説明

電子デバイス及びその製造方法

【課題】2枚のガラス基板間にスペーサを配置して封止する際に、レーザ封着によるスペーサやガラス基板のクラックや割れ等の発生を抑制することによって、封止性やその信頼性を高めた電子デバイスとその製造方法を提供する。
【解決手段】電子デバイスは、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とこれらガラス基板2、3間に設けられる電子素子部とを具備する。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間は、スペーサ6と第1の封着層7と第2の封着層8とで封着される。第2の封着層8はレーザ光を吸収する第2の封着用ガラス材料のレーザ光による溶融固着層からなる。第2の封着層8はガラス基板2、3の積層方向を含む断面において、第1の封着層7と該積層方向に重ならないように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、電界放出ディスプレイ(Feild Emission Dysplay:FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)では、表示素子を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板間を封着したガラスパッケージで表示素子を封止した構造が適用されている(特許文献1参照)。色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(光電変換素子)を封止したガラスパッケージを適用することが検討されている(特許文献2参照)。
【0003】
2枚のガラス基板間を封止する封着材料には、耐湿性等に優れる封着ガラスの適用が進められている。封着ガラスによる封着温度は400〜600℃程度であるため、焼成炉を用いて加熱した場合には、有機EL(OEL)素子や色素増感型太陽電池素子等の電子素子部の特性が劣化するおそれがある。このような点に対して、2枚のガラス基板の周辺部に設けられた封止領域間にレーザ吸収材を含む封着材料層(封着用ガラス材料の焼成層)を配置し、これにレーザ光を照射し加熱、溶融させて封着層を形成することが試みられている(特許文献1,2参照)。
【0004】
FPDや太陽電池を構成するガラスパッケージにおいて、表示素子や太陽電池素子の構造によっては2枚のガラス基板の間隔(ギャップ)を例えば200μm以上というように広くする必要がある。このような広い間隔を封着層(封着材料層をレーザ光で加熱、溶融させてガラス基板に接着させた層)のみで封止することは困難であることから、2枚のガラス基板間にスペーサ(支持枠)を配置し、2枚のガラス基板とスペーサとの間をそれぞれ封着層で接着した構造を適用することが検討されている(特許文献3参照)。
【0005】
スペーサを使用する場合、まず第1のガラス基板の封止領域にレーザ吸収材を含まない第1の封着用ガラス材料を焼き付けて第1の封着材料層を形成する。次いで、第1の封着材料層上に枠状のスペーサを配置し、これを焼成炉で加熱して第1のガラス基板とスペーサとを第1の封着層を介して接着する。これとは別に第2のガラス基板の封止領域にレーザ吸収材を含む第2の封着用ガラス材料を焼き付けて第2の封着材料層を形成する。次に、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを、スペーサと第2の封着材料層とが接するように積層した後、第2のガラス基板を通してレーザ光を照射し第2の封着材料層を加熱、溶融させて、第2のガラス基板とスペーサとを第2の封着層を介して接着する。
【0006】
上述したように、2枚のガラス基板の間隔を広くする必要がある場合においても、スペーサを使用することで構造的には封止が可能になるものの、第2のガラス基板を通して第2の封着材料層にレーザ光を照射する際に、スペーサや第1のガラス基板にクラックや割れ等が生じるおそれがある。すなわち、レーザ照射により第2の封着材料層に生じた熱はスペーサに伝わり、さらに第1の封着層を介して第1のガラス基板に伝熱される。第2の封着材料層で生じた熱が第1のガラス基板にまで伝わると、第2の封着材料層の形状によってはスペーサ内に温度勾配が生じる。
【0007】
このようなスペーサ内の温度勾配はレーザ照射時におけるスペーサのクラックや割れ等の発生原因となる。また、第1のガラス基板への伝熱量が多いと第1のガラス基板にクラックや割れ等が発生しやすくなる。さらに、第1のガラス基板やスペーサに発生したクラックや割れが進展して、第2のガラス基板の割れにつながる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2008−115057号公報
【特許文献3】特開2000−251722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、2枚のガラス基板間にスペーサを配置して封止する際に、レーザ封着によるスペーサやガラス基板のクラックや割れ等の不具合の発生を抑制することによって、ガラス基板間の封止性やその信頼性を高めることを可能にした電子デバイスとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様に係る電子デバイスは、第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有し、前記第2の表面が前記第1の表面と対向するように、前記第1のガラス基板上に所定の間隔を持って積層された第2のガラス基板と、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部と、前記電子素子部を囲うように、前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に配置されたスペーサと、前記第1のガラス基板と前記スペーサとを接着するように形成され、第1の封着用