデル(車両同定モデル))である。この制御ブロック7eは、モータ回転速度ωmを入力とし、これにフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を出力(演算)する(第2項演算手段)。この第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2は、減算器7gに出力される。
【0016】
一方、加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、制御ブロック7bの他に、制御ブロック7fにも入力されている。制御ブロック7fは、バンドパスフィルタとして機能を担っており、上述したH(s)なる伝達特性を有している。この制御ブロック7fは、トルク指令値T*を入力とし、これにフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を出力(演算)する(第1項演算手段)。この第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1は、減算器7gに出力される。
【0017】
減算器7gは、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から、第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算することにより、両値Tm*2_1,Tm*2_2の偏差を演算する。減算器7gからの出力である第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1および第2項Tm*2_2の偏差は、制御ブロック7hに出力される。
【0018】
制御ブロック7hは、フィルタとしての機能を担っており、このフィルタはGz(s)なる伝達特性を有している。なお、伝達特性Gz(s)の詳細については後述する。制御ブロック7hは、減算器7gからの出力値を入力として、この入力値にフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値Tm*2を出力する(フィルタ手段)。算出された第2のトルク目標値Tm*2は、上述したように加算器7aに対して出力される。すなわち、上述した減算器7gおよび制御ブロック7hは、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1と第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2との偏差に基づいて、第2のトルク目標値Tm*2を演算するトルク目標値演算手段として機能する。
【0019】
本実施形態の特徴の一つは、このような制振制御部7のシステム構成に基づいて、制御ブロック7eにおける伝達特性のモデルGp(s)と、実プラントGp'(s)との間に乖離が発生した場合や、モータ回転速度外乱要素ωdが発生した場合に、出力トルクに振動が生じることを抑制するものである。
【0020】
以下、本実施形態の特徴の一つである伝達特性Gz(s)なるフィルタの設定方法について説明する。伝達特性Gz(s)は、伝達特性のモデルGp(s)に起因して設定される。そこで、伝達特性のモデルGp(s)について説明する。駆動ねじり振動系の運動方程式として、下式を導くことができる。
【数1】
【0021】
数式1において、符号の右上に付されている「*」は、時間微分を表す。また、Jmはモータ1のイナーシャであり、Jwは駆動輪のイナーシャであり、Mは車両の質量である。KDは駆動系のねじり剛性であり、KTはタイヤと路面の摩擦に関する係数であり、Nはオーバーオールギヤ比であり、rはタイヤの荷重半径である。ωmはモータ回転速度であり、Tmはモータ1のトルクであり、TDは駆動輪のトルクである。さらに、Fは車両に加えられる力であり、Vは車両の速度であり、ωwは駆動輪の回転速度である。
【0022】
そして、上記の運動方程式に基づいて、モータトルクからモータ回転速度までの伝達特性のモデルGp(s)を求めると、Gp(s)は下式で示される。
【数2】
【0023】
ここで、数式2における各パラメータは、下式で示される。
【数3】
【0024】
数式2に示す伝達関数の極と零点とを調べると、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次式で示すαとβとが極めて近い値を示すことに相当する。
【数4】
【0025】
数式4における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、下式に示すように、Gp(s)は、(2次)/(3次)の伝達特性を構成する。
【数5】
【0026】
本実施形態では、同式の分子の項に着目する。この分子における2次の各係数をA(2次の係数)、B(1次の係数)およびC(0次の係数)とした場合、これらの係数は減衰係数ζzとの間に下式が成り立つ。
【数6】
【0027】
同数式より減衰係数ζzは、下式で表すことができる。
【数7】
【0028】
数式7より減衰係数ζzを算出することにより、係数ζcを算出値ζzよりも大きい値、かつ、1以下の範囲で決定する(ζz<ζc≦1)。この係数ζcに基づいて、Gz(s)を下式より算出する。
【数8】
【0029】
本実施形態では、伝達特性Gz(s)なるフィルタを有する制御ブロック7hを備えることにより、伝達特性のモデルGp(s)と、実プラントGp'(s)との間に乖離が発生した場合や、モータ回転速度外乱ωdが発生した場合の出力トルクの振動の抑制を図ることができる。
【0030】
図3は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示し、(c)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、伝達特性Gz(s)なるフィルタを用いる本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用するケースでは、上述した係数ζcは1が設定されている。
【0031】
同図から分かるように、本制御手法を適用しない場合には、出力トルクTfiおよびドライブシャフトの伝達トルクTdiは、約1.3Hzで振動が継続している。これに対して、本制御手法を適用した場合には、出力トルクTfcにおける約1.3Hzの振動が抑制されていることが分かる。なお、本制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)なるフィルタ)を加えることで、制御対象周波数における制振効果が減少し、約3.8Hzの振動がドライブシャフトの伝達トルクTdcおよび回転数ωmcに現れてしまっている。
【0032】
このように本実施形態において、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性Gz(s)からなるフィルタを備える制御ブロック7hが追加されている。この制御ブロック7hは、減算器7gの出力値、すなわち、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算した値に対してフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値Tm*2を出力する。ここで、制御ブロック7hにおける伝達特性Gz(s)は、車両同定モデル(Gp(s))の分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される減衰係数(第1の減衰係数)ζzよりも大きく、かつ、1以下に設定された減衰係数(第2の減衰係数)ζc(ζz<ζx≦1)を有する2次式を分母としている。
