説明

電子制御システム

【課題】ロータリエンコーダを組み込んだ電子制御システムでのさらなる安全性向上を図ること。
【解決手段】ロータリエンコーダ11と、このロータリエンコーダ11の検出出力からモータ5を駆動制御する制御用CPU15を内蔵した電子制御装置13と、を含み、ロータリエンコーダ11に、当該ロータリエンコーダ自体の自己診断を実施する自己診断用CPU31を内蔵するとともに、この自己診断用CPU31に、上記制御用CPU15を監視する監視用CPUの機能を持たせた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリエンコーダと、このロータリエンコーダの検出出力からモータを駆動制御するマイクロプロセッサである制御用CPUを内蔵した電子制御装置(ECU)と、を備えた電子制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばエレベータ装置を電子制御する電子制御システムは、乗りかごを昇降駆動する駆動用モータの回転軸にロータリエンコーダを取り付けると共にそのロータリエンコーダからの検出信号を電子制御装置に入力する。電子制御装置はロータリエンコーダからの検出信号により駆動用モータを駆動制御して乗りかごを昇降制御するようになっている(例えば特許文献1参照)。この電子制御システムでは、主に、電子制御装置に内蔵する制御用CPUの制御動作により電子制御システムの安全性を図る。制御用CPUは、制御プログラムや各種制御定数や各種入力センサの動作状態に応答して各種の負荷を制御するようになっている。
【0003】
以上の構成において、制御用CPUそれ自体に故障がある場合、電子制御システムの安全性を図ることができないので、電子制御装置内部をダブルCPU、すなわちCPUを2つ設け、一方を制御用CPUとし、他方を監視用CPUとし、一方の制御用CPUが故障すると、他方の監視用CPUを制御用CPUに切り替えることが考えられる。
【0004】
しかしながら、電子制御装置側にダブルCPUとすることは、電子制御装置にCPUを追加することになるので、コストが増大する。
【0005】
一方、上記ダブルCPUの構成としても、電子制御装置側の制御用CPUがロータリエンコーダからの検出信号により駆動用モータを駆動制御して乗りかごを昇降制御する限り、その安全性の基礎であるロータリエンコーダ側に異常等が存在していれば電子制御システムの安全性を図ることができなくなる。
【特許文献1】特開平09−077412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明により解決すべき課題は、ロータリエンコーダの自己診断用CPUを利用することにより、電子制御装置側をダブルCPU構成としてCPU数の増大をもたらさずして電子制御装置側に多大な形状変更や機能追加等の負担を強いる必要を回避し、同時にロータリエンコーダの自己診断を確保可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電子制御システムは、ロータリエンコーダと、このロータリエンコーダの検出出力からモータ等の制御対象を駆動制御する制御用CPUを内蔵した電子制御装置と、を含み、ロータリエンコーダに、当該ロータリエンコーダ自体の自己診断を実施する自己診断用CPUを内蔵するとともに、この自己診断用CPUに制御用CPUを監視する監視用CPUの機能をも持たせたことを特徴とするものである。
【0008】
上記診断用CPUは、上記自己診断結果に従い当該システムを停止させるフェイルセーフ信号を出力可能とすると共に制御用CPUの動作状態が異常であると判定した時に上記フェイルセーフ信号を出力可能とすることが好ましい。システム停止の方法としては制御対象の一例として例えば駆動用モータへの電源供給を遮断する等がある。
【0009】
本発明はアブソリュート型、インクリメンタル型のロータリエンコーダのいずれにも適用することができる。
【0010】
また、本発明のロータリエンコーダでは投光素子と受光素子との光路上に回転スリット板と固定スリット板とが配置されたタイプだけではなく、この光路上に回転スリット板だけが配置されたタイプも含む。
【0011】
上記自己診断には、電源電圧監視、投光素子駆動電流監視、検出信号のデューティ、パルス数、受光素子動作判定、等の各種があり、本発明はそれらに限定されるものではない。この自己診断の内容をいずれにするかは、電子制御システムに応じて適宜に決定することができるからである。また、自己診断機能では、例えば電源電圧監視では電源電圧を比較回路で基準電圧と比較し、電源電圧が基準電圧超あるいは未満になれば電源電圧異常であると自己診断することができる。また、投光素子駆動電流監視では、駆動電流を比較回路で基準電流と比較し、駆動電流が基準電流超あるいは未満になれば駆動電流異常であると自己診断することができる。その他の自己診断機能も適宜に実施するとよい。
【0012】
本発明では、ロータリエンコーダ内蔵の自己診断用CPUにより、ロータリエンコーダ自体がロータリエンコーダの状態が正常であるか、異常であるか、警告状態であるかなどの自己診断をすると共にその自己診断結果をフェイルセーフ信号として出力することができるようにしたので、例えば、そのフェイルセーフ信号の内容がロータリエンコーダの異常状態を示すものであれば、モータへの電源供給の停止あるいは電子制御装置への電源供給の停止あるいは電子制御装置にロータリエンコーダ側からフェイルセーフ信号を入力することにより電子制御装置自体がフェイルセーフ動作を実行するようにすれば、電子制御システムとしての安全性が向上する。
