説明

電動車両駆動用モータの出力制御装置および出力制御方法

【課題】ロータセンサの取り付け誤差を検出して、センサ信号を補正し、補正されたセンサ信号に基づいてモータのステータコイルに対する通電制御の精度を向上させる。
【解決手段】ブラシレスモータ(1)に設けられるロータセンサ(5)のセンサ信号に基づいてモータの通電タイミングを制御する。モータ(1)を回生駆動させ、このときに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するとともに、センサ信号の立ち上がりを検出する。ゼロクロス点に対するセンサ信号の立ち上がり位置の位相ずれを各ロータセンサに関して検出し、検出された位相ずれの平均値を算出する。記憶されている位相ずれの平均値を利用してセンサ信号の立ち上がり位置を補正し、補正されたセンサ信号に基づいてモータ(1)に対する通電タイミングを制御する。位相ずれの検出と記憶は完成車検査工程で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両駆動用モータの出力制御装置および出力制御方法に関し、特に、3相ブラシレスモータの各相に対応して設けられるロータセンサの取り付け誤差がモータの出力制御に及ぼす影響を排除して所望の出力制御を行うことができる電動車両駆動用モータの出力制御装置および出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両の駆動用モータとして3相ブラシレスモータが使用されることが知られる。3相ブラシレスモータには、U、V、Wの各相に対応してロータセンサが設けられ、モータの出力制御は、ロータセンサの出力信号(以下、「センサ信号」という)に基づいてステータコイルの各相に対する通電タイミングを制御(つまり進角・遅角)したり、PWM制御(デューティ制御)によって電圧を制御させたりして行うのが一般的である。ロータセンサとしては永久磁石を貼り付けたロータに近接して配置される3つのホール素子が一般に用いられる。
【0003】
ロータセンサとしての3つのホール素子は、ロータに対して正確に所定の距離をおいて配置し、かつ、各ホール素子同士も正確に所定の距離をおいて配置することが望まれる。しかし、少なくとも公差内におけるロータセンサの取り付け位置の誤差(以下、単に「取り付け誤差」という)は避けられない。ロータセンサの取り付け誤差が有る場合、センサ信号の出力タイミングが所望のものと異なってしまうので、正確なモータ出力制御が難しくなる。そこで、従来、ロータセンサの取り付け精度、とりわけ、ロータセンサ相互間の位置精度のばらつきを解消するためのロータ磁極位置検出器が提案されている(例えば、特許文献1)。この従来のロータ磁極位置検出器は、誘起電圧波形からゼロクロス点を検出し、検出されたゼロクロス点の位置に基づいてロータセンサの出力を補正するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−64993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータの取り付け誤差には、上述のごとく、ロータセンサ間の距離のばらつきと、ロータセンサとロータ間の距離のばらつきとがある。しかし、特許文献1に記載されている制御装置では、プリント基板にガイドを設け、そのガイドを基準に第一のホール素子を搭載し、さらに前記ガイドを基準にモータステータコアとの位置合わせを行うことで、ステータコアと第一のホール素子の機械的位置はある程度確保されていることを前提に、ロータセンサ間の位置精度のばらつきを補正する構成しか備えていない。
【0006】
また、ロータセンサとロータ間の距離のばらつきを補正するために、モータの電圧のゼロクロスポイントとロータセンサの出力の立ち上がり(立ち下がり)のタイミングとを比較することが考えられるが、モータ電圧のゼロクロスポイントは、モータが発電機として運転される場合に生じる誘起電圧でしか得ることができず、上記従来技術では、モータを駆動機として運転するようになっているため、検出することができない。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題に対して、ロータセンサの取り付け精度による制御誤差を改善することができる電動車両用駆動モータの出力制御装置および出力制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明は、3相ブラシレスモータにおけるロータの回転位置を検出するため、モータの各相に対応して設けられるロータセンサと、バッテリから前記モータへ供給される電流を制御するインバータ回路と、ロータセンサのセンサ信号に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をPWM制御する制御