【0033】
かかる構成によれば、車両伝達特性がその同定モデルGp(s)から乖離するような場合でも、制御ブロック7hのフィルタ機能により打ち消されるので、フィードバック制御による出力トルクの振動を抑制することができる。これにより、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【0034】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0035】
図4は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。ここで、伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))は、伝達特性H(s)/Gp(s)を等価変換したものである。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、第1の実施形態の制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、第1の実施形態の制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、第1の実施形態の制御手法を適用するケースでは、上述した係数ζcは1が設定されている。
【0036】
同図から分かるように、制御ブロック7e(伝達特性Gz(s)なるフィルタ)を追加することにより、これを追加しないケースと比較して、制御対象周波数(F=3.85Hz)において、−1.9dBのゲイン差が生じ、また、33degの位相差が生じている。本実施形態の特徴の一つは、この位相差を補正することである。ここで、補正すべき位相差をγとする。本実施形態では、位相差γについて、図5に示すように、位相補償器7iを追加することにより位相補償を行う。
【0037】
図5は、第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。位相補償器(位相補償手段)7iは、制御ブロック7hからの出力値(第2のトルク目標値Tm*2)を入力として、任意の周期の位相を制御して、位相が制御された第2のトルク目標値Tm*2を出力する。出力された第2のトルク目標値Tm*2は、上述したように加算器7aに対して出力される。ここで、位相補償器7iは、例えば、下式で示されるGzn(s)なる伝達特性を有する(ここで、T1,T2は位相補償定数である)。
【数9】
【0038】
図6は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7hおよび位相補償器7iを追加する本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、位相補償器7iにより制御対象周波数(F=3.85Hz)において位相を33deg遅らせており、ζcは1が設定されている。同図(d)から分かるように、本制御手法により、制御対象周波数(F=3.85Hz)における位相差を補正できていることが分かる。なお、位相補償器7iによる位相補償により、制御対象周波数におけるゲインGaのずれが−7.19dBとなってしまっている。
【0039】
図7は、第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態では、ゲイン差を補正するため、位相補償器7iの後段に、ゲインKを有するブロック(ゲイン補償手段)7jがさらに追加されている。そして、このゲインKの調整により、制御対象周波数におけるゲイン差を補償する。
【0040】
図8は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図に示す各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7h、位相補償器7iおよびゲインKのブロック7jを追加した本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、位相補償器7iにより制御対象周波数3.85Hzにおいて位相を33deg遅らせており、ζcは1が設定されている。同図からわかるように、ゲインKの追加により、制御対象周波数(F=3.85Hz)におけるゲイン差が抑制されている。
【0041】
図9は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0042】
同図から分かるように、本制御手法を適用した場合には、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0043】
このように本実施形態において、制御ブロック7hの後段には、制御対象周波数における位相を補正する位相補償器7iが追加されている。この位相補償器7iは、制御ブロック7hによってフィルタ処理された第2のトルク目標値Tm*2に対して位相補償を行う。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態において、制御ブロック7hの後段には、制御対象周波数におけるゲインを補正するゲインKを有するブロック7jが追加されている。このブロック7jは、制御ブロック7hによってフィルタ処理された第2のトルク目標値Tm*2に対してゲイン補償を行う。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【0045】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0046】
図10は、第3の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態では、伝達特性Gz(s)なるフィルタとしての制御ブロック7hを、実出力トルクのみに適用している。また、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を算出する制御ブロック7fには、第1のトルク目標値Tm*と、減算器7gの出力値とが加算器7kによって加算された上で入力されている。
【0047】
図11は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、実際の出力トルクのみにフィルタ(伝達特性Gz(s))を適用する本制御手法にかかるシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0048】
同図から分かるように、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0049】