ガラス材料の溶融固着層からなる第1の封着層と、前記第2のガラス基板と前記スペーサとを接着するように形成され、レーザ光を吸収する第2の封着用ガラス材料のレーザ光による溶融固着層からなる第2の封着層とを具備する電子デバイスであって、前記第2の封着層は、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との積層方向を含む断面において、前記第1の封着層と前記積層方向に重ならないように配置されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の態様に係る電子デバイスの製造方法は、第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域上に、第1の封着用ガラス材料の溶融固着層からなる第1の封着層を介してスペーサを接着する工程と、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上、又は前記スペーサ上に、レーザ光を吸収する第2の封着用ガラス材料の焼成層からなる封着材料層を形成する工程と、前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記スペーサ及び前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記第1のガラス基板又は前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層にレーザ光を照射して、前記封着材料層の溶融固着層からなる第2の封着層を介して前記スペーサと前記第2のガラス基板とを接着し、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する工程とを具備する電子デバイスの製造方法であって、前記封着材料層は、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との積層方向を含む断面において、前記第1の封着層と前記積層方向に重ならないように形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様に係る電子デバイスとその製造方法によれば、2枚のガラス基板間にスペーサを配置してレーザ封着する際のスペーサやガラス基板のクラックや割れ等を抑制することができる。従って、ガラス基板間の封止性やその信頼性を高めた電子デバイスを再現性よく提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による電子デバイスを示す断面図である。
【図2】図1に示す電子デバイスの一部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図4】図3に示す電子デバイスの製造工程で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿った断面図である。
【図6】図3に示す電子デバイスの製造工程で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
【図7】図6のA−A線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態による電子デバイスの構成を示す図、図2は図1に示す電子デバイスの一部を拡大して示す断面図、図3は本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す図、図4及び図5はそれに用いる第1のガラス基板の構成を示す図、図6及び図7はそれに用いる第2のガラス基板の構成を示す図である。
【0015】
図1に示す電子デバイス1は、OELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子等の発光素子を使用した照明装置(OEL照明等)、色素増感型太陽電池のような太陽電池、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のような電子部品等を構成するものである。電子デバイス1は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを具備している。第1及び第2のガラス基板2、3は、例えば各種公知の組成を有する無アルカリガラスやソーダライムガラス等で構成される。無アルカリガラスは35〜40×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。ソーダライムガラスは80〜90×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。
【0016】
第1のガラス基板2の表面2aとそれと対向する第2のガラス基板3の表面3aとの間には、電子デバイス1に応じた電子素子部(図示せず)が設けられる。電子素子部は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換部素子)、MEMSであればMEMS素子等を備えている。表示素子、発光素子、色素増感型太陽電池素子等を備える電子素子部は各種公知の構造を有している。この実施形態の電子デバイス1は電子素子部の素子構造に限定されるものではない。
【0017】
電子デバイス1における電子素子部は、第1及び第2のガラス基板2、3の表面2a、3aの少なくとも一方に形成された素子膜、電極膜、配線膜等により構成される。OELD、PDP、MEMS等においては、一方のガラス基板3(2)の表面3a(2a)に形成された素子構造体により電子素子部が構成される。この場合、他方のガラス基板2(3)は封止用基板となる。また、LCDや色素増感型太陽電池素子等においては、ガラス基板2、3の各表面2a、3aに素子構造を形成する素子膜、電極膜、配線膜等が形成され、これらにより電子素子部が構成される。
【0018】
