説明

電子ビーム描画方法、微細パターン描画システム、凹凸パターン担持体の製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法

【課題】磁気ディスク媒体に形成する微細パターンの描画が高速、高精度に、かつ近接効果補正が簡易に行え、基板全体で一定のドーズ量で描画可能とする。
【解決手段】レジスト11が塗布された基板10上に電子ビームEBを走査して、微細パターン12のエレメント13の形状を描画する際に、描画データに基づき、基板10の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、その回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御で1周分を描画した後、ビーム照射位置を半径方向に移動させてオン・オフ制御による描画を繰り返すもので、エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部のエレメント描画では、オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部の同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの高密度磁気記録媒体用のインプリントモールドや磁気転写用マスター担体などを作製する際に、所望の凹凸パターンに応じた微細パターンを描画するための電子ビーム描画方法および微細パターン描画システムに関するものである。
【0002】
また、本発明は、上記電子ビーム描画方法を用いた描画を行う工程を経て作製される、凹凸パターン表面を有するインプリントモールドあるいは磁気転写用マスター担体などを含む凹凸パターン担持体の製造方法、さらには該凹凸パターン担持体であるインプリントモールドを用いて凹凸パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法および磁気転写用マスター担体を用いて磁化パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現状の磁気ディスク媒体では、一般にサーボパターンなどの情報パターンが形成されている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)からなるグルーブパターン(ガードバンド)で分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)が注目されている。さらに高密度化を図るために提案されているビットパターンメディア(BPM)は単磁区を構成する磁性体(単磁区微粒子)が物理的に孤立して規則的に配列されてなり、微粒子1個に1ビットを記録するメディアである。
【0004】
従来、上記サーボパターン等の微細パターンは、磁気ディスク媒体に凹凸パターンまたは磁化パターンなどによって形成され、高密度の磁気ディスク媒体を製造するための磁気転写用マスター担体の原盤などに、所定の微細パターンをパターニングするための電子ビーム描画方法が提案されている。この電子ビーム描画方法は、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応した電子ビームの照射によってパターン描画を行うものである(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
上記特許文献1の電子ビーム描画方法は、例えばサーボパターンを構成するトラックの幅方向に延びる矩形または平行四辺形のエレメントを描画する際に、オン・オフ描画方法として、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応して電子ビームをオン・オフ照射し、基板または電子ビーム照射装置を1回転に1ビーム幅ずつ半径方向に移動させてパターン描画を行うか、ビーム照射時に、該ビームを半径方向に往復偏向走査させてエレメントを一度に描画する方法である。
【0006】
また、特許文献2の電子ビーム描画方法は、光ディスク等の記録ピットを描画する際に、基板を回転させながら、パターン描画データに応じたオン・オフ制御により電子ビームを照射するとともに、この電子ビームを半径方向に往復振動させて、基板の回転に伴う照射時間に応じた回転方向に延びる信号長に描画する方法である。
【特許文献1】特開2000−207738号公報
【特許文献2】特開2003−248981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような電子ビーム描画方法では、微細パターンのエレメント配置における疎密程度に応じ近接効果の影響によって、電子ビームを走査して基板上に描画したパターン形状に対して、実際にレジストに感光される形状が異なり、エレメントの密配置部では描画した形状に対して感光形状が大きくなることから、ドーズ量(照射線量)を変更する近接効果補正を行う必要があることが知られている。
【0008】
上記電子ビーム描画における近接効果は、照射された電子ビームの散乱による近接描画領域への感光影響のことであり、その描画パターンにおけるエレメント配置の疎密程度によって受ける影響が異なっている。つまり、電子ビームがレジストに入射されると、レジスト内より基板に向けて進むにしたがって前方散乱によりビームに広がりが起こる。さらに、基板に入射したビームが散乱し、その底部より大きな散乱角をもって跳ね返ってくる後方散乱が生じる。近接効果はこれらの散乱電子によりレジストが照射範囲より広く感光することにより生じる。
【0009】
そして、上記微細パターンは、各記録信号に対応するエレメントの集合体よりなり、このエレメント配置の集合における中央部分のようにエレメントが近接して連続配置された密配置部位では、周囲のエレメント描画に伴う多くの散乱電子により近接効果が大きくなり、ドーズ量オーバーとなりやすい傾向にある。一方、エレメント配置の集合における輪郭部分のように、周囲に描画されるエレメントが少ない疎配置部位では、影響を受ける散乱電子が少なく近接効果が小さくなり、ドーズ量不足となりやすい傾向にある。これらの現象は、レジスト感度が高くなると顕著となる。
【0010】
上記のような疎密程度に応じたドーズ量変動が生じると、描画露光後のレジストを現像したときに、描画範囲と除去される感光レジスト範囲とが異なって、エレメント形状に誤差が発生し、所望の微細パターンの形成精度に影響を与える。
【0011】
例えば、図9(A)に示すように、1つのトラックに同じ信号長(線幅)で6本のエレメント3a〜3cを、電子ビームEBによりエレメント幅方向(基板の半径方向と直交する方向)に往復振動させて描画した場合に、1つのエレメントの描画に伴う散乱の影響が両側に2本分の範囲に及ぶとすると、そのエレメント配置の疎密程度は、両端のエレメント3aは内側2本の影響を受ける疎配置部であり、その内側のエレメント3bは外側1本、内側2本の中間配置部であり、中央のエレメント3cは両側2本ずつの密配置部となる。