このように本実施形態において、制御ブロック7fは、トルク設定部6によって設定される第1のトルク目標値Tm*に、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1と第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2との差を加算した加算値に基づいて第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を演算する。かかる構成によれば、制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)のフィルタ)をトルク指令値T*の演算のみに用い、フィードバック制御系の演算には、制御ブロック7hへの入力値が用いられることとなる。これにより、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成をベースに説明を行ったが、第2の実施形態の構成に本制御手法を適用してもよい。
【0051】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0052】
図12は、第4の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態の特徴の一つは、制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)のフィルタ)を追加することによる位相差γを、制御ブロック7e,7fにおける伝達特性H(s)を伝達特性H’(s)によって置換することにより、位相補償を行うことである。同図では、伝達特性H(s)が伝達特性H’(s)によって置換された制御ブロック7e,7fが制御ブロック7e’,7f’として示されている。
【0053】
第1の実施形態では、伝達特性H(s)であるバンドパスフィルタの中心周波数は、車両の駆動系のねじり共振周波数と一致させていた。本実施形態では、伝達特性H(s)の中心周波数を、所定の周波数分だけシフトさせた伝達特性H’(s)を用いることにより、位相差γ分の位相補償を行う。
【0054】
バンドパスフィルタを1次のハイパスフィルタとローパスフィルタとで組んだ場合、その伝達関数は、下式で示される。
【数10】
【0055】
ここで、ωcは、ねじり共振周波数をfp(fp(Hz)=ωp(rad/s)/2π)とした場合の位相補償後の中心周波数fcに対応するパラメータである(fc(Hz)=ωc(rad/s)/2π)。
【0056】
ここで、数式7の右辺の「s」にj×ωpを代入すると、当該右辺は下式となる。
【数11】
【0057】
数式11に示す右辺において、分子分母の双方に、その分母をそれぞれ積算することにより、当該右辺は、下式へと変形することができる。
【数12】
【0058】
ここで、数式12に示す右辺をC+D・jと置き換えると、tanγは下式を満たす。
【数13】
【0059】
数式13は、下式に示すように変形することができる。
【数14】
【0060】
数式14より、ωcは、下式の関係を満たす。
【数15】
【0061】
これにより、数式12に示すωcに基づいて、伝達関数H’(s)の中心周波数fc’を算出することができる(fc(Hz)=ωc(rad/s)/2π)。また、この際、上述したゲインのずれも補正するように伝達特性H’(s)を設定する。
【0062】
図13は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7hの追加および伝達関数H(s)を伝達関数H’(s)で置換した本制御手法にかかるシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、上述したζcは1が設定されている。同図(d)から分かるように、本制御手法により、制御対象周波数(F=3.85Hz)における位相差およびゲイン差を補正できていることが分かる。
【0063】
図14は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0064】
同図から分かるように、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0065】
このように本実施形態において、制御ブロック7f’および制御ブロック7e’は、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性H(s)における周波数特性(中心周波数fc)を可変とすることにより(H’(s),fc’)、制御対象周波数における位相を補正する。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…モータ
2…ドライブシャフト
3,4…駆動輪
5…制御装置
6…トルク設定部
7…制振制御部
7a…加算器
7b…制御ブロック
7c…加算器
7d…加算器
7e…制御ブロック
7f…制御ブロック
7g…減算器
7h…制御ブロック
7i…位相補償器
7j…ブロック
8…トルク制御部
9…回転角センサ
10…アクセル開度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、電動モータを用いた車両の制御装置が開示されている。この制御装置は、制振制御を行うために、Gp(s)なる伝達特性を有する制御ブロックと、この制御ブロックの出力とモータ回転速度との偏差を求める減算器と、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有する制御ブロックとを有する。この際、H(s)の分母次数と分子次数との差分は、Gp(s)の分母次数と分子次数の差以上となるように設定される。これにより、停止状態、或いは減速状態からアクセルを踏み込んだ場合においても、制振効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された手法によれば、制御対象とする車両のねじり振動特性を同定モデルGp(s)とした場合、その特性を用いたH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタを用いて、モータに対するトルク指令値を決定するためのトルク目標値等を算出している。そのため、車両伝達特性が同定モデルGp(s)から乖離した場合に、1/Gp(s)の共振特性に応じて、出力トルク(フィードバックトルク)に振動が発生する可能性がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明において、第1項演算手段は、トルク指令値に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性からなる第1のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項を出力する。また、第2項演算手段は、モータ回転速度に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性と、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性のモデルとからなる第2のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項を出力する。トルク目標値演算手段は、第2のトルク目標値の第1項と、第2のトルク目標値の第2項との偏差に基づいて、トルク指令値を演算するための第2のトルク目標値を演算する。この場合、トルク目標値演算手段は、第2のトルク目標値の第1項から前記第2のトルク目標値の第2項を減算した値に対して、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性からなる第3のフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値を出力するフィルタ手段を有する。ここで、フィルタ手段の伝達特性は、車両同定モデルの分子2次式を分子とするとともに、車両同定モデルの分子から演算される第1の減衰係数よりも大きく、かつ、1以下に設定された第2の減衰係数を有する2次式を分母としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両伝達特性がその同定モデルから乖離するような場合でも、フィルタ手段のフィルタ機能により打ち消されるので、フィードバック制御による出力トルクの振動を抑制することができる。これにより、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る電動車両の制御装置の構成を模式的に示すブロック図