電子デバイス1の作製に用いられる第1のガラス基板2の表面2aには、図4及び図5に示すように第1の封止領域4が設けられている。第2のガラス基板3の表面3aには、図6及び図7に示すように第1の封止領域4に対応する第2の封止領域5が設けられている。封止領域4、5で囲われた部分が素子領域となり、この素子領域に電子素子部が設けられる。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とは、第1の封止領域4を有する表面2aと第2の封止領域5を有する表面3aとが対向するように、所定の間隔を持って配置されている。ここで、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とは、それらの間の間隔が例えば200μm以上となるように配置されている。
【0019】
前述したように、例えば200μm以上というような間隙(ギャップ)を封着層のみで封止することは困難であるため、第1の封止領域4と第2の封止領域5との間には電子素子部を囲うように枠状のスペーサ6が配置されている。スペーサ6はガラス基板2、3と同様な無アルカリガラスやソーダライムガラス等で構成される。スペーサ6は第1のガラス基板2と第1の封着層7を介して接着されており、また第2のガラス基板2と第2の封着層8を介して接着されている。すなわち、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の間隙は、スペーサ6と第1及び第2の封着層7、8とを有する封着構造部9で封止されている。電子素子部は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着構造部9とで構成されたガラスパネルで気密封止されている。
【0020】
第1の封着層7は、第1のガラス基板2の封止領域4に形成された第1の封着材料層を焼成炉等で溶融させて第1の封止領域4及びスペーサ6に固着させた溶融固着層からなる。電子デバイス1の作製に用いられる第1のガラス基板2の封止領域4には、図4及び図5に示すように、第1の封着材料層を加熱・溶融することにより形成された枠状の第1の封着層7を介して枠状のスペーサ6が接着されている。第1の封着材料層は第1の封着用ガラス材料の焼成層である。第1の封着材料層は焼成炉等で加熱して溶融させるため、レーザ光の吸収能を有している必要はない。このため、第1の封着用ガラス材料は主成分としての封着ガラスに低膨張充填材のような充填材を必要に応じて配合したものである。
【0021】
第2の封着層8は、第2のガラス基板3の封止領域5に形成された第2の封着材料層10をレーザ光で溶融させて第2の封止領域5及びスペーサ6に固着させた溶融固着層からなる。電子デバイス1の作製に用いられる第2のガラス基板3の封止領域5には、図6及び図7に示すように、枠状の第2の封着材料層10が形成されている。第2の封着材料層10は第2の封着用ガラス材料の焼成層であり、レーザ光で溶融させるためにレーザ光を吸収する必要がある。このため、第2の封着用ガラス材料は主成分としての封着ガラスにレーザ吸収材や低膨張充填材のような充填材を必要に応じて配合したものである。なお、封着ガラス自体がレーザ光を吸収する場合には、レーザ吸収材の配合は不要である。
【0022】
封着構造部9は、第1のガラス基板2上に接着されたスペーサ6(図4及び図5)と第2のガラス基板3上に設けられた第2の封着材料層10(図6及び図7)とが接するように、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを積層した後、第2の封着材料層10に例えば第2のガラス基板3を通してレーザ光を照射し、第2の封着材料層10を加熱して溶融させることにより形成されるものである。なお、第2の封着材料層10は場合によってはスペーサ6上に形成してもよい。
【0023】
第2のガラス基板3とスペーサ6との間をレーザ封着するにあたって、レーザ光の照射時に第2の封着材料層10に生じた熱はスペーサ6に伝わる。この際に、第1の封着層7が第2の封着材料層10と重なるように配置されていると、さらに第1の封着層7を介して第1のガラス基板2にまで伝熱されることになる。スペーサ6内の熱が第1の封着層7を介して第1のガラス基板2にまで伝わると、スペーサ6内の温度勾配が大きくなる。
【0024】
すなわち、スペーサ6内の第2の封着層8の近傍部分はレーザ光による加熱により温度上昇が大きくなるのに対し、スペーサ6内の第1の封着層7の近傍部分は第1の封着層7を介して第1のガラス基板2へ熱が伝わるので温度上昇が小さくなる。このため、スペーサ6内の温度差(温度勾配)が大きくなる。このように、スペーサ6内の温度勾配が大きくなると、スペーサ6にクラックや割れ等が生じやすくなる。また、第1の封着層7を介して第1のガラス基板2にまで伝わった熱は、第1のガラス基板2内に温度勾配を生じさせることになる。第1のガラス基板2内の温度勾配が大きくなると、第1のガラス基板2にクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0025】
そこで、この実施形態の電子デバイス1においては、図2に示すように第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との積層方向を含む断面において、第2の封着層8(レーザ光の照射工程前においては第2の封着材料層10)を第1の封着層7と該積層方向に重ならないように配置している。このように、第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7とを該積層方向に重ならないように配置することによって、レーザ照射時に第2の封着材料層10に生じた熱が、スペーサ6から第1の封着層7を介して第1のガラス基板2にまで伝熱されることを抑制することが可能となる。
【0026】