部とを有する電動車両駆動用モータの出力制御装置において、前記制御部が、外部から入力される発電指示に応答して前記インバータ回路を制御して前記モータを発電機として運転させるように構成されているとともに、前記制御部は、所定のタイミングにてモータを駆動し、その後惰性運転させているときにモータのステータコイルのそれぞれに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出部と、前記ロータセンサのセンサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりと前記ゼロクロス点との位相ずれを算出する位相ずれ算出部と、前記位相ずれ算出部で算出された位相ずれを記憶する記憶部と、前記記憶部に格納されている位相ずれに基づいて該位相ずれを補正した前記モータに対する通電タイミングを発生する通電タイミング補正部とを備えている点に第1の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、前記位相ずれ算出部でU、V、W各相について検出された位相ずれの平均値を算出する平均値算出部をさらに備え、前記通電タイミング補正部が、前記平均値に基づいて、前記U、V、W各相について検出されたロータセンサの位相ずれを補正した前記モータに対する通電タイミングを発生するように構成されている点に第2の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、前記位相ずれの平均値が、モータが少なくとも1回転する間にセンサ信号のすべての立ち上がりまたは立ち下がりをゼロクロス点と比較して得たデータの平均値として算出される点に第3の特徴がある。
【0011】
また、本発明は、前記発電指示が、工場の完成車検査工程で入力されるものである点に第4の特徴がある。
【0012】
また、本発明は、前記発電指示が、前記モータの回生運転指示である点に第5の特徴がある。
【0013】
また、本発明は、前記回生運転指示が、電動車両のアクセル手段の開操作および閉操作であり、前記開操作によって前記モータが駆動され、前記閉操作によって該モータが惰性運転されることにより回生運転される点に第6の特徴がある。
【0014】
また、本発明は、3相ブラシレスモータのロータセンサのセンサ信号に基づいて前記モータの通電タイミングを制御する電動車両駆動用モータの出力制御方法において、前記モータを発電機として駆動させるステップと、所定のタイミングにてモータを駆動し、その後惰性運転させているときに前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップと、発電機として駆動される前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップと、前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップと、前記ゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するステップと、前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップと、前記記憶手段に記憶されている位相ずれに応じて、前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりの位置を補正し、該補正されたセンサ信号に基づいてモータに対する通電タイミングを制御するステップとからなる点に第7の特徴がある。
【0015】
また、本発明は、前記ゼロクロス点を検出するステップが、3相モータの各相ステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するように構成されており、前記ゼロクロス点を検出するステップで検出された位相ずれの平均値を算出するステップをさらに備えている点に第8の特徴がある。
【0016】
また、本発明は、前記モータを発電機として駆動させるステップと、発電機として駆動される前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップと、前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップと、前記ゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するステップと、前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップとが完成車検査工程で実行される点に第9の特徴がある。
【0017】
