説明

電動車両

【課題】 インバータに不具合が生じても意図しない減速が生じることを防止することができる電動車両を提供する。
【解決手段】 本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置は、車両に搭載されたバッテリから供給される電力により駆動するモータと、該モータの回転により生じる誘起電圧を前記バッテリの電圧以下となるように抑制制御する誘起電圧制御部と、前記車両に要求される要求駆動トルクに基づいて前記モータの回転数を制御するモータ回転数制御部と、前記要求駆動トルクと前記モータの回転数とから車両を走行させる発生駆動トルクを算出する発生駆動トルク算出部とを備える電動車両において、前記モータ回転数制御部は、前記誘起電圧制御部による抑制制御が不可の際に、前記モータに生じる前記誘起電圧が前記バッテリの電圧以下となるような最大回転数を設定して該最大回転数以下となるように前記モータの回転数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池からの電力によってモータを駆動して走行する電気自動車やハイブリッド車等の電動車両が、低公害性などの点から注目されている。例えば、いわゆるハイブリッド車両は、複数の二次電池が直列接続されたバッテリと、バッテリからの電力によって作動し車両に駆動力を付与すると共に、回生時には発電機として機能するモータ・ジェネレータと、燃料によって作動するエンジンとを有する。この車両では、エンジン又はモータ・ジェネレータからの出力もしくはエンジンとモータ・ジェネレータとの合計出力により駆動されるようになっている。
【0003】
モータ・ジェネレータとバッテリとは、インバータを介して接続されている。インバータは、例えばPWM制御によりバッテリから供給された直流電力を交流電力に変換してモータ・ジェネレータに供給するものであり、モータ・ジェネレータの駆動を制御するものである。
【0004】
電動車両の制御装置としては、例えば、自動車を運転する運転者の指示及び自動車の走行速度によりモータ電圧を制御する制御手段を備え、バッテリ電圧に応じて自動車の走行できる最高速度設定値を変化させ、走行速度が最高速度設定値以内になるようにモータ電圧を制御すると共に、この最高速度設定値を運転者に報知するバッテリ電圧対応型電気自動車制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された制御装置は、モータにより駆動される電気自動車の性能の変化を運転者に報知することで安全で信頼性の高い電気自動車を提供できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3200885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載された制御装置では、バッテリ電圧が所定値以下に低下した場合でも、自動車の性能の変化を運転者に報知することで性能に応じた安全運転が可能である。
【0007】
ところで、電動車両においてバッテリ電圧が低下した場合には、上記のような問題だけでなく以下のような問題が生じることも考えられる。即ち、車両が走行することによりモータ・ジェネレータが回転することでモータ・ジェネレータで誘起電圧が発生するが、バッテリ電圧が低い場合に車速が高いと、モータ・ジェネレータで生じる誘起電圧の方がバッテリ電圧よりも高くなることもある。この場合にモータ・ジェネレータの誘起電圧による電流がバッテリに流入するのを防止するために、インバータは、モータ・ジェネレータの回転数を制御してモータ・ジェネレータで発生する誘起電圧を制限し、誘起電圧がバッテリ電圧よりも低くなるようにしている。
【0008】
しかしながら、インバータに不具合(例えばダイオードの故障等)が生じると、このようにモータ・ジェネレータで発生する誘起電圧を制限できず、モータ・ジェネレータの誘起電圧による電流がバッテリに流入してしまい、その結果回生トルクが発生する。そうすると、高速走行中の場合には意図しない減速が生じて運転の安定性が極端に低下する可能性が生じるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、インバータに不具合が生じても意図しない減速が生じることを防止することができる電動車両を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動車両は、車両に搭載されたバッテリから供給される電力により駆動するモータと、該モータの回転により生じる誘起電圧を前記バッテリの電圧以下となるように抑制制御する誘起電圧制御部と、前記車両に要求される要求駆動トルクに基づいて前記モータの回転数を制御するモータ回転数制御部と、前記要求駆動トルクと前記モータの回転数とから車両を走行させる発生駆動トルクを算出する発生駆動トルク算出部と、を備える電動車両において、前記モータ回転数制御部は、前記誘起電圧制御部による抑制制御が不可の際に、前記モータに生じる前記誘起電圧が前記バッテリの電圧以下となるような最大回転数を設定して該最大回転数以下となるように前記モータの回転数を制御することを特徴とする。