【図2】第1の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図3】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図4】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図5】第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図6】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図7】第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図8】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図9】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図10】第3の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図11】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図
【図12】第4の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図
【図13】周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図
【図14】実プラントGp'(s)としてデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電動車両の制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態にかかる電動車両は、バッテリ(図示せず)からの電力で動作するモータ1が搭載されており、モータ1の出力軸は減速機(図示せず)に接続されている。モータ1からの動力は、減速機およびドライブシャフト2を介して左右の駆動輪3,4に伝達される。バッテリとモータ1との間にはインバータ(図示せず)が設けられ、バッテリの直流電力はインバータによって交流電力に変換された上でモータ1に供給される。
【0010】
電動車両には、モータ1の出力トルクを制御する制御装置5が搭載されており、この制御装置5は、トルク設定部6と、制振制御部7と、トルク制御部8とで構成されている。制御装置5としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。制御装置5には、トルク制御を行うために、各種センサによって検出される車両情報が入力されている。回転角センサ9は、モータ1の回転角を検出することにより、モータ回転速度ωmを検出するセンサである。アクセル開度センサ10は、ドライバによるアクセル操作量(例えば、アクセル開度)を検出するセンサである。これらの回転角センサ9およびアクセル開度センサ10は、車両情報を検出する検出手段として機能する。
【0011】
トルク設定部(トルク目標値設定手段)6は、車両情報、具体的には、検出されたアクセル操作量およびモータ回転速度ωmに基づいて、第1のトルク目標値Tm*を設定する。設定されたトルク目標値Tm*は、制振制御部7に出力される。制振制御部7は、検出されたモータ回転速度ωmと、トルク目標値Tm*とを入力として演算を行い、モータ1に対するトルクの指令値であるトルク指令値T*を決定する。決定されたトルク指令値T*は、トルク制御部8に出力される。トルク制御部8は、PWM制御などを用いてインバータを制御することにより、モータ1の出力トルクをモータトルク指令値T*に追従させるような制御を行う。
【0012】
図2は、第1の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。制振制御部7において、第1のトルク目標値Tm*と、後述する第2のトルク目標値Tm*2とは加算器7aに入力され、加算器7aは両値を加算する。この加算器7aは、トルク指令値Tm*を演算するトルク指令値演算手段としての機能を担っており、第1のトルク目標値Tm*と、第2のトルク目標値Tm*2とに基づいて、両値Tm*,Tm*2の和をトルク指令値Tm*として演算する。加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、制御ブロック7bに入力される。
【0013】
ここで、図1に示すように、制御装置5において、制振制御部7の一部をなす加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、トルク制御部8に入力される。そして、トルク制御部8がこのトルク指令値T*に基づいてインバータを介してモータ1を制御する。この制御に応じてモータ1が駆動することにより、そのモータ1の回転速度ωmが回転角センサ9によって検出され、検出されたモータ回転速度ωmが制御系にフィードバックされる。
【0014】
図2に示すブロック図において、制御ブロック7bは、Gp'(s)なる伝達特性を有しており、トルク制御部8によりインバータを介して制御される電動車両上のモータ1としての実プラントを代替的に表している。この制御ブロック7bは、トルク指令値T*を入力として、実プラントGp'(s)であるモータ1のモータ回転速度を出力する。なお、実プラントGp'(s)に入るトルク外乱要素を反映すべく、加算器7aから出力されたトルク指令値T*は、加算器7cによりトルク外乱要素Tdが加算された上で、制御ブロック7bに入力される。また、実プラントGp'(s)に入るモータ回転速度外乱要素を反映すべく、制御ブロック7bから出力されるモータ回転速度には、加算器7dによりモータ回転速度外乱要素ωdが加算される。加算器7dからの出力(モータ回転速度)は、回転角センサ9によって検出されるモータ回転速度ωmと対応する。加算器7dから出力されるモータ回転速度ωmは、制御ブロック7eに入力される。
【0015】
制御ブロック7eは、フィルタとしての機能を担っており、このフィルタはH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有している。ここで、H(s)は、バンドパスフィルタとして特性を有しており、Gp(s)は、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性のモデル(車両伝達特性の同定モデル(車両同定モデル))である。この制御ブロック7eは、モータ回転速度ωmを入力とし、これにフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を出力(演算)する(第2項演算手段)。この第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2は、減算器7gに出力される。