レーザ照射による熱をスペーサ6から第1のガラス基板2に伝わることを抑えることによって、スペーサ6内の温度勾配を小さくすることができる。このため、スペーサ6内の温度勾配によるスペーサ6のクラックや割れ等を抑制することが可能となる。さらに、第1のガラス基板2内の温度勾配も小さくすることができるため、第1のガラス基板2のクラックや割れ等を抑制することが可能となる。
【0027】
従って、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との空間(例えば間隔が200μm以上の空間)を、スペーサ6を介して封止するにあたって、レーザ封着に伴うスペーサ6や第1のガラス基板2のクラックや割れ、それらに基づく気密性の低下等を再現性よく抑制することが可能となる。すなわち、スペーサ6を適用したガラスパッケージ及びそれを用いた電子デバイス1の生産性や信頼性を向上させることができる。
【0028】
図2に示す電子デバイス1においては、第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7とが積層方向に重ならないようにするために、第1の封着層7を複数の帯状部7A、7Bで構成すると共に、これら複数(2本)の帯状部7A、7Bを隙間をあけて配置している。そして、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との積層方向を含む断面において、第2の封着層8(第2の封着材料層10)を帯状部7A、7B間の隙間と対向するように配置している。これによって、第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7とが積層方向に重なることを防いでいる。
【0029】
スペーサ6を支持することが可能であれば、1つ(1本)の第1の封着層7で構成してもよい。この場合、第2の封着層8(第2の封着材料層10)を第1の封着層7と中心をずらして配置することによって、第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7とが積層方向に重なることを防ぐことができる。また、場合によっては第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7をそれぞれ複数本とし、それぞれの中心をずらして配置することによって、第2の封着層8(第2の封着材料層10)と第1の封着層7とが積層方向に重ならないようにしてもよい。
【0030】
次に、実施形態の電子デバイス1の製造工程について、図3を参照して説明する。まず、第1の封着層7の形成材料となる第1の封着用ガラス材料と第2の封着層8の形成材料となる第2の封着用ガラス材料とを用意する。第1の封着用ガラス材料は封着ガラスに低膨張充填材のような充填材を配合したものであり、第2の封着用ガラス材料は封着ガラスにレーザ吸収材や低膨張充填材のような充填材を配合したものである。第1及び第2の封着用ガラス材料はこれら以外の添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0031】
封着ガラス(ガラスフリット)としては、例えば錫−リン酸系ガラス、ビスマス系ガラス、バナジウム系ガラス、鉛系ガラス、ホウ酸亜鉛アルカリガラス等の低融点ガラスが用いられる。これらのうち、ガラス基板2、3やスペーサ6に対する接着性やその信頼性(接着信頼性や密閉性)、さらには環境や人体に対する影響等を考慮して、錫−リン酸系ガラスやビスマス系ガラスからなる封着ガラスを使用することが好ましい。
【0032】
錫−リン酸系ガラス(ガラスフリット)は、55〜68モル%のSnO、0.5〜5モル%のSnO2、及び20〜40モル%のP25(基本的には合計量を100モル%とする)の組成を有することが好ましい。SnOはガラスを低融点化させるための成分である。SnOの含有量が55モル%未満であるとガラスの粘性が高くなって封着温度が高くなりすぎ、68モル%を超えるとガラス化しなくなる。
【0033】
SnO2はガラスを安定化するための成分である。SnO2の含有量が0.5モル%未満であると封着作業時に軟化溶融したガラス中にSnO2が分離、析出し、流動性が損なわれて封着作業性が低下する。SnO2の含有量が5モル%を超えると低融点ガラスの溶融中からSnO2が析出しやすくなる。P25はガラス骨格を形成するための成分である。P25の含有量が20モル%未満であるとガラス化せず、その含有量が40モル%を超えるとリン酸塩ガラス特有の欠点である耐候性の悪化を引き起こすおそれがある。
【0034】
ここで、ガラスフリット中のSnO及びSnO2の割合(モル%)は以下のようにして求めることができる。まず、ガラスフリット(低融点ガラス粉末)を酸分解した後、ICP発光分光分析によりガラスフリット中に含有されているSn原子の総量を測定する。次に、Sn2+(SnO)は酸分解したものをヨウ素滴定法により求められるので、そこで求められたSn2+の量をSn原子の総量から減じてSn4+(SnO2)を求める。
【0035】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、SiO2等のガラスの骨格を形成する成分やZnO、B23、Al23、WO3、MoO3、Nb25、TiO2、ZrO2、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO等のガラスを安定化させる成分等を任意成分として含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30モル%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100モル%となるように調整される。
【0036】
ビスマス系ガラス(ガスフリット)は、70〜90質量%のBi23、1〜20質量%のZnO、及び2〜12質量%のB23(基本的には合計量を100質量%とする)の組成を有することが好ましい。Bi23はガラスの網目を形成する成分である。Bi23の含有量が70質量%未満であると低融点ガラスの軟化点が高くなり、低温での封着が困難になる。Bi23の含有量が90質量%を超えるとガラス化しにくくなると共に、熱膨張係数が高くなりすぎる傾向がある。