【0011】
かかる電動車両では、モータ・ジェネレータで発生する誘起電圧がバッテリの電圧を越えないように、常にモータの回転数を制御することにより、例え、誘起電圧制御部による抑制制御が不能に陥ったとしても、誘起電圧がバッテリの電圧を超えることはなく、モータ・ジェネレータからバッテリに逆電流が流れることにより生じる車両の不安定なトルク変動を回避することができる。
【0012】
本発明の好適な実施形態としては、前記発生駆動トルク算出部は、前記設定された最大回転数と前記車両の前記モータの回転数との差に基づいて定められる制限率を前記要求駆動トルクに乗じて前記発生駆動トルクを算出することが好ましい。
【0013】
また、前記車両の車速を検出する車速検出部と、前記誘起電圧が前記バッテリの電圧以下となる車速である制限車速を算出する制限車速演算部とをさらに備え、前記発生駆動トルク算出部は、算出された該制限車速と前記車両の車速との差に基づいて定められる制限率を前記車両に要求される前記要求駆動トルクに乗じて前記発生駆動トルクを算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電動車両によれば、誘起電圧制御部に不具合が生じても意図しないトルク変動、特に極端な減速が生じることを防止することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のハイブリッド車両を説明するための概略図である。
【図2】実施形態1にかかるECUの概略構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態1にかかる(1)車速とアクセル開度に対する要求トルクを示すマップ、(2)バッテリ電圧に対する制限誘起電圧を示すマップである。
【図4】実施形態1にかかる(1)制限誘起電圧に対する目標回転数を示すマップ、(2)回転数余裕値に対するトルク制限率を示すマップである。
【図5】実施形態1にかかる制御工程を示すフローチャートである。
【図6】実施形態2にかかるECUの概略構成を示すブロック図である。
【図7】実施形態2にかかるバッテリ電圧に対する制限車速を示すマップである。
【図8】実施形態2にかかる車速余裕値に対するトルク制限率を示すマップである。
【図9】実施形態2にかかる制御工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
本発明の第1実施形態について、図1〜5を用いて説明する。本実施形態においては、エンジンとモータ・ジェネレータを備えた電動車両であるハイブリッド電気自動車(HEV)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すように、電動車両である車両1には駆動用のエンジン2が備えられている。エンジン2には、エンジンに燃料を供給するための燃料タンク3が接続されている。
【0018】
エンジン2は、変速機(T/M)4を介して車両1の前輪5に接続されていると共に、モータ・ジェネレータ(M/G)6に接続されている。モータ・ジェネレータ6は、エンジン2をアシストして駆動力を車両1に与えるモータ機能と、減速時に回生発電を行う発電機機能を有している。
【0019】
また、車両1にはバッテリ7が備えられ、バッテリ7はインバータ8を介してモータ・ジェネレータ6に接続されている。バッテリ7に蓄えられた電力は、インバータ8で直流から交流に変換されてモータ・ジェネレータ6に流入し、これによりモータ・ジェネレータ6が駆動される。また、車両1の減速時の回生発電電力は、インバータ8で交流から直流に変換されてバッテリ7に流入し、バッテリ7が充電される。
【0020】
また、車両1は、車両1の統合制御を行う電子制御装置であるECU(Electronic Control Unit)10を備える。ECU10は、例えば、エンジン2やインバータ8の駆動制御を行う。
【0021】
このような本実施形態における車両1は、いわゆるパラレル方式のハイブリッド車両であり、エンジン2又はモータ・ジェネレータ6からの出力もしくはエンジン2とモータ・ジェネレータと6の合計出力により駆動されるようになっている。