【0012】
上記のような図9(A)の電子ビーム描画の結果、感光されたパターンを図9(B)に模式的に示している。両端の疎配置部エレメント4aがレジスト感度とビーム強度との関係で、(A)の描画幅に相当する感光形状となる場合に、中間配置部のエレメント4bの感光幅はそれより所定比率で大きくなり、中央の密配置部エレメント4cでは、さらに所定比率で大きくなり、エレメント間隔が狭くなり、(A)の設計パターンとは異なり、実際に感光された(B)のパターンが(A)の形態となるように、各エレメントでの電子ビーム描画を調整する近接効果補正が必要となる。
【0013】
しかし、実際の電子ビーム描画における近接効果補正は、その設定および描画制御が煩雑で煩雑となる問題を有している。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて、磁気ディスク媒体に形成する微細パターンの描画が基板の全面で所定通りに高精度に行え、近接効果補正が簡易に行えるようにして基板全体で一定のドーズ量で高速かつ正確に描画できるようにした電子ビーム描画方法および電子ビーム描画を行うための微細パターン描画システムを提供することを目的とするものである。
【0015】
また、本発明は、電子ビームにより精度よく描画された微細パターンを有する、インプリントモールドや磁気転写用マスター担体などの凹凸パターン担持体の製造方法を提供すること、および、その凹凸パターン担持体を用いて凹凸パターンもしくは磁気パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電子ビーム描画方法は、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ、電子ビーム描画装置により電子ビームを走査して、該電子ビームの照射径より大きいエレメントで構成される微細パターンを描画する電子ビーム描画方法において、
前記基板を一方向に回転させつつ、該基板の回転に対し、前記微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記オン・オフ制御による描画を繰り返し、前記エレメントを描画するものであり、
前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うことを特徴とするものである。
【0017】
その際、前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、前記電子ビームの描画制御信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とし、前記近接効果補正を、前記描画クロック信号における整数個のクロック数を増減することで行うことが好適である。
【0018】
また、前記微細パターンの描画は、前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを、該基板の半径方向へ往復振動させるとともに、前記オン・オフ制御により基板の所定回転位置に、基板の回転に追従して照射し、前記エレメントの描画を行うことが可能である。
【0019】
さらに、前記微細パターンの描画は、前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを所定半径位置に固定し、前記オン・オフ制御により基板の所定回転位置に照射し、基板の次の回転で電子ビームの照射位置を半径方向に移動させて、前記オン・オフ制御による照射を繰り返して、前記エレメントの描画を行うことが可能である。
【0020】
本発明の微細パターン描画システムは、上記の電子ビーム描画方法を実現するための描画データ信号を送出する信号送出装置および電子ビームを走査する電子ビーム描画装置を備えたことを特徴とするものである。
【0021】
前記微細パターン描画システムにおける前記電子ビーム描画装置は、レジストが塗布された基板を回転させつつ半径方向に移動可能な回転ステージと、電子ビームを出射する電子銃と、前記電子ビームを前記回転ステージの半径方向に偏向させる偏向手段と、描画部分以外は電子ビームの照射を遮断するオン・オフ制御を行うブランキング手段と、前記各手段による作動を連係制御するコントローラとを備え、前記信号送出装置は、前記基板に描画する微細パターンの形態に応じたデータに基づき、前記電子ビーム描画装置のコントローラに描画データ信号を送出するものであり、前記コントローラは、微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記オン・オフ制御による描画を繰り返し、前記エレメントを描画するとともに、前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うように作成した描画信号に基づいて制御するように構成するのが好適である。
【0022】
本発明の凹凸パターン担持体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とするものである。ここで、凹凸パターン担持体とは、表面に所望の凹凸パターン形状を有する担体であり、その凹凸パターンの形状を磁気ディスク媒体に転写するためのインプリントモールド、凹凸パターンの形状に応じた磁化パターンを磁気ディスク媒体に転写するための磁気転写用マスター担体などである。
【0023】
本発明の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電子ビーム描画方法によれば、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板を一方向に回転させつつ、微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させてオン・オフ制御による描画を繰り返し、微細パターンのエレメントを描画するものであり、前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うことにより、この近接効果補正が簡易な制御で正確に行え、基板の全面に設計通りの微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化が図れる。
【0026】
その際、回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、前記電子ビームの描画制御信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とし、近接効果補正を描画クロック信号における整数個のクロック数を増減することで行うと、近接効果補正が簡易に高精度に行うことができることに加えて、半径位置に応じた制御が簡易に高精度に行うことができる。