【0013】
そして、本発明では、この自己診断用CPUに、制御用CPUの動作状態の判定と、制御用CPUへの上記判定結果の伝達と、制御用CPUの動作状態の異常判定時に上記フェイルセーフ信号の出力を行うことにより、当該制御用CPUを監視する監視用CPUの機能を持たせたので、電子制御装置側では制御用CPUと監視用CPUとのダブルCPU構成とする必要がなくなり、結果、電子制御装置側に形状変更や機能追加等の負担を要求することなく現状通りのままで電子制御システムとしてのさらなる安全性向上を期することができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子制御システムでは、ロータリエンコーダ側で自己診断機能を備え、その自己診断結果をフェイルセーフ動作に利用可能としたから、電子制御システムとしてのさらなる安全性向上を図ることができると共に、電子制御装置内蔵の制御用CPUを監視するために当該電子制御装置側に監視用CPUを内蔵させるのではなく、エンコーダ側の自己診断用CPUをその監視用CPUに代用することができ、電子制御装置側に形状変更や機能追加等の負担を要求することなく現状通りのままで電子制御システムとしてのさらなる安全性向上を期することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るエレベータ装置を制御する電子制御システムを詳細に説明する。
【0016】
図1を参照して、エレベータ装置1は、巻上機3を駆動用モータ5により駆動してロープ7を介して乗りかご9を昇降させる一方、駆動用モータ5の回転軸に取り付けたロータリエンコーダ11からの検出信号を電子制御装置13に入力する。電子制御装置13では、図1では制御用CPU15を内蔵しており、インクリメンタル型またはアブソリュート型等のロータリエンコーダ11からの検出信号により駆動用モータ5を駆動制御するようになっている。電子制御装置13によるエレベータの制御内容はその他種々あるが、その説明は略する。
【0017】
なお、以下の説明では説明の都合でインクリメンタル型のロータリエンコーダに適用して説明するが、本発明はインクリメンタル型に限定されず、アブソリュート型等のロータリエンコーダに同様に適用することができる。
【0018】
図2を参照して、インクリメンタル型のロータリエンコーダ11は、投光素子17と、受光素子19,21との間の光路上に、駆動用モータ5の回転軸に固定され投光素子17からの光を透過することができる複数の回転スリットを有する回転スリット板23と、この回転スリット板23の一方側に上記回転スリットと同様に投光素子17からの光を透過することができる固定スリットを有する固定スリット板25とを対向配置している。固定スリット板25の固定スリットは、投光素子17からの光を電気角で順次90度ずつずれさせて回転スリット板23の回転スリットを通過させてA相とB相の光信号を形成すると共に、受光素子19,21では電気角で90度ずつずれた上記A相とB相の光信号を受光しこれらA相とB相の光信号を図3(a)(b)で示すような電気的な信号に変換するようになっている。
【0019】
図4を参照して、実施の形態の電子制御システムは、制御対象がエレベータ装置1であり、ロータリエンコーダ11と、電子制御装置13と、駆動用モータ5と、常閉のリレースイッチ35と、を備える。電子制御装置13は制御用CPU15を内蔵する。
【0020】
ロータリエンコーダ11は、A、B相信号出力部27と、自己診断データ処理部29と、自己診断用CPU31と、フェイルセーフ信号出力部33と、を備える。A、B相信号出力部27は、図3(a)(b)で示すA、B相両信号を電子制御装置13に出力する。電子制御装置13はそれらA、B相両信号から駆動用モータ5の回転速度や回転方向を検出し、駆動用モータ5を制御することにより、乗りかご9の昇降位置や昇降速度等を制御する。
【0021】
自己診断データ処理部29は、電源電圧、投光素子17の駆動電流、受光素子19,21の出力信号、A、B相信号の周期、デューティ、パルス数等の自己診断用データを処理する。もちろん、自己診断データ処理部29はフェイルセーフ信号出力部33も含め機能的には自己診断用CPU31に含むことができるが、理解しやすくするために各ブロックにて示している。
【0022】
自己診断用CPU31は、自己診断データ処理部29からの自己診断用データに基づいてロータリエンコーダ11を自己診断する。そして、自己診断の結果、ロータリエンコーダ11が異常であると判定すると、フェイルセーフ信号出力部33からフェイルセーフ信号を出力する。フェイルセーフ信号は、電子制御装置13と駆動用モータ5とを接続する電源供給線に配置されたリレースイッチ35を開く側に駆動する結果、駆動用モータ5には電源が供給されなくなり、駆動用モータ5は回転動作を停止するようになっている。これにより、電子制御システムが停止することによりその安全性が確保される。
【0023】
一方、自己診断用CPU31は、自己診断機能以外に、制御用CPU15に接続されていて、制御用CPU15との間で互いを監視する監視用CPUとしての機能も果たすことができるようになっている。
【0024】