【0022】
ここで、車両1では、バッテリ7のSOC(State Of Charge:充電状態)が低いことによりバッテリ電圧が低いと、車両1の走行に伴ってモータ・ジェネレータ6が回転することで発生した誘起電圧がこのバッテリ電圧よりも高くなる場合が考えられる。本実施形態のECU10は、このような場合に誘起電圧がバッテリ電圧よりも高くならないように、所定の場合には運転者(ドライバ)が要求する要求トルクを制限した車両のトルクを設定し、この車両トルクに基づいてモータ・ジェネレータ6を駆動して車両1を走行させるための制御装置を有する。以下、具体的にECU10が有する制御装置について図2を用いて説明する。
【0023】
図2に示すように、ECU10は、ドライバ要求トルク演算部11と、制限誘起電圧演算部(誘起電圧制御部)12と、目標回転数演算部(モータ回転数制御部)13と、トルク制限率演算部14と、車両トルク演算部(発生駆動トルク算出部)15とを備える。
【0024】
ドライバ要求トルク演算部11は、車両の室内に設置されたアクセルペダル21(図1中では図示しない)のアクセル開度を取得する。また、ドライバ要求トルク演算部11は、車両に設けられ、車両の現在の車速を検出する車速検出部(図1中では図示しない)22で検出された車速を取得する。そして、ドライバ要求トルク演算部11は、ドライバが要求する要求トルクTdを、取得した車速とアクセル開度に基づいて図3(1)に示すマップから算出する。本実施形態では、制御で用いる各マップは、ECU10の図示しない記録部に記録されている。なお、本実施形態で算出とは、計算により算出することだけでなく、このようにマップから値を取得することも含まれる。
【0025】
図3(1)に示すように、ドライバが要求する要求トルクTdは、アクセル開度が100%とアクセル開度が10%である時では、同じ車速であっても分布が異なるが、どちらも車速が低いうちはドライバの要求トルクTdは高く、車速が高くなるにつれてドライバの要求トルクTdは低くなる。なお、図3(1)に示すマップでは、アクセル開度が100%とアクセル開度が10%である場合のみ例示してあるが、アクセル開度毎にマップを有している。ドライバ要求トルク演算部11は、算出した要求トルクTdを車両トルク演算部15へ送出する。
【0026】
制限誘起電圧演算部12は、バッテリ7(図1参照)の電圧を検出するバッテリ電圧検出部(図1中図示しない)23からバッテリで検出されたバッテリ電圧Vbを取得する。そして、このバッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧以下であるかどうかを判定する。バッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧よりも大きい場合には、制限誘起電圧演算部12は、詳しくは後述する制限率Glが1であることを車両トルク演算部15に送出する。
【0027】
バッテリ電圧Vbが判定電圧以下であれば、バッテリ電圧Vbが十分に小さいため誘起電圧がバッテリ電圧Vbを越える可能性があるとして以下説明するように誘起電圧を制限するような制御を開始する。そして、制限誘起電圧演算部12は、バッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧以下である場合には、このバッテリ電圧Vbから、現在の状況における制限誘起電圧Vlを図3(2)に示すマップを用いて演算する。
【0028】
ここで、制限誘起電圧Vlとは、バッテリ電圧を越えない(バッテリ電圧以下の電圧である)電圧の最大値をいう。つまり、制限誘起電圧演算部12は、現在のバッテリのバッテリ電圧から、バッテリ電圧を超えないで許容される最大の誘起電圧を算出している。この最大の誘起電圧に基づいてモータ・ジェネレータの回転数を設定することで、制御装置は誘起電圧がバッテリ電圧を超えないようにモータ・ジェネレータの回転数を制限できる。
【0029】
理論的には、この制限誘起電圧Vlはバッテリ電圧Vbと一致するが、本実施形態では、図3(2)に示すように、バッテリ電圧Vbに対する制限誘起電圧Vlの傾きは1よりもやや小さい。即ち、制限誘起電圧Vlはバッテリ電圧Vbよりもやや低い値となるように余裕をもって設定されており、誘起電圧がバッテリ電圧Vbよりも高い値となってインバータ故障時にモータ・ジェネレータからバッテリに流入しないように構成している。制限誘起電圧演算部12は、得られた制限誘起電圧Vlを目標回転数演算部13へ送出する。
【0030】