また、本発明は、前記モータを発電機として駆動させるステップと、発電機として駆動される前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップと、前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップと、3相モータの各相ステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するように構成された前記ゼロクロス点を検出するステップと、前記ゼロクロス点を検出するステップで検出された位相ずれの平均値を算出するステップと、前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップとが完成車検査工程で実行される点に第10の特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
第1、第7の特徴を有する本発明によれば、一旦モータを駆動させてその後に惰性運転をさせたときに生じるモータの誘起電圧のゼロクロスポイントとロータセンサからの出力信号の立ち上がり・立ち下がりのタイミングとを比較することで、ロータに対するロータセンサの取り付け位置の誤差を検出して、その誤差を補正した位置関係に基づく高精度なモータの出力制御を行うことができる。しかも、特許文献1に記載されている従来技術のようにセンサ側に整形回路を設ける必要はないので、部品点数の削減が可能であり、電動二輪車等、余分なスペースがない車両に好適である。
【0019】
第2、第8の特徴を有する本発明によれば、U、V、W各相の位相ずれの平均値を用いるので、平均値を記憶しておく記憶手段の容量が小さくてすむし、位相ずれの平均値を記憶手段から1回だけ読み出して即座に位相ずれを補正し、出力制御を行うことができるので、出力要求に対する高い応答性を実現できる。
【0020】
第3の特徴を有する本発明によれば、モータの1回転分において検出された複数の位相ずれ検出データを用いるので、より正確な補正が期待できる。
【0021】
第4、第9、第10の特徴を有する本発明によれば、検出された位相ずれは工場等における完成車検査工程で記憶手段に記憶されるので、ユーザが使用する上でなんら煩雑さをもたらすことがない。
【0022】
第5の特徴を有する本発明によれば、モータが有する回生発電能力によってロータセンサの位相ずれを検出することができる。
【0023】
第6の特徴を有する本発明によれば、アクセルグリップ等、アクセル手段を開閉するだけの操作で、ロータセンサの位相ずれデータを採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータの出力制御システムを示す回路図である。
【図2】ロータセンサとロータとの位置関係を示す図である。
【図3】ロータセンサのセンサ信号およびFETQ1〜Q6の通電パターンを示す図である。
【図4】進角0°時のステータコイルの誘起電圧波形と、ロータセンサのセンサ信号との関係を示す図である。
【図5】ロータセンサの出力電圧とモータに生ずる誘起電圧の関係を示す図である。
【図6】ロータセンサの位相ずれを検出する手順を示すフローチャートである。
【図7】センサ信号補正の概念図である。
【図8】位相ずれ検出手段と通電タイミング補正手段の要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動二輪車のモータ出力制御システムを示す回路図である。図1において、モータ出力制御システム100は、モータ1と、モータ1の出力制御部2と、出力制御部2に接続される電源(バッテリ)3とからなる。
【0026】
モータ1は電動二輪車の走行駆動用3相ブラシレスモータであり、ステータ4と、ステータに対向して配置され、ステータ4の外周でステータ4に対して回転するロータ(図示せず)とからなり、ステータ4には、3相のステータ巻線、つまりステータコイル4U、4V、4Wが巻かれている。ロータの周囲に、所定角度間隔(30°間隔)で配置した3つのホール素子51、52、53からなるロータセンサ5が設けられる。ロータに対するホール素子51、52、53の配置は、図2に関してさらに詳述する。
【0027】
出力制御部2は、ステータコイル4U、4V、4Wにそれぞれ対応したMOS−FET(以下、単に「FET」という)Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、およびQ6からなるブリッジ回路構成のDC−AC変換部(インバータ回路)21が設けられる。FETQ1〜Q6には、それぞれダイオードD1〜D6が並列に設けられる。なお、本実施形態では、モータ1による回生発電を行わせることがあり、その場合には、DC−AC変換部21は、発電機として動作させるモータ1の交流発電出力を直流に変換するためのAC−DC変換部として作用させる。
【0028】