【0027】
一方、本発明の微細パターン描画システムは、電子ビーム描画方法を実現するための描画データ信号を送出する信号送出装置および電子ビームを走査する電子ビーム描画装置を備えたことにより、所望の微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化を図ることができる。
【0028】
特に、前記微細パターン描画システムにおける電子ビーム描画装置を、レジストが塗布された基板を回転させつつ半径方向に移動可能な回転ステージと、電子ビームを出射する電子銃と、前記電子ビームを前記回転ステージの半径方向に偏向させる偏向手段と、描画部分以外は電子ビームの照射を遮断するオン・オフ制御を行うブランキング手段と、前記各手段による作動を連係制御するコントローラとを備え、前記信号送出装置は、前記基板に描画する微細パターンの形態に応じたデータに基づき、前記電子ビーム描画装置のコントローラに描画データ信号を送出するものであり、前記コントローラは、微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記オン・オフ制御による描画を繰り返し、前記エレメントを描画するとともに、前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うように作成した描画信号に基づいて制御するように構成することで好適にシステムが構築できるものである。
【0029】
さらに、本発明の凹凸パターン担持体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することにより、表面に高精度の凹凸パターン形状を有する担体が簡易に得られるものである。
【0030】
また、本発明の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写して作製することにより、このインプリントモールドの場合には、インプリント技術を用いて形状パターニングを行う際に、このモールドを磁気ディスク媒体の形成過程でのマスクとなる樹脂層表面に圧接することにより、媒体表面に一括して形状転写し、特性の優れたディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの磁気ディスク媒体を簡易に作成することができる。
【0031】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写して作製することにより、この磁気転写用マスター担体の場合には、磁性層による微細パターンを表面上に有するため、このマスター担体を磁気ディスク媒体と重ねて磁気転写技術を用いて磁界を印加することにより、磁気ディスク媒体に磁性層の微細パターンに対応した磁化パターンを転写形成し、特性の優れた磁気ディスク媒体を簡易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画する磁気ディスク媒体の微細パターンの一例を示す平面図、図2はこの微細パターンの一部の拡大図、図3は基板の描画位置の半径と回転数の関係を示すグラフ、図4は微細パターンを構成するエレメントの近接効果補正を含む第1の描画方式を示す拡大模式図(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種信号(B)〜(F)を示す図であり、図5は微細パターンを構成するエレメントの近接効果補正を含む第2の描画方式を示す拡大模式図(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種信号(B)〜(E)を示す図である。図6は本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の微細パターン描画システムの要部側面図(A)および部分平面図(B)である。
【0033】
図1および図2に示すように、微細凹凸形状による磁気ディスク媒体用の微細パターンは、複数のサーボ領域に形成されるサーボパターン12で構成され、サーボパターン12の間がデータ領域15に構成され、円盤状の基板10(円形基盤)に、外周部10aおよび内周部10bを除く円環状領域に形成される。
【0034】
サーボパターン12は、基板10の同心円状トラックに等間隔で、各セクターに中心部からほぼ放射方向に延びる細幅の領域に形成されてなる。なお、この例のサーボパターン12の場合には、半径方向に連続した湾曲放射状に形成されている。その一部を拡大した図2に例示するように、同心円状のトラックT1〜T4には、例えば、プリアンブル、アドレス、バースト信号に対応する矩形状の微細なサーボエレメント13が配置される。1つのサーボエレメント13は、1トラック幅で電子ビームの照射径より大きいトラック方向長さを有し、バースト信号の一部のサーボエレメント13は隣接するトラックに跨るように半トラックずれて配置される。
【0035】
図4に示す第1の描画方式の場合には、基板10の1回転で、1トラック分のサーボエレメント13が描画されるものであり、図2の第1のトラックT1または第3のトラックT3を描画する場合には、ハッチングしているエレメント13の描画を順に行う。隣接するトラックT2またはT3にまたがる半トラックずれたサーボエレメント13は、半分に分割することなく、描画基準を半トラックずらせて一度に描画する。
【0036】
なお、近年注目されているディスクリートトラックメディアでは、上記のようなサーボパターン12に加え、データ領域15における各データトラック間のガードバンド部分に、隣接する各トラックT1〜T4を溝状に分離するようトラック方向に延びるグルーブパターンが同心円状に形成されるものであり、このグルーブパターンは別途の描画制御によって描画される。
【0037】
上記サーボパターン12の各サーボエレメント13の描画は、表面にレジスト11が塗布された基板10を、後述の回転ステージ41(図6参照)に設置して回転させつつ、例えば、内周側のトラックより外周側トラックへ順に、またはその反対方向へ、1トラックずつ電子ビームEBでエレメント13を順に走査描画し、レジスト11を照射露光するものである。
【0038】
図3は、基板10のパターン描画における内周トラックと外周トラックの描画での基板回転数Nと半径rとの関係を示し、鎖線で示す基本的特性は、最内周トラック(半径r1)の回転数N1に対し、最外周トラック(半径r2)の回転数N2が半径に反比例して遅くなるように回転制御される。実際には、各トラックごとに回転数Nが変更調整されるのではなく、実線で示すように、電子ビームEBの半径方向の偏向可能範囲等に対応して複数トラック(例えば8トラック)の描画後に、回転ステージ41を半径方向に機械的に移動する際に、これと連係して該回転ステージ41の回転数を段階的に変更する制御を行うものである。