目標回転数演算部13は、取得した制限誘起電圧Vlから、図4(1)に示すマップを用いて目標回転数(最大回転数)Rtを算出する。目標回転数Rtとは、エンジンの回転に伴ったモータ・ジェネレータの回転により発生する誘起電圧の電圧値が制限誘起電圧Vlとなる時のモータ・ジェネレータの回転数をいう。図4(1)に示すように、目標回転数(最大回転数)Rtは、制限誘起電圧Vlが小さいほど低くなるように設定されている。そして、目標回転数演算部13は、モータ・ジェネレータを目標回転数以下で回転制御するとともに得られた目標回転数Rtをトルク制限率演算部14へ送出する。
【0031】
トルク制限率演算部14は、現在のモータの回転数であるモータ回転数を検出するモータ回転数検出部(図1中では図示せず)24で検出されたモータ回転数Rnを取得する。そして、目標回転数演算部13から取得した目標回転数Rtから、このモータ回転数Rnを減ずることで、回転数余裕値Rmを算出する(即ち、Rm=Rt−Rn)。トルク制限率演算部14は、算出された回転数余裕値Rmから、図4(2)に示すマップを用いてトルクの制限率Glを導出する。ここでトルクの制限率Glとは、誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように現在のドライバが要求する要求トルクをどの程度制限する必要があるのかを示すものである。制限率Glが1である場合は、要求トルクには制限は必要なく、制限率Glが1よりも小さくなればなるほど、要求トルクには制限が必要であることを示す。例えば、制限率Glが1であれば、要求トルクの100%を車両トルクとすることができ、制限率Glが0.2であれば、要求トルクの20%が車両トルクとなる。
【0032】
図4(2)に示すように、トルクの制限率Glは、0から所定値までは回転数余裕値Rmが大きくなるほど大きくなり、1に近づく。そして、トルクの制限率Glが1になると、その後は、回転数余裕値Rmが大きくなってもトルクの制限率Glは変動しない。
【0033】
即ち、回転数余裕値Rmが大きい場合には、現在のモータ・ジェネレータの回転数で生じる誘起電圧は制限誘起電圧よりもだいぶ小さいので、要求トルクに制限をかける必要はない。従って、トルクの制限率Glは1となる。また、回転数余裕値Rmが小さい場合とは、現在のモータ・ジェネレータの回転数で生じる誘起電圧は制限誘起電圧に近いので、要求トルクに制限をかける必要がある。従って、回転数余裕値Rmに応じて制限率を1以下にする。トルク制限率演算部14は、トルクの制限率Glを車両トルク演算部15へ送出する。
【0034】
車両トルク演算部15は、ドライバ要求トルク演算部11から取得した要求トルクTdと、トルク制限率演算部14から取得したトルクの制限率Glとから、車両トルクTvを導出する。即ち、要求トルクTdにトルクの制限率Glを乗じて車両トルクTvを算出する(Tv=Td×Gl)。ECU10は、車両の運転状態に応じて、この算出した車両トルクTvをエンジンに駆動トルクとして付与する。この駆動トルクは、上述したようにドライバの要求トルクTdを、モータ・ジェネレータが回転して生じる誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように制限したものであるから、この駆動トルクに応じてエンジンが回転することで生じる誘起電圧は、バッテリ電圧を超えることがない。従って、例えインバータ8に不具合が生じたとしても意図しない減速が発生することを防止できる。
【0035】
以下、フローチャートである図5も用いて制御装置の作動をさらに説明する。
【0036】
制御装置は、車両が走行している際に所定のタイミング毎に制御をスタートさせる。制御がスタートすると初めにステップS1でドライバ要求トルク演算部11によりドライバの要求トルクTdを算出する。ステップS2へ進む。
【0037】
ステップS2では、制限誘起電圧演算部12が、バッテリ電圧Vbが判定電圧以下であるかどうかを判定する。そして、判定電圧よりもバッテリ電圧Vbが高い場合(NO)には、ステップS3へ進む。バッテリ電圧Vbが判定電圧以下である場合(YES)には、ステップS4へ進む。
【0038】
ステップS3では、制限誘起電圧演算部12が、トルクの制限率Glを1と設定する。ステップS8へ進む。
【0039】
ステップS4では、制限誘起電圧演算部12が、取得したバッテリ電圧Vbから、制限誘起電圧Vlを算出する。ステップS5へ進む。
【0040】
ステップS5では、目標回転数演算部13が、取得した制限誘起電圧Vlから、目標回転数Rtを算出する。ステップS6へ進む。
【0041】
ステップS6では、トルク制限率演算部14が、取得した目標回転数Rtから、取得したモータ回転数Rnを減じて回転数余裕値Rmを算出する。ステップS7へ進む。
【0042】