【0037】
ZnOは熱膨張係数等を下げる成分である。ZnOの含有量が1質量%未満であるとガラス化が困難になる。ZnOの含有量が20質量%を超えると低融点ガラス成形時の安定性が低下し、失透が発生しやすくなる。B23はガラスの骨格を形成してガラス化が可能となる範囲を広げる成分である。B23の含有量が2質量%未満であるとガラス化が困難となり、12質量%を超えると軟化点が高くなりすぎて、封着時に荷重をかけたとしても低温で封着することが困難となる。
【0038】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、Al23、CeO2、SiO2、Ag2O、MoO3、Nb23、Ta25、Ga23、Sb23、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、CaO、SrO、BaO、WO3、P25、SnOx(xは1又は2である)等の任意成分を含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30質量%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100質量%となるように調整される。
【0039】
低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、コージェライト、リン酸ジルコニウム系化合物、ソーダライムガラス、及び硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)227、NaZr2(PO43、KZr2(PO43、Ca0.5Zr2(PO43、NbZr(PO43、Zr2(WO3)(PO42、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。低膨張充填材の含有量は、封着ガラスの熱膨張係数がガラス基板2、3のそれに近づくように適宜に設定される。低膨張充填材は封着ガラスやガラス基板2、3の熱膨張係数にもよるが、第1又は第2の封着用ガラス材料に対して10〜50体積%の範囲で含有させることが好ましい。
【0040】
レーザ吸収材としては、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属又は前記金属を含む酸化物等の化合物が用いられる。これら以外の顔料であってもよい。レーザ吸収材の含有量は、第2の封着用ガラス材料に対して0.1〜10体積%の範囲とすることが好ましい。レーザ吸収材の含有量が0.1体積%未満であると第2の封着材料層10を十分に溶融させることができないおそれがある。レーザ吸収材の含有量が10体積%を超えると第2のガラス基板3との界面近傍で局所的に発熱するおそれがあり、また封着用ガラス材料の溶融時の流動性が劣化してスペーサ6との接着性が低下するおそれがある。なお、前述したように封着ガラスがレーザ光を吸収する場合には、第2の封着用ガラス材料にレーザ吸収材を添加しなくてもよい。
【0041】
次に、第1及び第2の封着用ガラス材料をそれぞれビヒクルと混合して第1及び第2の封着材料ペーストを調製する。ビヒクルとしては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の有機樹脂を、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したもの、あるいはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロオキシエチル(メタ)アクリレート等の有機樹脂(アクリル系樹脂)を、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものが用いられる。
【0042】
第1及び第2の封着材料ペーストの粘度は、ガラス基板2、3に塗布する装置に対応した粘度に合わせればよく、ビヒクルにおける有機樹脂(バインダ成分)と溶剤の割合や封着用ガラス材料とビヒクルの割合により調整することができる。第1及び第2の封着材料ペーストには、希釈用溶剤、消泡剤、分散剤のようにガラスペーストで公知の添加物を加えてもよい。封着材料ペーストの調製には、撹拌翼を備えた回転式の混合機やロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法を適用することができる。
【0043】
図3(a)に示すように、第1の封着材料ペーストを第1のガラス基板2の封止領域4に塗布し、これを乾燥させて第1の封着材料ペーストの塗布層を形成する。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第1の封止領域4に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第1の封止領域4に沿って塗布する。封着材料ペーストの塗布層は、例えば120℃以上の温度で10分以上乾燥させることが好ましい。乾燥工程は塗布層内の溶剤を除去するために実施するものである。塗布層内に溶剤が残留していると、焼成工程でバインダ成分を十分に除去できないおそれがある。
【0044】
第1の封着材料ペーストの塗布層を焼成して第1の封着材料層11を形成する。焼成工程は、まず塗布層を封着用ガラス材料の主成分である封着ガラス(ガラスフリット)のガラス転移点以下の温度に加熱し、塗布層内のバインダ成分を除去した後、封着ガラス(ガラスフリット)の軟化点以上の温度に加熱し、第1の封着用ガラス材料を溶融してガラス基板2に焼き付ける。ここで、第1の封着材料ペーストは複数の帯状となるように塗布される。従って、第1のガラス基板2の封止領域4には、複数の帯状部11A、11Bを有する第1の封着材料層(第1の封着用ガラス材料の焼成層)11が形成される。
【0045】