すなわち、自己診断用CPU31と制御用CPU15はそれぞれ相互に互いの状態を監視するタスクを実行する監視プログラムを搭載し、自己診断用CPU31は、制御用CPU15からエレベータ装置1の制御に関する情報を入力しその情報等から制御用CPU15の制御状態を判定する一方、制御用CPU15に対して自己のロータリエンコーダ11としての検出状態に関する情報を与える。制御用CPU15はその情報からロータリエンコーダ11の状態を判定し、所要の処理を行う。一方、自己診断用CPU31は、制御用CPU15の状態判定の結果から制御用CPU15の状態が異常であると判定した時にフェイルセーフ信号の出力を行なうことにより駆動用モータ5の回転動作を強制停止させ、これにより、電子制御システムを停止させてその安全性を確保可能としている。
【0025】
以上の実施の形態では、電子制御装置13に制御用CPU15を2台搭載し、一方の制御用CPU15が異常になると、他方の制御用CPU15が一方の制御用CPU15に代わって同じ制御をするという二重系ではなく、また、ロータリエンコーダ11自体の自己診断用である自己診断用CPU31が、異常な制御用CPU15に代わって制御用CPUとして機能させるのでもなく、自己診断用CPU31を制御用CPU15が異常かどうかを監視する監視用CPUとして機能させるようにしたことにより、電子制御装置13側で制御用CPU15を二重系とすることによるコストアップ化、制御複雑化を回避しつつ、電子制御システムとしての安全性を確保可能としたものである。
【0026】
上記自己診断用CPU31による制御用CPU15の監視としては例えばプログラムの動作を監視し、プログラムの暴走や異常停止の監視等がある。これには制御用CPU15側で例えばプログラムが異常な処理に陥ったことを示すパルス信号を検出することにより行うことができる。このパルス信号は例えば自己診断用CPU31にウォッチドッグタイマ機能を内蔵させ、このウォッチドッグタイマを用いて得ることができる。ウォッチドッグタイマは、制御用CPU15でプログラムが正常に処理を行っている場合は、一定時間毎に制御用CPU15からの命令によってリセットされ、もし一定時間を経過してもリセットされない場合には、例えばタイムアップ信号をパルス信号として発生する。自己診断用CPU31は、制御用CPU15が異常になると例えば制御用CPU15をリセットしたり、あるいは、電子制御システム管理センター等に異常通知を出力してもよい。
【0027】
また、制御用CPU15が駆動用モータ5の制御だけでなくエレベータ装置1全体の制御を行うために、制御用CPU15の負荷率が極端に大きくなった場合、自己診断用CPU31に負荷を分散し、その負荷率を下げて、電子制御システム全体の安定制御を可能としてもよい。
【0028】
また、電子制御装置13の制御用CPU15では、エレベータ装置1の乗りかご9の制御等に関して複数のセンサ等により異常状態を検知した際に、予め定められたデータを不揮発性メモリに保存し、この不揮発性メモリに保存されているデータに基づいてエレベータ装置1の自己診断を行うことができるが、この場合、この診断をロータリエンコーダ11の自己診断用CPU31により行わせるようにして、制御用CPU15の負担を軽減可能としてもよい。
【0029】
また、実施の形態の電子制御システムは、広く一般に、ロータリエンコーダと、電子制御装置と、駆動用モータとを備えた電子制御システムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係るエレベータ制御システム(電子制御システム)の概略構成を示す図である。
【図2】図2はインクリメンタル型ロータリエンコーダの機構的な概略構成を示す図である。
【図3】図3はインクリメンタル型ロータリエンコーダによるA相とB相の関係を示す図である。
【図4】図4はエレベータ制御システム(電子制御システム)の概略ブロック構成を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 エレベータ装置
5 駆動用モータ
11 ロータリエンコーダ
13 電子制御装置
15 制御用CPU
27 A、B相信号出力部
29 自己診断データ処理部
31 自己診断用CPU
33 フェイルセーフ信号出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリエンコーダと、このロータリエンコーダの検出出力からモータ等の制御対象を駆動制御する制御用CPUを内蔵した電子制御装置と、を含み、
ロータリエンコーダに、当該ロータリエンコーダ自体の自己診断を実施する自己診断用CPUを内蔵するとともに、この自己診断用CPUに、上記制御用CPUを監視する監視用CPUの機能を持たせた、ことを特徴とする電子制御システム。
【請求項2】
上記自己診断用CPUは、上記自己診断結果に従い当該システムを停止させるフェイルセーフ信号を出力可能とすると共に制御用CPUの動作状態が異常であると判定した時に上記フェイルセーフ信号を出力可能とした、ことを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−58337(P2009−58337A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225244(P2007−225244)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000167288)光洋電子工業株式会社 (354)
【Fターム(参考)】