ステップS7では、トルク制限率演算部14が、取得した回転数余裕値Rmから制限率Glを算出する。ステップS8へ進む。
【0043】
ステップS8では、車両トルク演算部15が、取得した制限率Glと取得した要求トルクTdとから、車両トルクTvを算出する。以上により制御が終了する。ECU10は、この車両トルクTvに基づいて車両の駆動トルクを設定し、これに応じてエンジン及びモータ・ジェネレータを駆動する。
【0044】
制御装置は、以上の制御を繰り返すことで、車両が走行している際に、バッテリ電圧よりもモータ・ジェネレータで発生する誘起電圧が常に低くなるように車両トルクTvを設定できる。
【0045】
このように、図1に示すECU10でかかる制御を行うことで、インバータ8に不具合が生じたとしても、モータ・ジェネレータ6の誘起電圧は常にバッテリ7の電圧よりも低くなるので、バッテリ7に誘起電圧に伴う電流が流入しない。これにより、例えば高速運転時に回生トルクが発生しないので意図しない減速が生じない。
【0046】
即ち、従来では、車両が高速で走行している際は、インバータによって誘起電圧がバッテリ電圧を下回るようにモータ・ジェネレータの回転数を制御しており、もちろんバッテリ電圧に応じて最高速度が制限されることがあったとしても、誘起電圧に応じてエンジンの駆動(即ち車速)が制限されることはなかった。しかしながら、このように車速が制限されないと、インバータに不具合が生じた場合には、モータ・ジェネレータで生じる誘起電圧がバッテリ電圧よりも高くなり、モータ・ジェネレータからバッテリに電流が流入し回生トルクが発生してしまうことがあった。
【0047】
これに対し、ECU10による本実施形態の制御を行えば、車速が制限されることにより、エンジンの回転数が低下してこれに同期するモータ・ジェネレータの誘起電圧も低くなる。このようにして、モータ・ジェネレータの誘起電圧が常にバッテリ電圧よりも低くなるので、回生トルクの発生を防止することができる。そして、これにより、車両の安定性を確保することが可能である。
【0048】
なお、本実施形態では、要求トルクを制限するトルク制限率を設定し、トルク制限率に基づいて車両トルクを設定しこれにより車速を決定しているので、ドライバが要求するほどは加速できない場合があるとしても、回生トルクが生じて減速することがない。従って、例えば高速運転時に回生トルクが発生しないので意図しない減速が生じない。
【0049】
(実施形態2)
本発明の別の実施形態について図6〜図9に基づいて説明する。なお、図6〜図9において図1〜図5と同一の構成要素については同一の符号が付してある。
【0050】
本実施形態では、ECU10Aは、図6に示すように、実施形態1にかかる制限誘起電圧演算部12(図2参照)、目標回転数演算部13(図2参照)に変えて、制限車速演算部16を備える点が実施形態1とは異なる。以下、ECU10Aの構成について詳細に説明する。
【0051】
ECU10Aは、ドライバ要求トルク演算部11と、制限車速演算部16と、トルク制限率演算部14と、車両トルク演算部15とを備える。
【0052】
ドライバ要求トルク演算部11は、実施形態1と同様にアクセルペダル21と車速検出部22とからドライバの要求トルクTdを算出し、車両トルク演算部15へ送出する。
【0053】
制限車速演算部16は、バッテリ7(図1参照)の電圧を検出するバッテリ電圧検出部(図1中図示しない)23からバッテリで検出されたバッテリ電圧Vbを取得する。そして、このバッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧以下であるかどうかを判定する。バッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧よりも大きい場合には、制限車速演算部16は、詳しくは後述する制限率Glが1であることを車両トルク演算部15に送出する。
【0054】
バッテリ電圧Vbが判定電圧以下であれば、バッテリ電圧Vbが十分に小さいため誘起電圧がバッテリ電圧Vbを越える可能性があるとして以下説明するように誘起電圧を制限するような制御を開始する。制限車速演算部16は、バッテリ電圧Vbが閾値である判定電圧以下である場合には、このバッテリ電圧Vbから、現在の状況における制限車速Slを図7に示すマップを用いて演算する。
【0055】
ここで、制限車速Slとは、バッテリ電圧を越えない(バッテリ電圧以下の電圧である)電圧の最大値となる場合の車速をいう。つまり、制限車速演算部16は、現在のバッテリのバッテリ電圧から、バッテリ電圧を超えないで許容される最大の誘起電圧となる車速を算出している。ここの最大の誘起電圧に基づいて車速を設定することで、制御装置は誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように要求トルクを制限できる。