次いで、第1の封着材料層11上にスペーサ6を配置した後、この積層物を焼成炉で封着ガラス(ガラスフリット)の軟化点以上の温度に加熱し、第1の封着材料層11を溶融することによって、図3(b)に示すように第1のガラス基板2とスペーサ6との間を封止する第1の封着層7を形成する。第1の封着層7は第1の封着材料層11の形状に基づいて複数の帯状部7A、7Bを有しており、これら複数の帯状部7A、7Bの間には適当な幅の隙間が設けられている。スペーサ6は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間隙(例えば200μm以上)に応じた厚さを有している。
【0046】
次に、第2の封着材料ペーストを第2のガラス基板3の封止領域5に塗布し、これを乾燥させて第2の封着材料ペーストの塗布層を形成する。続いて、第2の封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、図3(c)に示すように第2のガラス基板3の封止領域5に第2の封着材料層(第2の封着用ガラス材料の焼成層)10を形成する。第2の封着材料ペーストの塗布層は、第1の封着層7を構成する複数の帯状部7A、7Bの隙間に対応する位置に形成される。第2の封着材料ペーストの塗布層の形成工程及び焼成工程は、第1の封着材料ペーストの塗布工程、乾燥工程、焼成工程と同様にして実施する。
【0047】
上述したスペーサ6を有する第1のガラス基板2と第2の封着材料層10を有する第2のガラス基板3とを用いて、OELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子を用いた照明装置、色素増感型太陽電池のような太陽電池、MEMSのような電子部品等の電子デバイス1を作製する。すなわち、図3(d)に示すように、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを、それらの表面2a、3a同士が対向するようにスペーサ6及び第2の封着材料層10を介して積層する。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とは、スペーサ6と第2の封着材料層10とが接するように積層される。
【0048】
次いで、第2のガラス基板3を通して第2の封着材料層10にレーザ光12を照射する。レーザ光12は第1のガラス基板2を通して第2の封着材料層10に照射してもよい。レーザ光12は枠状の第2の封着材料層10に沿って走査しながら照射される。そして、第2の封着材料層10の全周にわたってレーザ光12を照射し、第2の封着材料層10を加熱・溶融して第2の封着層8を形成することによって、図3(e)に示すように第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間を封止する封着構造部9を形成する。
【0049】
このようにして、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着構造部9とで構成したガラスパネルで、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間に配置される電子素子部を気密封止した電子デバイス1を作製する。レーザ光12は特に限定されるものではなく、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等からのレーザ光が使用される。レーザ光12の出力密度や走査速度は、第2の封着材料層10を溶融させることが可能な範囲内から適宜に設定される。
【0050】
この実施形態の電子デバイス1とその製造工程によれば、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間隔を200μm以上というように広くする必要がある場合においても、スペーサ6を用いた封着構造部9で良好に封止することができる。さらに、レーザ光12を第2の封着材料層10に照射して第2の封着層8を形成するにあたって、スペーサ6や第1のガラス基板2内の温度勾配が抑えられるため、スペーサ6や第1のガラス基板2のクラックや割れ等を抑制することができる。従って、ガラス基板2、3の間隙が広いガラスパッケージを適用した電子デバイス1の歩留りよく作製することができると共に、電子デバイス1の気密封止性やその信頼性を向上させることが可能となる。
【0051】
なお、上記した実施形態の電子デバイス1とその製造工程においては、ガラス基板2、3の間に1つのスペーサ6を配置した構造を示したが、スペーサ6の数はこれに限られるものではない。例えば、第1及び第2のガラス基板2、3の双方に封着層を介してスペーサを接着すると共に、一方のスペーサ上に封着材料層を形成し、この封着材料層を介して第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを積層した後、2つのスペーサに挟まれた封着材料層にレーザ光を照射して加熱・溶融させることによって、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間隙(ギャップ)を封止することも可能である。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の具体的な実施例及びその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0053】
(実施例1)
まず、Bi2383質量%、B235質量%、ZnO11質量%、Al231質量%の組成を有し、平均粒径(D50)が1.0μmのビスマス系ガラスフリット(軟化点:410℃)と、低膨張充填材として平均粒径(D50)が4.3μmのコージェライト粉末と、Fe23−MnO−CuO−Al23−SiO2組成を有し、平均粒径(D50)が0.9μmのレーザ吸収材とを用意した。平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒子径測定装置(日機装社製:マイクロトラックHRA)を用いて測定した。
【0054】