FETQ1とQ4とは直列に接続され、その接続部aはステータコイル4Uに接続される。FETQ2とQ5とは直列に接続され、その接続部bはステータコイル4Wに接続される。FETQ3とQ6とは接続され、その接続部cはステータコイル4Vに接続される。
【0029】
FETQ1〜Q6の各ゲートは駆動回路22に接続される。駆動回路22は、ホール素子51、52、53の検出信号に基づいてFETQ1〜Q6の通電タイミングを決定するとともに、要求負荷に応じて通電デューティ(オン時間/(オン時間+オフ時間))を決定する。駆動回路22は、CPU23によって決定された通電タイミングとデューティによってFETQ1〜Q6を制御する。
【0030】
電源としてのバッテリ3は出力制御部2のパワーライン24とグランドライン25との間に接続される。コンデンサC1は、モータ1を回生運転させたときにパワーライン24およびグランドライン25間に生じる3相交流(回生電流)を平滑化するものである。CPU23は、ステータコイル4U、4V、4Wとグランドライン25との間の電位、および各ステータコイル間の電位を計測する機能を有する。
【0031】
図2は、ロータセンサとロータとの位置関係を示す図である。図2において、モータ1のロータ8には、位置検出用の永久磁石9が交互に極性を変えて機械角45°間隔で8個配置される。ホール素子51(U相)、52(V相)、53(W相)は、ロータ8の外周に沿って、30°(機械角)間隔で設けられる。ホール素子51〜53は基板10に保持させるのがよい。矢印Aはロータ8の回転方向を示す。
【0032】
図3は、ロータセンサ5のセンサ信号とFETQ1〜Q6の通電パターンを示す図である。図3の上段には、ロータセンサ側のタイミングを、中段にはモータ通電パターンを、下段には位相ずれを最大に補正したとき、つまり最大に進角・遅角させたときの、それぞれにおけるロータ角度に対するステージの対応を示す。
【0033】
図3において、ロータ回転角の機械角90°は電気角360°に対応し、U相センサ51のセンサ信号のオンタイミングを基準に電気角60°(機械角15°)毎のロータステージを設定している。すなわち、電気角0°〜60°が第1ステージ、電気角60°〜120°が第2ステージ、電気角120°〜180°が第3ステージ、電気角180°〜240°が第4ステージ、電気角240°〜300°が第5ステージ、電気角300°〜360°が第6ステージである。
【0034】
ホール素子51〜53は、ロータ8に配置される永久磁石9の回転に従ってその出力信号(センサ信号)が45°毎に切り替わる。例えば、永久磁石9のN極を検出している時間は、センサ信号がハイレベル(Vccレベル=オン)であり、S極を検出している時間は、センサ信号がローレベル(グランドレベル=オフ)となるように設定しておく。センサ信号は、N極検出時にオフ、S極検出時にオンとなるように設定しておいてもよい。
【0035】
ホール素子51、52、53は、図2に関して説明したように、それぞれ機械角30°ずらして配置されているので、ホール素子51(以下、「U相センサ51」という)のセンサ信号のオン・オフタイミングと、ホール素子52(以下、「V相センサ52」という)のセンサ信号のオン・オフタイミングの位相は機械角30°(電気角120°)ずれており、V相センサ52のセンサ信号のオン・オフタイミングと、ホール素子53(以下、「W相センサ53」という)のセンサ信号のオン・オフタイミングの位相は機械角30°(電気角120°)ずれている。同様に、W相センサ53のセンサ信号のオン・オフタイミングと、U相センサ51のセンサ信号のオン・オフタイミングの位相も機械角30°(電気角120°)ずれている。
【0036】
図3の中段において、進角0°(0deg)時の通電ステージは、ロータステージと対応する。U相ハイ側FETQ1は、ステージSTG1〜3でオン、ステージSTG4〜6でオフになるよう制御され、U相ロー側FETQ4は、ステージSTG1〜3でオフ、ステージSTG4〜6でPWM制御(デューティ制御)される。また、V相ハイ側FETQ3は、ステージSTG6〜2でオフ、ステージSTG3〜5でオン制御され、V相ロー側FETQ6は、ステージSTG6〜2でPWM制御、ステージSTG3〜5でオフ制御される。さらに、Wハイ側FETQ2は、ステージSTG2〜4でオフ、ステージSTG56、1でオン制御され、W相ロー側FETQ4は、ステージSTG2〜4でPWM制御、ステージSTG5、6、1でオフ制御される。
【0037】
この制御により、通電ステージSTG1、2では、バッテリ7の印加電圧により、FETQ1およびステータコイル4U、4V、FETQ6を、この順で電流が流れる。このときの電流は、U相ロー側FETQ6のデューティ比によって制御される。また、ステージSTG3、4では、バッテリ7の印加電圧により、FETQ3およびステータコイル4V、4W、FETQ5を、この順で電流が流れる。このときの電流は、W相ロー側FETQ5のデューティ比によって制御される。そして、STGステージ5、6では、バッテリ7の印加電圧により、FETQ2およびステータコイル4W、4U、FETQ4を、この順で電流が流れる。このときの電流は、W相ロー側FETQ4のデューティ比によって制御される。