【0039】
このように基板10の描画領域における、描画部位の半径方向位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側部位でも内周側部位でも全描画域で同一の線速度となるように、前記回転ステージ41の回転数Nを外周トラック描画時には遅く、内周トラック描画時には速くなるように調整する。これにより、電子ビームEBの描画における近接効果補正を含む均等なドーズ量を得る点、および描画位置精度を確保する点で有利となる。
【0040】
図4は本発明の電子ビーム描画方法の第1の描画方式を示す図であり、この実施形態の描画は、サーボパターン12におけるトラック内のサーボエレメント13a,13bに続いて、隣接トラックに跨るサーボエレメント13c,13dを順に、後述の近接効果補正を含めて、基板10(回転ステージ41)の1回転(1周)で一度に描画するものである。つまり、基板10を一方向Aに回転させつつ、微視的に見れば直線状に延びる同心円状のトラック(トラック幅:W)の所定位相位置に、前記サーボエレメント13a〜13dを連続して一度にその形状を塗りつぶすように微小径の電子ビームEBで走査して描画する。
【0041】
図4が内周トラックの描画とすると、サーボエレメント13a〜13dのトラック方向の長さは小さく、これに対して外周トラックの描画は、トラック幅Wは同じであるが、円周の長さが大きくなるのに伴ってサーボエレメント13a〜13dのトラック方向の長さが大きくなる。両者とも、最終的な磁気ディスク媒体として回転駆動された際に、対応するサーボエレメント13a〜13dから読み出される信号は同じである。
【0042】
上記サーボパターン12の記録方式はCAV(角速度一定)方式の場合であり、セクターの長さが内外周で変化するのに応じ、そのエレメント13のトラック方向の描画長さは、外周側トラックで長く、内周側トラックで短く形成されることになる。
【0043】
上記電子ビームEBの走査は、サーボエレメント13a〜13dの最小トラック方向長さより小さいビーム径の電子ビームEBを、後述のブランキング手段24の描画部位に応じたオン・オフ制御により照射を断続し、基板10(回転ステージ41)の回転線速度に応じて、図4(A)のように、半径方向Yへ一定の振幅で高速に往復振動させて振らせることで塗りつぶすように走査し、描画する。上記トラック内のサーボエレメント13a,13bの描画に続いて、半径方向Yへ電子ビームEBを偏向させて、半径方向Yの描画基準を半トラック分ずらせて、隣接トラックに跨るサーボエレメント13c,13dの描画を同様に行う。
【0044】
この図4の描画方法における近接効果補正は、図示した4つのエレメント13a〜13dのうち、両側のエレメント13a,13dが疎配置部のもので、中央のエレメント13b,13cが密配置部のものであり、この密配置部エレメント13b,13cの描画オン時間が、疎配置部エレメント13a,13dの描画オン時間より短くなるように、それぞれのオン時間を後述の描画クロック信号に基づいてブランキング信号を設定することで行うものである。
【0045】
図4における(A)は電子ビームEBの半径方向Y(外周方向)および回転方向Aの電子ビームEBの描画動作を示し、(B)に半径方向Yの偏向信号Def(Y)を、(C)にブランキング信号BLKのオン・オフ制御を、(D)に描画クロック信号を、(E)に不変の基本クロック信号を、(F)に半径方向Yの振動信号Mod(Y)をそれぞれ示している。なお、(A)の横軸は基板10の位相を、(B)〜(F)の横軸は時間を示している。
【0046】
上記(E)の基本クロック信号は、状況に応じて変化することのない一定のクロック信号であり、後述のコントローラ50内で生成される。上記(D)の描画クロック信号は、前記基本クロック信号に基づき、前述の図3に示したように、内周トラック描画時と外周トラック描画時とで回転ステージ41の回転数Nが変化しても、1回転(1周)でのクロック数が同一となるように、回転数Nの変更に応じてクロック幅(クロック長さ)が調整される。
【0047】
つまり、クロック幅を半径rに応じて所定トラックごとに、内周トラックで狭く、外周側トラックで広くなるように、変えるものである。そして、周方向(回転方向A)の寸法的および時間的幅を、描画クロック信号のクロック数で規定し、内周トラックおよび外周トラックで同じ描画クロック数でサーボパターン13a〜13dを描画することを基本としている。これにより、内周側と外周側とでの、同一角度(位相)における描画クロック数を同じにして、相似形のパターンを簡易に描画できるようにしている。なお、上記と異なり、内外周で同じクロック幅とした場合には、途中のトラックでエレメントの幅がクロック幅の整数倍とならない形態となる可能性があるのに対し、本発明では常に整数倍を維持するのでパターン幅が微細に変化するサーボエレメントを簡易に描画できる。
【0048】
また、上記近接効果補正に応じて整数個のクロック数を増減するもので、図示の場合、疎配置部エレメント13a,13dの描画オン時間に対し、密配置部エレメント13b,13cについては、オン開始タイミングを遅らせるとともに、オン終了タイミングを早めて描画オン時間が短くなるように補正している。
【0049】
第1の描画例を図4により具体的に説明する。まず、a点で(C)のブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBを照射し、疎配置部サーボエレメント13aの描画を開始するものであり、描画開始位置にある電子ビームEBを(F)の振動信号Mod(Y)により半径方向Yに往復振動させつつ、A方向への基板10の回転に伴う電子ビームEBの照射位置の移動により周方向(トラック方向)に描画位置を送ることにより、矩形状のサーボエレメント13aを塗りつぶすように走査し、b点でのブランキング信号BLKのオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13aの描画を終了する。
【0050】
次に、基板10が回転してc点になると、同様にして次の密配置部サーボエレメント13bの描画を開始し、同様のオン・オフ制御に基づいて同様に描画し、d点でこのサーボエレメント13bの描画を終了する。上記c点およびd点が前述のように近接効果補正によって変更されており、密配置部サーボエレメント13bのオン時間が短く補正されている結果、回転方向A(周方向)の描画長さ(線幅)が、疎配置部サーボエレメント13aの描画長さより短くなるようにしている。そして、この密配置部サーボエレメント13bの最終的な感光幅が、近接効果により疎配置部サーボエレメント13aと同等となるように設定している。