【0016】
一方、加算器7aからの出力であるトルク指令値T*は、制御ブロック7bの他に、制御ブロック7fにも入力されている。制御ブロック7fは、バンドパスフィルタとして機能を担っており、上述したH(s)なる伝達特性を有している。この制御ブロック7fは、トルク指令値T*を入力とし、これにフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を出力(演算)する(第1項演算手段)。この第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1は、減算器7gに出力される。
【0017】
減算器7gは、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から、第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算することにより、両値Tm*2_1,Tm*2_2の偏差を演算する。減算器7gからの出力である第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1および第2項Tm*2_2の偏差は、制御ブロック7hに出力される。
【0018】
制御ブロック7hは、フィルタとしての機能を担っており、このフィルタはGz(s)なる伝達特性を有している。なお、伝達特性Gz(s)の詳細については後述する。制御ブロック7hは、減算器7gからの出力値を入力として、この入力値にフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値Tm*2を出力する(フィルタ手段)。算出された第2のトルク目標値Tm*2は、上述したように加算器7aに対して出力される。すなわち、上述した減算器7gおよび制御ブロック7hは、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1と第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2との偏差に基づいて、第2のトルク目標値Tm*2を演算するトルク目標値演算手段として機能する。
【0019】
本実施形態の特徴の一つは、このような制振制御部7のシステム構成に基づいて、制御ブロック7eにおける伝達特性のモデルGp(s)と、実プラントGp'(s)との間に乖離が発生した場合や、モータ回転速度外乱要素ωdが発生した場合に、出力トルクに振動が生じることを抑制するものである。
【0020】
以下、本実施形態の特徴の一つである伝達特性Gz(s)なるフィルタの設定方法について説明する。伝達特性Gz(s)は、伝達特性のモデルGp(s)に起因して設定される。そこで、伝達特性のモデルGp(s)について説明する。駆動ねじり振動系の運動方程式として、下式を導くことができる。
【数1】
【0021】
数式1において、符号の右上に付されている「*」は、時間微分を表す。また、Jmはモータ1のイナーシャであり、Jwは駆動輪のイナーシャであり、Mは車両の質量である。KDは駆動系のねじり剛性であり、KTはタイヤと路面の摩擦に関する係数であり、Nはオーバーオールギヤ比であり、rはタイヤの荷重半径である。ωmはモータ回転速度であり、Tmはモータ1のトルクであり、TDは駆動輪のトルクである。さらに、Fは車両に加えられる力であり、Vは車両の速度であり、ωwは駆動輪の回転速度である。
【0022】
そして、上記の運動方程式に基づいて、モータトルクからモータ回転速度までの伝達特性のモデルGp(s)を求めると、Gp(s)は下式で示される。
【数2】
【0023】
ここで、数式2における各パラメータは、下式で示される。
【数3】
【0024】
数式2に示す伝達関数の極と零点とを調べると、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次式で示すαとβとが極めて近い値を示すことに相当する。
【数4】
【0025】
数式4における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、下式に示すように、Gp(s)は、(2次)/(3次)の伝達特性を構成する。
【数5】
【0026】
本実施形態では、同式の分子の項に着目する。この分子における2次の各係数をA(2次の係数)、B(1次の係数)およびC(0次の係数)とした場合、これらの係数は減衰係数ζzとの間に下式が成り立つ。
【数6】
【0027】
同数式より減衰係数ζzは、下式で表すことができる。
【数7】
【0028】
数式7より減衰係数ζzを算出することにより、係数ζcを算出値ζzよりも大きい値、かつ、1以下の範囲で決定する(ζz<ζc≦1)。この係数ζcに基づいて、Gz(s)を下式より算出する。
【数8】
【0029】
本実施形態では、伝達特性Gz(s)なるフィルタを有する制御ブロック7hを備えることにより、伝達特性のモデルGp(s)と、実プラントGp'(s)との間に乖離が発生した場合や、モータ回転速度外乱ωdが発生した場合の出力トルクの振動の抑制を図ることができる。
【0030】
図3は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示し、(c)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、伝達特性Gz(s)なるフィルタを用いる本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用するケースでは、上述した係数ζcは1が設定されている。
【0031】
同図から分かるように、本制御手法を適用しない場合には、出力トルクTfiおよびドライブシャフトの伝達トルクTdiは、約1.3Hzで振動が継続している。これに対して、本制御手法を適用した場合には、出力トルクTfcにおける約1.3Hzの振動が抑制されていることが分かる。なお、本制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)なるフィルタ)を加えることで、制御対象周波数における制振効果が減少し、約3.8Hzの振動がドライブシャフトの伝達トルクTdcおよび回転数ωmcに現れてしまっている。
【0032】
このように本実施形態において、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性Gz(s)からなるフィルタを備える制御ブロック7hが追加されている。この制御ブロック7hは、減算器7gの出力値、すなわち、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1から第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2を減算した値に対してフィルタ処理を施すことにより第2のトルク目標値Tm*2を出力する。ここで、制御ブロック7hにおける伝達特性Gz(s)は、車両同定モデル(Gp(s))の分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される減衰係数(第1の減衰係数)ζzよりも大きく、かつ、1以下に設定された減衰係数(第2の減衰係数)ζc(ζz<ζx≦1)を有する2次式を分母としている。