【0038】
図3の下段において、後述する角度ずれ補正での進角最大時通電ステージおよび遅角最大時通電ステージは、進角0°時つまり所定の位置にロータセンサが取り付けられている理想的な状態と比べて、それぞれ2ステージ(電気角120°)進角および遅角させる。
【0039】
理想的な状態とは、モータ1の回生時にステータコイル4U、4V、4Wに誘起される電圧波形のゼロクロス点とU相、V相、W相のホール素子51、52、53の立ち上がり位置とが一致する状態である。
【0040】
図4は、進角0°時のステータコイル4U、4V、4Wの誘起電圧波形と、U、V、W各相のセンサ51〜53のセンサ信号(A/D変換後の信号)との関係を示す図である。図4に示すように、理想的な状態では、誘起電圧波形のゼロクロス点と、U、V、Wの各相センサ51〜53の、センサ信号の立ち上がり位置とは、タイミングt1、t2、t3でみられるようにそれぞれ一致している。
【0041】
次に、ロータセンサ5のU、V、W各相センサ51〜53の取り付け位置の誤差を検出する手段を説明する。図5は、ロータセンサ5の出力電圧とモータ1に生ずる誘起電圧の関係を示す図である。図5(a)には、モータ1の回生時に生ずるU−W相誘起電圧、V−U相誘起電圧、W−V相誘起電圧が示されている。図5(b)には、ロータセンサ5のうち、U相センサ51の出力波形(A/D変換後)が示されている。
【0042】
理想的な状態では、U相センサ51の出力波形の立ち上がりは、U−W相誘起電圧のゼロクロス点Uzと一致している。しかし、実際には、両者間にずれ角度つまり位相ずれΔxが存在する。この例ではU相センサ51のセンサ信号の立ち上がりが、U−W相誘起電圧のゼロクロス点Uzに対して遅れている。つまり位相ずれΔx51が生じている。なお、ゼロクロス点Uzは、図5(c)に示すグランドライン25を基準としたU相誘起電圧U−GNDとW相誘起電圧W−GNDとを比較し、U相誘起電圧U−GNDがW相誘起電圧W−GNDを上回ったときをもって検出される。つまり、ゼロクロス点Uzは、図5(d)に示した生成信号によって示される。この生成信号は、U相誘起電圧U−GNDがゼロまで下がったときに立ち下がる。生成信号の立ち上がりとU相信号51のセンサ信号の立ち上がりとの時間差がU相センサ51の位相ずれΔx51である。
【0043】
同様に、V−U相誘起電圧およびW−V相誘起電圧に対するV相センサ52およびW相センサ53のセンサ信号のずれに基づいて、V相センサ52およびW相センサ53の位相ずれΔx52、Δx53もそれぞれ検出される。
【0044】
図6は、ロータセンサ5の位相ずれを検出する手順を示すフローチャートである。ステップS1では、モータ1に通電する。モータ1に対する通電は、例えば、電動二輪車の完成車検査時に、電動二輪車のアクセルグリップを開方向に回すことによって、CPU23が電動二輪車の始動指示を検出して、アクセルグリップの回動量に応じたデューティの駆動信号をDC−AC変換部21から駆動回路22に出力することによって行う。
【0045】
なお、ここで行われるモータ1の駆動は、実際に電動二輪車を走行させるのではなく、ロータセンサ5の位置ずれを検出する目的のためであるので、アクセルグリップを、例えば、モータ動力が遠心クラッチにつながらない程度に開く。ステップS2では、アクセルグリップを閉側に戻す。これによってモータへの通電が停止される。ステップS1とステップS2の操作により、モータ1が惰性回転するので、この惰性回転によりモータ1は回生運転され、回生発電によってステータコイル4U、4V、4Wにはそれぞれ誘起電圧が発生する。
【0046】
ステップS3では、誘起電圧のゼロクロス点をステータコイル4U、4V、4Wのそれぞれに関して検出する。ステップS4ではロータセンサ5のU、V、Wの各相センサ51、52、53のセンサ信号の立ち上がりを検出する。ステップS5では、U、V、Wの、各相誘起電圧のゼロクロス点に対する各相センサ51、52、53のセンサ信号の、立ち上がりの位相ずれΔx51、Δx52、Δx53を算出する。
【0047】
ステップS6では、ホール素子51〜53のそれぞれの位相ずれΔx51、Δx52およびΔx53を平均する。つまり位相ずれの平均値Δxav=(Δx51+Δx52+Δx53)/3を算出する。ステップS7では、平均値Δxavを記憶させる。例えば、EEPROM等の記憶手段に格納する。
【0048】