【0051】
続いて、e点で(B)の偏向信号Def(Y)を半トラック分だけ半径方向(−Y)に基準位置を移動させ、その基準位置より前述と同様に、電子ビームEBを(F)の振動信号Mod(Y)により半径方向Yに往復振動させつつ、A方向への基板10の回転に伴って周方向に描画位置を送ることにより、矩形状の密配置部サーボエレメント13cを塗りつぶすように走査し、f点でのブランキング信号BLKのオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13cの描画を終了する。上記e点およびf点の設定が、前記c点およびd点と同様に近接効果補正されている。
【0052】
次に、基板10が回転してg点になると、同様にして次の疎配置部サーボエレメント13dの描画を開始し、同様のオン・オフ制御に基づいて同様に描画し、h点でこのサーボエレメント13dの描画を終了する。
【0053】
前述のように、(B)〜(C)の描画制御信号は、(D)の描画クロック信号に基づいて作成されると共に、(C)のブランキング信号のオン・オフ制御は描画クロック信号の信号発生タイミングに合わせて行われ、オン時間を調整する近接効果補正は整数個のクロック数を増減する。
【0054】
なお、上記サーボエレメント13を描画する場合に、その描画開始点、つまり、図4のa点などの複数の点で、エンコーダパルス信号に基づいて正確な位置決めがなされ、1周中のサーボパターン12の形成位置の精度を高めている。
【0055】
1つのトラックを1周描画した後、次のトラックに移動し同様に描画して、基板10の全領域に所望の微細パターン12を描画する。この電子ビームEBのトラック移動は、後述の回転ステージ41を半径方向Yに直線移動させて行う。その移動は前述のように、電子ビームEBの半径方向Yの偏向可能範囲に応じて複数トラックの描画毎に行うか、1トラックの描画毎に行ってもよい。
【0056】
図4が内周トラック描画時とすると、外周トラック描画時には、(B),(C)の各信号が、トラック方向の長さが所定倍率で長くなるように設定される。また、(F)の発振信号は同じ振幅H、同じ周波数に設定され、この電子ビームEBの半径方向往復振動の振幅Hによって、サーボエレメント13の半径方向Yのトラック幅Wに相当する描画幅を規定している。一方、(E)の基本クロック信号は時間的に同じ間隔で一定に生起し、これに基づき(D)の描画クロック信号が半径に応じて1周で同じクロック数となるようにクロック幅が調整される。つまり、(B)〜(C)の倍率と同様の倍率でクロック幅が大きくなる。そして、上記描画クロック信号の信号数を数えて、各種制御信号のオン・オフ時期、信号形状を設定する。例えば、サーボパターン12のサーボエレメント13の描画における描画クロック数は、10〜30クロック程度で行うのが好適である。なお、サーボエレメント13の描画面積が大きくなると、近接効果の影響が小さくなる傾向にあることより、内周側描画とは近接効果補正の係数が異なっている。
【0057】
上記のように(D)の描画クロック信号は、クロック幅が外周トラックで広く内周トラックで狭くなり、回転ステージ41の回転数Nは前述のように外周トラックで遅く内周トラックで速くなり、両者は同期させて同時に変更する。そして、同じ回転数Nの時は描画トラック位置すなわち半径位置rを若干変更しても、1周のクロック数が同一であるので同じ描画クロック数による制御で同じ位相位置に略同じ形態のエレメントが描画できる。そのとき、電子ビームEBに対するレジスト11の相対移動速度は、半径位置で異なり、外周で若干速くなり、単位面積のドーズ量が変化する。しかし、描画されたエレメントの信号長は基板10の回転線速度に依存するので略同じとなり、回転数Nおよび描画クロック信号幅を変更せずに、描画トラック位置の若干の変動はレジストの感度、信号精度等で補償され、実際の記録情報としては問題なく使用できるものであり、1トラック移動ごとに回転数および描画クロック幅を変更する必要はなく、前述のように例えば8トラック描画毎に変更調整する。
【0058】
電子ビームEBのビーム強度は、上記サーボエレメント13の高速振動描画でレジスト11の露光が十分に行える程度に設定されている。
【0059】
次に、図5に基づき、本発明の第2の描画方式の実施形態を説明する。図5(A)は電子ビームEBの半径方向Y(外周方向)および回転方向Aの電子ビームEBの描画動作を示し、(B)に半径方向Yの偏向信号Def(Y)を、(C)にブランキング信号BLKのオン・オフ制御を、(D)に前記と同じ1回転でのクロック数が同一となるように設定された描画クロック信号を、(E)に不変の基本クロック信号をそれぞれ示している。なお、(A)の横軸は基板10の位相を、(B)〜(E)の横軸は時間を示している。
【0060】
この第2の描画方式は、第1の描画方式における半径方向Yへの往復振動は行わず、基板10の1回転で電子ビームEBを1ビーム幅ずつ半径方向Yに送る基本的な、オン・オフ制御による描画方式である。その他は、第1の描画方法と同様である。
【0061】
つまり、サーボエレメント13の位置(位相)に応じて、電子ビームEBの照射を基板10の回転に同期させてオン・オフ制御し、基板10の1回転で、1周分の1ビーム幅のサーボエレメント13を描画する。次に、基板10の次回転で、電子ビームEBの半径方向Yの照射位置を、この電子ビームEBの偏向操作により1ビーム幅分だけ1ピッチ送って、同様のオン・オフ制御により電子ビームEBの照射描画を行い、これを繰り返し、回転ステージ41の半径方向移動との併用によって、基板10の内周から外周へまたは外周から内周へ順次描画し、全面描画を行うものである。
【0062】
図5の場合には、基板10のR1回転時とR2回転時における連続2回転分の描画態様を示している。まず、R1回転時には、(B)の半径方向Yの偏向信号Def(Y)は、描画半径位置に対応した一定電圧の偏向信号(R1)により固定され、基板10のA方向への回転に伴って、(C)のブランキング信号BLKのオン・オフ制御により電子ビームEBの照射を断続し、露光描画する。
【0063】
そして、上記(C)のブランキング信号BLKのオン・オフ制御におけるオン・オフタイミングが、前記図4における場合と同様に、密配置部エレメント13b,13cの描画オン時間が、疎配置部エレメント13a,13dの描画オン時間より短くなるように、近接効果補正が設定されている。
【0064】
具体的には、a点で(C)のブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBを照射し、疎配置部サーボエレメント13aの描画を開始するものであり、A方向への基板10の回転に伴う電子ビームEBの照射位置の移動により周方向(トラック方向)に描画位置を送り、b点でのブランキング信号BLKのオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13aの1ビーム幅の描画を終了する。