【0033】
かかる構成によれば、車両伝達特性がその同定モデルGp(s)から乖離するような場合でも、制御ブロック7hのフィルタ機能により打ち消されるので、フィードバック制御による出力トルクの振動を抑制することができる。これにより、制振効果を図りつつ、トルク振動の発生を抑止することである。
【0034】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0035】
図4は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。ここで、伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))は、伝達特性H(s)/Gp(s)を等価変換したものである。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、第1の実施形態の制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、第1の実施形態の制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、第1の実施形態の制御手法を適用するケースでは、上述した係数ζcは1が設定されている。
【0036】
同図から分かるように、制御ブロック7e(伝達特性Gz(s)なるフィルタ)を追加することにより、これを追加しないケースと比較して、制御対象周波数(F=3.85Hz)において、−1.9dBのゲイン差が生じ、また、33degの位相差が生じている。本実施形態の特徴の一つは、この位相差を補正することである。ここで、補正すべき位相差をγとする。本実施形態では、位相差γについて、図5に示すように、位相補償器7iを追加することにより位相補償を行う。
【0037】
図5は、第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。位相補償器(位相補償手段)7iは、制御ブロック7hからの出力値(第2のトルク目標値Tm*2)を入力として、任意の周期の位相を制御して、位相が制御された第2のトルク目標値Tm*2を出力する。出力された第2のトルク目標値Tm*2は、上述したように加算器7aに対して出力される。ここで、位相補償器7iは、例えば、下式で示されるGzn(s)なる伝達特性を有する(ここで、T1,T2は位相補償定数である)。
【数9】
【0038】
図6は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7hおよび位相補償器7iを追加する本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、位相補償器7iにより制御対象周波数(F=3.85Hz)において位相を33deg遅らせており、ζcは1が設定されている。同図(d)から分かるように、本制御手法により、制御対象周波数(F=3.85Hz)における位相差を補正できていることが分かる。なお、位相補償器7iによる位相補償により、制御対象周波数におけるゲインGaのずれが−7.19dBとなってしまっている。
【0039】
図7は、第2の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態では、ゲイン差を補正するため、位相補償器7iの後段に、ゲインKを有するブロック(ゲイン補償手段)7jがさらに追加されている。そして、このゲインKの調整により、制御対象周波数におけるゲイン差を補償する。
【0040】
図8は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図に示す各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7h、位相補償器7iおよびゲインKのブロック7jを追加した本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、位相補償器7iにより制御対象周波数3.85Hzにおいて位相を33deg遅らせており、ζcは1が設定されている。同図からわかるように、ゲインKの追加により、制御対象周波数(F=3.85Hz)におけるゲイン差が抑制されている。
【0041】
図9は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0042】
同図から分かるように、本制御手法を適用した場合には、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0043】
このように本実施形態において、制御ブロック7hの後段には、制御対象周波数における位相を補正する位相補償器7iが追加されている。この位相補償器7iは、制御ブロック7hによってフィルタ処理された第2のトルク目標値Tm*2に対して位相補償を行う。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態において、制御ブロック7hの後段には、制御対象周波数におけるゲインを補正するゲインKを有するブロック7jが追加されている。このブロック7jは、制御ブロック7hによってフィルタ処理された第2のトルク目標値Tm*2に対してゲイン補償を行う。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【0045】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0046】
図10は、第3の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態では、伝達特性Gz(s)なるフィルタとしての制御ブロック7hを、実出力トルクのみに適用している。また、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を算出する制御ブロック7fには、第1のトルク目標値Tm*と、減算器7gの出力値とが加算器7kによって加算された上で入力されている。
【0047】
図11は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、実際の出力トルクのみにフィルタ(伝達特性Gz(s))を適用する本制御手法にかかるシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0048】
同図から分かるように、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0049】
このように本実施形態において、制御ブロック7fは、トルク設定部6によって設定される第1のトルク目標値Tm*に、第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1と第2のトルク目標値の第2項Tm*2_2との差を加算した加算値に基づいて第2のトルク目標値の第1項Tm*2_1を演算する。かかる構成によれば、制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)のフィルタ)をトルク指令値T*の演算のみに用い、フィードバック制御系の演算には、制御ブロック7hへの入力値が用いられることとなる。これにより、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の構成をベースに説明を行ったが、第2の実施形態の構成に本制御手法を適用してもよい。