なお、位相ずれを検出する動作モードに入るためのトリガ操作は、アクセルグリップを開く操作の他、例えば、ブレーキレバーを握ることや、電動車両に備えられるメータに設けることができるスイッチの操作等によって行ってもよい。また、ステップS1、2の操作に代えて、工場の完成車用テスタを使用したり、電動車両の駆動輪を載せることができるローラを回転させて、このローラによって駆動輪を回転させたりすることにより、駆動輪に連結されるモータ1から誘導起電力(回生電力)を得るようにしてもよい。
【0049】
また、位相ずれは、ゼロクロス点に対するセンサ信号の立ち上がり位置に関するものに限らず、ゼロクロス点に対するセンサ信号の立ち下がり位置に関するものであってもよい。
【0050】
次に、前記EEPROM等の記憶手段に格納した位相ずれの平均値Δxavによる通電タイミングの補正について説明する。この通電タイミングの補正は、工場等で行う完成車検査時ではなく、電動二輪車の使用に際して、電動二輪車自体で行われる。図7は、センサ信号補正の概念図である。図7(a)は、ロータセンサ5のセンサ信号の立ち上がりから位相Δxavが進んだ時にステータコイル(ここでは、ステータコイル4Uに関して説明する)の通電タイミングが到来するようにロータセンサ5がずれている場合である。この場合は、ロータセンサ5(ここでは、U相センサ51)の立ち上がりが検出されてから位相Δxavが進んだ時に、ステータコイル4Uに通電させる(遅角パターン)。通電パターンは、図3に示したとおりである。つまり、ロータセンサ5の立ち上がりから位相Δxav分遅らせた通電パターンで、FETQ1〜Q6をオン・オフまたはPWM制御する。
【0051】
また、図7(b)は、ロータセンサ5のセンサ信号の立ち上がりが、ステータコイル4Uの通電タイミングよりも位相Δxav分遅れて到来するようにロータセンサ5が位置ずれしている場合である。この場合は、ロータセンサ5のセンサ信号に先立ってステータコイル4Uに通電を開始するように制御する。ロータセンサ5のセンサ信号に基づいて、CPU23は、電気角60°毎に割込信号を発生する。つまり、電気角60°毎にロータステージの切り替わりを示す信号を出力する。したがって、例えば、ステージSTG6に入った時(−60°の位置が検出された時)に、次のステージSTG1(0°)が到来するタイミングが予測できる。そこで、ステージSTG5からステージSTG6に切り替わった時点からカウンタを走らせ、そのカウンタが予定値を計数した時にステージSTG1になったとみなしてステータコイル4Uに通電開始する。カウンタ値Δyは、1つのステージの長さ60°から位相角Δxavを減算した値とする。つまり、ステージSTG6から位相Δy(Δy=60°−Δxav)だけ進んだ時点でステータコイル4Uに通電する。
【0052】
図7(a)、(b)では、ステータコイル4Uに関する通電を示したが、ステータコイル4V、4Wについても同様である。但し、ステージについては、ステータコイル4Vはステータコイル4Uより2つ先のステージ、ステータコイル4Wはステータコイル4Uより4つ先のステージを基準に通電タイミングを計算する。
【0053】
上述の実施形態では、位相ずれの平均値Δxavを計算してモータ1の通電タイミングを制御した。このように平均値Δxavを使用してステータコイル4U、4V、4Wに対する通電タイミングを一律に補正すれば、U、V、Wの各相に関して計算した位相ずれΔxを個別に記憶しておく必要がなくなるので、位相ずれの平均値Δxavを記憶するためのメモリの容量が小さくてすむうえ、位相ずれの読み出しを含む制御応答性の向上が図られる。
【0054】
しかし、本発明の通電タイミング制御は、位相ずれの平均値Δxavを使うのに限らず
U、V、W各相について算出される各相センサ51、52、53のセンサ信号の位相と、ステータコイル4U、4V、4Wの誘起電圧のゼロクロス点との位相ずれΔx51、Δx52、Δx53をメモリに記憶しておき、これらの位相ずれに従って、ステータコイル4U、4V、4Wへの通電タイミングを個別に補正し、制御するようにしてもよい。
【0055】
図8は、位相ずれ検出手段と通電タイミング補正手段の要部を示すブロック図である。CPU23の機能によって実現される通電制御部11は、位相ずれ検出部11Aと通電タイミング補正部11Bとからなる。位相ずれ検出部11Aは、誘起電圧検出部12、ゼロクロス点検出部13、位相ずれ算出部14、および平均値算出部15からなる。通電タイミング補正部11Bは、割込信号発生部16、通電タイミング発生部17、およびカウンタ18を有する。位相ずれ格納部19はEEPROM等、不揮発性メモリからなる。回生指示部20は、電動二輪車に設けられるアクセルグリップ等、予め設定された入力手段である。
【0056】
回生指示部20は、モータ1を回生運転させるための指示を駆動回路22に入力する。つまり、電動二輪車の完成車検査時に、回生指示部20としてのアクセルグリップを開操作すると、モータ1は通電されて回転し、アクセルグリップの閉操作により回生運転する。
【0057】