【0056】
図7に示すように、バッテリ電圧Vbに対する制限車速Slを示すマップでは、バッテリ電圧Vbが高くなるにつれて制限車速Slも高くなる。制限車速演算部16は、得られた制限車速Slをトルク制限率演算部14へ送出する。
【0057】
トルク制限率演算部14は、車速検出部22で検出された車速Sを取得する。そして、制限車速演算部16から取得した制限車速Slから、この車速Sを減ずることで、車速余裕値Smを算出する(即ち、Sm=Sl−S)。トルク制限率演算部14は、算出された車速余裕値Smから、図8に示すマップを用いてトルクの制限率Glを導出する。
【0058】
図8に示すように、トルクの制限率Glは、0から所定値までは車速余裕値Smが大きくなるほど大きくなり、1に近づく。そして、トルクの制限率Glが1になると、その後は、車速余裕値Smが大きくなってもトルクの制限率Glは変動しない。
【0059】
即ち、車速余裕値Smが大きい場合には、現在のモータの回転数で生じる誘起電圧は制限車速よりもだいぶ小さいので、要求トルクに制限をかける必要はない。従って、制限率は1となる。また、車速余裕値Smが小さい場合とは、現在のモータの回転数で生じる誘起電圧は制限車速に近いので、要求トルクに制限をかける必要がある。従って、車速余裕値Smに応じて制限率を1以下にする。トルク制限率演算部14は、トルクの制限率Glを車両トルク演算部15へ送出する。
【0060】
車両トルク演算部15は、実施形態1と同様にドライバ要求トルク演算部11から取得した要求トルクTdと、トルク制限率演算部14から取得したトルクの制限率Glとから、車両トルクTvを導出する。ECU10Aは、車両の運転状態に応じて、この算出した車両トルクTvをエンジン及びモータ・ジェネレータに駆動トルクとして付与する。本実施形態においても、実施形態1と同様に、この駆動トルクは、上述したようにドライバの要求トルクTdを、モータ・ジェネレータが回転して生じる誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように制限したものである。従って、この駆動トルクに応じてエンジンが回転することで生じる誘起電圧は、バッテリ電圧を超えることがない。その結果、例えインバータ8に不具合が生じたとしても意図しない減速が発生することを防止できる。
【0061】
以下、フローチャートである図9も用いて制御装置の作動をさらに説明する。
【0062】
制御装置は、実施形態1と同様にエンジンのみの駆動力で走行している際に所定のタイミング毎に制御をスタートさせる。初めにステップS1で、実施形態1と同様にドライバ要求トルク演算部11によりドライバの要求トルクTdを算出する。ステップS2へ進む。
【0063】
ステップS2では、制限車速演算部16が、バッテリ電圧Vbが判定電圧以下であるかどうかを判定する。そして、判定電圧よりもバッテリ電圧Vbが高い場合(NO)には、ステップS3へ進む。バッテリ電圧Vbが判定電圧以下である場合(YES)には、ステップS9へ進む。
【0064】
ステップS3では、制限車速演算部16が、制限率Glを1と設定する。ステップS8へ進む。
【0065】
ステップS9では、制限車速演算部16が、取得したバッテリ電圧Vbから、制限車速Slを算出する。ステップS10へ進む。
【0066】
ステップS10では、トルク制限率演算部14が、取得した制限車速Slから、取得した車速Sを減じて車速余裕値Smを算出する。ステップS11へ進む。
【0067】
ステップS11では、トルク制限率演算部14が、算出した車速余裕値Smから車速の制限率Glを算出する。ステップS8へ進む。
【0068】
ステップS8では、車両トルク演算部15が、取得した制限率Glと取得した要求トルクTdとから、車両トルクTvを算出する。以上により制御が終了する。
【0069】
制御装置は、以上の制御を繰り返すことで、車両が走行している際にバッテリの状態に基づいてバッテリ電圧よりも誘起電圧が低くなるように車速から車両トルクTvを設定できる。
【0070】
本実施形態においても、図6に示すECU10Aでかかる制御を行うことで、エエンジン及びモータ・ジェネレータの駆動トルクが制限されることにより、モータ・ジェネレータの誘起電圧も低くなる。このようにして、モータ・ジェネレータの誘起電圧が常にバッテリ電圧よりも低くなるので、回生トルクの発生を防止することができる。そして、これにより、車両の安定性を確保することが可能である。
【0071】