上述したビスマス系ガラスフリット75.8体積%とコージェライト粉末24.2体積%とを混合して第1の封着用ガラス材料(熱膨張係数(50〜250℃):75×10-7/℃)を作製した。次いで、第1の封着用ガラス材料90質量%をビヒクル10質量%と混合して第1の封着材料ペーストを調製した。ビヒクルはバインダ成分としてのエチルセルロース(2.5質量%)をターピネオールからなる溶剤(97.5質量%)に溶解して作製したものである。
【0055】
一方、上述したビスマス系ガラスフリット63.5体積%とコージェライト粉末31.5体積%とレーザ吸収材5.0体積%とを混合して第2の封着用ガラス材料(熱膨張係数(50〜250℃):65×10-7/℃)を作製した。次いで、第2の封着用ガラス材料90質量%をビヒクル10質量%と混合して第2の封着材料ペーストを調製した。ビヒクルはバインダ成分としてのエチルセルロース(2.5質量%)をターピネオールからなる溶剤(97.5質量%)に溶解して作製したものである。
【0056】
次に、ソーダライムガラス(熱膨張係数(50〜250℃):83×10-7/℃)からなる第1のガラス基板(寸法:外形100×100mm、厚さ2.8mm)を用意し、第1のガラス基板の封止領域に第1の封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。第1の封着材料ペーストの印刷パターンは線幅1mmのラインを2本有するパターンとした。2本のラインの間隔は、ラインの中心間距離が7mmとなるようにした。第1の封着材料ペーストの塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が30μmの第1の封着材料層を形成した。
【0057】
次いで、ソーダライムガラス(熱膨張係数(50〜250℃):83×10-7/℃)からなるスペーサ(寸法:外形80×80mm、幅20mm、厚さ0.55mm)を、第1のガラス基板の表面に形成された第1の封着材料層上に配置した後、焼成炉で520℃×10分の条件で加熱して第1の封着層を形成することによって、第1のガラス基板とスペーサとを接着した。第1の封着層は第1の封着材料ペーストの印刷パターンに応じた2本の帯状部を有しており、これらの帯状部の隙間は6mmである。
【0058】
一方、ソーダライムガラス(熱膨張係数(50〜250℃):83×10-7/℃)からなる第2のガラス基板(寸法:外形100×100mm、厚さ0.7mm)を用意し、第2のガラス基板の封止領域に第2の封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。第2の封着材料ペーストの印刷パターンは線幅1mmのラインを1本有するパターンとした。第2の封着材料ペーストの塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が13μmの第2の封着材料層を形成した。第2の封着材料層はガラス基板の積層方向を含む断面内において、第1の封着層を構成する2本の帯状部の隙間と対応する位置に形成した。
【0059】
上述したスペーサを有する第1のガラス基板と第2の封着材料層を有する第2のガラス基板とを、スペーサと第2の封着材料層とが接するように積層した。この際、第2の封着材料層が第1の封着層を構成する2本の帯状部の隙間の中心に位置するように、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して第2の封着材料層に対して、波長808nm、出力24W、スポット径3mm(出力密度:340W/cm2)のレーザ光(半導体レーザ)を0.5mm/sの走査速度で照射し、第2の封着材料層を加熱して第2の封着層を形成することによって、スペーサと第2のガラス基板とを接着した。
【0060】
レーザ照射時の第2の封着材料層の加熱温度(放射温度計で測定)は500℃であった。レーザ封着後にスペーサや第1のガラス基板の状態を観察したところ、クラックや割れの発生は認められず、第1のガラス基板とスペーサとの間、及び第2のガラス基板とスペーサとの間が良好に封着されていることが確認された。また、スペーサを介して第1のガラス基板と第2のガラス基板との間を封止したガラスパネルの気密性をヘリウムリークテストで評価したところ、良好な気密性が得られていることが確認された。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同材料及び同形状の第1のガラス基板の封止領域に、実施例1と同一の第1の封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。ただし、第1の封着材料ペーストの印刷パターンは線幅3mmのラインを1本有するパターンとした。第1の封着材料ペーストの塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が30μmの第1の封着材料層を形成した。
【0062】
次いで、実施例1と同材料及び同形状のスペーサを、第1のガラス基板の表面に形成された第1の封着材料層上に配置した後、焼成炉で520℃×10分の条件で加熱して第1の封着層を形成することによって、第1のガラス基板とスペーサとを接着した。
【0063】
一方、実施例1と同材料及び同形状の第2のガラス基板の封止領域に、実施例1と同一の第2の封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。第2の封着材料ペーストの印刷パターンは線幅1mmのラインを1本有するパターンとした。第2の封着材料ペーストの塗布層を480℃×10分の条件で焼成することによって、膜厚が13μmの第2の封着材料層を形成した。
【0064】
上述したスペーサを有する第1のガラス基板と第2の封着材料層を有する第2のガラス基板とを、スペーサと第2の封着材料層とが接するように積層した。この際、第2の封着材料層が第1の封着層と重なるように、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して第2の封着材料層に対して、実施例1と同一条件でレーザ光を照射し、第2の封着材料層を加熱して第2の封着層を形成することによって、スペーサと第2のガラス基板とを接着した。