誘起電圧検出部12は回生運転時にステータコイル4U、4V、4Wに発生する誘起電圧を検出する。ゼロクロス点検出部13は、誘起電圧検出部12で検出されたU、V、W各相の誘起電圧波形のゼロクロス点を検出する。位相ずれ算出部14は、ロータセンサ5(51、52、53)の立ち上がりとゼロクロス点との位相ずれΔx51、Δx52、Δx53を算出し、平均値算出部15に入力する。平均値算出部15は、位相ずれΔx51、Δx52、Δx53の平均値Δxavを算出し、位相ずれ格納部19に格納する。
【0058】
割込信号発生部16は、U相センサ51の立ち上がりを基準にして電気角60°毎に6つのステージの開始時に割込信号を発生する。カウンタ18には、位相ずれ格納部19から位相ずれΔxavに応じたカウンタ値が設定され、通電タイミング発生部17は、割込信号とカウンタ値とによって、図7(a)、(b)に関して説明した手順で通電タイミングを計算し、駆動回路22に通電タイミングを指示する。
【0059】
こうして、駆動回路22は、ロータセンサ5の取り付け誤差に起因する位相ずれを考慮して補正されたロータセンサ5のセンサ信号に従ってDC−AC変換部21のFETをオン・オフまたはPWM制御してモータ1を駆動することができる。
【0060】
なお、位相ずれは、ロータセンサ5のセンサ信号の1回だけの立ち上がりをゼロクロス点と比較して検出するのではなく、モータ1の1回転分、つまりロータ8に設けられるすべての永久磁石9に応答して変化するセンサ信号の立ち上がりを、それぞれゼロクロス点と比較して位相ずれを検出してもよい。モータ1の1回転について4箇所で立ち上がりが検出されるので位相ずれΔxのデータも4つ検出される。これら複数の位相ずれ検出値を平均してロータセンサ5のうち一つのセンサに関する位相ずれΔxavとすることができる。もちろん、モータ1の1回転のみならず、複数回転について位相ずれを検出して、それらの平均を算出してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…モータ、 2…出力制御部、 4U、4V、4W…ステータコイル、 5…ロータセンサ、 8…ロータ、 9…永久磁石、 11…通電制御部、 12…誘起電圧検出部、 13…ゼロクロス点検出部、 14…位相ずれ算出部、 15…平均値算出部、 16…割込信号発生部、 17…通電タイミング発生部、 18…カウンタ、 19…位相ずれ格納部、 20…回生指示部、 21…DC−AC変換部、 51…U相センサ、 52…V相センサ、 53…W相センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相ブラシレスモータ(1)におけるロータ(8)の回転位置を検出するため、モータ(1)の各相に対応して設けられるロータセンサ(51、52、53)と、バッテリ(3)から前記モータ(1)へ供給される電流を制御するインバータ回路(21)と、前記センサ信号に基づいて、前記インバータ回路(21)のスイッチング素子(Q1〜Q6)をPWM制御する制御部(23)とを有する電動車両駆動用モータの出力制御装置において、
前記制御部(23)が、外部から入力される発電指示に応答して前記インバータ回路(21)を制御して前記モータ(1)を発電機として運転させるように構成されているとともに、
前記制御部(23)は、所定のタイミングにてモータ(1)を駆動し、その後惰性運転させているときにモータ(1)のステータコイル(4U、4V、4W)のそれぞれに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出部(13)と、
前記ロータセンサ(51、52、53)のセンサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりと前記ゼロクロス点との位相ずれを算出する位相ずれ算出部(14)と、
前記位相ずれ算出部(14)で算出された位相ずれを記憶する記憶部(19)と、
前記記憶部(19)に格納されている位相ずれに基づいて該位相ずれを補正した前記モータ(1)に対する通電タイミングを発生する通電タイミング補正部(11B)とを備えていることを特徴とする電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項2】
前記位相ずれ算出部でU、V、W各相について検出された位相ずれ(Δx51、Δx52、Δx53)の平均値(Δxav)を算出する平均値算出部(15)をさらに備え、
前記通電タイミング補正部(11B)が、前記平均値(Δxav)に基づいて、前記U、V、W各相について検出されたロータセンサ(51、52、53)の位相ずれを補正した前記モータ(1)に対する通電タイミングを発生するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項3】