このように、本発明においては、インバータを用いずに、バッテリ電圧が低下した場合に、モータ・ジェネレータの誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように、ECU10Aは、車両トルクを制限した。このような本発明にかかる制御を、本実施形態では上述のように車速を用いて行い、また実施形態1ではトルクを用いて行うことで、簡易に、かつ効率的に行うことができる。
【0072】
上述した各実施形態では、トルク制限率を求め、要求トルクをトルク制限率に基づいて制限したが、これに限定されない。要求トルクをモータ・ジェネレータで発生する誘起電圧がバッテリ電圧を超えないように制限できればよい。例えば、要求トルクに常に0.8を乗じて車両トルクを求めるように構成してもよい。
【0073】
上述した各実施形態では走行中を通じて所定のタイミング毎に行うようにしたが、これに限定されない。例えば、エンジン走行中においてインバータの故障判定が行われた場合にのみかかる制御が行われるように構成してもよい。このように電動車両が構成された場合には、インバータが故障していたとしてもモータ・ジェネレータの誘起電圧が常にバッテリ電圧よりも低くなるので、回生トルクの発生を防止することができる。
【0074】
また、上述した各実施形態では制限車速や制限誘起電圧をそれぞれ誘起電圧がバッテリ電圧を超えないで許容される最大値であるとしたが、これに限定されない。誘起電圧がバッテリ電圧を超えないで許容される値であれば最大値でなくてもよい。ただし、最大値であれば最も車速が制限されにくいという利点がある。
【0075】
上述した実施形態ではバッテリの電圧を検出し、このバッテリ電圧に基づいて誘起電圧の制御をしているが、バッテリのSOCにより、目標誘起電圧を設定して誘起電圧を制御してもよい。
【0076】
更に、上述した各実施形態ではハイブリッド車両について説明したが、これに限定されない。例えば、エンジンを有さない電気自動車にも適用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 車両
2 エンジン
3 燃料タンク
5 前輪
6 モータ・ジェネレータ
7 バッテリ
8 インバータ
11 ドライバ要求トルク演算部
12 制限誘起電圧演算部
13 目標回転数演算部
14 トルク制限率演算部
15 車両トルク演算部
16 制限車速演算部
21 アクセルペダル
22 車速検出部
Gl 制限率
Rm 回転数余裕値
Rn モータ回転数
Rt 目標回転数
S 車速
Sl 制限車速
Sm 車速余裕値
Td 要求トルク
Tv 車両トルク
Vb バッテリ電圧
Vl 制限誘起電圧


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリから供給される電力により駆動するモータと、
該モータの回転により生じる誘起電圧を前記バッテリの電圧以下となるように抑制制御する誘起電圧制御部と、
前記車両に要求される要求駆動トルクに基づいて前記モータの回転数を制御するモータ回転数制御部と、
前記要求駆動トルクと前記モータの回転数とから車両を走行させる発生駆動トルクを算出する発生駆動トルク算出部とを備える電動車両において、
前記モータ回転数制御部は、前記誘起電圧制御部による抑制制御が不可の際に、前記モータに生じる前記誘起電圧が前記バッテリの電圧以下となるような最大回転数を設定して該最大回転数以下となるように前記モータの回転数を制御することを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記発生駆動トルク算出部は、前記設定された最大回転数と前記車両の前記モータの回転数との差に基づいて定められる制限率を前記要求駆動トルクに乗じて前記発生駆動トルクを算出することを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記車両の車速を検出する車速検出部と、
前記誘起電圧が前記バッテリの電圧以下となる車速である制限車速を算出する制限車速演算部とを備え、
前記発生駆動トルク算出部は、算出された該制限車速と前記車両の車速との差に基づいて定められる制限率を前記車両に要求される前記要求駆動トルクに乗じて前記発生駆動トルクを算出することを特徴とする請求項1記載の電動車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−157178(P2012−157178A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14599(P2011−14599)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】