【0065】
次に、基板10が回転してc点になると、同様にして次の密配置部サーボエレメント13bの描画を開始し、同様のオン・オフ制御に基づいて同様に描画し、d点でこのサーボエレメント13bの1ビーム幅の描画を終了する。このR1回転では、その1ビーム幅には、その後のサーボエレメント13c,13dの形態が存在しないことより描画は行わない。
【0066】
続いて、次回転のR2回転では、(B)の偏向信号Def(Y)を1ビーム幅分だけ1ピッチ送って、描画半径位置に対応した一定電圧の偏向信号(R2)により固定される。基板10のA方向への回転に伴って、a点で(C)のブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBを照射し、疎配置部サーボエレメント13aの次の1ビーム幅分の描画を開始し、A方向への基板10の回転により描画位置を送り、b点でのブランキング信号BLKのオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13aの1ビーム幅の描画を行う。次に、基板10が回転してc点になると、同様にして次の密配置部サーボエレメント13bの描画を開始し、同様のオン・オフ制御に基づいて同様に描画し、d点でこのサーボエレメント13bの次の1ビーム幅の描画を終了する。
【0067】
続いて、e点で(C)のブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBを照射し、半トラック分ずれた密配置部サーボエレメント13cの最初の1ビーム幅分の描画を開始し、A方向への基板10の回転により描画位置を送り、f点でのブランキング信号BLKのオフにより電子ビームEBの照射を停止し、サーボエレメント13cの1ビーム幅の描画を終了する。次に、基板10が回転してg点になると、同様にして次の疎配置部サーボエレメント13dの最初の1ビーム幅分の描画を開始し、同様のオン・オフ制御に基づいて同様に描画し、h点でこのサーボエレメント13dの1ビーム幅の描画を終了する。
【0068】
そして、上記c点、d点、e点およびf点が前述のように近接効果補正によって変更されており、疎配置部エレメント13a,13dの描画オン時間に対し、密配置部エレメント13b,13cについては、c点およびe点のオン開始タイミングを遅らせるとともに、d点およびf点のオン終了タイミングを早めて描画オン時間が短くなるように、(D)の描画クロック信号のクロック数に基づいて整数個分が補正されている。
【0069】
上記第2の描画方法においては、少なくとも1つのトラック内における半径方向への電子ビームEBの照射位置の移動は、電子ビームEBの偏向操作によって行い、次のトラックへの移動は、電子ビームEBの偏向操作または回転ステージ41を半径方向Yに直線移動させて行う。
【0070】
前記サーボパターン12の各エレメント13を描画するためには、前述のように電子ビームEBを走査させるものであるが、その電子ビームEBの走査制御を行うための描画データ信号を後述の信号送出装置60(図6参照)より電子ビーム描画装置40のコントローラ50に送出する。この送出信号は回転ステージ41の回転に応じて発生するエンコーダパルスおよび前記描画クロック信号に基づいてタイミングおよび位相が制御される。
【0071】
上記のような描画を行うために、図6に示すような微細パターン描画システム20を使用する。微細パターン描画システム20は、電子ビーム描画装置40および信号送出装置60備えている。電子ビーム描画装置40は、基板10を支持する回転ステージ41および該ステージ41の中心軸42と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ44を備えた回転ステージユニット45と、回転ステージユニット45の一部を貫通し、回転ステージ41の一半径方向Yに延びるシャフト46と、回転ステージユニット45をシャフト46に沿って移動させるための直線移動手段49とを備えている。回転ステージユニット45の一部には、上記シャフト46と平行に配された、精密なネジきりが施されたロッド47が螺合され、このロッド47は、パルスモータ48によって正逆回転されるようになっており、このロッド47とパルスモータ48により回転ステージユニット45の直線移動手段49が構成される。また、回転ステージ41の回転検出のため、エンコーダスリットの読み取りによって所定回転位相で等間隔にエンコーダパルスを発生するエンコーダ53が設置され、このエンコーダパルス信号がコントローラ50に送出される。なお、コントローラ50はタイミング制御における基本クロック信号を発生するクロック手段(不図示)を内蔵している。
【0072】
さらに、電子ビーム描画装置40は、電子ビームEBを出射する電子銃23、電子ビームEBを半径方向Yへ偏向させるとともに半径方向Yに一定の振幅で微小往復振動させる偏向手段21(前記第2の描画方式の場合には、往復振動偏向は不要)、電子ビームEBの照射をオン・オフ制御するためのブランキング手段24としてアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃23から出射された電子ビームEBは偏向手段21および図示しないレンズ等を経て、基板10上に照射される。
【0073】
ブランキング手段24における上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング26はオン・オフ信号の入力に伴って、オン信号時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させて照射し、一方、オフ信号時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。そして、前述の各エレメント13を描画している際にはオン信号が入力されて電子ビームEBを照射し、エレメント13の間の移動時にはオフ信号が入力されて電子ビームEBを遮断し、描画を行わないように制御される。
【0074】
上記スピンドルモータ44の駆動すなわち回転ステージ41の回転速度、パルスモータ48の駆動すなわち直線移動手段49による直線移動、電子ビームEBの変調、偏向手段21の制御、ブランキング手段24のブランキング26のオン・オフ制御等は制御手段であるコントローラ50から送出された制御信号に基づいて行われる。
【0075】
前記信号送出装置60は、前述のサーボパターン12などの微細パターンの描画データを記憶し、前述のコントローラ50に描画データ信号を送出するものであり、コントローラ50は描画データ信号に基づいて前述のような連係制御を行い、電子ビーム描画装置40により微細パターンのサーボパターン12を基板10の全面に描画するものである。