【0051】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態にかかる電動車両の制御装置5について説明する。本実施形態の制御装置5が第1の実施形態と相違する点は、制振制御部7による制御手法である。なお、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
【0052】
図12は、第4の実施形態にかかる制振制御部7の具体的な構成を示すブロック図である。本実施形態の特徴の一つは、制御ブロック7h(伝達特性Gz(s)のフィルタ)を追加することによる位相差γを、制御ブロック7e,7fにおける伝達特性H(s)を伝達特性H’(s)によって置換することにより、位相補償を行うことである。同図では、伝達特性H(s)が伝達特性H’(s)によって置換された制御ブロック7e,7fが制御ブロック7e’,7f’として示されている。
【0053】
第1の実施形態では、伝達特性H(s)であるバンドパスフィルタの中心周波数は、車両の駆動系のねじり共振周波数と一致させていた。本実施形態では、伝達特性H(s)の中心周波数を、所定の周波数分だけシフトさせた伝達特性H’(s)を用いることにより、位相差γ分の位相補償を行う。
【0054】
バンドパスフィルタを1次のハイパスフィルタとローパスフィルタとで組んだ場合、その伝達関数は、下式で示される。
【数10】
【0055】
ここで、ωcは、ねじり共振周波数をfp(fp(Hz)=ωp(rad/s)/2π)とした場合の位相補償後の中心周波数fcに対応するパラメータである(fc(Hz)=ωc(rad/s)/2π)。
【0056】
ここで、数式7の右辺の「s」にj×ωpを代入すると、当該右辺は下式となる。
【数11】
【0057】
数式11に示す右辺において、分子分母の双方に、その分母をそれぞれ積算することにより、当該右辺は、下式へと変形することができる。
【数12】
【0058】
ここで、数式12に示す右辺をC+D・jと置き換えると、tanγは下式を満たす。
【数13】
【0059】
数式13は、下式に示すように変形することができる。
【数14】
【0060】
数式14より、ωcは、下式の関係を満たす。
【数15】
【0061】
これにより、数式12に示すωcに基づいて、伝達関数H’(s)の中心周波数fc’を算出することができる(fc(Hz)=ωc(rad/s)/2π)。また、この際、上述したゲインのずれも補正するように伝達特性H’(s)を設定する。
【0062】
図13は、周波数解析の結果としての伝達特性H(s)・s×1/(s・Gp(s))のボーデ線図である。同図において、(a)は周波数Fに対応するゲインGaを示す図であり、(b)は周波数Fに対応する位相Phを示す図である。また、(c)は(a)の一部を拡大して示す図であり、(d)は(b)の一部を拡大して示す図である。ここで、各パラメータGa,Phにおいて、添え字「c」を付したものは、制御ブロック7hの追加および伝達関数H(s)を伝達関数H’(s)で置換した本制御手法にかかるシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。また、本制御手法を適用したケースでは、上述したζcは1が設定されている。同図(d)から分かるように、本制御手法により、制御対象周波数(F=3.85Hz)における位相差およびゲイン差を補正できていることが分かる。
【0063】
図14は、実プラントGp'(s)としてドライブシャフトの伝達トルクに±10Nmの不感帯を有するデッドハンド付車両モデルを用いた場合のシミュレーション結果を示す説明図である。同図において、(a)は出力トルクTfの推移を示し、(b)はモータ回転速度ωmの推移を示す。また、(c)は(b)の領域Aを拡大して示し、(d)はドライブシャフトの伝達トルクTdの推移を示す。同図は、0Nmから150Nmへのトルクステップ指令Stに対する発進時のシミュレーション結果である。ここで、各パラメータTf,ωm,Tdにおいて、添え字「c」を付したものは、本制御手法を適用した場合のシミュレーション結果であり、添え字「i」を付したものは、本制御手法を適用しない場合のシミュレーション結果である。
【0064】
同図から分かるように、本制御手法を適用しないケースと比較して、出力トルクTfc、ドライブシャフトの伝達トルクTdcおよびモータ回転速度ωmcの振動が抑制されている。
【0065】
このように本実施形態において、制御ブロック7f’および制御ブロック7e’は、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性H(s)における周波数特性(中心周波数fc)を可変とすることにより(H’(s),fc’)、制御対象周波数における位相を補正する。かかる構成によれば、出力トルクの振動を抑制しながらも、振動抑止効果の向上をさらに図ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…モータ
2…ドライブシャフト
3,4…駆動輪
5…制御装置
6…トルク設定部
7…制振制御部
7a…加算器
7b…制御ブロック
7c…加算器
7d…加算器
7e…制御ブロック
7f…制御ブロック
7g…減算器
7h…制御ブロック
7i…位相補償器
7j…ブロック
8…トルク制御部
9…回転角センサ
10…アクセル開度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令値に基づいて駆動される電動モータを動力源とする電動車両の制御装置において、
車両情報を検出する検出手段と、
前記車両情報に基づいて、第1のトルク目標値を設定するトルク目標値設定手段と、
電動モータへのトルク指令値を演算するトルク指令値演算手段と、
前記トルク指令値に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性からなる第1のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項を演算する第1項演算手段と、
前記車両情報の一つであるモータ回転速度に対して、前記バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性と、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性の車両同定モデルとからなる第2のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項を演算する第2項演算手段と、
前記第2のトルク目標値の第1項と、前記第2のトルク目標値の第2項との偏差に基づいて、第2のトルク目標値を演算するトルク目標値演算手段とを備え、
前記車両同定モデルは、2次式の分子と3次式の分母とで構成され、
前記トルク目標値演算手段は、
前記第2のトルク目標値の第1項から前記第2のトルク目標値の第2項を減算する減算手段と、
前記減算手段の出力値に対して、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性からなる第3のフィルタ処理を施すことにより、前記第2のトルク目標値を出力するフィルタ手段とを有し、