【0065】
レーザ封着後にスペーサや第1のガラス基板の状態を観察したところ、スペーサに割れが発生しており、また第1のガラス基板にもクラックの発生が認められた。このようなスペーサや第1のガラス基板のクラックや割れに基づいて、比較例1では気密なガラスパネルを作製することはできなかった。
上記実施例では加熱源としてレーザ光を用いているが、その他に赤外線等の電磁波を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…電子デバイス、2…第1のガラス基板、2a…表面、3…第2のガラス基板、3a…表面、4…第1の封止領域、5…第2の封止領域、6…スペーサ、7…第1の封着層、8…第2の封着層、9…封着構造体、10…第2の封着材料層、11…第1の封着材料層、12…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有し、前記第2の表面が前記第1の表面と対向するように、前記第1のガラス基板上に所定の間隔を持って積層された第2のガラス基板と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部と、
前記電子素子部を囲うように、前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に配置されたスペーサと、
前記第1のガラス基板と前記スペーサとを接着するように形成され、第1の封着用ガラス材料の溶融固着層からなる第1の封着層と、
前記第2のガラス基板と前記スペーサとを接着するように形成され、レーザ光を吸収する第2の封着用ガラス材料のレーザ光による溶融固着層からなる第2の封着層とを具備する電子デバイスであって、
前記第2の封着層は、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との積層方向を含む断面において、前記第1の封着層と前記積層方向に重ならないように配置されていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記第1の封着層は隙間をあけて配置された複数の帯状部を有し、前記第2の封着層は前記複数の帯状部間の前記隙間と対向するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の間隔が200μm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記第2の封着用ガラス材料は、低融点ガラスからなる封着ガラスと、0.1〜10体積%のレーザ吸収材とを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記第2の封着用ガラス材料は、さらに10〜50体積%の低膨張充填材を含有することを特徴とする請求項4記載の電子デバイス。
【請求項6】
第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域上に、第1の封着用ガラス材料の溶融固着層からなる第1の封着層を介してスペーサを接着する工程と、
前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上、又は前記スペーサ上に、レーザ光を吸収する第2の封着用ガラス材料の焼成層からなる封着材料層を形成する工程と、
前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記スペーサ及び前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記第1のガラス基板又は前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層にレーザ光を照射して、前記封着材料層の溶融固着層からなる第2の封着層を介して前記スペーサと前記第2のガラス基板とを接着し、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する工程とを具備する電子デバイスの製造方法であって、
前記封着材料層は、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との積層方向を含む断面において、前記第1の封着層と前記積層方向に重ならないように形成されることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1の封着層は隙間をあけて配置された複数の帯状部を有し、前記封着材料層は前記複数の帯状部間の前記隙間と対向するように形成されることを特徴とする請求項7記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の間隔が200μm以上であることを特徴とする請求項6又は7記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第2の封着用ガラス材料は、低融点ガラスからなる封着ガラスと、0.1〜10体積%のレーザ吸収材とを含有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記第2の封着用ガラス材料は、さらに10〜50体積%の低膨張充填材を含有することを特徴とする請求項9記載の電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−14971(P2012−14971A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150824(P2010−150824)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】