【0076】
前述の近接効果補正は、前記信号送出装置60から補正後の描画データ信号を送出するように設定するか、コントローラ50で連係制御を行う場合に補正することも可能である。
【0077】
前記回転ステージ41に設置する基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなり、その表面には予めポジ型あるいはネガ型電子ビーム描画用レジスト11が塗設されている。なお、上記電子ビーム描画用レジスト11の感度と各エレメント13の形状とを考慮しながら、電子ビームEBの出力およびビーム径を調整することが望ましい。
【0078】
次に、図7は、上記のような微細パターン描画システム20により、前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた、インプリントモールド70(凹凸パターン担持体)を用いて微細凹凸パターンを磁気ディスク媒体に転写形成している過程を示す概略断面図である。
【0079】
上記インプリントモールド70は、透光性材料による基板71の表面に、図7では不図示の前述のレジスト11が塗布され、前記サーボパターン12が描画される。その後、現像処理して、レジストによる凹凸パターンを基板71に形成する。このパターン状のレジストをマスクとして基板71をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターン72を備えるインプリントモールド70を得る。一例としては、上記微細凹凸パターン72は、ディスクリートトラックメディア用のサーボパターンとグルーブパターンとを備えたものである。
【0080】
このインプリントモールド70を用いて、インプリント法によって磁気ディスク媒体80を作製する。磁気ディスク媒体80は、基板81上に磁性層82を備え、その上にマスク層を形成するためのレジスト樹脂層83が被覆されている。そして、このレジスト樹脂層83に、前記インプリントモールド70の微細凹凸パターン72が押し当てられて、紫外線照射によって上記レジスト樹脂層83を硬化させ、微細パターン72の凹凸形状を転写形成してなる。その後、レジスト樹脂層83の凹凸形状に基づき磁性層82をエッチングし、磁性層82による微細凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディア用の磁気ディスク媒体80を作製するものである。
【0081】
また、上記ではディスクリートトラックメディアの製造について説明したが、ビットパターンメディアも同様の工程で製造することができる。
【0082】
図8は、上記のような微細パターン描画システム20により前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスター担体90(凹凸パターン担持体)を作製し、このマスター担体90を用いて磁気ディスク媒体85を製造するために磁化パターンを磁気転写している過程を示す断面模式図である。
【0083】
磁気転写用マスター担体90の作製工程はインプリントモールド70の作製方法とほぼ同様である。回転ステージ41に設置する基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる円板の表面にポジ型あるいはネガ型電子ビーム描画用レジスト11が塗設され、このレジスト11上に、電子ビームを走査させて所望のパターン12を描画する。その後、レジスト11を現像処理して、レジストによる微細凹凸パターンを有する基板10を得る。これが磁気転写用マスター担体90の原盤となる。
【0084】
次に、この原盤の表面の凹凸パターン表面に薄い導電層を成膜し、その上に、電鋳を施し、金属の型をとった凹凸パターンを有する基板91を得る。その後、原盤から所定厚みとなった基板91を剥離する。基板91の表面の凹凸パターンは、原盤の凹凸形状が反転されたものである。
【0085】
基板91の裏面を研磨した後、その凹凸パターン上に磁性層92(軟磁性層)を被覆して磁気転写用マスター担体90を得る。基板91の凹凸パターンの凸部あるいは凹部形状は、原盤のレジストの凹凸パターンに依存した形状となる。
【0086】
上記のようにして作製された磁気転写用マスター担体90を用いた磁気転写方法を説明する。情報が転写される被転写媒体である磁気ディスク媒体85は、例えば、基板86の両面または片面に磁気記録層87が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等であり、ここでは、磁気記録層87の磁化容易方向が記録面に対して垂直な方向に形成されている垂直磁気記録媒体とする。
【0087】
図8(A)に示すように、予め磁気ディスク媒体85に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層87の磁化を初期直流磁化させておく。その後、図8(B)に示すように、この磁気ディスク媒体85の記録層87側の面とマスター担体90の磁性層92の面とを密着させ、磁気ディスク媒体85のトラック面に垂直な方向に初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、転写用磁界がマスター担体90の磁性層92に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体85の磁性層87の磁化が反転し、その他の部分の磁化は反転しない結果、磁気ディスク媒体85の磁気記録層87にはマスター担体90の凹凸パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。なお、磁気ディスク媒体85の上側記録層についても磁気転写を行う場合には、上側記録層に上側用のマスター担体を密着させて下側記録層と同時に磁気転写を行う。
【0088】
なお、面内磁気記録媒体への磁気転写の場合にも、上記垂直磁気記録媒体用とほぼ同様のマスター担体90が使用される。この面内記録の場合には、磁気ディスク媒体の磁化を、予めトラック方向に沿った一方向に初期直流磁化しておき、マスター担体と密着させてその初期直流磁化方向と略逆向きの転写用磁界を印加して磁気転写を行うものであり、この転写用磁界がマスター担体90の凸部磁性層に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体の磁性層の磁化は反転せず、その他の部分の磁化が反転する結果、凹凸パターンに対応した磁化パターンを磁気ディスク媒体に記録することができる。
【0089】
以上説明した、本発明の電子ビーム描画方法を用いた、インプリントモールド、磁気転写用マスター担体の上述の製造方法は一例であり、本発明の電子ビーム描画方法を用いて微細パターンの描画を行い、凹凸パターンを形成する工程を経るものであれば上述の作製方法に限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画する微細パターン例を示す平面図