前記フィルタ手段の伝達特性は、前記車両同定モデルの分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される第1の減衰係数よりも大きく、かつ、1以下に設定された第2の減衰係数を有する2次式を分母としており、
前記トルク指令値演算手段は、前記第1のトルク目標値と、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値とに基づいて、前記トルク指令値を演算することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1の減衰係数ζzは、前記車両同定モデルの分子2次式をA・s2+B・s+Cと表した場合、B/A=2・√(C/A)・ζzの関係式より求まり、
前記フィルタ手段は、第2の減衰係数ζcをζz<ζc≦1の範囲となる定数として決定した場合に、伝達特性が下式の関係を満たす
Gz=[A・s2+B・s+C]/[s2+(2・√(C/A)・ζc)・s+(C/A)]
ことを特徴とする請求項1に記載された電動車両の制御装置。
【請求項3】
制御対象周波数における位相を補正する位相補償手段をさらに有し、
前記位相補償手段は、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値に対して位相補償を行うことを特徴とする請求項1または2に記載された電動車両の制御装置。
【請求項4】
制御対象周波数におけるゲインを補正するゲイン補償手段をさらに有し、
前記ゲイン補償手段は、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値に対してゲイン補償を行うことを特徴とする請求項3に記載された電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記第1項演算手段は、前記トルク目標値設定手段によって設定される前記第1のトルク目標値に、前記第2のトルク目標値の第1項と前記第2のトルク目標値の第2項との差を加算した加算値に基づいて第2のトルク目標値の第1項を演算することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載された電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記第1項演算手段および前記第2項演算手段は、前記バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性における周波数特性を可変とすることにより、前記制御対象周波数における位相を補正することを特徴とする請求項1または2に記載された電動車両の制御装置。
【請求項1】
トルク指令値に基づいて駆動される電動モータを動力源とする電動車両の制御装置において、
車両情報を検出する検出手段と、
前記車両情報に基づいて、第1のトルク目標値を設定するトルク目標値設定手段と、
電動モータへのトルク指令値を演算するトルク指令値演算手段と、
前記トルク指令値に対して、バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性からなる第1のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第1項を演算する第1項演算手段と、
前記車両情報の一つであるモータ回転速度に対して、前記バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性と、車両へのトルク入力とモータ回転速度との伝達特性の車両同定モデルとからなる第2のフィルタ処理を施すことにより、第2のトルク目標値の第2項を演算する第2項演算手段と、
前記第2のトルク目標値の第1項と、前記第2のトルク目標値の第2項との偏差に基づいて、第2のトルク目標値を演算するトルク目標値演算手段とを備え、
前記車両同定モデルは、2次式の分子と3次式の分母とで構成され、
前記トルク目標値演算手段は、
前記第2のトルク目標値の第1項から前記第2のトルク目標値の第2項を減算する減算手段と、
前記減算手段の出力値に対して、2次式の分子と2次式の分母とで構成される伝達特性からなる第3のフィルタ処理を施すことにより、前記第2のトルク目標値を出力するフィルタ手段とを有し、
前記フィルタ手段の伝達特性は、前記車両同定モデルの分子2次式を分子とするとともに、前記車両同定モデルの分子から演算される第1の減衰係数よりも大きく、かつ、1以下に設定された第2の減衰係数を有する2次式を分母としており、
前記トルク指令値演算手段は、前記第1のトルク目標値と、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値とに基づいて、前記トルク指令値を演算することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1の減衰係数ζzは、前記車両同定モデルの分子2次式をA・s2+B・s+Cと表した場合、B/A=2・√(C/A)・ζzの関係式より求まり、
前記フィルタ手段は、第2の減衰係数ζcをζz<ζc≦1の範囲となる定数として決定した場合に、伝達特性が下式の関係を満たす
Gz=[A・s2+B・s+C]/[s2+(2・√(C/A)・ζc)・s+(C/A)]
ことを特徴とする請求項1に記載された電動車両の制御装置。
【請求項3】
制御対象周波数における位相を補正する位相補償手段をさらに有し、
前記位相補償手段は、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値に対して位相補償を行うことを特徴とする請求項1または2に記載された電動車両の制御装置。
【請求項4】
制御対象周波数におけるゲインを補正するゲイン補償手段をさらに有し、
前記ゲイン補償手段は、前記フィルタ手段によってフィルタ処理された前記第2のトルク目標値に対してゲイン補償を行うことを特徴とする請求項3に記載された電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記第1項演算手段は、前記トルク目標値設定手段によって設定される前記第1のトルク目標値に、前記第2のトルク目標値の第1項と前記第2のトルク目標値の第2項との差を加算した加算値に基づいて第2のトルク目標値の第1項を演算することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載された電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記第1項演算手段および前記第2項演算手段は、前記バンドパスフィルタの特性を有する伝達特性における周波数特性を可変とすることにより、前記制御対象周波数における位相を補正することを特徴とする請求項1または2に記載された電動車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−288332(P2010−288332A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138484(P2009−138484)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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