前記位相ずれの平均値が、モータ(1)が少なくとも1回転する間にセンサ信号のすべての立ち上がりまたは立ち下がりをゼロクロス点と比較して得たデータの平均値として算出されることを特徴とする請求項2記載の電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項4】
前記発電指示が、工場の完成車検査工程で入力されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項5】
前記発電指示が、前記モータ(1)の回生運転指示であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項6】
前記回生運転指示が、電動車両のアクセル手段の開操作および閉操作であり、
前記開操作によって前記モータ(1)が駆動され、前記閉操作によって該モータ(1)が惰性運転されることにより回生運転されることを特徴とする請求項5記載の電動車両駆動用モータの出力制御装置。
【請求項7】
3相ブラシレスモータのロータセンサのセンサ信号に基づいて前記モータの通電タイミングを制御する電動車両駆動用モータの出力制御方法において、
前記モータを発電機として駆動させるステップ(S1、S2)と、
所定のタイミングにてモータ(1)を駆動し、その後惰性運転させているときに前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップ(S3)と、
前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップ(S4)と、
前記ゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するステップ(S5)と、
前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップ(S7)と、
前記記憶手段に記憶されている位相ずれに応じて、前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりの位置を補正し、該補正されたセンサ信号に基づいてモータに対する通電タイミングを制御するステップとからなることを特徴とする電動車両駆動用モータの出力制御方法。
【請求項8】
前記ゼロクロス点を検出するステップ(S4)が、3相モータの各相ステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するように構成されており、
前記ゼロクロス点を検出するステップで検出された位相ずれの平均値を算出するステップ(S6)をさらに備えていることを特徴とする請求項7記載の電動車両駆動用モータの出力制御方法。
【請求項9】
前記モータを発電機として駆動させるステップ(S1、S2)と、
発電機として駆動される前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップ(S3)と、
前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップ(S4)と、
前記ゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するステップ(S5)と、
前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップ(S7)とが完成車検査工程で実行されることを特徴とする請求項7記載の電動車両駆動用モータの出力制御方法。
【請求項10】
前記モータを発電機として駆動させるステップ(S1、S2)と、
発電機として駆動される前記モータのステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点を検出するステップ(S3)と、
前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がりを検出するステップ(S4)と、
3相モータの各相ステータコイルに生じる誘起電圧のゼロクロス点に対する前記センサ信号の立ち上がりまたは立ち下がり位置の位相ずれを検出するように構成された前記ゼロクロス点を検出するステップと、
前記ゼロクロス点を検出するステップで検出された位相ずれの平均値を算出するステップ(S6)と、
前記位相ずれを記憶手段に記憶するステップ(S7)とが完成車検査工程で実行されることを特徴とする請求項8記載の電動車両駆動用モータの出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−60705(P2012−60705A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198814(P2010−198814)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】