【図2】微細パターンの一部の拡大図
【図3】描画半径位置と基板回転数との関係を示す特性図
【図4】微細パターンを構成するエレメントの近接効果補正を含む第1の描画方式を示す拡大模式図(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種信号(B)〜(F)を示す図
【図5】微細パターンを構成するエレメントの近接効果補正を含む第2の描画方式を示す拡大模式図(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種信号(B)〜(E)を示す図
【図6】本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の微細パターン描画システムの要部側面図(A)および部分平面図(B)
【図7】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えたインプリントモールドを用いて磁気ディスク媒体に微細パターンを転写形成している過程を示す概略断面図
【図8】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスターを用いて磁気ディスク媒体に磁化パターンを転写形成している過程を示す断面模式図
【図9】近接効果を説明するための電子ビームによる描画パターン図(A)およびレジストの感光パターン図(B)
【符号の説明】
【0091】
10 基板
11 レジスト
12 サーボパターン
13 サーボエレメント
EB 電子ビーム
A 回転方向
Y 半径方向
20 微細パターン描画システム
21 偏向手段
23 電子銃
24 ブランキング手段
25 アパーチャ
26 ブランキング
40 電子ビーム描画装置
41 回転ステージ
44 スピンドルモータ
45 回転ステージユニット
49 直線移動手段
50 コントローラ
53 エンコーダ
60 信号送出装置
70 インプリントモールド
71 基板
72 微細凹凸パターン
80 磁気ディスク媒体
81 基板
82 磁性層
83 レジスト樹脂層
85 磁気ディスク媒体
90 磁気転写用マスター担体
92 磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ、電子ビーム描画装置により電子ビームを走査して、該電子ビームの照射径より大きいエレメントで構成される微細パターンを描画する電子ビーム描画方法において、
前記基板を一方向に回転させつつ、該基板の回転に対し、前記微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記オン・オフ制御による描画を繰り返し、前記エレメントを描画するものであり、
前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うことを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、
前記電子ビームの描画制御信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とし、
前記近接効果補正を、前記描画クロック信号における整数個のクロック数を増減することで行うことを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記微細パターンの描画は、前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを、該基板の半径方向へ往復振動させるとともに、前記オン・オフ制御により基板の所定回転位置に、基板の回転に追従して照射し、前記エレメントの描画を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記微細パターンの描画は、前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを所定半径位置に固定し、前記オン・オフ制御により基板の所定回転位置に照射し、基板の次の回転で電子ビームの照射位置を半径方向に移動させて、前記オン・オフ制御による照射を繰り返して、前記エレメントの描画を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法を実現するための描画データ信号を送出する信号送出装置および電子ビームを走査する電子ビーム描画装置を備えたことを特徴とする微細パターン描画システム。
【請求項6】
前記電子ビーム描画装置は、レジストが塗布された基板を回転させつつ半径方向に移動可能な回転ステージと、電子ビームを出射する電子銃と、前記電子ビームを前記回転ステージの半径方向に偏向させる偏向手段と、描画部分以外は電子ビームの照射を遮断するオン・オフ制御を行うブランキング手段と、前記各手段による作動を連係制御するコントローラとを備え、
前記信号送出装置は、前記基板に描画する微細パターンの形態に応じたデータに基づき、前記電子ビーム描画装置のコントローラに描画データ信号を送出するものであり、
前記コントローラは、微細パターンの描画データに基づき、基板の所定回転位置でオン信号により電子ビームを照射し、基板の回転に追従して回転方向に描画し、オフ信号で描画を停止するオン・オフ制御により1周分の描画を行うのに続いて、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記オン・オフ制御による描画を繰り返し、前記エレメントを描画するとともに、前記エレメント配置の疎密程度に応じ、密配置部におけるエレメント描画では、前記オン・オフ制御のオン時間を、疎配置部における同一エレメント描画でのオン時間より短く設定してドーズ量を調整し、近接効果補正を行うように作成した描画信号に基づいて制御することを特徴とする請求項5に記載の微細パターン描画システム。
【請求項7】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とする凹凸パターン担持体の製造方法。
【請求項8】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。
【請求項9】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−237000(P2009−237000A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79724(P2008−79724)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】